Top > 雑誌寄稿 > 第182回 事例で学ぶ現場改善:『雑貨メーカーH社の庫内業務請負化』

第182回 事例で学ぶ現場改善:『雑貨メーカーH社の庫内業務請負化』

パート・アルバイトが集まらないエリアに物流拠点を構えている。派遣に頼って現場を回してきたが生産性が上がらない。ドライバー上がりの現場責任者が休日返上で作業に当たり、何とかしのいでいる状態だ。多品種少量化が進んで誤出荷も増えてきた。社内の力だけで問題を解決できるとはとても思えなかった。

 

人材派遣頼みの運営が限界に

H社は年商約40億円の雑貨メーカーだ。中国とタイで生産した製品を輸入して、国内の卸や専門店、量販店に販売している。物流は関東と関西の2カ所に在庫型拠点(DC)を配置している。関東の庫内作業は自社運営、関西は協力物流会社A社に輸配送まで含めて委託している。

今回われわれ日本ロジファクトリー(NLF)にコンサルティングを依頼してきたのは、H社のM社長自身であった。関東物流センターの現場視察もM社長が直々に案内してくれた。危機意識の表れであろう。物流を最適化する必要があるのは分かっているが、社内の人間だけでは限界があるのでサポートしてほしいという。

M社長いわく、専門店や量販店からの発注が多品種少量化して、現場作業が日を追うごとに煩雑になってきている。既存の仕組みが限界に来ているのは明らかで、誤出荷が増えている。現場では長時間労働が常態化しており、現場リーダーの休日出勤によって何とか破綻を回避している状態とのことであった。

われわれNLFは、現場視察とヒアリング、H社から提出された資料を基に、ヒト、モノ、カネ、情報の視点から最適化プランを策定した。今回も数十項目にわたる改革・改善テーマが抽出されたが、その中でも優先順位が高く、先に実行に移した次の10項目について説明する。

①派遣対応から業務請負への転換

②ワンフロア化

③出荷頻度ABC分析

④誰もが分かり、できる現場づくり

⑤ネステナーの増設

⑥現場責任者の管理業務特化

⑦物流KPIの導入

⑧不良在庫の圧縮

⑨空調管理の徹底

⑩レイバーコントロール

①「派遣対応から業務請負への転換」は作業生産性の向上と費用の変動費化が狙いである。H社の関東物流センターは関東圏の西部に位置している。現在、最も人が集まらないとされるエリアであり、外国人労働者の採用も進んでいる。同センターの責任者を務めるT氏は苦肉の策で人材派遣に頼った運営体制を取っていた。

派遣を使うこと自体は悪くはない。一部に使うのであればむしろ波動対応に有効なこともある。しかし、同センターのように労働力のほとんど、あるいは過半を派遣が占めるようになると、作業の習熟による生産性向上を期待できないという課題が出てくる。

そこで庫内作業を外注化する形で派遣を業務請負に切り替えることにした。ただし、スタートから3カ月は、時間給による派遣型で作業を掌握したいという請負会社からの要請は受け入れた。現在はその移行期間も過ぎ、切り替えから6カ月がたとうとしている。庫内作業コストの変動費化が実現し、生産性も後述する施策(⑦物流KPIの導入)の効果もあり、徐々に向上してきた。

路線会社の施設に拠点を移設

②「ワンフロア化」とは、今回の場合、拠点の移転を意味している。関東物流センターはH社の自社物件ではなく賃借であった。物量が増えるたびに継ぎ足しでスペースを拡張してきた。その結果として、同じ敷地内ながら4棟にフロアが分散していた。各棟の出入り口を通らないとフロア間を行き来できないことから、動線が長くなっていた。加えて、労務管理上の死角ができる、各棟に最低1人は常に配置しておかなければならないという問題があった。

そこで思い切って移転に踏み切った。旧センターから3キロメートルの距離にある路線会社(特積み)の大規模施設の一角が空いていた。その施設は路線便ターミナルも併設しているため、集荷の締め時間を後ろ倒しにできる。倉庫賃料としては旧センターよりも約5%高くなるが、それ以上のメリットがあると判断した。

この移転に併せて庫内作業をあらためて設計した。まずは取り扱いアイテムの③「出荷頻度ABC分析」を行い、その数値を基に通路と保管スペースの区分けを行い、庫内レイアウトとロケーションを作成した。

