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第177回 事例で学ぶ現場改善:『化学品卸J社の改善活動「再」入門』

物流センターを自社運営している。管理者として正社員2人、直接雇用のパート・アルバイト約70人を投入している。生産性に問題があるのか、残業が常態化している。人手不足で補充もままならない。過去に何度か外部の専門家の指導を受け改善活動にも着手したが定着には至らなかった。


「ワーク」と「タスク」は違う

J社は年商約120億円の化学品卸である。約1万1千SKUを取り扱い、関東と関西、九州の計3カ所に物流拠点を配置している。3拠点とも庫内は自社運営で、輸配送だけ外部委託している。

今回のプロジェクトリーダーであり、われわれの窓口を務めたJ社のM氏いわく「過去に何度か改善を試みたことがあり、コンサルや3PL事業者を活用したこともある」。しかし、自社改善はことごとく頓挫した。コンサルや3PLの指導を受けても、現場スタッフは日常業務に追われて活動が定着しなかったという。

それを受けて筆者は「われわれも含めて外部の専門家はあくまでサポーターであり、改善は当事者が行わないと定着しない。まず倉庫管理者の意識と業務内容を明確にする必要がある」と伝えた。これにM氏も大きくうなずいたが、昨今の人手不足は改善活動に着手できない状況に拍車を掛けているという。

さて、どうするか。聞けばJ社は現在、センターを土曜日にも稼働させているが、平日より出荷量が少ないため、昼過ぎには業務を終えることができるという。そこで土曜日の午後を活動に充てることを提案した。再びM氏はうなずいた。

このようなやり取りを経て、プロジェクトがスタートした。まずは関西拠点が舞台である。いつものように現場の視察と関係者のヒアリングから着手するテーマを次のように絞り込んだ。いずれも「5S(整理・整頓・清掃・清潔・躾)」レベルの基本的な内容である。

①倉庫管理者の役割の明確化

②出荷頻度ABC分析に基づく作業生産性・作業品質の向上

③6つの「ない」の実践

④誰もが分かり、誰もができる現場づくり

⑤多能工スタッフの育成

⑥レイバーコントロール強化

⑦保管効率の向上

⑧庫内の照度アップ

⑨物流人事考課の刷新

①「倉庫管理者の仕事の明確化」は、「ワーク(作業)」と「タスク(業務)」の違いを、管理者にはっきりと認識させることが第一歩である。ワークは管理者ではなく、パート・アルバイトで対応できる。それを管理するのがタスクである。管理者はワークではなくタスクの対価として給与を得ている。そのことを忘れて、多くの管理者がワークに追われることで仕事をした気になっている。

管理者とパート・アルバイトでは、仕事の時間軸も異なる。パート・アルバイトはその日の終了時間が来れば、当然ながらそこで仕事は終わりである。一方、管理者の仕事は、次の繁忙期に備えた採用や人員調整など、月単位、シーズン単位で「時計」が進む。管理者は忙しいときほどパート・アルバイトにどのように動いてもらうかを考えて、現場に指示を与え、指導する必要がある。ところが実際には、忙しいときほど現場に入ってしまう管理者が多い。そのことを、まずは座学でしっかりと話し合い、確認したのであった(表1)。

②「出荷頻度ABC分析に基づく作業生産性・作業品質の向上」は、今や現場改善の定番である。J社の現場は商品在庫があちこちに散在し、通路にも商品が置かれて、必要な動線も確保できない状態だった。商品の出荷傾向を十分に考慮せずにロケーションしていることが明らかであった。

アイテム別の日々の出荷実績データを用意して分析する作業にはやや時間を要したが、これによって保管ロケーションは大きく様変わりし、1500ミリメートルの通路(ラックとラックの間)を確保することに成功した。作業員が新たなロケーションに慣れてくるのに伴い人時生産性は向上していった。現状で改善前と比べて約10%向上している。それだけ作業の終了時間が早くなった。

