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第173回 事例で学ぶ現場改善:『大手メーカーA社の飽くなき改善活動』

物流先進企業として知られる大手メーカーからサポートの依頼を受けた。同社は優秀かつ十分な数の社内物流コンサルタントを投入して長年にわたり改善を重ねてきた。それでもまだ、自分たちの気付いていない問題はあるはずだ、新たな知見も生まれているだろうと、前進への意欲は尽きることがなかった。

年間250件の改善を積み上げる

精密機械メーカーA社は年商数兆円、関係会社を含めると世界に約10万人もの従業員を抱える大企業だ。海外売上高比率は50%を優に超え、現在生産拠点を国内に5カ所、海外に7カ所展開している。

日本国内の物流拠点は、北は北海道から南は福岡まで計6カ所に配置している。売上高に占める支払物流費の比率は4・5%。業界の中ではやや高い水準だ。同社の製品は納品時に搬入・設置作業が必要で、ツーマンでの対応が求められることが一因となっている。

A社は長年にわたって物流改善を継続し、着実にコストダウンを積み上げてきた。A社のSCM本部には、社内物流コンサルタントが現在7人常籍している。今回のプロジェクトの窓口を務めたM氏はその1人で、今のポジションに就いてからの4年間で、大小合わせて1千件以上の改善を実施したという。

それでもなお、彼らは改善努力を怠ることなく、新しい切り口を探していた。日本ロジファクトリー(NLF)にコンタクトを取ったのも、外部のコンサルタントに中立的、客観的立場からあらためて物流を診断してもらい、今後の改善活動の道筋を見つけたいとの趣旨であった。

さすがに今回はわれわれの出番はないかもしれない。話を聞いてみた上で場合によっては降板することも念頭に置いていたが、実際にメンバーに会ってみると、NLFに対する期待度は相当に高いようで、誰もが目を輝かせている。これは断れそうにないと覚悟した。

しかし、われわれに与えられたのは、わずかな時間と限られた情報のみであった。SCM本部のコンサルティング部隊の予算から捻出できるフィーは限られており、多くの人時をかけるわけにはいかなかった。いつものように現場視察とヒアリングを基に診断を行う余裕はなく、数回のプロジェクトミーティングだけで解を導き出す必要があった。

初回の打ち合わせから3日後にA社から実績データと関連資料が送られてきた。それを見て筆者は目を疑った。インターネットを検索すればすぐに見つかるレベルの表面的な情報ばかりであった。すぐさまプロジェクトリーダーのM氏に確認の連絡を入れたが、社内ルール上、それ以上の情報は出せないという。

それを聞いて、むしろ腹が据わった。われわれNLFに求められていることがあらためて確認できた。コンサルティングの進め方をいつもとは180度切り替えて、現場の実態からスタートするのではなく、A社の物流のあるべき姿を想定して、それを前提に有効と考えられる改善施策を提示することにした。

大手企業には他社を知らないプロパー社員が多いため、過去の取り組みの延長線上にある改善テーマしか出てこないという傾向がある。従って他社事例が有益となる。そこで、これまでNLFが携わってきたプロジェクトの中から、A社と売り上げ規模や取扱品、ユーザー特性、生産拠点や物流拠点の配置などが類似している事案をピックアップして、そこから類推した次のテーマをメンバーに提示した。

 

①製品・部品の直送化、清流化

②脱・物流子会社(委託比率の低減)

③調達物流の内製化

④波動の平準化

⑤ハンドリングの削減

⑥イレギュラーの削減

⑦センター立地の最適化

⑧販売物流における外部倉庫の内製化

⑨競合メーカーB社との共同物流

⑩港~物流センター間の陸上輸送コストの削減

 

メンバーたちは筆者の説明を一言も聞き漏らすまいという姿勢で耳を傾け、われわれが配布した資料に食い入るように目を通していた。これは後になって分かったことだが、SCM本部の社内コンサルは大半が生産畑の出身であり、システム、調達、販売の経験者はほぼ不在であった。そのため生産関連の物流テーマは一通り着手してきたが、販売物流については深く踏み込めておらず、潜在的な課題が残っている可能性があるとのことであった。

①「製品・部品の直送化、清流化」は、A社にとって着手済みのテーマであったが、徹底レベルは十分とはいえないという。調べてみると、欠品を防止するために、わざわざ遠方の物流センターから部品在庫を横持ち輸送しているケースが散見された。部品在庫の管理ロジックに詰めの甘さがあるようだった。

