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《特別編》事例で学ぶ現場改善:『荷主・倉庫・3PL─業態別アセット戦略』

荷主が物流不動産を所有すればロジスティクス戦略の足枷になる。一方、営業倉庫事業は物流適地の自社施設を基盤とする事実上の不動産ビジネスだ。3PLにはその中間、使用スペースの約半分を所有することで需要変動に対応し、かつ荷主に最適な拠点を提案できる「フリーアセット型」を推奨したい。

適正在庫は二つある

このところ筆者はオーバーフローを起こしている物流拠点を目にする機会が増えている。天井ぎりぎりまで荷物で埋めて、それでもまだスペースが足りないので通路や作業エリアにも荷物を置いている。当然ながら庫内作業に支障を来す。出荷できない状態に陥っていることもある。

背景にあるのは輸送費の上昇だ。トラック運賃の値上がりで物流費が予算を大幅にオーバーしてしまった。せめて倉庫費用は抑えたい。そのため普通であれば外部倉庫を借りて溢れた在庫を逃がすところを、そうしない。メーカーが外部倉庫を借りる代わりに、販社や代理店に在庫を押し込む。それを販社や代理店が業務委託先の物流会社に、“これも何とか入れてくれ”と押しつける。

委託先が大手の物流会社であれば、“もう入りません”ときっぱりと断るかもしれない。しかし、たいていは要請を受け入れてしまう。センター長や現場のスタッフは、無駄な在庫が多いとは感じていても何がどれだけ多いのかは分からない。適正在庫を把握していないからだ。

ここで注意してほしいのが、適正在庫は実は二つあるということだ。一つを「適正在庫A」、もうひとつを「適正在庫B」と呼ぶことにしよう。Aは荷主にとっての適正在庫だ。欠品を発生させることなく、業界平均以上の回転率を維持するように管理する。一方、Bは荷主から倉庫業務を委託されている物流会社にとっての適正在庫だ。これが物流会社の採算管理のベースになる。

倉庫料金は基本的に保管料と荷役料の二つで構成されている。保管料は、月当たりの坪単価や平米単価など使用面積、もしくは使用容積で決まる。一方、荷役料は入出庫、梱包、流通加工などの作業量に応じて発生する。荷主の在庫が増えれば使用面積が大きくなるので、物流会社の保管料収入は増える。しかし、滞留在庫や不動在庫は荷役が発生しない。動かない在庫が一定の割合を超えると、その現場は採算が合わなくなってしまう。もちろん荷主にとってもマイナスだ。

こうした場合に“できるセンター長”は、在庫の適正化を荷主に提案する。滞留在庫とデッドストックを定義することがその第一歩だ。小売業や外食産業のセンターの場合は、あらためて定義しなくても7日分が一つの目安になっている。それ以上は在庫過多と業界人なら常識として分かっている。

しかし、他の業界にはそうした“暗黙の基準”が見られない。そこでSKUの特性に合わせて自分たちで、滞留在庫3カ月、デッドストック6カ月といった具体的な基準を定める。それを物差しとして滞留在庫とデッドストックの実態を物流会社から荷主に定期的に報告する。

さすがに荷主も目の前にデータを突き付けられたら問題と向き合うようになる。商品マスターの更新の頻度を上げたり、終売品や返品在庫を処分するなど、過剰在庫の解消に動く。その結果、動かない在庫が現場からなくなる。倉庫のオーバーフローが解消される。物流会社は採算が取れるようになる。

さて、前振りが長くなったが、今回は本連載の特別編として、物流倉庫のアセット戦略について筆者の考えを述べさせてもらう。結論から言えば、物流アセット戦略は、荷主企業、営業倉庫、3PLでそれぞれポイントが違う。

まずは荷主。自社施設の所有にこだわる荷主が今でもかなりいる。しかし、筆者は思いとどまるように進言している。最適地に自社施設を所有している荷主をほとんど知らないからだ。むしろ“何でこんなところに”と首を傾げたくなるような山奥に大規模な拠点を所有しているケースにしばしば出くわす。聞けば、土地が安かったので数代前の経営者が購入を決めた、といった具合だ。