③「6つの『ない』の実践」とは、庫内作業員に「持たせない/書かせない/歩かせない/待たせない/考えさせない/探させない」ことを意味している。そのために、ロケーション番号を作り直して文字を大きく見やすくした。加えて作成と拡大、「ゾーン」や「レーン」などの掲示物の作成、ピッキング時の台車の使用などを推し進めた。いずれも基本的なことだが、J社の現場では整備されていなかった。

④「誰もが分かり、誰もができる現場づくり」は、いささか抽象的な表現であるため、対象者が「初心者」「外国人労働者」「高齢者」の3つであることを明確にしてから、具体的な事項を落とし込んでいった。

倉庫は庫内スタッフだけで運営しているわけではない。例えば「高齢者」には、倉庫に納品や集荷に来る外部のドライバーも含まれている。ドライバーは年々高齢化が進んで今や70歳以上も珍しくない。そこで高齢者でも見やすいように庫内表示の文字や数字を大きくするなど、彼らにとって「分かりやすい」「作業しやすい」現場にすることが重要である。

⑤「多能工スタッフの育成」は少数精鋭化が狙いである。関西拠点は約70人のパート・アルバイトを雇用しているが、それぞれ受け持ちが固定化されていた。フロアが多層階に分かれており、全体を見ることができる環境が整っていなかったのも一因だが、何より、管理者にスタッフを戦力化しようという強い意志がなかった。

パート・アルバイトに新しい仕事を教えることにした。自分の持ち場の前工程と後工程、計3つの仕事を覚えてもらう。それによって初年度は10人のスタッフを多能工化する計画だ。庫内作業員の多能工化は人手不足対策として昨今は避けて通れない施策である。J社の管理者たちもそのことをよく理解して熱心に指導をしており、既にスタッフ3人の多能工化に成功している。

 

7人の「パートリーダー」を設置

⑥「レイバーコントロール強化」も「パートリーダー」の設置が肝であった(表2)。J社はクラウド型のWMSを導入しており、そのオプション機能を使ってレイバーコントロールにも着手していた。しかし、「人員管理表」と「1人当たり作業生産性」を算出しているだけで改善の余地が大きかった。

1人当たり生産性を物量別、時間帯別、作業内容別に分析した。その結果、課題がどこにあるのかは明らかになった。しかし、関西拠点はパート・アルバイト70人に対して管理者が2人しかいない。指導側の人員が不足していた。そこで新たに「パートによる、パートのための、パートの仕事」をスローガンに掲げ、7人のパートリーダーを設置した。パート10人につき1人のリーダーを置く形だ。

一般的には7:1(7人につき1人)の比率でリーダーを置くのが目安とされているが、筆者の経験では、現場の事情に合わせて5~10人に1人の幅で調整することができる。J社の場合、その上限に当たるが、リーダーの資質に目をつぶって無理に頭数をそろえるよりもベターと判断した。

⑦「保管効率の向上」のため、パレット貨物を多段積みする「ネステナー」を8基投入した。従来は最大で2段積みだったので格段にスペースに余裕ができた上、何より安全性が高まった。軽量ラック12台も投入して、散在していた商品を格納した。

⑧「庫内の照度アップ」は必須だった。関西拠点のみならず、関東、九州とも庫内が薄暗かった。水銀灯のみで補助照明を付けていないフロア、蛍光灯はあるものの保管している商品の上に電気回線が通っていて、手許が影になってしまっているエリアなどが散見された。原因が明確な場合は保管の位置を変えるなど、あまり費用を掛けることなく対応して、最低250ルクスを目安に照度を向上した。

これら①~⑧の施策を受けて、⑨「物流管理者の人事考課」を、「管理」と「改善」に照準を絞り刷新した。J社では今回の関西倉庫をモデルに、これから関東と九州に活動を横展開していく計画だ。J社に限らず荷主企業による自社運営の現場は、ルールや基準がないために何が問題なのかさえ分かっていないことが多い。その恐れがある場合には、まずは基本に立ち返ることである。