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第199回 事例で学ぶ現場改善:『日用品メーカーK社の在庫改善プロジェクト』

急成長を続ける日用品メーカーが過剰在庫と在庫差異に悩んでいた。担当役員から連絡を受けて同社を訪問したところ、創業者が飛び入りで打ち合わせに参加することになった。果たしてそれは偶然だったのか。今になって振り返れば、当初から創業者はそうしようと密かに決めていたようにも思える。

 

  創業者がミーティングに飛び入り

K社は神奈川に本社を置く、年商180億円の日用品メーカーである。取扱アイテム数は約600。本社に隣接して物流センターを設置しており、社員6人とパート・アルバイト30人を投入して自社運営している。

メーカーといっても自社工場は所有せず全てOEM生産している。生産地は国内60%、欧州35%、その他、中国を含めたアジア5%という比率である。国内外から調達した製品を自社センター経由で各地のユーザーに販売している。

詳しくは書けないが、ユーザーはK社の製品を使用して、あるサービスを提供している。その店舗をK社が全国にフランチャイズ展開している。全体の75%がFC、残り25%が直営という構成である。

そのK社の取締役から、われわれ日本ロジファクトリー(NLF)に問い合わせのメールが入った。「在庫精度を上げたい」という内容であった。筆者の著書『物流のしくみ』(同文舘出版)を読んでNLFを知ったとのことであった。

それから数日後、K社を訪問した。約束の時間よりかなり早く着いてしまったが、どこかで待たせてもらおうと受付方法を確認していたところ、たまたまそこを通りかかった恰幅の良い男性が声を掛けてくれた。

その男性は恐らく創業者のT会長と思われた。事前にK社のホームページで会長の顔写真は確認していた。マスクを付けているため断定はできないが、発しているオーラが違う。われわれを先導してゆったりと歩くその背中越しに、筆者から「T会長様ですね。初めまして」と挨拶した。

やはりT会長で間違いなかった。とり急ぎ名刺を交換し、案内された応接室でしばらく雑談に付き合ってもらっていた。約束の時間になってメールをくれたA氏を含む2人の取締役が応接室に入ってきた。しかし、T会長は席を立たず、そのまま打ち合わせに参加したのであった。

その後の打ち合わせも終始、T会長がリードした。典型的な創業オーナー経営者で自ら動くタイプであり、比較的若い2人の取締役はT会長の横で「怒られる」「うなずく」を繰り返すだけであった。

T会長の説明から、K社は在庫精度の向上を経営テーマとして位置付けていることが分かった。明らかに在庫が多いことに加え、常に大きな在庫差異が発生しているとのことだった。過去には発注点方式や在庫量の適正化に、自分たちでトライしたこともあったが、定着はしなかったという。

この打ち合わせに続いて、われわれは物流センターの視察、担当者からのヒアリング、実績データの分析など一連の調査を行い、後日、K社に対して改善計画のレポートを提出した。

改善事項は全部で48項目にも上った。これらに優先順位を付けて、短期・中期・長期にテーマを区分した。短期のテーマはステップ1とステップ2に整理した。さらにはステップ1のテーマを絞り込んだ。こうして3段階の絞り込みを経て、6カ月間にわたるステップ1の実施項目を主には次の五つに定めた。

①専門部署の設置による責任所在の明確化

②物流部の業務内容の明確化

③在庫KPIの設定

④在庫管理の在り方と進め方

⑤センターロケーションのつくり方と視認性の向上

「①専門部署設置による責任所在の明確化」は、今回のプロジェクトの第1歩であった。K社は前述の通り年商が100億円をはるかに超え、OEM品を国外から調達し、さらには運賃の支払いが年間10億円近くもありながら、物流を監視する組織がなかった。

名目上は製品開発チームが物流管理を兼務することになっていたが事実上機能していなかった。また、あえていえば製造部の中に製品出荷課があり、そこで物流管理らしきことを行っていたが、実態としてはセンター運営の管理であった。

