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第175回 事例で学ぶ現場改善:『医療機器メーカーR社の物流コスト削減』

物流センターの立地に問題があることは分かっていた。しかし、自社所有であることから手を付けられていなかった。物流部門に大掛かりな改革を主導する力もなかった。従来の延長線上ではなく、抜本的にアプローチを転換する必要があるとトップは判断した。外部のコンサルタントにそのサポートを依頼した。

25%削減をトップが指令

R社は東京に本社を置く年商90億円の医療機器メーカーだ。各地のディーラー(卸)経由で、全国の病院や介護施設などの医療機関に製品を供給している。取り扱いアイテム数は医療機器メーカーとしては一般的な約800。自社工場は持たず、全てOEM生産だ。物流センターを関東に2カ所、関西に1カ所置いて、いずれも大手3PL企業に運営を委託していた。

R社を訪問した筆者たちを出迎えてくれたのは、われわれ日本ロジファクトリー(NLF)に最初に問い合わせを入れた担当者本人とその上司であった。いずれも物流部門の所属ながら、担当者は係長、上司は課長職であった。

2人の肩書きと、一般的に医療機器メーカーにおいて物流部門の発言力は強くないことから、R社の物流が全社レベルの最適化ではなく、物流部視点に限定した「部分最適」に偏っている可能性があり、他部署との調整が必要なテーマには未着手かうまく進捗していない可能性があると推測した。

応接室に通され、課長から相談事項の説明があった。物流センターの見直しや物流費の削減を考えているという。いまひとつ狙いが明確でないため突っ込んで尋ねてみると、トップから25%のコストダウンを命じられたと説明した。物流費が高騰している昨今では無謀ともいえる高い目標だが、まずはR社がこれまでどのような改善を行ってきたのか確認しておく必要があった。

資料の用意はなかったため、2人は記憶をたどって過去の改善テーマをランダムに挙げていった。その内容は想定通り物流部門の管轄範囲内で可能な部分最適ではあったが、大幅なコストダウンを期待できるテーマは既に着手済みであった。一通り説明を聞き終え、25%のコストダウンは厳しいだろうと感じた。2人にもそのことをはっきりと伝えた。ただし10%程度であれは不可能ではないと付け加えた。

それから数日後に課長から連絡が来た。やはりトップから「25%が無理でも物流コストが10%下げられるのであればプロジェクトを進めろ」と通達されたという。後になってR社の社長は筆者に、コスト削減目標の大幅な引き下げをすぐに承認した理由を次のように打ち明けた。

「25%の削減が難しいのは分かっていた。しかし最初から10%程度を目標にしてしまうと、社員たちは現状の延長線上でしか物事を考えようとしない。どうすれば物流コストが下がるのか、発想を抜本的に転換して、危機感を持って考えさせるには高い目標が必要だった」。

こうしてR社の物流コスト削減プロジェクトがキックオフした。約2カ月間にわたる実態調査と分析を経て、われわれは次のような改善テーマをR社に提示した。

①物流センター展開の見直し

②アイテム数の削減

③EDI/EOS受注比率の向上

④調達物流の内製化

われわれの提案に対してM社長を含めR社側から大きな異論は出なかった。それぞれのテーマを順に着手することになった。

①「物流センター展開の見直し」のため、われわれはまず納品先の場所と物量の実績データを基に「着地点分析」を実施して最適な物流センターの立地を抽出した。その結果、関東の2拠点のうち1カ所が最適エリアから大きく外れており、そのために納品輸送コストが高くついていることが分かった(図)。以前からR社内でも問題には気付いていたが、当該センターは自社物件であったため、手を付けていなかった。

そこに今回メスを入れることになった。同センターを閉鎖して、関東のもう1つのセンターに集約する方針を立てた。しかし、その結果として、サービスレベルを下げなければならない納品先が出てくる。具体的には閉鎖した物流センター近隣の北関東エリアでそれまで基本サービスであった「午前中」必着が不可能になる。

案の定、営業からは強い反発があった。しかし、筆者に言わせれば、午前の納品が午後になるくらいで商売が危うくなるようでは、そもそもその卸は先が期待できない。これからも生き残っていくことのできる卸とは、在庫を持てる卸である。在庫機能のない卸は存在価値を失っていく。

といっても、得意先をむげに切り捨てることもできないため、対象となる納品先の卸に営業・物流の双方から詳細な事情説明を行った。結果的には、R社の製品は代替できるメーカーが限られているということもあり、午後納品になることで離れる卸はほとんどなかった。

 

