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第181回 事例で学ぶ現場改善:『化学品U社のボトムアップ型現場改善』

自社運営の物流センターで膨大なアイテムを扱っている。サービスレベル重視のあまり過剰在庫になっていた。それにもかかわらず、欠品は決して少なくなかった。補充発注のやり方に問題があった。商品マスターの管理も不十分だった。在庫管理の仕組みをつくり直す必要があった。大変な手間が掛かることを覚悟しなければならなかった。

女性作業員全員がフォーク免許

U社は関東に本社を置く年商約120億円の化学品メーカーだ。中堅企業ながら生産拠点を日本の他に中国、インド、米国に配置し、グローバル展開している。取扱アイテム数は約3万5千。SKUだと約9万に上る。メーカーとしては極端に多い。顧客別のオーダーメード対応を売りにしているためである。

国内の物流拠点は関東と関西にそれぞれ1カ所の自社施設を所有している。このうち関西拠点は拡張工事を終えたばかりであり、次に関東拠点にメスを入れようというタイミングで、われわれ日本ロジファクトリー(NLF)に相談が持ち掛けられた。

関東拠点の取扱量が急増しているが、主だった社内スタッフが基幹システム「SAP」のバージョンアップに取られてしまっているため、外部の力を借りて物流改善を進めようという考えであった。

関東拠点は平屋建てのセンター2棟で構成し、危険物倉庫を併設している。U社の窓口を務めた物流部門M氏からの要望は、そのレイアウト、ロケーションの見直しを含め、入庫~出荷までのプロセスを最適化したいということだった。

U社の関東拠点は女性の戦力化が進んでいた。現場の女性スタッフのほぼ全員がフォークリフト免許を所有しており、手慣れた作業を披露してくれた。しかし、センター内は在庫が山積みで、在庫管理に改善の余地がありそうだということはすぐに察しが付いた。

M氏からのヒアリングと関東拠点の現場視察、そしてU社から提出された実績データを基に、われわれは仮説提案の段階で20を超える改善項目を提示した。そのうち検証を終えた次の7項目について今回ご紹介する。

①発注点管理の基準見直し

②スリーピングストックの基準設定

③ゾーニング、ロケーション、レイアウトの最適化

④〝ロケ番〟の設定

⑤掲示物、表示文字の視認性向上

⑥緩衝材の見直し

⑦自動倉庫の導入

①「発注点管理の基準見直し」は、もちろん在庫量の適正化が狙いである。U社の在庫が多い理由の一つは、輸出時に40フィートコンテナ単位に製品をまとめたいとの考えから、在庫のオーバーフローを当たり前としていたからであった。

しかも、取扱アイテム数が多いこともあって、商品の「大分類」で発注点の基準を設けていた。アイテム別管理ができていないことから全体の在庫量が膨らみ、欠品しないことを何より重視しているにもかかわらず、結果的には欠品が多く発生していた。

発注点の基準をアイテムごとに設定する必要があった。しかし、取扱アイテム数が3万5千ともなると、その事務作業は膨大である。そこでまずは出荷頻度の高い「S(特A)ランク」と「Aランク」のアイテムの発注点から算出し、次のステップで「Bランク」「Cランク」、最後に残り全アイテムと、段階的に進めていくしかなかった。

全てのアイテムの発注点を計算し終えるのにほぼ3カ月を要した。しかし、これによってようやく在庫管理の基本データが整備された。多くのアイテムで過剰在庫が判明した。出荷頻度上位2割で物量全体の8割を占める、いわゆる“パレートの法則”はU社にも当てはまった。

全3万5千アイテムのうち、アクティブな在庫は約1万にすぎず、残りの約1万は年に1度の出荷、それ以下の滞留品が約1万5千という内訳であった。ほとんど出荷のないアイテムが在庫増の原因になっていることが明確になった。

U社では3年たった在庫はデッドストックとして廃棄するという社内ルールを設けていた。しかし、実際には10年も保管されているものがあった。在庫廃棄の最終権限を持つ責任者が海外在駐ということもあり、廃棄の方法やタイミングの相談、申請が後回しになっていた。

 

ロケーション管理専任者を投入

さてどうすれば良いか。デッドストックを破棄するのは簡単だが、それでは損失が出るだけだ。デッドストックが発生しない仕組みを考案する必要がある。そこでデッドストック化する前、何らかの手が打てるタイミングで営業に滞留在庫を売りさばくようにアラームを発する仕組みづくりに取り組んだ。

