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第212回 事例で学ぶ現場改善:『カー用品販売F社のゼロからの仕組み作り』

 自社ECサイトの売り上げが急拡大している。倉庫は5カ所に分散している。うち4カ所は自社運営だ。「運営効率は良くないはず。物流品質にも問題があることは自覚している。しかし、どこから手をつければよいのか分からない」と、プロジェクトリーダーの役員はいう。長期戦を覚悟する必要があった。

 

何をすればよいのか分からない

 F社は年商約60億円のカー用品販売会社である。本社は北信越エリアに位置するが、管理部門の一部を東京に置いている。売り上げの内訳は卸販売のB2Bが全体の3割、消費者向けのB2Cが7割で、その大半はECだ。大手ECモール経由の販売からスタートしたが、最近は自社サイトの売り上げが伸びており、業績拡大に大きく貢献している。

 物流面ではセンターと呼べるほどの施設はなく、北信越エリアの3カ所、東海エリアの2カ所に倉庫スペースを設置している。うち4カ所は自社運営、1カ所は外部委託である。また、自社運営の4カ所のうち3カ所はF社の事務所に併設して倉庫を設置している。

 F社からは以前にも相談を受けたことがあった。しかし、当時はまだF社の売り上げ規模が小さく、われわれ日本ロジファクトリー(NLF)がコンサルティングに入っても、コストダウンできる余地は限られていたため、提案を断念したという経緯がある。しかし今回は物量が増えて倉庫を5カ所に展開するほどだから、有効な提案ができるだろうと踏んでいた。

 ところが、今回のF社の相談は前回のコストダウンとは主旨が違っていた。いわく「現状は物流のシステム、仕組みがまったく整備されていない。ムダも多いと思われるが、どこから手を付ければよいのか、何をすればよいのか判断できない」という状況下で「現状分析から改善に向けた一連の活動をサポートしてほしい」という依頼であった。

 われわれNLFとの窓口を務めることになったF社側の担当責任者、T取締役は人事と情報システム担当を兼務していた。S社長の指名で物流も任されることになったが、現場実務や物流管理の経験があるわけではない。事実上、一から物流の仕組みを構築していく必要がある。恐らくプロジェクトは1年では終わらない。少なくとも2年はかかるだろうと判断した。

 本稿では同プロジェクトでこれまでに着手した項目の一部を抜粋してお伝えする。具体的には以下の通りである。

①ロジスティクス部門の役割の明確化

②物流倉庫におけるオペレーションの在り方

③業務フローの確立

④トータル物流コストの算出

⑤物流KPI(管理指標)の導入

⑥物流拠点の在り方

⑦在庫保管方法の確立

⑧発注点、適正在庫の算出および設定

⑨発注システムの統一

⑩出荷頻度ABC分析

⑪誰もが分かる現場づくり

 F社には「LOGISTICS DEPARTMENT」という名称のロジスティクス部門があった。組織名を英語表記にしたのはS社長のこだわりであり、「かっこ良さを求めた」とのことであった。その狙いも分からないではないが、実態としてこのロジスティクス部門は作業専門部隊となっていた。

 そしてT取締役とロジスティクス部門に所属する5人の計6人が今回のプロジェクトチームのメンバーであった。そこでまず「①ロジスティクス部門の役割の明確化」を図った。管理、企画、改善などの本来のロジスティクス部のあるべき業務内容を明確にして、5人で役割を分担した。

 続いて「②物流倉庫におけるオペレーションの在り方」を整理した。具体的には以下の点を筆者が説明して、プロジェクトメンバーたちに理解させた。

・  物流現場において社員は管理者であり、オペレーションは非正社員の労働力(パート・アル
 バイト/派遣)でカバーすること。

・   庫内作業員の募集~採用~新人教育の進め方。

・   レイバーコントロールの方法。

・   「波動・ハンドリング・イレギュラー(H・H・I)」の三つが物流コストを押し上げる大きな
 要因であること。

 「③業務フローの確立」では、受注から出荷までの一連の流れ(フロー)に沿って、各作業の名称から、どこからどこまでが入荷作業なのかといった工程の「区切り」、作業手順などを伝えた。

 「④トータル物流コストの算出」では、運賃や倉庫賃料などの外部への支払いだけでなく、自分たちのやっている作業がコストに換算するといくらになるのか、その算出方法を伝えて、メンバーたちに電卓を片手にコスト表を埋めさせた。

