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第180回 事例で学ぶ現場改善:『アパレル物流子会社の生産性向上』

倒産の危機にあった物流会社を買収・子会社化した。それから約10年。親会社の同業者を対象に外販を獲得し、物流を共同化することには成功した。しかし、業績は赤字続き。その理由も判然としない。親会社の社長は物流コンサルティング会社に現状の診断と改善支援を依頼することにした。

経営の行き詰まった物流会社を買収

A社は年商約30億円の中堅アパレルメーカーだ。海外工場で自社製品を生産する一方、国内メーカーから仕入れ販売も行っている。物流に関しては倒産しかけていた物流会社を10年ほど前に買収・子会社化し、社名も変更して運営を任せている。

その物流子会社B社は、比較的短期間でA社と同じアパレル業界における外部荷主の獲得に成功して、A社と外部荷主による共同納品(配送)インフラを構築した。しかし、「現場は忙しくしているものの、利益が出ない。赤字続きだ」とA社のS社長は頭を抱えていた。

B社は、土地は賃借ながら関東と関西にそれぞれ自社拠点を構え、さらに関東には外部倉庫を1カ所借りている。S社長はB社の財務資料は税理士と共にチェックしているが、事業の詳細についてはほとんど把握していなかった。そもそも物流は門外漢であり、運営は丸投げに近かった。

S社長の意向を受けてB社の改善を進めていくことになった。筆者を含めわれわれ日本ロジファクトリー(NLF)のスタッフがすぐに現場調査を実施して、数日後に次のような改善項目を挙げた。

①適正料金授受

②トータル物流コストの検証

③スタッフの多能工化

④レイバーコントロールの実施

⑤物流KPIの導入

⑥誰もが分かり、誰もができる現場づくり

⑦「8つのない」の実施

⑧マテハン・保管方法の見直し

⑨人事考課制度の導入

⑩拠点集約とワンフロア化

アパレル品の庫内作業には、検品、タグ付け、補修加工などさまざまな工程があるため、工程別にコストを管理することが特に重要だ。ところがB社は車両原価も含めて“丼勘定”であり、収益管理の基本ができていなかった。①「適正料金授受」は、まずその前提として原価を把握する必要があった。

NLFのスタッフが各工程のワークサンプリングを行い、標準原価を算出した。その結果、外販荷主約30社のうち6割の仕事が現状のままでは赤字であることが分かった。また、そのうち8割は適正とは言いがたい低料金で仕事を受けていた。親会社A社のしがらみなどもあって、外販先への値上げをほとんど実施してこなかったのである。

②「トータル物流コストの検証」では、B社のセンターのトータルコストを、NLFのデータベースに蓄積された同業種の他社センターと比較した。B社のセンターの「全経費対人件費比率」は、平均よりも10ポイント近く高かった。投入している人員が必要以上に多いことに加え、正社員比率も高かった。

そこで勤務シフトに「午前8時スタート」「9時スタート」「10時スタート」の3パターンを設けることにした。一斉出勤を時差出勤に変更し、人余りによる“手待ち”を解消した。また人件費が高いのは、買収前からの役員や古株の事務スタッフが高齢化していることも一因だった。これはS社長自らがメスを入れることになった。

並行して③「スタッフの多能工化」を進めた。B社のベテラン作業員は縄張り意識が強く、「私の仕事はこれ」と決め付けているところがあった。その風潮がパートを含めたセンター全体に蔓延していた。そのため作業の進捗を見て、遅れている工程、忙しい工程へ応援に行かせるということがほとんどできていなかった。

悪習慣を打破するため、まずは入社2年目までのスタッフと今後の新規採用者を対象に、1人で3つのポジションをこなせるよう教育することにした。各工程にそれぞれ1人は多能工スタッフを配置することを狙った。

現場の抵抗も覚悟していたが、前工程、後工程の作業に携わることが「面白い」との声が上がったり、「やりがいが出てきた」というスタッフが現れたりと、予想以上に感触は良い。多能工を定着させることで最終的には少数精鋭化を図りたいところである。

 

仕組みの定着は道半ば

④「レイバーコントロールの実施」で今回ターゲットに据えたのはパートタイマーである。

これまでも本連載で再三指摘していることだが、センター運営は詰まるところ“人繰り”であり、運営の90%は人繰りで決まる。そのために現場のリーダーや管理者は、どの工程に何人必要なのかを判断するだけでなく、個々のパートの作業習熟度やコミュケーション能力、働く動機、たくさん稼ぎたいのか、それとも非課税枠内に抑えたいのか、残業など多少の無理はお願いできるかといった情報も把握しておかなくてはならない。

