第174回 事例で学ぶ現場改善:『外食チェーンH社の供給網再構築』

外食チェーンが成長の壁に直面していた。ドミナント展開の遅れから店舗納品のコストがかさんでいた。業務を委託している卸や協力物流会社の能力にも不安があった。「現状のまま出店を続けても運賃倒れになる。先がない」。社長の鶴の一言で戦略の見直しが決まった。


パートナーとは呼べない

H社は年商約120億円の外食チェーンだ。計130店舗を展開している。ざっくり言うと1店舗当たり1億円を売り上げている計算である。出店エリアは東京、名古屋、大阪、福岡の4都市だ。ただし、店舗開発の途上ということもあって、ドミナントが形成されているのは東京のみである。その東京もまだ自社センターを構えるだけの規模ではなく、卸(ベンダー)による店舗納品を行っている。

現在の店舗数は当初の出店計画を大きく下回っている。エリア内の店舗数が少ないと納品の効率が悪いため配送費が高くつく。そのために利益が出ないので思ったように店舗数を増やせない。さらに効率化が遅れる──そんなチェーン展開の“生みの苦しみ”を味わっているところである。この悪循環から何とか抜け出したいと、われわれ日本ロジファクトリー(NLF)に声が掛かった。

H社のベンダーを務めている卸のY社とは、銀行からの紹介で30店舗の時代から取引しているという。筆者はたまたまY社の名前を以前から耳にしていた。H社よりももっと規模の小さな外食チェーンや個人経営の飲食店を対象にした業務用卸という認識であった。H社の配送費が高くついているのは、出店エリアの分散や出店スピードの遅れだけでなく、ベンダーとのミスマッチという問題もありそうだと推察された。

ヒアリングを行い実態を調査したところ、ベンダーY社の売上高に占めるH社の比率は20%弱に上っていた。卸としてはかなり依存度が高かった。さらにそのY社が配送業務を委託している運送会社は、売り上げの75%がY社向けだった。しかもその運送会社は最近、運賃を12%値上げしていた。それでもドライバーの確保が滞っているようで、Y社の納品インフラが弱体化する一因となっていた。

H社は卸のY社とその下請けである運送会社の二階層にわたって協力会社から依存される状態にあった。とてもパートナーとは呼べない関係であり、欠陥構造は明らかだった。特定の荷主に依存する運送会社は、物量の波動を他の顧客の仕事で吸収することができない。工夫の余地がない。これは卸も同じである。

そもそも卸に求められる機能とは「品ぞろえ」「ロット調整」「ファイナンス」「リテールサポート」「物流」の大きく5つである。しかし、ベンダーY社は少なくとも「品ぞろえ」と「物流」の点では機能していないと評価するしかなかった。

この実態調査を受けてH社のプロジェクトが正式にキックオフした。H社の規模の外食チェーンだと、本部にいる人数は限られている。そのため社長をはじめとする幹部全員がプロジェクトメンバーとなった。最初のプロジェクトミーティングの後、われわれは今回の改善事項を次のように整理した。

 

①各エリアの最適ベンダーの選定

②各エリアの最適物流会社の選定

③出店計画の再検討

④納品カルテのリニューアル

⑤店着時間の見直し

 

①「各エリアの最適ベンダーの選定」とは、文字通りエリアごとに最適なベンダーを選ぶということだ。T社は現在、3業態5ブランドを展開している。生鮮品、加工食品、酒類に加えて、アイスクリーム、乳製品、パンを扱う店舗もあるため、幅広い品ぞろえが必要だ。本来ならば全国対応が可能で酒類も扱う大手食品卸もしくはチルドに強い大手卸1社とがっちり手を組むのが得策である。

しかし、H社のボリュームはそれにはまだ十分ではなかった。加えてH社は過去に大手卸とのトラブルを経験していた。そのことが尾を引いているようで、H社の社長は今も「大手卸との取引はごめんだ」と言う。そこで次善策として、ベンダーの商流機能と配送・納品に必要な物流機能を切り分け、エリアごとに卸と物流会社をそれぞれ選択して店舗納品網を再構築することにした。

もともとベンダーY社は全国対応の卸ではないため、以前からH社のベンダーはエリアごとにばらばらだった。それを全てリセットし、また卸が物流会社に業務を再委託することも禁止して、H社と卸、H社と物流会社がそれぞれ直接契約を結ぶ前提でパートナーを選んだ。あまり委託先を分散し過ぎてもコストが下がらないため、結局、商流については東京がA社、名古屋と大阪はまとめてB社、その他エリアがC社と3社を選んだ。

これに基づいて②「各エリアの最適物流会社の選定」に着手した。他の外食チェーンとの共同化の可能性を考慮に入れて、各エリアの候補企業をそれぞれリストアップした。といっても、外食チェーン同士が正式に手を結ぶ大掛かりな共同化を狙ったわけではなく、別々の外食チェーンが末端の配送業務を同じ運送会社に委託することで結果として共同化できればいいという発想だった。

そもそもチルドも含めた3温度帯対応となると、各エリアにそれぞれ有力な地場物流会社があり、そのエリアの食品卸とは付かず離れずの関係を築いている。コンペを開けば卸はそうした物流会社を連れてくるし、逆に物流業務を受託した物流会社が卸を紹介することもある。われわれは荷主であるH社と卸、そして物流会社が「ウイン―ウイン―ウイン」になれるベストな組み合わせを目指した。


物流優先で出店戦略を再構築

③「出店計画の再検討」は、出店ペースを向上することが狙いである。出店のスピードが停滞していたのは、物流コストの問題よりもむしろ、現在の3業態5ブランドにそれぞれ対応した店長候補とパートスタッフを確保するのに手を焼いていたことが大きかった。

そこでアプローチを改め、人材育成よりもドミナント展開を優先することにした。マーケットリサーチ上、条件をクリアしている出店エリアにはどんどん出店する。メニューや調理方法、提供方法を工夫して、店長が近隣店舗と掛け持ちすることを可能にして、現場スタッフも店舗間で融通できるようにする。そのために業態やブランドが増えることも選択肢の一つとしたのであった。

これには店舗開発側から反対意見が多く上がった。出店のハードルを下げることで外食チェーンとしての魅力が薄れてしまうことが懸念された。しかし、社長から「これも一つのプロセスだ。現状のままの出店戦略を続けていても運賃倒れになって、先がない」と鶴の一声が上がった。

さらにわれわれNLFも、ある中堅居酒屋チェーンが関東圏に集中して出店するようになった経緯や、コンビニチェーンの出店戦略を例に挙げ、東京エリアのドミナント展開に最優先で取り組むことが現在のH社には不可欠だとアドバイスした。配送効率が最も良い東京エリアを制することができないのなら、他のエリアに進出しても成功は期待できないとプロジェクトメンバーたちに訴えた。

④「納品カルテのリニューアル」は、本連載で既に何度も紹介しているテーマだが、今回のポイントは2つあった。1つは「誰もが分かり、できる」納品作業を目指し、作業手順の内容をより分かりやすくしたことだ。高齢ドライバーに配慮して文字(フォント)のサイズを1・5倍に拡大して視認性も向上させた。

もう1つは、夜間の無人納品と、昼間の有人納品の納品手順を併記したことだ。H社は全店が直営であり、店着時間に自由度があった。そこで店やルートに応じたフレキシブルな納品対応を想定したカルテを作成して、配送ルートのメンテナンスの頻度を上げて効率化を図ることにした。

これをオペレーションの裏付けとして現在、⑤「店着時間の見直し」を進めている。従来の「店着時間」を「店着時間帯」に変更して納品時間に幅を持たせ、早朝・深夜は無人納品を実施している。これに併せて配送ルートを調整したことで、納品車両の回転率が従来の1日平均2回転から現在は3回転以上に上昇している。

欧米のチェーンストアは店舗展開より先に物流センターを造るという。軍事ロジスティクスの知見が企業経営にも深く根付いている。一方、日本は国土の大きさや卸売業が発達していることも影響しているのだろうが、チェーン展開において物流は後付けである場合が多い。しかし、セブン─イレブン・ジャパンやトヨタ自動車、花王など、日本でも強い企業はどこも物流を経営戦略の最上位に位置付けていることを忘れてはならない。

 

第173回 事例で学ぶ現場改善:『大手メーカーA社の飽くなき改善活動』

物流先進企業として知られる大手メーカーからサポートの依頼を受けた。同社は優秀かつ十分な数の社内物流コンサルタントを投入して長年にわたり改善を重ねてきた。それでもまだ、自分たちの気付いていない問題はあるはずだ、新たな知見も生まれているだろうと、前進への意欲は尽きることがなかった。

年間250件の改善を積み上げる

精密機械メーカーA社は年商数兆円、関係会社を含めると世界に約10万人もの従業員を抱える大企業だ。海外売上高比率は50%を優に超え、現在生産拠点を国内に5カ所、海外に7カ所展開している。

日本国内の物流拠点は、北は北海道から南は福岡まで計6カ所に配置している。売上高に占める支払物流費の比率は4・5%。業界の中ではやや高い水準だ。同社の製品は納品時に搬入・設置作業が必要で、ツーマンでの対応が求められることが一因となっている。

A社は長年にわたって物流改善を継続し、着実にコストダウンを積み上げてきた。A社のSCM本部には、社内物流コンサルタントが現在7人常籍している。今回のプロジェクトの窓口を務めたM氏はその1人で、今のポジションに就いてからの4年間で、大小合わせて1千件以上の改善を実施したという。

それでもなお、彼らは改善努力を怠ることなく、新しい切り口を探していた。日本ロジファクトリー(NLF)にコンタクトを取ったのも、外部のコンサルタントに中立的、客観的立場からあらためて物流を診断してもらい、今後の改善活動の道筋を見つけたいとの趣旨であった。

さすがに今回はわれわれの出番はないかもしれない。話を聞いてみた上で場合によっては降板することも念頭に置いていたが、実際にメンバーに会ってみると、NLFに対する期待度は相当に高いようで、誰もが目を輝かせている。これは断れそうにないと覚悟した。

しかし、われわれに与えられたのは、わずかな時間と限られた情報のみであった。SCM本部のコンサルティング部隊の予算から捻出できるフィーは限られており、多くの人時をかけるわけにはいかなかった。いつものように現場視察とヒアリングを基に診断を行う余裕はなく、数回のプロジェクトミーティングだけで解を導き出す必要があった。

初回の打ち合わせから3日後にA社から実績データと関連資料が送られてきた。それを見て筆者は目を疑った。インターネットを検索すればすぐに見つかるレベルの表面的な情報ばかりであった。すぐさまプロジェクトリーダーのM氏に確認の連絡を入れたが、社内ルール上、それ以上の情報は出せないという。

それを聞いて、むしろ腹が据わった。われわれNLFに求められていることがあらためて確認できた。コンサルティングの進め方をいつもとは180度切り替えて、現場の実態からスタートするのではなく、A社の物流のあるべき姿を想定して、それを前提に有効と考えられる改善施策を提示することにした。

大手企業には他社を知らないプロパー社員が多いため、過去の取り組みの延長線上にある改善テーマしか出てこないという傾向がある。従って他社事例が有益となる。そこで、これまでNLFが携わってきたプロジェクトの中から、A社と売り上げ規模や取扱品、ユーザー特性、生産拠点や物流拠点の配置などが類似している事案をピックアップして、そこから類推した次のテーマをメンバーに提示した。

