第206回 事例で学ぶ現場改善:『電設資材卸L社の商物分離プロジェクト』

小規模な事業所にそれぞれ在庫を置き、社員がトラックを運転して顧客に納品している。事業所に在庫を引き取りにくる顧客もいる。その商物分離が今回のテーマだ。経営幹部たちは変化を好まない。そこで四代目社長は若手を中心にプロジェクトチームを組織して改革に乗り出した。

 

80カ所に在庫を分散して自社配送

L社は年商約500億円の電設資材卸である。取り扱いアイテムは在庫品だけでも8千を超える。東海地区を中心に小規模な事業所(営業所)を約80カ所展開して、売れ筋の約1800アイテムについては事業所にそれぞれ在庫を持ち、社員が車両を運転して顧客に納品している。

L社の生き残りのカギは、即納体制と欠品のゼロ化であった。それには他の多くの中間流通事業者と同様に商物分離が有効であった。しかし、L社はこれまでずっと商物一体を続けてきた。変化を好まない社風に加え、次のようなハードルがあったためである。

・   定時定点納品だけでなく現場納品がある。

・   電気工事の職人が現場に向かう途中に事業所に在庫を引き取りにくることがある。

・   昔ながらの〝御用聞き〟営業が今も主流である。

L社の若き四代目のT社長は、孤軍奮闘を覚悟の上で商物分離に乗り出すことにした。しかし、プロジェクトチームを組織するどころか、社内に協力者を得ることさえ難しいと判断して、われわれ日本ロジファクトリー(NLF)にサポートを依頼したのであった。

L社は愛知県小牧市に商品センターを1カ所置いている。取り扱いアイテムの仕入れ相場が下がった時に大量購入して在庫を積み上げておくことを主な目的とした保管施設である。一方、小規模分散型で展開している事業所は、所長1名、営業2~3名、内勤1名、配送1~2名、新人(配送)1名といった陣容である。

ちなみにL社では営業として入社した新入社員にはまず配送業務を経験させることを習わしとしていた。しかし、筆者が「それでは定着率が悪いのでは?」とT社長に聞くと「そうなんです」とのこと。

新入社員に自社商品を覚えさせたいのであれば、配送業務ではなく、物流センター業務あるいは商品部を経験させるべきだろう。新入社員にハンドルを握らせるというのは半世紀前のキャリアパスであり、もはや陳腐化していると考えた方がいい。

さて、L社の各事業所には在庫補充のための商品センターからの「センター便」が1日2回ある。事業者から前日に出荷指示があった在庫を翌日の午前中に届ける。当日午前中までの指示分は当日の2便で事業所に届ける体制である。

事業所は土地・建物を自社所有している施設もあるが、数としては賃借が多い。卸の商物分離では事業所が自社物件だと、物流センターに在庫と配送機能を集約するのは良くても、事業所の空いたスペースを有効活用できず、取り組み自体が暗礁に乗り上げてしまうことがしばしばある。L社の場合、その心配はなさそうであった。

T社長との打合せは数日にわたって行われた。対象拠点の決め方、、どれだけの時間をかけて在庫の集約を進めていくべきか、ソフトランディングのためのスケジューリングとその手順など、詳細なレベルまで確認して綿密に計画を組み立てる必要があった。

商品センターや事業所の現場視察や担当者へのヒアリングも済ませた上で、われわれはL社の現状を受けて、次のような実施事項をT社長に提案した。

①既存商品センターを生かした2拠点体制への移行

②効率的配送ルートの構築

③横持ち輸送のゼロ化

④調達物流の内製化

⑤商物分離に伴う営業活動の生産性向上

⑥事業所におけるイレギュラー業務の解消

⑦物流専門部署の発足

「①既存商品センターを生かした2拠点体制への移行」とは、2カ所のマザーセンターと15カ所のデポに在庫を集約して商圏をカバーするという内容である。この構想にはT社長も大きく頷いた。

 

二つの基幹拠点とデポ15カ所に再編

商物分離を行うに当たり、既存の小牧商品センターから出荷すると、東東海エリアの顧客に対して当日配送のリードタイム順守が難しくなることが分かった。そこで小牧とは別に豊橋エリアにも延床2千坪の商品センターを設置することにした。

さらに事業所在庫の全てを二つのセンターに集約するのではなく、一部の事業所にデポ機能を持たせることで、顧客の“引き取り”に対応することにした。全事業所の約2割に当たる15の事業所に、メーカーからの直送品を含む、約250アイテムを在庫している。

配送機能をこれらの拠点に集約することにより、「②効率的配送ルートの構築」が実現した。従来は80の事業所で合計195台の車両を使用していた。それを2t平ボディ、箱車、4t平ボディ、合わせて90台に半減することができた。“事業所最適”の配送ルートを改め商圏全体で最適化した結果である。1日当たり走行距離と総労働時間を考慮したルート組みは、各事業所で発生していたドライバーの手待ち時間を解消することにもつながった。

「③横持ち輸送のゼロ化」も実現した。前述の通り従来は80カ所の事業所でそれぞれ約1800アイテムを在庫していたが、特需の発生や発注点設定と実需とのズレから、近隣の事業所間で在庫の貸し借りが横行していた。これがセンターへの在庫集約により解消された。

また、現状は100%自社配送だが、現場納品ではない遠方の納品先や、配送リードタイムが長いエリアなどは、段階的に外部委託に切り換えていくことも想定している。ただし、現在のトレンドとしては、物流会社が募集するよりも荷主の自社配送スタッフの方がドライバーを採用しやすいことから、外部委託から自社配送へ転嫁する企業もあるため、慎重に検討している。

「④調達物流の内製化」は、短・中・長期計画のうち「長期」に位置付けて、センターからの供給が安定してから取り組むことにした。仕入先まで引き取りにいくことで調達コストを抑制するだけでなく、集中購買も徹底する考えだ。調達もまた商物の両面から強化する。

 

イレギュラー対応拠点を絞り込む

「⑤商物分離に伴う営業活動の生産性向上」は、通常であれば社内の抵抗が大きく、経営層の強力なリーダーシップを必要とするテーマである。しかし、L社では大きな弊害はなかった。当社の打ち合わせでは「昔ながらの“御用聞き”営業が今も主流」と聞いていたが実際には、各事業所では既に営業と配送の担当を事実上分離していたからである。

そのため営業マンは大きな職務内容の変更を強いられることなく、従来のスタイルを継続することができた。このことは今回のプロジェクトの成功要因の一つであったと言えるだろう。

その一方で「⑥事業所におけるイレギュラー業務の解消」は、同プロジェクトを推進する上で最も大きな課題であった。本来はイレギュラー業務であるのに、それが当たり前になってしまった業務はどの現場にも少なからず存在する。そこにメスを入れると営業マンは顧客に対するサービスが低下したと受けとめ、「商物分離は失敗だ」と批判することになる。

そのため、イレギュラー業務の洗い出しには慎重を期した。最大の問題は、受注締め時間を過ぎてからの納品時間の変更、商品アイテムや数量の変更などへの対応だった。これらを切り捨ててしまうことは営業上できないとの判断を受け、イレギュラー業務を集中して処理する拠点を絞り込んで「イレギュラーセンター」と位置付け、小牧商品センター内にその本部を設置した。

T社長は物流専門組織として当初、配送部門の新設を考えていた。しかし、今回のプロジェクトの対象範囲は配送だけではなく、物流センター業務、在庫管理、長期的には調達物流の内製化にまで及ぶことになるため、配送部門よりも管理レベルを引き上げた「⑦物流専門部署の発足」をわれわれNLFから提案した。T社長の了承を得て現在、人選を行っている。

