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第179回 事例で学ぶ現場改善:『雑貨メーカーN社の物流パートナー選定』

業績好調で物量が増加している。しかし、設立から間もない時期に契約した物流業務の委託先が事業の成長に付いてこられない。倉庫運営は安定せず、作業品質やサービスレベルの悪化が目立っている。その上、10%の値上げを要請してきた。物流パートナーの見直しが必要だった。

倉庫会社の担当窓口が次々退職

N社は設立から約6年の生活雑貨メーカーだ。ペット関連用品を中心に約3800アイテムを取り扱っている。年商はまだ約30億円という規模ながら、販路とペットブームに恵まれて急成長を遂げている。生産拠点は中国、ベトナム、タイに1カ所ずつと国内2カ所の計5カ所に置いている。物流拠点は関東の1カ所から主に路線便(特別積合せ貨物)を使って全国に供給している。得意先の大半は大手雑貨卸である。

創業時はマンションの一室で自社物流を行っていたが、設立2年目には自分たちの手には負えない量になり、地元に営業倉庫を持つ地場物流会社A社に業務を委託した。その後もN社の物量は増え続けた。それに伴い支払物流費も増えていった。また、それ以上に問題だったのが運営の“ちぐはぐさ”が目立つようになったことだという。このままではいずれ出荷もままならない状況に陥るかもしれないと、N社のP社長と物流担当のR氏は心配になり、われわれ日本ロジファクトリー(NLF)に相談を持ち掛けたのであった。

まずは、運営の“ちぐはぐさ”とは何を指しているのか、NLFで対応できるテーマなのか、詳細を確かめる必要があった。N社は少数精鋭が強みとのことで、確かに物流担当のR氏は、調達を含めたN社のサプライチェーンと自社のシステムについてよく理解していた。R氏によると、N社が物流パートナーの見直しに動くことになった直接の引き金は、最近要請された10%の値上げであり、また“ちぐはぐさ”とはA社側の窓口となる担当者に退職が相次ぎ、業務が安定しないことを指していた。

実際この1年半足らずの間に3回も担当者の変更があったという。しかも、そのたびにA社側では社内で引き継ぎができず、R氏がA社の新任担当者に一から全てを教えなければならなかった。さすがにN社側でもこれを問題視していたが、事業の成長スピードが速かったために、物流パートナーを見直すタイミングを逸してしまってきたのであった。

N社は最初にA社を物流パートナーに決めた際に、拡張性を考慮に入れていなかった。しかるべき選考プロセスも採用していなかった。基本的なミスである。とはいえ、今になってそれを指摘したところで前には進まない。そこであらためてN社の物流の現状と当面の事業計画に見合った物流パートナーを選び直すことになった。その具体的な実施項目を次の7つに整理した。

①「提案依頼書」の作成

②「物流コンペ開催要項」の作成

③  物流パートナー候補のリストアップ

④「物流事業者評価表」の作成

⑤「SLA」の作成

⑥  作業マニュアルの作成

⑦「納品カルテ」の作成

①「提案依頼書(RFP=Request For Proposal)」と②「物流コンペ開催要項」は、物流コンペでは必須となる資料である。まずRFPをまとめた上で、次に物流コンペ開催要項を作成するという手順になる。

RFPでは、N社が求める「物流スペック」「業務内容」「サービスレベル」を定義する。また、提案の基礎情報として必要な現状の物流品質(KPIレベル)、物量、季節指数(波動)などのデータをそろえ、全体の業務フローの説明資料を作成する。一方、物流コンペ開催要項はRFPの内容に開催スケジュールや決定までのスケジュール、選考基準、提案形式など、コンペの実施計画を加えたものである。

N社のP社長およびR氏は、要点を短期間で絞り込み、コンペに要する期間と手間を抑えたいとのことであった。そこでRFPの作成と並行して、N社とNLFの双方で③「物流パートナー候補のリストアップ」を進めて、めぼしい物流会社には随時、一本釣りでアプローチしていくことにした。

 

路線会社がセンター運営に興味

物流担当のR氏は今回のコンペを通じて、何とか路線便運賃の上昇を抑えたいと考えていた。そんな折、われわれNLFの元に路線会社のS運輸から広告DMが届いた。早速、連絡を入れてみることにした。

