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第174回 事例で学ぶ現場改善:『外食チェーンH社の供給網再構築』

外食チェーンが成長の壁に直面していた。ドミナント展開の遅れから店舗納品のコストがかさんでいた。業務を委託している卸や協力物流会社の能力にも不安があった。「現状のまま出店を続けても運賃倒れになる。先がない」。社長の鶴の一言で戦略の見直しが決まった。


パートナーとは呼べない

H社は年商約120億円の外食チェーンだ。計130店舗を展開している。ざっくり言うと1店舗当たり1億円を売り上げている計算である。出店エリアは東京、名古屋、大阪、福岡の4都市だ。ただし、店舗開発の途上ということもあって、ドミナントが形成されているのは東京のみである。その東京もまだ自社センターを構えるだけの規模ではなく、卸(ベンダー)による店舗納品を行っている。

現在の店舗数は当初の出店計画を大きく下回っている。エリア内の店舗数が少ないと納品の効率が悪いため配送費が高くつく。そのために利益が出ないので思ったように店舗数を増やせない。さらに効率化が遅れる──そんなチェーン展開の“生みの苦しみ”を味わっているところである。この悪循環から何とか抜け出したいと、われわれ日本ロジファクトリー(NLF)に声が掛かった。

H社のベンダーを務めている卸のY社とは、銀行からの紹介で30店舗の時代から取引しているという。筆者はたまたまY社の名前を以前から耳にしていた。H社よりももっと規模の小さな外食チェーンや個人経営の飲食店を対象にした業務用卸という認識であった。H社の配送費が高くついているのは、出店エリアの分散や出店スピードの遅れだけでなく、ベンダーとのミスマッチという問題もありそうだと推察された。

ヒアリングを行い実態を調査したところ、ベンダーY社の売上高に占めるH社の比率は20%弱に上っていた。卸としてはかなり依存度が高かった。さらにそのY社が配送業務を委託している運送会社は、売り上げの75%がY社向けだった。しかもその運送会社は最近、運賃を12%値上げしていた。それでもドライバーの確保が滞っているようで、Y社の納品インフラが弱体化する一因となっていた。

H社は卸のY社とその下請けである運送会社の二階層にわたって協力会社から依存される状態にあった。とてもパートナーとは呼べない関係であり、欠陥構造は明らかだった。特定の荷主に依存する運送会社は、物量の波動を他の顧客の仕事で吸収することができない。工夫の余地がない。これは卸も同じである。

そもそも卸に求められる機能とは「品ぞろえ」「ロット調整」「ファイナンス」「リテールサポート」「物流」の大きく5つである。しかし、ベンダーY社は少なくとも「品ぞろえ」と「物流」の点では機能していないと評価するしかなかった。

この実態調査を受けてH社のプロジェクトが正式にキックオフした。H社の規模の外食チェーンだと、本部にいる人数は限られている。そのため社長をはじめとする幹部全員がプロジェクトメンバーとなった。最初のプロジェクトミーティングの後、われわれは今回の改善事項を次のように整理した。

 

①各エリアの最適ベンダーの選定

②各エリアの最適物流会社の選定

③出店計画の再検討

④納品カルテのリニューアル

⑤店着時間の見直し

 

①「各エリアの最適ベンダーの選定」とは、文字通りエリアごとに最適なベンダーを選ぶということだ。T社は現在、3業態5ブランドを展開している。生鮮品、加工食品、酒類に加えて、アイスクリーム、乳製品、パンを扱う店舗もあるため、幅広い品ぞろえが必要だ。本来ならば全国対応が可能で酒類も扱う大手食品卸もしくはチルドに強い大手卸1社とがっちり手を組むのが得策である。

しかし、H社のボリュームはそれにはまだ十分ではなかった。加えてH社は過去に大手卸とのトラブルを経験していた。そのことが尾を引いているようで、H社の社長は今も「大手卸との取引はごめんだ」と言う。そこで次善策として、ベンダーの商流機能と配送・納品に必要な物流機能を切り分け、エリアごとに卸と物流会社をそれぞれ選択して店舗納品網を再構築することにした。

