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第209回 事例で学ぶ現場改善:『製造卸F社のパレット自動倉庫問題』

 通販チャネルの売り上げが増え、20年前に導入したパレット自動倉庫や移動棚を持て余すようになってきた。しかし、センターの躯体と一体となった設備であるため容易には撤去できない。新拠点を立ち上げるとなれば数年はかかるであろう。それまで待っていられる状況ではなかった。

 

ピース出荷の増加で設備が陳腐化

 F社はステンレス・アルミ製品の製造卸だ。年商は約100億円。自社製品を販売する他、欧米5カ国の機器メーカーの日本総代理店を務めている。北海道から九州まで全国7カ所に営業所を置いている。

 物流拠点は西東京にある自社工場に隣接して「ディストリビューションセンター(DC)」を構えている。ワンフロア約1500坪の2階建て。土地、建物を自社で所有して、社員が運営している。他にDC周辺に小規模な営業倉庫を2カ所借りている。

 F社がわれわれ日本ロジファクトリー(NLF)にコンサルティングを依頼することになったのは、約20年前にDCを立ち上げた時に導入したパレット用の自動倉庫と移動棚の処置に困ったからだった。大量生産・大量出荷の時代には効率的な設備であったが、このところF社ではネット通販チャネルの売り上げが増えている。多品種少量生産とバラ出荷中心の物流に変わってきたことで持て余すようになっていた。

 しかも、ピース出荷が増えたことで作業スペースが必要になっている。しかし、DCはスペースの7割程度を自動化設備にとられてしまっている。設備の償却は既に済んでいるので撤去したいところだが、自動倉庫は建物の躯体と一体化している。建物自体に手を付けないと解体もできない。

 この手の相談はバブル時代に建設された物流センターが更新の時期を迎えた10~15年前にNLFによく寄せられていた。F社の場合は導入時期が遅かったので、今になって同じ課題に直面しているわけである。

 従って今回の案件の最重要テーマはDCの見直しであった。以下のような選択肢があった。

⑴一時的に賃貸施設に移り、現在の場所に新施設を建設する。

⑵土地・建物を売却して賃貸施設に移る。

⑶土地・建物を物流不動産会社に売却、その場所に新DCを建設してもらいリースバックする。

⑷土地・建物を売却してDCの運営を外部委託に切り換える

⑸物流子会社を発足、新事業として開始する予定の水ビジネス用に既存のDCと自動倉庫を継続利用して、余剰能力を外部荷主に販売する。既存事業の物流は賃貸施設に移す。

 F社にとって大きな経営判断になるため協議には時間を要した。選択肢をそれぞれ具体的に検討していくと困難な事項がいくつも見つかり、いずれもスムーズには進みそうになかった。

 現状では「⑶土地・建物を物流不動産会社に売却、その場所に新DCを建設してもらいリースバックする」というプランに大勢は傾きつつあるが、役員会の承認は下りていない。F社のN専務曰く「もともと意思決定が遅い会社なんです」とのこと。決定にはしばらく時間がかかりそうだ。

 それと並行して短期的な改善にも取り組んだ。個人客向けのラベル貼りや出荷梱包などで庫内作業が煩雑になっている。新DCの立ち上げまで待っているわけにはいかない。まずは現状を改善したいとのことであった。今やメーカー・卸を問わず、多くの物流現場が抱えている課題であろう。われわれは次の改善事項を挙げた。

①安全管理の徹底

②「八つのない(持たせない、書かせない、歩かせない、待たせない、考えさせない、探させない、しゃがませない、かがませない)」の実践

③「六つのない(立たせない、入力させない、書かせない、探させない、(作業を)私物化させない、チェックさせない)」の実践

④庫内の照度アップ

⑤保管効率の向上

⑥在庫削減

⑦コスト削減

⑧物流管理

⑨システム

⑩「2S(整理・整頓)」の実践

⑪現場のショールーム化

 

  折り刃式カッターは禁止

 「①安全管理の徹底」では、折り刃式カッターの使用を禁止した。F社のDCのみならず、いまだに多くの物流センターで折り刃式カッターを使用しているのを見かける。しかし、物流センターでは「折り刃式カッターは使用禁止」が原則である。

 そもそもカッターは使用者をはじめ庫内作業員に怪我を負わせる危険があるだけでなく、商品の外装や中身を傷付ける原因になる。とりわけ折り刃式カッターは刃が出荷品に紛れる“異物混入”の恐れがある。刃先が丸い段ボールカッターなど安全な代替品はたくさんある。すぐに切り換えた方がいい。

