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第189回 事例で学ぶ現場改善:『オーナー経営の企業グループN社の改革』

グループ会社13社がそれぞれ行っていた物流を統合することになった。ゼロベースで分析した最適地の全国7カ所に共同倉庫を立ち上げグループ各社の拠点を統合した。協力物流会社も見直した。しかし、その多くは20年以上も継続して取引している中小零細で、グループのオーナー経営者と親密な関係にあった。

 

グループの拠点網を再編

N社はグループ会社13社を傘下に持つ統括会社である。グループの売上高合計は約800億円。化学品を中心とするメーカー5社と中間流通会社(輸出入商社・国内販売会社)8社を各地に展開している。13社のうち3社はM&Aにより傘下に入った。残りの10社は基本的には取扱品の特性別に会社が分かれている。

われわれ日本ロジファクトリー(NLF)の窓口となったT取締役は、グループのオーナーであるM氏の“懐刀”であった。N社に席を置き、グループ全体の管理実務を取り仕切っている。T取締役はN社に入社してからまだ10年に満たないが、業績が低迷していたグループ会社2社に社長として赴任して、いずれも再建を果たすという実績を残している。

しかし、グループにおけるオーナーM氏の発言力は絶対的であり、その指令を受けてT取締役はグループ会社との調整のため、東に西に日々奔走していた。それはわれわれNLFにとっても他人事ではなかった。

今回のコンサルティングを依頼された当初は、グループの中核メーカー、A社の物流改善がテーマであった。ところがオーナーM氏が「むしろメーカーB社の物流費が高いことが問題だ」と指摘したことから、プロジェクトの方向性が二転三転した。その都度、われわれも軌道修正を余儀なくされた。

そうやって振り回された末に、プロジェクトのテーマは最終的には「グループ全体の物流改革」に変貌した。またコンサルティング期間は当初予定していた10カ月から2年半に拡張されて、ようやく次の七つの改善実施項目に辿り着いたのであった。

①物流の「ヒト・モノ・カネ・情報・組織」の抜本的な見直しによる全体最適化と高付加価値化の実現

②サプライチェーンの抜本的見直し

③在庫拠点の再編

④直送化の推進

⑤WMSの導入

⑥委託先物流会社の見直し

⑦物流子会社の発足

このうち「①物流の『ヒト・モノ・カネ・情報・組織』の抜本的な見直しによる全体最適化と高付加価値化の実現」というのはいかにも仰々しいテーマだが、要はオーナーが物流改革を切り口にしてあらためてグループ各社の営業、購買、システム、人事にまで口を出すぞ、という宣言であった。

「物流を診れば会社が見える」のは確かである。物流は経営活動の最終アンカーであり、リトマス紙のような特性を持っている。物流に知見のある経営者(特に卸に多い)が、物流をテコに経営改革を行うというのは、よくある話である。しかし、N社の場合、そこまで考え抜かれたものではなく、筆者からみればスローガンに近いものだった。

「②サプライチェーンの抜本的見直し」は物流フローのシンプル化とコストダウンが目的であった。従来はH社では輸出入を含めた国内外の物流をグループ会社がそれぞれ管理していた。その結果として、東→西→東という逆送が発生していたり、横持ちなどのタッチ回数の多さが目立っていた。調達から納品までのフローも複雑だった。

これをシンプルかつムダのない流れに変えることに着手した。まずは中核メーカーのA社とB社を対象にした。フローをあらためて検討した結果、輸出入に利用する港の変更が必要であることが分かった。それに伴い海運貨物取扱業者(乙仲)も見直すことになった。

「③在庫拠点の再編」は、グループ会社がそれぞれ構えている物流拠点を、いったんゼロベースで見直して、最適な立地にグループ共通の汎用センターを立ち上げ共同保管することでトータルコストを削減しようという狙いであった。グループ各社から実績データを取り寄せて着地点分析を行った。

膨大な量のデータを分析することになった。しかし、グループ全体にとっての最適立地という考え方は成立しそうにないことが分かった。むしろ着地点分析から分かったのは、H社のグループ各社はそれぞれ異なる得意先を持ち、独立した商圏を作り出していることであった。

そこでアプローチを改めた。グループ会社13社を「a.取扱品の特性」「b.メーカーか、商社・販売か」「c.出荷拠点は東日本か、西日本か」という要因から三つのグループに分類して、グループごとに最適化を図ることにした。その考え方に基づいて着地点分析をやり直した結果、全国7カ所にグループの汎用センターを設置するのが望ましいと分かった。

具体的には仙台(500坪)、関東2カ所(それぞれ1千坪)、東海(700坪)、関西(1千坪)、中・四国(500坪)、福岡(700坪)の7カ所を手当てした。ただし、「a.取扱品の特性」が他のグループ会社とは異なる、メーカーD社とメーカーF社用に別途、危険物倉庫(200坪)、保税倉庫(300坪)、定温倉庫(350坪)を用意せざるを得なかった。

