Top > 雑誌寄稿 > 第172回 事例で学ぶ現場改善:『運送会社R社の値上げ交渉支援』

第172回 事例で学ぶ現場改善:『運送会社R社の値上げ交渉支援』

長年取引のある主要荷主がコストアップの転嫁を認めてくれない。時間外出荷の増加で現場の残業代も増えているのに、その分さえ請求できない。先代から事業を引き継いだ運送会社の若き2代目社長は覚悟を決めた。同社の値上げ交渉をサポートすることが今回のコンサルティングの大きな目的だった。

38歳の2代目社長と向き合う

R社は年商約25億円の運送会社だ。本社は大阪だが、千葉にも営業所を置いている。大量輸送が得意で、4トン、10トン、10トン増トン、セミトレーラー、フルトレーラー合計約200台と海上コンテナシャシーを所有している。事業ごとに別会社をつくって運営しており①メーン荷主事業②コンテナ輸送事業③貨物取扱事業④新規開拓・育成事業──を分社化している。
ある人物の紹介でR社のK社長と会うことになった。弱冠38歳の2代目社長であった。依頼内容は大きく二つ。「メーン荷主事業における先方との話し合い・交渉のやり方を助言してもらいたい」「新規開拓・育成事業の傭車先を紹介してもらいたい」というものだ。われわれ日本ロジファクトリー(NLF)にとっては一般的な依頼内容だが、コンサルティングに入る前に、R社およびK社長がわれわれのアドバイスをどれだけ消化できるのか把握しておく必要があった。
初対面時に社長室へ通されて2時間余り話し合った。その結果、次のことが分かった。

 

  • K社長の父親がまだ会長として残っているものの、経営のほぼ全権が既にK社長に委ねられている
  • 優秀かつ行動力のあるM専務が番頭役として会社の発展に大きく寄与している
  • 4つの事業会社のうち「メーン荷主事業」と「新規開拓・育成事業」は転換期を迎えており、課題・問題点も多い
  • K社長なりに将来ビジョンを描いている(資料でも確認済み)

 

K社長は父親と同じ高級外車を所有し、通常は来客用の駐車スペースに使うであろう正面玄関前に自分の車を止めていた。社長室にはK社長の学生時代のものと思われるサッカーのトロフィーやゴルフバッグなどが置かれている。多少の公私混同もなんのその。古株や周囲から少々のことを言われても気にしない。こびることもしない。そんな様子がうかがえた。それでいてドライバー表彰制度を採用しているようで、本社の入り口には表彰者を飾った大きな銀のプレートが展示されていた。
K社長は異業種で約3年間修行していたこともあり、考え方や課題認識も一般的な2代目とはかなり違っていた。運送会社の2代目社長と話す機会は多いが、そのほとんどが40代から50代だ。30代はさすがに少ない。筆者が年を取ったせいもあるだろうが、『新世代』との印象を強く受けた。
しかし、嫌な感じはしなかった。真面目に経営に取り組んでいる様子は伝わってくるし、何事もスマートであり、切り替えが早い。いずれにせよ、R社の将来を生き生きと語るK社長の表情を見ていて、この会社はまだまだ伸びるという手応えを感じることができた。
初回の訪問から間もなく、1回目のプロジェクトミーティングを開催した。K社長とM専務のほか、R社の主だった幹部たちが参加した。この席でわれわれNLFから、新規開拓・育成事業の傭車先候補をリストアップした資料を提示した。いずれもK社長、M専務が知らない物流会社ばかりのようであった。
そのうち特に関心が強かった3社には、その場で筆者が連絡を入れて、そのままM専務につないだ。続いてM専務は「ちょうど来週上京する用事があるのでその際に3社を訪問してきます」と言う。行動が早く、手際が良い。
一方、K社長はメーン荷主事業に注力していた。荷主は先代から取引のある大手メーカーの物流子会社A社だが、コストアップの転嫁を認めてくれず、収益が悪化していた。現場スタッフの残業時間も増え続けていた。時間外受注の増加が理由であった。
そのためR社から荷主に対して値上げと配車係兼運行管理者として1人増員することを申し出たが、「今はコストを掛けられない」とはねつけられた。その後も何度か話を持ち掛けているが話し合いに乗ってくれないという。
そこで筆者からは次の5つをK社長にアドバイスした。

 

①書面で提案、要望を出す

②現在の残業時間を集計して表にする

③労働基準法に抵触するレベルを説明する

④残業増加分をコスト増として金額(人件費)ベースで表す

⑤書面の宛先は物流子会社の責任者だけでなく、荷主である親会社の担当役員との連名にして提出する

 

