第185回 事例で学ぶ現場改善:『パーツ販売Z社の輸送費削減余地検証』

配送コストの上昇に悩まされている。物流コンサルタントの手を借りたいが、どれだけのコスト効果を期待できるのか分からないと投資に踏み切れない。そこでまずは改善余地の検証から始めることになった。その結果、路線会社の対応力が著しく低下している現状を目の当たりにすることになった。

 

同じ路線会社でも営業所で対応に差

Z社は自動車部品の小売りと通販業を営んでいる。中・四国エリアに本社兼店舗を含む4店を展開している。年商は約30億円。近年は通販に力を入れており、売上高の3分の1に当たる約10億円を通販が占めるようになっている。

取り扱いアイテム数は約150。仕入れ先は国内メーカー、卸、海外メーカーなどさまざまである。販売先は大きく、店舗で購入する一般ユーザー、ネット通販での一般ユーザー、ネット通販の法人ユーザーの三つに分類できる。

物流センターと呼べるほどの施設ではないが小規模な倉庫を1棟借りしているほか、各店舗のバックヤードにも在庫を保管している。そのため倉庫および店舗間の横持ち輸送が発生している。それを通販で利用する宅配便も含めて路線会社(特積み)2社に委託している。

ご多分に漏れず、トラック運賃の値上げが現在、Z社に襲いかかっている。危機感を強めたZ社のT社長が、われわれ日本ロジファクトリー(NLF)に連絡を入れてきた。宅配便のコストを抑制したいが、Z社の事業規模でコンサルティングフィーを支払って果たして元が取れるのか、費用対効果の見通しが欲しいという。

そこで、今回の案件はコスト抑制効果を事前に検証することから始めることになった。われわれは宅配便だけにテーマを絞らず、Z社の物流の概要から次のような仮説を立てた。

①倉庫の移管
②店舗でデバンニング
③路線便とルート配送の棲み分け
④トラックターミナルへの持ち込み
⑤「ショットガン輸送」の導入
⑥輸入フォワーダーの変更
⑦宅配会社の見直し

Z社の倉庫は本社および店舗から50キロメートル程度離れた隣県の内陸部にあった。そこを選んだのは、賃借料が安いことに加え、協力路線会社A社が路線便だけでなくBtoCの宅配まで取り扱い運賃も比較的安価であったことに起因している。荷主が少ないエリアであることから、路線会社A社としても店所を維持するのにZ社が必要だったのである。

「①倉庫の移管」はこれをZ社の本社や店舗に近い海側の倉庫に移そうというアイデアであった。それに合わせて現在は4店舗のバックヤードに無秩序に分散している在庫の保管場所を見直せば、輸入コンテナのドレージ輸送や横持ちの輸送距離短縮と、横持ちの発生頻度を抑えることができる。

ところが、移転先を管轄する路線会社A社の営業所に相談したところZ社の荷物には重量物が多いためBtoCの宅配には対応できないと断られてしまった。同じ会社でも営業所によって対応に違いがあった。協力路線会社B社も同様に取り扱えないという。

路線会社C社とD社にも当たってみたが、法人向けなら路線便で対応するが運賃は現状よりも高くなる。BtoCは『NO』という回答だった。この2社には過去にも大型商品のBtoC配送を打診したことがある。その時には、リードタイムは1~2週間かかるものの宅配にも対応していた。結局、倉庫の移管は先送りにするほかなかった。

次善の策として輸入コンテナを「②店舗でデバンニング」してドレージ料金を削減することも検討した。しかし、4店のバックヤードを調べたところ、20ftコンテナを何とかさばける店舗が1店舗あっただけで、40ftコンテナを着車できるようなスペースはなかった。

「③路線便とルート配送の棲み分け」では、近隣の納品先に対しては路線便ではなくチャーターもしくは積み合せで納品することを狙った。問題は運んでくれる物流会社があるかどうかだ。先に説明したようにZ社の商品には大物が多い。誰でも取り扱うわけではない。

幸いなことに法人向けは物量に応じて軽貨物あるいは2t車のチャーターと、積み合せによる対応が可能という運送会社が見つかった。さらにBtoCに関しても家具チェーン、家電チェーン、引っ越しの配送を行っている物流子会社と、一般物流会社から積み合せで対応可能との回答が得られた。

 

路線会社以外の選択肢を探る

「③トラックターミナルへの持込み」にもトライした。Z社の本社および店舗に近いトラックターミナルまで自分で持ち込めば、先に集荷を拒まれた路線会社A~D社はもちろん、他にも運送会社の選択肢が広がるはずだ。意気揚々と候補先を訪問して回ったが、各社とも法人向けなら取り扱うが、宅配はNOと散々だった。

⑤「ショットガン輸送」とは、過去にも本連載で何度か紹介したが、届け先エリアの路線会社や宅配便ターミナルに自分で荷物を持ち込んで末端配送だけ委託するやり方である。届け先エリア単位で荷物をまとめて車両を仕立てることになるため、地方から消費地に納品する場合には特に有効である。

ただし、1日当たり10t車1台分、少なくとも4t分くらいの物量が安定的にないとコストメリットは限られてしまう。Z社では中・四国→関東、中・四国→関西を対象に検討した。しかし、これも路線会社は法人向けの荷物なら取り扱うが宅配は受け付けないとのことだった。そうなるとこれも「③トラックターミナルへの持込み」と同様に、家具、家電チェーン、引っ越し系あるいは一般物流会社を頼るほかない。

「⑥輸入フォワーダー」は、営業倉庫を借りている物流会社のグループ会社に委託していた。しかし、その会社は輸入通関が本業ではなく、売り上げに占める取り扱いシェアも低かった。AEO(優良通関事業者)の認定も受けていないことから通関処理が後回しになり時間が掛っていた。ドレージ料金も割高だった。国際物流をメーンにする会社に変更するべきであった。できれば船会社(キャリア)グループのフォワーダーが良いと判断した。通関処理日数を短縮できれば在庫回転率の向上も期待できる。

「⑦宅配会社の見直し」は現状ではかなりのリスクを伴う。今や物流会社が荷物を選ぶ時代である。路線会社A社との既存取引は温存しておいた方が得策であろう。それでも安心はできない。A社の方針変更あるいは営業所長の人事異動レベルであっても、いつ何時“取り扱いNO”を突き付けられるか分からない。

そうした事態になっても慌てずに済むように、配送ネットワークの補強が不可欠である。具体的には家具チェーン、家電チェーン、引っ越しのそれぞれネットワークとさらに踏み込んだ交渉をしていく必要があるだろう。

こうしてZ社の物流コスト削減余地を探る試みを通してわれわれは路線会社の対応力が著しく低下している様を見せつけられた。物流コストが下がらない時代になっただけでなく安定稼働のリスクが日増しに高まっている。

われわれの報告を受け、Z社のT社長は認識を新たに正式なコンサルティング契約を結ぶことになった。フェーズ1では、先に挙げた仮説のうち、③路線便とルート配送の棲み分け、⑥輸入フォワーダーの変更、⑦宅配会社の見直しを実施する。次のフェーズで⑤「ショットガン輸送」の導入を検討する方針である。

 

《特別編》事例で学ぶ現場改善:『「配車センター」の時代がやって来た』

従来の拠点別の配車管理ではもはや必要な車両を確保できない。効率化にも限界がある。エリア別に配車業務を集約する「配車センター」の設立が有効な解決策だ。ただし、委託先の物流会社から“配車権”を取り戻すことがその前提になる。まずは「運行日報」のチェックから始めてみよう。

 

「運転日報」を毎日チェックしろ

今日、多くの企業が全国1カ所あるいは東西2カ所に受注センターを設けている。売上金額ベースでは既にオーダーの8割以上がEDI化されている。しかし、件数ベースではいまだに5割前後がファクスや電話というケースが多い。その入力作業を従来は各営業所で処理していたが、受注センターに集約して業務を効率化している。

受注に続く業務集約の第2ステージは在庫管理だった。拠点別の在庫管理は在庫の持ち過ぎや偏在を招きやすい。それを避けるため在庫管理センターを立ち上げ、全国あるいは東日本と西日本など広域エリアの在庫を一元管理する。工場から各拠点への補充も中央から指示を出して在庫の偏在と横持ちを回避することに成功した。

次は配車センターの時代だ。まだ具体化しているケースは少ないが、これから確実に増えていくと筆者はみている。そうしないとトラックがつかまらないからだ。拠点別の配車業務を集約して効率化し、管理対象エリアを広げることで無駄を可視化してルート組みを最適化する。今後もドライバーの数は減っていく。集中管理によって限られたリソースを有効に活用する。

配車センターの数は東西2カ所というケースもあるし、首都圏、中京圏、近畿圏などのエリア単位でもいい。九州、四国でもメリットがあったという報告も受けている。とりわけ幹線輸送の帰り便には宝の山が残されている。目安としては使用車両台数300台クラスの拠点を複数展開している企業が検討の対象になる。

ただし、配車センターの新設は、荷主が自分で配車できることが前提だ。これが大きなハードルになる。実際、筆者はこのところ、配車機能を取り戻したい、元請け運送会社に委託している配車業務を内製化したいという相談をよく受けている。

配車は荷主が主導権を握るべきだと、筆者は以前から主張してきた。物流会社に配車を丸投げすれば好き勝手にされてしまう。元請けは合理化すればするほど車両台数を減らさなければいけない。つまり売り上げが減ってしまう。そのため荷主には効率化に取り組んでいるように見せても、実際には手を緩めている。

荷主が自分で配車計画まで作るのがあるべき姿だ。しかし、メーカーや卸などの荷主はもちろん物流子会社でさえ、簡単にはできない。配車システムを使って生産計画と連動した幹線輸送を組むことくらいはできても、柔軟な対応を必要とする販売物流や店舗配送となるとお手上げだ。

トラック運送の実態を知らない荷主が、配車組みまで一気に内製化しようとするのは現実的ではない。その前にやるべきことがある。配車管理の内製化だ。作業と管理は明確に分けて考えなければならない。作業は外部に委託しても管理機能は内部に残す。配車だけに限らないアウトソーシングの鉄則だ。それなのに配車作業と管理の両方を長きにわたり丸投げしてきたことのツケが今になって回ってきたと自覚すべきだ。

