Top > 雑誌寄稿 > 第183回 事例で学ぶ現場改善:『水産仲卸F社の改善「ステップ2」』

第183回 事例で学ぶ現場改善:『水産仲卸F社の改善「ステップ2」』

水産仲卸の改善プロジェクトがステップ2に進んだ。ステップ1では支払物流費の上昇を抑制するため、庫内作業の内製化や配送の見直しに取り組んだ。ステップ2ではサービス品質の向上や物流サービスによる差別化に踏み込む。仲卸の生き残りを懸け市場流通を改革する。

荷捌き場がコールドチェーンの穴に

今回紹介する事例は本誌2018年2月号に掲載した「仲卸F社の支払物流費削減」の続編である。おさらいするとF社は年商約100億の水産仲卸で、取り扱いは冷凍品が70%、チルド品が30%という構成である。売り上げの約半分は地元の大手・中堅チェーンストア4社が占めている。残り半分は2次卸や飲食店である。

F社は、配送はもちろん卸売市場内の荷役作業まで外部委託しており、支払物流費の上昇に悩んでいた。そこで改善の第1ステップでは荷役作業の自社化、作業場の集約、「引き取り」の推進、運賃体系の見直し、配送ルートの見直し、共同配送の推進などを実施した。

当初は、われわれ日本ロジファクトリー(NLF)が提示したF社のあるべき姿と、長年にわたって染み付いた慣習とのギャップをなかなか受け入れることができず、改善の必要性と改善策の狙いを〝腹落ち〟するレベルまで理解して納得し、行動に移すには時間と手間を要した。

それでも粘り強く取り組みを進めていくうち、社員たちの意識は変わっていった。現在も第1フェーズで掲げた施策を100%実行できたとはいえないが、重要事項はほぼクリアできたと認識している。それと同時にステップ1で実施した改善からサブテーマが発生して、さらなる落とし込みが必要となった。改善を次のステップに進めることになった。以下がその具体的テーマである。

①荷捌き場に冷凍冷蔵機を設置

②リフト仕様の最適化

③物流実務責任者の選任

④共同納品の実現

⑤土・日配送の定番化

⑥「納品カルテ」の作成

⑦オリコン化の検討

⑧KPIの見直し

一般にコールドチェーンは、車両への積み込み時に温度管理が最もルーズになるとされている。手元に詳細なデータはないが、5度近く上昇することもある。F社も同様であった。保管、仕分け、ピッキングスペースは7度を目安に温度管理がなされていたが、最終作業工程に当たる積み込みスペースの温度管理が十分ではなかった。建物の構造上、入出荷口との隙間を埋めるドッグシェルターを設置できないこともあり、車両への積み込み作業中に商品の温度が一気に上がっていた。

看過できる問題ではなかった。量販店をはじめとする顧客や営業からの要望もあり、約3千万円を投資して①「荷捌き場に冷凍冷蔵機を設置」した。これによって温度維持のため使用していたエアカーテンを取り除くこともできた。作業の生産性向上にもつながったのであった。

②「リフト仕様の最適化」では筆者と現場スタッフが熱い議論を交わすことになった。F社の現場には卸売市場では一般的な「ターレ(ターレット)」のほか、カウンター型のフォークリフトが導入されていた。F社の現場は市場内の4カ所に分散しており、現場間の搬送にターレ、荷役にフォークという役割分担だったが、実際にはフォークで搬送することもあった。

これを改めてターレやカウンター型フォークをリーチ型フォークに切り替えていくことを提案した。通路幅を圧縮して作業スペースを確保するためである。しかし、現場は強く反対した。リーチ型フォークは後ろ向きに搬送することがあり危ないという。確かにその通りであった。

 

「まだわしはやれる」と高齢の会長

話し合いの末、リーチ型フォークは当面、荷役作業だけを行う場所に限定することにした。近く改善の一環で現場を現状の4カ所から1カ所に集約する。そのタイミングで横持ち搬送が不要になるため、そこからリーチ型へのシフトを本格化する方針だ。その準備のため現在はターレを含むリフトの稼働率を調べて適正台数を算出している。

