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《特別編》 事例で学ぶ現場改善:『ヤマト運輸の転向で特積みが復活する』

宅配危機を招いた原因はヤマト運輸自身にあった。知名度がありイメージも良いため募集すれば人は集まる。しかし、長続きしないので人手が足りなくなる。品質も落ちていく。「定着」の仕組みを欠いたままアマゾンの仕事に飛びついたことで、現場から火の手が上がった。今回の同社の方針転換は結果として高くつくことになるだろう。


問題は人手不足より定着力不足

ヤマト運輸の今回の値上げ交渉は、交渉というよりも通告であった。既存荷主に一方的に見積書を送り付けて、「この運賃でないと運ばない」と強硬な姿勢を取るのは、西濃運輸が特積みの値上げでよくやるやり方だが、今回はヤマトがそのお株を奪った格好だ。しかも、西濃の値上げは一度にせいぜい数%。それに対して今回はヤマトに従来の倍近い運賃を突き付けられた荷主もいる。

ヤマトに先立ち2013年には佐川急便が値上げに動いたが、そこまでの値上げ幅ではなかった。もともと佐川はBtoBがメーンということもあって社会的影響は限定的だった。しかし、ヤマトのシェアは圧倒的であり、ヤマトで納品することを指定してくる顧客もいる。どれだけ高い運賃を要求されても切るに切れず、身動きが取れない荷主が続出している。

ヤマトは今回の方針転換によってどれほどの社会的影響が出るのか、自分たちが一番良く分かっていたはずだ。「社会インフラ」を自称する会社がサービス提供を拒否したり、ユーザーの息の根を止めてしまうような大幅値上げをすることが果たして許されるのか。苦しくとも踏ん張るべきところだったのではないかと著者は感じている。

世間的には宅配クライシスはネット通販の荷物が増え過ぎたことが原因とされている。確かに現場は「配達無料」のキャンペーンや過剰なスピード競争に振り回され、また再配達の依頼に追われて、大変なことになっている。ドライバーに対する同情と物流がまひしてしまうことへの危機感があるため、ヤマトを批判する声は大きくはない。

過去にもヤマトは最大荷主だった三越の百貨店配送から撤退したり、「宅急便」の許認可をめぐり当時の運輸省にけんかを売ったりと、分かりやすい“悪者”を敵に仕立てることで世論を味方に付けることに成功してきた。今回はアマゾンがその標的となった。ヤマトのDNAに染み付いたやり方なのだろう。現場の混乱を沈静化するためにサービスを落とし、総量を抑制するのは社内的には美学でさえあるのかもしれない。

しかし、ヤマトは犠牲者とはいえない。再配達を無料にしたのはヤマトのマーケティング戦略であり、アマゾンの仕事を安値で受けたのは経営判断だ。誰かに強制されたわけではない。

現場が回らなくなったのも、必ずしも人手不足だけが原因とは思えない。ヤマトほどの企業ブランド力があれば今のような環境でも募集すれば人は集まる。「採用」は難しくないはずだ。しかし、ヤマトは採用した人を「定着」させる仕組みが、他の宅配会社や運送会社と比べても弱い。筆者は以前からそう感じていた。

人手が足りなくなった現場では負のサイクルが始まる。作業員は自分で判断できないことが起きると、持ち場を離れてリーダーのところまで指示を仰ぎに行く。物流センターであればその間、ラインがストップしてしまう。それを避けるためトヨタ自動車では「アンドン」と呼ばれる呼び出しボタンをラインに設置して、異常が発生したときには現場リーダーが作業員のいる場所にすぐに駆け付ける仕組みを導入している。

アンドンのない物流センターでも、通常はリーダーやサブリーダーに現場を巡回させて、困ったことが起きた作業員にはその場所まで彼らを呼ぶように指導している。ところが人手が足りないとリーダーたちまで現場作業に追われてしまう。作業員がリーダーを探さなくてはならなくなる。新人を教育する余裕もなくなる。その結果、さらにラインが止まるという悪循環に陥る。

宅急便の現場でも同様の事態が起きているようだ。筆者は先日、上着だけヤマトの制服を着て、下は私服、制帽もかぶっていない、かなり高齢の宅急便ドライバーに街で出くわした。初めて見る光景だった。現場の荒廃はかなり深刻で、立て直しには時間がかかるとみている。

西濃と福通に荷物が流れる

ヤマトのネットワークからはじき出された荷物の一部は現在、西濃運輸と福山通運に流れている。ただし、商業貨物中心の両社にBtoCの宅配便だけやってほしいと依頼しても良い顔はされないため、特積みやBtoBの荷物と抱き合わせて渡して、何とか運んでもらっているという状況だ。

国土交通省「平成28年宅配便(トラック)取扱個数」を見ると、西濃「カンガルー便」の昨年実績は約1億3千万個でシェアは3・3%、福通「フクツー宅配便」は約1億2千万個の3・1%となっている。これまで大手3社の寡占化が進むのに伴いシェアを落としてきた。しかし、トレンドは反転した。両社のシェアは今後上昇していくだろう。

両社の他にも宅配便をサービスメニューに残している中堅特積みはある。これを機に宅配事業の立て直しを図ってもおかしくないところだ。しかし、恐らくは商業貨物だけで手いっぱいで、BtoCまでカバーする活力は既に失われている。宅配便の代わりに、方面別にその地域に強い中堅特積みを使う荷主は増えるが、影響は限定的だ。

一方で法人向け宅配便運賃の大幅な値上がりは、新興企業に参入余地を与えている。軽トラック企業が宅配大手よりも安い値段でネット通販貨物を請け負い、需要を掘り起こそうとしている。ただし、これらの新興企業は配送エリアが地域限定のため、大手通販は幹線輸送で各地の新興企業のセンターに荷物を送る、いわゆる“ショットガン方式”でネットワークを構築している。

人手不足は新興企業も同じだが、それでも安い運賃で現場を回せるのは、宅配大手が全国規模で大量の人数を採用するのと、その地域で数人から数十人のドライバーを集めるのとではロジックが全く違うからだ。実際、われわれ日本ロジファクトリー(NLF)のコンサルティング案件でも、中小運送会社の欠員補充レベルであれば、求人広告を打つ媒体の見直しや口コミの工夫などで今でも頭数をそろえることはできる。

例えばある運送会社は、既存社員やパート・アルバイトが、ドライバー求職者を会社に紹介して採用が決まった場合には紹介者と採用したドライバーにそれぞれ5万円の報奨金を出す社員紹介制度を導入して効果を挙げた。1万円程度では効果は薄いが、5万円まで引き上げるとかなりの反応がある。

ただし、報奨金の全額を一度に支払うと制度を悪用される恐れがあるため、入社時点で2万5千円ずつ、残りの半分は半年後そのドライバーが勤続していた場合に支払うことにしている。ドライバー1人当たり合計10万円の採用コストが必要になるが、募集広告の費用に比べればコストパフォーマンスはずっと良い。社員の紹介は定着率が高く、人材の質という点でも安心感がある。

地域限定型のネットワークであれば卸の下請け配送をメーンにしている赤帽に、週1日もしくは2日に限定して仕事を依頼し、複数の赤帽でローテーションを組むという運用もできる。つまり地域限定なら大手宅配に頼らずともラストワンマイルは構築できる。ただし、それを新興企業に任せるのではなく、荷主が自分でやるという選択肢もある。実際、アマゾンは現在、新興企業への委託と自社配送を並行して運用している。その効果次第で一気に自社配送にシフトする可能性がある。