今回のプロジェクトには大きな障壁が二つあった。一つはデポ在庫の適正在庫量と発注点の設定である。できる限り欠品をゼロに近づけるという要請をクリアするために幾度となく見直しを迫られた。

もう一つは、プロジェクトメンバーの確保である。当初から予想されていたことだが、幹部クラスは大半が変化を好まない現状維持派であった。そこで別の目的で発足していた新商品・新事業検討プロジェクトの若手メンバーに、そのまま商物分離プロジェクトメンバーを兼務させるという力技を使ったのであった。

徐々にではあるが、商物分離の必要性は社内で共有されるようになってきている。幹部クラスとも商物分離について話し合いができる環境が整いつつあることは大きな前進である。

 

第205回 事例で学ぶ現場改善:『化学品メーカーM社の物流管理見直し』

営業の管轄下にある販売管理部門で物流業務を担当している。スタッフは日々のオペレーションに追われて戦略的な管理ができないでいる。物流の専門知識を持った人材も社内にはいない。物流コンサルタントの指導を受けて物流管理の立て直しを図ることにした。多岐にわたる課題が抽出された。

 

若手の物流責任者を前面に

M社は年商約800億円の中堅化学品メーカーだ。本社と工場を関西に置いて、食品添加物や肥料、飼料など約1800アイテムを取り扱っている。在庫拠点は本社工場の近隣に5カ所ある。ただし、社員が駐在しているのは、うち3カ所だけ。物流管理の専門部署はなく、販売管理部門で受注処理から配車、積み込み、納品までのフローと、在庫管理、運賃管理、容器の回収までをカバーしている。

今回の物流コンサルティングの窓口を務めてくれたのは総務部のT部長であった。しかし、T部長は、われわれ日本ロジファクトリー(NLF)との受け答えを、実質的に物流責任者を務めている販売管理部門のS課長が前面に出るように常に促していた。S課長に当事者意識を持たせたいという狙いのようだが、若手を育成しようというM社の経営方針も垣間見えるように感じた。

そのS課長の説明を整理すると、物流の現状に対するM社の問題意識は大きく次の二つであった。一つは、物流担当スタッフがトラブル処理などの業務に日々追われていて、物流戦略の立案などの重要性の高い仕事に着手できないでいること。そしてもうひとつが物流ノウハウを持つ人材の不足、というより不在である。

それでも今のところ幸いにして、物流品質面では深刻な影響が出ていないということであった。しかも、M社は社員平均年齢が30歳台と若い。人材育成という点では良い条件であった。これを受けてわれわれは、通常通り現場の視察と関係者へのヒアリングなどの診断を行い、次の10項目を検証することとなった。

①現場作業の六つの「ない」

②事務作業の六つの「ない」

③庫内スタッフの役割分担明確化と多能工化の推進

④イレギュラー業務の削減

⑤外部倉庫の集約

⑥物流管理業務の明確化

⑦KPI管理の導入

⑧人時生産性(MH)の算出

⑨納品カルテのメンテナンス

⑩協力物流会社の管理方法の見直し

第1ステップでこれらを実施することにより、まずは現場業務を改善して作業生産性を向上する。そして次のステップでは、本丸の物流管理を推進していくという二段構えでプロジェクトを進めていくことになった。

①現場作業の六つの「ない」とは、「持たせない/書かせない/歩かせない/待たせない/考えさせない/探させない」現場作業を実践することによって作業生産性を向上する取り組みである。現状の庫内作業には、移動距離が長い、積み換えが多く製品へのタッチ回数が多い、限られたスタッフのみが全ての保管場所を把握しているといった課題があった。

その改善は、ロケーション番号の対象を庫内の全エリアに拡大して、誰でもはっきりと視認できるように表示方法を改めることが第一歩であった。従来は庫内の一部にしかロケーション番号が振られておらず、表示も見にくかった。

同様に次の②事務作業の六つの「ない」とは、「立たせない/入力させない/書かせない/探させない/(作業を)私物化させない/チェックさせない」物流事務の実践による作業生産性の向上である。

M社の物流事務は煩雑であり、システム化が遅れていた。電子受注比率(WEB、EOS、EDIなど)は件数ベースで約40%にとどまっていた。まずは残りの60%のファクス受注を電子化することが急務であった。中小零細の顧客が多くを占めるその企業リストをプロジェクトチームで検討して電子受注比率を85%まで引き上げるという目標を掲げた。

顧客をWEB発注に誘導するために、インセンティブ(値引き)を設定した。それを顧客に提案・交渉する啓蒙活動が必要だ。果たして営業部隊はどれだけ本気でアクションを起こしてくれるだろうか。これから取りかかるところであり、予断は許さない。

③庫内スタッフの役割分担明確化と多能工化の推進は、当面の最大のネックともいえた。M社の庫内オペレーションは、完全に業務が人に付いており、各人の業務がブラックボックス化していた。その中心にいるのが、物流責任者であり、今回のプロジェクトのキーマンであるS課長であった。他のメンバーでも対応できる業務まで自分で抱え込み、周囲が手伝うこともできない状態であった。

 

営業系物流管理組織の弊害

一般論ではあるが、物流専門部署を組織していない企業における物流組織は、メーカーであれば生産管理部門、卸であれば購買部門に担当させるのが得策である。両業態とも営業部門に物流をぶら下げると、顧客や営業からのわがままなオーダーを受け入れてしまう傾向がある。その結果、物流コストが高止まりする。M社では営業が管轄する販売管理部門で物流業務を担当していたためそれが顕著であった。まずは④イレギュラー業務の削減が必要であった。

⑤外部倉庫の集約は、在庫削減の代表的手法であり、倉庫費用の圧縮と同時に横持ち輸送を解消するものである。前述の通りM社は外部倉庫を5カ所も借りていた。場当たり的に継ぎ足しを繰り返した結果である。いずれも本社・工場の近隣だとはいっても分散によるムダが多いことは明らかだった。プロジェクトメンバーも皆、同じ認識であった。

そこで次のステップで取り組みを進めた。⑴営業の需要予測の見直しによる生産点の抜本的見直し、⑵滞留在庫、死蔵在庫の定義付け、⑶滞留在庫、死蔵在庫の保管コスト(品目別1日当たり保管コスト×在庫日数)の算出および連絡会議での開示、⑷分散在庫の集約──である。

⑥物流管理業務の明確化は、物流管理能力の向上が目的である。メーカーが物流管理として本来行うべき業務内容(表)を明確にすることで、S課長をはじめとする物流担当者が、それまでの「できる範囲の管理」から脱して、物流管理の「あるべき姿」にコミットするように取り組みを進めている。

⑦KPI管理の導入は、物流を可視化して現状に対する認識を共有する手段である。従来は部署間のコミュニケーションが「数値」でなく「ことば」であったために明確な伝達が果たされず、聞き手側は勝手な想像の基に判断を下していた。そのことが業務の煩雑さに拍車を掛けていた。まずは煩雑さを解消して問題点を絞り込んだ上で、適切な作業生産性指標をKPIとして設定する計画だ。

⑧人時生産性(MH)の算出もその一つである。現状では売上高にして約800億円、1800アイテムの物流を正社員15人で管理している。現場業務の一部は外部委託しているとはいえ、S課長をはじめとする社員が土日祝日に出勤して現場作業に当たることもしばしばあった。パソコンやプリンターなどの基本的な設備にも不足が見られた。

そこで先の「③庫内スタッフの役割分担明確化と多能工化の推進」と併せて運営体制に本格的なメスを入れることになった。それぞれの役割分担の再定義と、システム化の推進を前提に、作業の改善に続いて適正人員の算出に進む予定である。