また部品だけでなく製品についても、他センターからの〝借り在庫〟の横持ちが発生していた。発生件数は部品、製品ともそれぞれ四半期に10件未満とのことであったが、正確な数字ではなかった。借り在庫の移送時にスキャン検品を実施していない場合があった。これにより作業マニュアルの一部を見直す必要のあることが判明した。

波動を増幅する営業活動にメス

②「脱・物流子会社」とは、具体的には物流子会社に対する委託比率を低減することであり、A社クラスの規模のメーカーでは、実施すれば大きなコスト削減効果を生むこともある施策だ。ご多分に漏れずA社でも、物流子会社が高収益を挙げるたびに、親会社の支払物流費が上昇する傾向が見られた。そのため委託比率を下げようという考えは以前から持っていたものの、協力物流会社の選択は各現場に任されており、委託比率は高止まりしていた。

一方で物流子会社側でも、外販比率を上げることで親会社への依存を脱し、またコスト効率を高めることで親会社に貢献することを狙ったプロジェクトに取り組んでいるようであったが、その件はSCM本部でコントロールできるとのことで、われわれNLFとしては成り行きを見守るしかなかった。

③「調達物流の内製化」という提案は、プロジェクトメンバーたちから大きな反応を得た。大手メーカーの多くが既に1次サプライヤーを対象とするミルクラン輸送には着手している。しかし、ほとんどのメーカーがその先の2次サプライヤーまではカバーできていない。筆者は一般論としてそう指摘した。

A社も例外ではなく、それまで2次サプライヤーを改善の対象とは考えていなかった。しかし、十分な物流機能を持たず、必要な人材にも事欠き、本当に物流に困っているのは、むしろ2次以降の中小企業である。といっても、サプライチェーン上の全てのサプライヤーを対象にするのは膨大な時間と手間を要するため、優先順位を付け、まずはA社に対する供給比率の高い2次サプライヤーから着手するようアドバイスした。

④「波動の平準化」でも収穫があった。かねて月度や季節などの外部要因による需要変動には、生産調整や発注点の変更などによって対応し在庫水準の適正化を図っていたが、営業部門の販売活動に起因する、内部要因による波動には手を打てていなかった。

営業担当者は顧客の注文を素直に売り上げとして計上するとは限らない。早期に予算を達成してしまうと、上司からノルマを上乗せされる恐れがある。ライバル社員や競合する部署をいたずらに刺激して、相手が〝隠し球〟を出してくれば、こちらも対抗せざるを得ず、消耗戦に陥ってしまう。

それを避けるため、当初は目立たないように少しずつ売り上げを積み上げ、締め日近くに一気に計上するパターンがよく見られる。社内競争の激しい大手は特に締め日に売り上げの計上が集中する傾向にある。結果として、物流現場は極端な波動対応を迫られることになる。大きなコストアップ要因である。

そこで特定日に出荷を集中させないように、販売部門で使用している「営業担当者別・売上計上表」をSCM本部でカスタマイズして、週別・曜日別の出荷構成比を「波動指数」として図示化した資料を販売部門の全スタッフに配信することにした。課長職以上の管理者には、出荷量の平準化によってコストを下げるよう指示も付け加えた。次のステップでは、販売部門の各セクションのリーダーと話し合い、平準化にインセンティブを設ける計画だ。

何が「イレギュラー業務」か

⑤「ハンドリングの削減」は、A社のコンサルティング部隊のメンバーたちが得意とする領域であった。工場はじめ物流センターの無駄取りとしてタッチ数の削減には以前から力を入れていた。コンサルティング部隊が手掛ける年間250件以上もの改善の多くがその関連テーマであった。

社内コンサルタントの一般的な傾向として、部分最適には目が届きやすいが、全体最適となると、当事者たちにとっては現状が見慣れた
〝風景〟となってしまい、問題意識を欠く傾向が見られる。A社も同様で、ミクロなテーマは得意でも、⑥「イレギュラーの削減」についてはプロジェクトメンバーの大半が頭の中になかった。

イレギュラー業務が発生するとコストアップになることは周知されていた。しかし、どのような業務がイレギュラーに当たるのか、さっぱりイメージできていなかったようであった。まさにイレギュラー業務がレギュラー化して、当たり前の〝風景〟となっていたのである。

