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第170回 事例で学ぶ現場改善:『建材メーカーM社のセンター費削減』

親会社の担当役員が支払物流費の削減に目を付けた。しかし、前回の大規模な改善プロジェクトから5年しかたっていない。しかも、物流業務の委託先は親会社の物流子会社、つまりグループ会社だ。コンペを開いて別の委託先に切り替えるわけにはいかない。打ち手はあるだろうか。

親会社の物流子会社が委託先
M社は老舗の企業グループに属する建設資材メーカーだ。年商は約300億円。生産工 場を海外に1カ所、国内に1カ所それぞれ所有している。物流拠点は国内工場に隣接してマザーセンターを1カ所、他にストックポイントを全国6カ所に配置している。
同社は5年前にも大掛かりなコスト削減プロジェクトを実施している。再びプロジェクトを発足させることになったのは、M社の費用項目の中でも大きな割合を占める支払物流費が、新任の親会社の担当役員の目に留まったからであった。
M社としては、無駄なコストは掛けていないはずだと担当役員に掛け合ったが納得してもらえず、外部の専門家としてわれわれ日本ロジファクトリー(NLF)を招いて、客観的に判断させることになった。
ただし、M社には物流の委託先を見直すという選択肢がなかった。親会社の物流子会社、M社から見ればグループ会社にマザーセンターの運営を委託していたからだ。これは物流コスト削減を目的としたプロジェクトにとっては厄介な制約であった。
面通しと概要のヒアリングを行った後、本社工場と隣接するマザーセンターを見学した。
工場内の床面にはさまざまなアンダーラインが引かれており、これまでかなり改善活動を重ねてきていることがうかがえた。
われわれを案内してくれたM社の窓口のN氏は、5年前のプロジェクトでも事務局を務めたそうで、さすがに種々の状況や背景を熟知していた。職歴としても物流が最も長いという。今回のプロジェクトに関してもN氏なりの仮説をいくつか持っているようで、場内を案内し、説明する言葉の端々にそのことが感じられた。
この日の現場見学とヒアリング、後日M社から提出された実績データを基に、われわれNLFで改善テーマを抽出してM社に提示した。次に挙げるのはその一部である。

①出荷頻度ABC分析
②ラックの増設
③倉庫拠点の集約
④フォークリフト台数の適正化
⑤庫内の照度アップ
⑥入出庫料の変動費化
⑦待機車両の削減

①「出荷頻度ABC分析」はロケーション、レイアウトの見直しと動線の短縮が狙いである。同センターはそれまでの改善活動によって、エリアレベルの整理はできていた。
しかし、その結果として部分最適に陥っていた。倉庫スペースを全体として見るといびつな形になっていた。フォークリフトの通路にラックが凸凹にはみ出し、安全に走行できる状態ではなかった。
まずは同センターではこれまで未着手であった出荷頻度のABC分析を実施した。その分析結果を基に、ゼロベースでゾーン組み、ロケーション、レイアウトを再設計した。
その結果、フォークリフト作業の死角が一掃されて人時生産性は約25%向上した。
無題
②「ラックの増設」は当然ながら保管効率の向上が目的だ。保管量、保管アイテムに対して重量ラック、中量ラックが不足していた。そのためパレットに平積みで保管するエリアが必要以上に広くなっていた。保管量とラックの高さも合っていなかった。多くのラックが大量の〝空気〟を保管しているような状態だった。
そこで必要在庫日数から適正在庫量を算出し、その容積から適正なラックのサイズをあらためて設定した。そしてラックの高さに保管量を合わせるのではなく、適正な在庫量に合わせてラックを配置するようにした。
長尺物を立てた状態で保管するか、それとも横にするのか、保管方法を定めていないこともスペースの無駄を生んでいる一因であった。この点に対しては、重量物は横置き、人の力でピッキングできる20キログラム以下の長尺物は縦置きというルールを設定し、それに見合ったラックを新たに12基投入した。その結果生み出されたスペースには、それまで外部の賃貸倉庫に保管していた製品を移管することにした。
一連の改善でセンターの光景は驚くほど変わった。真っすぐに並んだラックに製品がびっしりと収められている。壮大な岸壁を見ているかのようであった。

