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第190回 事例で学ぶ現場改善:『医療資材卸E社の本社兼倉庫の移転・集約』

医療資材卸の社長が商物分離をしたいという。しかし、現場はそれ以前の段階にあった。人に仕事がついている状態で、特定のスタッフに業務が集中、そのスタッフが休めば業務がストップしてしまうような状況であった。それは物流現場だけに限らず同社全体に見られる傾向だった。

 

拠点集約で路線便運賃を抑制

E社は関東に本社を構えている年商30億円の医療資材卸である。取扱品目は約1500。1日の平均出荷量は約600ケースだが、入荷・格納~ピッキング~検品~梱包に至るまで社員が行っている。輸配送は路線便(特積み)を利用する他、営業マンが自分でロングバンを運転して届けることもある。

物流施設としては本社に併設した倉庫スペースの他、本社からクルマで20分の距離にもオフィス兼倉庫を構えている。本社の移転を機にその二つを新本社に集約することになった。われわれ日本ロジファクトリー(NLF)に声がかかったのはそのタイミングであった。S社長いわく、商物分離したいという。

筆者はE社を訪問し、商品がところ狭しと置かれている会議室で面会した。S社長の他、物流を切り盛りしている商品管理課のT氏が同席した。S社長はこれまでの経緯と物流の現状について次のように説明した。

・ スペースが手狭になっており、また人員も増えている。

・ 移転によってモノの流れが変わるため、混乱なく軌道化させたい。

・ 移転・集約のメリットを最大限に生み出したい。

・ 今後は容器などのかさばる商品が増える見込みである。

現状の出荷拠点2カ所の詳細について尋ねると、同席していたT氏が問題点を次々に指摘し始めた。どうやら相当に深刻な状態にあるようだ。S社長も黙ってT氏の説明を聞いている。S社長自身、物流現場に問題があることを薄々感じていたために、T氏を同席させたことは明らかであった。

こうして今回のコンサルティングは当初のトップダウンによる商物分離から、ボトムアップ型のオペレーション改革にテーマが変更になった。T氏をリーダーとするプロジェクトチームとNLFのスタッフで実施項目を次のように整理して改善に着手した。

①路線運賃の削減

②定期的な商品の改廃による取扱品目数の適正化

③業務プロセスの見直し

④テレビ会議システム・カメラスコープの導入

⑤出荷頻度ABC分析

⑥現場作業における六つの〝ない〟の実践

⑦しゃがみ作業・かがみ作業の払拭

⑧事務作業における六つの〝ない〟の実践

⑨誰でも分かる現場づくり

⑩特定スタッフへの業務の集中軽減

⑪本社移転業務

「①路線運賃の削減」は大きく二つのアプローチをとった。一つはボリュームディスカウントだ。既存の本社とオフィス件倉庫はいずれも同じ路線会社を使っていたが、運賃タリフが違っていた。この2拠点を新本社の1カ所に集約すればボリュームも増えるため、これを機に安価なタリフに寄せたい狙いであった。

この種の運賃交渉には、いわゆる“定石”というものがない。路線会社や時期によって、前線の営業担当者が決裁権を持ってその場で判断する時もあれば、そのブロックの管理者まで話を上げて決裁を仰がなくてはならないこともある。今回は後者であった。最終的には旧タリフの高い方と安い方の中間に決まった。支払い総額としては減ることになるのでE社としては集約のメリットを得たといえる。

路線運賃削減のもう一つのアプローチは、新本社近隣の納品先を対象としたルート便の設定である。従来はほぼ全量を路線便で出荷していた。しかし、出荷先リストを見ると近隣の納品先がかなりある。実績を調べたところ、少なくとも2トン車1台もしくは軽車両2台分のルートは組めそうだ。その分を路線便から切り替えれば配送コストがかなり下がる。サービスレベルも上がる。現在、少量のルート便配送にも対応してくれる運送会社と打ち合わせを行っている。

 

営業と物流の役割分担を整理

「②定期的な商品の改廃による取り扱い品目数の適正化」は、E社にとって重要な課題であった。全社的に在庫が多く、在庫回転が月1回を下回っていた。それと連動して不動在庫、滞留在庫が多かった。顧客と発注ロットを交渉する習慣や発注ロットを管理する部署がなく、定期的な商品の改廃を行っていないことが主因であった。そこですぐに以下の三つを実施した。

・ 商品発注専任者の設置

・ 不動在庫、滞留在庫の定義付け(不動在庫は6カ月、滞留在庫は3カ月と定義)

・ 不動在庫、滞留在庫の削減(メーカーへの返品、値下げ販売など)

これを機に「③業務プロセスの見直し」を行った。そもそも発注担当者が不在で、明確なルールもないまま、物流(商品管理課)が発注する商材と、営業が自分で発注する商材が混在していた。同じ仕入先に複数のスタッフが発注を行うといった無駄も生じていた。受注もしかりで、たまたま連絡を受けたスタッフが対応するというやり方であった。

