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第168回 事例で学ぶ現場改善:『IT製品修理サービスB社の改善』

パソコンやサーバーをはじめとするIT関連機器の修理事業のため、機密管理を重視して本社と同じビル内に物流センターを置いている。現場の運営にも社員を充てている。
物品の管理にはバーコードシステムを導入しているが、機能していなかった。取扱量の拡大で作業スペースも逼迫していた。

“探す”をなくせ
B社はパソコンやサーバー、LAN、USBなどのIT関連全般の修理業務をメーンとしている。年商は約120億円。顧客は法人が約7割、個人が約3割という構成である。
東京本社の他、大阪と名古屋に営業拠点を置いている。本社と同じビル内に2フロアを借りて物流拠点として使用している。倉庫としては高い家賃だが、B社は顧客から故障した製品と同時に情報も預かることになるため、機密管理の観点から外部倉庫に預けることはしていない。庫内も自社運営だ。
われわれ日本ロジファクトリー(NLF)は以前、中古パソコンの買い取り・販売チェーンの物流改善を手掛けたことがある。物量も1日当たりの入荷が平均約500件で、B社と同じレベルだった。しかし、同じ製品を取り扱っても事業モデルが違うと物流戦略もずいぶん違ってくるものだと、B社の案件を通じてあらためて感じることになった。
先の買い取り・販売チェーンは物流業務やデータ管理を全て外注していた。オペレーションもかなり異なっていた。中古パソコンや関連製品はほとんどが宅配便で送られてくるが、B社の場合はサーバーやシステムを内蔵した大型機器なども扱っているため、全体の約2割がチャーター便による入荷であった。
また、買い取り・販売チェーンは、調達した中古パソコンを部品レベルに完全に分解してから各パーツを検査し、新品同様の手順で組み立てる。それに対してB社は修理を必要とする部品だけを取り出す。テスト・検査の工程はほぼ同じだが、最後の組み立てはその部品を戻す作業なので、作業の内容が1台ごとに違ってくる。前回のノウハウを安易に適用することはできそうになかった。
さて、今回B社でわれわれNLFの担当窓口となったのは、システムエンジニア出身の D氏であった。D氏によると、B社にとって物流改善は以前から必要性を指摘されながら、長年手を付けずに先送りされてきたテーマであった。そこにいよいよメスを入れるよう、トップから指示が下った。具体的には誤出荷をなくすこと、そして〝探す〟という行為を可能な限り減らすことが狙いであった。
D氏とB社の本社オフィスで打ち合わせした後、別フロアにある物流センターを案内された。なるほど整理が必要であるようだ。フロア全体にモニターディスプレーがひしめき合ように置かれてあり、その合間をスタッフが所狭しと動き回っている。一見しただけでは誰が何をしているのか、全く判別できなかった。
この日のヒアリングと現場視察を受けて、後日われわれは次のような改善案をD氏に提案した。

①ロケーション管理の再構築
②誰もが〝分かる〟〝できる〟現場づくり
③担当業務の見直し
④物流スペースの拡張
⑤物流KPIの導入
⑥「6つの〝ない〟(持たせない/書かせない/歩かせない/待たせない/考えさせな
い/探させない)」の実践

①「ロケーション管理の再構築」は必須であった。入荷時に分解して取り出したパーツがフロアのあちらこちらに分散してしまうことが原因で、無駄な動きがかなり発生していた。組み立て時にはスタッフがパーツを探し回らなければならず、しかも修理済みの製品を無造作に軽量ラックに置いているため、出荷時にもあらためて製品を探し回っていた。クライアントから納期の問い合わせを受けても、そのクライアントの故障パーツが今どの工程で修理されているのか把握できないため、明確な納期を回答することがで
きずにいた。
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2次元バーコードを採用
現場には追跡管理用のハンディースキャナーが導入されているのだが、それが正常に機能していなかった。B社の扱うシステム機器は製品だけでなく、パーツにもそれぞれバーコードが貼付されている。同じパーツにJANコードとシリアルコードなど、複数のシールが貼られていることも多い。
どのタイミングでどのラベルをスキャンすればいいのか判断が難しいため、読み込みミスやスキャン忘れが頻繁に発生する。入力情報が信頼性を欠いていることから、現場は追跡管理を事実上諦めていた。
バーコード管理システムを改修する必要があった。それを前提にわれわれから現場に対し、あらためて作業スタッフが修理や検査を開始する際には必ず各人のモニターが配備されている作業スペースでパーツのバーコードをハンディーターミナルでスキャンすることを約束してもらった。
B社のセンターの進捗を管理するには通常のバーコードよりも多くの情報を持たせる必要があった。そのためシステム改修は当初、RFIDタグの導入を最有力と考えていた。
しかし、シミュレーションの結果、初期投資が大きく、それに見合う効果は得られないと判断して断念。代わりに2次元コードの「QRコード」を使うことにした。
②「誰もが〝分かる〟〝できる〟現場づくり」は、コストの抑制と技術継承の双方において重要であった。自社運営が方針とはいえ、全ての業務を正社員でやる必要はない。
外部委託は行わなくても、直接雇用のパートタイマー・アルバイトを採用し、その比率を上げていくことで総人件費を下げられる。
ただし、それにはパート・アルバイトに任せても品質が落ちないよう業務を標準化する必要があった。具体的には、マニュアルの整備、現場の掲示物の改善(ビジュアル化)、非正社員への教育・研修の定期的な開催が必須であった。
一般に現場作業を正社員に任せるのは、その作業が言葉にできない、いわゆる〝暗黙知〟を含んでいるからだ。しかし、実際には作業内容を言葉にする努力を怠っているだけということが多い。いったんマニュアルや仕様書などに活字化された作業は、パート・アルバイトにも継承できる。今回のプロジェクトは見事にそれを証明してくれたのであった。