既に広く知られている通り、ヤマト運輸と佐川急便は昨年来、大幅な値上げを実施し、荷物と荷主を選ぶようになっている。それに対して他の路線会社は大手も含め、宅配大手からはじき出された荷主の刈り取りに積極的に動いている。とりわけセンター運営の仕事に各社は力を入れている。

狙い通りS運輸との話し合いは上々であった。N社の物流の概要を伝えたところ、場所、規模、パートナーを変更する理由など、条件的には申し分ないとのことで、コンペへの参加を約束してくれた。一方、N社側からのリストアップは皆無に近い状況であったため、NLFがリストアップした候補各社の概要をP社長とR氏に詳しく説明し、条件に合った物流企業にそれぞれコンペへの参加を促した。

④「物流事業者評価表」は、本連載で過去に何度か紹介しているが、候補企業の採点表である。N社はA社を選ぶ際に、これを活用しなかったため後から苦戦を強いられることとなった。候補企業の現場運営能力は、現場見学による「5S」のチェックや社員の定着率を確認することなどによって、自前にある程度は把握できるものである。

⑤「SLA(サービス・レベル・アグリーメント)」も今では常識といえる。N社とA社との契約にはサービスレベルに関する取り決めがなかった。出荷精度を示す「在庫差異率」の基準値も設定されておらず、棚卸しの頻度や方法についても丸投げだった。その結果、システム上はあるはずの在庫がない、そのために出荷できないという事態が日々発生していた。

その反省を基に今回のコンペでは、在庫金額の差異率とアイテム数の差異率をそれぞれ0・001%に設定した。棚卸しは毎日実施するが、全ての在庫を毎回チェックするのではなく、庫内をエリアや出荷頻度ランクで区分して、一定のサイクルで順番に棚卸しする「循環棚卸し」で良いことにした。

0・001%という精度は高過ぎると感じる読者もいるかもしれない。しかし、N社のWMSとバーコード・ハンディー・ターミナルの使用を前提として、循環棚卸しとはいえデイリーで在庫を確認することから、現場運営に優れた物流パートナーであれば十分に達成可能なレベルと判断した。

また、その他のKPIとして、実在庫の問い合わせやトラブル対応の「回答期限」を12時間以内と定めた。これもまた、A社に対して、“どうなっているか”と問い合わせをしても、なかなか返答がなく、どれだけ待てば返答が来るのかも分からないため、顧客に迷惑を掛けることが多かったことへの反省からである。

 

引き継ぎ時の重要ツール

⑥「作業マニュアル」と⑦「納品カルテ」は、いずれも業務委託先を変更する際には特に重要なツールである。それなしに運営を丸投げしている状態で委託先を変更すると、オペレーションをまたゼロから新規のパートナーと一緒につくり上げなければならなくなる。これをわれわれは“スイッチングリスク”と位置付けて重点管理を行うようにしている。

<「納品カルテ」でドライバーをサポート(イメージ、再掲)>

庫内作業の方法は現場によってそれぞれ違う。同じピッキング作業でもトータルピッキングしてからオーダーピッキングを行うところもあれば、オーダーピッキングだけで回しているところもある。ロケーション番号を棚上に付けるか、棚下に付けるか、パレット積みしているケースは右取りか左取りかなど、細かく見れば百社百様である。全くルールのない現場もある。結局のところ仕事に人が付いているのではなく、人に仕事が付いているのが多くの現場の実情である。

各納品先の情報、いわゆる“庭先条件”をそれぞれ1枚のカードに整理した「納品カルテ」も同じである。顧客との取引条件を自社管理するのは当たり前だろう。しかし、実際には多くの荷主が庭先条件の把握と管理を現場のドライバーに丸投げしている。

納品カルテは配車管理とも密接な関係がある。運賃の高騰やドライバー不足の深刻化で、輸配送の自社化を検討しなければならない荷主が増えている。しかし、納品先の庭先条件を正確に把握していない限り、配送ルートさえ組めない。納品カルテはドライバーの変更による引き継ぎに利用するため普段から用意しておくべきものだが、多くの荷主がそうせず「しまった!」と後悔している。

さて、N社の物流コンペは結局、3社が最終候補となり、先のS運輸が受注することになった。S運輸はセンターの立ち上げを専門とする部隊を投入して大きな混乱なく現場の移管を済ませた。路線便の値上げも約5%に収まった。現在、N社は次なるテーマとして、海外生産拠点から日本への海上コンテナ輸送の見直しによる調達リードタイムの短縮と、それによる在庫の圧縮を検討しているところである。