電話番号やファクス回線が整理されていないことが原因の一つであった。代表番号という概念自体が存在しなかった。そこで受注専用回線を新たに設置した。たったそれだけのことだが、業務プロセスがかなり整理されて効率が上がった。発注は物流に一元化することで、業務の重複を解消した。

「④テレビ会議システム・カメラスコープの導入」は、物流と営業とのリアルタイムの情報共有が目的である。業務プロセスを見直して物流と営業の役割分担を明確にすることで当初は、「営業が商品の現物を確認できなくなる」と問題視する声が上がっていた。

そこで物流拠点にカメラスコープを導入してリアルタイムで画像を発信している他社事例を紹介したところ、S社長をはじめプロジェクトメンバーは大きく頷いたのであった。

さらには商品確認のレベル表を作成した。商品の相違の確認など、カメラを介した遠隔チェックでも間違える恐れが低いものは「レベル1」、小さな部品のキズのチェックなどは「レベル5」として営業が直接現物を確認するといったルールを設けた。

「⑤出荷頻度ABC分析」は、本来であれば新本社の倉庫スペースをデザインする基礎データとして使用したいところであったが、われわれNLFが関与を始めた時点で、クリーンルームや恒温室の場所や大きさは既に変更できない段階であった。庫内で使用する手動式移動ラックの発注も済んでいた。それでもT氏は「出荷頻度分析でBランクの商品が可視化されただけでも、作業生産性と作業品質の向上に繋がった」と評価している。

「⑥現場作業における六つの“ない”の実践」とは、これまでも本連載で何度か紹介しているが、庫内作業員に「持たせない」「書かせない」「歩かせない」「待たせない」「考えさせない」「探させない」ように作業を設計することを意味している。

それに加えてE社の場合は「⑦しゃがみ作業・かがみ作業の払拭」が必要であった。物流用の施設ではなく、オフィスで作業を行うため、通路幅や作業スペースなど物流作業を基準にしたスペースを確保できていなかった。そこで床に簀の子台や作業台を設けて“高さ”を確保した。ただし、あまり台を高くすると今度は天井(高さ2・3メートル)に当たってしまう。幾度どなく調整が必要だった。

「⑧事務作業における六つの“ない”の実践」も「現場作業における六つの“ない”」と同様で「立たせない」「入力させない」「書かせない」「探させない」「(作業を)私物化させない」「チェックさせない」事務作業を目指すものだ。

具体的には、雑務を減らし本来の仕事に集中させるために「立たせない」。ハンディターミナルによるバーコードスキャンによって「入力させない」。手書き作業をゼロ化する(書かせない)。必要な備品類の置き場所を決めて「探させない」。事務作業は誰もができるようにして「作業を私物化させない」。チェックはダブルチェックまで(チェックさせない)等の改善を行う。

現場作業の効率が上がっても、事務作業のために“手待ち”が発生してしまうようでは全体の生産性は上がらない。現場作業の生産性向上と、事務作業の生産性向上は、両輪として進める必要がある。最近のプロジェクトで筆者が特に感じていることである。

 

特定のスタッフに業務が集中

「⑨誰でも分かる現場づくり」とは、作業のマニュアル化、棚番地や掲示物のビジュアル化を進めて、初心者や外国人労働者、高齢者でも働くことができるようにする取り組みである。E社にとっては、これは物流現場だけに限らない課題であった。

他社でもよくあることではあるが、E社の現場は完全に“人に仕事がついている”状態であった。そのため物流現場ではT氏に業務が集中していた。彼が休むと物流が止まってしまうほどであった。同じ傾向は営業や総務など他部門にも見られた。これはシステム化や役割分担、さらには社員教育が機能していないことを物語っていた。

「⑩特定スタッフへの業務集中軽減」が必要であった。S社長と筆者の1対1のミーティングを重ねて「このままでは優秀な人材が安心して長く働けない」ことを訴えた。その結果、“仕事に人がつく”体制づくりを実施することとなった。具体的には、さらなる増員、役割分担の明確化、「職能基準書」とそれに伴う人事考課制度の作成、人事異動の解禁(従来はほとんどなかった)、作業手順マニュアルの作成を1年かけて進めることになった。

最後の「⑪本社移転業務」として、引越しのスケジュール化と準備項目の抽出、外部業者の活用による負担の軽減を図った。当初は事業を継続しながら、自社スタッフだけで引っ越しを行う予定であった。それをやめさせた。

ここでも他社の事例を紹介して、実棚卸しと同様に引越し期間中は営業活動を止め、商品を動かさないこと、新本社ビルの2階、3階へ商品やマテハンを搬入する作業は外部の引っ越し業者に委託してプロの機材を使ってやるべきこと、それによって社員負担を軽減することを強く訴えた。

E社にはいまだに零細企業のカルチャーが色濃く残っている。しかし、社員数は既に50人近くに達している。そろそろ中堅企業に脱皮する時期だ。今回のコンサルティングがそのきっかけになることを筆者は望んでいる。