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第216回 事例で学ぶ現場改善:『日用品卸T社のコスト削減プロジェクト』

 創業時代から地元の倉庫会社を物流パートナーに共に成長を遂げてきた。しかし近年、売り上げの伸び以上に支払い物流費が増えてしまっている。荷主自ら物流の効率化とコスト削減に乗り出すことにした。物流コンサルタントの支援を受けてプロジェクトに着手、長年のブラックボックスを開いた。

路線便依存を改め配送網刷新

 T社は年商約50億円の日用雑貨品卸である。名古屋に本社を置き、名古屋市郊外に物流センターを1カ所設置している。物流センターの運営は創業時代から共に事業を発展させてきた物流会社K社に委託している。K社には配送の元請けも任せている。T社にとってK社は、まさしく物流パートナーと呼べる存在である。

 一般に、特定の荷主と共に成長してきた物流会社は、その荷主に対する依存度がどうしても高くなる。筆者の経験から言えば、売上全体の40~70%を占めていることが多い。しかし、K社はT社向け以外の仕事にもしっかりと力を入れており、T社への売り上げ依存度は20%程度であった。

 われわれ日本ロジファクトリー(NLF)は今回、T社から物流改善プロジェクトの支援を依頼された。その目的は、取引量が拡大しても利益率を維持することであった。実際、T社の売り上げは伸びていた。しかし、売り上げが増加するペース以上に支払い物流費が増えている。現状の体制のままでは利益は創れないと判断して、荷主自ら物流の効率化およびコストダウンを目指したのであった。

 われわれNLFは関係者へのヒアリングと現場視察を経て、第1フェーズの実施項目を次の10個に絞り込み、T社の取締役会の承認を取り付けて活動を開始した。

①関東センターの立ち上げ

②路線便から貸切への切り換え

③オリコンの導入

④夜間納品の実施

⑤T社主導の共同配送

⑥路線便運賃のボリュームディスカウント

⑦センター運営における八つの「ない」

⑧レイバーコントロールの実施

⑨物流管理機能の強化

⑩物流KPIの活用

 「①関東センターの立ち上げ」は中長期なテーマである。T社は全国に顧客がいる。それを名古屋の物流センター1カ所でカバーする現在の体制がいずれ限界を迎えるのは明らかだ。現段階でも既に納品先が関東圏に偏っていることによる非効率は見られる。

 そのためT社の売り上げが80億円規模に達することが見えた段階で、関東1都6県エリアに2拠点目を構える必要があると説明した。現在の成長ペースが続けば、そう先の話ではない。その際には主要納品先の小売各社の今後の出店戦略を念頭に置いて、それと連動することが大事であることも伝えた。

 名古屋から関東に拠点を移せば保管費は上昇することが予想される。ただし、納品先までの距離は短くなるため配送費は抑制できる。着地点分析によって新拠点の最適立地を抽出して、さらに共同配送などを検討することでトータルコストを抑える必要がある。

 現状では構想中だが、拠点の立地は保管料を抑えるために北関東になる見込みである。また配送は、T社の同業他社の店舗納品を行っている物流会社L社を介して共同配送が実現できそうだ。既に2回目の提案が終わり、見積もりも出ている。保管料の上昇分を十分に相殺できるとみている。

 一方、「②路線便から貸切への切り換え」は、即効性のある施策である。従来は物流パートナーのK社を介して全ての配送を路線会社(特積み)に委託していた。これを改め、納品先が集中しているエリアを対象に、K社の自社便と傭車によるルート配送に切り換えた。T社の取り扱い商品は売価が高くないため、ルート当たりの納品件数を多くすること、車両回転率を上げることを強く意識して配送ルートを作成した。

 加えてチャーター配送分には「③オリコン」を導入する予定である。従来は路線便の利用を前提としていたため、段ボール箱で出荷する他に選択肢がなく、「通い箱」の概念自体がなかった。念のため段ボール箱の購入費と梱包・開梱作業のコスト、オリコンの導入費および運用コストの比較を行っている。

 また、段ボール箱からオリコンへの変更には納品先の了解がいるため、得意先各社と協議中である。得意先としては、段ボール箱とオリコンの双方の納品に対応することを避けるために、T社以外のベンダーと足並みをそろえてもらいたい考えのようである。

 

チャーター便で夜間納品を実施

 さらにチャーター配送分は「④夜間納品の実施」に踏み切った。小売業で最も店舗配送効率が良いとされる某ドラッグストアのノー検品配送のスキームをT社に移植した。

 これに伴い協力会社K社のドライバーは勤務シフトの変更が迫られた。K社はもともと倉庫会社であり足回り(輸配送)はあまり得意としていない。しかし、夜間納品への切り換えによって車両の回転率は、当初の1・3回転が現在は2・8回転と着実に上昇している。