 

①製品・部品の直送化、清流化

②脱・物流子会社(委託比率の低減)

③調達物流の内製化

④波動の平準化

⑤ハンドリングの削減

⑥イレギュラーの削減

⑦センター立地の最適化

⑧販売物流における外部倉庫の内製化

⑨競合メーカーB社との共同物流

⑩港~物流センター間の陸上輸送コストの削減

 

メンバーたちは筆者の説明を一言も聞き漏らすまいという姿勢で耳を傾け、われわれが配布した資料に食い入るように目を通していた。これは後になって分かったことだが、SCM本部の社内コンサルは大半が生産畑の出身であり、システム、調達、販売の経験者はほぼ不在であった。そのため生産関連の物流テーマは一通り着手してきたが、販売物流については深く踏み込めておらず、潜在的な課題が残っている可能性があるとのことであった。

①「製品・部品の直送化、清流化」は、A社にとって着手済みのテーマであったが、徹底レベルは十分とはいえないという。調べてみると、欠品を防止するために、わざわざ遠方の物流センターから部品在庫を横持ち輸送しているケースが散見された。部品在庫の管理ロジックに詰めの甘さがあるようだった。

また部品だけでなく製品についても、他センターからの〝借り在庫〟の横持ちが発生していた。発生件数は部品、製品ともそれぞれ四半期に10件未満とのことであったが、正確な数字ではなかった。借り在庫の移送時にスキャン検品を実施していない場合があった。これにより作業マニュアルの一部を見直す必要のあることが判明した。

波動を増幅する営業活動にメス

②「脱・物流子会社」とは、具体的には物流子会社に対する委託比率を低減することであり、A社クラスの規模のメーカーでは、実施すれば大きなコスト削減効果を生むこともある施策だ。ご多分に漏れずA社でも、物流子会社が高収益を挙げるたびに、親会社の支払物流費が上昇する傾向が見られた。そのため委託比率を下げようという考えは以前から持っていたものの、協力物流会社の選択は各現場に任されており、委託比率は高止まりしていた。

一方で物流子会社側でも、外販比率を上げることで親会社への依存を脱し、またコスト効率を高めることで親会社に貢献することを狙ったプロジェクトに取り組んでいるようであったが、その件はSCM本部でコントロールできるとのことで、われわれNLFとしては成り行きを見守るしかなかった。

③「調達物流の内製化」という提案は、プロジェクトメンバーたちから大きな反応を得た。大手メーカーの多くが既に1次サプライヤーを対象とするミルクラン輸送には着手している。しかし、ほとんどのメーカーがその先の2次サプライヤーまではカバーできていない。筆者は一般論としてそう指摘した。

A社も例外ではなく、それまで2次サプライヤーを改善の対象とは考えていなかった。しかし、十分な物流機能を持たず、必要な人材にも事欠き、本当に物流に困っているのは、むしろ2次以降の中小企業である。といっても、サプライチェーン上の全てのサプライヤーを対象にするのは膨大な時間と手間を要するため、優先順位を付け、まずはA社に対する供給比率の高い2次サプライヤーから着手するようアドバイスした。

④「波動の平準化」でも収穫があった。かねて月度や季節などの外部要因による需要変動には、生産調整や発注点の変更などによって対応し在庫水準の適正化を図っていたが、営業部門の販売活動に起因する、内部要因による波動には手を打てていなかった。

営業担当者は顧客の注文を素直に売り上げとして計上するとは限らない。早期に予算を達成してしまうと、上司からノルマを上乗せされる恐れがある。ライバル社員や競合する部署をいたずらに刺激して、相手が〝隠し球〟を出してくれば、こちらも対抗せざるを得ず、消耗戦に陥ってしまう。

それを避けるため、当初は目立たないように少しずつ売り上げを積み上げ、締め日近くに一気に計上するパターンがよく見られる。社内競争の激しい大手は特に締め日に売り上げの計上が集中する傾向にある。結果として、物流現場は極端な波動対応を迫られることになる。大きなコストアップ要因である。

そこで特定日に出荷を集中させないように、販売部門で使用している「営業担当者別・売上計上表」をSCM本部でカスタマイズして、週別・曜日別の出荷構成比を「波動指数」として図示化した資料を販売部門の全スタッフに配信することにした。課長職以上の管理者には、出荷量の平準化によってコストを下げるよう指示も付け加えた。次のステップでは、販売部門の各セクションのリーダーと話し合い、平準化にインセンティブを設ける計画だ。

何が「イレギュラー業務」か

⑤「ハンドリングの削減」は、A社のコンサルティング部隊のメンバーたちが得意とする領域であった。工場はじめ物流センターの無駄取りとしてタッチ数の削減には以前から力を入れていた。コンサルティング部隊が手掛ける年間250件以上もの改善の多くがその関連テーマであった。

社内コンサルタントの一般的な傾向として、部分最適には目が届きやすいが、全体最適となると、当事者たちにとっては現状が見慣れた
〝風景〟となってしまい、問題意識を欠く傾向が見られる。A社も同様で、ミクロなテーマは得意でも、⑥「イレギュラーの削減」についてはプロジェクトメンバーの大半が頭の中になかった。

イレギュラー業務が発生するとコストアップになることは周知されていた。しかし、どのような業務がイレギュラーに当たるのか、さっぱりイメージできていなかったようであった。まさにイレギュラー業務がレギュラー化して、当たり前の〝風景〟となっていたのである。

各工場、物流センターにおける実態調査が必要であった。ただし、各現場のスタッフに自分たちでイレギュラー業務を特定させるのは難しい。まずはSCM本部がモデル拠点で実態を調査してイレギュラー業務の洗い出しを行い、「イレギュラー業務一覧表」を作成するよう指示を出した。

主な調査項目は時間外受注や出荷先の変更、緊急出荷や他拠点の横持ち輸送などである。調査の結果、イレギュラー業務を解消するために、作業の基本となっているマニュアルを改訂しなければならない箇所が複数見つかった。

⑦「センター立地の最適化」は、A社において過去に幾度も検証し、修正を重ねた結果として現在に至っているとのことであった。その検証方法も、着地点分析による最適立地の抽出という教科書通りのやり方であったため、NLFとしても「問題なし」と判断した。

⑧「販売物流における外部倉庫の内製化」についても、「外部倉庫は一切借りていない」というのがSCM本部の当初の認識だった。しかし、その裏付けとなる販売部門別の販売管理費の検証は行っていないとのことだった。そこで、販売管理者からのヒアリングを行うと実態が見えてくる、とアドバイスしたところ、早速着手することになった。

その結果、プロジェクト最終日に「全国8カ所で外部倉庫を賃貸している事実が判明した」との報告があった。国内に8つある販売部門がそれぞれ1カ所ずつ外部倉庫を使用している計算だ。どのような目的で外部倉庫が使用されているのか、外部倉庫をゼロ化するにはどうすればいいのか、SCM本部で検討するようアドバイスした。

当然ながら各販売部門は自分たちが外部倉庫を借りていることは分かっている。しかし、その費用はオフィスの賃貸料と一緒に勘定項目の「家賃」に含まれているため、SCM本部をはじめ他部門からは見えない。

オフィスが自社物件なのに家賃が発生していたり、家賃が相場より高額であったりする場合には、外部倉庫を借りている可能性を疑う必要がある。いわゆる〝隠れ倉庫〟である。そこには、需要予測が大きく外れてしまった、あるいは工場への発注ミスを原因とする在庫の山が眠っているはずだ。

⑨「競合メーカーB社との共同物流」の提案には、SCM本部のメンバーは否定的だった。物流費を十分吸収できる高付加価値製品を扱っているため、業界全体としても共同化の動きは鈍いという。また、A社とB社はトップシェアを争うライバル同士であり、同じ車両で納品するとなれば販売部門からの反発が避けられないとのことであった。

しかし、コスト的に差し迫った必要がなかったとしても、トラックドライバー不足によって安定供給が脅かされている現状と、同業界におけるA社のポジショニングを考慮すれば、共同物流を検討しないという選択肢はあり得ないと、われわれNLFは主張した。

A社は物流子会社を持っている。一方のB社は物流子会社を持たず、専業のM物流に業務を全面的に委託している。A社とB社の物流を統合すれば、圧倒的な業界シェアを誇るベースカーゴとなる。それをA社の物流子会社が管理する。同社はノンアセット型であるため、配送実務をM物流に委託すればいい。

実はわれわれNLFにはM物流をサポートした経験があり、その実情は分かっている。B社の季節波動の大きさに苦慮しており、同社に対する依存度を下げるため、新規荷主の開拓に力を入れているところだ。それだけにB社には安定供給への危機感がある。A社から共同化を打診すればむげに断ることはないだろう。

ただし、A社の物流子会社はA社の社名を冠している。そのままではB社も乗れない。A社の子会社の社名を変更してB社からの出資を仰ぐ、あるいはB社と合弁で新会社を設立するといった配慮が必要になる。そこは業界最大手であるA社の考え方次第であろう。

⑩「港~物流センター間の陸上輸送コストの削減」は、NLFが入る直前にSCM本部がプロジェクトを終えたばかりのテーマであった。東京、大阪、福岡で拠点の立地を最適化した。今後、拠点の拡張が必要になるか、あるいは優良な倉庫物件が出て来た際にあらためて検討したいとのことであった。

こうしてA社のプロジェクトは予想していた以上の収穫を得ることができた。どんなに優れた企業でも、優秀なスタッフが十分な管理体制を敷いていたとしても、組織の内部に居ては気付かないこと、外部からでなくては見えない風景が必ずあるということを、筆者はあらためて確認したのであった。

 

第172回 事例で学ぶ現場改善:『運送会社R社の値上げ交渉支援』

長年取引のある主要荷主がコストアップの転嫁を認めてくれない。時間外出荷の増加で現場の残業代も増えているのに、その分さえ請求できない。先代から事業を引き継いだ運送会社の若き2代目社長は覚悟を決めた。同社の値上げ交渉をサポートすることが今回のコンサルティングの大きな目的だった。

38歳の2代目社長と向き合う

R社は年商約25億円の運送会社だ。本社は大阪だが、千葉にも営業所を置いている。大量輸送が得意で、4トン、10トン、10トン増トン、セミトレーラー、フルトレーラー合計約200台と海上コンテナシャシーを所有している。事業ごとに別会社をつくって運営しており①メーン荷主事業②コンテナ輸送事業③貨物取扱事業④新規開拓・育成事業──を分社化している。
ある人物の紹介でR社のK社長と会うことになった。弱冠38歳の2代目社長であった。依頼内容は大きく二つ。「メーン荷主事業における先方との話し合い・交渉のやり方を助言してもらいたい」「新規開拓・育成事業の傭車先を紹介してもらいたい」というものだ。われわれ日本ロジファクトリー(NLF)にとっては一般的な依頼内容だが、コンサルティングに入る前に、R社およびK社長がわれわれのアドバイスをどれだけ消化できるのか把握しておく必要があった。
初対面時に社長室へ通されて2時間余り話し合った。その結果、次のことが分かった。

 

  • K社長の父親がまだ会長として残っているものの、経営のほぼ全権が既にK社長に委ねられている
  • 優秀かつ行動力のあるM専務が番頭役として会社の発展に大きく寄与している
  • 4つの事業会社のうち「メーン荷主事業」と「新規開拓・育成事業」は転換期を迎えており、課題・問題点も多い
  • K社長なりに将来ビジョンを描いている(資料でも確認済み)

