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《特別編》新型コロナ 物流への影響:『現場からのサバイバルメッセージ』

新型コロナウィルスの感染拡大によって物流市場の環境は180度近くねじ曲げられた。年明けから4月初頭に、筆者の周囲に起きた現象を報告し、これから物流の世界に起きるであろう六つの変化とその対策について、緊急メッセージを発信する。

 

筆者の周囲に起きた六つの事象

⑴ 都心の首都高がガラ空き

大阪在住の筆者はこのところ、東京に出張して物流センターを回る時にはレンタカーで移動するようにしている。新型コロナウィルスの感染拡大が本格化した4月に入ってすぐにも、その機会があった。東京駅の近くでレンタカーを借りて首都高に乗った。平日の混む時間帯にかかわらず目を疑うほど道はガラガラだった。しばらく進んで、外環道に差し掛かると若干混雑し始めた。それでも、道路交通状況を知らせるパネルは、東京から放射状に伸びる関越道、東北道、常磐道がいずれも全く渋滞がないことを示していた。

帰り道も同じで、外環道を過ぎて23区に入ると車の数が目に見えて減った。都心の高層ビル街が怖いほどはっきり見えた。首都圏の物流拠点がどれだけ外環道周辺に密集しているのか改めて痛感した。外環道エリアに有事があれば、首都圏の物流網は壊滅的なダメージを受けるだろう。

 

⑵ 物流センターでマスクをもらう

この日は大規模な物流センターを数カ所訪問した。全てのセンターの受付で手の消毒、検温、マスク着用を要請された。そのために通常よりも10分~15分ほど入館に時間がかった。あるセンターの受付で、クルマの中にマスクを置き忘れてしまったことに気付いた。そのことを受付の担当者に伝えたところ、無償でマスクを提供してくれた。

このマスク不足の折、ありがたい話だが、マスクを持参していない来訪者は筆者以外にもいるだろう。受付に予備のマスクを準備しておかないと、センターの運営に支障をきたしてしまうことに後になって気付いた。物流センターのセキュリティリスクの一つに、感染病を加えることが必要になったのである。

 

⑶ 物流は止まっていない

トイレットペーパーをはじめとする日用品の品切れは、買いだめ、過剰購入、あるいは原材料の欠品や調達難などによる生産停止が原因であって、物流は止まっていない。

 

⑷ 現場はテレワークできない

荷主企業はもちろん、物流企業も大手の本社部門は在宅勤務を実施している。しかし、当然ながら現場はテレワークできない。時差出勤にしても、入出荷時間に合わせるために、従来から勤務シフトを実施してきた。従って現場では、消毒手洗い、うがいの徹底、検温、換気などの基本的な感染防止策以外に有効な対策が見当たらない。

 

⑸ 車両が余っている

食品スーパー、ドラッグストア、コンビニ、日用雑貨など、家庭内で消費・使用する財を扱う物流センターは、政府や自治体の外出自粛要請をきっかけにフル稼働となっている。しかし、それとは対照的に精密機械、自動車関連、重厚長大産業では、工場の生産中止や輸入部品の停滞で出荷できない物流センターや倉庫が目立っている。トータルでは「55%の消費が消滅した」とNHKの番組で野村総合研究所のアナリストが述べていた。荷動きが停滞しているのは現場を見ても明らかだ。

 

⑹ 人手も余っている

人手不足が一転して人余りになった物流会社、物流センターを多く見かけるようになった。

 

これから起きる六つの変化とその対策

⑴ 物流からロジスティクスへ

今、求められているのは、モノを運ぶことではなく、有事の対応だ。有事を想定した在庫の備蓄、防災、安全機能の標準装備が急がれる。本来は軍事用語で「兵站」を意味する「ロジスティクス」がまさに問われている。「物流からロジスティクスへ」という管理コンセプトの進化は従来から提唱されてきた。それを今度こそ実践しなければならない。

 

⑵ 付加価値追求から「安心・安全」へ

これまで週6日、毎日納品していた取引先に対して、納品の頻度を週3回に半減する卸が昨年あたりから本格的に増えている。実施前には欠品の増加を懸念する声が必ず上がるが、実際にはほとんど問題はおきていない。新型コロナパニックに直面している今もそれは変わらない。これまで付加価値と考えていたことが、いかにムダであったのかが明らかになった。

 

⑶ 備蓄倉庫の再評価

事業継続計画(BCP)に基づく備蓄倉庫、いわゆる「バッファーセンター」を再評価する必要がある。基本的にBCPは想定されるリスクを前提に設計されている。しかし、想定外の事態がここまで頻発するようになった今、リスクの概念を見直して、想定外の事態に対してバッファーをどこまで準備するか判断する必要がある。

 

⑷ 安全在庫の定義見直し

安全在庫を一律の「安全係数」で計算するのは危険が大きい。欠品時の影響は製品によって違う。安全の定義を細分化して、それぞれの欠品の影響度に応じた安全係数の設定が必要である(図)。

⑸ サプライチェーンの分散化

コスト重視のサプライチェーンは限界に来ている。ボリュームディスカウントに主眼を置いた集中購買型の調達から、安全・安心を重視する分散型の購買調達への見直しが不可欠である。

加工品を扱うA社は、従来は素材を中国から調達していたが、7年前にベトナムに移管して、昨今では中国からの調達はゼロになっていた。これが今回のコロナ問題では、現時点に限って言えば奏功している。しかし、目の前にはベトナム依存という新たなリスクが立ちはだかっている。中国とベトナムに分散すべきだったと筆者は考えている。

食品メーカーB社は北海道に工場を置いて本州に商品を供給している。首都圏への輸送にはリスクを分散するため、二つのルートを構築していた。太平洋側ルートと日本海側ルートである。東日本大震災の際、太平洋側ルートは壊滅状態に陥ったが、日本海ルートが機能した。それによってB社は事実上、北海道から調達できる唯一の食品メーカーとなり、顧客からの信用を獲得するだけでなく、シェアを伸ばすことに成功した。

これらのことは物流企業の経営にも当てはまる。内需品と外需品、春夏品と秋冬品、消費財と耐久消費財、原材・資材と製品・商品、軽薄短小品と重厚長大品など、「特性」と「時期」が異なる荷主、荷物を、バランス良く組み合わせることで、車両や設備の稼働率を上げるだけでなく、リスクを分散できる。マーケティングに基づく営業の実践がそれを可能にする。

 

⑹ 事業継続計画からサバイバル計画へ

BCPでは生ぬるい。大規模な経済危機に直面している今、事業の継続ではなく、企業として生き残るためにどうするか、組織の生き残りをかけた、いわばビジネス・サバイバル・プラン(BSP)が必要であり、それは時間との勝負であると著者は認識している。

 

 
物流コンサルティング・コンサルタント