 

協力物流会社との関係を見直す

各納品先の納品条件や注意点を整理した「⑨納品カルテ」のメンテナンスも必要であった。M社は協力物流会社は30社以上に上る。そのほとんどが15年以上の長い付き合いであった。M社自身でも「納品条件表」は作成しているが、実態や詳細は協力物流会社側に握られている状態であった。

拠点の集約には、協力物流会社各社の担当エリアや配送ルートの見直しが伴う。従来の納品条件表の情報だけではとても改善という変化は起こせない。拠点集約後の輸送品質を安定させるには、納品条件表のフォームを見直し、定期的に内容がメンテナンスされる仕組みを構築しなければならない。

⑩協力物流会社の管理方法の見直しも重要であった。M社では従来から輸送トラブルの記録を管理して、協力物流会社を点数制で評価する「物流事業者評価表」を運営していた。しかし、事故が発生した時の連絡手順は曖昧であり、筆者から見れば物流会社管理はほとんど手付かずのレベルであった。

実際、輸送トラブルが発生して物流会社より先に顧客から直接M社にクレームが入る場合がかなりあり、商品事故や輸送事故の数も増える傾向にあった。事故発生時の処理フローを作成して、定期的に安全輸送会議を開催することにした。中期的には輸送協力会の発足を念頭に置いている。

協力物流会社の顔触れを調べると、M社向けの売上比率が高い中小零細が多く、共同配送も実現できていない。既存の協力会社の強化だけでなく、NLFのネットワークからも新たなパートナー候補をリストアップして全体の底上げを図ることになった。

こうして12カ月にわたるプロジェクト設定期間の中盤を迎えようとしている。繰り返しになるがM社の物流はその売り上げ規模を考えるとあまりに属人化していた。当初の実施計画には挙がっていなかった物流専門部署の発足を前倒しで実施する必要があるかもしれない。

 

《特別編》事例で学ぶ現場改善:『ヒト・モノ・カネ・情報・ノウハウの共同化』

物流の共同化には情報漏洩のリスクがある。ライバル企業との競争意識から営業部門が反発することもある。それでもトータルで見ればデメリットより、コストダウンや機能補完などのメリットの方がはるかに大きい。そう筆者は認識している。今回は「ヒト」「モノ」「カネ」「情報」「ノウハウ」の視点から、それぞれ共同化の考え方とポイントをお伝えする。

 

◦ヒト──多能工化が前提

「ヒトの共同化」と言われても何のことか、ピンと来ない読者は多いかもしれない。しかし、労働力は今も最大の物流リソースだ。人件費はトータル物流コストの半分以上を占める最大の費用項目だ。しかも、ヒトの共同化は他のリソースと比べて比較的着手しやすい。社内、親会社と物流子会社などのグループ内、あるいは荷主と物流パートナー間などの“身内”で調整できるからだ。ただし、多能工化、マルチプレイヤーの育成がその前提となることに留意が必要だ。

 

◦モノ──サービスを組み立てる

「モノの共同化」には大きく「倉庫」と「輸配送」の二つがある。専用倉庫から汎用倉庫への移行は最もシンプルな共同化である。倉庫を提供する側はマルチテナント型にすることで売り上げをリスクヘッジできる。一方、借りる側は費用を流動化できる。ただし、汎用倉庫は階層やエレベーター・自動搬送機の使用制限などによって使い勝手や作業生産性などが大きく違ってくる。賃料とのバランスを念頭に置いて物件をよく精査することが不可欠だ。

一方、「輸配送」はさらに「輸送(一次輸送)」と「配送(二次輸送)」に分けられる。輸送の共同化としては、路線便=特積みによる混載サービスが従来から普及している。共同物流の一形態といえる。一方、配送の共同化は宅配便の他に、文字通りの共同配送サービスが広く行われている。

共同配送サービスは大きく、①複数荷主の商品を同一の納品先に届ける「ベンダー型共配」と、②複数荷主の商品を同一のエリア(配送ルート)の複数の納品先に届ける「エリア型共配」の二つに分けられる。

また昨今はトヨタ自動車や三菱食品、コープこうべなどの大手企業を中心に、自社配送ルートの戻りを利用して仕入先を集荷に回り、商品を調達する動きが活発になっている。調達物流をミルクラン輸送によって内製化するわけである。これも仕入先がそれぞれ仕立てていた納品を共同化する共同物流の一つといえるだろう(図1)。

物流会社の視点で共同配送を成立させるポイントを挙げると以下の通りである。

・  荷主4~5社を集めて車両1台を仕立てるのではなく、1社で積載率70~80%の物量がある荷主をベースにして、その使用車両に少量荷主を積み合わせる。

・  荷主の営業担当と共に納品先を回って納品時間の調整を行う。

・  同じく荷主の営業と共に納品先を回り、立ち合い、置き配、鍵預かり納品などの納品方法の調整を行う。

・  少なくとも半年に1回以上のスパンで定期的に配送ルートを抜本的に見直す。物量や出荷傾向の変化に対応するためである。

・  納品先別に納品方法や注意事項を明記した「納品カルテ」を作成してその情報を常に更新する。スポットで傭車したドライバーでも納品できるようにするためである。

 

◦カネ──誰が何を所有するか

「カネ」の共同化として、「①倉庫」「②購買」「③成功報酬」にそれぞれ触れておく。

「①倉庫」に関わるプレーヤーを「荷主」「大手物流会社」「中小物流会社」「地主」の四つに分類、倉庫に関わるリソースを「マテハン」「建物」「土地」の三つに区分したときに、どのプレーヤーがどのリソースを資産として所有するのか、その一般的な役割分担は図2の通りである。

「地主」は土地もしくは土地と建物を提供する。「中小物流会社」は土地は賃借して、多大なコストがかからない規模であれば建物は自分で建てる。マテハンは自社で手配するのが大半である。資本力がないため地主との強固な関係づくりが不可欠である。

「大手物流会社」は土地、建物、マテハン全てを自分で手配する。ただし、条件を満たす用地が購入できない場合や契約期間の短い案件の拠点については土地を賃借する場合もある。また最近は物流不動産企業による開発競争が激しく物流用地が高騰しているため、大手であっても建物まで賃貸するケースが増えている。

「荷主企業」は物流業務をアウトソーシングする場合には、物流企業と地主が役割を分担して、土地、建物、マテハンのハード全般を手配する。一方、物流センターを自社運営している荷主企業はアセット型が多い。

物流に関わる「②購買」の共同化、共同購買は、コンビニ本部や物流会社の協同組合などで従来から幅広く実施されている。車両を通常価格の約半額で調達しているケースも見られる。協同組合による燃料の共同購買も常套手段である。

「③成功報酬」、ゲインシェアリングもコスト改善の成果として生まれたカネを荷主企業と物流会社で分け合う共同化の一つに数えられるだろう。それぞれの取り分としては50:50という比率をよく耳にする。また、期間は2年としているところが多い。1年目はコスト改善に力を入れ、2年目からはリバウンド(値上げ)を回避して改善効果を定着させることに目的を置いている。

 

◦情報──システム整備が不可欠

SCMは情報システムの連携によってデータを共有してサプライチェーン全体の最適化を実現することを理想としている。しかし、現実に原料の調達から生産、販売、回収までの全てをシステム連携できている企業は一握りである。そもそもデータ化されていないプロセス、システム化されていない部署(部門)があったり、システム化されていてもデータ連携、データ交換ができないシステムになっているためである。