それでは配車管理とは具体的に何をすることだろうか。その第一歩はドライバーがその日の業務内容を管理者に報告する「運行日報」のチェックだ。本来、運送会社は毎日、荷主に運行日報を提出する義務がある。ところが実際には日報は運送会社が持ち帰っている。荷主が求めないからだ。その代わりに荷主は月次などで集計した業務報告書を運送会社に提出させている。しかし、それを見ても配車の実態は分からない。

運行日報は毎日チェックしなければならない。その日、荷降ろし時間が不自然に長かった納品先があれば、その理由を尋ねる。ドライバーは「降ろす場所が分からなかった」と言う。調べてみると、その店舗だけまだ「納品カルテ」ができていない。すぐに作成して、同じことが再び起きないようにする。地道な改善の積み上げによって生産性を上げていく。

「配車機能内製化プロジェクト」のステップ1ではルート組みまでは手を出さなくてもいい。それはステップ2で構わない。ステップ1では、配車作業を物流会社に委託したまま、配車管理を内製化する。まずは運行日報のチェック。そしてKPI(Key Performance Indicator:重要業績評価指標)管理だ。幹線輸送であれば積載率で生産性を管理する。満載を100とした場合に何パーセント積載しているか、商品マスターから荷物の容積を計算して荷台の容積と比較する。重量勝ちの製品であれば重量ベースで計算する。その分析から改善策を検討する。

集配便は基本的には車両別回転数をKPIにとってルート当たりの生産性を管理する。ただし、商業地ではないエリアで4トン車以上の中大型車を集配便に使っているケースでは積載率を追った方が効果的な場合もある。

失われた“配車権”を取り戻す

そして次の段階、ステップ2でルート組みに挑戦する。とはいえ、荷主のプロパー社員には難しい。社内で配車マンを育成するのも無理がある。実際には配車の実務経験者を外部から採用するか。あるいは、しばらく物流会社から配車マンを派遣してもらうことになる。

配車業務をどこで誰がやるのかには、基本的に三つのパターンがある。一つは運送会社に所属する配車マンが事務所でプランを組んで荷主の出荷拠点に送信するケース、いわば“リモート配車”だ。工場出荷などの比較的単純な幹線輸送であればそれでも機能する。

しかし、販売物流の場合はどうしても出荷拠点に配車マンを置く必要がある。販売物流の配車マンは出庫後もドライバーをフォローしなければならない。「車が入れないんですよ。どうしましょう」といった相談や、「駐禁切られました。警察行かないと」「それじゃ、代わりのトラック出すから積み替えて。30分後に着くから」といった細かな対応が求められる。

そのためコンビニなどは、委託先の物流センターに元請け運送会社の配車マンを常勤させている。運送会社の配車マンを出向させているケースもある。その場合には人件費が発生するが、配送効率を上げることでペイできるという考えだ。配車機能の“半自社化”といえる。しかし、出向者がそのまま荷主に転職してしまう恐れがあるため、運送会社は優秀な人材を出したがらない。時期が来たら戻すことを前提にすることもある。結局、配車マンの頭が切り替わらないので、効果には限界がある。そして、三つ目のパターンが実務経験者の中途採用による完全自社化だ。配車センターを新設するなら、そこまで踏み込むべきだと筆者は考えている。

ステップ2では、配車と営業との連動、情報共有が不可欠となる。荷主が自分で配車を組むようになると、過剰サービスが表面化する。営業マンは往々にして物流に〝保険〟をかけたがる。午前中に納品すれば済むものを「9時半必着」で指示したり、別便で対応できる追加発注に緊急出荷をかけたりする。

協力運送会社の配車マンは黙って指示に従うしかない。しかし、同じ会社の同僚であれば「これって本当に9時半納品じゃないと駄目なの」と担当営業に聞くことができる。午前中であれば構わないと分かれば効率の良いルートを組み直せる。追加発注の納品方法を検討できる。

 

配車センターを収益化する七箇条

筆者は本誌2017年5月号で「“配車力”を鍛えるための五箇条」を寄稿した。そこではブラックボックス化している配車マンの仕事の中身を整理して、配車能力を向上する方法を解説した。その続編として今回は、荷主の視点に立って配車センターをプロフィットセンター化する七つの方法を紹介する。

物流会社でも物流子会社でもない荷主は、配車センターを収益化しようと言われてもピンと来ないかもしれない。しかし、例えば卸にとって物流サービスはそのまま商品である。メーカーの商品価格にも物流サービスが含まれている。本質的には変わらないと考えて欲しい。

 方法1

配送ルートを年4回は見直す

納品先は時間とともに変化する。しかし、配送ルートは最初に策定したものをそのまま修正しながら使い続けていることが多い。既存の固定コースにそのまま納品先を追加したり、減らしたりを重ねていくので、時間の経過とともに歪みは大きくなっていく。本来であれば配達できる物量なのに車両が足りなくなったり、特定のコースで帰庫が著しく遅くなるといった問題が生じる。少なくとも年に4回は配送ルートを抜本的に見直す必要がある。

 方法2

出荷拠点の振り分けを年1回は見直す

その納品先にどの拠点から出荷するかという出荷拠点の振り分けは、担当営業組織に基づいて自動的に決めている場合が多い。その結果、別拠点の近くまで納品に行くという無駄が生じている。隣接する拠点のさらに遠方まで配送ルートが延びていることもある。拠点ごとに配車担当や協力運送会社が違うとそうした歪みが表面化しない。

配車機能の内製化を機に、商流ベースで振り分けた出荷拠点を物流の目で再検討しよう。その後も本来なら配送ルートと一緒に年4回は見直したいところだが、出荷拠点の変更は得意先との交渉や調整に時間がかかるため、最低年1回でもいいので定期的に見直したい。驚くほど大きな効果があることを筆者は経験から知っている。

 方法3

共同配送は1社で積載率70%以上を満たせるベースカーゴの存在を前提とする

積載率に換算して25%の物量がある荷主を4社集めることで満載にするというアプローチの共同配送は長続きしない。一時的に成立しても、そのうち1社の物量が減って宅配便に流れて離脱したり、あるいは1社で車両を仕立てられるほど物量が急増したりする。

成功している共同物流には1社で70%以上の積載率を満たせる核となる荷主が存在する。それをベースカーゴに10%クラスの小口荷主2社、あるいは20~30%クラスの荷主1社が便乗する。便乗した分がそのままコスト効果を生む。しかも長期にわたる安定運営が可能になる。

 方法4

傭車比率50%以下を厳守する

荷主の場合、委託先の運送会社に傭車比率が50%を超えないように徹底させる。50%を超えると傭車先に主導権を握られて急にハシゴを外される恐れがある。安定稼働にリスクが生じる。今や傭車は自社車両よりもコスト高だ。運送会社に聞けば異口同音にそう答える。新規に傭車を依頼すれば従来の1・5倍近い運賃を要求される。そのため運送会社各社は自社比率を増やしている。荷主は業務内容の改善や働く環境を整備してその支援をすべきだ。

 方法5

夜間配送を検討する

店舗納品などの集配車は夜間配送をあらためて検討する。昼間はどうしても渋滞に巻き込まれる。空いている時間に車を走らせる。ただし、夜間は店舗側で荷受けができない。無人の店舗への納品が前提になる。夜間は配送効率がいいのでドライバーには割の良い賃金が払える。荷受けもないので納品も楽だ。昼間のドライバーよりもむしろ確保しやすい。

 方法6

運用車両台数の約3倍の運送会社とパイプを持つ

目安として、運用車両台数の3倍の運送会社をネットワークをしたい。運用台数が30台なら90社とパイプを持つべきだ。それくらいの選択肢がないと今は車両を確保できない。現状の傭車先リストはあまりに少なすぎる。そのため配車マンは外に出なければならない。運送会社を訪問して、時には車両を相手に融通し、時には融通してもらうバーターの関係を作っておく。

 方法7

ドライバーによる手積み・手降ろしを1年以内にゼロ化する

ドライバーの作業負担の軽減はもはや必須である。待機時間の削減はもちろん、フォークリフト、カゴ車、オリコンなどのマテハンを使わず、ドライバーに手積み・手降ろしを強いる作業は1年以内に解消する。「あそこの会社の仕事は楽だよ」と言わせなければならない。口コミでドライバーが集まる。行列ができる荷主、行列ができる運送会社を目指したい。

 

第184回 事例で学ぶ現場改善:『災害のBCP(事業継続計画)を見直す』

物流に深刻な影響を与える自然災害が立て続けに発生している。西日本豪雨をきっかけにスポット運賃は急騰し、車両の確保が難しくなっている。被災した中小企業への影響はとりわけ深刻だ。車両ディーラーや建設工事会社は大手企業からの要請を優先するためだ。復旧の遅れが業績に大きな影を落としている。


水害後に庫内作業員が相次ぎ退職

大型で非常に強い台風24号が勢力を保ったまま日本列島を縦断しそうだというニュースが流れていた9月28日の金曜日、筆者は関東の物流会社A社を訪問した。定期的に研修を行っている従来よりのクライアントだ。出迎えてくれた営業部長にあいさつ代わりに「御社は前にISOを取得された時に防災マニュアルを作ったと聞いています。こういう時に役立ちますね」と声を掛けた。

ところが、「それがそうでもないんです」と営業部長の表情が曇った。防災マニュアルといってもチェックリストレベルの資料であり、実際に使えるものではないという。しかも、それを作成した当時に災害として想定していたのは地震とそれに起因する津波であって、台風は対象としていない。「異常気象がこれだけ続くとなると物流現場で使用できるBCP(事業継続計画)を作り直さなければいけないね」と、仲間内で話していたところだったという。

予報によると台風が関東を通過するのは週末の日曜深夜から月曜の未明にかけてである。このまま何も準備しないで台風の直撃を受けるのはいかにも危うい。この日、A社の社長は不在で決済をもらうことはできなかったが、営業部長と相談した上で、研修の予定を急遽変更することにした。

研修プロジェクトのメンバーを、「雨水」「風害」「停電」「倒壊」「避難」「その他」にグループ分けして、それぞれ想定される事態を具体的に挙げて、対応策を整理するよう指示を出した。1時間程度の作業だが簡易的な防災マニュアルを作成することができる。

このうち「その他」は筆者と営業部長が担当した。まずは救急箱や非常食の用意、緊急連絡網の確認などの一般的なチェック項目を挙げていった。さらに「来週は台風の影響でトラックが遅れる可能性があることを今日中に荷主と納品先に伝えておいた方がいい」と営業部長。もっともである。それに加えて、納品先のチェーンストアが平常通り店をオープンするのか、それとも臨時休業するのか、それを何の情報に基づいてどの時点で判断するのか先方に確認しておくべきだと筆者はアドバイスした。