専門部隊として物流部ないしは在庫管理部を新たに設ける必要があった。そこでT会長の肝いりで、製造部門にも販売部門にも属さない、会長および社長直轄の中立的な組織として「物流部」を新設して、社員3人、アシスタント2人という編成でスタートを切った。T会長は「さらに会社組織が強くなる」と大きな期待を寄せている。

続いて「②物流部の業務内容の明確化」を行った。物流部は当面、在庫管理に注力する。改善の兆しが見られるようになったら、次のステップでは、製造・販売とのコミュニケーション、情報の共有化に取り組む。

ステップ2では配送の見直しにも着手する。納品先が全国に広がっていることもあり、これまでは特積会社(路線会社)一本槍であった。それを改めて地場運送会社による一部エリアの積み合せ配送を検討する。それを可能にする配車管理に力を入れる。

 

  会長が現場の不正に目を瞑った理由

「③在庫KPIの設定」は在庫実態の見える化が目的である。それまでも役員クラスはそれぞれ在庫量が多いことを漠然と意識はしていたが、指標が明確ではなかった。そこで正式にKPIを設定して全社で共有することにした。主なKPIは以下の五つである。

・出荷頻度ABCランク別在庫回転率(日数)

・製品カテゴリー別在庫回転率(日数)

・在庫差異率(金額、品目数)

・誤出荷率(件数、行数)

・欠品率(行数)

「④在庫管理の在り方と進め方」は、やや曖昧な印象を与える表現かもしれないが、K社の在庫改善プロジェクトの最大の山場である。前述の通り、K社は過去にも自社改善を行っている。それが機能しなかった理由は、T会長いわく「発注担当者が安全在庫を設定しているにもかかわらず、さらにそこに“保険”をかけた数量で発注している」からである。

発注担当者からのヒアリングでも確認したが、これは事実であった。せっかく発注点を設定したのに人的心理的な判断によって、適正在庫を大きく上回る発注を続けていたのである。再度、発注点ルールに沿った業務を行うため、会長の判断で担当者の交替を実行した。

なお、取り扱っている商品にもよるが、在庫差異の原因の一つに、社内のスタッフによる盗難がある。営業倉庫に委託している在庫の差異は、物流会社側に弁済が発生することもあるため管理者も盗難防止にそれなりに気を配るものだが、自社運営の場合は管理が疎かになりがちだ。

K社もそうだった。驚いたことにT会長はそのことに気付いていた。「あるサイトでうちの商品が転売されとる」と証拠まで掴んでいた。なぜ、そこまで知りながら、これまで放置してきたのか。問題を追及して解決しようとしなかったのだろうか。T会長は次のように筆者に打ち明けてくれた。

「うちの会社は今、年率20%のペースで売り上げが伸びている。この問題を追求することで社内を委縮させて、良い流れを断ち切るようなことはしたくない。また、われわれは創業以来の社風としてトップダウンをタブーにしてきた。社員一人一人が考え動くことを目指してきた」

つまりT会長は、在庫の盗難の問題も含めて、在庫差異の原因究明と解決策がボトムアップで上がって来ることを期待していたのである。しかし、待てど暮らせど一向に社員たちは反応する気配がない。時間が経てば経つほど在庫量は膨らみ、差異が大きくなっていく。その結果、ついに堪忍袋の緒が切れたのであった。

「⑤センターロケーションのつくり方と視認性向上」も、在庫差異の解消に向けた誤出荷防止策の一つである。具体的には、⑴ロケーション番号の振り直し、⑵ロケーション番号の単純化(数字、アルファベット、ハイフンを活用)、⑶ロケーション文字の拡大の三つを実施して、ミスを防止する。

プロジェクトの着手から約4カ月が経過しようとしている現在、K社の在庫量はピーク時から半減し、在庫差異も大幅に抑制された。T会長はわれわれの労をねぎらってくれている。しかし、まだ目標値には達していない。残り2カ月で「在庫日数15日」「差異率0・01%(金額、品目数)」を達成しなければならない。

 

 
物流コンサルティング・コンサルタント