各工場、物流センターにおける実態調査が必要であった。ただし、各現場のスタッフに自分たちでイレギュラー業務を特定させるのは難しい。まずはSCM本部がモデル拠点で実態を調査してイレギュラー業務の洗い出しを行い、「イレギュラー業務一覧表」を作成するよう指示を出した。

主な調査項目は時間外受注や出荷先の変更、緊急出荷や他拠点の横持ち輸送などである。調査の結果、イレギュラー業務を解消するために、作業の基本となっているマニュアルを改訂しなければならない箇所が複数見つかった。

⑦「センター立地の最適化」は、A社において過去に幾度も検証し、修正を重ねた結果として現在に至っているとのことであった。その検証方法も、着地点分析による最適立地の抽出という教科書通りのやり方であったため、NLFとしても「問題なし」と判断した。

⑧「販売物流における外部倉庫の内製化」についても、「外部倉庫は一切借りていない」というのがSCM本部の当初の認識だった。しかし、その裏付けとなる販売部門別の販売管理費の検証は行っていないとのことだった。そこで、販売管理者からのヒアリングを行うと実態が見えてくる、とアドバイスしたところ、早速着手することになった。

その結果、プロジェクト最終日に「全国8カ所で外部倉庫を賃貸している事実が判明した」との報告があった。国内に8つある販売部門がそれぞれ1カ所ずつ外部倉庫を使用している計算だ。どのような目的で外部倉庫が使用されているのか、外部倉庫をゼロ化するにはどうすればいいのか、SCM本部で検討するようアドバイスした。

当然ながら各販売部門は自分たちが外部倉庫を借りていることは分かっている。しかし、その費用はオフィスの賃貸料と一緒に勘定項目の「家賃」に含まれているため、SCM本部をはじめ他部門からは見えない。

オフィスが自社物件なのに家賃が発生していたり、家賃が相場より高額であったりする場合には、外部倉庫を借りている可能性を疑う必要がある。いわゆる〝隠れ倉庫〟である。そこには、需要予測が大きく外れてしまった、あるいは工場への発注ミスを原因とする在庫の山が眠っているはずだ。

⑨「競合メーカーB社との共同物流」の提案には、SCM本部のメンバーは否定的だった。物流費を十分吸収できる高付加価値製品を扱っているため、業界全体としても共同化の動きは鈍いという。また、A社とB社はトップシェアを争うライバル同士であり、同じ車両で納品するとなれば販売部門からの反発が避けられないとのことであった。

しかし、コスト的に差し迫った必要がなかったとしても、トラックドライバー不足によって安定供給が脅かされている現状と、同業界におけるA社のポジショニングを考慮すれば、共同物流を検討しないという選択肢はあり得ないと、われわれNLFは主張した。

A社は物流子会社を持っている。一方のB社は物流子会社を持たず、専業のM物流に業務を全面的に委託している。A社とB社の物流を統合すれば、圧倒的な業界シェアを誇るベースカーゴとなる。それをA社の物流子会社が管理する。同社はノンアセット型であるため、配送実務をM物流に委託すればいい。

実はわれわれNLFにはM物流をサポートした経験があり、その実情は分かっている。B社の季節波動の大きさに苦慮しており、同社に対する依存度を下げるため、新規荷主の開拓に力を入れているところだ。それだけにB社には安定供給への危機感がある。A社から共同化を打診すればむげに断ることはないだろう。

ただし、A社の物流子会社はA社の社名を冠している。そのままではB社も乗れない。A社の子会社の社名を変更してB社からの出資を仰ぐ、あるいはB社と合弁で新会社を設立するといった配慮が必要になる。そこは業界最大手であるA社の考え方次第であろう。

⑩「港~物流センター間の陸上輸送コストの削減」は、NLFが入る直前にSCM本部がプロジェクトを終えたばかりのテーマであった。東京、大阪、福岡で拠点の立地を最適化した。今後、拠点の拡張が必要になるか、あるいは優良な倉庫物件が出て来た際にあらためて検討したいとのことであった。

こうしてA社のプロジェクトは予想していた以上の収穫を得ることができた。どんなに優れた企業でも、優秀なスタッフが十分な管理体制を敷いていたとしても、組織の内部に居ては気付かないこと、外部からでなくては見えない風景が必ずあるということを、筆者はあらためて確認したのであった。