 

K社長は父親と同じ高級外車を所有し、通常は来客用の駐車スペースに使うであろう正面玄関前に自分の車を止めていた。社長室にはK社長の学生時代のものと思われるサッカーのトロフィーやゴルフバッグなどが置かれている。多少の公私混同もなんのその。古株や周囲から少々のことを言われても気にしない。こびることもしない。そんな様子がうかがえた。それでいてドライバー表彰制度を採用しているようで、本社の入り口には表彰者を飾った大きな銀のプレートが展示されていた。
K社長は異業種で約3年間修行していたこともあり、考え方や課題認識も一般的な2代目とはかなり違っていた。運送会社の2代目社長と話す機会は多いが、そのほとんどが40代から50代だ。30代はさすがに少ない。筆者が年を取ったせいもあるだろうが、『新世代』との印象を強く受けた。
しかし、嫌な感じはしなかった。真面目に経営に取り組んでいる様子は伝わってくるし、何事もスマートであり、切り替えが早い。いずれにせよ、R社の将来を生き生きと語るK社長の表情を見ていて、この会社はまだまだ伸びるという手応えを感じることができた。
初回の訪問から間もなく、1回目のプロジェクトミーティングを開催した。K社長とM専務のほか、R社の主だった幹部たちが参加した。この席でわれわれNLFから、新規開拓・育成事業の傭車先候補をリストアップした資料を提示した。いずれもK社長、M専務が知らない物流会社ばかりのようであった。
そのうち特に関心が強かった3社には、その場で筆者が連絡を入れて、そのままM専務につないだ。続いてM専務は「ちょうど来週上京する用事があるのでその際に3社を訪問してきます」と言う。行動が早く、手際が良い。
一方、K社長はメーン荷主事業に注力していた。荷主は先代から取引のある大手メーカーの物流子会社A社だが、コストアップの転嫁を認めてくれず、収益が悪化していた。現場スタッフの残業時間も増え続けていた。時間外受注の増加が理由であった。
そのためR社から荷主に対して値上げと配車係兼運行管理者として1人増員することを申し出たが、「今はコストを掛けられない」とはねつけられた。その後も何度か話を持ち掛けているが話し合いに乗ってくれないという。
そこで筆者からは次の5つをK社長にアドバイスした。

 

①書面で提案、要望を出す

②現在の残業時間を集計して表にする

③労働基準法に抵触するレベルを説明する

④残業増加分をコスト増として金額(人件費)ベースで表す

⑤書面の宛先は物流子会社の責任者だけでなく、荷主である親会社の担当役員との連名にして提出する

 

親会社の担当役員の名前を出されることで、物流子会社の責任者は社内的立場が悪くなるかもしれない。相当な強硬手段といえる。しかし、K社長、M専務ともに反対はしなかった。それだけ背に腹は代えられない状況に追い込まれていたのである。交渉が不調に終われば、A社の仕事から撤退することも考える必要があった。

落としどころを設定する

それから数日後、2回目のミーティングを開いた。まずはM専務から新規開拓・育成事業の状況報告があった。1回目のミーティングでNLFから紹介した傭車先候補の3社には、大手精密機械メーカーから受託した保管・配送業務を委託する見込みで、来月からトライアルを開始するという。
それと同時にM専務は、その3社についてそれぞれ対応できない業務、依頼しない方がいい業務をしっかりと押さえていた。NLFから傭車先を紹介しても、電話一本で相手に要望を伝えるだけで済ませてしまおうとする会社が多い中、R社は専務が直接各社を訪問して現場を確かめている。そうした違いが長期的に大きな差となって表れてくるのである。
続いてメーン荷主事業のてこ入れに当たっているK社長から報告があった。NLFからアドバイスした5項目に従って資料を準備し、物流子会社A社の責任者と話し合いの場を設けた。先方は苦虫をかみつぶしたような表情でしばらく要望書を見た後、「R社の要望は分かったので月末くらいまで時間が欲しい」との返事であった。
これを受けてプロジェクトメンバーでA社との交渉の〝落としどころ〟を検討した。条件面では配車係兼運行管理者の増員を見送る代わりに、これまでR社側で負担していた現場の残業代を負担してもらう、そして時間外出荷の件数自体が減るようA社から親会社に要請してもらうのが得策と判断した。
先方が受け入れやすいように、過去の未払い残業代については請求しないことにした。また昨今の状況であればA社の親会社も、物流現場の人手不足で締め時間後の出荷には対応できないという説明には一定の理解を示すはずだ。
この線で交渉の資料を急ぎ作成した。料金面では、値上げ提示額の約半分で妥結する、いわゆる〝中落とし〟が多いことから、そこから逆算してパーセンテージを決め、新たな費用項目として「管理費」を設定した。その後、R社から口頭レベルで提案内容をA社側に事前打診し、大筋の合意を得ることができた。大きな前進であった。

初の全国案件を受託

3回目のミーティングは、K社長が急遽、M専務と千葉で合流して重要な打ち合わせに出なければならなくなったとのことで、いったん延期になった。R社にとっては良い話だったようで、スケジュールを変更して開催された3回目のミーティングで二つのビッグニュースが報告された。
一つは新規開拓・育成事業における大型案件の受託である。大手精密機器メーカーのL社から、日ごろのR社の真面目な仕事ぶりと、汚破損がないなどの輸送品質が評価されて、千葉エリアの配送だけでなく、全国の配送を委託されることになったという。
もう一つはメーン荷主事業である。K社長が値上げ交渉をしていた物流子会社の責任者から、〝中落とし〟で応じるとの連絡が入った。こちらの思惑通りの展開である。社長と専務が両輪となって真摯に経営に取り組み、果敢に行動することで、良い結果が付いてきた。
とはいえ喜んでばかりもいられない。全国規模の傭車ネットワークを早急に構築する必要がある。これをサポートするため、われわれNLFも傭車先候補のリストアップの範囲を拡大した。NLFの既存ネットワーク先のほか、各エリアの運送会社のホームページをチェックして、精密機械の取り扱い実績のある運送会社をスクリーニングした。
条件を満たしている会社があれば、NLFのスタッフが実際に連絡を入れて詳細を尋ねる。ホームページに実績として掲載されている場合でも、既に契約が終了してエアサス車などの必要な資産を売却していたり、あるいはスキルのあるドライバーが退社していたりするケースが実際にはかなりある。その有無を確認する。
また連絡を入れた物流会社が自分では対応できなくても、対応可能な地元の会社を紹介してくれることがある。そうした情報が思いのほか有効であることを、われわれは過去の経験から学んでいる。

こうしてR社は主要荷主との値上げ交渉を成功させた。新規開拓・育成事業も、L社から受託した全国配送が軌道に乗れば成長に弾みがつく。足元の好景気の後押しも受け、R社は2代目社長が牽引する〝第二の成長期〟に入った可能性がある。

 

第171回 事例で学ぶ現場改善:『輸入卸Y社のキャパオーバー収拾』

物量とアイテム数が急激に増えている。新規顧客や新業態との取引も次々に始まっている。
キャパオーバーで物流センターは大混乱に陥っていった。棚から商品があふれ出し、通路も判然としない状況だ。生産性の向上や最適化に取り掛かる前に、まずは事態を収拾する必要があった。

広大な平屋倉庫に7万アイテム
Y社は年商約300億円の卸売業者だ。主力は家具とインテリア雑貨類で、取り扱いアイテム数は約7万に上る。東北に本社を置き、隣接して大型の物流センターを構えている。海外メーカーからの仕入れが約6割、国内メーカー・卸からの仕入れが4割で、やや貿易商社的な色合いの強い卸といえる。本社の他に東京、大阪、名古屋にそれぞれ営業拠点を展開している。販売先は通販をはじめアパレル小売り、ドラッグストア、量販店、コンビニエンスストア、さらには卸売業にも販売しており、フルチャネルであった。
Y社の物流担当役員から連絡が入り、2つの要望が伝えられた。1つは「物量の増加でセンターがキャパオーバーになっている。早急に正常化を果たしたい」というもの。もう1 つは「これから新しい業態への供給が始まり、取り扱い規模がさらに大きくなる。これを機にあらためて物流をどうすればいいか考えたい」とのことであった。
連絡を受けてから数日後に早速、現地に向かった。物流センターは延べ床面積約1万2千坪という規模ながら平屋であった。庫内作業は全て自社で行っており、配送は全て路線会社に委託していた。WMS(倉庫管理システム)はパッケージ品をカスタマイズしたものが導入されており、入出荷や在庫管理などの基本的な機能はクリアしていた。
しかし、インターネット通販の拡大に伴い雑貨類の取り扱いが年々増えており、荷姿の小型化、出荷の小口化が進み、保管方法を考えあぐねているようだった。棚やパレットラックから多くの商品がはみ出し、通路も判然としないほど現場はごった返していた。広大な平屋の庫内はどこに何が置かれているのか、素人目にはさっぱり分からない。
センターの現場責任者によると、物量の増加が続き、目の前の作業に追われるばかりで、とても改善まで手が回らないとのことであった。われわれはセンターを全てつくり直すつもりで現場を診断することになった。その結果、100を超える改善項目が挙がったが、最重要テーマは次の8点だった。

①フロアデザインの抜本的見直し
②商品特性に合致する保管方法の選択
③フリーロケーション比率の拡大
④ピッキング方法の変更
⑤商品マスターの管理精度向上
⑥大ロット品の直送化
⑦海外調達品のセンター納品仕分けの現地化
⑧レイバーコントロールの強化

①「フロアデザインの抜本的見直し」とは、この場合、ワンフロアの平屋であるため、セ ンターのゾーニング、ロケーション、レイアウトをあらためて設計することであった。現状では、新しく追加されたアイテムは「とりあえず保管できるところに保管する」という管理になっていた。どこに何が置かれているのか分からないのも当然であった。
そこでまずは商品マスターを整理してカテゴリー分けを見直し、その結果を基にゾーニングを決めた。アルファベットのABC順にエリアを区分して、主力の「家具」から「インテリア雑貨」「アパレル品」「日用雑貨品」「食品」「その他」と振り分けていった。
本来であればカテゴリーではなく各アイテムの出荷特性を基にロケーションを設定した方が作業効率は上がるのだが、とりあえずは上位概念で整理しなければ収拾が付きそうになかった。
そして庫内の遠くからでもよく見えるように縦1・5メートル×横1・8メートルの大型のつり看板にゾーン記号を表示した。同様に中量ラック・軽量ラックも、ラックの側面に大きく記号を表示して視認性の向上に配慮した。
②「商品特性に合致する保管方法の選択」は、スペースの有効利用と小ロット対応を両立させることがポイントになる。これも保管方法を検討する前にアイテム別の適正在庫量を算出するのが理想であったが、その時間的余裕がなかったため、ひとまずアイテム別の実在庫量に見合った保管容積(立方メートル)をチェックして、必要なスペースを計算した。
そして、各アイテムの荷姿と出荷単位から、パレットに保管するものと、ケース保管するものを整理した。「家具」の他に「インテリア雑貨」「アパレル品」はケース出荷を基本としているため、パレット荷物を多段積みするための「ネステナー」などのラックを使って原則としてパレットで保管する。
ピース単位や中箱単位の出荷がある「日用雑貨品」「食品」には中量棚・軽量棚を使う。
その際に小ロットで保管するアイテムはブックエンドで棚を間仕切りすることで棚幅を圧縮して、スペースの空きが出ないようにした。また補充用の在庫は可能な限り、パレットで保管することにした。

