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第213回 事例で学ぶ現場改善:『電機部品T社の購買・営業からの物流改善』

 電機部品メーカーが自社運営の物流センターにおける現場改善を経て、購買と営業を巻き込んだ取り組みへと駒を進めた。しかし、社内のコミュニケーションには従来から課題があった。物流と購買、営業の3者が同席して情報を交換する連絡会議の定期的な開催が必要だった。

 

購買と物流の情報連携を強化

 T社は年商約80億円の電機部品メーカーだ。関東に本社を置き、本社から車で5分の距離に物流センターを置いている。センターの建物は賃貸だが、運営は100%自前である。

 われわれ日本ロジファクトリー(NLF)がサポートするT社の改善プロジェクトは現在、2年目に入っている。ステージ1では物流センターを舞台に、およそ1年かけて作業生産性、作業品質、レイアウト変更などの物流改善を実施した。

 続くステージ2は物流の前工程である「購買」「営業(受注)」がテーマである。NLFからT社に「診断レポート」を提出。それを基に担当役員の専務の下で、物流部長、購買部長、営業部長の3人が話し合い、実施項目を絞り込んだ。そのうち「購買」の実施項目は次の四つであった。

①事前出荷情報(ASN)の運用改善

②適正在庫と発注点の定期的メンテナンス

③ABC分析の実施

④営業・購買・物流の情報共有化

 「①事前出荷情報(ASN)の運用改善」は、ステージ1でも「社内伝達」の実施項目の中で取り上げたため、購買部に既に問題の大枠は伝わっていた。調達先によってASNの入力に漏れがあったり、ASNが届かないケースがあった。そこでまず、次の項目を盛り込んだASNのフォーマットを作成した。

(1)調達先

(2)調達頻度(月当たり)

(3)社内購買担当者

(4)通達方法(TEL/メール/面談)

(5)通達有無

(6)実行確認

 T社の調達先の中には、納期回答を行う習慣がない小規模工場などが含まれていた。そうした調達先に対して購買部からあらためて通知を出して協力を求めた。一方、入力情報に漏れがある調達先は6社に絞られていた。また、T社の購買部のスタッフの中にも納期回答をもらう交渉を怠っている者がいた。これらは購買部長の指導により、解決されることとなった。

 「②適正在庫と発注点の定期的メンテナンス」では、SKU別の出荷動向をより詳細に把握するため、分析に使用する元データに、従来の直近12カ月の出荷実績だけでなく、直近6カ月の出荷実績も加えた。見直しの頻度は、従来の年1回を、3カ月おきの年4回とした。さらに在庫の「月数管理」を「日数管理」へ変更した。

 「③ABC分析の実施」では、発注回数(受注回数)が低いCランク、Dランクの製品で欠品が多いことが判明した。これらを1品1品ピックアップして、「発注点」とは別に設けている「発注点係数」を調整した。発注点より受注が上回ることが多い品目には1・05~1・20、下回ることが多い品目は0・95~0・85の範囲で係数を決めた。

 「④営業・購買・物流の情報共有化」は在庫の適正化に向けた基盤整備である。コロナ禍ということを差し引いても、T社は社内のコミュニケーションに課題があった。他部署とはできるだけ関わりたくないという風潮が見られた。問題があってもシステムによって解決しようとする傾向があり、お抱えのシステムハウスに常に改修を依頼していた。

 

営業の仕組みにメスを入れる

 営業と購買、そして物流が同席する連絡会議を定期的に開催して、相互通行のはっきりとしたフィードバックが必要であるとわれわれは判断した。その進め方として次のプロセスを専務に提案、検証と社内の根回しを依頼した。

(1)物流部門が「滞留在庫(スリーピングストック)」と「デッドストック」のリストを作成する(ステージ1でスリーピングストックは6カ月、デッドストックは2年と定義した)。

(2)営業部門、購買部門はそれぞれ理想的なSKU別在庫量のリスト=あるべきリストを作成。それを物流部門のリストと照らし合わせて情報を共有、担当者ベースに落とし込む。

(3)それらの資料を材料にして、営業、購買、物流の3者が協議する連絡会議を月2回の頻度で開催する。

 一方、「営業(受注)」のテーマとして絞り込んだ実施項目は次の三つであった。

①電子受注比率の向上

②定期的な商品の改廃

③商品マスター問題の解消

 「①電子受注比率の向上」は、ファクスを中心とするアナログ受注をやめて、入力ミスを削減することが狙いである。そのために政府の補助金を活用して納品データの返信機能を備えたウェブ受注システムを新たに構築した。

 続いてアナログ受注先リストを作成。そのうち売上高上位30社については、それぞれ営業担当者が電話とメールで先方の担当者と交渉することにした。交渉材料として、新システムによる納期回答のスピードアップ、ASNの返信の二つに加え、1~5%の値引きをインセンティブとして用意した。

 交渉は順調に進んでいる。一昔前まで、電子受注への移管は受注側が頭を下げてお願いする、必要であればインセンティブを用意して交渉に応じてもらうのが常だった。しかし、最近は発注側がEDI化を自社の効率化と捉えて、スムーズに応じてくれるケースが増えている。

 「②定期的な商品の改廃」は取扱品目の絞り込みが狙いである。現状の2年に1回を年1回に変更すべきではないかという案が議論された。これについて専務は「顧客ニーズを考慮すると現状の2年に1回でよい。実際はカタログ改訂のタイミングとなる」という意見だった。

 営業からは「定期ではないが、その都度改廃している」という意見や、逆に「改廃は基本的にシステム部門などの他部署がやっている。営業はまったく受け身だ」といった声が上がった。一方、物流部長は「改廃は年1回が望ましい。問題は動いていない在庫をどうするかだ」と指摘した。

 それぞれの立場から異なる意見が出されたが、最終的には営業やシステムからアプローチするよりも、日常的に在庫と接している物流部門が商品の改廃を主導した方が活性化するという結論に至った。

 「③商品マスター問題の解消」とは、T社では同じ製品の旧タイプと新タイプに同じマスターを振っている場合があることを問題視したものだ。しかし、これについては経営側から、新・旧で商品番号を変えると旧タイプが自動的にデッドストックとなってしまうため、同一番号を使うよう“お達し”があった。そこで現場の混乱を避けるため、営業では図面や色から新・旧を一目で判断できる基準を作ることになった。なお、物流では従来通り専用の「シール」を貼ることで見分ける方法を継続することにした。

 こうしてT社のプロジェクトもステージ2の終盤に差し掛かろうとしている。このコロナ禍でもT社の売り上げは昨年対比20%増のペースで伸びている。一方で欠品数はこの1カ月で月当たり63品目から24品目へと大幅に減少した。

 在庫過多も大きな課題であったが、トータルの在庫量は先月いったん増加したものの、今月、そして来月は減少見込みである。物流だけでなく、営業、購買を巻き込んで問題と正面から向き合ってきたことの成果であろう。

 

 
物流コンサルティング・コンサルタント