③「物流実務責任者の選任」は、ステップ1から協議してきたテーマだが難航していた。理由は2つあった。1つは事実上の現場責任者である高齢の会長が「まだわしはやれる」と言い張って話を聞こうとしなかったことである。もう1つは、人選で意見が割れたことであった。

会長に対して、失礼ながら年齢的に限界を迎えていることを諭した。当初は面白くない様子であったが、しばらくすると渋々ながら後進に譲ることを受け入れた。一方、その人選では仕入れ出身者を物流実務責任者にしたい会長と営業出身者を責任者にしたい社長で意見が割れた。専務が仲介に入ったが収拾がつかない。

結局、筆者の意見を1票とカウントすることになり、会長が推していた仕入れ出身のB氏を実務責任者に決定した。これによってようやく積み残していた課題に本腰を入れることができるようになった。

④「共同納品の実現」もステップ1で既に挙がっていたテーマであった。F社に限らず、共同配送納品は大半の企画が総論賛成・各論反対となる。相手先候補のリストアップまでは進むものの、そこからの落とし込みにパワーが必要である。物流会社が中立的な旗振り役になることでうまく進むことも多いのだが、F社の場合は遊休車両を含めた4台の自社車両を共配に利用しようという狙いがあった。

営業部門がライバルとの共配に反対するのではないかと懸念されたが、実際にふたを開けてみれば杞憂であった。むしろ同じ“市場内”という仲間意識が強く、各社がそれぞれに納品していることを以前から無駄だと感じていたようであった。種々の検証の末に次の3ルートの共同納品が実現した。

1つはF社が量販店A社のセンターに納品している車両に、B社の青果とC社の鮮魚を混載する。2つ目もベースカーゴはF社で、量販店D社のセンターにB社の青果を混載する。3つ目は同業他社のE社をベースカーゴに、量販店R社のセンターへの納品にF社の塩干を混載する。いずれも納品先が同一であることから出発して組み立てた。

 

横乗りして「納品カルテ」を作成

⑤「土・日配送の定番化」は、それまでイレギュラーで対応してきた土・日配送をF社の“売り”として常時提供しようという内容であり、社長の肝入りの施策であった。土・日配送を定番化することで、週末に欠品が生じた量販店は、F社から仕入れていない商材もF社のインフラを使うようになる。物流サービスによる差別化で取り扱い品目を増やそうという狙いである。F社の雇用対策としても仕事をつくる必要があったため、一石二鳥であった。これに伴いF社は運送事業の許認可を取得することになった。

自社配送の割合が増えることもあり、納品先情報の収集整理が必要であった。協力会社も含めドライバー全員に、それぞれが担当している納品先の⑥「『納品カルテ』の作成」を依頼した。フォーマットを渡して記入方法も指示したが、十分な情報が上がってこない。書き方が分からないというドライバーもいた。

それでも何とか記入してもらったフォーマットを手にNLFのスタッフが横乗りを行って、納品カルテの完成を急いでいる。F社は大卸であるため小規模な納品先は少なく、納品先件数は限られているのだが、現時点ではまだ半分も出来上がっていない。引き続き作業を続ける。

納品用の段ボール箱をオリコンに切り換える⑦「オリコン化」は、それ以前にも何度か検討されたが、結局断念してきたという。食品の場合、衛生上の観点からも段ボールの使用を抑制する動きが出てきているのだが、現状では対象は限られている。F社の取り扱っている塩干などは今でも段ボール納品が多い。

オリコン化すれば、段ボールの調達コストや市場内の取り置きスペースが不要になる。納品先もごみを減らせる。大手量販店が規制に乗り出せば一気に加速するはずなのだが、今のところそうなってはいない。そこでF社から納品先に提案して承諾を得た上位得意先の量販店A社でトライアルを行うことになった。

F社の⑧「KPI管理」は、銀行出身の専務が主導している。さすがに数字を扱うことには慣れていて、緻密な内容であった。しかし、毎月のKPIの算出に時間を要しているほか、「誤出荷」の指標を追加するために、KPIの見直しを行った。

これまで見て来たF社の改善は卸売市場を巡る市場流通の改革でもあった。仲卸が利権に守られていた時代はとうに過ぎた。今後も生き残っていくには物流力を高める必要がある。ステップ2を完了してもF社の改善は終わらない。さらに歩を進めていかなくてはならない。