Top > 雑誌寄稿 > 第178回 事例で学ぶ現場改善:『物流会社Y社の計数管理プロジェクト』

第178回 事例で学ぶ現場改善:『物流会社Y社の計数管理プロジェクト』

異業種から転じて物流会社を立ち上げた社長が、理系出身を生かして独自に考案した「物流KPI」で差別化を図り、事業を軌道に乗せた。しかし、自己流が果たして本当に正しいのか、今になって不安を覚えた。物流コンサルタントの支援を受け、計数管理のノウハウをブラッシュアップすることにした。

脱サラ技術者が地場運送に参入

Y社は年商約10億円の物流会社だ。地方の中核都市に本社を置き、エリア配送をメーンにしている。保有車両台数は28台。1千坪規模の倉庫2棟も賃借している。全国への配送は各エリアの物流会社と提携を結び、お互いに再委託し合うネットワークを構築している。しかし、このネットワークはあまりうまく機能しておらず、実際には路線会社(特積み会社)に頼らざるを得ないことがしばしばある。Y社を創業したT社長の悩みの一つである。

T社長は30年ほど前に“脱サラ”でY社を立ち上げた。それまで大手メーカーに技術者として勤務していたが、全社的な物流改善を行うプロジェクトのメンバーを経験したことがきっかけとなって、本人曰く「ミイラ取りがミイラになった」──。

T社長は他社との差別化を図るために独学で日夜、物流業界を研究した。その結果、「提案力」こそがY社の武器になる、他社は十分な能力を持っていないと判断し、技術畑出身というキャリアを生かして数値に基づく提案力を磨いていった。

今でいう「物流KPI」に基づく管理を、市の周辺に物流拠点を構える大手メーカーなどに提案した。T社長のアプローチは、物流会社の“丼勘定”に慣れた荷主をあっと驚かせるものだった。順調に有力荷主との直接契約を勝ち取り、ほどなくして事業を軌道に乗せた。それ以降、Y社は安定した経営を続けている。

しかし、ここにきて一抹の不安がT社長の頭をよぎった。今まで自分なりに考えて理論を構築し、数値管理を行ってきたが、これは物流のスタンダードに照らせば“邪道”なのかもしれない。ひょっとすると独り善がりな提案になっているのではないか‥‥と。

そんな相談を受けて、筆者はT社長と共にY社の計数管理の見直しプロジェクトに着手した。物流データに関わるテーマを整理して、それぞれ現状の評価と改善、現場への落とし込みに取り組んだ。その一部ではあるが、今回は次の6つのテーマについて紹介しよう。

①運送原価算出

②トータル物流コスト算出表の活用

③出荷頻度ABC分析によるロケーション、レイアウトの見直し

④イレギュラー業務の分析

⑤着地点分析

⑥物流KPIの活用

①「運送原価算出」では(表参照)、原価項目の大枠に問題はなかったものの、「タイヤチューブ費」の算出方法に難点があった。何キロメートルまでタイヤを使用することができるのかが〝丼勘定〟になっていた。タイヤの消耗は車両の使用状況次第で大きく違ってくる。Y社の過去の実績をあらためて調べ直すことにした。

さらに減価項目の「燃料費」を省エネ運転の徹底に利用することにした。営業所でドライバー点呼を行うスペースの壁面に、月別の「ドライバー別燃費ランキング」を貼り出した。至って単純な取り組みだが、効果は抜群だった。ドライバーの燃費意識が著しく向上し、燃料費が目に見えて削減された。燃費管理が徹底されると車両事故も激減するものだ。実際、Y社ではプロジェクトが終了してから12カ月間にわたって重大事故ゼロが続いている。

出荷頻度の計算に問題発覚

②「トータル物流コスト算出表の活用」は、経済産業省が旧通商産業省時代の1990年代に策定した「物流コスト算定マニュアル」をベースにしている。同マニュアルに示された管理項目に荷主各社の「在庫回転率」「季節波動(指数)」「支払物流費比率」などを加えて、改善提案の資料を作成した。

具体的には、作業エリア別のコストの内訳を明示したトータル物流コストを荷主別に算出。さらにその荷主が倉庫に保管している在庫のアイテム別回転率を示すことで、デッドストック、滞留在庫の状況を報告して、荷主にそれぞれ提出し、改善を促した。

