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第176回 事例で学ぶ現場改善:『仲卸F社の支払物流費削減』

冷凍品・チルド品を扱う仲卸が支払物流費の上昇に悩んでいた。聞けば配送はもちろん市場内の荷役作業まで外部委託しているという。卸としてそれで競争力を維持していけるのか、コスト以前の問題があるように感じた。まずは実態を確認するため深夜から早朝にかけての荷役作業に張り付いた。

荷役作業の外部委託を見直し

F社は年商約100億円の食品卸である。中央卸売市場の仲卸業者で、冷凍品が取り扱いの70%を占めている。残り30%はチルド品である。F社の売り上げ全体の約半分は地元の大手・中堅チェーンストア4社が占めている。残りの半分は2次卸や飲食店だ。

筆者との打ち合わせにはいつもF社の会長、社長、専務、実務担当者の4人が同席した。筆者が商流について質問すると難なく答えてくれるのだが、物流に関する質問となると必ず一呼吸入る。聞いていて心配になるほどの情報収集レベルであった。

それでも月別の支払物流費などの基本的な資料は用意されていた。それを見ると売上高に対する支払物流費は3%を若干下回っている。低温食品を扱う卸としては高い水準ではない。しかし、同席した専務いわく、その数字にF社が各納品先に支払っているセンターフィーが全て入っているのか確認できていないとのことだった。

F社は仲卸には通常あまり見られない現場の運営方法をいくつか採用していた。その一つが市場内の荷役作業を外部に委託していることであった。仲卸にとって荷役作業は食材の産地や鮮度の確認、同業他社の仕入れ情報などをつかむ重要なコア業務であるはずだ。それを外注化したのはコスト削減が目的だったようだが、効果が挙がっているのかは疑問であった。

さらに懸念されるのが営業力の低下である。生鮮品は品質や価格が一定ではないため、日ごろから商品に接していないと、ここ一番の提案の際に強く出るのが難しくなる。筆者がそうした懸念を伝えたところ「その点は否めない」と会長、社長の両人からコメントがあった。

仲卸は地方自治体による許可制で、欠員が出た場合などの特別な事情がない限り、新規参入は難しい。規制に守られた商売といえる。しかし、利権は時に工夫や改善に向けた思考を停止させてしまう。経営に対する危機感までも消失させる場合がある。F社は果たして大丈夫だろうか。いささか不安を覚えた。

そうした背景を念頭に置いて、F社の課題を整理して、次の6項目の改善に着手することになった。与えられたプロジェクト期間は7・5カ月であった。

①荷役作業の自社化

②作業場の集約

③「引き取り」の推進

④運賃体系の見直し

⑤配送ルートの見直し

⑥共同配送の推進

①「荷役作業の自社化」に当たり、まずは筆者とプロジェクトメンバーたちが、夜の9時から翌朝9時まで現場に張り付いて、現状のオペレーションを詳細に調べた。一般的に外部委託のメリットは▽自社運営よりも生産性が高い▽作業品質に優れている▽人手を安定して確保できる──の3点であろう。しかし、F社の場合はいずれのメリットも得られていないことが明白であった。

現場作業はダブルハンドリングや動線の長さが目立った。リフト操作に手際の良さはあったものの、作業が職人化されていて、仕事の段取りは当事者の頭の中にしかない状態であった。また、調査当日には欠員も発生していたが、補充なしで業務が進められていた。

卸売市場の現場作業には時間的な制約がある。どの作業を何時までにやらなければならないのか、職人的な作業員による暗黙知によって運営されていて、少し段取りを誤っただけで大混乱に陥る。F社だけでなく卸売市場に共通する課題である。しかし、物流現場に職人やプロはいらないと筆者は考えている。卸売市場の荷役作業といえども例外ではない。「誰もが分かり、誰もができる」現場をつくり上げて、脱・職人化を図るべきだ。

今回のプロジェクトを機にF社は荷役作業の自社化を段階的に進めていくことになった。自社スタッフによる運営を基本として、波動部分は派遣スタッフという構成を目指している。現在、全体の3分の1の人員をF社の社員と直接雇用のパート・アルバイトで占めるところまで来た。現場のビジュアル化も着々と進み、視認性は向上してきている。