レイアウト変更でスペース確保
B社のセンターでは故障品と交換する補修用パーツを在庫している。その管理は物流セクションと同じフロアに入居している営業部門が本業の片手間に行っていた。補修用品部品の棚卸し時には、エンジニアたちが営業部門の手伝いに入る。どこも管轄部署としての自覚はなく責任の所在が不明確であった。営業やエンジニアたちからは「自分の本業が忙しい時間にも物流業務に手を取られてしまう」と不満の声も上がっていた。
今回のプロジェクトをきっかけに③「担当業務の見直し」を行い、補修用パーツや備品などの調達に関わる管理を全て物流セクションが担当するよう変更して、営業部門やエンジニアを物流業務から解放した。
ただし、それには④「物流スペースの拡張」が必要であった。明らかに手狭となっているスペースを拡張することで、ロケーション管理のための軽量ラックを設置することができるし、作業スペースが広がれば作業生産性も上がる。今回の改善の最大のテーマといえた。
しかし、同じビルの他のフロアに空きはなかった。また、管理体制が十分とはいえない現状では、例え近隣であっても本社から離れた場所に物流業務を移管するのはリスクがあった。
そこで一時的措置として物流フロアのレイアウト変更を行った。現場の不要なモニターは撤去し、「届け先不明」で戻ってきた個人向け修理完了品を別の場所に移管、さらには同じフロアにいる他部署のスタッフのデスクを、個人別の固定デスクから長テーブルに変更して、フリーアドレス制にした。
これによって、約20%のスペースを新たに生み出すことができた。しかし、それでも十分とはいえず、D氏には今後もB社が現在の形で自社物流を続けるのであれば、もっと大きなビルに拠点を移す必要があることを伝えた。
⑤「物流KPIの導入」は、D氏が以前から思案していたテーマであった。物流セクションにどのような目標を持たせるべきか、目標を達成した場合のインセンティブをどう設計すべきか、ずっと悩んでいたという。それを聞き、目標管理の前提としてまずは可視化に軸足を置くようにアドバイスし、次のKPIを提案した。

●売上高トータル物流コスト比率
●売上高支払物流費比率
●1人1時間当たり作業量
●在庫差異率
●誤出荷率

KPIの運用に当たって、作業量の基本単位には注文データの行数を採用し、また作業品質の精度は現状の運営レベルを考慮すると10万分の1を当面の目標に設定するのが現実的であるとの考えを伝えた。
⑥「『6つの〝ない〟(持たせない/書かせない/歩かせない/待たせない/考えさせない/探させない)』の実践」は、既に本連載では定番の生産性改善策だが、B社の場合はトップの意向を反映して、「探させない」「歩かせない」ことを特に重視して取り組んでいる。
こうしてB社の改善活動が進み始めた。聞けばB社は現在の事業を開始した当初から物流専門セクションを設けていたという。しかし、今になって振り返ると、それは時期尚早だったのではないかと筆者は推測している。修理や組み立てなどの流通加工の一部に物流業務を組み込んでしまった方が、人を集めるのが楽であり、物流に対する社内の理解も高まったであろう。
しかし、現在の規模となってはもう遅い。物流専門部隊がなければ、効率面、スピード面とも運営に支障を来してしまうのは明らかだ。B社の事業モデルを採用する場合、物流専門セクションが必要となる分岐点は恐らく、現状のB社の事業規模の約半分、年商60億〜70億円レベルだったのではないかと踏んでいる。