サプライチェーンの情報共有を実現するには次のシステムは最低限整備しておく必要がある。①基幹システム、②生産管理システム、③販売管理システム、④受注システム、⑤輸出入(貿易)管理システム、⑥在庫管理システム、⑦倉庫管理システム(WMS)、⑧配送管理システム(TMS)、⑨財務管理システムなどである。

 

◦ノウハウ──レベル別に方法がある

「ノウハウ」も共同化できる。その最もドラスチックな方法として、業務提携、資本提携、M&Aが挙げられる。そこまでは至らないレベルでも、技術提案、出向の受け入れ、人事異動などによってノウハウを移植したり共有したりできる。実務においても定期的な連絡会議や朝礼・昼礼などは情報共有の手段である。

第204回 事例で学ぶ現場改善:『物流会社M社の地盤強化プロジェクト』

地域密着型経営をモットーとする地方運送会社から事業拡大支援の依頼が入った。具体的なテーマは二つ。一つは主要荷主の食品卸が自社運営しているドライセンターの業務を受託したいというもの。そしてもうひとつはエリア共同配送事業に乗り出したいということであった。早速、現地に乗り込んだ。

 

食品卸向けサービスの業務拡大

M社は中日本の、とある半島に本社を置く年商約50億円の企業グループである。中核の物流会社のほか、バス会社、タクシー会社、整備工場、タイヤ販売会社などでグループを形成している。いわば“クルマのよろず屋”であり、地方市場における地域密着戦略をセオリー通りに展開している。

グループのバス会社、タクシー会社は地元ではトップシェアを握っており、さらなる地盤強化策として本丸の物流会社にあらためてメスを入れることになった。われわれ日本ロジファクトリー(NLF)は既存クライアントからの紹介を受けて、その支援に入った。

M社のT社長は2代目で、夫人がグループ全体の財務・経理を統括し、実弟がバス会社社長を務めるファミリー企業であった。事前の打ち合わせでNLFの方針や考え方とT社長の経営に対する思いが合致していることは確認できていた。初回の顔合わせは短時間であったが内容の濃い話し合いができた。

T社長からの要望は大きく二つあった。一つは最大荷主の中堅食品卸N社向け業務の拡大である。N社からはこれまでチルド部門のセンター運営と、チルドとドライ両部門の配送を請け負ってきた。それに加えて現状ではN社が自社運営しているドライ部門のセンター業務を受託したいという話であった。もうひとつの要望は“半島”という地理的な特性を生かした共同配送事業を構築したいというものであった。

まずはN社ドライセンターの運営受託から説明する。われわれは実施項目を次の六つに落とし込んだ。

①幹部教育

②現状分析

③コスト削減策

④波動対応

⑤強みのアピール

⑥N社所有WMSの有効活用

最初に「①幹部教育」が必要であった。経営幹部の育成はT社長の念願でもあった。

このところM社は新規荷主を獲得せずとも経営的に安定していたこともあり、営業活動が停滞していた。荷主とは契約書こそ結んでいるものの、通常のやり取りは口頭やA4サイズのレジュメ1~2枚で済ませており、提案営業の基本的なツールや使い方の理解も十分ではなかった。そこで教育の時間を設けて、今回の営業ターゲットの食品卸N社を題材に提案営業の基本をレクチャーした。

「②現状分析」とは、具体的にはN社への提案の基礎データとなるドライセンターの現状のトータル物流コストをN社から提出してもらい、それを分析することである。その際にはN社の把握しているトータル物流コストと実際のコストとのギャップに留意する必要がある。荷主企業の自社運営拠点のコスト管理は人件費として現場スタッフ分だけを計上して、現場管理者と物流事務スタッフのコストを含めていないケースがしばしば見受けられるからである。

今回N社から受託できるかどうかのポイントは明らかにコストダウンであった。現状のN社の自社運営コストを下回ることが絶対条件となる。またこのケースでは、既にM社がN社から受託しているチルドセンターとの比較という視点も入る。一般にチルドに比べてドライは人件費単価が低い。チルドセンターと同じつもりで提案しても相手にしてもらえないだろう。

従ってM社としては効果的な「③コスト削減策」を立案して実行する必要があった。カギはレイバーコントロールであった。N社のドライセンターとチルドセンターは道路を挟んで向かい側に位置している。そのためM社がドライセンターの運営を受託すれば、両センターのスタッフをトータルにコントロールすることで総人数を抑制できる可能性があった。試算の結果、17%強の人件費削減を見込むことができた。

「④波動対応」も、N社に限らず荷主が物流パートナーを選定する際に非常に重視する点である。これもまたレイバーコントロールの問題であり、チルドセンターとドライセンターでスタッフを融通し合う体制をとることで対応できる。仮にN社のチルドとドライの両方の物量が同時に跳ね上がった場合にも、M社は車で約15分の場所に別拠点を運営している。応援体制は盤石といえた。

「⑤強みのアピール」では、右に挙げたレイバーコントロールの他にも、M社にとってN社は既存荷主であるため取扱商品やルール、作業概要を理解していること、N社の配送業務も担っているためバースへの車両の着車時間を早められること、さらには後述するエリア共同配送の構築により、運賃コストの抑制を期待できることなどを整理して提案書にまとめた(図)。

最後の「⑥N社所有WMSの有効活用」は、WMSのデータを分析して改善提案を定期的に行うことを狙ったものだった。しかし、これには誤算があった。N社のWMSは機能に欠陥があるとの理由から、ほとんど活用されていない状況にあることが分かった。

しかし、システムに本当に欠陥があるのか、それとも現場運営に問題があるのは不明確だ。M社のスタッフに詳細をヒアリングさせたものの、N社の担当者も含めてシステムに詳しくないもの同士の話し合いであり要領を得ない。今後われわれNLFも加わって問題を整理する予定である。

N社が雇用している既存の現場スタッフの処遇をどうするかなど、ドライセンターの運営を受託するためにクリアしなければならない課題はまだ残っている。しかし、手応えはある。かなり期待できるとみている。

 

エリア共同配送事業の構築

T社長の二つ目の要望、エリア共同配送の構築に対しては、われわれは次の実施項目を提示した。

①ベースカーゴの確定

②ベースカーゴ便の空き状況のデータ化

③荷主のリストアップ

④荷主・パートナーの紹介

⑤納品頻度・納品時間・納品方法の調整

⑥共同配送運賃表の作成

「①ベースカーゴの確定」とは、現状で70~80%の積載率を維持できているルート便を、M社の車両から見つけ出すことであった。9台のルート便が候補に挙がった。そのうち7台がM社の主要荷主であるN社のルート便であった。

 “積載量20%程度の荷主を4~5社集める”というアプローチで共同運送を構築しようとする物流会社をよく見聞きするが、まず長くは続かない。20%という積載量は、その荷主の物量が不安定であることを意味している。時間の経過と共に物量が減って結局、路線便(特積会社)を使用することになる。あるいは物量が増えて車両を貸し切ることになるのが落ちである。中長期にわたり機能している共同配送は、積載率にして70~80%の物量がある“ベースカーゴ”に少量荷主の荷物を積み合わせている。

続く「②ベースカーゴ便の空き状況のデータ化」では、次の項目をエクセルデータに落とし込んで空き状況を明確にした。

・空き積載量(才/重量)

・ベースカーゴの方面・エリア

・温度帯

・1日平均走行距離

・1日平均拘束時間(労働時間)

・納品時間指定の有無

・納品時間指定の時間帯

・備考

「③荷主のリストアップ」では、まずは異なる二つのタイプの既存荷主をターゲットに据えた。一つは路線便(特積み)を利用している荷主である。路線便から共同配送への切り換えを提案する。M社から見れば内製化を図るわけである。もうひとつはチャーター車両を提供している既存荷主である。複数の荷主を組み合わせて車両の集約を図る。

