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第198回 事例で学ぶ現場改善:『日用雑貨卸K社の物流改善フェーズ2』

物流改善プロジェクトを1年前に終えた日雑卸からあらためて連絡が入った。新型コロナの影響で物量が急増、オペレーションが混乱しているという。あらためて現場視察に入った。長年続けてきた物流センターの自社運営を見直す必要があるようだ。しかし、すぐにアウトソーシングを導入することはできなかった。

1年余りの間に在庫量が急増
K社は年商約450億円の日用雑貨卸である。東海地区に本社を置き、関東、東海、関西、九州(福岡)にそれぞれ在庫型物流センター(DC)を設置して、全ての拠点を自社運営している。取扱品目は約7800。容積が大きく嵩張る商品から爪楊枝などの小物のバラ出荷まで、作業効率の悪い商品もかなり扱っている。裏返せばそれがK社の差別化戦略でもあった。

われわれ日本ロジファクトリー(NLF)は、2年ほど前にもK社の物流改善を支援している。1年弱にわたる活動を実施して、生産性、品質の改善目標を達成して、プロジェクトはいったん終了した。
それから1年余りが経過して、同社の物流部長S氏から再び連絡が入った。「昨今のコロナ禍の影響もあって経営環境が大きく変わり、現場の運営力が低下している」という。あらためてK社の物流施設の中で最も規模が大きい東海センターの改善に着手することになった。

今回を「フェーズ2」とすると、前回の「フェーズ1」では「現場スタッフは日常業務に追われて改善まで手が回らない」「通路に商品を置いているなど、5Sができていない」といった基本的な課題に取り組んだ。それに対してフェーズ2は「巣ごもり消費の拡大による売上増に物流の処理能力が追いつかない」ことが最大の課題であった。

われわれは1年ぶりに東海センターを訪問して再度、現場を調査した。確かに物量が増えている。あちらこちらで商品が棚から通路に溢れ出している。フェーズ1でクリアしたはずの課題であった。S物流部長および東海センターの管理を担当するA物流課長を相手に、ヒアリングと打ち合わせを行い、次の五つの項目に取り組むことになった。

①センター移管の検討
②アウトソーシングの検討
③朝礼、昼礼の実施
④「センター長」の設置
⑤個人面談の実施

「①センター移管の検討」はキャパシティの拡大が目的である。現状の施設はキャパオーバーが明らかだった。天井が低いため高さを使うこともできない。「ネステナー」を使ったパレットの段積みは2段が限界であった。さらに建物の老朽化が進んでいること、空調設備等を設置しようとすると多大な費用がかかることなど、総合的に判断すれば移管が得策であった。
ただし、東海センターはS社の基幹センターであり、本社から離れた場所に移設するわけにはいかない。物件を探してみたところ、幸い既存センターから直線距離で1キロメートルほどの場所に条件をクリアできる空き施設が見つかった。現状と比べて坪当たり賃料は300円上がるが、今回のプロジェクトの改善効果でコストは吸収できると判断した。現在、同物件の所有会社と順調に交渉が進んでおり、今年9月には移管を実施する計画で動いている。

自社運営の方針見直しを提案
「②アウトソーシングの検討」は筆者からのアドバイスであった。これまで全ての物流センターを自社運営してきたS社の方針とは反することであったが、S社の経営全般における物流の比重は同業他社と比較して重過ぎると、筆者は感じていた。

卸が物流を重視するのは当然とはいえ、S社は現場作業員の採用や労務管理にかなりの労力を割いていた。本来であれば戦略の立案や方向性の判断、付加価値の創出に割くべき正社員スタッフの時間と人手が間接業務や雑務、イレギュラー対応などに取られてしまっている。このような状況であれば卸としての本業に特化するため、拠点運営を一括してアウトソーシングするのも一つの選択肢である。

ちょうどS社では東海センターのプロジェクトとは別に、中・四国エリアに新たにDCを設置する計画が進んでいた。そこでS物流部長は新DCの運営をアウトソーシングする前提で物流会社数社と交渉を行った。しかし、結果は「保留」であった。理由はコストが合わなかったためである。現状のオペレーションをそのまま外部に委託すれば、むしろ高くついてしまうことが分かった。

