Top > 雑誌寄稿 > 第192回 事例で学ぶ現場改善:『総合食品卸E社の最適化プロジェクト』

第192回 事例で学ぶ現場改善:『総合食品卸E社の最適化プロジェクト』

従来から商物分離を方針としてきた卸があらためて物流最適化に取り組んだ。自分たちの考え方や物流管理レベルは客観的にどう評価されるのか。経営陣はそれを確認するために、われわれ物流コンサルタントをプロジェクトに加えた。その結果、経営陣の意識と現場の運営レベルにはギャップのあることが明らかになった。


在庫を分散して輸送距離を短縮

E社は関東一円を商圏とする総合食品卸である。取扱い品目は約1万2千。物流センターを関東圏の6カ所設置している。年商は約300億円。そのうち9割は通常の商流だが、残りの約30億円は2次卸向けの代理配送など、物流サービスによる売り上げである。

先々代からのビジネスモデルとしてE社は「在庫と倉庫は自社所有、庫内作業と配送は外部委託」を方針としている。昔から商物分離を実践していたことになる。

このところE社の業績はECの取り扱い拡大と新規顧客の獲得によって拡大する傾向にある。その結果として既存倉庫のキャパシティが限界に近づいていた。このことをきっかけに、E社の経営陣に「われわれの倉庫運営や在庫管理、また新しく動き出した受発注センターの体制は本当にこれで良いのだろうか」という疑問が沸いてきた。

外部の専門家としてわれわれ日本ロジファクトリー(NLF)がその相談相手を務めることになった。初回のE社との打ち合わせは、さながら取締役会の様相を呈していた。社長、専務、常務のトップ3がプロジェクトメンバーに加わっていた。

E社が物流を重視していることは彼らの話しの内容からも伝わってきた。その時点でE社は既に配車センターの構想を持っていた。一般にメーカーや卸における業務の集約化は、(1)物流センター、(2)受注センター、(3)在庫センター、(4)配車センターというステップを踏む。その最終段階まで到達していたわけである。

それに対してわれわれNLFはE社の物流最適化の第一弾として次の5項目を提示した。

①拠点別出荷振り分け

②配車業務の一元化に向けた配車センターの発足

③着地点分析による出荷拠点の最適化

④在庫量および取扱アイテムの適正化

⑤納品カルテ管理とメンテナンスの自社化

右の①~③はいずれも配送コストの削減が目的である。「①拠点別出荷振り分け」では、まず各拠点の出荷対応エリアを確認する。納品先の最寄りの拠点から出荷すれば、長い距離を運ばなくてよくなる。当たり前のことではあるが、実際にはそれができていない。1ピースを納品するために遠方まで車を走らせていたりする。

理由の一つは、納品場所が複数ある得意先でも在庫の保管は1カ所に集約しているためである。それによってその得意先向けの在庫は確かに管理がしやすくなる。しかし、出荷拠点から距離のある納品先ができてしまう。同じエリアに向けて複数の拠点からそれぞれ車両を走らせるという無駄が生じる。

同じ得意先であっても納品先別に最寄りの拠点に在庫を分散すれば輸送距離を短縮できる。同じエリアに複数の拠点から車両を出すこともなくなる。車両の回転数を増やせることもある。在庫管理の難易度は上がるが、これだけ運賃が値上がりして、車両の確保自体が難しくなってきた現状では、十分に検討する価値がある。

「②配車業務の一元化に向けた配車センターの発足」は、その次のステップだ。ここでは全体最適化の視点で配送ルートを“清流化”する。E社の配送ルートは網の目のように錯綜して一都三県を覆っていた。それだけ無駄に走らせているということだ。圏央道の開通などによって道路アクセスも以前とは変わっている。あらためて配送ルートを設定し直すことでトータルの配送距離を短縮できる。ドライバーの拘束時間も短くなる。

さらに、E社のケースではそれまで1日に1回転しかできなかった車両を2回転させたり、2回転の車両を2・5回転させることができるようになった。最終的には車両台数の適正化、つまり削減することができるはずだ。ただし、そのためには次のような準備が必要になるだろう。