その荷主、正確にはその荷主が業務を委託している物流会社は、庫内作業員を集めるのに大変に苦労する。当然それは委託料に反映される。集荷に来てくれる特積会社も限られているので運賃の値上げ要請にも逆らえない。しかし、拠点を売却したくても転用しようのない土地では買い手がつかない。結局その場所から動くこともできず、不利な状況を強いられ続けることになる。

物流一等地であれば所有してもいい、ということでもない。ある大手荷主は関東と関西にそれぞれ大規模センターを設立して東西2拠点に在庫を集約している。集約した当時はそれが最適だったのだろう。しかし、輸送需給が著しくひっ迫した今、関東全域を1拠点でカバーする体制に無理が生じている。拠点から距離のある納品先のリードタイムを維持できなくなった。BCP問題も表面化している。

そこであらためて納品先と物量をマッピングして着地点分析を行ったところ、千葉と神奈川、そして埼玉の3カ所にそれぞれ中型の拠点を置いた時にトータルコストは最小になる、という結果が出た。拠点の分散はリスクヘッジにもなる。

しかし、この荷主も簡単には動けない。立地が良いため、拠点の売却はできるだろう。今なら良い値段がつくかもしれない。それでも移転までには相当の時間がかかる。やはり自社施設が、ロジスティクス戦略の足枷になっている。

アセットの所有にはもうひとつ問題がある。荷主が所有する施設で、業務だけを委託されている物流会社は管理が杜撰になる。あまり指摘されることのない話だが、筆者は確信を持っている。他人の施設なので、そもそもスペースを有効に利用しようという意識が働かない。光熱費を節約することもない。誰もいないフロアに煌々と明かりがついている。使用する土地や施設に責任を持たないと、オペレーション能力は向上しないのである。

 

3PLはアセットフリーが理想形

一方、倉庫会社は事実上、不動産会社であり、アセットが全てといっていい。実際、倉庫会社はどこも不動産賃貸を事業の柱の一つに据えてている。倉庫として購入した土地をマンションやオフィスに転用することになっても、まず物件は手放さない。自分で賃貸する。

物流事業も所有アセットをベースにしている。物流需要のある立地に所有するアセットがそのままその倉庫会社の競争力だ。償却が終わった施設を使った提案は、拠点を賃貸する必要のあるノンアセット型3PLと比べてコスト面で圧倒的に有利だ。

もっとも、日本では3PLも物流施設を自社で所有するアセット型が大部分を占めている。完全なノンアセット型はプレーヤーの数が限られる。ただし、アセット型であっても倉庫会社とは戦略が違う。倉庫会社が例外的にしか賃貸施設を使用しないのに対して、3PLはアセット型でも一定の比率で賃貸施設を使用する。

筆者は3PLに対して「フリーアセット型」と呼ぶアセット戦略を推奨している。使用面積の半分を自社で所有して残り半分を賃借する。自社の所有アセットにしばられず、その荷主にとって最適な拠点を提案できるようにする狙いだ。

荷主は倉庫会社を物流不動産を提供するアセットベンダーとして見ている。実際、倉庫会社はその荷主にとって最適とはいえない立地であっても、自社施設の利用を前提とした提案をする。倉庫会社の弱点だ。しかし、3PLも自社施設が空いていれば、それを埋めようと同じようにするしかない。客観的かつ中立的な提案ができなくなる。

従って3PLは空いた倉庫を所有してはならない。空室リスクは常にある。それでも使用面積の半分を借りている状態であれば、賃借分を自社アセットに寄せることでリスクを回避できる。つまりはスペース需要の波動に対応できる。

もちろん賃貸施設はコスト高だ。しかし、荷主の所有する施設や償却済み施設とは違って、使用しているスペースにコストを支払っているという意識がオペレーションを向上させる。経費を節約してスペース効率を上げ、空いたスペースに別の荷物を入れる。そうした工夫が3PLのコスト競争力を高める。倉庫会社との差別化が可能になる。

ただし、賃貸比率が大きくなり過ぎるとサービスの供給が不安定になる。賃貸施設は貸し主や地主の事情で契約内容が変更になったり、更新できなくなる可能性がある。安定運営を最重視する大手荷主から敬遠される。その点、自社物件には安心感がある。これは傭車の考え方とも一致する。従って3PLにも一定のアセットは必要だ。その比率は50:50が目安と筆者は考えている。