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第197回 事例で学ぶ現場改善:『医療機器卸B社の物流再構築プロジェクト』

卸でありながら歴代のトップは物流をそれほど重視してこなかった。医療機器という高額品を扱っていることもあったのかもしれない。しかし、オーナー一族の4代目はトップに就任すると従来の方針を一転した。中間流通業の付加価値の源泉は物流にあると見定めて、ゼロベースで再構築に乗り出した。


物流軽視の経営から一転

B社は年商約300億円の医療機器卸だ。本社を東京に置き、北海道、仙台、西東京、名古屋、大阪、広島、福岡の7カ所に支社を設置している。物流拠点は関東、関西、九州の3カ所にそれぞれ保管型センターを構えている。いずれも運営は外部委託である。

取扱アイテム数は約6500。医療機器本体だけでなく、部品や副資材に取り扱いを拡大していることから、ここ3年で約20%増えている。売り上げとアイテム数の拡大によって、現状の物流体制はキャパオーバーが近付いていた。そこで、これまで先送りしてきた物流にメスを入れることとなった。

B社の歴代の経営トップは、どちらかと言えば物流軽視の傾向があったようだ。同業他社のやり方を見様見真似で採り入れるばかりで、B社が自ら考案して作り込んだ痕跡はどこにも見られなかった。

2年前にトップに就任したオーナー一族4代目の現社長が、その方針を改めた。「物流こそ、われわれ中間流通の付加価値の源であり、重要なファクターである」と社内外に明言していた。その具体的なアクションを取るに当たって社内には物流のスペシャリストが育っていないことから、われわれ日本ロジファクトリー(NLF)に声が掛かったのであった。

従って今回のプロジェクトは明確なトップダウン型であった。プロジェクトメンバーにはトップの他、専務、役員、営業・調達・業務の各部長がそろい踏みした。NLFによる物流診断と提案内容を確認した上で、あらためて実務メンバーの構成を見直すということで動き出した。

われわれNLFのスタッフは約2カ月をかけて現場調査、担当者へのヒアリング、実績データの分析を行った。そこから多くの課題・問題点が抽出された。改善項目は短期・中期・長期を合わせて50を超えた。

われわれは各テーマに優先順位を付けてB社に提出した。B社側ではその提案を精査して、対応や受け入れの可否を検討した。最終的には、改革のフェーズⅠとして次の五つのテーマを段階的に進めていくことになった。

①在庫管理の強化

②物流拠点の最適化

③物流KPIの導入

④サービス・レベル・アグリーメント(SLA)の締結

⑤パート・アルバイトの時給アップ

「①在庫管理の強化」策として、次の三つの項目に取り組むことになった。⑴在庫削減、⑵在庫差異の解消、⑶支店在庫の集約である。

B社の全社在庫は40日以上あった。月1回転もしていなかった。その内訳は想像していた通りであった。出荷頻度の高いAランク品は欠品するほどよく回転している。一方でCランク以下は「滞留在庫(スリーピングストック)」「死蔵在庫(デッドストック)」のオンパレードであった。

一方、Bランク品は商品ライフサイクルのS字曲線、いわゆる成長カーブの「成長期」に当たるアイテムと「停滞期」に入ったアイテムが混在している。われわれは常日頃から在庫回転率の改善は、Bランク品の管理次第だと繰り返し伝えている。Bランク品の精査、分析、需要予測がカギを握る。まずは発注点管理による適正在庫の算出が不可欠であった。

⑵在庫差異は、発生原因を調べたところ運営委託先の作業に問題が見つかった。B社の取り扱いアイテムは全て外装にバーコードが印字されている。QRコードを使っているアイテムもある。ところが輸入商材の一部に、輸送段階で印刷がこすれて薄くなってしまい、庫内作業担当者がハンディ端末(HHT)で製品のバーコードをスキャンしても認識できないことがあった。

その場合はHHTのモードを「マニュアル」に切り替えて、バーコードナンバーを手入力するルールだったが、現場が作業生産性を追うあまり「強制終了」したケースが複数見つかった。委託先各社に改善要請の通達を出した。その後は減少する傾向にある。