 

ニーズに合わせてスキーム変更

対象荷主のリストアップと提案活動を続けていく中、それまで気付いていなかった荷主のニーズが見えてきた。当初、M社は半島を中心とした狭い範囲の共配を想定していた。しかし、荷主が求めていたのはもっと広い範囲にわたる、いわば“エリア共配”であった。

M社の傭車率は10%前後であり、自社便の比率は非常に高いが対象地域は限定されている。そこでM社が地盤とする地域以外は、それぞれ地の利のある同業他社とタイアップして、傭車対応で共同配送のネットワークを広げることになった。

「④荷主・パートナーの紹介」では、NLFのネットワークから新規荷主の候補としてその地域に拠点がある食品メーカー1社と食品卸1社を紹介した。また、M社のエリア共配ネットワークの拡大に伴い、パートナーとなる物流会社を段階的に3社紹介した。

「⑤納品頻度・納品時間・納品方法の調整」は共同配送には付きものである。卸に納品する場合には共同物流の実施に伴い、納品頻度を従来の「毎日」から「週3~4日」に切り替えて、コストセーブする方法を採用することがよくある。可能であれば実施すべきである。

また納品時間は調整無しでは重複することが多い。納品方法にも、有人立ち合い納品、無人鍵預かり納品、置き配納品などのバリエーションがある。いずれも荷主に調整を依頼して協力を得なければならない。その調整力が共同配送の効率を大きく左右することになる。

「⑥共同配送運賃表の作成」は、正確な原価計算に基づいたタリフを作成して、その構造まで荷主に理解してもらうことが重要である。そうでないと、共同配送が軌道に乗っている時には問題にならなくても、物量が減少して積載率が下がってきた時に問題が起きる。

共同配送の命綱はもちろんベースカーゴである。しかし、ベースカーゴが崩れても、原価計算に裏打ちされた明確な運賃表を最初から運用していれば、どうにか持ちこたえることができることもある。

以上、M社のエリア共同配送は既に軌道に乗りつつある。パートナーと手を組み傭車比率を上げたことで対応エリアが拡大して売り上げが増えてきた。T社長は「着実な地盤強化が事業拡大につながっていっている」と鼻息が荒い。

今回のプロジェクトから筆者が受けた感想は、地域密着型の事業者の考える地域密着型サービスが必ずしもマーケットニーズに合致しているとは限らないということである。むしろ大きな差があると考えた方がよい。ギャップの解消がビジネスチャンスを生むのである。

 

第198回 事例で学ぶ現場改善:『日用雑貨卸K社の物流改善フェーズ2』

物流改善プロジェクトを1年前に終えた日雑卸からあらためて連絡が入った。新型コロナの影響で物量が急増、オペレーションが混乱しているという。あらためて現場視察に入った。長年続けてきた物流センターの自社運営を見直す必要があるようだ。しかし、すぐにアウトソーシングを導入することはできなかった。

1年余りの間に在庫量が急増
K社は年商約450億円の日用雑貨卸である。東海地区に本社を置き、関東、東海、関西、九州(福岡)にそれぞれ在庫型物流センター(DC)を設置して、全ての拠点を自社運営している。取扱品目は約7800。容積が大きく嵩張る商品から爪楊枝などの小物のバラ出荷まで、作業効率の悪い商品もかなり扱っている。裏返せばそれがK社の差別化戦略でもあった。

われわれ日本ロジファクトリー(NLF)は、2年ほど前にもK社の物流改善を支援している。1年弱にわたる活動を実施して、生産性、品質の改善目標を達成して、プロジェクトはいったん終了した。
それから1年余りが経過して、同社の物流部長S氏から再び連絡が入った。「昨今のコロナ禍の影響もあって経営環境が大きく変わり、現場の運営力が低下している」という。あらためてK社の物流施設の中で最も規模が大きい東海センターの改善に着手することになった。

今回を「フェーズ2」とすると、前回の「フェーズ1」では「現場スタッフは日常業務に追われて改善まで手が回らない」「通路に商品を置いているなど、5Sができていない」といった基本的な課題に取り組んだ。それに対してフェーズ2は「巣ごもり消費の拡大による売上増に物流の処理能力が追いつかない」ことが最大の課題であった。

われわれは1年ぶりに東海センターを訪問して再度、現場を調査した。確かに物量が増えている。あちらこちらで商品が棚から通路に溢れ出している。フェーズ1でクリアしたはずの課題であった。S物流部長および東海センターの管理を担当するA物流課長を相手に、ヒアリングと打ち合わせを行い、次の五つの項目に取り組むことになった。

①センター移管の検討
②アウトソーシングの検討
③朝礼、昼礼の実施
④「センター長」の設置
⑤個人面談の実施

「①センター移管の検討」はキャパシティの拡大が目的である。現状の施設はキャパオーバーが明らかだった。天井が低いため高さを使うこともできない。「ネステナー」を使ったパレットの段積みは2段が限界であった。さらに建物の老朽化が進んでいること、空調設備等を設置しようとすると多大な費用がかかることなど、総合的に判断すれば移管が得策であった。
ただし、東海センターはS社の基幹センターであり、本社から離れた場所に移設するわけにはいかない。物件を探してみたところ、幸い既存センターから直線距離で1キロメートルほどの場所に条件をクリアできる空き施設が見つかった。現状と比べて坪当たり賃料は300円上がるが、今回のプロジェクトの改善効果でコストは吸収できると判断した。現在、同物件の所有会社と順調に交渉が進んでおり、今年9月には移管を実施する計画で動いている。

自社運営の方針見直しを提案
「②アウトソーシングの検討」は筆者からのアドバイスであった。これまで全ての物流センターを自社運営してきたS社の方針とは反することであったが、S社の経営全般における物流の比重は同業他社と比較して重過ぎると、筆者は感じていた。

卸が物流を重視するのは当然とはいえ、S社は現場作業員の採用や労務管理にかなりの労力を割いていた。本来であれば戦略の立案や方向性の判断、付加価値の創出に割くべき正社員スタッフの時間と人手が間接業務や雑務、イレギュラー対応などに取られてしまっている。このような状況であれば卸としての本業に特化するため、拠点運営を一括してアウトソーシングするのも一つの選択肢である。

ちょうどS社では東海センターのプロジェクトとは別に、中・四国エリアに新たにDCを設置する計画が進んでいた。そこでS物流部長は新DCの運営をアウトソーシングする前提で物流会社数社と交渉を行った。しかし、結果は「保留」であった。理由はコストが合わなかったためである。現状のオペレーションをそのまま外部に委託すれば、むしろ高くついてしまうことが分かった。

この経験から、われわれも含めたプロジェクトチームのメンバーたちは逆説的に、アウトソーシングが可能なレベルまで、S社の現場をブラッシュアップしていく必要があることを痛感したのであった。

それでも、S社の物流自社運営が限界に近づいているのは、東海センターが業務量の増大に対応できなっていることからも明らかであった。そこで自社運営のレベルアップによって「誰もがわかる現場づくり」を推進しながら、それと並行してアウトソーシングのパートナー候補との協議を継続することとなった。

「③朝礼、昼礼の実施」は現場作業員の意識の向上を狙いとしている。これも逆説的ながら、アウトソーシングの実現に向けた自社運営強化策の一つである。

S社の改善のフェーズ1では、「2S(整理・整頓)」「商品保管の方法」「ロケーションの作り方」「保管棚・ラックの効果的な活用法」「作業生産性向上のためのレイバーコントロール」「六つのない(持たせない/書かせない/歩かせない/待たせない/考えさせない/探させない)の実践」──などを実施した。現場スタッフは物流改善の基本を身につけるレベルまではこぎ着けた。