この点はA社自身も同じである。「注意報」「警報」「特別警報」「避難準備情報」「避難勧告」「避難指示(緊急)」が発令された場合に、それぞれ誰がどう動くのか、指示命令系統も含めてはっきりさせておく。情報源とするメディアも具体的に指定しておく必要がある。というのもメディアによって情報の流れるタイミングや伝え方は違うからだ。同じ警報を伝えるのにも、全国ネットのメディアは各地の状況を一巡させる必要があるため時間がかかる。地元の地方局の方が早い。

筆者がそうしたことを強く意識するようになったのは、筆者の住む関西が今年に入って立て続けに自然災害に襲われていることもある。6月18日には最大震度6弱を記録した大阪北部地震が起きたが、それ以上に深刻だったのが、7月初旬の西日本豪雨とそれに続く一連の台風による被害だ。個人的な話で恐縮だが、筆者の自宅は大阪市内にあり、西日本豪雨では直接的な被害を受けなかった。しかし、9月4日に西日本を横断した台風21号には直撃を受けた。大阪府内の約100万軒が停電し、関西国際空港が一時閉鎖に追い込まれたことは、読者の記憶にも新しいところだろう。

筆者とは長い付き合いの年商約300億円の日雑卸B社は、自社倉庫の道路沿いの側溝から敷地内に水が溢れてパレット積みしてあった荷物が水に浸かり、1億円近い被害を受けた。建物の外に積み上げていたパレットも暴風で飛ばされた。人に当たっていたら大変なことになっていたところだ。逆によそから飛ばされて来た看板がB社の倉庫の壁に直撃、壁に穴が開き、猛烈な雨が吹き込んだことで“濡れ損”を拡大させた。

その後がさらに大変だった。現場の復旧のため社員たちは徹夜を余儀なくされた。極端な過重労働で、5日間で数時間しか寝ていないという人も出た。それから1カ月余りの間に現場担当の正社員3人が退職した。3人ほぼ同時というのは異例のことだ。それぞれ理由はあるが、きつい・汚い・危険の“3K”を赤裸々に体験して「やはり物流現場は危ない。オフィス勤務とはワケが違う」と感じたに違いない。

 

復旧は大手が優先で中小は後回し

7月の豪雨の直後から西日本のスポット運賃が急騰し、今も高止まりしている。さらに困るのは、「水害があってからというもの、路線(特積み)が全く機能していないことだ」と年商30億円の倉庫会社C社の役員はいう。指定日到着を受けてくれない。筆者の自宅周辺でも至るところで信号機が曲がったり折れたりした。ドライバーはどこを見ればいいのか迷うほどだ。オペレーションの混乱は容易に想像できる。車両も被災している。飛来物がキャビンに当たって運転席のガラスが割れた。あるいはウイング車の架装を破損したといった、比較的小さな事故は無数に起きている。修理は順番待ちだ。

高槻に本社を置く年商10億円の運送会社D社では、車庫に水が入り込み、保有車両台数30台のうち10台が水没した。急ぎ車両をディーラーに発注したが、いつ納品できるか分からないという。大手に在庫を抑えられてしまっているのだ。

D社が拠点内に構えている延べ床面積約200坪のテント倉庫も被災した。テントといっても耐用年数は10年から15年はある。仮設倉庫のつもりで購入しても使い勝手は悪くないので、恒久的に使い続けていることが多い。ただし、基礎をかさ上げしていない場合が大半なので、水はけの悪い低地に設置して大量の雨が降ると床が水浸しになってしまう。

この問題でも車両と同じ目に遭っている。テント倉庫の修復を依頼しても工事会社が動いてくれない。人手は限られている。当面は大手顧客にかかりきりだ。大手は施設の規模も多く、数もある。一通り復旧を終わるまで中小は後回しにされてしまう。被災してから2カ月近くが経ち、新聞やテレビで大手物流会社の機能が回復したというニュースが流れる一方、D社のテント倉庫は手付かずのまま放置されている。結局、D社は今期赤字転落が避けられない見通しだ。車両の水没で約6千万円の特損が発生し、復旧の遅れで売り上げも大幅に減少する。

既存のBCPは基本的に地震災害を対象に作成されている。関西で言えば南海トラフ地震を想定した防災や減災、津波への備えはそれなりに進んでいる。内陸部に倉庫を設けて在庫を分散したり、拠点の耐震設備や自家発電装置、敷地内のインタンク(自家給油所)を整備する動きがみられる。

しかし、今年の集中豪雨や台風による被害はBCPの想定範囲を超えている。地震と違って水害や風害は事前に到来をほぼ正確に予測することができる。それなのに実際に暴風圏に入ってみて、初めて筆者を含めて多くの人がその影響の大きさに驚かされたに違いない。

異常気象が今年だけの問題ではないとするなら、BCPを見直す必要がある。具体的には、豪雨とそれに伴う洪水、風害、倒壊、停電に備えなければならない。とりわけ中小の物流企業にとっては、それが文字通り事業の継続を左右することになりかねない。

 

第179回 事例で学ぶ現場改善:『雑貨メーカーN社の物流パートナー選定』

業績好調で物量が増加している。しかし、設立から間もない時期に契約した物流業務の委託先が事業の成長に付いてこられない。倉庫運営は安定せず、作業品質やサービスレベルの悪化が目立っている。その上、10%の値上げを要請してきた。物流パートナーの見直しが必要だった。

倉庫会社の担当窓口が次々退職

N社は設立から約6年の生活雑貨メーカーだ。ペット関連用品を中心に約3800アイテムを取り扱っている。年商はまだ約30億円という規模ながら、販路とペットブームに恵まれて急成長を遂げている。生産拠点は中国、ベトナム、タイに1カ所ずつと国内2カ所の計5カ所に置いている。物流拠点は関東の1カ所から主に路線便(特別積合せ貨物)を使って全国に供給している。得意先の大半は大手雑貨卸である。

創業時はマンションの一室で自社物流を行っていたが、設立2年目には自分たちの手には負えない量になり、地元に営業倉庫を持つ地場物流会社A社に業務を委託した。その後もN社の物量は増え続けた。それに伴い支払物流費も増えていった。また、それ以上に問題だったのが運営の“ちぐはぐさ”が目立つようになったことだという。このままではいずれ出荷もままならない状況に陥るかもしれないと、N社のP社長と物流担当のR氏は心配になり、われわれ日本ロジファクトリー(NLF)に相談を持ち掛けたのであった。

まずは、運営の“ちぐはぐさ”とは何を指しているのか、NLFで対応できるテーマなのか、詳細を確かめる必要があった。N社は少数精鋭が強みとのことで、確かに物流担当のR氏は、調達を含めたN社のサプライチェーンと自社のシステムについてよく理解していた。R氏によると、N社が物流パートナーの見直しに動くことになった直接の引き金は、最近要請された10%の値上げであり、また“ちぐはぐさ”とはA社側の窓口となる担当者に退職が相次ぎ、業務が安定しないことを指していた。

実際この1年半足らずの間に3回も担当者の変更があったという。しかも、そのたびにA社側では社内で引き継ぎができず、R氏がA社の新任担当者に一から全てを教えなければならなかった。さすがにN社側でもこれを問題視していたが、事業の成長スピードが速かったために、物流パートナーを見直すタイミングを逸してしまってきたのであった。

N社は最初にA社を物流パートナーに決めた際に、拡張性を考慮に入れていなかった。しかるべき選考プロセスも採用していなかった。基本的なミスである。とはいえ、今になってそれを指摘したところで前には進まない。そこであらためてN社の物流の現状と当面の事業計画に見合った物流パートナーを選び直すことになった。その具体的な実施項目を次の7つに整理した。

①「提案依頼書」の作成

②「物流コンペ開催要項」の作成

③  物流パートナー候補のリストアップ

④「物流事業者評価表」の作成

⑤「SLA」の作成

⑥  作業マニュアルの作成

⑦「納品カルテ」の作成

①「提案依頼書(RFP=Request For Proposal)」と②「物流コンペ開催要項」は、物流コンペでは必須となる資料である。まずRFPをまとめた上で、次に物流コンペ開催要項を作成するという手順になる。

RFPでは、N社が求める「物流スペック」「業務内容」「サービスレベル」を定義する。また、提案の基礎情報として必要な現状の物流品質(KPIレベル)、物量、季節指数(波動)などのデータをそろえ、全体の業務フローの説明資料を作成する。一方、物流コンペ開催要項はRFPの内容に開催スケジュールや決定までのスケジュール、選考基準、提案形式など、コンペの実施計画を加えたものである。

N社のP社長およびR氏は、要点を短期間で絞り込み、コンペに要する期間と手間を抑えたいとのことであった。そこでRFPの作成と並行して、N社とNLFの双方で③「物流パートナー候補のリストアップ」を進めて、めぼしい物流会社には随時、一本釣りでアプローチしていくことにした。

 

路線会社がセンター運営に興味

物流担当のR氏は今回のコンペを通じて、何とか路線便運賃の上昇を抑えたいと考えていた。そんな折、われわれNLFの元に路線会社のS運輸から広告DMが届いた。早速、連絡を入れてみることにした。

既に広く知られている通り、ヤマト運輸と佐川急便は昨年来、大幅な値上げを実施し、荷物と荷主を選ぶようになっている。それに対して他の路線会社は大手も含め、宅配大手からはじき出された荷主の刈り取りに積極的に動いている。とりわけセンター運営の仕事に各社は力を入れている。

狙い通りS運輸との話し合いは上々であった。N社の物流の概要を伝えたところ、場所、規模、パートナーを変更する理由など、条件的には申し分ないとのことで、コンペへの参加を約束してくれた。一方、N社側からのリストアップは皆無に近い状況であったため、NLFがリストアップした候補各社の概要をP社長とR氏に詳しく説明し、条件に合った物流企業にそれぞれコンペへの参加を促した。

④「物流事業者評価表」は、本連載で過去に何度か紹介しているが、候補企業の採点表である。N社はA社を選ぶ際に、これを活用しなかったため後から苦戦を強いられることとなった。候補企業の現場運営能力は、現場見学による「5S」のチェックや社員の定着率を確認することなどによって、自前にある程度は把握できるものである。