フォークリフトが多過ぎる
これを受けてさらに③「倉庫拠点の集約」を行った。M社では数年前に生産の一部を海外移管した影響で国内工場の稼働率が低下していた。その結果、新たに生産ラインだけでなく、工場の資材置き場などにも空きが目立つようになっていた。
従来はマザーセンターで保管していた製品在庫の約4分の1を工場内の空きスペースに移管した。グループ物流会社が運営するマザーセンターで保管すれば、当然ながら入出庫料や保管料が発生する。自社倉庫内であれば支払物流費が発生しない。少なくとも保管料は事実上無料になる。
製造機能と物流機能をできる限り併設させて、直送比率を上げることは、メーカー物流の基本戦略の一つでもある。M社もその戦略を踏襲して工場内への物流内製化を推し進めたわけである。それと同時にグループ物流会社に対しては、空いたスペースをM社以外への外販によって埋めてもらうよう提案した。いくら身内であっても、それくらいは伝えておくべきだという判断だ。
④「フォークリフト台数の適正化」は、現場を一目見れば必要であることが明らかだった。とにかく多い。数えると52台あり、あちらこちらに遊休車両が目立った。しかもM社所有のリフトと物流子会社所有のリフトが混在している。台数調整が行われていなかった。
そこでまず「リフト車両管理表」から修理費が多く掛かっている車両、再リースで老朽化している車両を抽出した。それと並行して各作業員の業務内容を確認し、リフトを使用する時間帯を整理した結果、52台中15台を削減できることが分かった。作業スペースが小さくて済むリーチリフトを残し、カウンターリフトを中心にカットした。中期的には、庫外はカウンター、庫内ではリーチを使用するように運用ルールを変更する計画だ。
それによって庫内の通路幅を1000ミリメートル圧縮することができる。保管スペースをより広く取れる。
⑤「庫内の照度アップ」も中期テーマの一つである。他のセンターでもよく見られることだが、同センターは照明に水銀灯を使用しているため、庫内全体が薄暗い。照度を上げるには電気工事が必要なので、すぐに着手することはできなかったが、250ルクス以上を確保する必要がある。
視認性の向上は、これからの物流センター運営には絶対欠かせない条件の一つだ。照度の問題のみならず、ロケーション番号や注意事項などの表示物、掲示物の文字拡大、ビジュアル化の強化などを進める必要がある。誰もが分かる・できる現場づくりによって、初心者や高齢者、外国人労働者を戦力化し、人手不足に対応するのである。
⑥「入出庫料の変動費化」が改善テーマに挙がることはそう多くない。入出庫料は出来高制が普通だからである。ところがM社は月額固定制にして、グループ物流会社の収入を保証していた。身内を甘やかす格好であった。固定制では作業生産性の向上に対する
動機付けが働かない。そこでわれわれNLFで重量当たり・長さ当たりの入出庫料を設定し、グループ物流会社と数回に及ぶ話し合いの末、承諾を取り付けた。
⑦「待機車両の削減」は、すぐにはコスト削減にはつながらなくても、ドライバー不足の深刻化で今後ますます重要性が増していくテーマである。M社の現場には〝車両は待たせて当たり前〟という風潮が見られた。実際、荷受け待ち・出荷待ちで長時間待機している車両がかなり目立った。
そこで、平常時は着車から60分以内、繁忙月(3月、9月)は1時間30分以内に車両を出発させるという目標値を設定した。今のところ、かなり改善が見られる。しかし、時間がたてば元に戻ってしまう可能性もある。その場合には、M社とグループ物流会社の契約書あるいは「SLA(サービス・レベル・アグリーメント)」にこの問題を反映させる考えだ。
こうしてM社の改善は進んでいる。5年前に実施したプロジェクトの効果が完全に風化していたわけではない。それでも結論から言えばコスト削減の余地はまだ残されていた。
これから運賃はさらに上がっていく可能性が高い。今後も引き続き工夫を重ねていく必要がある。