フェーズ2では、そこで学んだスキルを生かすために、意識を変えることに重点を置いた。実際には、基本的な、コミュニケーションの方法や、前向きな姿勢・考え方(ポジティブシンキング)から教え込む必要があった。現場スタッフの高齢化が進み、しかも物量が増大したことで現場が疲弊していたのである。

形骸化していた朝礼のやり方もリセットした。(1)現場責任者からの伝達事項、(2)昨日の物量(ピース、行数)と本日の予定物量(ピース、行数)の報告、(3)出欠確認と体調管理をその目的として明確にした。さらにそこにラジオ体操を加えて、身体から意識(脳)へ刺激を送るようにした。一方、昼礼はレイバーコントロールの核として位置付けた。各現場リーダーを1カ所に集め、物量と終了予定時間、人員の過不足を調整するのである。

センター長の個人面談は効果的
④「センター長」の設置は、当然ながら現場責任者を明確にする目的である。それまでK社には「センター長」という職制が存在しなかった。本社目線の役職である“課長”が各地のDCの現場責任者だった。現場作業員の目には「本社から管理職が来ている」としてしか映っていなかった。自分たちの“親分”として扱っていなかったのである。

そのために「報告・連絡・相談」が全く機能していなかった。事前相談や事後報告もないまま、各人が各自の判断で物事を処理、対応していた。これを放置していればいずれ大きな問題を引き起こす恐れがあった。早急に「センター長」を設定する必要があった。

各拠点のセンター長と現場スタッフによる「⑤個人面談の実施」も、現場意識の向上とコミュニケーションづくりが表向きの狙いであるが、筆者の主たる目的は現場の不平不満の発散とその情報収集にあった。所要時間は1人当たり40分~60分。センター長はその内の7割の時間を割いて意見を聞く側に回る。残り3割でセンター長の考え、やりたい事、協力事項などのビジョンを伝えるようアドバイスした。

現場は一人一人違う感情を持つ人間の集まりであるから、物流に限らずどんな現場でも個人面談は行うべきである。しかし、センター長の多くは現場のリーダークラスにその役割を丸投げしてしまう。丸投げされている現場リーダークラスが会社とスタッフの板挟みになって悩んでいるケースは少なくない。

この個人面談を行うと、どのセンター長もヘトヘトに疲弊する。しかし、それだけの効果はある。貴重なフィードバックを得られる。また、副産物としてセンター長が個人と1対1で話を聞くという活動が「何かあれば相談できる人がいる」「孤独に物事を考えなくてもよい」というK社の現場に対するスタンスを明示することにもなった。

昨今は物流をアウトソーシングしていた企業が、あらためて内製化に取り組む事例が増えてきた感がある。長年のアウトソーシングによって社内から失われてしまった物流管理能力を取り戻そうという動きであろう。しかし、今回のずっと自社運営を続けてきた企業の場合、一度はアウトソーシングを検討すべきだと筆者は考えいてる。

《特別編》新型コロナ 物流への影響:『現場からのサバイバルメッセージ』

新型コロナウィルスの感染拡大によって物流市場の環境は180度近くねじ曲げられた。年明けから4月初頭に、筆者の周囲に起きた現象を報告し、これから物流の世界に起きるであろう六つの変化とその対策について、緊急メッセージを発信する。

 

筆者の周囲に起きた六つの事象

⑴ 都心の首都高がガラ空き

大阪在住の筆者はこのところ、東京に出張して物流センターを回る時にはレンタカーで移動するようにしている。新型コロナウィルスの感染拡大が本格化した4月に入ってすぐにも、その機会があった。東京駅の近くでレンタカーを借りて首都高に乗った。平日の混む時間帯にかかわらず目を疑うほど道はガラガラだった。しばらく進んで、外環道に差し掛かると若干混雑し始めた。それでも、道路交通状況を知らせるパネルは、東京から放射状に伸びる関越道、東北道、常磐道がいずれも全く渋滞がないことを示していた。

帰り道も同じで、外環道を過ぎて23区に入ると車の数が目に見えて減った。都心の高層ビル街が怖いほどはっきり見えた。首都圏の物流拠点がどれだけ外環道周辺に密集しているのか改めて痛感した。外環道エリアに有事があれば、首都圏の物流網は壊滅的なダメージを受けるだろう。

 

⑵ 物流センターでマスクをもらう

この日は大規模な物流センターを数カ所訪問した。全てのセンターの受付で手の消毒、検温、マスク着用を要請された。そのために通常よりも10分~15分ほど入館に時間がかった。あるセンターの受付で、クルマの中にマスクを置き忘れてしまったことに気付いた。そのことを受付の担当者に伝えたところ、無償でマスクを提供してくれた。

このマスク不足の折、ありがたい話だが、マスクを持参していない来訪者は筆者以外にもいるだろう。受付に予備のマスクを準備しておかないと、センターの運営に支障をきたしてしまうことに後になって気付いた。物流センターのセキュリティリスクの一つに、感染病を加えることが必要になったのである。

 

⑶ 物流は止まっていない

トイレットペーパーをはじめとする日用品の品切れは、買いだめ、過剰購入、あるいは原材料の欠品や調達難などによる生産停止が原因であって、物流は止まっていない。

 

⑷ 現場はテレワークできない

荷主企業はもちろん、物流企業も大手の本社部門は在宅勤務を実施している。しかし、当然ながら現場はテレワークできない。時差出勤にしても、入出荷時間に合わせるために、従来から勤務シフトを実施してきた。従って現場では、消毒手洗い、うがいの徹底、検温、換気などの基本的な感染防止策以外に有効な対策が見当たらない。

 

⑸ 車両が余っている

食品スーパー、ドラッグストア、コンビニ、日用雑貨など、家庭内で消費・使用する財を扱う物流センターは、政府や自治体の外出自粛要請をきっかけにフル稼働となっている。しかし、それとは対照的に精密機械、自動車関連、重厚長大産業では、工場の生産中止や輸入部品の停滞で出荷できない物流センターや倉庫が目立っている。トータルでは「55%の消費が消滅した」とNHKの番組で野村総合研究所のアナリストが述べていた。荷動きが停滞しているのは現場を見ても明らかだ。

 

⑹ 人手も余っている

人手不足が一転して人余りになった物流会社、物流センターを多く見かけるようになった。

 

これから起きる六つの変化とその対策

⑴ 物流からロジスティクスへ

今、求められているのは、モノを運ぶことではなく、有事の対応だ。有事を想定した在庫の備蓄、防災、安全機能の標準装備が急がれる。本来は軍事用語で「兵站」を意味する「ロジスティクス」がまさに問われている。「物流からロジスティクスへ」という管理コンセプトの進化は従来から提唱されてきた。それを今度こそ実践しなければならない。

 

⑵ 付加価値追求から「安心・安全」へ

これまで週6日、毎日納品していた取引先に対して、納品の頻度を週3回に半減する卸が昨年あたりから本格的に増えている。実施前には欠品の増加を懸念する声が必ず上がるが、実際にはほとんど問題はおきていない。新型コロナパニックに直面している今もそれは変わらない。これまで付加価値と考えていたことが、いかにムダであったのかが明らかになった。

 

⑶ 備蓄倉庫の再評価

事業継続計画(BCP)に基づく備蓄倉庫、いわゆる「バッファーセンター」を再評価する必要がある。基本的にBCPは想定されるリスクを前提に設計されている。しかし、想定外の事態がここまで頻発するようになった今、リスクの概念を見直して、想定外の事態に対してバッファーをどこまで準備するか判断する必要がある。

