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第184回 事例で学ぶ現場改善:『災害のBCP(事業継続計画)を見直す』

物流に深刻な影響を与える自然災害が立て続けに発生している。西日本豪雨をきっかけにスポット運賃は急騰し、車両の確保が難しくなっている。被災した中小企業への影響はとりわけ深刻だ。車両ディーラーや建設工事会社は大手企業からの要請を優先するためだ。復旧の遅れが業績に大きな影を落としている。


水害後に庫内作業員が相次ぎ退職

大型で非常に強い台風24号が勢力を保ったまま日本列島を縦断しそうだというニュースが流れていた9月28日の金曜日、筆者は関東の物流会社A社を訪問した。定期的に研修を行っている従来よりのクライアントだ。出迎えてくれた営業部長にあいさつ代わりに「御社は前にISOを取得された時に防災マニュアルを作ったと聞いています。こういう時に役立ちますね」と声を掛けた。

ところが、「それがそうでもないんです」と営業部長の表情が曇った。防災マニュアルといってもチェックリストレベルの資料であり、実際に使えるものではないという。しかも、それを作成した当時に災害として想定していたのは地震とそれに起因する津波であって、台風は対象としていない。「異常気象がこれだけ続くとなると物流現場で使用できるBCP(事業継続計画)を作り直さなければいけないね」と、仲間内で話していたところだったという。

予報によると台風が関東を通過するのは週末の日曜深夜から月曜の未明にかけてである。このまま何も準備しないで台風の直撃を受けるのはいかにも危うい。この日、A社の社長は不在で決済をもらうことはできなかったが、営業部長と相談した上で、研修の予定を急遽変更することにした。

研修プロジェクトのメンバーを、「雨水」「風害」「停電」「倒壊」「避難」「その他」にグループ分けして、それぞれ想定される事態を具体的に挙げて、対応策を整理するよう指示を出した。1時間程度の作業だが簡易的な防災マニュアルを作成することができる。

このうち「その他」は筆者と営業部長が担当した。まずは救急箱や非常食の用意、緊急連絡網の確認などの一般的なチェック項目を挙げていった。さらに「来週は台風の影響でトラックが遅れる可能性があることを今日中に荷主と納品先に伝えておいた方がいい」と営業部長。もっともである。それに加えて、納品先のチェーンストアが平常通り店をオープンするのか、それとも臨時休業するのか、それを何の情報に基づいてどの時点で判断するのか先方に確認しておくべきだと筆者はアドバイスした。

この点はA社自身も同じである。「注意報」「警報」「特別警報」「避難準備情報」「避難勧告」「避難指示(緊急)」が発令された場合に、それぞれ誰がどう動くのか、指示命令系統も含めてはっきりさせておく。情報源とするメディアも具体的に指定しておく必要がある。というのもメディアによって情報の流れるタイミングや伝え方は違うからだ。同じ警報を伝えるのにも、全国ネットのメディアは各地の状況を一巡させる必要があるため時間がかかる。地元の地方局の方が早い。

筆者がそうしたことを強く意識するようになったのは、筆者の住む関西が今年に入って立て続けに自然災害に襲われていることもある。6月18日には最大震度6弱を記録した大阪北部地震が起きたが、それ以上に深刻だったのが、7月初旬の西日本豪雨とそれに続く一連の台風による被害だ。個人的な話で恐縮だが、筆者の自宅は大阪市内にあり、西日本豪雨では直接的な被害を受けなかった。しかし、9月4日に西日本を横断した台風21号には直撃を受けた。大阪府内の約100万軒が停電し、関西国際空港が一時閉鎖に追い込まれたことは、読者の記憶にも新しいところだろう。

筆者とは長い付き合いの年商約300億円の日雑卸B社は、自社倉庫の道路沿いの側溝から敷地内に水が溢れてパレット積みしてあった荷物が水に浸かり、1億円近い被害を受けた。建物の外に積み上げていたパレットも暴風で飛ばされた。人に当たっていたら大変なことになっていたところだ。逆によそから飛ばされて来た看板がB社の倉庫の壁に直撃、壁に穴が開き、猛烈な雨が吹き込んだことで“濡れ損”を拡大させた。

その後がさらに大変だった。現場の復旧のため社員たちは徹夜を余儀なくされた。極端な過重労働で、5日間で数時間しか寝ていないという人も出た。それから1カ月余りの間に現場担当の正社員3人が退職した。3人ほぼ同時というのは異例のことだ。それぞれ理由はあるが、きつい・汚い・危険の“3K”を赤裸々に体験して「やはり物流現場は危ない。オフィス勤務とはワケが違う」と感じたに違いない。

 

復旧は大手が優先で中小は後回し

7月の豪雨の直後から西日本のスポット運賃が急騰し、今も高止まりしている。さらに困るのは、「水害があってからというもの、路線(特積み)が全く機能していないことだ」と年商30億円の倉庫会社C社の役員はいう。指定日到着を受けてくれない。筆者の自宅周辺でも至るところで信号機が曲がったり折れたりした。ドライバーはどこを見ればいいのか迷うほどだ。オペレーションの混乱は容易に想像できる。車両も被災している。飛来物がキャビンに当たって運転席のガラスが割れた。あるいはウイング車の架装を破損したといった、比較的小さな事故は無数に起きている。修理は順番待ちだ。

高槻に本社を置く年商10億円の運送会社D社では、車庫に水が入り込み、保有車両台数30台のうち10台が水没した。急ぎ車両をディーラーに発注したが、いつ納品できるか分からないという。大手に在庫を抑えられてしまっているのだ。

D社が拠点内に構えている延べ床面積約200坪のテント倉庫も被災した。テントといっても耐用年数は10年から15年はある。仮設倉庫のつもりで購入しても使い勝手は悪くないので、恒久的に使い続けていることが多い。ただし、基礎をかさ上げしていない場合が大半なので、水はけの悪い低地に設置して大量の雨が降ると床が水浸しになってしまう。

この問題でも車両と同じ目に遭っている。テント倉庫の修復を依頼しても工事会社が動いてくれない。人手は限られている。当面は大手顧客にかかりきりだ。大手は施設の規模も多く、数もある。一通り復旧を終わるまで中小は後回しにされてしまう。被災してから2カ月近くが経ち、新聞やテレビで大手物流会社の機能が回復したというニュースが流れる一方、D社のテント倉庫は手付かずのまま放置されている。結局、D社は今期赤字転落が避けられない見通しだ。車両の水没で約6千万円の特損が発生し、復旧の遅れで売り上げも大幅に減少する。

既存のBCPは基本的に地震災害を対象に作成されている。関西で言えば南海トラフ地震を想定した防災や減災、津波への備えはそれなりに進んでいる。内陸部に倉庫を設けて在庫を分散したり、拠点の耐震設備や自家発電装置、敷地内のインタンク(自家給油所)を整備する動きがみられる。

しかし、今年の集中豪雨や台風による被害はBCPの想定範囲を超えている。地震と違って水害や風害は事前に到来をほぼ正確に予測することができる。それなのに実際に暴風圏に入ってみて、初めて筆者を含めて多くの人がその影響の大きさに驚かされたに違いない。

異常気象が今年だけの問題ではないとするなら、BCPを見直す必要がある。具体的には、豪雨とそれに伴う洪水、風害、倒壊、停電に備えなければならない。とりわけ中小の物流企業にとっては、それが文字通り事業の継続を左右することになりかねない。