 「⑤T社主導の共同配送」では、チャーター配送に切り換えたメリットを最大限に生かすことができた。主要得意先(納品先)のA社の荷物をベースカーゴと位置付け、そこに別の得意先B社とC社の荷物も混載することで配送費の低減を実現した。

 これによって小売側で“T社の運賃は低い”という評判が立ち、物流の効率化を課題としている他の小売りが、T社を有力ベンダーとして注目するようになった。物流コストの削減から商流の囲い込みへと展開する、卸の物流プロジェクトにおける理想的パターンとなった。

 「⑥路線便運賃のボリュームディスカウント」では、協力会社K社が手配している路線会社の振り分けを見直した。K社は全国対応が可能な大手路線会社と、北海道や九州などの特定エリアに強い路線会社を併用していた。両者の対応エリアは重複しており得策とは言えなかった。

 具体的には全国規模の路線F社に全体の約6割、同G社に2割を出荷して、残りの2割を特定エリアに強い4社にそれぞれ任せていた。このうち特定エリアの4社分をトップシェアのF社と二番手のG社に振り分ければ、大幅なコストダウンを期待できる。その詳細を詰めるために現在、主力の2社と交渉中である。いずれも反応は良好である。

 

管理能力強化のため物流部を新設

 「⑦センター運営における八つの『ない』」とは、本連載ではこれまで幾度となくお伝えしているが、庫内作業員やドライバーに「持たせない、書かせない、歩かせない、待たせない、考えさせない、探させない、しゃがませない、かがませない」ことである。現場の作業生産性を上げるには必須といえる基本である。

 K社のセンターでは、特に作業動線が長い、すなわち「歩かせない」、作業の遅れと量の多さから出発ドライバーを待たせる、すなわち「待たせない」が多く発生していた。そこでまずは取り扱い品目別の出荷頻度を測定するABC分析を実施して、庫内レイアウトと保管ロケーションを見直した。

 その上で「⑧レイバーコントロール」を実施した。「入荷」「格納」「ピッキング」「検品」「梱包」「便別仕分け」のそれぞれの作業量に対して、適切な人員配置ができていなかった。常に忙しくしているピッキング担当者がいる一方、手待ち状態の検品者もいたりと、作業によって業務量の偏りが大きかった。

 そこで庫内作業員の多能工化を推進した。それぞれの作業員が複数の業務を担当できるように教育した。そして作業別の1人1時間当たり生産性(人時生産性/MH)を算出して、人員の配置を見直した。

 先の「八つの『ない』」との相乗効果もあり、生産性が向上している。その結果、これまで予備人員として投入していた派遣スタッフの人数を減らすことができている。

 「⑨物流管理機能の強化」のため、今回のプロジェクトを機にT社に物流部を発足させた。これまでT社には物流管理の専門組織がなく、商品部と事業部長が必要に応じて管理業務をカバーする状態であった。商品部と事業部が共同で物流改善に取り組むのも本プロジェクトが初めてだった。

 しかし、物流業務に限らずアウトソーシングは、「運営は外部・管理は自社」が鉄則である。この構図が崩れると単なる“丸投げ”となってしまい、コスト・サービスレベルとも、制御不能の状態に陥る。改善活動も物流会社の都合が優先されてなかなか前進しない、ということになる。そこで常設の物流部を立ち上げ、配属は2人にすぎないが、その教育・訓練を行うことになった。

 「⑩物流KPIの活用」も管理力強化の一環である。⑴品質、⑵生産性、⑶精度、⑷コスト、⑸時間(2024年問題など)などのKPI(Key Performance Indicator:重要業績評価指標)を、委託先との「共通言語」と位置付けて改善活動を推し進める。継続性のあるコストセービングには、そうした仕組みづくりが不可欠である。

 こうして、われわれNLFのコンサルティングはひとまず完了し、T社は続いてプロジェクトのステージⅡに向かうとの連絡を受けている。しかし、筆者には一抹の不安がある。T社にとってK社は他に替えの効かないパートナーだが、果たしてK社にとってはどうなのか、という問題である。

 冒頭に説明した通り、T社に対する売り上げ依存率は今では20%まで下がっている。K社のコストダウンはT社にとって売り上げの減少を意味する。どこまで協力を得られるのか、確証はない。コスト削減の成果を荷主物流会社で分け合うゲインシェアリングを導入したとしても、パートナーシップを維持していくことはそう簡単ではないだろう。

 

 
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