 

⑷ 安全在庫の定義見直し

安全在庫を一律の「安全係数」で計算するのは危険が大きい。欠品時の影響は製品によって違う。安全の定義を細分化して、それぞれの欠品の影響度に応じた安全係数の設定が必要である(図)。

⑸ サプライチェーンの分散化

コスト重視のサプライチェーンは限界に来ている。ボリュームディスカウントに主眼を置いた集中購買型の調達から、安全・安心を重視する分散型の購買調達への見直しが不可欠である。

加工品を扱うA社は、従来は素材を中国から調達していたが、7年前にベトナムに移管して、昨今では中国からの調達はゼロになっていた。これが今回のコロナ問題では、現時点に限って言えば奏功している。しかし、目の前にはベトナム依存という新たなリスクが立ちはだかっている。中国とベトナムに分散すべきだったと筆者は考えている。

食品メーカーB社は北海道に工場を置いて本州に商品を供給している。首都圏への輸送にはリスクを分散するため、二つのルートを構築していた。太平洋側ルートと日本海側ルートである。東日本大震災の際、太平洋側ルートは壊滅状態に陥ったが、日本海ルートが機能した。それによってB社は事実上、北海道から調達できる唯一の食品メーカーとなり、顧客からの信用を獲得するだけでなく、シェアを伸ばすことに成功した。

これらのことは物流企業の経営にも当てはまる。内需品と外需品、春夏品と秋冬品、消費財と耐久消費財、原材・資材と製品・商品、軽薄短小品と重厚長大品など、「特性」と「時期」が異なる荷主、荷物を、バランス良く組み合わせることで、車両や設備の稼働率を上げるだけでなく、リスクを分散できる。マーケティングに基づく営業の実践がそれを可能にする。

 

⑹ 事業継続計画からサバイバル計画へ

BCPでは生ぬるい。大規模な経済危機に直面している今、事業の継続ではなく、企業として生き残るためにどうするか、組織の生き残りをかけた、いわばビジネス・サバイバル・プラン(BSP)が必要であり、それは時間との勝負であると著者は認識している。

 

第188回 事例で学ぶ現場改善:『物流会社D社の拠点集約プロジェクト』

同じ荷主向けながら近隣の3カ所に分散していた倉庫を1カ所に集約することになった。横持ち輸送を解消できる。庫内作業員のやり繰りもしやすくなる。ただし、拠点の規模が大きくなれば適切な管理手法も違ってくる。オペレーションのみならず管理体制も再設計する必要がある。

 

向かいの土地が売りに出た

D社は関東に本社および運営基盤を置く年商30億円の物流会社である。創業者の現会長が輸配送をメーンに創業し、荷主からの要請を受けて営業倉庫事業に業務を拡大した。本社を中心とする半径50キロメートル圏内に6カ所、中京地区にも3カ所の営業所を展開している。

今回コンサルティングの対象となったのは中京地区で自動車部品を扱っている営業所であった。組み立てメーカーのサプライチェーンに組み込まれており、ミルクラン調達や生産ラインへのジャスト・イン・タイム納品を行っている。

その拠点として組み立て工場の近接地に、延べ床面積500坪のA棟と、延べ床600坪のB棟を構えていた。また、そこから車で約15分の場所にC棟として約300坪を賃借していた。しかし、C棟がA棟、B棟から離れているために非効率であった。

そんな折、A棟・B棟と道路を挟んだ向かい側の空き地が売りに出た。延べ床1500坪を確保できる。そこにA棟・B棟・C棟を集約しようという話になり、われわれ日本ロジファクトリー(NLF)にその支援が依頼されたのであった。

NLFとD社は従来から付き合いがある。新規受注に向けた提案書の作成サポート、トータル物流コストの算出など、これまでテーマごとに何度かコンサルティングを行っている。中京地区でも協同組合方式で物流効率化法に基づく高度化事業の認定を受けて拠点を立ち上げるというプロジェクトをサポートしたことがある。

その際に筆者は感じたことがあった。中京地区はD社の本社から距離がある。それもあって本社と現場とのコミュニケーションが皆無に近かった。現場は自分たちで改善しようという意欲を欠き、“他人任せ”の姿勢が目立った。そのことを念頭に置いて今回の拠点集約プロジェクトの実施事項として、D社側の窓口を務めているT専務には次の7項目を提示した。

①出荷頻度ABC分析によるロケーション・レイアウトの作成と作業動線の短縮

②六つの「ない」(持たせない/書かせない/歩かせない/待たせない/考えさせない/探させない)の徹底

③二つの「ない」(しゃがませない/かがませない)の追加

④庫内の通路幅の見直し

⑤レイバーコントロールの実践

⑥横持ち輸送の削減

⑦物流KPIの導入

拠点の集約先となる土地・建物は、D社で取得するのではなく土地の所有者に倉庫を建設してもらい、それを借りることにした。既存荷主の組み立てメーカー向け業務以外に展開ことが立地的に難しかったからだ。そのことを地主に伝えて、倉庫のスペックに対するD社からの要望を提出した。

ただし、貸し主としてはD社が将来その拠点から退去した後も、次のテナントを見つけやすい、使いやすい建物にしておく必要がある。そこで貸し主に新設する倉庫の躯体図面を2種類作成してもらい、D社の要望に合う方を選ぶことになった。

約1カ月後に図面が上がってきたが、二つの案はどちらも一長一短であった。A案は、高さは確保しているのだが奥行きがない。40フォートコンテナを直付けするにはギリギリの停車スペースであった。一方のB案は雨天の際にも作業が出来るように庇を長く取っているのだが、これが建ぺい率に含まれてしまうため、倉庫スペースの規模が小さくなってしまう。

いずれにせよ理想を100%叶える倉庫などはない。われわれとT専務は出入口を広く取っているA案が望ましいと判断し、それを貸し主に伝えて了承してもらった。こうして施設の仕様が大筋で決まった。それを元に倉庫全体の機能設計を表わした「ゾーニング図」を作成して、まずは「①出荷頻度ABC分析によるロケーション・レイアウトの作成と作業動線の短縮」に着手した。

既存のA棟・B棟・C棟の保管スペースには隙間が目立った。いわゆる空気を保管している状態のところが、あちこちに見られた。それがロケーション設計のミスによるものなのか、生産の遅れから欠品が発生しているのか、あるいはその両方なのか、一目見ただけでは理由は判然とはしなかった。

そこで改めて必要な保管スペースを確認することにした。商品マスターで各アイテムの外箱の体積を調べて、それに在庫日数を掛け合わせて計算する。ところがD社は商品マスターを持っていなかった。荷主に依頼して提供してもらう必要があった。そのことと合わせて、各アイテムの適正在庫量についても改めて荷主と協議の場を持つこととなった。

 

「アシストスーツ」を5台導入

「②の六つの『ない』(持たせない/書かせない/歩かせない/待たせない/考えさせない/探させない)の徹底」は、改善の定番である。とりわけD社の現場は高齢化が進んでいるため、作業生産性の向上を目的にするだけでなく、可視化を向上することで“考えさせない”“探させない”ようにして作業品質を向上することに留意する必要があった。「倍化運動」と称してロケーション番号や掲示物の文字の大きさを200%に拡大して高齢者にも分かりやすい表示にした。

さらに、“しゃがませない”“かがませない”という「③二つの『ない』」を追加して腰や身体への負担を軽減した。そのツールとして、荷物の持ち上げ・持ち下げ作業を支援する「アシストスーツ」を導入した。われわれNLFの支援先でアシストスーツを導入するのはD社で4社目となる。評判は上々で、これからさらに普及が進むだろう。