“リレー式ピッキング”を導入
③「フリーロケーション」とは、アイテムごとに保管する棚を固定するのではなく、入荷した商品在庫を空いている棚やスペースに自由に格納して、システムでロケーションを管理する方法だ。固定ロケーションと比べてスペースを有効活用できる。
同センターでは、高回転のアイテムにフリーロケーションを適用していた。至って正攻法といえる。ただし、スペースが足りていなかった。そこでフリーロケーションエリアを拡大し、かつ他のエリアとの区切りを明確化した。これによってフリーロケーションで対応できるアイテムの割合率がアップしただけでなく、ピッキング作業の動線短縮にもつながった。
④「ピッキング方法の変更」も作業動線の短縮が狙いである。従来は1オーダーごとに作業員1人で全ての商品をピッキングする、いわば〝1オーダー完結型〟のオーダーピッキングを採用していた。しかし、アイテム数の増加に伴い、保管エリアが拡大かつ分散して動線が長く延びていた。
そこでエリアごとにピッキングの担当者を分けて、1つのオーダーを複数の作業員がリレー式に分担してピッキングする方法に変更した。ピッキングリストは1オーダーに付き1枚もしくは1セットだけ出力する。自分の持ち分のピッキングを終えた作業員はリストに完了のサインをして、次のエリアの作業員にリストと台車・ピッキングカートを渡す。
リレー用の〝中継エリア〟を新たに設ける必要があったため、スペースの捻出には苦慮した。しかし、担当エリアを分けることでピッキングのために広い庫内を歩き回らずに済むようになり、作業員の肉体的な負担は大きく軽減され、かつ生産性が向上した。
⑤「商品マスターの管理精度向上」は、本来は商品の改廃を担当する商品部の管轄だ。
しかし、アイテムが増えていることもあって、新製品の投入や終売を商品マスターに反映する作業が遅れがちになっており、それが出荷精度にも影響を与え始めていた。商品マスターに登録されていない新製品が入荷されて、検品作業がストップしてしまうこともあった。
そこで、商品部に掛け合って、物流センターに未登録品が入荷された場合には、その場で商品マスターを登録できるようにした。商品マスターの改廃を入力するパートスタッフも増員し、全社的にリアルタイムの商品管理を目指すことになった。

直送の推進でセンター負荷軽減
⑥「大ロット品の直送化」にも取り組んだ。従来は海外調達品を含め全ての商品をいったん東北にある物流センターに入荷していた。しかし、同社の販売先には大手が多く、センター納品の割合は50%を超えている。
そこで10トン単位のオーダーはY社のセンターまで引っ張らずに、納品先の最寄港で荷揚げし、港でデバンニングを行って10トン車でセンター納品を行うフローに変更した。直送の対象は検品が不要な商品に限定されるが、ドレージ料金、トラック運賃の削減に加えて、リードタイムの短縮にもつながっている。
何より直送化を進めることで、キャパオーバーとなっているY社の物流センターの業務負荷を軽減できたことが大きい。さらに現在は大手の販売先に対して、インセンティブ制度を設けて陸揚げしたコンテナをデバンニングせずに直接センターに納品する交渉を行っている。
⑦「海外調達品のセンター納品仕分けの現地化」も直送比率を上げるための取り組みだ。具体的にはベトナムとタイで調達している製品を、現地で納品先別に仕分けて得意先のラベルまで添付した状態でコンテナに詰めて日本に送る。そのためにY社の物流部門のスタッフを現地に出張させて作業の指導を行った。これにより日本国内のセンター内作業を約24%削減することできた。
最後の⑧「レイバーコントロールの強化」は、われわれ日本ロジファクトリー(NLF)がコンサルティングに入る前から同センターで取り組んでいた項目だが、うまく機能していなかった。理由としては①現場の旗振り役不在②外国人労働者とのコミュニケーション不足③物量予測の難しさ──が挙げられる。
このうち、①と②は、詰まるところ人材不足、人手不足であり、③の物量予測も、Y社の場合は急成長に加え、新規顧客、新業態との取引が次々と始まることから、過去の実績データがほとんど役に立たないという事情があった。特効薬を見つけるのは困難であった。
これもとりあえずの対応策として、足元の物量と作業生産性をベースに必要な人時(人数×時間)を算出したところ、現状の投入人数では絶対的にマンパワーが足りないことが判明した。そのために作業品質が悪化し、それがまた生産性を悪化させるという悪循環になっていた。まずは大幅な増員が必要だった。
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一連の改革によって、何とかキャパオーバーによる混乱を終息させるめどは立った。次のステップでようやく最適化に取り掛かる。大がかりなシステムの改修と端末の刷新は避けられないところだろう。

第170回 事例で学ぶ現場改善:『建材メーカーM社のセンター費削減』

親会社の担当役員が支払物流費の削減に目を付けた。しかし、前回の大規模な改善プロジェクトから5年しかたっていない。しかも、物流業務の委託先は親会社の物流子会社、つまりグループ会社だ。コンペを開いて別の委託先に切り替えるわけにはいかない。打ち手はあるだろうか。

親会社の物流子会社が委託先
M社は老舗の企業グループに属する建設資材メーカーだ。年商は約300億円。生産工 場を海外に1カ所、国内に1カ所それぞれ所有している。物流拠点は国内工場に隣接してマザーセンターを1カ所、他にストックポイントを全国6カ所に配置している。
同社は5年前にも大掛かりなコスト削減プロジェクトを実施している。再びプロジェクトを発足させることになったのは、M社の費用項目の中でも大きな割合を占める支払物流費が、新任の親会社の担当役員の目に留まったからであった。
M社としては、無駄なコストは掛けていないはずだと担当役員に掛け合ったが納得してもらえず、外部の専門家としてわれわれ日本ロジファクトリー(NLF)を招いて、客観的に判断させることになった。
ただし、M社には物流の委託先を見直すという選択肢がなかった。親会社の物流子会社、M社から見ればグループ会社にマザーセンターの運営を委託していたからだ。これは物流コスト削減を目的としたプロジェクトにとっては厄介な制約であった。
面通しと概要のヒアリングを行った後、本社工場と隣接するマザーセンターを見学した。
工場内の床面にはさまざまなアンダーラインが引かれており、これまでかなり改善活動を重ねてきていることがうかがえた。
われわれを案内してくれたM社の窓口のN氏は、5年前のプロジェクトでも事務局を務めたそうで、さすがに種々の状況や背景を熟知していた。職歴としても物流が最も長いという。今回のプロジェクトに関してもN氏なりの仮説をいくつか持っているようで、場内を案内し、説明する言葉の端々にそのことが感じられた。
この日の現場見学とヒアリング、後日M社から提出された実績データを基に、われわれNLFで改善テーマを抽出してM社に提示した。次に挙げるのはその一部である。

①出荷頻度ABC分析
②ラックの増設
③倉庫拠点の集約
④フォークリフト台数の適正化
⑤庫内の照度アップ
⑥入出庫料の変動費化
⑦待機車両の削減

①「出荷頻度ABC分析」はロケーション、レイアウトの見直しと動線の短縮が狙いである。同センターはそれまでの改善活動によって、エリアレベルの整理はできていた。
しかし、その結果として部分最適に陥っていた。倉庫スペースを全体として見るといびつな形になっていた。フォークリフトの通路にラックが凸凹にはみ出し、安全に走行できる状態ではなかった。
まずは同センターではこれまで未着手であった出荷頻度のABC分析を実施した。その分析結果を基に、ゼロベースでゾーン組み、ロケーション、レイアウトを再設計した。
その結果、フォークリフト作業の死角が一掃されて人時生産性は約25%向上した。
無題
②「ラックの増設」は当然ながら保管効率の向上が目的だ。保管量、保管アイテムに対して重量ラック、中量ラックが不足していた。そのためパレットに平積みで保管するエリアが必要以上に広くなっていた。保管量とラックの高さも合っていなかった。多くのラックが大量の〝空気〟を保管しているような状態だった。
そこで必要在庫日数から適正在庫量を算出し、その容積から適正なラックのサイズをあらためて設定した。そしてラックの高さに保管量を合わせるのではなく、適正な在庫量に合わせてラックを配置するようにした。
長尺物を立てた状態で保管するか、それとも横にするのか、保管方法を定めていないこともスペースの無駄を生んでいる一因であった。この点に対しては、重量物は横置き、人の力でピッキングできる20キログラム以下の長尺物は縦置きというルールを設定し、それに見合ったラックを新たに12基投入した。その結果生み出されたスペースには、それまで外部の賃貸倉庫に保管していた製品を移管することにした。
一連の改善でセンターの光景は驚くほど変わった。真っすぐに並んだラックに製品がびっしりと収められている。壮大な岸壁を見ているかのようであった。

フォークリフトが多過ぎる
これを受けてさらに③「倉庫拠点の集約」を行った。M社では数年前に生産の一部を海外移管した影響で国内工場の稼働率が低下していた。その結果、新たに生産ラインだけでなく、工場の資材置き場などにも空きが目立つようになっていた。
従来はマザーセンターで保管していた製品在庫の約4分の1を工場内の空きスペースに移管した。グループ物流会社が運営するマザーセンターで保管すれば、当然ながら入出庫料や保管料が発生する。自社倉庫内であれば支払物流費が発生しない。少なくとも保管料は事実上無料になる。
製造機能と物流機能をできる限り併設させて、直送比率を上げることは、メーカー物流の基本戦略の一つでもある。M社もその戦略を踏襲して工場内への物流内製化を推し進めたわけである。それと同時にグループ物流会社に対しては、空いたスペースをM社以外への外販によって埋めてもらうよう提案した。いくら身内であっても、それくらいは伝えておくべきだという判断だ。
④「フォークリフト台数の適正化」は、現場を一目見れば必要であることが明らかだった。とにかく多い。数えると52台あり、あちらこちらに遊休車両が目立った。しかもM社所有のリフトと物流子会社所有のリフトが混在している。台数調整が行われていなかった。
そこでまず「リフト車両管理表」から修理費が多く掛かっている車両、再リースで老朽化している車両を抽出した。それと並行して各作業員の業務内容を確認し、リフトを使用する時間帯を整理した結果、52台中15台を削減できることが分かった。作業スペースが小さくて済むリーチリフトを残し、カウンターリフトを中心にカットした。中期的には、庫外はカウンター、庫内ではリーチを使用するように運用ルールを変更する計画だ。
それによって庫内の通路幅を1000ミリメートル圧縮することができる。保管スペースをより広く取れる。
⑤「庫内の照度アップ」も中期テーマの一つである。他のセンターでもよく見られることだが、同センターは照明に水銀灯を使用しているため、庫内全体が薄暗い。照度を上げるには電気工事が必要なので、すぐに着手することはできなかったが、250ルクス以上を確保する必要がある。
視認性の向上は、これからの物流センター運営には絶対欠かせない条件の一つだ。照度の問題のみならず、ロケーション番号や注意事項などの表示物、掲示物の文字拡大、ビジュアル化の強化などを進める必要がある。誰もが分かる・できる現場づくりによって、初心者や高齢者、外国人労働者を戦力化し、人手不足に対応するのである。
⑥「入出庫料の変動費化」が改善テーマに挙がることはそう多くない。入出庫料は出来高制が普通だからである。ところがM社は月額固定制にして、グループ物流会社の収入を保証していた。身内を甘やかす格好であった。固定制では作業生産性の向上に対する
動機付けが働かない。そこでわれわれNLFで重量当たり・長さ当たりの入出庫料を設定し、グループ物流会社と数回に及ぶ話し合いの末、承諾を取り付けた。
⑦「待機車両の削減」は、すぐにはコスト削減にはつながらなくても、ドライバー不足の深刻化で今後ますます重要性が増していくテーマである。M社の現場には〝車両は待たせて当たり前〟という風潮が見られた。実際、荷受け待ち・出荷待ちで長時間待機している車両がかなり目立った。
そこで、平常時は着車から60分以内、繁忙月(3月、9月)は1時間30分以内に車両を出発させるという目標値を設定した。今のところ、かなり改善が見られる。しかし、時間がたてば元に戻ってしまう可能性もある。その場合には、M社とグループ物流会社の契約書あるいは「SLA(サービス・レベル・アグリーメント)」にこの問題を反映させる考えだ。
こうしてM社の改善は進んでいる。5年前に実施したプロジェクトの効果が完全に風化していたわけではない。それでも結論から言えばコスト削減の余地はまだ残されていた。
これから運賃はさらに上がっていく可能性が高い。今後も引き続き工夫を重ねていく必要がある。