③「出荷頻度ABC分析によるロケーション、レイアウトの見直し」では、出荷頻度の計算方法に問題が見つかった。Y社では以前からABC分析を行っていたが、各アイテムの出荷個数を基に出荷頻度を計算していた。正しくは、アイテム別の受注データの行数、つまり「データ行数」(レコード数と呼ぶ場合もある)でなければならない。

出荷個数は庫内作業の「タッチ数」を必ずしも反映しない。複数ピースあるいは複数ケースの注文は通常、まとめてピッキングするからである。そのため庫内作業の改善を目的とした出荷頻度ABC分析に、個数をベースに計算するのは適切ではなく、データ行数を用いるべきなのである。

データ行数ベースで集計をやり直してみたところ、非常によく出荷されるSAランクやAランクのアイテムと、ほとんど出荷がないDクラスのアイテムでは、出荷頻度の開きが従来の計算よりずっと大きいことが分かった。この結果を反映して、SAランクとAランクに使用する軽量ラックと仮置きゾーンの面積を増やし、その分だけDランクのスペースを圧縮・縮小した。

 

物流KPIをリニューアル

④「イレギュラー業務の分析」はイレギュラーを明確に定義することがポイントである。われわれ日本ロジファクトリー(NLF)では、物流コストを押し上げる三大要因を「ハンドリング(H)」「波動(H)」「イレギュラー(I)」の「HHI」と総称している。イレギュラー業務は多くの現場でレギュラー化している。Y社の場合も、受注締め切り時間後の追加出荷が当たり前になっていた。

どの荷主の現場も契約初年度を過ぎて2年目の後半当たりに入ると、契約時とは異なる作業を行うようになる。多くの場合、作業項目が増えている。しかし、契約書の内容がそもそも作業員はもちろん、現場のリーダークラスにも知らされていないので、イレギュラーに気が付かない。

先日、筆者がある会社の研修で「今、対応している業務の契約書を見たことがあるか」と質問したところ、「見たことがある」と手を上げた者は皆無であった。少なくとも現場リーダーレベルには契約書の内容をきちんと伝えておくべきである。

⑤「着地点分析」は通常、拠点の最適な立地を判断するために新規案件の提案や運用を開始するときに行うものである。Y社のように自社配送エリアや拠点の立地が固定されている場合には縁の薄いテクニックだが、同じロジックを使って配送コースを分析することもできる。

そこで各荷主の対象エリアの納品データを基に最適ルートを分析する手法を整理して、“地場”の強みを生かした提案を行うことができる体制を整えた。

⑥「物流KPIの活用」は、Y社の強みをさらに強化する取り組みである。前述の通りY社は物流KPIを武器にしてきた。しかし、実際の提案書の内容を確認すると、そこにはまだ改善の余地があった。

Y社がこれまで使ってきたKPIのラインアップは「品質」に偏っていた。これに「生産性(人時)」や先の「HHI」の一つである「イレギュラー」、「在庫回転率」などの項目を加えて提案の幅を拡げた。

またY社の倉庫にはWMSが導入されており、作業品質が高いことも売りの一つになるはずであった。しかし、その良さをKPIで十分にPRできていなかった。そこで「在庫差異率」のKPIに「金額差異」だけでなく「アイテム数差異」を加えた。同様に従来の「誤出荷率」と並列の「誤出庫率」を設定した。

こうしてY社はこれまで培ってきた計数管理ノウハウをリニューアルした。現在はT社長が次なる課題とする、全国対応に向けた配送ネットワークの再構築と、T社長の右腕となるナンバーツーの育成に歩を進めたところである。

周知の通り、物流業界にはいまだに“丼勘定”が横行しているのは事実である。物流には基準や目安が存在せず、現場のルールは曖昧でマニュアルも整備されていない──そんな非難の声を筆者は何度も耳にしてきた。

しかし、詳細に見ていくと多くの現場で、実は「それらしきもの」を見つけることはできるのである。明確に体系化されていないだけなのだ。経営者にやる気と行動力さえあれば“邪道”や〝丼勘定〟を脱することは、そう難しくはない。