 その結果、トータル物流コストに占めるスタッフの人件費の割合が予想していた以上に高いこと、続いて運賃コストの割合が大きいことなどが分かり、プロジェクトメンバーにはインパクトがあったようだ。

 倉庫別に勤務シフトを作成して総作業時間を算出して管理に乗り出したり、既存の協力会社とは別の特積み(路線会社)を物色するなど、コストセーブを意識するようになった。さらには「トータル物流コスト表」を毎月作成して、その資料を基にプロジェクトメンバーが定期的にミーティングを開くようになった。

 「⑤物流KPI(管理指標)の導入」では、当初は八つの指標が候補に上がったが、それを四つに絞り込んだ。「作業生産性(人時生産性)」「作業品質」「保管効率」「納品率(欠品率)」である。それをロジスティクス部のKPIと位置付けて可視化した。グループウエア(サイボウズ)を通じて全社員がKPIの推移を確認できるようになっている。

 「⑥物流拠点の在り方」とは将来の拠点統合を視野に置いた準備である。今回のプロジェクトを通じて管理の大枠が固まるまでは、オフィス併設型の倉庫に拠点が分散した現状をいじらないつもりだが、本来はユーザー比率の高い消費地エリア近隣に拠点を集約した方が良いことは明らかである。そのための最適な立地は具体的にどこなのかを見極めるとともに、集約した倉庫を物流センターとして位置付けて、求められる機能の明確化などを行った。

 「⑦在庫保管方法の確立」はすぐに着手すべき項目であった。F社の現場はまったくの素人管理であった。マテハン類は一切使っていない。パレット貨物を段積みする「ネステナー」やラックもなし。商品を床に直置きして積み上げていた。しかも、高積みの制限を設けず天井まで積み上げ、社員が梯子を使ってピッキングしている。安全管理面でも問題があった。

 

プロジェクト開始から9カ月目の現状

 右の実施項目①~⑦までがいわばプロジェクトのステップ1であり、以降はステップ2として指導している。

 「⑧発注点、適正在庫の算出および設定」は、在庫管理の仕組みを確立するための大前提である。F社にはそもそも適正在庫の概念がなかった。発注点ではなく、発注時期で発注していた。しかも、輸入品がコンテナ単位の発注であるため在庫過剰が常態化していた。これに次の手順でメスを入れた。

1.1日の平均出荷量を正確に算出

2.仕入先との発注ロット交渉をT取締役に依頼(実施を強行してもらった)

3.輸入品の荷揚げ港を従来の横浜港から倉庫に近い新潟港と名古屋港に変更

4.陸揚港の変更に伴う発注リードタイムの見直し

5.リードタイムの見直しに伴う安全在庫の見直し

6.発注点と適正在庫量の算出

 現時点では算出値に対して約80%の達成率であり、引き続き微調整を続けている。

 「⑨発注システムの統一」では、北信越本部に購買部を発足させて、それまで各拠点でそれぞれに行っていた発注を一本化した。F社は販売管理システムこそ一本化されているものの、事業展開に対してシステム全般が後手に回っている。DXを進めて事業の成長に合わせたシステム化を図る必要がある。

 「⑩出荷頻度ABC分析」は、庫内ロケーション、レイアウトを最適化して、作業生産性と作業品質を向上する狙いである。プロジェクトを開始して既に9カ月余りが経過しているが、これについては最近になってようやく着手できる状況となった。着手が遅れていた理由はデータ分析に必要な入力値のミスが多発していたためであった。

 「⑪誰もが分かる現場づくり」の「誰も」とは、初心者、外国人労働者、高齢者であり、初めて現場に入った新人が2日目で一人前のスタッフの約50%の仕事ができるレベルの現場にすることが目標である。そのために具体的には、棚番地の視認性向上、ロケーションマップの作成、ビデオマニュアルの作成などを行っている。

 F社のプロジェクトはまだまだ道半ばであり、行うべき事項は山積している。それでも売り上げにして60億円の物流ベースがあれば一定の効果は出せる。“勝てば官軍”である。将来的に100億円の売り上げが見えた時点で、消費地に近い北関東、そして東海・関西をカバーするための滋賀エリアに、それぞれ物流センターを設置することを計画している。

 

 
物流コンサルティング・コンサルタント