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第191回 事例で学ぶ現場改善:『化学品卸G社の在庫管理精度向上』

在庫が合わない。物量が増えていくのに伴い事態が悪化していく。しかし、部長たちは知らぬふり。誰も動こうとしない。見かねた社長が爆発した。部長たちを激しく叱りつけたその翌日、物流拠点の運営を委託する協力会社に乗り込んで、相手側の社長と経営陣を相手に大変な剣幕でまくし立てた。

 

トップ自ら協力会社に怒鳴り込む

G社は本社を関東に置く年商150億円の化学品卸である。取り扱いアイテム数は約3800。在庫拠点を仙台、関東、東海、関西の4ヶ所に設置している。いずれの拠点もセンター運営から輸配送まで、現地の物流会社に委託している。

G社の全在庫量の8割は関東拠点に集中している。その在庫管理精度の改善が、今回のコンサルティングのテーマであった。関東拠点は、出荷量の増加と歩調を合わせるかたちで、在庫管理の精度が悪化の一途を辿っていた。在庫が増え、しかも数が合わないという状態が続き、一向に改善する気配がなかった。

それまで沈黙を守っていたN社長はさすがに見かね、ついには激昂した。「いつまでこの状況を放置するんだ! いい加減にしろ!」。G社には物流の専門部署はなかったため、購買部、商品部、営業部、管理部の部長たちに雷が落ちた。

その翌日、N社長は単独行動に出た。自ら社有車のハンドルを握り、常磐道を北上した。関東拠点の物流業務を委託しているK社の社長に会うためだった。N社長はかなりの剣幕でまくし立てたらしい。K社側は防戦一方だったと後日、K社の幹部から聞かされた。最後には「このまま状況が改善されないのであれば契約解消も辞さない」と言い放ってN社長は帰っていったという。

これはG社に限った話ではないが、経営トップという存在は、良かれ悪しかれビジネスの“最終兵器”である。いったん爆発してしまうと事態を収拾するのに大変なエネルギーが要る。われわれ日本ロジファクトリー(NLF)が今回G社の物流改善に担ぎ出されることになった背景には、そんな事情もあった。

早速、現場視察と関係者へのヒアリングを行った。いざ蓋を開けて見れば、関東拠点の運営が悪化している原因は、G社側にもあった。社内に在庫管理責任者が不在で、K社に業務を“丸投げ”していた。
われわれは実施項目として次の七つを抽出し、6ヶ月で改善するスケジュールを組んだ。

①発注方法の見直し

②滞留在庫と死蔵在庫の定義

③定期的な改廃の徹底

④棚卸業務の見直し

⑤出荷頻度ABC分析によるロケーション、レイアウトの作成

⑥誰もがわかる現場づくり

⑦物流部の発足

発注方式は一般的には、定期的にその都度、必要量を計算して発注する「定期発注方式」と、在庫量が事前に設定した水準(発注点)を切ったタイミングで一定量を発注する「定量発注方式」に区分される。しかしG社の場合はそのどちらでもなかった。

G社の商品は約90%が中国・タイ・ベトナムからの輸入品であり、商品単価が安価であるため、発注ロットを海上コンテナ単位にまとめていた。1日当たり平均6本の40フィートコンテナの入荷がある。当然ながらそれに見合った出荷もある。効率よく現場を回さなければとても捌けない量である。

このような場合、通常であれば、1日の平均出荷量×必要日数分の在庫量と、船便のリードタイムから逆算して発注点を決めるところだが、G社では(1)相場が安価な時にまとめて買う、(2)相場の変動がない場合は月末に発注する、という方法をとっていた。在庫が大きく膨らんだり、長期の欠品が発生する発生する原因であった。また、発注者はルール化されているわけではないが、アイテムごとに暗黙の担当割りがあり、営業が発注するアイテムと商品部が発注するアイテムが混在していた。

これを改め、発注業務を特定の担当者に集約し、発注点管理への移行を進めることにした。相場が安価な時に在庫を積み上げる戦略的な在庫投資はそのまま残すが、他はアイテムごとに発注点を決めて一定量を補充発注する定期発注方式を原則とする運用である。

これに付随して「②滞留在庫と死蔵在庫の定義」を行った。それまでG社では、“時々、動くアイテム”を滞留在庫、“まったく動かないアイテム”を死蔵在庫(デッドストック)と感覚的に呼んでいた。そこに明確な定義はなかった。

そこで商品特性に同業他社の情報などを加味して、滞留在庫は「3ヶ月以上、動かなかったもの」、死蔵在庫は「6ヶ月以上、動かなかったもの」と定義した。さらに毎月の月初に開催される営業会議に、前月の「滞留在庫リスト」と「死蔵在庫リスト」を提出し、アイテムごとの対応策を決めて同リストに記入することにした。

