Top > 雑誌寄稿 > 第201回 事例で学ぶ現場改善:『住設メーカーR社のEC拡大プロジェクト』

第201回 事例で学ぶ現場改善:『住設メーカーR社のEC拡大プロジェクト』

巣ごもり需要でネット通販の取り扱いが急増、出荷の遅延が発生している。庫内労働力、作業スペースはひっ迫し、宅配会社から言い渡されている数量制限も超えてしまった。BtoBからBtoCへビジネスが大きくシフトしている現状に物流体制がついてきていない。緊急プロジェクトが始まった。

 

出荷急増で宅配便の数量制限を超過

R社は年商約80億円の住設メーカーだ。東海地区に本社と生産機能の一部、保管型物流センター(DC)を置いている。われわれ日本ロジファクトリー(NLF)はかねてから断続的にR社にコンサルティングに入っており、今回は6度目のプロジェクトとなる。

昨今のコロナ禍による“巣ごもり”需要で、R社が7年前に立ち上げたECサイトの出荷が跳ね上がり、昨年対比140%に達していた。BtoBの落ち込みを補って余りある売り上げになっている。しかし、事業環境の急激な変化に物流体制が対応できていない。その結果、次のような課題が生じていた。

R社はBtoCの配送を大手宅配会社S社1社に依存している。S社からはドライバー不足を理由に1日当たりの出荷個数を100個以下に抑えるように要請されている。しかし、現在の出荷量は1日平均約180個に達している。今のところ集荷には応じてくれているが、いつ断られるか分からない。大幅な運賃の値上げを言い渡される恐れもある。

当面の対応策として、S社の集荷の負担を減らすために、R社のDCで方面別の仕分けや出荷ラベルの貼り付けなどをR社の自社スタッフで処理している。しかし、作業人員と作業スペースの確保が厳しくなっている。

R社の消費者向け販売の一部には、物流センターでの組み立て加工を必要とするものがある。その取り扱いが増加したことで作業負荷が増し、受注から出荷までのリードタイムに遅れが生じている。またそのことがスペースをさらに圧迫する一因にもなっている。

実はR社は物流センターの運営を3PLのF社に委託している。NLFがサポートに入って3年ほど前にコンペを開催、F社をパートナーに選定した。しかし、それ以降も配送会社との取引はR社との直接契約を続けてきた。

F社をパートナーに指命する前まで倉庫業務を委託していた地場物流会社が、路線会社(特積み)や宅配会社を適切にコントロールできなていなかった。そのためR社が直接管理する体制をとった。業務をF社に移管する際にも、運送会社との契約は現状維持とした。時節柄、F社への移管を機に運送会社から運賃の値上げを要請される恐れがあったからだ。

こうした状況を受けてわれわれNLFは今回、次のような改善策を仮説として提示した。

①リードタイムの緩和を前提に、路線会社で宅配対応を行っているF社およびN社と取引を開始して、S社に集中している物量を分散する。

②ショットガン方式の導入。R社のDCから関東と関西のS社の基幹店(ターミナル)に直送することで物量を分散する

③現状、R社が処理している物流加工を3PLのF社に委託する。

④「組立出荷」から「組立納品」に変更する。

⑤住設メーカーA社が組織化している協力会社ネットワークの活用

⑥家具製造小売業B社が組織化している協力会社ネットワークの活用

われわれの提案を受けたR社のG社長は即座にプロジェクトの実施を決断、トップダウンで仮説の検証を進めていくことになった。

①リードタイムの緩和を前提に、路線会社で宅配対応を行っているF社およびN社と取引を開始して、S社に集中している物量を分散する──という仮説は現在、取り組みの最中である。

S社は「160サイズ(タテ、ヨコ、高さの3辺の合計が160㎝)」を超える荷物を宅配チャネルでは取り扱わない方針を会社として打ち出している。R社の製品には160サイズを超える“大物”もかなりある。個数制限超過の問題も含めて、それでもこれまでは例外的に対応してくれてきた。

その理由は、R社を担当するS社の営業所が、他の荷主の物量が減った分をR社でカバーしているのであろうと推測された。サイズの問題も、R社の場合、160サイズ以下の荷物も半分近くあるため、いわば“清濁併せ呑む”ことで数字を確保しているのだろう。またR社が、S社の競合の宅配会社のY社と、まだ接触していなかったことも牽制として効いている可能性があった。