⑤「SLA(サービス・レベル・アグリーメント)」も今では常識といえる。N社とA社との契約にはサービスレベルに関する取り決めがなかった。出荷精度を示す「在庫差異率」の基準値も設定されておらず、棚卸しの頻度や方法についても丸投げだった。その結果、システム上はあるはずの在庫がない、そのために出荷できないという事態が日々発生していた。

その反省を基に今回のコンペでは、在庫金額の差異率とアイテム数の差異率をそれぞれ0・001%に設定した。棚卸しは毎日実施するが、全ての在庫を毎回チェックするのではなく、庫内をエリアや出荷頻度ランクで区分して、一定のサイクルで順番に棚卸しする「循環棚卸し」で良いことにした。

0・001%という精度は高過ぎると感じる読者もいるかもしれない。しかし、N社のWMSとバーコード・ハンディー・ターミナルの使用を前提として、循環棚卸しとはいえデイリーで在庫を確認することから、現場運営に優れた物流パートナーであれば十分に達成可能なレベルと判断した。

また、その他のKPIとして、実在庫の問い合わせやトラブル対応の「回答期限」を12時間以内と定めた。これもまた、A社に対して、“どうなっているか”と問い合わせをしても、なかなか返答がなく、どれだけ待てば返答が来るのかも分からないため、顧客に迷惑を掛けることが多かったことへの反省からである。

 

引き継ぎ時の重要ツール

⑥「作業マニュアル」と⑦「納品カルテ」は、いずれも業務委託先を変更する際には特に重要なツールである。それなしに運営を丸投げしている状態で委託先を変更すると、オペレーションをまたゼロから新規のパートナーと一緒につくり上げなければならなくなる。これをわれわれは“スイッチングリスク”と位置付けて重点管理を行うようにしている。

<「納品カルテ」でドライバーをサポート(イメージ、再掲)>

庫内作業の方法は現場によってそれぞれ違う。同じピッキング作業でもトータルピッキングしてからオーダーピッキングを行うところもあれば、オーダーピッキングだけで回しているところもある。ロケーション番号を棚上に付けるか、棚下に付けるか、パレット積みしているケースは右取りか左取りかなど、細かく見れば百社百様である。全くルールのない現場もある。結局のところ仕事に人が付いているのではなく、人に仕事が付いているのが多くの現場の実情である。

各納品先の情報、いわゆる“庭先条件”をそれぞれ1枚のカードに整理した「納品カルテ」も同じである。顧客との取引条件を自社管理するのは当たり前だろう。しかし、実際には多くの荷主が庭先条件の把握と管理を現場のドライバーに丸投げしている。

納品カルテは配車管理とも密接な関係がある。運賃の高騰やドライバー不足の深刻化で、輸配送の自社化を検討しなければならない荷主が増えている。しかし、納品先の庭先条件を正確に把握していない限り、配送ルートさえ組めない。納品カルテはドライバーの変更による引き継ぎに利用するため普段から用意しておくべきものだが、多くの荷主がそうせず「しまった!」と後悔している。

さて、N社の物流コンペは結局、3社が最終候補となり、先のS運輸が受注することになった。S運輸はセンターの立ち上げを専門とする部隊を投入して大きな混乱なく現場の移管を済ませた。路線便の値上げも約5%に収まった。現在、N社は次なるテーマとして、海外生産拠点から日本への海上コンテナ輸送の見直しによる調達リードタイムの短縮と、それによる在庫の圧縮を検討しているところである。

 

第178回 事例で学ぶ現場改善:『物流会社Y社の計数管理プロジェクト』

異業種から転じて物流会社を立ち上げた社長が、理系出身を生かして独自に考案した「物流KPI」で差別化を図り、事業を軌道に乗せた。しかし、自己流が果たして本当に正しいのか、今になって不安を覚えた。物流コンサルタントの支援を受け、計数管理のノウハウをブラッシュアップすることにした。

脱サラ技術者が地場運送に参入

Y社は年商約10億円の物流会社だ。地方の中核都市に本社を置き、エリア配送をメーンにしている。保有車両台数は28台。1千坪規模の倉庫2棟も賃借している。全国への配送は各エリアの物流会社と提携を結び、お互いに再委託し合うネットワークを構築している。しかし、このネットワークはあまりうまく機能しておらず、実際には路線会社(特積み会社)に頼らざるを得ないことがしばしばある。Y社を創業したT社長の悩みの一つである。

T社長は30年ほど前に“脱サラ”でY社を立ち上げた。それまで大手メーカーに技術者として勤務していたが、全社的な物流改善を行うプロジェクトのメンバーを経験したことがきっかけとなって、本人曰く「ミイラ取りがミイラになった」──。

T社長は他社との差別化を図るために独学で日夜、物流業界を研究した。その結果、「提案力」こそがY社の武器になる、他社は十分な能力を持っていないと判断し、技術畑出身というキャリアを生かして数値に基づく提案力を磨いていった。

今でいう「物流KPI」に基づく管理を、市の周辺に物流拠点を構える大手メーカーなどに提案した。T社長のアプローチは、物流会社の“丼勘定”に慣れた荷主をあっと驚かせるものだった。順調に有力荷主との直接契約を勝ち取り、ほどなくして事業を軌道に乗せた。それ以降、Y社は安定した経営を続けている。

しかし、ここにきて一抹の不安がT社長の頭をよぎった。今まで自分なりに考えて理論を構築し、数値管理を行ってきたが、これは物流のスタンダードに照らせば“邪道”なのかもしれない。ひょっとすると独り善がりな提案になっているのではないか‥‥と。

そんな相談を受けて、筆者はT社長と共にY社の計数管理の見直しプロジェクトに着手した。物流データに関わるテーマを整理して、それぞれ現状の評価と改善、現場への落とし込みに取り組んだ。その一部ではあるが、今回は次の6つのテーマについて紹介しよう。

①運送原価算出

②トータル物流コスト算出表の活用

③出荷頻度ABC分析によるロケーション、レイアウトの見直し

④イレギュラー業務の分析

⑤着地点分析

⑥物流KPIの活用

①「運送原価算出」では(表参照)、原価項目の大枠に問題はなかったものの、「タイヤチューブ費」の算出方法に難点があった。何キロメートルまでタイヤを使用することができるのかが〝丼勘定〟になっていた。タイヤの消耗は車両の使用状況次第で大きく違ってくる。Y社の過去の実績をあらためて調べ直すことにした。

さらに減価項目の「燃料費」を省エネ運転の徹底に利用することにした。営業所でドライバー点呼を行うスペースの壁面に、月別の「ドライバー別燃費ランキング」を貼り出した。至って単純な取り組みだが、効果は抜群だった。ドライバーの燃費意識が著しく向上し、燃料費が目に見えて削減された。燃費管理が徹底されると車両事故も激減するものだ。実際、Y社ではプロジェクトが終了してから12カ月間にわたって重大事故ゼロが続いている。

出荷頻度の計算に問題発覚

②「トータル物流コスト算出表の活用」は、経済産業省が旧通商産業省時代の1990年代に策定した「物流コスト算定マニュアル」をベースにしている。同マニュアルに示された管理項目に荷主各社の「在庫回転率」「季節波動(指数)」「支払物流費比率」などを加えて、改善提案の資料を作成した。

具体的には、作業エリア別のコストの内訳を明示したトータル物流コストを荷主別に算出。さらにその荷主が倉庫に保管している在庫のアイテム別回転率を示すことで、デッドストック、滞留在庫の状況を報告して、荷主にそれぞれ提出し、改善を促した。

③「出荷頻度ABC分析によるロケーション、レイアウトの見直し」では、出荷頻度の計算方法に問題が見つかった。Y社では以前からABC分析を行っていたが、各アイテムの出荷個数を基に出荷頻度を計算していた。正しくは、アイテム別の受注データの行数、つまり「データ行数」(レコード数と呼ぶ場合もある)でなければならない。

出荷個数は庫内作業の「タッチ数」を必ずしも反映しない。複数ピースあるいは複数ケースの注文は通常、まとめてピッキングするからである。そのため庫内作業の改善を目的とした出荷頻度ABC分析に、個数をベースに計算するのは適切ではなく、データ行数を用いるべきなのである。

データ行数ベースで集計をやり直してみたところ、非常によく出荷されるSAランクやAランクのアイテムと、ほとんど出荷がないDクラスのアイテムでは、出荷頻度の開きが従来の計算よりずっと大きいことが分かった。この結果を反映して、SAランクとAランクに使用する軽量ラックと仮置きゾーンの面積を増やし、その分だけDランクのスペースを圧縮・縮小した。

 

物流KPIをリニューアル

④「イレギュラー業務の分析」はイレギュラーを明確に定義することがポイントである。われわれ日本ロジファクトリー(NLF)では、物流コストを押し上げる三大要因を「ハンドリング(H)」「波動(H)」「イレギュラー(I)」の「HHI」と総称している。イレギュラー業務は多くの現場でレギュラー化している。Y社の場合も、受注締め切り時間後の追加出荷が当たり前になっていた。

どの荷主の現場も契約初年度を過ぎて2年目の後半当たりに入ると、契約時とは異なる作業を行うようになる。多くの場合、作業項目が増えている。しかし、契約書の内容がそもそも作業員はもちろん、現場のリーダークラスにも知らされていないので、イレギュラーに気が付かない。

先日、筆者がある会社の研修で「今、対応している業務の契約書を見たことがあるか」と質問したところ、「見たことがある」と手を上げた者は皆無であった。少なくとも現場リーダーレベルには契約書の内容をきちんと伝えておくべきである。

⑤「着地点分析」は通常、拠点の最適な立地を判断するために新規案件の提案や運用を開始するときに行うものである。Y社のように自社配送エリアや拠点の立地が固定されている場合には縁の薄いテクニックだが、同じロジックを使って配送コースを分析することもできる。

そこで各荷主の対象エリアの納品データを基に最適ルートを分析する手法を整理して、“地場”の強みを生かした提案を行うことができる体制を整えた。

⑥「物流KPIの活用」は、Y社の強みをさらに強化する取り組みである。前述の通りY社は物流KPIを武器にしてきた。しかし、実際の提案書の内容を確認すると、そこにはまだ改善の余地があった。

Y社がこれまで使ってきたKPIのラインアップは「品質」に偏っていた。これに「生産性(人時)」や先の「HHI」の一つである「イレギュラー」、「在庫回転率」などの項目を加えて提案の幅を拡げた。