「③定期的な改廃の徹底」もアイテム数の適正化には是非とも必要な施策であった。そもそもG社は同業界の常識に照らすと、売り上げ規模に対してアイテム数が多過ぎた。適切な商品の改廃が行われていないことは明らかだった。

実際に調べてみたところ、「上位20%の品目で全体の80%の量を占める」というパレートの法則がG社には当てはまらず、上位10%で88%を占めていた。また営業部と商品部で在庫情報を共有するためのツールやルールも皆無だった。

これを受けて二つの手を打った。一つはアナログな方法ではあるが、月2回の商品会議の開催である。もうひとつはイントラネット上に商品の終売や在庫の引き上げ等の改廃情報をリアルタイムでアップして、関係者がいつでも確認できる専用ページを設置した。

この改廃情報を閲覧したスタッフは、自分の名前と対応策あるいは「了解」などと必ず一言コメントを記入するというルールにした。「知らなかった」という事態を避けるためである。しかし、この仕組みはまだ十分に定着していない。改廃情報を見ても何もコメントしないスタッフには個別に注意して利用を促している。

物流現場の運営は「団体競技」

「④棚卸業務の見直し」では、棚卸の頻度とやり方の双方を見直した。改善前まで、実棚卸しは決算および半期決算時の年2回だけだった。その方法も現場を稼働したまま、つまり入・出荷が行われている状態で、在庫の数をカウントしていた。それでは数が合うはずもない。

在庫差異が発生した場合は、現場の運営を任されているK社が弁済することになっていた。しかし、多額な負担ではなかったこと、“ながら”棚卸しをしなければならないほど人手不足が慢性化していたことから、これまで放置されていたのである。

そこで、まず「ステップ1」として、月1回の循環棚卸しを実施することにした。3ヶ月で全アイテムを一巡する。また実棚卸しは、入出荷作業を止めた状態で行うルールにした。この「ステップ1」を実施しても在庫差異が行数単位でカウントして0・01%にまで向上しない場合は、「ステップ2」に進み、実棚卸の頻度を2週間に1回に増やし、やはり3ヶ月(12週間)で全アイテムを完了させるという運用に切り換える考えだ。

また、K社の庫内スタッフには、棚卸しに使用するハンディターミナルの使い方に不慣れな人が散見できたことから、ハンディを販売したメーカーにお願いして講師役を関東拠点に派遣してもらい、正しいハンディの使い方をあらためて教えてもらった。

「⑤出荷頻度ABC分析によるロケーション、レイアウトの作成」は、本連載では定番テーマだが、K社の現場にもやはり不可欠であった。先入れ先出しが危惧されるほど、どこに何を置いているかが全く分からなかった。また保管場所が3棟に分散しているため、動線が著しく長くなっていた。

(1)ゾーニング、(2)ロケーション、(3)レイアウトの順に、ABC分析に基づいた商品配置図を作成した。幸いG社の出荷は全てケース単位だった。バラ(ピース)出荷用に軽量ラックを用意して、ロケーションを落し込む必要がなかった。それでも、通路の確保が出来ていなかったり、コンテナを段積みする「ネステナー」が不足しているなどの課題をクリアしなければならなかった。

「⑥誰もがわかる現場づくり」とは、具体的には(1)初心者、(2)高齢者、(3)外国人労働者の三つのタイプの作業員を想定して、作業方法を直感的に理解できるように、庫内の掲示物などの見せ方を工夫する取り組みである。具体的にはゾーンの「看板」、ロケーション番号の「プレート」、レイアウトの「マグネット」を作成し、現場情報の共有化を進めた。

物流現場の多くは、特定のスタッフに情報とノウハウが集中し、全てそのスタッフに聞かないと現場が回らないという状況にある。K社の現場にも、自分の仕事を他人に取られたくないというベテラン作業者がいた。しかし、そのためにそのベテランは休みが取れず、自身の仕事を増やしてしまい、結局は持て余して周囲に迷惑をかけてしまっていた。

物流は個人競技ではなく団体競技である。チームで仕事が出来るようにすることで全体の生産性が向上する。G社の関東拠点でも庫内作業員の多能工化を図るべく、繁閑期のスケジュールを念頭に置いて、訓練のタイミングを模索している。

「⑦物流部の発足」は、G社の売上規模と取扱い品目数、物量、そして物流課題の内容を考えれば必須である。物流専任者を設置して責任の所在を明確化しなければ、事態はさらに悪化していくことが自明である。G社はもはや物流を片手間にできるほどの中小零細ではないことを自覚する必要がある。