 「②八つのない(持たせない、書かせない、歩かせない、待たせない、考えさせない、探させない、しゃがませない、かがませない)」の実践は、庫内作業の生産性向上の基本である。F社のDCではB2C向け梱包に作業台を設置して、“しゃがませない”“かがませない”を実施した。また4輪のカゴ車が不安定だったため、6輪化して転倒を防止するとともに、使い勝手を向上した。

 一方、「③六つのない(立たせない、入力させない、書かせない、探させない、(作業を)私物化させない、チェックさせない)」は、物流事務作業の基本である。このような基本に集中することが、DCの延べ床面積の7割を自動化エリアにとられている現状では得策であった。

 「④庫内の照度アップ」も作業生産性と作業品質の向上が目的である。DCの照明は古いタイプの水銀灯で庫内が暗かった。補助灯として蛍光灯を取り付けているエリアもあったが、十分ではなかった。取り急ぎ蛍光灯エリアを拡大するかたちで、最低250LUX以上の照度を確保した。

 「⑤保管効率の向上」は現状では限界があった。やはり中期的には自動倉庫、移動棚の撤去が望ましかった。「ネステナー」の3~4段積み、複合ラック(重量ラック)、軽量・中量ラックで保管エリアを構成すれば、保管効率と作業生産性は大きく向上するであろう。

 それを前提に、樹脂製品を置いている2階のフリーラックエリアに、小型リーチカウンターを導入して通路幅を圧縮し保管スペースを確保した。また出荷頻度ABC分析で、「スリーピングストック」「デッドストック(C、Dランク)」に該当した樹脂製品の在庫を移動棚に移した。

 「⑥在庫削減」も、できることは限られていた。日本総代理店として輸入している欧米メーカーの製品在庫が最大の問題であった。しかし、最低発注ロットが20フィートコンテナ単位となっていて簡単には手を付けられない。それは中期テーマと位置付け、即効性のある改善策として段ボールの資材在庫に目を付けた。自動梱包システムを導入して段ボール在庫をゼロにした。新たなスペースの確保にもつながった。

 「⑦コスト削減」も基本的にはDCの見直しに伴う中期テーマだ。少なくとも新DCの立ち上げ時に現在は賃借している外部倉庫2棟分を集約することはできるだろう。足元のコスト削減策としては300LUX以上の照度があるエリアは照明を間引いて光熱費を抑制した。

 

ハード先行の現場でよく見る課題

 「⑧物流管理」は、筆者から見れば手付かずの状態であった。これまでF社の物流はハード優先であった。ソフト面の整備に早急に着手する必要があった。主に以下のような施策を実施した。いずれも基本的な事項である。

・KPIの設定と共有。毎日の朝礼で作業生産性KPI、作業品質KPIについて、それぞれ「昨日の結果」と「本日の目標」を発表する。

・〝誰もがわかる〟現場づくり。ロケーション番号の表示を拡大、ビジュアル化によって視認性を向上した。初めて現場に入った新人が2日目で1人前のスタッフの約50%の仕事ができるレベルを目指す。

・元箱管理の徹底による先入れ先出しの実践

・作業終了時の閉箱管理の徹底。ほこりなどで商品が汚れることを防止するとともに、バラ在庫の精度を向上する

・「部品欠品」を早期に完成品化することで、在庫を適正化してスペースを確保する。

 「⑨システム」については現在のWMSを改修してB2C向け作業を効率化することがポイントであった。アマゾンは物流ラベルにGS1─128企画のバーコードを利用した「SSCC(Serial Shipping Container Code)」を使っている。そのためF社では通常のラベルとアマゾン向けの2種類のラベルを使い分けて運用している。

 2種類のラベルを一体型にすることで作業効率、作業品質は大きく改善される。そこで現在、一体帳票をプリントできるようにWMSを改修している。2カ月後の本稼働を目指して、これからテスト運用に入る段階である。

 「⑩2S(整理・整頓)」もハード先行型センターの基本的な改善事項である。老朽化したネステナーを刷新して敷地スペースの整理・整頓を実施して、備品の“定物定位置”、リフトの“定物定位置”を徹底した。やる気旺盛なセンター長T氏がプロジェクト開始から3カ月で定着レベルまで持っていったのは見事であった。

 最後が「⑪現場のショールーム化」だ。まず喫煙スペースを来客者が見えないところに移動させた。さらに作業を“やりっ放し”の状態で休憩に入ったり退社したりすることを禁じて、作業員の私物の管理を徹底した。そうした簡単なことだけでも現場の風景はかなり違ったものになってくる。

 こうしてF社の短期的な現場改善と中期的なあるべき姿の探究が進んでいる。しかも、ハードの見直しとソフトの改善という、性格の異なるファクターを同時進行で進めていくのはなかなかやっかいである。しばらく筆者は目が離せそうにない。

 

 
物流コンサルティング・コンサルタント