この経験から、われわれも含めたプロジェクトチームのメンバーたちは逆説的に、アウトソーシングが可能なレベルまで、S社の現場をブラッシュアップしていく必要があることを痛感したのであった。

それでも、S社の物流自社運営が限界に近づいているのは、東海センターが業務量の増大に対応できなっていることからも明らかであった。そこで自社運営のレベルアップによって「誰もがわかる現場づくり」を推進しながら、それと並行してアウトソーシングのパートナー候補との協議を継続することとなった。

「③朝礼、昼礼の実施」は現場作業員の意識の向上を狙いとしている。これも逆説的ながら、アウトソーシングの実現に向けた自社運営強化策の一つである。

S社の改善のフェーズ1では、「2S(整理・整頓)」「商品保管の方法」「ロケーションの作り方」「保管棚・ラックの効果的な活用法」「作業生産性向上のためのレイバーコントロール」「六つのない(持たせない/書かせない/歩かせない/待たせない/考えさせない/探させない)の実践」──などを実施した。現場スタッフは物流改善の基本を身につけるレベルまではこぎ着けた。

フェーズ2では、そこで学んだスキルを生かすために、意識を変えることに重点を置いた。実際には、基本的な、コミュニケーションの方法や、前向きな姿勢・考え方(ポジティブシンキング)から教え込む必要があった。現場スタッフの高齢化が進み、しかも物量が増大したことで現場が疲弊していたのである。

形骸化していた朝礼のやり方もリセットした。(1)現場責任者からの伝達事項、(2)昨日の物量(ピース、行数)と本日の予定物量(ピース、行数)の報告、(3)出欠確認と体調管理をその目的として明確にした。さらにそこにラジオ体操を加えて、身体から意識(脳)へ刺激を送るようにした。一方、昼礼はレイバーコントロールの核として位置付けた。各現場リーダーを1カ所に集め、物量と終了予定時間、人員の過不足を調整するのである。

センター長の個人面談は効果的
④「センター長」の設置は、当然ながら現場責任者を明確にする目的である。それまでK社には「センター長」という職制が存在しなかった。本社目線の役職である“課長”が各地のDCの現場責任者だった。現場作業員の目には「本社から管理職が来ている」としてしか映っていなかった。自分たちの“親分”として扱っていなかったのである。

そのために「報告・連絡・相談」が全く機能していなかった。事前相談や事後報告もないまま、各人が各自の判断で物事を処理、対応していた。これを放置していればいずれ大きな問題を引き起こす恐れがあった。早急に「センター長」を設定する必要があった。

各拠点のセンター長と現場スタッフによる「⑤個人面談の実施」も、現場意識の向上とコミュニケーションづくりが表向きの狙いであるが、筆者の主たる目的は現場の不平不満の発散とその情報収集にあった。所要時間は1人当たり40分~60分。センター長はその内の7割の時間を割いて意見を聞く側に回る。残り3割でセンター長の考え、やりたい事、協力事項などのビジョンを伝えるようアドバイスした。

現場は一人一人違う感情を持つ人間の集まりであるから、物流に限らずどんな現場でも個人面談は行うべきである。しかし、センター長の多くは現場のリーダークラスにその役割を丸投げしてしまう。丸投げされている現場リーダークラスが会社とスタッフの板挟みになって悩んでいるケースは少なくない。

この個人面談を行うと、どのセンター長もヘトヘトに疲弊する。しかし、それだけの効果はある。貴重なフィードバックを得られる。また、副産物としてセンター長が個人と1対1で話を聞くという活動が「何かあれば相談できる人がいる」「孤独に物事を考えなくてもよい」というK社の現場に対するスタンスを明示することにもなった。

昨今は物流をアウトソーシングしていた企業が、あらためて内製化に取り組む事例が増えてきた感がある。長年のアウトソーシングによって社内から失われてしまった物流管理能力を取り戻そうという動きであろう。しかし、今回のずっと自社運営を続けてきた企業の場合、一度はアウトソーシングを検討すべきだと筆者は考えいてる。

 
物流コンサルティング・コンサルタント