・ どの荷主にも納品できる「フリー車」の設置

・ フリー車による誤配の防止措置

・ フリー車に対応できる配車管理システムの導入もしくは構築

・ 配車ノウハウの構築(納品先の出退店などによる配送ルートの組み替えノウハウを含む)

右の①と②はE社の現状の拠点網を前提とした改善だが、「③着地点分析による出荷拠点の最適化」は、主要な得意先の納品場所をマッピングして拠点網のあるべき姿を明らかにした上で現状とのギャップを検討するというアプローチをとる。

本来であれば全ての納品をマッピングするべきだが、E社の場合は小規模な納品先が多く、それを含めて計算すると作業負荷が大きくなり過ぎる。そこで主要な得意先数社に対して、それぞれどこにマザーセンターを置き、どのように在庫を分散すればトータルの輸送距離が最も短くなるのかを分析した。

その結果、E社の既存の6拠点はいずれも最大得意先のA社向けのマザーセンターとして適地にはないことが明らかになった。A社は近年、北関東への出店を活発化している。E社が手薄とするエリアであった。他にも同エリアへの出店を増やしている得意先がある。それに対応した新たなセンターの開発を計画することになった。

 

軒先情報が属人化するリスク

「④在庫量および取扱いアイテムの適正化」は、倉庫スペースを拡張することなく済ませたいという狙いであった。実績データを分析した結果、われわれは意外な事実を目の当たりにすることになった。出荷頻度の高いA商品の欠品が常態化している一方で、B・Cランクの在庫は30日分を大きく超えていた。

これを受けて、現場での在庫差異の原因究明、アイテム別適正在庫量と発注点の再設定、メーカーとの発注ロット交渉に着手した。また現場は“天地無用”や“先入れ先出し”の徹底、“直置きの禁止”などの基本的な改善が必要であった。さらにはロケーション管理や生産性向上の取り組み、ネステナー/ラックの有効活用による保管効率の向上なども有効と考えられた。つまり物流を重視するE社の経営陣の意識と実際の現場の運営レベルには大きなギャップがあったのである。まずは現場運営力を向上させなければ経営陣の構想が実現しないことは明らかであった。

このことを経営陣に伝えると社長は「そうか、現場への目配りができていなかった。早急に各センター長と面談を行う」という反応があった。専務、常務からは「過去には小まめに現場をラウンドしていたが、ここ数年はセンター長からの報告に頼って現場任せにしていた」という。これを受けて“あるべき姿”に向け経営陣の役割分担をあらためて確認した。

納品先別の詳細な納品情報を整理した「⑤納品カルテの管理とメンテナンスの自社化」は、全ての配送を外部委託してきたE社にとって、とりわけ重要な課題であった。協力物流会社にカルテの作成を求めても、そう簡単には応じてくれないのが常である。軒先情報を知られると他の物流会社に仕事を奪われてしまうという心配が先に立ってしまう。

そこで協力会社に対して取り引きの継続を確約して、さらに「納品カルテ作成協力費」を提供する条件で、E社のスタッフが配送車に横乗りして一つ一つカルテを作成していった。

蓋を開けてみれば実際には協力会社自体にも情報はなく、ドライバー個人にしか状況が分からないというケースが多かったことには驚かされた。われわれは「スイッチングリスク」と呼んでいるが、そのように情報が属人化すると、ヒトが変わると必ずミスやトラブルが起きる。これは配送だけでなく庫内作業でも同じである。

これに付随して納品ドライバーにタブレット端末を配布して、配車センターからドライバーに必要な納品カルテ情報を配信したり、大型センターのバース予約に利用することを検討している。当初はスマートフォンを端末に使おうかと考えたが、高齢のドライバーには画面が小さく見づらいこと、また“ながら運転”を避けるため、あえて大きな端末を導入して安全運転を徹底すべきと判断した。

こうしてE社の改革・改善は進んでいる。一般に経営資源は「ヒト、モノ、カネ、情報」の四つで説明されることが多い。しかし、E社のケースを見て、足元の現状を認識する力もまた見落としてはならない要素であることを痛感したのであった。