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《特別編》 事例で学ぶ現場改善 :『 事例で学ぶ運送各社の値上げ交渉』

昨年10月から年末にかけてヤマト運輸の値上げに続いて運送各社が一斉に動いた。しかし、強硬姿勢が目立つのは宅配大手に限られる。特積み大手の西濃運輸、福山通運は、主要荷主に対しては柔軟な対応を取っている。中堅以下はさらに慎重で、値上げ幅も抑制している。

報道と実態にギャップ

昨年来の値上げ交渉で、ヤマト運輸は法人顧客の4割と取引を打ち切ったという。他の大手運送会社も10%以上の値上げに踏み切ったというニュースが新聞紙上で伝えられている。しかし、筆者の耳に入ってくる話は、報道とはかなりのギャップがある。

値上げはヤマトが突出している印象で、次に佐川急便が強硬姿勢を取っている。日本通運はもともとタリフが高い。価格に敏感な荷主はそもそも日通を使わない。外資系や売上高物流コスト比率の低い荷主が、相見積もりも取らないまま、日通に配送を丸投げしているケースがよく見受けられる。

特積み大手の西濃運輸、福山通運のアプローチは、ヤマト・佐川や日通とはかなり違っている。ボリュームの小さな荷主には確かに報道されている通りの値上げを適用している。しかし、物量のある荷主や長年の安定荷主に同じ金額をぶつけるようなことはしていない。

中堅以下の特積みや一般運送ともなると、大手の交渉が一段落したタイミングを見計らって5%程度の値上げを恐る恐るお願いしているというのが現状だ。以下、筆者がクライアントや関係者からヒアリングした運送各社の値上げ交渉の状況を報告する。

ヤマト運輸──「ネコポス」の値下げで調整

従来、ヤマトは運賃交渉で各営業所にかなりの裁量権を与えていたが、今回は本社主導が強烈で取り付く島がない。ただし、全国一律料金で翌日ポストに投函する〝投げ込み宅配〟の「ネコポス」に関しては、これまで1個260~270円だったのを220~240円に下げてもらったという報告がいくつか届いている。

「宅急便」を値上げする代わりに、ネコポスの料金を引き下げることで多少なりとも相殺して、荷主との関係を修復する材料に使っているようだ。ネコポスは再配達が不要でサイズも小さいため物量が増えてもキャパシティーに大きな影響を与えない。他のサービスからネコポスに誘導する狙いもあるのだろう。

佐川急便──荷物を選び採算重視を継続

中部地区の組立家具メーカーA社は、BtoCの全国配達に佐川急便、BtoBに中堅特積みD社を使っている。佐川急便からは30%の値上げを要請されている。佐川が260サイズを超える大型貨物の宅配から手を引こうとしているのは、2013年のいわゆる〝佐川ショック〟以来のこと。もはや驚くには当たらない。これまで値上げしきれていなかった部分を詰めているということだろう。

一方、中堅特積みD社は、昨年10月にようやく10%の値上げを要請してきた。それも怖々と出してきたという印象だ。D社は以前から輸送品質の問題を指摘されており、あまり強く出て他社に乗り替えられることを恐れているようだ。しかし、A社は値上げを受け入れた。他に選択肢がなかったからだ。他の特積みは営業所がA社から離れているため集荷に来てくれない。荷主が運送会社を選ぶだけでなく、今や運送会社も場所で荷主を選ぶようになってきた。

西濃運輸──タリフを上げて割引率拡大

西濃の値上げのやり方は少し変わっている。特積みの実勢運賃は現在「昭和60年タリフ(1985年に当時の運輸省=現国土交通省=が公示した標準料金表)」が下限であり「平成2年タリフ」が相場だが、西濃の場合、「平成6年タリフ」以上を適用しようとする傾向がある。

ただし、筆者がクライアント数社にヒアリングしたところ、運賃テーブル自体は上げても、実際に荷主から収受する運賃はタリフから大きく割り引き、実質的には5%以下の値上げに抑えているという。タリフは上がったが、支払運賃は従来とほぼ変わらないという荷主さえいた。営業所はタリフを上げることで本社の値上げ指令に応じる姿勢を見せる一方、大事な荷主に対しては割引率を拡大することで客離れを防ぐという苦肉の策に出ているようだ。