アイテム数を3割カット

集約先となるセンターのキャパオーバーも心配されるところであった。同センターの運営を委託している3PL会社に依頼して、センターの敷地内にテント倉庫を増設することにしたが、それでもまだ足りない。そこで在庫の圧縮に加えて、この機会に②「アイテム数の削減」に踏み切ることにした。

アイテム別の出荷頻度を分析したところ、1年に1度も出荷実績のない製品、つまりデッドストックが全アイテムの約15%を占めていた。1年に1度だけというアイテムも約20%あった。R社には明確な終売ルールがなく、改廃作業が手薄だったのである。

当然ながら、それらの滞留在庫にも保管料、棚卸しコスト、管理コストが掛かっている。すぐに廃番にすべきである。この方針についても営業から反発はあったが、出荷頻度が極端に少ない製品は「取り寄せ」で対応するとともに、事前に顧客にも納品リードタイムがイレギュラー扱いになることを明示することにして、総アイテム数を約3割削減した。

③「EDI/EOS受注比率の向上」は社内人件費の削減と、出荷指示データの早期送信が狙いである。以前から大口顧客とはオンライン取引であり、EDI(電子データ交換)ないしEOS(電子オーダーシステム)の受注比率が売り上げベースでは8割以上に達していた。しかし、件数ベースでは約4割であり、ファクスや電話による注文が約6割に上っていた。

しかも、R社側でファクス用オーダーシートは用意しているものの十分に浸透しておらず、顧客はそれぞれ思い思いのフォームで注文を送ってくる。注文内容を確認して入力するために、8人の派遣スタッフを投入していた。手間が掛かるだけでなく、ミスにもつながっていた。

3年後にはウェブ受注に切り替える計画とのことだったが、全ての顧客が対応してくれるはずもない。その後も恐らく3割近くの顧客がファクスと電話による発注を続けることが予想された。そこでファクス/電話注文の顧客に対して、R社の営業がeメールも含めたオンライン発注への移行を依頼することにした。

移行へのインセンティブとして3~5%の値引きを設定した。さらには早期の移行を促すため、R社の営業担当者に対してもインセンティブが必要と判断、R社の取締役会にキャンペーンの実施申請を提出した。

④「調達物流の内製化」では、ミルクラン方式を導入して仕入れコストの削減を図った。通常なら調達部門との調整が必要になる施策だが、R社の物流部は調達業務を兼務していたため実施しやすく、物流部門の業務の深掘りにもつながった。

調達先エリア、調達先の引き取り体制の有無、納品車両の空車時間活用などを検討して、現状とミルクランを導入した場合のコスト比較を行った。物流機能が十分でなく、自社車両でセンターに納品していた仕入れ先やトラックを確保できないOEM先などを中心に全調達先の16%が候補に挙がり、最終的には3つのミルクランルートを設定することができた。

 

荷主が拠点を所有するリスク

この他、配送ルートの年4回の定期的見直しと、3PLパートナーとの「サービス・レベル・アグリーメント(SAL)」の締結を行った。さらに次のステップでは次のような施策を計画している。

・配送頻度の見直し

在庫を持てる卸に対してインセンティブを付与して毎日配送から隔日配送に移行する。力のある卸には、R社の物流センターまで製品を引き取りに来ることができないか打診する。これには有力卸とのパイプを太くして、絞り込みを図る狙いもある。

・物流パートナーの選定

現在の委託先は業界大手であり、R社の規模では十分なコントロールが利かない。規模に見合った委託先を選び直す。

・自社WMSの導入

関東2拠点、関西1拠点のうち、今回閉鎖した物流センターだけに自社開発のWMSを導入していた。これを現行の2センターに導入して、3PLへのシステム依存を脱する。

さて、今回のプロジェクトで筆者が痛感させられたことが2点あった。1点目は荷主が自分で物流センターを所有するリスクだ。閉鎖したR社の自社センターは賃貸物件として、借り主を探すことになった。現在の環境なら悪くない条件で貸せるかもしれない。しかし、それはたまたま運が良かっただけにすぎない。安い土地が見つかった、あるいは売り上げの拡大が見込めるといった不確かな観測から、安易に物流センターを所有すると、環境が変化したときには身動きが取れなくなってしまう。市場が常に変化する以上、臨機応変にスクラップ・アンド・ビルドができる物流センターが望ましい。

2点目は、物流部門の情報発信力である。対外交渉力はもちろんのこと、物流部門に社内調整力がないと、全体最適どころか有効な改善さえ難しい。他部署の言いなりになってしまえば、付加価値を創出することなどできないということである。