第169回 事例で学ぶ現場改善:『外資系機械メーカーA社のインフラ構築』

英国の親会社が事業領域の隣接する企業を買収した。その影響で日本法人も買収相手の日本事業と物流を統合することになった。物量は買収相手の方がはるかに大きい。既存の体制では対応できない。与えられた期間は1年。その間に物流パートナーを選定して新センターを立ち上げ、運用を軌道に乗せる必要があった。

買収相手の物流を統合
外資系A社は英国に本社を置く精密機械メーカーの日本法人だ。年商は約50億円。日本に生産拠点はなく、英国の工場で生産した製品を輸入販売している。代理店や卸を通さない直接販売だが、取り扱いの約8割は商社やフォワーダー経由で英国から直接顧客に納品している。
残り2割はA社の物流センターに入荷して在庫販売している。物量が少ないために大規模な倉庫は不要で、都内のオフィスビルの一角を物流センターとして使用し、そこで社員が検品、保管、カスタマーサービス、受注、発注、返品対応を行っている状態であった。
今回コンサルティングに入るまで、筆者はA社の名前を聞いたことがなかった。インターネットで検索しても日本語版のホームページはない。あまり知られたくないような感じさえ受け取れた。実際、A社のS社長いわく「今まではあまり大々的に告知せず、細々とやってきた」と言う。
しかし、業績はすこぶる良好だった。A社の製品は先端技術を駆使した、知る人ぞ知る差別化製品で、ニッチ市場ながら圧倒的シェアを握っていた。というよりも競合相手が事実上不在であった。そのためA社の存在や活動を告知してPRするより、他社にまねされることを恐れているようだった。
そのままの状態であればA社がわれわれのような外部の物流専門家を必要とすることもなかったであろう。しかし、今年に入って大きな動きがあった。英国本社が事業領域の隣接するB社を買収した。B社の日本法人の売り上げは、A社の約2倍に当たる100億円であった。その物流をA社と統合して、新たな体制を構築することが急務となったのである。
本社から与えられたタイムリミットは12カ月。その間に新たなセンターを立ち上げ、運用のめどを立てる必要があった。自社運営は現実的ではなく、アウトソーシング先の選定と管理体制の構築を支援することが、われわれ日本ロジファクトリー(NLF)への依頼であった。
A社の業界の物流は製品の取り扱いにノウハウが必要であり、対応できる物流会社は限られている。パートナー候補の名前を著者はそらでも挙げることができた。庫内作業を含めた「保管」に強みを持つのがN社、L社、Y社の3社。「配送」に強みがあるのはM社とR社。保管と配送の総合力を売りにするのがI社、J社、P社。そして後発ながら最近力を付けてきているY社である。
S社長にこの企業群を伝えると、同じ業界ということもあって、大手を中心に半数の企業は名前を知っていた。しかし残りの半数は初めて聞くという。ちなみに買収したB社の日本法人は後発のY社に物流を委託していた。
こうした経緯から、われわれNLFは具体的な支援内容を次の9つの項目に整理した。

①パートナー候補のリストアップ
②着地点分析による最適立地の選定
③RFP(提案依頼書)の作成
④コンペの開催
⑤パートナーの選考
⑥パートナー候補との最終交渉
⑦フォワーダーの見直し
⑧新規稼働の立ち上げサポート
⑨新人スタッフへの引き継ぎ

また、これらに着手する前に、A社およびB社の現場・現物の確認と、A社のボードメンバーに物流へのリクエストを確認すること、買収企業を含む出荷実績などのデータと資料の収集、チェックなどが必要であった。そして着手から2カ月後までに、今後の方向性を示すパイロットプランを策定することになった。
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パートナー候補を絞り込む
①「パートナー候補のリストアップ」は先に挙げた同業界に強い企業に加えて、配送面 での強化を期待できる会社を別途物色した。またA社やB社の同業他社がどの物流会社を利用しているか、可能な範囲で情報を収集しリストを作成した。
②「着地点分析による最適立地の選定」は、やや難航した。A社とB社は類似製品を扱っているため、納品先の分布も似ているだろうと予想していた。しかし、実際にはA社の納品先がほぼ全国に分散しているのに対し、B社の納品先は東日本に偏っていた。
これはB社のこれまでの販売戦略によるものであった。この着地点分析の結果、B社は西日本にまだかなりの伸びしろが残されていることも確認できた。
いずれにせよ拠点の最適エリアは1都3県内であり、コスト的には都心部でも設置可能であることが分かった。なおA社と同様にB社も、それまで関東1拠点で対応していた。
物量の多いB社の拠点をそのまま使うか、あるいは新規に立ち上げるかのいずれかを選択することになりそうであった。
③「RFP(提案依頼書)の策定」では、A社とB社それぞれの物流スペック、物量、要望などを整理した上で、配送や庫内作業の共同化についてパートナー候補企業に提案を求めた。また、ボードメンバーのリクエストを反映して「安心、安全な物流の推進」「コンプライアンスの徹底」「必要とされる物流品質KPI値」「セキュリティーの徹底」「機密情報漏洩の防止」などを強調した。
④「コンペの開催」は、参加者を特定していないオープンコンペを基本としながら、こちらから声を掛ける企業は絞り込んだ。少人数体制のA社の事務局に余計な手間と時間をかけさせないことに加えて、本命視できる物流会社が当初から分かっていたためである。
⑤「パートナーの選考」では、われわれNLFが通常使用している「物流事業者評価表」のフォーマットをカスタマイズした。具体的にはコスト関連の評価項目のウエートを下げ、品質関連のウエートを上げた。また、各社に対して同分野における実績企業数および対応した業務内容の詳細についての情報を求めた。
⑥「パートナー候補との最終交渉」は、最終選考に残った2社が相手であった。それぞれA社向け拠点の用意があり、この時点でB社の既存施設を利用するという選択肢は消えた。
2社にそれぞれの複数の現場視察を依頼した。筆者と他のメンバー、そしてS社長も一緒になって現場を回り、実際の作業状況を確認した。
筆者は日頃から「現場はショールーム」と繰り返し述べているが、今回もやはり現場は正直であった。2社がコンペでアピールした通りの現場もあれば、とてもほめられない現場もあった。結局この現場視察と先の実績内容が決定打となり、パートナーはJ社に内定した。
内定後も週に1度のペースでJ社とのミーティングを重ね、(1)作業マニュアル(2)SLA(サービス・レベル・アグリーメント)(3)汚破損時の対応と弁済(4)WMSの改修(5)稼働までの実施スケジュール──などを中心に、数十項目にわたる案件について協議を進めた。
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統合を機にフォワーダー見直し
⑦「フォワーダーの見直し」はNLFからの提案であった。A社とB社の年商は合計しても150億円で、フォワーダーから好条件を引き出すにはややボリュームが足りない。
しかし、英国本社は約2千億円の売り上げ規模があり、フォワーダーはF社とU社を使っている。
そこで今回、日本で物流インフラを構築するタイミングで、F社とU社に新たに見積もりを依頼した。両社ともA社の事業拡大の余地は大きいとみて交渉のテーブルに乗っており、現在は見積もりの回答待ちの状態である。
⑧「新規稼働の立ち上げサポート」に関して、われわれNLFでは、拠点の立ち上げから40日以内に安定軌道化させることを「40日ルール」と呼んで管理の目安にしている。
しかし、最近は庫内作業の人手を確保できていないためにこのルールをクリアできないケースが増えてきている。
その点、今回のJ社の対応は評価できた。近隣にあるJ社の拠点からの応援体制が整っていた。このことは立ち上げ時だけでなく、大きな波動やトラブルが発生した際の対応にもつながる。また現場リーダークラスの経験値が高く、われわれとのコミュニケーションも円滑であった。そのため多岐にわたる懸念事項を一つ一つ着実につぶしていくことができた。
⑨「新人スタッフへの引き継ぎ」は、物流のスペシャリストをA社のスタッフとして新たに採用することを前提にしている。今後のA社の成長には、長期的な視点から物流戦略を検討し、実行できる人材が必要である。既に人物も決定しており、入社時期を待つばかりとなっている。われわれから彼に今回の改革プロセスを説明し、当面の課題・問題点は何か、それをどのようにして解決していくかを伝えていくことになる。
以上、今回の取り組みは、A社がその製品と同様に物流においても圧倒的な競争力を持つことを最終的なゴール、あるべき姿に置いている。この1年でその準備は整ったといえるだろう。近い将来、物流がA社にプラスアルファの成長をもたらしてくれることを期待している。

≪特集解説≫ 事例で学ぶ現場改善:『“配車力”を鍛えるための5箇条』

配車業務は“暗黒大陸”とされる物流の中でも、最も闇の深いブラックボックスだ。配車の最適化や配車マンの育成の問題は、その重要性にもかかわらずこれまでずっと先送りされてきた。しかし、もう放置はできない。安定供給を維持していくために配車にメスを入れる時が来た。

物流の最後の聖域
数多の物流改善テーマがある中、配車の改善は課題として抽出されてはいても優先順位の上位に挙がってくることはまずない。多くの荷主、物流会社において配車業務は過去に掘り下げられたことのない、いわば“未開の地”となっている。ドライバー不足が深刻化している昨今、そこに多くの宝が眠っていることを筆者は痛感している。
配車ソフトなどのツールも出回るようになったが、システムで可能になるのは、ごく初歩的なシミュレーションや、配車マンの業務をいくらか軽減する程度のことであり、最終的にはやはり配車マンの判断と采配に頼ることになる。属人的で職人的なノウハウを払拭できてはいない。それでいて、配車マンの教育やスキルアップの方法は今もってほとんど体系化されていないのが実情である。
なぜ、これまで配車問題は先送りされてきたのだろうか。答えは恐らく、配車マンが何をしているのか、本人以外には分からないからである。センター作業であれば、庫内を見て回れば誰でもある程度の察しはつく。しかし、配車となると荷主はもちろん同じ物流会社の社員でも理解できないほどブラックボックス化していることが多い。
いわゆる“物流危機”に不安を感じた荷主や元請けが、これまで協力運送会社に任せきりにしていた配車を内製化しようとしても、経験者の引き抜きでもしない限り、うまく回せないだろう。それだけ配車マンは多種多様な情報を日々取り扱い複雑な業務を処理している。それを筆者なりに次のように整理してみた。それぞれについてコメントしたい。