またY社の倉庫にはWMSが導入されており、作業品質が高いことも売りの一つになるはずであった。しかし、その良さをKPIで十分にPRできていなかった。そこで「在庫差異率」のKPIに「金額差異」だけでなく「アイテム数差異」を加えた。同様に従来の「誤出荷率」と並列の「誤出庫率」を設定した。

こうしてY社はこれまで培ってきた計数管理ノウハウをリニューアルした。現在はT社長が次なる課題とする、全国対応に向けた配送ネットワークの再構築と、T社長の右腕となるナンバーツーの育成に歩を進めたところである。

周知の通り、物流業界にはいまだに“丼勘定”が横行しているのは事実である。物流には基準や目安が存在せず、現場のルールは曖昧でマニュアルも整備されていない──そんな非難の声を筆者は何度も耳にしてきた。

しかし、詳細に見ていくと多くの現場で、実は「それらしきもの」を見つけることはできるのである。明確に体系化されていないだけなのだ。経営者にやる気と行動力さえあれば“邪道”や〝丼勘定〟を脱することは、そう難しくはない。

 

《特別編》 事例で学ぶ現場改善 :『 事例で学ぶ運送各社の値上げ交渉』

昨年10月から年末にかけてヤマト運輸の値上げに続いて運送各社が一斉に動いた。しかし、強硬姿勢が目立つのは宅配大手に限られる。特積み大手の西濃運輸、福山通運は、主要荷主に対しては柔軟な対応を取っている。中堅以下はさらに慎重で、値上げ幅も抑制している。

報道と実態にギャップ

昨年来の値上げ交渉で、ヤマト運輸は法人顧客の4割と取引を打ち切ったという。他の大手運送会社も10%以上の値上げに踏み切ったというニュースが新聞紙上で伝えられている。しかし、筆者の耳に入ってくる話は、報道とはかなりのギャップがある。

値上げはヤマトが突出している印象で、次に佐川急便が強硬姿勢を取っている。日本通運はもともとタリフが高い。価格に敏感な荷主はそもそも日通を使わない。外資系や売上高物流コスト比率の低い荷主が、相見積もりも取らないまま、日通に配送を丸投げしているケースがよく見受けられる。

特積み大手の西濃運輸、福山通運のアプローチは、ヤマト・佐川や日通とはかなり違っている。ボリュームの小さな荷主には確かに報道されている通りの値上げを適用している。しかし、物量のある荷主や長年の安定荷主に同じ金額をぶつけるようなことはしていない。

中堅以下の特積みや一般運送ともなると、大手の交渉が一段落したタイミングを見計らって5%程度の値上げを恐る恐るお願いしているというのが現状だ。以下、筆者がクライアントや関係者からヒアリングした運送各社の値上げ交渉の状況を報告する。

ヤマト運輸──「ネコポス」の値下げで調整

従来、ヤマトは運賃交渉で各営業所にかなりの裁量権を与えていたが、今回は本社主導が強烈で取り付く島がない。ただし、全国一律料金で翌日ポストに投函する〝投げ込み宅配〟の「ネコポス」に関しては、これまで1個260~270円だったのを220~240円に下げてもらったという報告がいくつか届いている。

「宅急便」を値上げする代わりに、ネコポスの料金を引き下げることで多少なりとも相殺して、荷主との関係を修復する材料に使っているようだ。ネコポスは再配達が不要でサイズも小さいため物量が増えてもキャパシティーに大きな影響を与えない。他のサービスからネコポスに誘導する狙いもあるのだろう。

佐川急便──荷物を選び採算重視を継続

中部地区の組立家具メーカーA社は、BtoCの全国配達に佐川急便、BtoBに中堅特積みD社を使っている。佐川急便からは30%の値上げを要請されている。佐川が260サイズを超える大型貨物の宅配から手を引こうとしているのは、2013年のいわゆる〝佐川ショック〟以来のこと。もはや驚くには当たらない。これまで値上げしきれていなかった部分を詰めているということだろう。

一方、中堅特積みD社は、昨年10月にようやく10%の値上げを要請してきた。それも怖々と出してきたという印象だ。D社は以前から輸送品質の問題を指摘されており、あまり強く出て他社に乗り替えられることを恐れているようだ。しかし、A社は値上げを受け入れた。他に選択肢がなかったからだ。他の特積みは営業所がA社から離れているため集荷に来てくれない。荷主が運送会社を選ぶだけでなく、今や運送会社も場所で荷主を選ぶようになってきた。

西濃運輸──タリフを上げて割引率拡大

西濃の値上げのやり方は少し変わっている。特積みの実勢運賃は現在「昭和60年タリフ(1985年に当時の運輸省=現国土交通省=が公示した標準料金表)」が下限であり「平成2年タリフ」が相場だが、西濃の場合、「平成6年タリフ」以上を適用しようとする傾向がある。

ただし、筆者がクライアント数社にヒアリングしたところ、運賃テーブル自体は上げても、実際に荷主から収受する運賃はタリフから大きく割り引き、実質的には5%以下の値上げに抑えているという。タリフは上がったが、支払運賃は従来とほぼ変わらないという荷主さえいた。営業所はタリフを上げることで本社の値上げ指令に応じる姿勢を見せる一方、大事な荷主に対しては割引率を拡大することで客離れを防ぐという苦肉の策に出ているようだ。

福山通運──現場に裁量権を残す

福通も本社主導の価格統制は行っているが、営業所レベルで多少の調整には応じている。年商約300億円の資材卸のF社は全国に3拠点を配置し、足回りは全国的に福通をずっと使ってきた。ただし、近年は地元の新興3PLを元請けに挟んでいる。昨年、福通から値上げ要請を受けたが、値上げ率は限定的であり、今のところ3PLが吸収している。

ただし、3PLも祝祭日を挟んだ出荷はケース1箱当たり300円の値上げがどうしても避けられないと音を上げている。特積みの最小運賃(10キログラム以下・50キロメートル以内)の1箱当たり単価を約400円とするとかなり値上げ幅だが、土日を除く祝祭日だけなので影響は知れている。

3PL──本社主導でコスト増を転嫁

3PLは相手を見て交渉に臨んでいる。業務用卸F社はボリュームディスカウントを狙って関東2カ所、関西1カ所の計3カ所の拠点運営と配送を、中堅3PLのG社1社に数年前に集約した。その結果、トータルコストは削減された。通過金額ベースの料率制料金にすることでコストの変動費化も実現した。

ところが今回はそれが裏目に出た。昨年末、人件費や傭車費の値上がりを理由にG社から15%の値上げを要請された。拠点別に契約を結んでいるG社グループの各地の地域子会社がそれぞれ申し入れてきたものだが、値上げ幅は全国一律で、実質的な交渉相手はG社の本社だった。

F社は強硬に抵抗したが、急に委託先を変えるわけにもいかない。「ノー」とはいえない状況に置かれていることに今さらながら気付かされた。G社は元請けとして十分な役割を果たしているとはいえなかった。拠点運営は下請けに丸投げ、配送もほとんど傭車だった。そんなG社に丸投げした荷主が悪いといえばその通りで、1社独占にしたのはやはり失敗だった。

G社にとってもF社の仕事は恐らく利幅の薄い商売だろう。そのため、値上げを認めてもらえなければ契約の打ち切りもあり得るという脅し文句を、F社は簡単にはねのけるわけにはいかなかった。交渉の末、F社は10%近い値上げを受け入れた。今年1月から新料金を適用している。G社としては当初の15%から引き下げることでF社の顔は立てたが、狙い通りの結果だろう。

 

4月以降もヤマトの動きに注目

以上のように昨年10月から年末にかけて、ヤマトや佐川の動きに便乗する形で物流各社が一斉に値上げに動いた。結果として今年1月から新料金が適用されている。そのために今年4月からの新年度に向けた値上げの動きは今のところあまり見られない。4月以降の運賃動向も鍵を握るのはやはりヤマトだ。ヤマトが再び値上げに動けば他社も続くだろう。

当面、運賃が下落に転じることは考えにくい。むしろ実勢運賃は長年にわたり極端な安価に抑えられてきただけであり、今の水準が適正価格と覚悟するべきだろう。少子高齢化、人手不足という問題に有効な解決策はなく、ドライバーが増えることは期待できない。従って荷主は現状の運賃を前提にして、必要な場合にはビジネスモデルの修正を検討する必要が出てくる。

ただし、筆者から見れば荷主の多くは、運賃や人件費などの単価の上昇によるコストアップと、仕組みの非効率性によるコスト増を整理できずに混同している。単価を下げることはできないが、仕組みに目を向ければコスト削減の余地はいくらでも残されている。

例えば拠点の立地だ。坪単価の安い土地を選んだ結果として、運送会社の営業所から距離があるために運賃が高くつく、集荷の締め時間が前倒しになる、後背地に人手が足りず庫内作業員が集まらないといった事態を招いているケースがある。多少坪単価は高くてもアクセスに優れた立地に移ることでトータルコストはむしろ下がる可能性がある。サービスレベルも上がる。締め時間が伸びるだけでなく自社便で特積みの基幹店に荷物を持ち込めば午前0時まで翌日出荷で対応してもらえる。「営業所止め」も選択肢になってくる。あらゆる手を尽くして飽くことなく改革、改善に取り組むほかない。

 

第177回 事例で学ぶ現場改善:『化学品卸J社の改善活動「再」入門』

物流センターを自社運営している。管理者として正社員2人、直接雇用のパート・アルバイト約70人を投入している。生産性に問題があるのか、残業が常態化している。人手不足で補充もままならない。過去に何度か外部の専門家の指導を受け改善活動にも着手したが定着には至らなかった。


「ワーク」と「タスク」は違う

J社は年商約120億円の化学品卸である。約1万1千SKUを取り扱い、関東と関西、九州の計3カ所に物流拠点を配置している。3拠点とも庫内は自社運営で、輸配送だけ外部委託している。

今回のプロジェクトリーダーであり、われわれの窓口を務めたJ社のM氏いわく「過去に何度か改善を試みたことがあり、コンサルや3PL事業者を活用したこともある」。しかし、自社改善はことごとく頓挫した。コンサルや3PLの指導を受けても、現場スタッフは日常業務に追われて活動が定着しなかったという。