関東に2拠点目の設置を決断

⑶支店在庫の集約は、在庫削減よりもむしろ商物分離の徹底が主な目的だった。先代の商物一体時代の名残りとして、ベテラン営業マンが部品や副資材の在庫を支店に抱え込み、連絡が入ると自分でワンボックスカーを運転して即納するという対応を取っていた。

支店在庫を全て全国3カ所のDCに引き上げて二重在庫を解消した。これに伴い倉庫スペースを併設した支店オフィスの移転を進めた結果、会社全体の事務所家賃が35%も削減された。さらに営業車両もワンボックスカーから小型乗用車への切り替えを進めている。

「②物流拠点の最適化」は、「立地」と「規模」の二つの角度から検証を進めた。「立地」については、エリアごとに着地点分析を行ってゼロベースで最適立地を抽出した。

その結果、関東は現状の神奈川の1カ所では、埼玉東部エリアと千葉エリアの売上増に伴う納品頻度の増加、および営業エリア拡大に対応できないことから、対象地域にもう1カ所DCが必要との結論が出た。

これに対してはプロジェクトメンバー以外の営業部門からも「是非、設置してほしい。もう1カ所あれば顧客に納期を確約できる。営業力が強化される」などの反応があった。フェーズⅡで着手することに決定した。

また物流拠点の「規模」に関しては今後の営業戦略、商品戦略から拡張性のある営業倉庫が望ましいと判断し、既存の3拠点の委託先にそれぞれ要望を出した。現在は物件の紹介待ちという状況にある。

「③物流KPI」は、今では物流管理の基礎の一つに数えられるが、B社は支払運賃をチェックしている程度で、物流の見える化、数値化が全くなされていなかった。プロジェクトチームが検討の末、次の六つの指標を物流KPIに設定して算出・管理していくことになった。

・物流拠点の作業生産性(MH)

・在庫差異率(金額/品目数)

・在庫回転率(日数)

・欠品率

・誤出荷率

・対売上高物流コスト比率(社内物流費含む)

スタートとしてはやや項目数が多く、算出の作業負担も懸念された。しかし、プロジェクトの事前協議で来期から正社員3人およびパート社員という陣容で「物流本部」を発足させることで、トップおよびプロジェクトメンバーの合意を得ていた。「物流本部の業務の一環として問題なく組み込める」とのトップの後押しもあり、実施に踏み切った。

 

「同一労働同一賃金」への対応

「④SLAの締結」は、③物流KPIの導入と連動している。KPIは荷主が算出するだけでは意味がない。実際に現場の運営に当たる委託先とKPIを共有して、同じ方向性、同じ目標に向かって協力して取り組みを進めなければ“絵に描いた餅”で終わってしまう。プロジェクトチームからそうした声が上がり、各委託先とSLAを締結することとなった。

ただし相手がある話であり、当然ながら調整や説明が必要であった。案の定、委託先のうち1社は当初後ろ向きだった。何度も交渉を重ねた。その結果、月1回実施しているB社の業務部と委託先との連絡会議を可視化し、また委託先にとっても物流業務の付加価値向上につながることを伝えて、何とか締結にこぎ着けた。

「⑤パート・アルバイトの時給アップ」は、2020年4月(中小企業は2021年4月)に、働き方改革関連法がその柱とする「同一労働同一賃金」を盛り込んだ「パートタイム・有期雇用労働法」が施行されるのを見据えての実施項目であった。

B社が各地で直接雇用して受注処理、入力処理、出荷指示データの送信などに携わっている計約20人が対象であった。時給単価が派遣レベルに達してしまうスタッフもおり、コストアップが避けられなかった。フェーズⅡでは当該業務のアウトソーシングを検討する計画だ。

さて、この原稿を書いている現在、新型コロナウイルスで世界が大混乱している。物流現場も例外ではない。今回の問題が終息したら、BCP(事業継続計画)の見直しが求められることになるだろう。これまでのような自然災害だけでなく感染病対策を含めた災害物流のスキームを新たに作り上げる必要がある。

 

 
物流コンサルティング・コンサルタント