①納品サポート
②傭車先の確保
③共配パートナーの開拓
④出荷拠点の最適化
⑤ドライバーとのコミュニケーション
⑥車両別損益管理
⑦運行管理・安全管理

①「納品サポート」とは第一に、納品に関するドライバーからの質問・相談に分かりやすく回答することである。配車マンによるドライバーの指導やアドバイスは納品を安全かつスムーズに実行する鍵になる。また、無駄な作業や時間ロスの多い納品先があれば、営業部門や荷主に納品条件の資料を提供して、先方に改善を促すことも配車マンに期待される役割の一つである。
そのツールとしてわれわれ日本ロジファクトリー(NLF)では、各納品先の制約条件や注意事項をシートにまとめた「納品カルテ」の作成を推奨 している。
運用上のポイントはメンテナンスである。納品先の状況が変化したら、 時を置かずにカルテに反映されるよう、日常業務にメンテナンス作業を組み込むこ とである。
②「傭車先の確保」は、ますます重要かつ困難になっている。候補先をリストアップして片っ端から電話を入れるといった単純なやり方ではもはや車は集まらない。
次に列記するような様々なアプローチを試みる必要がある。
無題1

●ドライバーが喜ぶ仕事を傭車先に回し、反対にハードな仕事は自社便で対応するといった自己犠牲的な覚悟が必要である。ドライバーが喜ぶ仕事とは、具体的には終了時間が早い、荷降ろしの順番を長時間待たなくてよい、有料高速道路を使える、自主荷役がない、ケース物の仕事などである。

●今や配車マンが足を使って車を見つける時代である。多くのドライバーの集まるパーキングエリアやトラックターミナルなどが狙い目だ。休憩しているドライバーに声を掛け、「帰り荷は何か」「いつも帰り荷があるのか」「帰り荷はいつも決まっているのか」などの話を聞いて「帰り荷で困ったら連絡してほしい」と名刺と缶コーヒー1本を手渡す。

●レギュラーのドライバーからも、ルート別にどんなトラックが走っているのか、「社名」「都道府県名」「車両サイズ」の情報を収集する。その際にも情報提供に対するちょっとしたインセンティブを用意する。

●傭車先への支払いサイトを短くする。傭車先は資金繰りが楽になる。入金が早い荷主は物流会社から見たときのランク付けが上がる。忙しくなるほど車が集まってくるようになる。

●バーター取引を前提とする。一昔前までとは違って、仕事を出すばかり、もらうばかりの関係は長続きしなくなっている。常に往復を満車で走行している車両などまずない。どの物流会社にも繁閑差はある。その調整役を果たすことで求心力が高まる。

●普段、車両を融通し合っている他社の配車マンと、電話でやり取りするだけでなく、訪問して相互理解を深める。配車マン同士の意思疎通レベルと、マッチングが成立する確率は比例する。荷物と車両の需給バランスが崩れたことで、電話1本でやり取りが成立した時代よりも細かな調整が必要になっている。

持続可能な共配を組み立てる
共同物流は今や避けて通れないテーマである。③「共配パートナーの開拓」がその成否を握っている。いったんは手を握ったものの運用開始後にミスマッチが発覚して、取り組みを中止・断念せざるを得なくなるケースが後を絶たない。持続可能な共配のポイントとして次の3つを指摘したい。
1つは取り組みを荷主が主導するのではなく物流会社に主導させることである。
そうすることで荷主のわがままを最小限に抑えて、全体を最適化することができる。荷主同士で直接調整すると、お互いの損得に振り回されて話し合いの決着がつかなくなる。2つ目は納品先が重複する業種・エリアを選ぶこと。そして3つ目がしっかりとしたベースカーゴの存在である。60〜80%の積載率をカバーするベースカーゴの空いたスペースに、物量の少ない荷主を相乗りさせる。「大量」と「少量」の
組み合わせが最も成功率が高い。「少量」と「少量」の共配は一時的には成立しても長くは続かない。
④「出荷拠点の最適化」は、複数の在庫センターがある場合には常に念頭に置いておく必要のあるテーマだ。新しい荷主や納品先を既存の配送ルートに付け足していった結果、気が付くと隣のセンターの近くまで納品に行っていたということが現実に頻繁に起きている。当然ながら隣のセンターから出荷すべきである。配送ルートを拠点単位で管理しているために部分最適に陥ったわけである。
年2〜4回は配送ルートをゼロベースで見直す必要がある。われわれNLFでは “出荷振り分けの見直し”と呼んでいるが、未着手の企業が多く、宝の山といえる。
ただし、見直しの際にはエリアの得意先情報を一元管理している営業担当者を加えることが重要である。

“できる配車マン”の共通点
⑤「ドライバーとのコミュニケーション」が、配車マンにとって何より大事であることは誰でも容易に想像できるだろう。筆者の経験則上、優秀な配車マンのコミュニケーションには次のような共通点がある。

●「ありがとう」「お疲れさま」の声掛けは当たり前。何かあるたびにドライバーに対して褒め言葉が出る。多くの褒め言葉を持っている。いわゆる〝褒め殺し〟ができる。

●フットワークが良い。必要とあらばすぐに現場へ直行する。デスクに座っていることが少ない。

●高圧的な話し方は決してしないが、こびるようなこともしない。配車マンとドライバーは対等であり、仲間である。

●いわゆる「報・連・相」を徹底している。

●増車時よりもむしろ減車時の対応に注意を払っている。

●レクリエーションなどを通じて、ドライバーとの距離を縮めている。ドライバー一人一人の性格や家族構成、懐具合を把握している。
無題2

⑥「車両別損益管理」は、「日々決算」として知られるように、車両別の損益を毎日管理して、改善を積み重ねていくことが肝要である。基本的なテーマであるが、ここであらためてポイントを整理しておこう。車両サイズ別に見ると、1〜4トンの中小型車は「回転率」、4〜10トンおよび増トン車は「積載率」が収益管理の軸である。また中長距離輸送では「走行1キロメートル当たり運賃収入(キロ収)」
が運賃の物差しになる。
全体の収益管理は「車両稼働率」が重要である。車両リース、借入金による購入、分割払いのいずれの方法を取るにしても金利が掛かっている。人間と違って金利は休むことがない。従って休車させてはならない。365日・24時間稼働にできるだけ近づける。車両1台に対してドライバー2〜3人を交替制で投下することを目指さなければならない。
⑦「運行管理・安全管理」は、本来それぞれ運行管理者、安全管理課が担当する業務だが、実際には配車マンが兼務しているケースが非常に多い。ドライバーの声を聞いて体調の良し悪しを判断できることは、一人前の配車マンの条件の一つといえる。さらに一流の配車マンともなれば、業務環境の整備にも深く関与してドライバーの退職を抑制し、定着率の向上にも貢献する。また安全運転の徹底には事故防止だけでなく燃費走行によってコストを削減し、利益を押し上げる効果がある。

第168回 事例で学ぶ現場改善:『IT製品修理サービスB社の改善』

パソコンやサーバーをはじめとするIT関連機器の修理事業のため、機密管理を重視して本社と同じビル内に物流センターを置いている。現場の運営にも社員を充てている。
物品の管理にはバーコードシステムを導入しているが、機能していなかった。取扱量の拡大で作業スペースも逼迫していた。

“探す”をなくせ
B社はパソコンやサーバー、LAN、USBなどのIT関連全般の修理業務をメーンとしている。年商は約120億円。顧客は法人が約7割、個人が約3割という構成である。
東京本社の他、大阪と名古屋に営業拠点を置いている。本社と同じビル内に2フロアを借りて物流拠点として使用している。倉庫としては高い家賃だが、B社は顧客から故障した製品と同時に情報も預かることになるため、機密管理の観点から外部倉庫に預けることはしていない。庫内も自社運営だ。
われわれ日本ロジファクトリー(NLF)は以前、中古パソコンの買い取り・販売チェーンの物流改善を手掛けたことがある。物量も1日当たりの入荷が平均約500件で、B社と同じレベルだった。しかし、同じ製品を取り扱っても事業モデルが違うと物流戦略もずいぶん違ってくるものだと、B社の案件を通じてあらためて感じることになった。
先の買い取り・販売チェーンは物流業務やデータ管理を全て外注していた。オペレーションもかなり異なっていた。中古パソコンや関連製品はほとんどが宅配便で送られてくるが、B社の場合はサーバーやシステムを内蔵した大型機器なども扱っているため、全体の約2割がチャーター便による入荷であった。
また、買い取り・販売チェーンは、調達した中古パソコンを部品レベルに完全に分解してから各パーツを検査し、新品同様の手順で組み立てる。それに対してB社は修理を必要とする部品だけを取り出す。テスト・検査の工程はほぼ同じだが、最後の組み立てはその部品を戻す作業なので、作業の内容が1台ごとに違ってくる。前回のノウハウを安易に適用することはできそうになかった。
さて、今回B社でわれわれNLFの担当窓口となったのは、システムエンジニア出身の D氏であった。D氏によると、B社にとって物流改善は以前から必要性を指摘されながら、長年手を付けずに先送りされてきたテーマであった。そこにいよいよメスを入れるよう、トップから指示が下った。具体的には誤出荷をなくすこと、そして〝探す〟という行為を可能な限り減らすことが狙いであった。
D氏とB社の本社オフィスで打ち合わせした後、別フロアにある物流センターを案内された。なるほど整理が必要であるようだ。フロア全体にモニターディスプレーがひしめき合ように置かれてあり、その合間をスタッフが所狭しと動き回っている。一見しただけでは誰が何をしているのか、全く判別できなかった。
この日のヒアリングと現場視察を受けて、後日われわれは次のような改善案をD氏に提案した。

①ロケーション管理の再構築
②誰もが〝分かる〟〝できる〟現場づくり
③担当業務の見直し
④物流スペースの拡張
⑤物流KPIの導入
⑥「6つの〝ない〟(持たせない/書かせない/歩かせない/待たせない/考えさせな
い/探させない)」の実践