親会社の担当役員の名前を出されることで、物流子会社の責任者は社内的立場が悪くなるかもしれない。相当な強硬手段といえる。しかし、K社長、M専務ともに反対はしなかった。それだけ背に腹は代えられない状況に追い込まれていたのである。交渉が不調に終われば、A社の仕事から撤退することも考える必要があった。

落としどころを設定する

それから数日後、2回目のミーティングを開いた。まずはM専務から新規開拓・育成事業の状況報告があった。1回目のミーティングでNLFから紹介した傭車先候補の3社には、大手精密機械メーカーから受託した保管・配送業務を委託する見込みで、来月からトライアルを開始するという。
それと同時にM専務は、その3社についてそれぞれ対応できない業務、依頼しない方がいい業務をしっかりと押さえていた。NLFから傭車先を紹介しても、電話一本で相手に要望を伝えるだけで済ませてしまおうとする会社が多い中、R社は専務が直接各社を訪問して現場を確かめている。そうした違いが長期的に大きな差となって表れてくるのである。
続いてメーン荷主事業のてこ入れに当たっているK社長から報告があった。NLFからアドバイスした5項目に従って資料を準備し、物流子会社A社の責任者と話し合いの場を設けた。先方は苦虫をかみつぶしたような表情でしばらく要望書を見た後、「R社の要望は分かったので月末くらいまで時間が欲しい」との返事であった。
これを受けてプロジェクトメンバーでA社との交渉の〝落としどころ〟を検討した。条件面では配車係兼運行管理者の増員を見送る代わりに、これまでR社側で負担していた現場の残業代を負担してもらう、そして時間外出荷の件数自体が減るようA社から親会社に要請してもらうのが得策と判断した。
先方が受け入れやすいように、過去の未払い残業代については請求しないことにした。また昨今の状況であればA社の親会社も、物流現場の人手不足で締め時間後の出荷には対応できないという説明には一定の理解を示すはずだ。
この線で交渉の資料を急ぎ作成した。料金面では、値上げ提示額の約半分で妥結する、いわゆる〝中落とし〟が多いことから、そこから逆算してパーセンテージを決め、新たな費用項目として「管理費」を設定した。その後、R社から口頭レベルで提案内容をA社側に事前打診し、大筋の合意を得ることができた。大きな前進であった。

初の全国案件を受託

3回目のミーティングは、K社長が急遽、M専務と千葉で合流して重要な打ち合わせに出なければならなくなったとのことで、いったん延期になった。R社にとっては良い話だったようで、スケジュールを変更して開催された3回目のミーティングで二つのビッグニュースが報告された。
一つは新規開拓・育成事業における大型案件の受託である。大手精密機器メーカーのL社から、日ごろのR社の真面目な仕事ぶりと、汚破損がないなどの輸送品質が評価されて、千葉エリアの配送だけでなく、全国の配送を委託されることになったという。
もう一つはメーン荷主事業である。K社長が値上げ交渉をしていた物流子会社の責任者から、〝中落とし〟で応じるとの連絡が入った。こちらの思惑通りの展開である。社長と専務が両輪となって真摯に経営に取り組み、果敢に行動することで、良い結果が付いてきた。
とはいえ喜んでばかりもいられない。全国規模の傭車ネットワークを早急に構築する必要がある。これをサポートするため、われわれNLFも傭車先候補のリストアップの範囲を拡大した。NLFの既存ネットワーク先のほか、各エリアの運送会社のホームページをチェックして、精密機械の取り扱い実績のある運送会社をスクリーニングした。
条件を満たしている会社があれば、NLFのスタッフが実際に連絡を入れて詳細を尋ねる。ホームページに実績として掲載されている場合でも、既に契約が終了してエアサス車などの必要な資産を売却していたり、あるいはスキルのあるドライバーが退社していたりするケースが実際にはかなりある。その有無を確認する。
また連絡を入れた物流会社が自分では対応できなくても、対応可能な地元の会社を紹介してくれることがある。そうした情報が思いのほか有効であることを、われわれは過去の経験から学んでいる。

こうしてR社は主要荷主との値上げ交渉を成功させた。新規開拓・育成事業も、L社から受託した全国配送が軌道に乗れば成長に弾みがつく。足元の好景気の後押しも受け、R社は2代目社長が牽引する〝第二の成長期〟に入った可能性がある。