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第186回 事例で学ぶ現場改善:『物流会社F社のセンター運営事業参入』

異業種から転じて家業の零細運送会社を継いだ若き2代目経営者が順調に事業を拡大させている。次はセンター運営事業に本格的に進出するという。既に新拠点の建設工事も始まっている。久しぶりに同社を訪れた筆者はその成長を頼もしく感じた。気概に満ちた経営者にとっては、物流危機を迎えた今こそチャンスに違いない。

 

事業継承に成功して事業を拡大

F社は西関東に本社を置く、年商約20億円の物流企業である。10トン車、4トン車を中心に車両約100台を所有し、物流センターを4カ所構えている。4カ所のうち2カ所は賃貸、残り2カ所は自社所有である。

F社にはこれまでに計3回のコンサルティングを行っている。初回は15年近く前のこと。F社の創業者の先代社長から実子のM社長が経営を引き継ぐことになった。しかし、それまでM社長は全くの異業種で営業マンとして働いていた。「物流業については右も左も分からない。一から勉強したい」とのことだった。

当時のF社はプレハブ建ての事務所が本社で、年商は3億円にも達していなかった。おまけに先代はコンサル嫌いで、われわれ日本ロジファクトリー(NLF)に対しても懐疑的だった。筆者とM社長の2人で何とか先代を説得して、半ば強引にプロジェクトを進めた。

2回目は提案営業がテーマだった。有望な荷主に提案する機会を得たが、提案書をどうやって作成すればいいのか、実際に受注した場合には情報システムをどうするべきか等を知りたいということであった。その頃には本社の他に営業所を2カ所設けて、保有車両は50台を超えていた。

そして3回目となる今回、M社長は「いよいよ本格的なセンター運営事業に参入したい。その“いろは”を指導してほしい」と筆者に依頼した。既に延べ床面積1200坪の新拠点の建設に入っているという。その立ち上げ準備から実稼働までをサポートすることが、われわれNLFの役割であった。

実際に新拠点を見学してみると筆者の想像をはるかに超えた立派な物流センターであった。まだ一部の工事が完了しておらず、建設資材が置かれている状態だったが、既に荷主も確保していた。今は新センターから半径10キロメートル圏に四つの外部倉庫を借りて対応しているという。新センターが完成したら、そのうち1ヶ所だけ残して3カ所分を新センターに集約する計画だ。

他の外部倉庫も全て視察した。われわれにとって幸いだったのは、センターがまだ建設中であり、大きな変更は難しいが、細部の修正は可能だったことだ。建物の外回りに関して、少なくとも以下のような整備、手直しが必要であった。

・   棟番号、荷降ろし場、進行方向、徐行速度等の表示物・掲示物を設置する

・   センター壁面にトラックやリフト接触を防止するための防護柵を設置する

・   センター外周の一方通行と相互通行エリアを決定する

・   来客用駐車スペースと社員駐車場スペースとを決定する

・   従業員休憩所と喫煙場所を決定する

・   入荷車両ドライバー用に外部トイレを設置する

・   社名看板の大型化と増設

この他にもカラーコーンの不足や雑草の刈り取りなど、M社長を含むF社のプロジェクトチームメンバーと何度もセンターを巡回して改善点を確認していった。一方、センター内に関しては以下をアドバイスした。

・   セキュリティー用カメラの設置場所を決定する

・   リフト通路を線引きして一時停止ラインを設定する

・   事務所からのアナウンスを伝えるスピーカーの設置場所を決定する

・   空パレットの保管エリア(庫外・庫内)を決定する

・   直射日光が保管物に当たるのを防ぐため遮光ネットを装着する

・   視認性の向上を考慮した各種掲示物の見直し

・   レイアウトとゾーニングを決定する

 

配車マンを管理者に育てる

続いて運営面に入った。F社が一般運送と一時保管というそれまでの業務から、本格的なセンター運営業務に手を広げるために必要な施策として以下の七つを提示して、その落とし込みを行った。
1.管理職の業務設計

2.安全管理の実践

3.現場チェックリストの活用

4.フォークリフト管理表の活用

5.ロケーションの作り方

6.在庫管理の方法と進め方

7.物流KPIの導入と活用

「1.管理職の業務設計」は、F社にとってハードルの高いテーマであり、管理者となるべきプロジェクトメンバーたちの反応は芳しくなかった。現場スタッフの指示・指導、教育・育成といった自分たちの新たな役割に不安を感じているようだった。

事実上これまでF社には、ドライバーと運行管理者(配車担当者)という二つの職種しかなかった。センター運営を始めると、正社員の庫内作業員やパート・アルバイトなど、さまざまなタイプのスタッフを管理しなければならなくなる。しかも、トラックとドライバーの管理を、出荷と納品という「点」の管理とすると、センター運営は敷地全体の「面」の視点での管理が必要になる。また、管理者は作業者になってはならない。「work(作業)」ではなく「task(業務)」が管理者の仕事であるという意識改革が重要であった。

そこで管理職の業務設計を、管理職の業務内容、パート・アルバイトの採用と育成、作業管理の在り方、コミュニケーションの取り方、「報・連・相」の徹底などのサブ項目に分解して、それぞれ指導を行った。