①「ロケーション管理の再構築」は必須であった。入荷時に分解して取り出したパーツがフロアのあちらこちらに分散してしまうことが原因で、無駄な動きがかなり発生していた。組み立て時にはスタッフがパーツを探し回らなければならず、しかも修理済みの製品を無造作に軽量ラックに置いているため、出荷時にもあらためて製品を探し回っていた。クライアントから納期の問い合わせを受けても、そのクライアントの故障パーツが今どの工程で修理されているのか把握できないため、明確な納期を回答することがで
きずにいた。
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2次元バーコードを採用
現場には追跡管理用のハンディースキャナーが導入されているのだが、それが正常に機能していなかった。B社の扱うシステム機器は製品だけでなく、パーツにもそれぞれバーコードが貼付されている。同じパーツにJANコードとシリアルコードなど、複数のシールが貼られていることも多い。
どのタイミングでどのラベルをスキャンすればいいのか判断が難しいため、読み込みミスやスキャン忘れが頻繁に発生する。入力情報が信頼性を欠いていることから、現場は追跡管理を事実上諦めていた。
バーコード管理システムを改修する必要があった。それを前提にわれわれから現場に対し、あらためて作業スタッフが修理や検査を開始する際には必ず各人のモニターが配備されている作業スペースでパーツのバーコードをハンディーターミナルでスキャンすることを約束してもらった。
B社のセンターの進捗を管理するには通常のバーコードよりも多くの情報を持たせる必要があった。そのためシステム改修は当初、RFIDタグの導入を最有力と考えていた。
しかし、シミュレーションの結果、初期投資が大きく、それに見合う効果は得られないと判断して断念。代わりに2次元コードの「QRコード」を使うことにした。
②「誰もが〝分かる〟〝できる〟現場づくり」は、コストの抑制と技術継承の双方において重要であった。自社運営が方針とはいえ、全ての業務を正社員でやる必要はない。
外部委託は行わなくても、直接雇用のパートタイマー・アルバイトを採用し、その比率を上げていくことで総人件費を下げられる。
ただし、それにはパート・アルバイトに任せても品質が落ちないよう業務を標準化する必要があった。具体的には、マニュアルの整備、現場の掲示物の改善(ビジュアル化)、非正社員への教育・研修の定期的な開催が必須であった。
一般に現場作業を正社員に任せるのは、その作業が言葉にできない、いわゆる〝暗黙知〟を含んでいるからだ。しかし、実際には作業内容を言葉にする努力を怠っているだけということが多い。いったんマニュアルや仕様書などに活字化された作業は、パート・アルバイトにも継承できる。今回のプロジェクトは見事にそれを証明してくれたのであった。

レイアウト変更でスペース確保
B社のセンターでは故障品と交換する補修用パーツを在庫している。その管理は物流セクションと同じフロアに入居している営業部門が本業の片手間に行っていた。補修用品部品の棚卸し時には、エンジニアたちが営業部門の手伝いに入る。どこも管轄部署としての自覚はなく責任の所在が不明確であった。営業やエンジニアたちからは「自分の本業が忙しい時間にも物流業務に手を取られてしまう」と不満の声も上がっていた。
今回のプロジェクトをきっかけに③「担当業務の見直し」を行い、補修用パーツや備品などの調達に関わる管理を全て物流セクションが担当するよう変更して、営業部門やエンジニアを物流業務から解放した。
ただし、それには④「物流スペースの拡張」が必要であった。明らかに手狭となっているスペースを拡張することで、ロケーション管理のための軽量ラックを設置することができるし、作業スペースが広がれば作業生産性も上がる。今回の改善の最大のテーマといえた。
しかし、同じビルの他のフロアに空きはなかった。また、管理体制が十分とはいえない現状では、例え近隣であっても本社から離れた場所に物流業務を移管するのはリスクがあった。
そこで一時的措置として物流フロアのレイアウト変更を行った。現場の不要なモニターは撤去し、「届け先不明」で戻ってきた個人向け修理完了品を別の場所に移管、さらには同じフロアにいる他部署のスタッフのデスクを、個人別の固定デスクから長テーブルに変更して、フリーアドレス制にした。
これによって、約20%のスペースを新たに生み出すことができた。しかし、それでも十分とはいえず、D氏には今後もB社が現在の形で自社物流を続けるのであれば、もっと大きなビルに拠点を移す必要があることを伝えた。
⑤「物流KPIの導入」は、D氏が以前から思案していたテーマであった。物流セクションにどのような目標を持たせるべきか、目標を達成した場合のインセンティブをどう設計すべきか、ずっと悩んでいたという。それを聞き、目標管理の前提としてまずは可視化に軸足を置くようにアドバイスし、次のKPIを提案した。

●売上高トータル物流コスト比率
●売上高支払物流費比率
●1人1時間当たり作業量
●在庫差異率
●誤出荷率

KPIの運用に当たって、作業量の基本単位には注文データの行数を採用し、また作業品質の精度は現状の運営レベルを考慮すると10万分の1を当面の目標に設定するのが現実的であるとの考えを伝えた。
⑥「『6つの〝ない〟(持たせない/書かせない/歩かせない/待たせない/考えさせない/探させない)』の実践」は、既に本連載では定番の生産性改善策だが、B社の場合はトップの意向を反映して、「探させない」「歩かせない」ことを特に重視して取り組んでいる。
こうしてB社の改善活動が進み始めた。聞けばB社は現在の事業を開始した当初から物流専門セクションを設けていたという。しかし、今になって振り返ると、それは時期尚早だったのではないかと筆者は推測している。修理や組み立てなどの流通加工の一部に物流業務を組み込んでしまった方が、人を集めるのが楽であり、物流に対する社内の理解も高まったであろう。
しかし、現在の規模となってはもう遅い。物流専門部隊がなければ、効率面、スピード面とも運営に支障を来してしまうのは明らかだ。B社の事業モデルを採用する場合、物流専門セクションが必要となる分岐点は恐らく、現状のB社の事業規模の約半分、年商60億〜70億円レベルだったのではないかと踏んでいる。

第167回 事例で学ぶ現場改善:『雑貨品メーカーD社の物流外注化』

売り上げがピーク時の半分以下に低迷。経営の立て直しを迫られた雑貨品メーカーが、 外部から再建請負人を招き入れた。まずは物流にメスを入れることにした。自社所有 の物流センターを売却し、運営も外注化して物流コストを変動費化する。そのために 組織したプロジェクトチームのアドバイザー役を物流コンサルタントに求めた。

風変わりな再建請負人
D社は年商約100億円の雑貨品メーカーだ。生産工場をタイと日本国内の2カ所に 置いている。国内工場から20キロメートルほど離れた所に物流センターを所有し、運 営も自社で行っている。
D社の製品は組み立て品が中心で、ホームセンターや専門店チェーンが主要な納品先 となっている。うち最大顧客の専門店チェーンL社は売り上げ全体の20%以上を占め ており、L社向けの物流対応や商品提案には全社一丸で力を入れている。また近年、BtoCのネット通販を開始しており、暗中模索しながら個人消費者に対応している。
ある日、D社の実質的なナンバー2のB氏からメールで連絡が入った。「物流体制が整っておらず困っている」という。数日後、弊社のオフィスにB氏が相談に訪れた。
予定の時間よりも早く着きそうだとの連絡があったのだが、実際に到着したのは約束の時間を20分ほど過ぎたころであった。道に迷ったらしい。
メールでのやり取りから凛とした紳士を思い浮かべていたのだが、実際にB氏に会って、予想は見事に裏切られた。髪の毛はいつ床屋に行ったのか分からないほどぼさぼさで、身なりもラフ。あいさつもそこそこに席に着くと、来社の途中に購入したらしいコンビニ袋に手を突っ込み、がさがさと探し物をしながらいきなり本題を切り出してきた。
実はその日のB氏だけでなく、D社自身もまた経営の道に迷い、かつては200億円以上あった年商が半分以下に落ち込んでしまっているという。そこで経営を立て直すためにD社のオーナーが同業他社からヘッドハンティングしたのがB氏であった。
つまりB氏は再建請負人であり、その役割は物流にメスを入れて、D社のP/L(損益計算書)とB/S(賃借対照表)を正常な状態に戻すことであった。
具体的には物流業務を外注してコストを変動費化し、自社倉庫は売却もしくは賃貸に出したいとB氏は考えていた。自前の物流運営と物流資産から離れて、いったん身軽にしたいという。それと並行し365日のBtoC対応を整備する。そして将来は日本市場に見切りを付け、東南アジアでの拡販を視野に入れているという。
そうビジョンを語る一方でB氏は、D社の現状の物流業務がすぐに外注へ出せる状態ではないことを理解していた。現場のオペレーションが担当者の長年の勘と経験によって支えられている上、外注化に当たっての基本方針も明確になっていなかった。
この打ち合わせの約1カ月後にプロジェクトをカットオーバーすることになった。われわれ日本ロジファクトリー(NLF)の今回の役どころは、プロジェクトマネジャーとして陣頭指揮を執ることではなく、プロジェクトチームのアドバイザーであった。
B氏いわく「今回のプロジェクトは将来リーダーを担える人材が社内にどれだけいるのかを確認することも狙いの一つ。そのためあえて若手にプロジェクトマネジャーをやらせてみたい」とのことであった。これを受け、われわれはアドバイザーとして物流デザインを検討するとともに、D社の人的リソースにも目を光らせることになった。
まずはプロジェクトメンバーたちと物流センターの現場視察を行った。庫内は照度が足りていなかった。薄暗がりに在庫が山のように無造作に積み上げられていた。現場スタッフの高齢化が進んでいることも気掛かりだった。
さらに問題なのは、このセンターの何が問題なのか、プロジェクトメンバーたちが理解できないことであった。そこで視察中に何度も足を止めて、筆者がその作業エリアの課題を指摘して、問題意識を共有し、メンバーの目線を合わせることに努めた。
その後、メンバー間で具体的な改善策を協議して、次のようなテーマを抽出した。

①物流拠点の売却
②物流パートナー候補のリストアップ
③提案見積書(RFP)の作成
④WMSの検討
⑤物流部の発足
⑥最寄り港、工場からの顧客直送
⑦共同配送の推進
⑧将来の東南アジア圏での販売を見据えた現地物流拠点の設置

このうち①「物流拠点の売却」は、B氏が真っ先に目を付けたところであった。彼にとっては物流センターである以前にD社の所有不動産であり、売却すれば財務体質の改善に大きく寄与する。拠点は敷地が4500坪あり、地形も〝良〟のレベルであった。ただし、立地にあまり魅力がない。地方都市の郊外に位置し、高速道路とのアクセスは決して良いとはいえなかった。売却には長期戦を強いられることを覚悟した。
メーンバンク経由で物件情報を流したところ、意外に多くの見学依頼があったが、実際に手を挙げる会社がなかなか現れない。要は値段の問題であった。B氏が売りたい値段を周辺相場と比べると坪当たり約500円の差がある。値段さえ下げれば買い手が付くということでもあるため、メーンバンク、不動産鑑定士を交えて現在見直しを行っている。

物流資産を売却して業務を外注化
物流拠点の売却は、②「物流パートナー候補のリストアップ」とも関係してくる。物流業務の外注先の物流会社に拠点を購入してもらう、もしくは賃貸してもらえる可能性がある。あるいは物件を売却後に売却先から賃借し直す、つまりリースバックで同じ場所にとどまるという選択肢も残されている。
そのことを考慮して、当該エリアに強いことやD社と同分野の製品の取り扱い実績などと並び、D社の拠点を購入してくれる可能性のある物流企業を外注先候補としてNLFのネットワークから選んでいった。これにD社側でリストアップした既存の協力配送業者など4社を加えた計11社をパートナー候補とした。
この11社にそれぞれ連絡してヒアリングを行い、案件に対して前向きな姿勢か否かの感触をつかみ、フィルターをかけた。昨今、業務は受託したものの後になって人を集められないと音を上げる物流会社も珍しくない。そうなっては元も子もないため、最初の段階で業務の推進力に関する手応えを確かめておきたかった。
並行して③「提案見積書(RFP)の作成」を進めた。われわれNLFで使用している一般的なRFPのテンプレートをD社向けにアレンジすればよいのだが、その中身となる物流スペックが明確でなかった。「年間稼働日数を何日とするか」といった基本的な要件から「誤出荷件数は現状から見て年間何件までを許容範囲とするか」といった詳細なサービスレベルに至るまで、一つ一つ検討を進めた。
その過程で1日の作業スケジュールを整理していったところ、物流用語の統一という問題に直面した。他社でもよくあるのだが、同じ作業を「ピッキング」と呼んだり「引き当て」と呼んだり、「梱包」と「パッキング」が人によって混在している。結局、ゼロからセンター業務を洗い直すことになった。
④「WMSの検討」もまたB氏の肝いりのテーマであった。システム化することで属人化している作業を可視化すれば、総人員も削減できるだろうという発想だった。必要な投資について事前にメーンバンクに話もしているという。われわれもWMSの必要性は感じていた。在庫差異を解消し、KPI管理の導入に役立つ。
ただし、中堅以下のメーカーが自社でWMSを所有するケースはそう多くはない。W MSを所有している物流会社を業務委託先に選び、必要に応じてD社向けにカスタマイズしてもらうという選択肢もあることを説明した。
このプロジェクトにおける物流コンペの結果は守秘義務もあり詳しく解説することができないのだが、結局は最終的にパートナーに選んだ物流会社のWMSを使用して、そのカスタマイズ費用を折半することで落ち着いた。高額なシステム投資を回避することができた。

