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第202回 事例で学ぶ現場改善:『電子部品メーカーH社の物流最適化』

荷主企業が自社運営する物流センターの改善プロジェクトを支援した。現場を視察したところ管理レベルは水準には達している。従来から自力で改善活動に取り組んできたというのは本当だろう。それでも課題は少なくなかった。プロジェクトを進めていくうちに隠れていた問題点も見えてきた。

 

経営トップが物流を最重要課題に

H社は年商約60億円の電子部品メーカーだ。関東に本社工場を構え、そこから約3キロメートルの場所に物流センターを置いている。物流センターは自社運営で建物は借貸している。他に滞留品用の保管倉庫を物流センター周辺にいくつか借りている。

取扱アイテム数は約3500。製品本体以外にも付属品や細かな部材があるため、メーカーとしては品目数が多い。その約半分を自社工場で生産して、残り半分は外部に生産を委託している。

H社は品質管理部門の責任者をリーダーとする物流最適化プロジェクトを組織した。2代目社長の経営トップは、同プロジェクトを経営の最重要課題として位置付けた。われわれ日本ロジファクトリー(NLF)がそのサポート役を務めることになった。

初回の打ち合わせで経営トップからは、商品の保管の仕方、庫内オペレーション、社員の物流教育についてのリクエストがあった。またプロジェクト期間は1年間と設定された。一方、品質管理責任者のプロジェクトリーダーは、作業生産性の向上、在庫差異の解消、誤出荷のゼロ化を目的として掲げた。

それから数日後、筆者をはじめNLFのメンバーは現場視察や担当者へのヒアリングなどの実態調査を開始した。断続的ではあるが従来からH社は自社で改善活動に取り組んできたとのことで、基本~中級レベルの課題はおおよそクリアできているようであった。

それでも部外者の、われわれNLFの目でH社の物流の現状を見直したところ、70項目に上る改善テーマが抽出された。その一部を抜粋すると以下の通りである。

●作業生産性に関する項目

①六つの「ない」(持たせない/書かせない/歩かせない/待たせない/考えさせない/探させない)の実践による作業生産性の向上

②出荷頻度ABC分析によるロケーション、レイアウトの作成

③レイバーコントロールの実践

④バッチ処理の見直しによる作業生産性の向上

⑤ロケーション番号、掲示物の拡大による視認性と作業生産性向上

 

●在庫差異の解消に関する項目

⑥棚卸方法の見直し

⑦盗難防止

⑧実棚卸手順の見直し

⑨入荷数量検品の実施

 

●誤出荷のゼロ化に関する項目

⑩専任出荷検品者の設置

⑪〝たすき掛け〟検品の実施

⑫〝読み上げ〟検品の実施

 

●その他の項目

⑬ネステナーを中間プラグで強化して段積み

⑭元箱管理による先入れ先出し徹底

⑮カッターの使用禁止による安心・安全な作業環境づくり

⑯適正在庫、発注点の見直し

⑰在庫集約による横持ち輸送の解消と在庫一元管理

⑱デッドストック(死蔵在庫)、スリーピングストック(滞留在庫)の定義付け

⑲在庫コントローラーの設置

⑳〝タテパレ(パレットを立て置きすること)〟の禁止

H社のトップは、右に挙げた項目全てを従来の改善活動で積み残してきた課題であると認定して、今回のプロジェクトで着手することを決めた。以下に本稿ではポイントを絞り込んでその一端を紹介する。

「②出荷頻度ABC分析によるロケーション、レイアウトの作成」は、作業生産性と作業品質の向上、そして“逃がし在庫”の削減が狙いである。“逃し在庫”とは、保管ラックの決められた棚番地に収まりきれなかったため、本来とは違う棚に置いている在庫のことである。

逃がし在庫が発生した原因は二つあった。一つは在庫過剰であり、もうひとつはロケーションを設計する際に、保管する在庫の体積(立法センチメートル)を算出していなかったことであった。これを解消するために、各SKUの体積を考慮したロケーションの再設計と、本稿で後から説明する「適正在庫、発注点の見直し」を実施することになった。

 

現場の労務管理が甘過ぎる

「③レイバーコントロールの実践」はH社にとって必須の改善項目であった。自社運営の物流センターにありがちなことだが、レイバーコントロールに甘さがあった。というよりも、レイバーコントロールを実施していなかった。パートも含めて現場スタッフ全員が同じ時間に出勤し、退社していた。曜日によって投入人数を変えることもなかった。

つまりシフト制を採用しておらず、物量の変動に合わせて投入する人時を調整する機能を持ち得ていなかった。現場の管理責任者は、直接雇用のパート人件費や勤務時間の安定が、労務管理の目的だと錯覚していた。

もっともH社には伝統的に雇用の安定を重視する文化があり、パートといえども例外ではなかった。それはH社の長所でもあるため、まずは初級レベルのレイバーコントロールから着手して、企業カルチャーを傷つけないように慎重に改善を進めている。

「⑤ロケーション番号、掲示物の拡大による視認性と作業生産性向上」については、H社の場合、従来から意識されていたようで現状に大きな問題なかった。それでも今回のプロジェクトを良い機会として、将来の高齢化に向けて掲示物の文字やロケーション番号の表記を拡大して見やすくしておくのが得策と判断した。