それを受けて筆者は「われわれも含めて外部の専門家はあくまでサポーターであり、改善は当事者が行わないと定着しない。まず倉庫管理者の意識と業務内容を明確にする必要がある」と伝えた。これにM氏も大きくうなずいたが、昨今の人手不足は改善活動に着手できない状況に拍車を掛けているという。

さて、どうするか。聞けばJ社は現在、センターを土曜日にも稼働させているが、平日より出荷量が少ないため、昼過ぎには業務を終えることができるという。そこで土曜日の午後を活動に充てることを提案した。再びM氏はうなずいた。

このようなやり取りを経て、プロジェクトがスタートした。まずは関西拠点が舞台である。いつものように現場の視察と関係者のヒアリングから着手するテーマを次のように絞り込んだ。いずれも「5S(整理・整頓・清掃・清潔・躾)」レベルの基本的な内容である。

①倉庫管理者の役割の明確化

②出荷頻度ABC分析に基づく作業生産性・作業品質の向上

③6つの「ない」の実践

④誰もが分かり、誰もができる現場づくり

⑤多能工スタッフの育成

⑥レイバーコントロール強化

⑦保管効率の向上

⑧庫内の照度アップ

⑨物流人事考課の刷新

①「倉庫管理者の仕事の明確化」は、「ワーク(作業)」と「タスク(業務)」の違いを、管理者にはっきりと認識させることが第一歩である。ワークは管理者ではなく、パート・アルバイトで対応できる。それを管理するのがタスクである。管理者はワークではなくタスクの対価として給与を得ている。そのことを忘れて、多くの管理者がワークに追われることで仕事をした気になっている。

管理者とパート・アルバイトでは、仕事の時間軸も異なる。パート・アルバイトはその日の終了時間が来れば、当然ながらそこで仕事は終わりである。一方、管理者の仕事は、次の繁忙期に備えた採用や人員調整など、月単位、シーズン単位で「時計」が進む。管理者は忙しいときほどパート・アルバイトにどのように動いてもらうかを考えて、現場に指示を与え、指導する必要がある。ところが実際には、忙しいときほど現場に入ってしまう管理者が多い。そのことを、まずは座学でしっかりと話し合い、確認したのであった(表1)。

②「出荷頻度ABC分析に基づく作業生産性・作業品質の向上」は、今や現場改善の定番である。J社の現場は商品在庫があちこちに散在し、通路にも商品が置かれて、必要な動線も確保できない状態だった。商品の出荷傾向を十分に考慮せずにロケーションしていることが明らかであった。

アイテム別の日々の出荷実績データを用意して分析する作業にはやや時間を要したが、これによって保管ロケーションは大きく様変わりし、1500ミリメートルの通路(ラックとラックの間)を確保することに成功した。作業員が新たなロケーションに慣れてくるのに伴い人時生産性は向上していった。現状で改善前と比べて約10%向上している。それだけ作業の終了時間が早くなった。

③「6つの『ない』の実践」とは、庫内作業員に「持たせない/書かせない/歩かせない/待たせない/考えさせない/探させない」ことを意味している。そのために、ロケーション番号を作り直して文字を大きく見やすくした。加えて作成と拡大、「ゾーン」や「レーン」などの掲示物の作成、ピッキング時の台車の使用などを推し進めた。いずれも基本的なことだが、J社の現場では整備されていなかった。

④「誰もが分かり、誰もができる現場づくり」は、いささか抽象的な表現であるため、対象者が「初心者」「外国人労働者」「高齢者」の3つであることを明確にしてから、具体的な事項を落とし込んでいった。

倉庫は庫内スタッフだけで運営しているわけではない。例えば「高齢者」には、倉庫に納品や集荷に来る外部のドライバーも含まれている。ドライバーは年々高齢化が進んで今や70歳以上も珍しくない。そこで高齢者でも見やすいように庫内表示の文字や数字を大きくするなど、彼らにとって「分かりやすい」「作業しやすい」現場にすることが重要である。

⑤「多能工スタッフの育成」は少数精鋭化が狙いである。関西拠点は約70人のパート・アルバイトを雇用しているが、それぞれ受け持ちが固定化されていた。フロアが多層階に分かれており、全体を見ることができる環境が整っていなかったのも一因だが、何より、管理者にスタッフを戦力化しようという強い意志がなかった。

パート・アルバイトに新しい仕事を教えることにした。自分の持ち場の前工程と後工程、計3つの仕事を覚えてもらう。それによって初年度は10人のスタッフを多能工化する計画だ。庫内作業員の多能工化は人手不足対策として昨今は避けて通れない施策である。J社の管理者たちもそのことをよく理解して熱心に指導をしており、既にスタッフ3人の多能工化に成功している。

 

7人の「パートリーダー」を設置

⑥「レイバーコントロール強化」も「パートリーダー」の設置が肝であった(表2)。J社はクラウド型のWMSを導入しており、そのオプション機能を使ってレイバーコントロールにも着手していた。しかし、「人員管理表」と「1人当たり作業生産性」を算出しているだけで改善の余地が大きかった。

1人当たり生産性を物量別、時間帯別、作業内容別に分析した。その結果、課題がどこにあるのかは明らかになった。しかし、関西拠点はパート・アルバイト70人に対して管理者が2人しかいない。指導側の人員が不足していた。そこで新たに「パートによる、パートのための、パートの仕事」をスローガンに掲げ、7人のパートリーダーを設置した。パート10人につき1人のリーダーを置く形だ。

一般的には7:1(7人につき1人)の比率でリーダーを置くのが目安とされているが、筆者の経験では、現場の事情に合わせて5~10人に1人の幅で調整することができる。J社の場合、その上限に当たるが、リーダーの資質に目をつぶって無理に頭数をそろえるよりもベターと判断した。

⑦「保管効率の向上」のため、パレット貨物を多段積みする「ネステナー」を8基投入した。従来は最大で2段積みだったので格段にスペースに余裕ができた上、何より安全性が高まった。軽量ラック12台も投入して、散在していた商品を格納した。

⑧「庫内の照度アップ」は必須だった。関西拠点のみならず、関東、九州とも庫内が薄暗かった。水銀灯のみで補助照明を付けていないフロア、蛍光灯はあるものの保管している商品の上に電気回線が通っていて、手許が影になってしまっているエリアなどが散見された。原因が明確な場合は保管の位置を変えるなど、あまり費用を掛けることなく対応して、最低250ルクスを目安に照度を向上した。

これら①~⑧の施策を受けて、⑨「物流管理者の人事考課」を、「管理」と「改善」に照準を絞り刷新した。J社では今回の関西倉庫をモデルに、これから関東と九州に活動を横展開していく計画だ。J社に限らず荷主企業による自社運営の現場は、ルールや基準がないために何が問題なのかさえ分かっていないことが多い。その恐れがある場合には、まずは基本に立ち返ることである。

 

第176回 事例で学ぶ現場改善:『仲卸F社の支払物流費削減』

冷凍品・チルド品を扱う仲卸が支払物流費の上昇に悩んでいた。聞けば配送はもちろん市場内の荷役作業まで外部委託しているという。卸としてそれで競争力を維持していけるのか、コスト以前の問題があるように感じた。まずは実態を確認するため深夜から早朝にかけての荷役作業に張り付いた。

荷役作業の外部委託を見直し

F社は年商約100億円の食品卸である。中央卸売市場の仲卸業者で、冷凍品が取り扱いの70%を占めている。残り30%はチルド品である。F社の売り上げ全体の約半分は地元の大手・中堅チェーンストア4社が占めている。残りの半分は2次卸や飲食店だ。

筆者との打ち合わせにはいつもF社の会長、社長、専務、実務担当者の4人が同席した。筆者が商流について質問すると難なく答えてくれるのだが、物流に関する質問となると必ず一呼吸入る。聞いていて心配になるほどの情報収集レベルであった。

それでも月別の支払物流費などの基本的な資料は用意されていた。それを見ると売上高に対する支払物流費は3%を若干下回っている。低温食品を扱う卸としては高い水準ではない。しかし、同席した専務いわく、その数字にF社が各納品先に支払っているセンターフィーが全て入っているのか確認できていないとのことだった。

F社は仲卸には通常あまり見られない現場の運営方法をいくつか採用していた。その一つが市場内の荷役作業を外部に委託していることであった。仲卸にとって荷役作業は食材の産地や鮮度の確認、同業他社の仕入れ情報などをつかむ重要なコア業務であるはずだ。それを外注化したのはコスト削減が目的だったようだが、効果が挙がっているのかは疑問であった。

さらに懸念されるのが営業力の低下である。生鮮品は品質や価格が一定ではないため、日ごろから商品に接していないと、ここ一番の提案の際に強く出るのが難しくなる。筆者がそうした懸念を伝えたところ「その点は否めない」と会長、社長の両人からコメントがあった。

仲卸は地方自治体による許可制で、欠員が出た場合などの特別な事情がない限り、新規参入は難しい。規制に守られた商売といえる。しかし、利権は時に工夫や改善に向けた思考を停止させてしまう。経営に対する危機感までも消失させる場合がある。F社は果たして大丈夫だろうか。いささか不安を覚えた。

そうした背景を念頭に置いて、F社の課題を整理して、次の6項目の改善に着手することになった。与えられたプロジェクト期間は7・5カ月であった。

①荷役作業の自社化

②作業場の集約

③「引き取り」の推進

④運賃体系の見直し

⑤配送ルートの見直し

⑥共同配送の推進

①「荷役作業の自社化」に当たり、まずは筆者とプロジェクトメンバーたちが、夜の9時から翌朝9時まで現場に張り付いて、現状のオペレーションを詳細に調べた。一般的に外部委託のメリットは▽自社運営よりも生産性が高い▽作業品質に優れている▽人手を安定して確保できる──の3点であろう。しかし、F社の場合はいずれのメリットも得られていないことが明白であった。

現場作業はダブルハンドリングや動線の長さが目立った。リフト操作に手際の良さはあったものの、作業が職人化されていて、仕事の段取りは当事者の頭の中にしかない状態であった。また、調査当日には欠員も発生していたが、補充なしで業務が進められていた。

卸売市場の現場作業には時間的な制約がある。どの作業を何時までにやらなければならないのか、職人的な作業員による暗黙知によって運営されていて、少し段取りを誤っただけで大混乱に陥る。F社だけでなく卸売市場に共通する課題である。しかし、物流現場に職人やプロはいらないと筆者は考えている。卸売市場の荷役作業といえども例外ではない。「誰もが分かり、誰もができる」現場をつくり上げて、脱・職人化を図るべきだ。