無題
業務部を解散して物流部を発足
⑤「物流部の発足」はわれわれNLFから見れば、今回のプロジェクトの最重要テーマであった。D社には物流専門の管理組織がなく、物流センターの現場業務を担当している業務部は、営業部門の傘下にあった。顧客のわがままが優先され、物流コストの上がりやすい体制である。製販に中立な物流管理部門が必要であった。
物流に軸足を置いた組織を設立することで、製造、販売、システム、組織、諸々の課題・問題点が自然と浮かび上がってくる。それを基にシステムの重要性を社内に理解させて、在庫適正化のロジックを確立する狙いである。
旧業務部を解散して、新たに物流部を発足した。その役割は上図の通りである。スタート時点でのメンバーは6人。従来の業務部から2人、他に製造、販売、システムからそれぞれ1人、パートのアシスタント1人という陣容である。少人数ながらも精鋭であることを前提にB氏と相談して人選した。
⑥「最寄り港、工場からの顧客直送」は、一つはタイで生産して現地で検品を済ませ、日本側で検査・検品が不要な製品が対象であった。D社の物量全体の8割を占めるタイ生産品のうちの約半分、全体の4割を日本の荷揚げ港から得意先のセンターへ直接送り込むことができた。
国内工場からの直送も、ラベル・伝票発行と最終梱包機能を工場に追加整備する必要があったが、国内生産分の半分弱を、物流センターを経由しない直送に切り換えることができた。その結果、トータルで年間6800万円の横持ち運送が削減された。
⑦「共同配送の推進」は、現在2つのアプローチで進めている。1つはD社の同業他社や調達先などとの共同配車である。もう1つは配送協力会社T社のネットワークを使った共同納品だ。T社は別の荷主の案件でホームセンター納品を行っている。それ
をベースカーゴとしてD社の荷物を混載して一緒に納品するというアイデアで、現状では最有力と考えている。
最後に⑧「将来の東南アジア圏での販売を見据えた現地物流拠点の設置」については、実は既にD社は現地販売を一部で開始しているだが、販売金額が年間10億円を突破した時点で具体的に動けばよいとの判断から、再検討テーマとして次年度に持ち越した。
こうしてD社のプロジェクトは、単なる物流改善を超え、経営の立て直しに向かって進んでいる。中堅・中小企業をクライアントとする物流コンサルティング案件では決して珍しいことではない。その期待に応えるため、われわれは物流コンサルタントである前に経営コンサルタントであらねばならないと自覚している。

第166回 事例で学ぶ現場改善:『外資系高級雑貨G社の拠点集約』

日本法人代表のドイツ人と、ライバル会社からヘッドハンティングされた日本人物流責任者が今回のカウンターパートだ。本国の指示で拠点集約に着手したものの、社内に本格的なプロジェクトチームを組織するだけのマンパワーはない。急ぎ物流コンサルタントに支援を依頼することにしたという。ゼロからのスタートではなかった。

時間的余裕は常にない
外資系G社は世界中に事業を展開している高級雑貨品メーカーだ。日本法人の年商は約80億円。約6500SKU(Stock Keeping Unit)を全国の百貨店、専門店、そして直営店で販売している。日本国内の物流拠点は関東の東部と西部にそれぞれ1カ所、関西に1カ所の計3カ所に設置していた。そのうち関西の拠点は、サービス向上の一環でリードタイムを短縮するため一昨年に新設したばかりであった。
ところが本国の意向で、拠点配置を急遽、見直すことになった。物流の効率化、作業マニュアルの統一、セキュリティーの確保という3つの理由から、拠点を1カ所に集約するよう指示が出た。商品単価を考えるとG社の物流費の負担は決して重くはなかったが、本社のCEOが交替してコスト重視にかじを切ったとのことであった。
筆者はある人物から紹介を受け、G社で日本事業を統括しているドイツ人のM氏と、日本人マネジャーのT氏の2人と接触した。T氏はG社と同様の輸入ブランド雑貨の物流管理を担っていたところをヘッドハンティングされた人物であった。ただし、前職で経験したのは輸入物流のみで、国内物流に詳しい〝助っ人〟を求めていた。
またG社に移ってからT氏は物流以外の業務を兼務しており、今回のプロジェクトを進めるに当たっては、T氏以外にプロジェクトマネジャーを務める人物が必要であった。
しかし、G社の日本法人は少人数体制を敷いており、社内に適任者もいないことから、われわれ日本ロジファクトリー(NLF)に支援が依頼された。
そうした背景の下、キックオフミーティングを開催した。その時点で既にM氏とT氏の2人が先行して進めていた事項があった。次の通りである。

●集約先拠点の運営を委託する候補企業に「RFP(見積依頼書)」を提示して、当初  の4社を2社に絞り込んでいた。
●それに伴い集約先となる拠点の立地や物件の当たりも付けていた。
●G社には現状の3拠点とは別に、eコマース用の拠点があり、それも新拠点に統合するという意思決定をしていた。
●自社WMSの開発に着手していた。

その詳細を説明するM氏とT氏の様子から、2人の間でもまだ十分にコンセンサスが取れていないところが相当にありそうだと感じた。今回はその意見調整もわれわれNLFの役割の一つになるであろう。また、繁忙期を避けて拠点を移管するには、かなりタイトなスケジュールにならざるを得ないことも明らかになった。
筆者としては、プロジェクトの基本コンセプトの策定や納品先の着地点分析による最適立地の選定など、本来のスタート地点から関わりたかったところである。その方が良い結果になるとの自負もあるがやむを得ない。初回ミーティングを受けて、今回のNLFの役割を次のように整理した。

①移管プロジェクトのマネジメント
②庫内ロケーション/レイアウトの検証
③作業マニュアル作成
④SLA(サービスレベル・アグリーメント)締結
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①「移管プロジェクトのマネジメント」は、毎度のことながら、時間のないことが最大の制約であった。そもそもコンサルタントを導入する目的の一つが〝時間を買う〟ことであろう。そのため時間に余裕のある案件などほとんどないのが実情である。
今回のスケジューリングの鍵は、G社が開発中の自社WMSが完成するまでの間、どうやって業務委託先の物流企業とインターフェースを取るかという問題が握っていた。
具体的には「a.委託先のWMSをG社の販売管理システムにつないで運営する」「b.委託先のWMSはつながず、当面の間は販売管理システムのデータを現場で出力して対応する」の二者択一であった。
物流会社の多くは、自社WMSシステムの利用を業務受託の前提にしている。使い慣れたシステムを使って早期に作業生産性、保管効率を向上させ、利益化を狙いたい考えだ。
しかし、G社の業界では荷主の販売管理システムをそのまま出力して作業指示書として使用するケースが多い。あるいは物流会社側で元データを自社のWMSシステムに再入力していることもある。
a案とする場合、物流会社側のシステム対応力で開発工期が大きく変わってくる。システム開発スタッフを社内で抱えているか、外部委託としているかの違いが大きい。
G社の委託先候補2社のうち、3PLのM社はa案、もう一方の地場中堅倉庫会社N社はb案を提案してきた。現在その詳細を検討しているところだが、最終的な依託先の決定と一緒に結論を出す予定である。

物流特性を協力会社に理解させる
②「ロケーション/レイアウトの検証」とは、M社とN社からそれぞれ提案されるプランの妥当性を検証する作業だが、その前に、G社の本社で使用している作業マニュアルを確認し、物流業務の委託先に何を求めるのか、G社側で〝答え〟を用意しておく必要があった。
荷主が理想とするオペレーションと、委託先の運営方法および作業目的には大なり小なり乖離があるのが普通である。物流企業は当然ながら作業の生産性と保管効率を何より重視する。われわれプロジェクトチームは、そこに品質、セキュリティー面を加味して、荷扱いの丁寧さ、盗難防止、日焼け防止(遮光対策)、空調機器からの距離による温度・湿度の違いなどを配慮して、独自のロケーション/レイアウトを作成した。
ちなみに外資系荷主、とりわけ高級品を扱っている場合には「流通加工エリアでの照度は300LUXを維持する」「専用エレベーターを使用する」など、物流拠点の細部に至るまで細かく本社で規定していることも珍しくはない。
しかし後日、委託先候補から提出されたプランは、ごく一般的なものであり、G社の商品の特性を十分に理解したものとはいえなかった。そこであらためて両社に情報提供を行い、プランの修正を重ねていくことで荷主と物流企業との認識ギャップを埋めていった。
③「マニュアルの作成」は本来であれば、委託先候補から提出されたプランを検証すればいいのだが、G社の場合は百貨店納品があるため事前にG社側でたたき台を作成する必要があった。
百貨店納品は、百貨店ごと、売場ごとに伝票作成と納品形態が細かく異なるため、マニュアルが重要なツールとなる。同じ百貨店でも商品カテゴリーや売り場、さらには担当者ごとに仕様を変えなければならないこともあり、実績のある物流企業でもてこずる場合が多い。
そこで、われわれNLFのスタッフが主体となってT氏に何度もヒアリングして、マニュアルを仕上げた。それを委託先に提示して、それぞれ独自の作業マニュアル、作業手順書に変換させて、その内容をプロジェクトチームがあらためてチェックするという流れで作り込んでいった。SKU別に作業内容が変わるケースも少なくなかったことから、最終的にマニュアルはかなり分厚いものになった。
荷主と物流企業が事前にサービス水準に関して合意書を交わす④「SLA締結」は、KPIの設定がポイントである。G社の本国および他国の事例を参考にしながら委託先候補と協議を進めた。本国と同じKPIだけでは日本の現場レベルの実態は把握できないと判断し、オリジナルのKPIを追加設定した。
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参考までに一般的なKPI報告書を上に掲載しておく。
こうして何とか計画通りにプロジェクトを進めていたが、一つ問題が発生した。委託先2社の再見積もりの金額に大きな開きが出た。原因を探ったところ、G社が物流会社に提出した提案依頼書の内容が不十分であることが分かった。
プロジェクトを正式に開始する前に既にRFPは提出済みと聞いていた。しかし機密保持契約書(NDA)を締結する前であったため、出荷量や在庫量の実績データや、詳細な業務範囲が明示されておらず、情報開示が不十分であった。
そこで必要なデータを整理して再度RFPを作成し直すことにした。本国とのコミュニケーション不足によりデータの入手には手間取ったが、何とか物流会社の希望する期限には間に合わせることができた。来月中には最終的に委託先を決定し、すぐに移管業務に着手する計画だ。