「⑥棚卸方法の見直し」は、在庫精度を向上すると共に棚卸業務にかかっている人件費の抑制が目的である。H社ではこれまで、現場を動かしたままの状態で毎日循環棚卸を実施していた。それを改めて、入出荷をはじめとする全ての作業を終了させてから、在庫をカウントすることにした。

1カ月で全アイテムをカバーするために、循環棚卸の対象を1日平均160アイテムに設定、棚卸作業に必要な人時を算出して残業が発生しないように、つまり終業時間までにその日の棚卸しが終わるように、スケジューリングした。

「⑦盗難防止」は残念なことではあるが、在庫差異の解消には必要な施策である。実際、あまり表に出ないだけで、庫内作業員による在庫の盗難は多くのセンターで発生している。そのため気になる現場では筆者は必ず「メルカリやアマゾンのサイトで自社の商品が売られていませんか」と尋ねるようにしている。

この問題は現場の管理者よりもむしろ経営トップの方がよく認識している。経営トップが「実はウチも‥‥」と、物流現場から流失したと考えられる横流し品がネットで販売されていたことを打ち明けて、周囲のスタッフが「そうなんですか!」と驚く光景を何度か目の当たりにしている。

その出所は深く詮索せずに“何らかの理由”で不要になった在庫を引き取り、同業他社やバッタ屋などに転売するブローカーは、“せどり”と呼ばれて昔から存在していたが、ECの普及でBtoBマーケットプレースなどが乱立するようになって、その裾野が広がっている。注意した方がよい。

「⑨入荷数量検品の実施」は当たり前のように聞こえるかもしれないが、H社の場合、海外調達品は現地から出荷する時点でチェックがあり、コンテナのまま入荷するため、数量差異があったとしてもまれであることから、入荷時に品質検品はやるが、数量検品は行っていなかった。

しかし、試しに国内で生産や組み立てを委託している外注先の一部商品を対象に、入荷数量検品を行ってみたところ、その初日から2件の数量違いが発覚した。これもまた在庫差異が発生する一因であった。そこで対象商品を絞り込んで数量検品を実施することにした。

「⑩専任出荷検品者の設置」も検品精度の向上には効果的である。ピッキング作業員による自己検品と、梱包作業員による検品のダブルチェックを実施しても、“ながら検品”となってしまい、責任の所在も不明確になってうまく機能しないことがある。

ただし、専任担当者を設置するとレイバーコントロールに制約ができて人件費が上昇する恐れがある。H社は現状、品質優先であることから実施したが、今後環境が変わることもある。そのためピッカーとは別の作業員が検品する「⑪“たすき掛け”検品の実施」や「⑫“読み上げ”検品の実施」を並行して進めている。

「⑬ネステナーを中間プラグで強化して段積み」は、従来からフロアの一部で実施していたが、それを全フロアで展開する。“空気保管”が解消されて保管効率が大幅に向上する。現在、その効果をシミュレーションしている。

 

「在庫コントローラー」の導入

「⑯適正在庫、発注点の見直し」は、筆者が現場を見てあまりにも在庫が多いため、その原因を追及していった結果、H社の担当者に当初ヒアリングした内容と実態が違っていることが判明したことから加わった施策である。

当初、発注点管理や購買ロットの調整、交渉は当プロジェクトの前に実施済みだと聞いていた。しかし、現場で在庫量を確認したところ平均3カ月分あるという。さらに、その内訳を尋ねると、トップが自ら売れると判断してコンテナ買いしたが、売れ残ってしまった滞留在庫などがかなり含まれているらしい。

これを整理するために、調達先メーカーへの返品、需要予測ロジックの見直し、発注点の算出方法の見直し、また後ほど説明する専任の「在庫管理コントローラー」の設置などの方法を現在それぞれ検討中である。

「⑰在庫集約による横持ち輸送の解消と在庫一元管理」は、打ち合わせの初期段階で「従来は6カ所に分散していた滞留在庫の保管場所を3カ所にまとめることができたばかり」という情報が入っていた。つまり集約してから間がなかったため、短期テーマには組み入れなかった。しかし、本来であれば重要項目である。前述の一連の在庫削減施策にめどがつき次第着手する予定である。

「⑱デッドストック(死蔵在庫)、スリーピングストック(滞留在庫)の定義付け」は、在庫リスクの見える化と、H社の社員たちに在庫削減意識を醸成することを狙ったものである。

筆者としては、これを今回のプロジェクトで最も重要な施策と考えている。社員たちの物流に対する認識にH社のウイークポイントがあるとみているからだ。そこで単に在庫を定義するだけでなく、それに続いて定義を社内で共有し、さらには生販物連絡(調整)会議を推進することで改善を進めていく計画だ。

「⑲在庫コントローラーの設置」とは先にも触れたが、要は在庫管理専任チームを作ろうという話である。これについては社長自身がプロジェクトのキックオフ前から大きな関心を持ち、その必要性を強く認識していたため、比較的スムーズに進めることができた。部署名はまだ決まっていないが、人選も終わり、発足準備に入っている。

今回のH社のケースのように、最近われわれNLFでは荷主企業の自社運営センターの改善を取り扱うことが増えている。自社運営は“井の中の蛙”になる傾向がある。またプロジェクトの運営には経験値が必要である。要所要所で外部の知見や情報に触れておくことは無駄ではないだろう。

 

 
物流コンサルティング・コンサルタント