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第203回 事例で学ぶ現場改善:『物流マン研修あるある事例集』

筆者はこれまで十数年にわたり、物流センター長や物流コンサルタントを目指す実務家たちを相手に研修を行い、数多くの物流プロフェッショナルを世に送り出してきた。その経験を振り返りながら、物流マン研修の効果的な進め方、よくある失敗、〝べからず集〟をアドバイスする。

 

費用対効果の高い研修の共通点

今回はわれわれ日本ロジファクトリー(NLF)が対応してきたさまざまな物流研修の事例を紹介する。NLFは“物流のプロを育成する”ことを目的に2006年4月に「物流実務カレッジ」をスタートした。

同カレッジのカリキュラムは大きく「物流センター長育成プログラム」と「物流コンサルタント育成プログラム」の二つに分かれており、そこから派生した「提案営業研修」や「3PLプロフェッショナルマネージャー研修」などをクライアントのニーズに合わせて開催してきた。

その卒業生はこの原稿を書いている時点で656人に上っている。そのうち約85%は「企業内研修」、残りの15%は「一般募集開催研修」の受講者である。これらの経験から、費用対効果の高い研修には以下のような共通点があることが分かっている。

・参加型であること

テキスト中心の一方通行の研修は効果が薄い。講義内容はポイントを整理する程度にとどめて、それぞれのポイントを受講者参加型の「集団実務指導」によって落とし込むことに時間を割く。参加者に自分の頭で考えさせるのである。

そのためにはケーススタディが有効だ。講師がファシリテーターとなってお題を出し、受講者たちは少人数のグループを作って話し合う。その内容をまとめてグループの1人がプレゼンターとなって発表する。それに対して講師はコメント、フィードバック、まとめを行う。

・受講者を寝させない

プレゼンターはあらかじめ決めない。直前に講師から指名する。常に緊張感を持たせて“眠らせない”ことが大事である。そのために全ての参加者に、聞く、当てる。

・100社100様のカスタマイズ

同じテーマの研修でも、その会社によって期待していること、必要とする内容は違う。それを汲み取って研修内容をカスタマイズする。

また、多くの卒業生を世に送り出して分かったことの一つは研修の受講者には適正年齢があるということである。それまで自分がやってきたことを否定されるのを許容できるのは42歳が上限だと筆者は認識している。物流マンとして一番が脂が乗っている時期でもある。

45歳を超えると吸収力は大幅にダウンする。加齢によって理解力は低下し、研修慣れも出て来る。自己否定は難しくなる。50歳を超えれば吸収力は80%はダウンすると考えた方がよい。

さて、以前に筆者が関わった物流会社C社では、昇格の職能規定に研修を組み込んでいた。しかし、筆者が研修の様子を後ろから眺めていたところ、ある受講生がメモを取る振りをしながら研修報告書の作成に没頭しているのが分かった。彼にとっては研修を受けたという事実と、会社への報告が全てだった。研修の内容を吸収することより、欠席しないことが目的になっていた。

物流会社T社の研修では、それとは対照的な受講者と出会った。参加者の中に典型的な体育系かつ前職が土木現場で土を掘っていたという若手がいた。毎回、一番前の席に座り、熱心に講義に耳を傾けている。

ところが、ある回の研修で、彼が珍しくスマートフォンをずっと触っていた。休憩時間に本人に確認したところ、「研修内容でドキッとした点があったので、メールで現場にやり方が間違っていたと指示しました」とのこと。筆者は、返す言葉がなかった。何という吸収力、行動力。聞けば彼は経験が浅いにもかかわらず既に二つのセンターを統括する逸材であった。

D社のセンター長候補研修では、当初は口数が少なく無気力にさえ見えた参加者が、研修を重ねるたびに新しい側面を見せるようになり、大きく成長していく姿を目にすることができた。

研修に先だち筆者とNLFのメンバーは研修参加者が担当する現場を視察した。出迎えてくれたのはK氏。「彼も研修に参加します」と同行した人事部のスタッフから紹介された。線が細く、声も小さい。自信のない新人のように見えた。しかし、後になって本人に尋ねたところ「初対面で緊張していました」とのこと。それだけ研修を真面目に捉えていたのであった。

研修の初回から、われわれの質問に対する彼の回答は的を得ていた。回を追うごとに、よりハイレベルアップな質問を投げかけていったが、いずれも完璧な答え返ってくる。地頭の良さに加え、前職の有力物流企業での経験が大きな財産になっているようだった。

ある回の休憩時間に筆者は彼に近づいて、彼の自信のなさそうな態度が周囲に与える影響を伝えて、背筋を伸ばし、大きな声で話すようにアドバイスした。彼は素直に筆者の助言を受け入れた。研修も後半戦に入ると彼の表情は明るくなり、目つきも鋭くなっていった。

最終的に彼は20人近くが参加した企業内研修でMVPを獲得した。さらには現場に戻った後、2階級特進でセンター長に任命されたと聞いた。今はどうしているだろう。また会って話をしてみたいと筆者は感じている。

 

受講者の中にキーマンを探す

われわれ主催者は毎回の研修をいかに充実したものにするか、付加価値ある研修にするかを心がけている。そのために必ず実践している、ちょっとした仕掛けがある。名付けて「(研修の)キーマンを探せ!」である。

やる気とモチベーションに溢れた参加者を見つけるのがベストだ。それが難しい場合でも、講師の問いかけに対する反応がいい、質問の時間には積極的に手を上げる、その際に自分の業務で困っていることを打ち明けてくれる──そんな参加者を探す。

研修の初回でキーマンを見つけ出すことが重要だ。その参加者がどのフレーズに反応したか、メモのタイミング、姿勢、目の動きなどを見ていれば分かるものである。そのキーマンを中心に研修を展開することで周囲に良い影響が波及する。キーマンに刺激を受けて参加者全員の意識が高まる。

受講者は会社が一方的に選定するだけでなく、自分から参加を希望した人を加えたほうが効果を出しやすい。自主参加した受講者には通常、次のような特徴がある。いずれも研修を活性化する効果がある。

・  研修開始時間よりかなり早く会場入りする

・   メモの量が多い

・   研修を通じて声が大きくハキハキしている

・   グループリーダーに立候補する

・   ケーススタディ後のプレゼン担当者を決める際にも一番に手を挙げる

・   休憩時間は講師を質問攻めにする

・   研修で学んだことを実践した結果を後から報告してくれる

各社の研修を通じてあらためて感じるのは「組織の強さは人事で決まる」ということだ。どのようなプロセスで研修の参加者を選ぶか、研修者は納得して参加しているか、研修者の研修受講時の業務のフォローはできているか、研修後は報告書を提出して「はい! 終わり」になっていないか、いずれも人事部門次第である。

①採用、②教育、③配置転換の三つを機能的にコントロールして、伸びしろのある人材にはそれに見合った教育を施す。企業の成長には欠かせない機能である。

 

 
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