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第218回 事例で学ぶ現場改善:『化学品メーカーM社の2024年問題対応』

 荷主企業の役員会で、2024年問題に備えることが決まった。しかし、社内に物流専任部署はなく、物流管理に詳しい人材もいない。そこで外部の専門家を招いてプロジェクトを組織した。物流の効率化やコスト削減はもちろん、最も基本的な管理さえおろそかにしていた実態が次々に明らかになっていった

 

協力物流会社の意外な反応

 M社は東海エリアに本社を置く年商約600億円の化学品メーカーだ。化学飼料、化学肥料、農薬を中心に袋物などを含む約650アイテムを取り扱っている。流通経路は卸への販売が約60%、ホームセンターをはじめとする小売りへの直接販売が約40%である。

 東北、東海、九州の3カ所に自社加工工場を持ち、他に製造の下請けを担う関連会社の工場を国内5カ所に設置している。物流拠点は2カ所。東北、東海の自社工場に隣接してそれぞれ保管倉庫(SP)を設けている。

 今回のプロジェクトの窓口を務めたのはM社の生産管理部であった。2024年問題への対応も睨んで物流を最適化する計画を策定するため、生産管理部を中心に外部の専門家も交えたプロジェクトチームを組織することが、同社の役員会で決定されたという。

 われわれ日本ロジファクトリー(NLF)が外部専門家として招かれ、プロジェクトチームのメンバーと共に「計画書」を策定して8カ月後に上申することになった。M社の自社工場3カ所を対象に一連の現地調査・ヒアリングを実施して、次のような提案を行った。

①協力物流会社との協議

②盤重型トレーの採用

③物流部の新設

④協力物流会社の一元管理

⑤配車業務の外注化

⑥物流診断の実施

⑦関係会社A社との施設共有

 「①協力物流会社との協議」は、24年4月以降も持続可能な物流体制を整備することが目的である。具体的には、ドライバーの積み込み作業時間短縮、出発時間の前倒し、パレット出荷比率の向上などを推進する旨を、まずは主力の協力物流会社に説明して理解を得た上で、それを他の協力会社に展開していくという段取りであった。

 しかし、われわれは“肩透かし”を食らう結果となった。主力をはじめ、協力会社の大半が24年問題に向けた準備体制を何も考えていなかったのである。M社から現場の労働環境改善策を提案しても、各社は「コメントしようがない」といった反応であった。

 そこで矛先を変え、納品先に対して、ドライバーの働き方改革、労働時間の適正化を目的とした、受注〆切時間と出荷終了時間の前倒しを提案して、その実施について調整している。

 「②盤重型トレーの採用」も、ドライバーの作業負荷軽減が目的である。手積み・手降ろしを改めるため当初、M社ではパレット出荷を想定していた。ところが、これに協力運送会社側から反対の声が上がった。車両1台当たりの積載量が手積みと比べてパレットの分だけ減るので、重量当り(袋当り)の運賃(収入)が下がってしまうという。

 そもそもM社の運賃は安価に設定されているため、過積載にならないぎりぎりの量を積まなければ協力会社は採算が取れない。積載率の低下はM社に対する売上依存度が高い協力会社ほど影響が大きく、脱落組が出てしまう恐れがあった。

 そこでパレット出荷と手積みの折衷案として、一部の製品の搬送容器として盤重型のトレーを使用することにしたのである。ちなみに「盤重(ばんじゅう)」とは主に食品業界で使用されている薄型の容器である。現在、そのトライアルを行っている。中間報告として、協力会社の運賃はほぼ従来の水準を維持できそうだ。積み込み作業の負荷も軽減できている。

 しかし、製品をトレーに仕分ける作業が問題になっている。これまではM社の工場から製品をパレタイズした状態で搬出して、そこからドライバーがバラ積みしてきた。トレーを導入することで、パレットからトレーに詰め替える工程が新たに加わる。そのままでは効率が悪い。対策を検討中である。

 「③物流部の新設」はM社の売上規模からすれば当然の措置だった。M社には物流専任部署はなく、各工場の生産管理部がそれぞれ物流も管理する体制だった。納品エリアの重複や、協力会社の数が多く口座も分かれているなどの問題があった。

 そこで新設の物流部で、④協力会社を一元管理する。各工場と営業担当が手配していた協力会社をリスト化したところ全国で58社もあった。まずは現状を整理して、協力会社の評価方法を定め、その情報を全社共有するところまで持っていく計画だ。

 

配車業務を協力会社出向者に移管

 「⑤配車業務の外注化」は本業特化と配車の最適化が狙いである。従来は工場の出荷担当者が手配する物流会社と、営業が手配している物流会社が混在していた。しかも、必要に応じて協力会社に出荷を依頼しているだけで、“配車”という概念が事実上存在しなかった。

 しかし、社内には配送ルートの作成および配送業務の効率化を担当する人材もいないことから、本社物流部が機能するようになるまでの暫定措置として、主力の協力会社から配車マンを一人出向してもらい配車業務を委託した。

 その出向者は、各納品先の納品条件などの情報をカード1枚にまとめた「納品カルテ」を一から作らねばならず、工場と営業を行ったり来たり奔走した。また、この外注化によって、それまでM社が車両の積載率、回転率を見ていなかっただけではなく、基本的な運行管理や安全管理などにも無頓着であったことが明らかになった。

 「⑥物流診断の実施」は、NLFのタスクである。三つの自社工場だけでなく、関連会社の一部にまで対象を広げて、課題の抽出と改善活動に着手する優先順位を判断する必要があった。それによって、関連会社との物流共同化を実現できる可能性があった。

 「⑦関係会社A社との施設共有」はその先行事例だ。これまで東海より西方面は、東海物流センターから出荷しており、九州エリアの顧客への納品は特に運賃が高くついていた。九州に在庫を置きたいところだが、九州工場は敷地が限られておりSPを設置するのは困難であった。

 ところが今回のプロジェクトの現場視察を通して、九州にある関係会社A社の施設に約1100坪の空きを作れることが分かった。そのスペースを利用して新たに九州物流センターを立ち上げた。その結果、東海からの長距離輸送を回避できるようになり、さらにM社と関係会社A社との共同配送が実現した。

 これらの一連の改善の他に、各拠点では本連載では既にお馴染みの「現場作業八つのない(歩かせない、持たせない、待たせない、探させない、考えさせない、書かせない、屈ませない、拭かせない)」や「事務作業六つのない(立たせない、入力させない、書かせない、探させない、作業を私物化させない、チェックさせない)」などの基本的な改善活動に取り組んでいる。

 今回のM社に限らず、化学品業界には物流改善に未着手のままでいる荷主がかなりいるようだ。一般に荷主の物流管理レベルには、売り上げの規模による違いが見られるが、業種・業界によるレベルの差はそれ以上に大きいのかもしれない。

 

 
物流コンサルティング・コンサルタント