そしてパートたちの能力と頑張りを適正に評価するためにも⑤「物流KPI(Key Performance Indicator=重要業績評価指標)の導入」が必要であった。それまでB社には作業スピードや作業品質の目安がなかった。当然ながら可視化もされていなかった。

KPI算出の業務負荷をできる限り抑えるため、次の5つのカテゴリーについて、それぞれ1つだけKPIを設定することにした。

(1)作業生産性=1人当たり1時間当たり作業行数(格納、ピッキング、検品、梱包などの作業内容別に算出する)

(2)作業品質=誤出荷率(週間)

(3)保管効率=坪当たり平均保管ケース数(週間)

(4)イレギュラー業務=受注締め切り時間外出荷対応件数(週間)

(5)配送生産性=貸し切り車両の1日当たり平均回転率

⑥「誰もが分かり、誰もができる現場づくり」もNLFで定番としている改善項目である。初心者、外国人労働者、高齢者でもすぐに働ける現場の仕組みをつくり上げて、“人に仕事が就く”状態を“仕事に人が就く”ように変えなければならない。

具体的には、ロケーション番号による棚位置の表示、掲示物や表示物の拡大化による視認性向上、作業手順の明確化と統一、庫内照度の適正化(250ルクス以上)、外国人労働者に対する「注意事項」の母国語表示などを実施した。

さらに、これもNLFでは定番の「6つのない(持たせない/書かせない/歩かせない/待たせない/考えさせない/探させない)」に「しゃがませない/拭かせない」の2つを加えた⑦「8つのない」を実施した。

「しゃがませない」では、商品を持ち上げたり降ろしたりするときに発生する屈伸運動をなくすため、パレットを積み上げて作業台として使うことで高さを確保し、しゃがまなくても作業できるようにした。また「拭かせない」は先入れ先出しを徹底することで、ほこりが付くまで商品を滞留させないことに主眼を置いた。

⑧「マテハン・保管方法の見直し」は保管効率の向上が狙いである。具体的には次を実施した。

(1)フォークリフト通路を3千ミリメートルに統一

(2)軽量、中量ラックゾーンの台車通路(相互通行)を1500ミリメートルに統一

(3)平積み禁止

(4)パレット貨物の段積み用「ネステナー」増設

(5)オリコンの保管段数を従来の2~3段から4段に

(6)ハンドリフト2台購入(パートが利用するのに適している)

(7)タグ付け作業エリアにクッションマットを投入

最後のクッションマットは、立ちっぱなしの作業が身体に与える負荷を軽減するものだが、スタッフから「作業が楽になった」「立っている負担が軽くなった」などの声が上がり、作業生産性の向上に寄与している。

 

新しい人事評価制度を導入

⑨「人事考課制度の導入」は、B社の買収前からの経営幹部の人物評価をしてほしいというS社長の依頼がきっかけであった。しかしNLFが評価しても一過性で終わってしまう上、それによってS社長に旧経営陣への思い込みができてしまう可能性があり、上策とはいえなかった。

それよりも、親会社としてA社は、物流子会社B社にどのような役割を期待しているのかを明確にする方が先決である。その役割に基づいてB社の職能等級制度と給与体系を設計し、客観的かつ公正な人事評価をする仕組みをつくらなくてはならない。いわば、B社のやるべきことを明確化するために、人事考課制度の導入に踏み切った。

今ではS社長も週に1度はB社に顔を出し、ランチミーティングなどを通してB社に対する期待を伝え、人心の掌握に努めるようになった。これにより親会社と子会社の溝が解消され、会社の垣根を越えたさらなる付加価値の創出、戦略的な人事政策が打ち出されることをわれわれは期待している。

最後の⑩「拠点集約とワンフロア化」は、B社の物流現場における抜本的問題である、作業生産性の向上と横持ち輸送のゼロ化を目的とした、最重要テーマといえる。そのため前述の①~⑨の施策と並行してずっと物件を探している。いくつか物件の視察も行ったが、現時点ではまだ有力候補は見つかっていない。

以上が今回のプロジェクトの概要だ。改善に向けた着手までは順調に進んだといえるだろう。しかし、新しい仕組みの定着には通常6カ月程度を要する。間もなくその6カ月目を迎えようとしている。そろそろ仕組みの定着と一連の改善の効果を評価すべき時期である。