それでも、この拠点再編によってグループ全体の倉庫延べ床面積を従来比約37%縮小することができた。拠点の移管コストは発生したが、金額ベースでは29%の保管コスト削減を実現した。また拠点の統合に伴って横持ちの輸送コストも大幅に減った。

 

WMS導入をテコにレベルアップ

「④直送化の推進」は、中国、タイ、ベトナムからの輸入品をNグループの汎用センター7ヶ所を経由せず、各地の販売代理店の倉庫に直送するというものである。これは現在も取り組み中である。

通常のケース品を扱っている代理店には直送の提案が受け入れられたが、内容物の傷や割れをチェックする検品作業が発生する商品や、保管スペースを取られる嵩高な商品を扱っている代理店が直送化に反対。逆に「Nグループで在庫保管を含めた物流機能を担うべきだ」との声まで上がった。

われわれプロジェクトチームのメンバーとグループ会社の営業部門で対応策を協議した。その結果、“在庫を持てないような代理店は売り先に値しない”という考えに立つことで意見がまとまった。直送を受け入れず代理店の物流機能をNグループで代行する場合には、そのために発生する物流コストを代理店に請求することにした。現在、代理店各社とその線で交渉を進めている。

「⑤WMSの導入」は、中間流通会社8社を対象に、全体をカバーするWMSを構築することで、在庫管理能力と問題解決力を向上させることが目的だ。既存のWMSパッケージをカスタマイズするかたちで開発を進めている。

対象の8社はいずれも中間流通会社とはいえ、業務内容はそれぞれ異なっている。そのため基本設計に向けた業務調査自体に多大な時間がかかった。それでもなんとか詳細設計の終盤までこぎ着けた。この後、開発に10カ月かかるとみている。その後のテスト運用を経て、ちょうど1年後の本稼働を目指している。

WMSはあくまで支援ツールであり、WMSの稼働で全ての課題が解決するわけではない。それでもシステム化項目の洗い出しと重点管理項目の絞り込み、システム機能と現場業務の「フィット&ギャップ分析」、そこで見つかったギャップの解消、業務のマニュアル化といったプロセスを踏むことで、オペレーションの基礎を固めることができる。

 

協力会社の見直し難航

なお、オーナーM氏は情報システムについては門外漢である。そのためWMSについては、オーナーから予想外の“矢”が飛んでくることもなく、今のところ開発はスムーズに進んでいる。しかし「⑥委託先物流会社の見直し」は難航している。

グループ各社の既存の協力会社を調べたところ、大半は各地の地元の零細企業であり、荷主に言われたことに対応するだけで精一杯という状況であった。グループ各社との取引年数は長く、平均約20年にもなっていた。

特に大きな問題が二つあった。一つは繁忙期に欠車を発生させてしまう協力会社が複数あったことだ。その度にグループ会社の営業が傭車先を探したり、赤帽を使ったり、時には営業マンが新幹線を使って納品していた。

もうひとつの問題は、各協力会社のN社グループに対する売上依存度が非常に高いことだった。協力会社の多くが売上全体の7割以上をグループ会社に依存していた。つまり協力会社が自立していなかった。N社グループと協力会社の双方にとって大きなリスクである。

これを受けて、われわれNLFが協力会社に対して、ドライバー確保および傭車確保の対策指導や、N社の荷物をベースカーゴとした共同配送事業のメリットとその推進方法などを指導することになった。「協力会社連絡会議」と称した勉強会と実務指導の講習を定期的に開催した。

ところが出席率は70%程度にとどまった。残りの30%の欠席理由は、「人手不足で会議に人を出す余裕がない」もしくは「後継者が不在なので自分の代で商売を終えたい」というものであった。

このうち後者はあまりにもリスクが大きいため、他社への見直しを検討している。しかし、対象企業のトップは多くがオーナーM氏と長年の友人関係にあるため簡単にはいかない。窓口のT取締役は一戦を交える覚悟でオーナーの説得にかかっている。しかし、オーナーは、それらの協力会社を守るためなら、出資あるいは買収でもしそうな勢いだ。

われわれNLFはオーナーM氏と接触後、それらの協力会社のトップに対してヒアリングを行った。しかし、レベルアップを期待できる会社は限られていた。そこで現在はレベルアップと見直しを並行して進めている状態である。

最後の「⑦物流子会社の発足」はグループ全体の物流を集約し、全体最適を牽引する組織が必要との判断に基づいている。N社およびグループ会社には物流を専門に管理している部隊がなかった。過去に実運送会社を所有したこともあったが、数年前に売却済みであった。

Nグループの物流には改善余地が大きい。見方を変えれば宝の山である。グループの物流を集中管理する組織体制を構築すれば大きな付加価値を期待できる。当初はN社内に物流部を発足させることも検討したが、リソース(人材)とスキルの両面で現実的はなかった。外部の新しい力を呼び込む必要がある。そのためのグループ会社設立である。

ただし、このテーマもまたオーナーM氏の経営判断と鶴の一声にかかっている。それはN社に限らない。オーナー経営とは古今東西、良くも悪くも、そういうものなのであろう。