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第169回 事例で学ぶ現場改善:『外資系機械メーカーA社のインフラ構築』

英国の親会社が事業領域の隣接する企業を買収した。その影響で日本法人も買収相手の日本事業と物流を統合することになった。物量は買収相手の方がはるかに大きい。既存の体制では対応できない。与えられた期間は1年。その間に物流パートナーを選定して新センターを立ち上げ、運用を軌道に乗せる必要があった。

買収相手の物流を統合
外資系A社は英国に本社を置く精密機械メーカーの日本法人だ。年商は約50億円。日本に生産拠点はなく、英国の工場で生産した製品を輸入販売している。代理店や卸を通さない直接販売だが、取り扱いの約8割は商社やフォワーダー経由で英国から直接顧客に納品している。
残り2割はA社の物流センターに入荷して在庫販売している。物量が少ないために大規模な倉庫は不要で、都内のオフィスビルの一角を物流センターとして使用し、そこで社員が検品、保管、カスタマーサービス、受注、発注、返品対応を行っている状態であった。
今回コンサルティングに入るまで、筆者はA社の名前を聞いたことがなかった。インターネットで検索しても日本語版のホームページはない。あまり知られたくないような感じさえ受け取れた。実際、A社のS社長いわく「今まではあまり大々的に告知せず、細々とやってきた」と言う。
しかし、業績はすこぶる良好だった。A社の製品は先端技術を駆使した、知る人ぞ知る差別化製品で、ニッチ市場ながら圧倒的シェアを握っていた。というよりも競合相手が事実上不在であった。そのためA社の存在や活動を告知してPRするより、他社にまねされることを恐れているようだった。
そのままの状態であればA社がわれわれのような外部の物流専門家を必要とすることもなかったであろう。しかし、今年に入って大きな動きがあった。英国本社が事業領域の隣接するB社を買収した。B社の日本法人の売り上げは、A社の約2倍に当たる100億円であった。その物流をA社と統合して、新たな体制を構築することが急務となったのである。
本社から与えられたタイムリミットは12カ月。その間に新たなセンターを立ち上げ、運用のめどを立てる必要があった。自社運営は現実的ではなく、アウトソーシング先の選定と管理体制の構築を支援することが、われわれ日本ロジファクトリー(NLF)への依頼であった。
A社の業界の物流は製品の取り扱いにノウハウが必要であり、対応できる物流会社は限られている。パートナー候補の名前を著者はそらでも挙げることができた。庫内作業を含めた「保管」に強みを持つのがN社、L社、Y社の3社。「配送」に強みがあるのはM社とR社。保管と配送の総合力を売りにするのがI社、J社、P社。そして後発ながら最近力を付けてきているY社である。
S社長にこの企業群を伝えると、同じ業界ということもあって、大手を中心に半数の企業は名前を知っていた。しかし残りの半数は初めて聞くという。ちなみに買収したB社の日本法人は後発のY社に物流を委託していた。
こうした経緯から、われわれNLFは具体的な支援内容を次の9つの項目に整理した。

①パートナー候補のリストアップ
②着地点分析による最適立地の選定
③RFP(提案依頼書)の作成
④コンペの開催
⑤パートナーの選考
⑥パートナー候補との最終交渉
⑦フォワーダーの見直し
⑧新規稼働の立ち上げサポート
⑨新人スタッフへの引き継ぎ

