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第171回 事例で学ぶ現場改善:『輸入卸Y社のキャパオーバー収拾』

物量とアイテム数が急激に増えている。新規顧客や新業態との取引も次々に始まっている。
キャパオーバーで物流センターは大混乱に陥っていった。棚から商品があふれ出し、通路も判然としない状況だ。生産性の向上や最適化に取り掛かる前に、まずは事態を収拾する必要があった。

広大な平屋倉庫に7万アイテム
Y社は年商約300億円の卸売業者だ。主力は家具とインテリア雑貨類で、取り扱いアイテム数は約7万に上る。東北に本社を置き、隣接して大型の物流センターを構えている。海外メーカーからの仕入れが約6割、国内メーカー・卸からの仕入れが4割で、やや貿易商社的な色合いの強い卸といえる。本社の他に東京、大阪、名古屋にそれぞれ営業拠点を展開している。販売先は通販をはじめアパレル小売り、ドラッグストア、量販店、コンビニエンスストア、さらには卸売業にも販売しており、フルチャネルであった。
Y社の物流担当役員から連絡が入り、2つの要望が伝えられた。1つは「物量の増加でセンターがキャパオーバーになっている。早急に正常化を果たしたい」というもの。もう1 つは「これから新しい業態への供給が始まり、取り扱い規模がさらに大きくなる。これを機にあらためて物流をどうすればいいか考えたい」とのことであった。
連絡を受けてから数日後に早速、現地に向かった。物流センターは延べ床面積約1万2千坪という規模ながら平屋であった。庫内作業は全て自社で行っており、配送は全て路線会社に委託していた。WMS(倉庫管理システム)はパッケージ品をカスタマイズしたものが導入されており、入出荷や在庫管理などの基本的な機能はクリアしていた。
しかし、インターネット通販の拡大に伴い雑貨類の取り扱いが年々増えており、荷姿の小型化、出荷の小口化が進み、保管方法を考えあぐねているようだった。棚やパレットラックから多くの商品がはみ出し、通路も判然としないほど現場はごった返していた。広大な平屋の庫内はどこに何が置かれているのか、素人目にはさっぱり分からない。
センターの現場責任者によると、物量の増加が続き、目の前の作業に追われるばかりで、とても改善まで手が回らないとのことであった。われわれはセンターを全てつくり直すつもりで現場を診断することになった。その結果、100を超える改善項目が挙がったが、最重要テーマは次の8点だった。

①フロアデザインの抜本的見直し
②商品特性に合致する保管方法の選択
③フリーロケーション比率の拡大
④ピッキング方法の変更
⑤商品マスターの管理精度向上
⑥大ロット品の直送化
⑦海外調達品のセンター納品仕分けの現地化
⑧レイバーコントロールの強化

①「フロアデザインの抜本的見直し」とは、この場合、ワンフロアの平屋であるため、セ ンターのゾーニング、ロケーション、レイアウトをあらためて設計することであった。現状では、新しく追加されたアイテムは「とりあえず保管できるところに保管する」という管理になっていた。どこに何が置かれているのか分からないのも当然であった。
そこでまずは商品マスターを整理してカテゴリー分けを見直し、その結果を基にゾーニングを決めた。アルファベットのABC順にエリアを区分して、主力の「家具」から「インテリア雑貨」「アパレル品」「日用雑貨品」「食品」「その他」と振り分けていった。
本来であればカテゴリーではなく各アイテムの出荷特性を基にロケーションを設定した方が作業効率は上がるのだが、とりあえずは上位概念で整理しなければ収拾が付きそうになかった。
そして庫内の遠くからでもよく見えるように縦1・5メートル×横1・8メートルの大型のつり看板にゾーン記号を表示した。同様に中量ラック・軽量ラックも、ラックの側面に大きく記号を表示して視認性の向上に配慮した。
②「商品特性に合致する保管方法の選択」は、スペースの有効利用と小ロット対応を両立させることがポイントになる。これも保管方法を検討する前にアイテム別の適正在庫量を算出するのが理想であったが、その時間的余裕がなかったため、ひとまずアイテム別の実在庫量に見合った保管容積(立方メートル)をチェックして、必要なスペースを計算した。
そして、各アイテムの荷姿と出荷単位から、パレットに保管するものと、ケース保管するものを整理した。「家具」の他に「インテリア雑貨」「アパレル品」はケース出荷を基本としているため、パレット荷物を多段積みするための「ネステナー」などのラックを使って原則としてパレットで保管する。
ピース単位や中箱単位の出荷がある「日用雑貨品」「食品」には中量棚・軽量棚を使う。
その際に小ロットで保管するアイテムはブックエンドで棚を間仕切りすることで棚幅を圧縮して、スペースの空きが出ないようにした。また補充用の在庫は可能な限り、パレットで保管することにした。