今回のプロジェクトを機にF社は荷役作業の自社化を段階的に進めていくことになった。自社スタッフによる運営を基本として、波動部分は派遣スタッフという構成を目指している。現在、全体の3分の1の人員をF社の社員と直接雇用のパート・アルバイトで占めるところまで来た。現場のビジュアル化も着々と進み、視認性は向上してきている。

作業の段取りを整理し、各作業員のスケジュールと作業の進捗を現場に設置したホワイトボードに張り出してレイバーコントロールを実施している。それを見て、作業が遅れている場所には別の場所から応援を送り、人員配置の最適化を図っている。

割り当てられた業務が終了した作業員はその時点でその日の仕事を切り上げることができる“終わりじまい”も比較的スムーズに受け入れられている。早上がりした分は時給賃金が減ってしまうのだが、卸売市場の夜間スタッフには昼間別の仕事に就いているダブルワークが多く、お金も欲しいが睡眠時間はもっと大切という人がかなりいる。

荷役作業の自社化と並行して②「作業場の集約」にも取り組んでいる。これまでF社は販売先が増えるたびに市場内に新たなスペースを借り増してきた。その結果、現在は仕分け場がそれぞれ100坪弱の4カ所に分散している。そのことが人員の融通や指示の統一を難しくしている。そこで新たに場外にスペースを借りてワンフロアに集約する。具体的な物件も見つかり、条件交渉に入ったところである。

③「『引き取り』の推進」とは、納品先にF社の出荷場まで商品を引き取りに来てもらう取り組みであり、主要顧客のチェーンストア4社が対象である。4社の物量と物流インフラ、カバーエリアを、F社が納品している現状と比較すれば、その方が安く済むのは明らかだった。

そこでF社の営業と納品先の物流担当で話し合いを持ち、各社が引き取りを実施した場合のコストを算出して、その場合のセンターフィーを設定した。その結果、F社の既存の納品ルートのおよそ4分の1は、センターフィーの上昇分を差し引いても「引き取り」に切り替えた方がコストは下がることが分かった。

納品先としても、調達物流の内製化によってコストダウンできるのであれば悪い話ではない。総じて前向きに応じてくれた。ただし、チェーンストア4社のうち1社は協力運送会社のドライバー不足で店舗納品もままならない状態で、引き取りには対応できないとのことだった。

配車業務を自社化して効率化

④「運賃体系の見直し」は必須のテーマだった。協力運送会社によって契約している運賃体系がばらばらだった。調べてみるとフィー(料率)運賃、1日1台当たりの貸し切り運賃、月額固定運賃の3パターンが設定されていた。これを料率運賃に統一すれば、支払運賃を変動費化できる。

しかし、料率運賃に対応できるのは、しっかりと原価計算のできるレベルの高い運送会社に限られる。丼勘定の運送会社は月額固定運賃を好む。車両不足が深刻化している現状でハードルを高く上げ過ぎるのも危険だろうと考え、間を取って1日1台当たりのコース別運賃に統一することにした。その結果、それまで月額固定で契約していた1社が脱落したが、ご時勢ではやむを得ないところだろう。

1日単位とはいえF社が車両を貸し切る以上、効率化を進めるには自分たちの裁量で車両の回転率を上げていかなくてはならない。新たにF社の社員を配車担当として投入して、独自の配車組みを行うことにした。⑤「配送ルートの見直し」である。

それまでF社では顧客別に協力会社に配送を委託していた。そのためF社からそれぞれ委託を受けた別の協力会社が同じエリアに重複して車両を走らせているということが頻繁に起きていた。顧客別からエリア別の配車に組み替えれば、そうした無駄を排除できる。

まずは売り上げ上位4社のチェーンストアのセンターを対象に、各センターの時間指定や車両の拘束時間を考慮した上でエリア別配送ルートを設定した。そのルートに他の納品先を当て込んでいった。その結果、4トン車1台、2トン車1台の計2台の車両が空いた。それをそのまま減車するのではなく、それぞれ車両を出している協力会社に他社の荷物を獲得できないか打診した。狙いは⑥「共同配送の推進」である。

実は空いた車両の他にF社は冷凍車両3台を自社所有している。しかし、営業がイレギュラー時に使用するくらいで遊休化していた。これについても協力会社が荷物を見つけ次第、買い取ってもらうことになっている。そうやって協力会社が成長していくことが荷主のF社にもプラスになる。安定供給と効率化につながるのである。

 

第175回 事例で学ぶ現場改善:『医療機器メーカーR社の物流コスト削減』

物流センターの立地に問題があることは分かっていた。しかし、自社所有であることから手を付けられていなかった。物流部門に大掛かりな改革を主導する力もなかった。従来の延長線上ではなく、抜本的にアプローチを転換する必要があるとトップは判断した。外部のコンサルタントにそのサポートを依頼した。

25%削減をトップが指令

R社は東京に本社を置く年商90億円の医療機器メーカーだ。各地のディーラー(卸)経由で、全国の病院や介護施設などの医療機関に製品を供給している。取り扱いアイテム数は医療機器メーカーとしては一般的な約800。自社工場は持たず、全てOEM生産だ。物流センターを関東に2カ所、関西に1カ所置いて、いずれも大手3PL企業に運営を委託していた。

R社を訪問した筆者たちを出迎えてくれたのは、われわれ日本ロジファクトリー(NLF)に最初に問い合わせを入れた担当者本人とその上司であった。いずれも物流部門の所属ながら、担当者は係長、上司は課長職であった。

2人の肩書きと、一般的に医療機器メーカーにおいて物流部門の発言力は強くないことから、R社の物流が全社レベルの最適化ではなく、物流部視点に限定した「部分最適」に偏っている可能性があり、他部署との調整が必要なテーマには未着手かうまく進捗していない可能性があると推測した。

応接室に通され、課長から相談事項の説明があった。物流センターの見直しや物流費の削減を考えているという。いまひとつ狙いが明確でないため突っ込んで尋ねてみると、トップから25%のコストダウンを命じられたと説明した。物流費が高騰している昨今では無謀ともいえる高い目標だが、まずはR社がこれまでどのような改善を行ってきたのか確認しておく必要があった。

資料の用意はなかったため、2人は記憶をたどって過去の改善テーマをランダムに挙げていった。その内容は想定通り物流部門の管轄範囲内で可能な部分最適ではあったが、大幅なコストダウンを期待できるテーマは既に着手済みであった。一通り説明を聞き終え、25%のコストダウンは厳しいだろうと感じた。2人にもそのことをはっきりと伝えた。ただし10%程度であれは不可能ではないと付け加えた。

それから数日後に課長から連絡が来た。やはりトップから「25%が無理でも物流コストが10%下げられるのであればプロジェクトを進めろ」と通達されたという。後になってR社の社長は筆者に、コスト削減目標の大幅な引き下げをすぐに承認した理由を次のように打ち明けた。

「25%の削減が難しいのは分かっていた。しかし最初から10%程度を目標にしてしまうと、社員たちは現状の延長線上でしか物事を考えようとしない。どうすれば物流コストが下がるのか、発想を抜本的に転換して、危機感を持って考えさせるには高い目標が必要だった」。

こうしてR社の物流コスト削減プロジェクトがキックオフした。約2カ月間にわたる実態調査と分析を経て、われわれは次のような改善テーマをR社に提示した。

①物流センター展開の見直し

②アイテム数の削減

③EDI/EOS受注比率の向上

④調達物流の内製化

われわれの提案に対してM社長を含めR社側から大きな異論は出なかった。それぞれのテーマを順に着手することになった。

①「物流センター展開の見直し」のため、われわれはまず納品先の場所と物量の実績データを基に「着地点分析」を実施して最適な物流センターの立地を抽出した。その結果、関東の2拠点のうち1カ所が最適エリアから大きく外れており、そのために納品輸送コストが高くついていることが分かった(図)。以前からR社内でも問題には気付いていたが、当該センターは自社物件であったため、手を付けていなかった。

そこに今回メスを入れることになった。同センターを閉鎖して、関東のもう1つのセンターに集約する方針を立てた。しかし、その結果として、サービスレベルを下げなければならない納品先が出てくる。具体的には閉鎖した物流センター近隣の北関東エリアでそれまで基本サービスであった「午前中」必着が不可能になる。

案の定、営業からは強い反発があった。しかし、筆者に言わせれば、午前の納品が午後になるくらいで商売が危うくなるようでは、そもそもその卸は先が期待できない。これからも生き残っていくことのできる卸とは、在庫を持てる卸である。在庫機能のない卸は存在価値を失っていく。

といっても、得意先をむげに切り捨てることもできないため、対象となる納品先の卸に営業・物流の双方から詳細な事情説明を行った。結果的には、R社の製品は代替できるメーカーが限られているということもあり、午後納品になることで離れる卸はほとんどなかった。

 

アイテム数を3割カット

集約先となるセンターのキャパオーバーも心配されるところであった。同センターの運営を委託している3PL会社に依頼して、センターの敷地内にテント倉庫を増設することにしたが、それでもまだ足りない。そこで在庫の圧縮に加えて、この機会に②「アイテム数の削減」に踏み切ることにした。

アイテム別の出荷頻度を分析したところ、1年に1度も出荷実績のない製品、つまりデッドストックが全アイテムの約15%を占めていた。1年に1度だけというアイテムも約20%あった。R社には明確な終売ルールがなく、改廃作業が手薄だったのである。

当然ながら、それらの滞留在庫にも保管料、棚卸しコスト、管理コストが掛かっている。すぐに廃番にすべきである。この方針についても営業から反発はあったが、出荷頻度が極端に少ない製品は「取り寄せ」で対応するとともに、事前に顧客にも納品リードタイムがイレギュラー扱いになることを明示することにして、総アイテム数を約3割削減した。

③「EDI/EOS受注比率の向上」は社内人件費の削減と、出荷指示データの早期送信が狙いである。以前から大口顧客とはオンライン取引であり、EDI(電子データ交換)ないしEOS(電子オーダーシステム)の受注比率が売り上げベースでは8割以上に達していた。しかし、件数ベースでは約4割であり、ファクスや電話による注文が約6割に上っていた。

しかも、R社側でファクス用オーダーシートは用意しているものの十分に浸透しておらず、顧客はそれぞれ思い思いのフォームで注文を送ってくる。注文内容を確認して入力するために、8人の派遣スタッフを投入していた。手間が掛かるだけでなく、ミスにもつながっていた。