また、これらに着手する前に、A社およびB社の現場・現物の確認と、A社のボードメンバーに物流へのリクエストを確認すること、買収企業を含む出荷実績などのデータと資料の収集、チェックなどが必要であった。そして着手から2カ月後までに、今後の方向性を示すパイロットプランを策定することになった。
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パートナー候補を絞り込む
①「パートナー候補のリストアップ」は先に挙げた同業界に強い企業に加えて、配送面 での強化を期待できる会社を別途物色した。またA社やB社の同業他社がどの物流会社を利用しているか、可能な範囲で情報を収集しリストを作成した。
②「着地点分析による最適立地の選定」は、やや難航した。A社とB社は類似製品を扱っているため、納品先の分布も似ているだろうと予想していた。しかし、実際にはA社の納品先がほぼ全国に分散しているのに対し、B社の納品先は東日本に偏っていた。
これはB社のこれまでの販売戦略によるものであった。この着地点分析の結果、B社は西日本にまだかなりの伸びしろが残されていることも確認できた。
いずれにせよ拠点の最適エリアは1都3県内であり、コスト的には都心部でも設置可能であることが分かった。なおA社と同様にB社も、それまで関東1拠点で対応していた。
物量の多いB社の拠点をそのまま使うか、あるいは新規に立ち上げるかのいずれかを選択することになりそうであった。
③「RFP(提案依頼書)の策定」では、A社とB社それぞれの物流スペック、物量、要望などを整理した上で、配送や庫内作業の共同化についてパートナー候補企業に提案を求めた。また、ボードメンバーのリクエストを反映して「安心、安全な物流の推進」「コンプライアンスの徹底」「必要とされる物流品質KPI値」「セキュリティーの徹底」「機密情報漏洩の防止」などを強調した。
④「コンペの開催」は、参加者を特定していないオープンコンペを基本としながら、こちらから声を掛ける企業は絞り込んだ。少人数体制のA社の事務局に余計な手間と時間をかけさせないことに加えて、本命視できる物流会社が当初から分かっていたためである。
⑤「パートナーの選考」では、われわれNLFが通常使用している「物流事業者評価表」のフォーマットをカスタマイズした。具体的にはコスト関連の評価項目のウエートを下げ、品質関連のウエートを上げた。また、各社に対して同分野における実績企業数および対応した業務内容の詳細についての情報を求めた。
⑥「パートナー候補との最終交渉」は、最終選考に残った2社が相手であった。それぞれA社向け拠点の用意があり、この時点でB社の既存施設を利用するという選択肢は消えた。
2社にそれぞれの複数の現場視察を依頼した。筆者と他のメンバー、そしてS社長も一緒になって現場を回り、実際の作業状況を確認した。
筆者は日頃から「現場はショールーム」と繰り返し述べているが、今回もやはり現場は正直であった。2社がコンペでアピールした通りの現場もあれば、とてもほめられない現場もあった。結局この現場視察と先の実績内容が決定打となり、パートナーはJ社に内定した。
内定後も週に1度のペースでJ社とのミーティングを重ね、(1)作業マニュアル(2)SLA(サービス・レベル・アグリーメント)(3)汚破損時の対応と弁済(4)WMSの改修(5)稼働までの実施スケジュール──などを中心に、数十項目にわたる案件について協議を進めた。
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統合を機にフォワーダー見直し
⑦「フォワーダーの見直し」はNLFからの提案であった。A社とB社の年商は合計しても150億円で、フォワーダーから好条件を引き出すにはややボリュームが足りない。
しかし、英国本社は約2千億円の売り上げ規模があり、フォワーダーはF社とU社を使っている。
そこで今回、日本で物流インフラを構築するタイミングで、F社とU社に新たに見積もりを依頼した。両社ともA社の事業拡大の余地は大きいとみて交渉のテーブルに乗っており、現在は見積もりの回答待ちの状態である。
⑧「新規稼働の立ち上げサポート」に関して、われわれNLFでは、拠点の立ち上げから40日以内に安定軌道化させることを「40日ルール」と呼んで管理の目安にしている。
しかし、最近は庫内作業の人手を確保できていないためにこのルールをクリアできないケースが増えてきている。
その点、今回のJ社の対応は評価できた。近隣にあるJ社の拠点からの応援体制が整っていた。このことは立ち上げ時だけでなく、大きな波動やトラブルが発生した際の対応にもつながる。また現場リーダークラスの経験値が高く、われわれとのコミュニケーションも円滑であった。そのため多岐にわたる懸念事項を一つ一つ着実につぶしていくことができた。
⑨「新人スタッフへの引き継ぎ」は、物流のスペシャリストをA社のスタッフとして新たに採用することを前提にしている。今後のA社の成長には、長期的な視点から物流戦略を検討し、実行できる人材が必要である。既に人物も決定しており、入社時期を待つばかりとなっている。われわれから彼に今回の改革プロセスを説明し、当面の課題・問題点は何か、それをどのようにして解決していくかを伝えていくことになる。
以上、今回の取り組みは、A社がその製品と同様に物流においても圧倒的な競争力を持つことを最終的なゴール、あるべき姿に置いている。この1年でその準備は整ったといえるだろう。近い将来、物流がA社にプラスアルファの成長をもたらしてくれることを期待している。