作業の段取りを整理し、各作業員のスケジュールと作業の進捗を現場に設置したホワイトボードに張り出してレイバーコントロールを実施している。それを見て、作業が遅れている場所には別の場所から応援を送り、人員配置の最適化を図っている。

割り当てられた業務が終了した作業員はその時点でその日の仕事を切り上げることができる“終わりじまい”も比較的スムーズに受け入れられている。早上がりした分は時給賃金が減ってしまうのだが、卸売市場の夜間スタッフには昼間別の仕事に就いているダブルワークが多く、お金も欲しいが睡眠時間はもっと大切という人がかなりいる。

荷役作業の自社化と並行して②「作業場の集約」にも取り組んでいる。これまでF社は販売先が増えるたびに市場内に新たなスペースを借り増してきた。その結果、現在は仕分け場がそれぞれ100坪弱の4カ所に分散している。そのことが人員の融通や指示の統一を難しくしている。そこで新たに場外にスペースを借りてワンフロアに集約する。具体的な物件も見つかり、条件交渉に入ったところである。

③「『引き取り』の推進」とは、納品先にF社の出荷場まで商品を引き取りに来てもらう取り組みであり、主要顧客のチェーンストア4社が対象である。4社の物量と物流インフラ、カバーエリアを、F社が納品している現状と比較すれば、その方が安く済むのは明らかだった。

そこでF社の営業と納品先の物流担当で話し合いを持ち、各社が引き取りを実施した場合のコストを算出して、その場合のセンターフィーを設定した。その結果、F社の既存の納品ルートのおよそ4分の1は、センターフィーの上昇分を差し引いても「引き取り」に切り替えた方がコストは下がることが分かった。

納品先としても、調達物流の内製化によってコストダウンできるのであれば悪い話ではない。総じて前向きに応じてくれた。ただし、チェーンストア4社のうち1社は協力運送会社のドライバー不足で店舗納品もままならない状態で、引き取りには対応できないとのことだった。

配車業務を自社化して効率化

④「運賃体系の見直し」は必須のテーマだった。協力運送会社によって契約している運賃体系がばらばらだった。調べてみるとフィー(料率)運賃、1日1台当たりの貸し切り運賃、月額固定運賃の3パターンが設定されていた。これを料率運賃に統一すれば、支払運賃を変動費化できる。

しかし、料率運賃に対応できるのは、しっかりと原価計算のできるレベルの高い運送会社に限られる。丼勘定の運送会社は月額固定運賃を好む。車両不足が深刻化している現状でハードルを高く上げ過ぎるのも危険だろうと考え、間を取って1日1台当たりのコース別運賃に統一することにした。その結果、それまで月額固定で契約していた1社が脱落したが、ご時勢ではやむを得ないところだろう。

1日単位とはいえF社が車両を貸し切る以上、効率化を進めるには自分たちの裁量で車両の回転率を上げていかなくてはならない。新たにF社の社員を配車担当として投入して、独自の配車組みを行うことにした。⑤「配送ルートの見直し」である。

それまでF社では顧客別に協力会社に配送を委託していた。そのためF社からそれぞれ委託を受けた別の協力会社が同じエリアに重複して車両を走らせているということが頻繁に起きていた。顧客別からエリア別の配車に組み替えれば、そうした無駄を排除できる。

まずは売り上げ上位4社のチェーンストアのセンターを対象に、各センターの時間指定や車両の拘束時間を考慮した上でエリア別配送ルートを設定した。そのルートに他の納品先を当て込んでいった。その結果、4トン車1台、2トン車1台の計2台の車両が空いた。それをそのまま減車するのではなく、それぞれ車両を出している協力会社に他社の荷物を獲得できないか打診した。狙いは⑥「共同配送の推進」である。

実は空いた車両の他にF社は冷凍車両3台を自社所有している。しかし、営業がイレギュラー時に使用するくらいで遊休化していた。これについても協力会社が荷物を見つけ次第、買い取ってもらうことになっている。そうやって協力会社が成長していくことが荷主のF社にもプラスになる。安定供給と効率化につながるのである。