旧センターにはロケーションやレイアウトという概念自体が存在しなかった。“置ける所に置く”という状態であり、庫内のどこに何があるのかは、置いた人にしか分からない。そのため欠勤があるとすぐにオペレーションが混乱を来した。つまり、人に仕事が付いていた。これを「仕事に人が付く」形に変えなければならない。

そのために各ゾーンとエリアの名称を決定して掲示物を表示した。どこに何があるのか、情報をビジュアル化して、SKUごとのロケーション番号を明記したマジックプレートを貼り付けていった。④「誰もが分かり、できる現場づくり」である。

殺風景なセンターがこれらのビジュアル化によって人が仕事をするのにふさわしい、血の通った現場になった。次のステップでは出荷頻度ABC分析の結果と保管棚の段やコマまでをマッチさせてロケーションの精度を高めていく計画だ。

このロケーション作成の一環で⑤「ネステナーの増設」を実施した。旧センターにはネステナー5基が投入されていたが、数が足りないのは明らかだった。そこで購入とレンタル合わせて30基を投入して保管効率の向上を図った。これにより床面積当たりの保管量がケース数ベースで160%アップした。

⑥「現場責任者の管理業務特化」は一定規模以上の物流拠点の運営を最適化するには、必ず実施しなければならない項目である。関東物流センターの責任者T氏は前職がドライバーという現場上がりであった。その経験から責任者としての肩書きをよそに、常にプレーヤーとして作業に当たっていた。同センターには常時50人を超える現場スタッフが働いている。どうしたってマネジメントが必要な規模だが、事実上ほぼノータッチであった。

T氏には忙しいときほど現場に入る癖が身に付いていた。「自分が作業を行えばその分の経費が浮く」という考えであった。しかし、実際には人件費の高い責任者が作業に当たれば現場の損益に悪影響を与える。責任者の役割は全体をコントロールすることである。しかし、T氏は現場作業には習熟していても管理の方法を学んだことがなかった。派遣対応が長かったこともあり生産性の向上を諦めていた。

 

現場スタッフ全員が目標値を共有

現場管理の基礎となるのが⑦「物流KPIの導入」である。現場作業の目標を設定すること、端的には1人当たり・1時間当たりの作業量を設定することである。いわゆる「人時生産性」であり、全産業に共通して存在する概念である。人の“Man”と時間の“Hour”の頭文字のMHを尺度に、改善とチェックを繰り返す。

T氏と相談して朝礼を行う場所の後ろに大きなホワイトボードを設置して、作業生産性(MH)の目標値、誤出荷(品違い/数量違い/送り先違い)の件数目標(ゼロが当たり前ではあるが、多くの現場はいきなりゼロにはできない)、そして本日の終了予定時間の3つの目標値をスタッフ全員と共有することにした。

⑧「不良在庫の圧縮」はスペース確保のために必要な施策である。H社のセンターには何年も放置されたままの在庫が少なからずあり、ただでさえ余裕のないスペースを余計に圧迫していた。ただし、在庫の処分は決算数値に影響してくるため、経営層や担当部門の許可なしには実施できない。

そこでポイントになるのが、「デッドストック」と「スリーピングストック(滞留在庫)」の定義である。デッドストックは文字通り死蔵された在庫であり、廃棄するしかない。それを減らすためにスリーピングストックの定義を明確にして早期にリストを作成して、営業に売りさばくよう促すのである。

⑨「空調管理の徹底」は、多くの物流現場がやり切れていない課題である。関東物流センターの場合、袋詰めと検品作業を行う部屋だけは空調を完備していたが、他の一般作業エリアは大型扇風機の使用にとどまっていた。「人に優しい職場づくり」はコストアップを伴う。ちゅうちょするのも理解できる。しかし、とりわけ人手確保が困難なエリアは定着率を上げていくために不可欠である。作業を業務請負に委託する場合でも、そのコストを荷主と分担する必要があるだろう。

最後の⑩「レイバーコントロール」は本連載では既におなじみのテーマとなっているが、今回はセンターの移管によるワンフロア化によって、従来よりも人繰りが格段にスムーズになった。さらに次のステージでは前述のロケーション精度の向上のほか、フォークリフトを含めたマテハン設備の見直しと、受注処理~ピッキングリスト発行までのシステム改修を予定している。