「2.安全管理の実践」は具体的には以下のポイントについて、それぞれ意味と狙いを確認しながら準備を進めた。

・   空パレットの段積みを最大11段に制限する

・   空パレットを縦にして借り置きすること(通称:タテパレ)を禁止する

・   「ネステナー」および中量ラックの最高段(3段目)に保管するパレット荷物はビニールラップや紐(通称:ハチマキ)で固定する

・    リフト通路は3000ミリメートルを確保する

・ リフトマンのヘルメット装着を厳守する

・ リフトマンの〝ながら操作〟を禁止する(フォークリフトのツメを車体側に引き寄せた状態=リーチインでの走行を徹底する)

・ 入荷車両に車輪止め(輪止め)を徹底させる

・ 消火器設置場所をイエローラインで明確化する

・ 防火シャッターの下に物を置かない

「3.現場チェックリストの活用」では、NLFのテンプレート(図参照)をF社の新センターに合致するようにカスタマイズした。「保管」「流通加工」「事務作業」「安全管理」「品質管理」「入・出荷作業」の各テーマそれぞれ20項目を、管理者が現場をラウンドする際にチェックする。

定量的なチェック項目は誰もが客観的に判断できるが、定性的項目は評価者による違いが発生する。そのため筆者とプロジェクトメンバーが一緒に何度も現場をラウンドして“目線合わせ”を徹底した。さらに各項目の合格レベルにある状態を撮影して、なぜそれが合格なのか、画像データに吹き出しでコメントを入れてモデルを作った。

「4.フォークリフト管理表の活用」は、F社の現場責任者からのリクエストだった。これまで輸配送中心だったF社のスタッフは「ほぼ全員がリフトマンとしては未熟であるため、マニュアルのような物が欲しい」という。

そこで「運転チェック表」「点検表」「エンジンリフト点検表」「記録表」「修理記録」の5部構成のマニュアルを作成した。このうち例えば「運転チェック表」は、「走行前」「乗車時」「空走走行」「運搬走行」「荷降ろし」「空車走行」「終了時」の七つの工程についての計48項目のチェックリストとなっている。

「5.ロケーションの作り方」は、「①ロケーション設計の考え方」「②出荷頻度ABC分析を用いたロケーションの設定方法」「③ロケーションメンテナンスの方法」「④カラーコントロール(色を使った表示によってミスを防ぐ)の活用」「⑤ロケーション管理責任者の設定」の順で指導しながら実作業を進めた。

変化をチャンスと捉える

「6.在庫管理の方法と進め方」は、荷主企業と物流企業では在庫に対する考え方にギャップがあることを認識してもらうことが狙いだった。例えば、荷主にとって「適正在庫」とは欠品を発生させない在庫量のことである。一方、物流企業にとって「適正」とは、営業倉庫の採算が合うだけの保管量があるかどうかである。

そこで物流企業の顧客である荷主にとって、在庫管理とは何なのかをプロジェクトメンバーたちに学んでもらった。カリキュラムは「①在庫とはどのような特性・目的があるのか」「②在庫管理の課題とその原因」「③在庫改善の五つのステップ」「④在庫の持ち方の種類」「⑤在庫管理目的の確認」「⑥基本的な発注方式」「⑦安全在庫・発注点の設定方法」「⑧在庫差異の原因と対策」の八つである。

「7.物流KPIの導入と活用」は、F社にとってタイムリーかつ非常に有益なものとなった。F社の各拠点の保管効率は必ずしも悪くはなかった。しかし、保管量の目安を持っていなかった。

その結果、過剰な在庫量を保管している。つまり荷物を詰め込み過ぎていることから、先入れ・先出し、スピーディーな出荷と車両への積み込みができず、作業生産性が低下している現場がある一方、保管効率が悪く、採算の合っていない借庫もあった。

M社長からプロジェクトチームのメンバーに対して、センター別、荷主別、カテゴリー別、および1坪当たりの保管ケース数の「損益分岐点(Break-even Point:BEP)」をすぐに算出するよう、指示が出された。

筆者はM社長がこれまで順調にF社を成長させてきた理由を次のように考えている。一つは、重量物や長尺物など、多くの運送会社が嫌がる荷物を積極的に取り込んだことである。

二つ目はM社長が前職の異業種で営業マンをしていた時代に培ったノウハウと、その若さとは不釣り合いなほど広い人脈を生かした営業活動である。実際、センターで使用する部材の調達先から物流業務を受託したり、友人の会社の生産ラインの引越しを請け負ったりと、身近な出来事を仕事につなげている。

しかし、何より大きいのは、M社長が人を大切にしていることである。それは顧客や周囲の人はもちろん、従業員に対しても同じである。二代目ながら創業者さながらの行動力とリーダーシップを備えている。物流危機が叫ばれる昨今、物流業経営者の多くは人手不足ばかりに目を奪われ守りに入っている。しかし、変化はチャンスでもある。F社長のようなパワフルな若手経営者にもっともっと出て来てもらいたいものである。