“リレー式ピッキング”を導入
③「フリーロケーション」とは、アイテムごとに保管する棚を固定するのではなく、入荷した商品在庫を空いている棚やスペースに自由に格納して、システムでロケーションを管理する方法だ。固定ロケーションと比べてスペースを有効活用できる。
同センターでは、高回転のアイテムにフリーロケーションを適用していた。至って正攻法といえる。ただし、スペースが足りていなかった。そこでフリーロケーションエリアを拡大し、かつ他のエリアとの区切りを明確化した。これによってフリーロケーションで対応できるアイテムの割合率がアップしただけでなく、ピッキング作業の動線短縮にもつながった。
④「ピッキング方法の変更」も作業動線の短縮が狙いである。従来は1オーダーごとに作業員1人で全ての商品をピッキングする、いわば〝1オーダー完結型〟のオーダーピッキングを採用していた。しかし、アイテム数の増加に伴い、保管エリアが拡大かつ分散して動線が長く延びていた。
そこでエリアごとにピッキングの担当者を分けて、1つのオーダーを複数の作業員がリレー式に分担してピッキングする方法に変更した。ピッキングリストは1オーダーに付き1枚もしくは1セットだけ出力する。自分の持ち分のピッキングを終えた作業員はリストに完了のサインをして、次のエリアの作業員にリストと台車・ピッキングカートを渡す。
リレー用の〝中継エリア〟を新たに設ける必要があったため、スペースの捻出には苦慮した。しかし、担当エリアを分けることでピッキングのために広い庫内を歩き回らずに済むようになり、作業員の肉体的な負担は大きく軽減され、かつ生産性が向上した。
⑤「商品マスターの管理精度向上」は、本来は商品の改廃を担当する商品部の管轄だ。
しかし、アイテムが増えていることもあって、新製品の投入や終売を商品マスターに反映する作業が遅れがちになっており、それが出荷精度にも影響を与え始めていた。商品マスターに登録されていない新製品が入荷されて、検品作業がストップしてしまうこともあった。
そこで、商品部に掛け合って、物流センターに未登録品が入荷された場合には、その場で商品マスターを登録できるようにした。商品マスターの改廃を入力するパートスタッフも増員し、全社的にリアルタイムの商品管理を目指すことになった。

直送の推進でセンター負荷軽減
⑥「大ロット品の直送化」にも取り組んだ。従来は海外調達品を含め全ての商品をいったん東北にある物流センターに入荷していた。しかし、同社の販売先には大手が多く、センター納品の割合は50%を超えている。
そこで10トン単位のオーダーはY社のセンターまで引っ張らずに、納品先の最寄港で荷揚げし、港でデバンニングを行って10トン車でセンター納品を行うフローに変更した。直送の対象は検品が不要な商品に限定されるが、ドレージ料金、トラック運賃の削減に加えて、リードタイムの短縮にもつながっている。
何より直送化を進めることで、キャパオーバーとなっているY社の物流センターの業務負荷を軽減できたことが大きい。さらに現在は大手の販売先に対して、インセンティブ制度を設けて陸揚げしたコンテナをデバンニングせずに直接センターに納品する交渉を行っている。
⑦「海外調達品のセンター納品仕分けの現地化」も直送比率を上げるための取り組みだ。具体的にはベトナムとタイで調達している製品を、現地で納品先別に仕分けて得意先のラベルまで添付した状態でコンテナに詰めて日本に送る。そのためにY社の物流部門のスタッフを現地に出張させて作業の指導を行った。これにより日本国内のセンター内作業を約24%削減することできた。
最後の⑧「レイバーコントロールの強化」は、われわれ日本ロジファクトリー(NLF)がコンサルティングに入る前から同センターで取り組んでいた項目だが、うまく機能していなかった。理由としては①現場の旗振り役不在②外国人労働者とのコミュニケーション不足③物量予測の難しさ──が挙げられる。
このうち、①と②は、詰まるところ人材不足、人手不足であり、③の物量予測も、Y社の場合は急成長に加え、新規顧客、新業態との取引が次々と始まることから、過去の実績データがほとんど役に立たないという事情があった。特効薬を見つけるのは困難であった。
これもとりあえずの対応策として、足元の物量と作業生産性をベースに必要な人時(人数×時間)を算出したところ、現状の投入人数では絶対的にマンパワーが足りないことが判明した。そのために作業品質が悪化し、それがまた生産性を悪化させるという悪循環になっていた。まずは大幅な増員が必要だった。
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一連の改革によって、何とかキャパオーバーによる混乱を終息させるめどは立った。次のステップでようやく最適化に取り掛かる。大がかりなシステムの改修と端末の刷新は避けられないところだろう。