もともとベンダーY社は全国対応の卸ではないため、以前からH社のベンダーはエリアごとにばらばらだった。それを全てリセットし、また卸が物流会社に業務を再委託することも禁止して、H社と卸、H社と物流会社がそれぞれ直接契約を結ぶ前提でパートナーを選んだ。あまり委託先を分散し過ぎてもコストが下がらないため、結局、商流については東京がA社、名古屋と大阪はまとめてB社、その他エリアがC社と3社を選んだ。

これに基づいて②「各エリアの最適物流会社の選定」に着手した。他の外食チェーンとの共同化の可能性を考慮に入れて、各エリアの候補企業をそれぞれリストアップした。といっても、外食チェーン同士が正式に手を結ぶ大掛かりな共同化を狙ったわけではなく、別々の外食チェーンが末端の配送業務を同じ運送会社に委託することで結果として共同化できればいいという発想だった。

そもそもチルドも含めた3温度帯対応となると、各エリアにそれぞれ有力な地場物流会社があり、そのエリアの食品卸とは付かず離れずの関係を築いている。コンペを開けば卸はそうした物流会社を連れてくるし、逆に物流業務を受託した物流会社が卸を紹介することもある。われわれは荷主であるH社と卸、そして物流会社が「ウイン―ウイン―ウイン」になれるベストな組み合わせを目指した。


物流優先で出店戦略を再構築

③「出店計画の再検討」は、出店ペースを向上することが狙いである。出店のスピードが停滞していたのは、物流コストの問題よりもむしろ、現在の3業態5ブランドにそれぞれ対応した店長候補とパートスタッフを確保するのに手を焼いていたことが大きかった。

そこでアプローチを改め、人材育成よりもドミナント展開を優先することにした。マーケットリサーチ上、条件をクリアしている出店エリアにはどんどん出店する。メニューや調理方法、提供方法を工夫して、店長が近隣店舗と掛け持ちすることを可能にして、現場スタッフも店舗間で融通できるようにする。そのために業態やブランドが増えることも選択肢の一つとしたのであった。

これには店舗開発側から反対意見が多く上がった。出店のハードルを下げることで外食チェーンとしての魅力が薄れてしまうことが懸念された。しかし、社長から「これも一つのプロセスだ。現状のままの出店戦略を続けていても運賃倒れになって、先がない」と鶴の一声が上がった。

さらにわれわれNLFも、ある中堅居酒屋チェーンが関東圏に集中して出店するようになった経緯や、コンビニチェーンの出店戦略を例に挙げ、東京エリアのドミナント展開に最優先で取り組むことが現在のH社には不可欠だとアドバイスした。配送効率が最も良い東京エリアを制することができないのなら、他のエリアに進出しても成功は期待できないとプロジェクトメンバーたちに訴えた。

④「納品カルテのリニューアル」は、本連載で既に何度も紹介しているテーマだが、今回のポイントは2つあった。1つは「誰もが分かり、できる」納品作業を目指し、作業手順の内容をより分かりやすくしたことだ。高齢ドライバーに配慮して文字(フォント)のサイズを1・5倍に拡大して視認性も向上させた。

もう1つは、夜間の無人納品と、昼間の有人納品の納品手順を併記したことだ。H社は全店が直営であり、店着時間に自由度があった。そこで店やルートに応じたフレキシブルな納品対応を想定したカルテを作成して、配送ルートのメンテナンスの頻度を上げて効率化を図ることにした。

これをオペレーションの裏付けとして現在、⑤「店着時間の見直し」を進めている。従来の「店着時間」を「店着時間帯」に変更して納品時間に幅を持たせ、早朝・深夜は無人納品を実施している。これに併せて配送ルートを調整したことで、納品車両の回転率が従来の1日平均2回転から現在は3回転以上に上昇している。

欧米のチェーンストアは店舗展開より先に物流センターを造るという。軍事ロジスティクスの知見が企業経営にも深く根付いている。一方、日本は国土の大きさや卸売業が発達していることも影響しているのだろうが、チェーン展開において物流は後付けである場合が多い。しかし、セブン─イレブン・ジャパンやトヨタ自動車、花王など、日本でも強い企業はどこも物流を経営戦略の最上位に位置付けていることを忘れてはならない。