福山通運──現場に裁量権を残す

福通も本社主導の価格統制は行っているが、営業所レベルで多少の調整には応じている。年商約300億円の資材卸のF社は全国に3拠点を配置し、足回りは全国的に福通をずっと使ってきた。ただし、近年は地元の新興3PLを元請けに挟んでいる。昨年、福通から値上げ要請を受けたが、値上げ率は限定的であり、今のところ3PLが吸収している。

ただし、3PLも祝祭日を挟んだ出荷はケース1箱当たり300円の値上げがどうしても避けられないと音を上げている。特積みの最小運賃(10キログラム以下・50キロメートル以内)の1箱当たり単価を約400円とするとかなり値上げ幅だが、土日を除く祝祭日だけなので影響は知れている。

3PL──本社主導でコスト増を転嫁

3PLは相手を見て交渉に臨んでいる。業務用卸F社はボリュームディスカウントを狙って関東2カ所、関西1カ所の計3カ所の拠点運営と配送を、中堅3PLのG社1社に数年前に集約した。その結果、トータルコストは削減された。通過金額ベースの料率制料金にすることでコストの変動費化も実現した。

ところが今回はそれが裏目に出た。昨年末、人件費や傭車費の値上がりを理由にG社から15%の値上げを要請された。拠点別に契約を結んでいるG社グループの各地の地域子会社がそれぞれ申し入れてきたものだが、値上げ幅は全国一律で、実質的な交渉相手はG社の本社だった。

F社は強硬に抵抗したが、急に委託先を変えるわけにもいかない。「ノー」とはいえない状況に置かれていることに今さらながら気付かされた。G社は元請けとして十分な役割を果たしているとはいえなかった。拠点運営は下請けに丸投げ、配送もほとんど傭車だった。そんなG社に丸投げした荷主が悪いといえばその通りで、1社独占にしたのはやはり失敗だった。

G社にとってもF社の仕事は恐らく利幅の薄い商売だろう。そのため、値上げを認めてもらえなければ契約の打ち切りもあり得るという脅し文句を、F社は簡単にはねのけるわけにはいかなかった。交渉の末、F社は10%近い値上げを受け入れた。今年1月から新料金を適用している。G社としては当初の15%から引き下げることでF社の顔は立てたが、狙い通りの結果だろう。

 

4月以降もヤマトの動きに注目

以上のように昨年10月から年末にかけて、ヤマトや佐川の動きに便乗する形で物流各社が一斉に値上げに動いた。結果として今年1月から新料金が適用されている。そのために今年4月からの新年度に向けた値上げの動きは今のところあまり見られない。4月以降の運賃動向も鍵を握るのはやはりヤマトだ。ヤマトが再び値上げに動けば他社も続くだろう。

当面、運賃が下落に転じることは考えにくい。むしろ実勢運賃は長年にわたり極端な安価に抑えられてきただけであり、今の水準が適正価格と覚悟するべきだろう。少子高齢化、人手不足という問題に有効な解決策はなく、ドライバーが増えることは期待できない。従って荷主は現状の運賃を前提にして、必要な場合にはビジネスモデルの修正を検討する必要が出てくる。

ただし、筆者から見れば荷主の多くは、運賃や人件費などの単価の上昇によるコストアップと、仕組みの非効率性によるコスト増を整理できずに混同している。単価を下げることはできないが、仕組みに目を向ければコスト削減の余地はいくらでも残されている。

例えば拠点の立地だ。坪単価の安い土地を選んだ結果として、運送会社の営業所から距離があるために運賃が高くつく、集荷の締め時間が前倒しになる、後背地に人手が足りず庫内作業員が集まらないといった事態を招いているケースがある。多少坪単価は高くてもアクセスに優れた立地に移ることでトータルコストはむしろ下がる可能性がある。サービスレベルも上がる。締め時間が伸びるだけでなく自社便で特積みの基幹店に荷物を持ち込めば午前0時まで翌日出荷で対応してもらえる。「営業所止め」も選択肢になってくる。あらゆる手を尽くして飽くことなく改革、改善に取り組むほかない。