そこでR社の出荷実績を「サイズ」「リードタイム」「エリア」の三つの条件で整理して、S社を軸としながらも、路線会社のF社とN社、そして宅配会社のY社を、各社の競合状況も念頭に置きながら、3次元マトリクスにはめ込んでいき、各社との取引関係をそれぞれ構築していくことになった。

 

ショットガン方式で出荷を分散

②ショットガン方式の導入。R社のDCから関東と関西のS社の基幹店(ターミナル)に直送することで物量を分散する──という仮説を、それと並行して検証した。ショットガン方式とは、貸し切りトラックで宅配便の着地側のターミナルに直進する運び方のことである。しかし、R社の物量は増加傾向にあるとはいえ、ショットガンを機能させるには、まだ十分ではなかった。

またR社がDCを置く東海エリアは、関東エリアと隣接しているため、貸切輸送で荷物を基幹店に持ち込んでも宅配便の単価はそれほど下がらない。むしろ基幹店の受付〆切時間は1700であり、それを過ぎると納品リードタイムが1日延びてしまうなど、デメリットがプロジェクトミーティングの席で指摘された。

ところが、暗礁に乗り上げていたこの協議に途中から参加したG社長が、「それでも出荷を分散するメリットはあるのではないか」と声を上げた。そう言われて、われわれNLFも含めプロジェクトメンバーは、コストとリードタイムに振り回され過ぎていることに気付いた。

ECは増え続ける。R社の今後の経営展開を考えれば出荷分散は必要である。そこでショットガンの導入は中長期的な実施項目と位置付け、即効性のある改善策として、3PLパートナーのF社が運用している関東、関西方面の他社車両に積み合わせるかたちで少量でも分散させようということになった。

③現状、R社が処理している物流加工を3PLのF社に委託する──というのは当然の施策であろう。手間が掛かり、荷主の本業ではない業務は総じて3PL会社が対応することが望ましい。

そもそも3年前にF社と契約を結んだ際には、物流加工業務もR社のスタッフを転籍してF社に移管するという話であった。しかし、転籍者の意思確認や雇用調整に手間取り先送り状態になっていた。G社長いわく「立ち消えになっていた」。

R社がF社に運営を委託しているDCは土地を賃借している。その賃貸契約期間がちょうど迫ってきていた。いずれにしてもF社とは中長期の計画について話し合う必要があった。そこに今回の物流加工業務の委託問題も加わって、F社との交渉が一気に加速している。

 

競合との物流共同化を俎上に

④「組立出荷」から「組立納品」に変更する──というのは、現在は物流センターで組み立ててから出荷している製品を、納品時にドライバーが現場で組み立てるかたちに変更しようというアイデアである。製造や組み立てに資格者が必要な精密機器や自転車などは当然ながら組立出荷せざるを得ない。しかし、R社の商品の組み立てに資格は必要ない。ドライバーで十分対応可能であった。

R社の組立出荷はサービスとして明確に打ち出したものではなく、エンドユーザーから要望を受けてイレギュラーな業務として対応していた。それがBtoCの拡大で注文全体の約5%を占めるようになっていた。

商品の組み立ては当然ながら作業コストが発生する。荷物のかさが大きくなるため輸送費もかさむ。その分は購入客に課金する必要があるのだが、その料金設定やサービスの打ち出し方がかなり曖昧になっていた。そこでまずは原価計算をやり直して、明確な料金をサイト上に表示した。

そして組立納品を実現する方法として、⑤住設メーカーA社の協力会社ネットワークの活用と、⑥家具製造小売業B社の協力会社ネットワークの活用を検討した。いずれも納品時の組み立て作業に対応できる配送網である。

調査の結果、⑤住設メーカーA社の協力会社ネットワークは作業スキルが高く、R社の商品を取り扱うのは容易であった。しかし、協力配送会社からすればその分、1件当たりの作業単価が安くなり、1車当たりの売り上げが減ってしまうため、嫌われる可能性があった。

一方、⑥家具製造小売業B社は、R社とは競合する関係にある。しかし、それだけに配送ルートを組みやすかった。しかもB社の担当者は、「共同配送によるコストダウンを視野に入れて協力会社のネットワークをオープン化している以上、競合関係にあるR社の荷物は大歓迎」という。

プロジェクトはまだ途上にあるが、コロナ禍はR社に新たな物流の在り方を問うているようだ。ECの急増から始まった取り組みが、R社の中長期的な経営テーマにまで波及しようとしている。これを筆者はコロナがR社に良いきっかけを与えてくれたと前向きに捉えている。

 

 
物流コンサルティング・コンサルタント