3年後にはウェブ受注に切り替える計画とのことだったが、全ての顧客が対応してくれるはずもない。その後も恐らく3割近くの顧客がファクスと電話による発注を続けることが予想された。そこでファクス/電話注文の顧客に対して、R社の営業がeメールも含めたオンライン発注への移行を依頼することにした。

移行へのインセンティブとして3~5%の値引きを設定した。さらには早期の移行を促すため、R社の営業担当者に対してもインセンティブが必要と判断、R社の取締役会にキャンペーンの実施申請を提出した。

④「調達物流の内製化」では、ミルクラン方式を導入して仕入れコストの削減を図った。通常なら調達部門との調整が必要になる施策だが、R社の物流部は調達業務を兼務していたため実施しやすく、物流部門の業務の深掘りにもつながった。

調達先エリア、調達先の引き取り体制の有無、納品車両の空車時間活用などを検討して、現状とミルクランを導入した場合のコスト比較を行った。物流機能が十分でなく、自社車両でセンターに納品していた仕入れ先やトラックを確保できないOEM先などを中心に全調達先の16%が候補に挙がり、最終的には3つのミルクランルートを設定することができた。

 

荷主が拠点を所有するリスク

この他、配送ルートの年4回の定期的見直しと、3PLパートナーとの「サービス・レベル・アグリーメント(SAL)」の締結を行った。さらに次のステップでは次のような施策を計画している。

・配送頻度の見直し

在庫を持てる卸に対してインセンティブを付与して毎日配送から隔日配送に移行する。力のある卸には、R社の物流センターまで製品を引き取りに来ることができないか打診する。これには有力卸とのパイプを太くして、絞り込みを図る狙いもある。

・物流パートナーの選定

現在の委託先は業界大手であり、R社の規模では十分なコントロールが利かない。規模に見合った委託先を選び直す。

・自社WMSの導入

関東2拠点、関西1拠点のうち、今回閉鎖した物流センターだけに自社開発のWMSを導入していた。これを現行の2センターに導入して、3PLへのシステム依存を脱する。

さて、今回のプロジェクトで筆者が痛感させられたことが2点あった。1点目は荷主が自分で物流センターを所有するリスクだ。閉鎖したR社の自社センターは賃貸物件として、借り主を探すことになった。現在の環境なら悪くない条件で貸せるかもしれない。しかし、それはたまたま運が良かっただけにすぎない。安い土地が見つかった、あるいは売り上げの拡大が見込めるといった不確かな観測から、安易に物流センターを所有すると、環境が変化したときには身動きが取れなくなってしまう。市場が常に変化する以上、臨機応変にスクラップ・アンド・ビルドができる物流センターが望ましい。

2点目は、物流部門の情報発信力である。対外交渉力はもちろんのこと、物流部門に社内調整力がないと、全体最適どころか有効な改善さえ難しい。他部署の言いなりになってしまえば、付加価値を創出することなどできないということである。

 

《特別編》 事例で学ぶ現場改善:『ヤマト運輸の転向で特積みが復活する』

宅配危機を招いた原因はヤマト運輸自身にあった。知名度がありイメージも良いため募集すれば人は集まる。しかし、長続きしないので人手が足りなくなる。品質も落ちていく。「定着」の仕組みを欠いたままアマゾンの仕事に飛びついたことで、現場から火の手が上がった。今回の同社の方針転換は結果として高くつくことになるだろう。


問題は人手不足より定着力不足

ヤマト運輸の今回の値上げ交渉は、交渉というよりも通告であった。既存荷主に一方的に見積書を送り付けて、「この運賃でないと運ばない」と強硬な姿勢を取るのは、西濃運輸が特積みの値上げでよくやるやり方だが、今回はヤマトがそのお株を奪った格好だ。しかも、西濃の値上げは一度にせいぜい数%。それに対して今回はヤマトに従来の倍近い運賃を突き付けられた荷主もいる。

ヤマトに先立ち2013年には佐川急便が値上げに動いたが、そこまでの値上げ幅ではなかった。もともと佐川はBtoBがメーンということもあって社会的影響は限定的だった。しかし、ヤマトのシェアは圧倒的であり、ヤマトで納品することを指定してくる顧客もいる。どれだけ高い運賃を要求されても切るに切れず、身動きが取れない荷主が続出している。

ヤマトは今回の方針転換によってどれほどの社会的影響が出るのか、自分たちが一番良く分かっていたはずだ。「社会インフラ」を自称する会社がサービス提供を拒否したり、ユーザーの息の根を止めてしまうような大幅値上げをすることが果たして許されるのか。苦しくとも踏ん張るべきところだったのではないかと著者は感じている。

世間的には宅配クライシスはネット通販の荷物が増え過ぎたことが原因とされている。確かに現場は「配達無料」のキャンペーンや過剰なスピード競争に振り回され、また再配達の依頼に追われて、大変なことになっている。ドライバーに対する同情と物流がまひしてしまうことへの危機感があるため、ヤマトを批判する声は大きくはない。

過去にもヤマトは最大荷主だった三越の百貨店配送から撤退したり、「宅急便」の許認可をめぐり当時の運輸省にけんかを売ったりと、分かりやすい“悪者”を敵に仕立てることで世論を味方に付けることに成功してきた。今回はアマゾンがその標的となった。ヤマトのDNAに染み付いたやり方なのだろう。現場の混乱を沈静化するためにサービスを落とし、総量を抑制するのは社内的には美学でさえあるのかもしれない。

しかし、ヤマトは犠牲者とはいえない。再配達を無料にしたのはヤマトのマーケティング戦略であり、アマゾンの仕事を安値で受けたのは経営判断だ。誰かに強制されたわけではない。

現場が回らなくなったのも、必ずしも人手不足だけが原因とは思えない。ヤマトほどの企業ブランド力があれば今のような環境でも募集すれば人は集まる。「採用」は難しくないはずだ。しかし、ヤマトは採用した人を「定着」させる仕組みが、他の宅配会社や運送会社と比べても弱い。筆者は以前からそう感じていた。

人手が足りなくなった現場では負のサイクルが始まる。作業員は自分で判断できないことが起きると、持ち場を離れてリーダーのところまで指示を仰ぎに行く。物流センターであればその間、ラインがストップしてしまう。それを避けるためトヨタ自動車では「アンドン」と呼ばれる呼び出しボタンをラインに設置して、異常が発生したときには現場リーダーが作業員のいる場所にすぐに駆け付ける仕組みを導入している。

アンドンのない物流センターでも、通常はリーダーやサブリーダーに現場を巡回させて、困ったことが起きた作業員にはその場所まで彼らを呼ぶように指導している。ところが人手が足りないとリーダーたちまで現場作業に追われてしまう。作業員がリーダーを探さなくてはならなくなる。新人を教育する余裕もなくなる。その結果、さらにラインが止まるという悪循環に陥る。

宅急便の現場でも同様の事態が起きているようだ。筆者は先日、上着だけヤマトの制服を着て、下は私服、制帽もかぶっていない、かなり高齢の宅急便ドライバーに街で出くわした。初めて見る光景だった。現場の荒廃はかなり深刻で、立て直しには時間がかかるとみている。

西濃と福通に荷物が流れる

ヤマトのネットワークからはじき出された荷物の一部は現在、西濃運輸と福山通運に流れている。ただし、商業貨物中心の両社にBtoCの宅配便だけやってほしいと依頼しても良い顔はされないため、特積みやBtoBの荷物と抱き合わせて渡して、何とか運んでもらっているという状況だ。

国土交通省「平成28年宅配便(トラック)取扱個数」を見ると、西濃「カンガルー便」の昨年実績は約1億3千万個でシェアは3・3%、福通「フクツー宅配便」は約1億2千万個の3・1%となっている。これまで大手3社の寡占化が進むのに伴いシェアを落としてきた。しかし、トレンドは反転した。両社のシェアは今後上昇していくだろう。

両社の他にも宅配便をサービスメニューに残している中堅特積みはある。これを機に宅配事業の立て直しを図ってもおかしくないところだ。しかし、恐らくは商業貨物だけで手いっぱいで、BtoCまでカバーする活力は既に失われている。宅配便の代わりに、方面別にその地域に強い中堅特積みを使う荷主は増えるが、影響は限定的だ。

一方で法人向け宅配便運賃の大幅な値上がりは、新興企業に参入余地を与えている。軽トラック企業が宅配大手よりも安い値段でネット通販貨物を請け負い、需要を掘り起こそうとしている。ただし、これらの新興企業は配送エリアが地域限定のため、大手通販は幹線輸送で各地の新興企業のセンターに荷物を送る、いわゆる“ショットガン方式”でネットワークを構築している。

人手不足は新興企業も同じだが、それでも安い運賃で現場を回せるのは、宅配大手が全国規模で大量の人数を採用するのと、その地域で数人から数十人のドライバーを集めるのとではロジックが全く違うからだ。実際、われわれ日本ロジファクトリー(NLF)のコンサルティング案件でも、中小運送会社の欠員補充レベルであれば、求人広告を打つ媒体の見直しや口コミの工夫などで今でも頭数をそろえることはできる。

例えばある運送会社は、既存社員やパート・アルバイトが、ドライバー求職者を会社に紹介して採用が決まった場合には紹介者と採用したドライバーにそれぞれ5万円の報奨金を出す社員紹介制度を導入して効果を挙げた。1万円程度では効果は薄いが、5万円まで引き上げるとかなりの反応がある。

ただし、報奨金の全額を一度に支払うと制度を悪用される恐れがあるため、入社時点で2万5千円ずつ、残りの半分は半年後そのドライバーが勤続していた場合に支払うことにしている。ドライバー1人当たり合計10万円の採用コストが必要になるが、募集広告の費用に比べればコストパフォーマンスはずっと良い。社員の紹介は定着率が高く、人材の質という点でも安心感がある。

地域限定型のネットワークであれば卸の下請け配送をメーンにしている赤帽に、週1日もしくは2日に限定して仕事を依頼し、複数の赤帽でローテーションを組むという運用もできる。つまり地域限定なら大手宅配に頼らずともラストワンマイルは構築できる。ただし、それを新興企業に任せるのではなく、荷主が自分でやるという選択肢もある。実際、アマゾンは現在、新興企業への委託と自社配送を並行して運用している。その効果次第で一気に自社配送にシフトする可能性がある。