営業にヒアリングしたところ、滞留在庫を売り切るには少なくとも1年、営業マンによっては1年半欲しいといのことであった。そこで滞留期間が1年6カ月を迎えた在庫を②「スリーピングストック(滞留在庫)」として定義して、毎月の営業会議にそのリストを提出するようにした。

このリストを基に営業は販売先を探し、必要な場合にはマークダウン(値下げ)しても売り切る。一方、物流部門でもリストと地域別の売れ行きを照らし合わせて、当該アイテムの販売が好調なエリアがあれば海外も含めて転送したり、再加工が可能なものは工場に返却したりと、在庫削減に取り組むことになった。

③「ゾーニング、ロケーション、レイアウトの最適化」とは、いわば作業動線の“清流化”である。センター全体をジオラマ模型に例えると、入荷口から注いだ水がぶつかり合うことなく、また特定の場所にとどまることもなく、出荷口から排出されるまでスムーズに流れていくように庫内を設計するのである。

作業員の歩く方向と棚の向きが垂直もしくは不自然であったり、袋小路のロケーションがあったりしてはならない。棚のラインが長過ぎても無駄が生じる。4スパンを目安に、通路(抜け道)を設けてショートカットさせるといい。そうした工夫の結果として作業員を“歩かせない”現場が実現する。作業生産性が高まる。

④「“ロケ番”」とは、日用品雑貨卸などで見られるロケーション管理専門担当者の通称である。3万5千アイテム、9万SKUを取り扱うU社には必要であった。他の仕事の片手間ではとてもそれだけの数の棚管理はできない。商品マスターの作成・整備が滞れば、ハンディー端末作業は止まってしまう。アイテムの入れ替えも常に発生する。そのため1人だけではあるが、専任担当者を投入した。

⑤「掲示物、表示文字の視認性向上」は、「誰もが分かり、誰もができる現場づくり」の基本である。本連載でも繰り返しお伝えしているが、いまだに多くの現場が合格レベルに達していない。管理者が自分の目線で判断しているからである。掲示物や表示の対象者はあくまでも(1)初心者(2)外国人労働者(3)高齢ドライバー――であり、普段から現場をよく見ている自分ではないことを理解してほしい。

 

過剰梱包問題で納品先にアンケート

⑥「緩衝材の見直し」は納品先の開梱作業の負担を軽減することが目的である。それまでU社では高価なエアパッキンを出荷梱包の全てに使用していた。梱包時のテープも「I字貼り」では不十分との判断から「H字貼り」して、かつ角面(エッジ)の2カ所に2度貼りを行っていた。筆者から見れば過剰梱包であった。

そこで営業に協力を仰ぎ、一部の顧客や代理店を対象に、梱包についてのアンケート調査を行った。実に95%の顧客から「過剰梱包」「ごみがたくさん出る」「開梱に手間が掛かる」といった意見が寄せられた。これも先の視認性の問題と同様、物流管理者の目線の置き方の問題である。顧客のために「より丁寧に破損のないように」と思う気持ちが、むしろやり過ぎと受け取られていたのである。

そこでエアパッキンの使用を本当に必要なものだけに限定し、H字貼り、エッジ貼りをやめることにした。その結果、緩衝材のコストが従来と比べて28%削減された。しかも、そこには梱包作業に掛かっていた人件費は含まれていない。作業の生産性も向上し、梱包ラインで商品が滞留することがほとんどなくなった。

⑦「自動倉庫の導入」は、マテハンメーカー各社との打ち合わせを重ねているが、今のところ二の足を踏んでいる。自動倉庫を導入すると当然ながら保管効率は向上するが、作業の生産性はどうしても低下してしまう。これと並行して定期的な品目の改廃、終売の実施などによるアイテム数自体の削減も検討していることから、まだ結論には至っていない。

この自動倉庫の件も含め、今回は現場からのボトムアップでスタートしたプロジェクトであった。そのために、コンサルの選定から改善テーマの設定、投資の承認など、各段階で社内調整に多くの時間と労力を要している。やはりボトムアップ型はトップダウン型と比べると改善スピードや全社的な協力体制の構築といった点で難しさがある。