アシストスーツはS社製とU社製を検討した。両者の基本的な構造は大きく変わらないが、装着時の調整方法やデータ連携による付加価値創出などの設定がいくらか違う。性能や品質面ではS社製が優れていたが、システム費用がかかり、規模の小さなD社にとっては高価であった。そこで使い勝手の良さとコスト面からU社製を採用して5台を導入した。

またバケットの仕分け作業用に、膝上の高さの作業台を置くことにした。従来は床に直置きしたパレットからバケットを取り出して仕分けをしていた。腰の負担を軽減するため作業台で高さを確保して、しゃがまずに済むようにした。

「④庫内の通路幅の見直し」では、既存倉庫の通路幅が必要以上に広く取られていたので新倉庫では適切な幅に設定し直した。現場の担当者によると、過去にカウンター式フォークを使用していたことがあり、それに合わせて幅をとっていたが、リーチ式に統一してからは縮小したという。しかし、実際に測ってみるとメーン通路は3150ミリメートルもあった。

そこで作業の安全性への配慮も踏まえリーチイン(ツメを車体側に引き寄せた状態)の走行を徹底することをルール化し、またD社のリフトマンのスキルが高いことも考慮して新倉庫の通路幅を2850ミリメートルに設定した。その結果、200パレット分の保管スペースを生み出すことができた。

「⑤レイバーコントロールの実践」では、既存施設のホワイトボードを見ると、過去にそれらしきことを試みた痕跡を確認できたが、実態として機能していなかった。拠点が3カ所に分かれている状態では、作業スペース、取扱量、スタッフ数の制約から効果を出すのは難しかったであろう。しかし、拠点を集約すればやりやすくなる。

レイバーコントロールに限らず、一般に拠点の規模が大きくなれば、それに伴い適切な運営管理の方法も変化する。労働管理、安全管理、設備保守、生産性や品質の維持・向上策、マテハンの使い方、荷主との取り決め事項など、オペレーションとマネジメントを再設計しなければいけない。しかしながら、そのことを理解している物流管理者は少ない。教えられてもいないのが実情である。

 

KPI管理は小さく始める

「⑥横持ち輸送の削減」は拠点を集約すれば必然的に実現する。今回のケースでは、A棟・B棟・C棟に分散している部品を荷合わせするための横持ち輸送に従来投入していた、10トン増トン車1台と4トン車2台の計3台分のコストが不要になった。

「⑦物流KPIの導入」は可視化、生産性の向上、品質の向上など広範囲にわたる効果を期待できる施策である。ただし、あれもこれもと、はじめから多くのKPIを採用してしまうと往々にして長続きしない。小さくはじめて大きく育てるのが定着のポイントである。

D社ではレイバーコントロールで算出した人時生産性(MH)をベースに、作業生産性、作業品質、イレギュラーの3点を最重点課題と定めて、それぞれKPIを設定した。作業生産性は「ピッキング」と「梱包(仕分け含む)」、作業品質は「誤出荷」と「在庫差異」、イレギュラーは「時間外出荷」の計五つにKPIを絞り込んだ。

こうしてD社の拠点集約プロジェクトは終了した。現時点で新拠点の稼働から5カ月が経過したが今までのところ運営は順調だ。コストはもちろん現場の労働環境もかなり改善された。

さて、今回の案件で筆者が痛感したのはデータ精度の重要性である。荷主から入手した商品マスターもしかり。マスターに登録された体積に梱包の変更などが反映されていないものがあったため、机上で計算した保管スペースが実態と合わずにロケーション・レイアウトを作り直さざるを得なくなった。

現場のシステム化や自動化が進むほど、データの精度が与える影響は大きくなる。そこでD社では拠点集約を機に棚卸しの方法を改めた。従来は月1回の一斉棚卸しだった。それを毎日の循環棚卸に変更した。1カ月当たりの稼働日数22日で全品目をカバーする。在庫精度の向上が狙いである。

 

《特別編》事例で学ぶ現場改善:『〈センター長〉 監督兼選手から抜け出す方法』

物流センター長の多くが本来の業務から離れて庫内作業に駆り出されている。連日の残業に加えて繁忙期には休日出勤を余儀なくされている。このような状態では誰もセンター長になりたいとは思わない。荷主は現場の管理能力を失ってしまう。物流企業は事業の存続さえ危うくなる。

 

そもそもセンター長とは何者か

物流業は所長・センター長の能力で90%が決まってしまう。つまり、物流業とは〝所長産業〟あるいは〝センター長産業〟なのだ。筆者はかねてからそう指摘してきた。本連載でも「できるセンター長の作り方」(2007年4月号)と題して、センター長の育成について解説したことがある。しかし、既に一昔前の記事になるので、ここでおさらいしておこう。

通常、センター長は、①労務管理、②運行管理、そして③クレーム対応の三つを主な業務とする。このうち最大の役割を一つ選ぶとすれば、やはり労務管理、人のやり繰りに尽きる。そして、人のやり繰りにはコミュニケーション能力という管理者としての資質が求められる。

できるセンター長は一日中、机に座っていないものだ。常に現場を回って一声掛け、スタッフとのコミュニケーションをとっている。管理者として同じことを“10回言い続けられるか”が問われる。昼食もパートに交じって同じテーブルを囲む。繁忙期で現場に無理をさせた時には自腹で缶ジュースを差し入れる。そうした小さな気配りで、現場の空気が違ってくる。駄目なセンター長には、それができない。

センター長のタイプは大きく二つに分かれる。中小企業の場合、センター長は、ほとんどが現場の叩き上げだ。作業スタッフやドライバーを経験したベテランが、班長からセンター長へと昇格する。一方、荷主企業や中堅以上の物流企業では、センター長が事務系管理職の仕事として位置付けられている。いずれも一長一短がある。

前者の現業系のセンター長では、オーバースペックが往々にして問題になる。彼らの場合は人手不足以前に繁忙時になると現場に入ってしまう傾向があり、管理が疎かになる。“プレイングマネジャー”は半ばセンター長の代名詞である。もともと中小の現場スタッフには、デスク業務や管理を苦手とする人が少なくない。それが嫌で物流現場の職に就いたのに、いつのまにかセンター長に祭り上げられ、計数管理などの苦手な仕事を強いられる。結果として会社の期待に応えられない。

一方、事務職系のセンター長は、いずれ本社に戻るという考えが常に頭から離れない。当然、本社には良い報告をしたい。しかし現場を敵に回せば、オペレーションが立ち行かなくなる。そもそも高学歴の事務系は現場スタッフとのコミュニケーションを苦手とする場合が多い。結果として現場と本社の板挟みに遭ってしまう。

同じ会社内のセンター長でも、各人の能力には当然バラツキがある。しかし、それ以上に大きいのが会社間の差、会社ごとのセンター長の能力レベルの差だ。これは、その会社におけるセンター長の「①採用」「②教育」「③キャリアプラン」の違いによるものだ。

まず「①採用」について。現状では外部からの登用は容易ではない。対策としては遠回りに見えても社員研修が有効だ。研修の狙いは教育だけではない。社内の人材を発掘することも研修によって得られる大きな効用の一つだ。資質のある人材であれば、30歳以下の若手でもセンター長に登用すべきだ。ただし、若手の抜擢は経営層の援護が必須である。任せきりでは、せっかくの人材を年長の社員やベテランのパートに潰されてしまう恐れがある。

これと並行して、センター長を現場のスターにする必要がある。センター長になったら予算管理やクレーム処理など苦労ばかりが増え、休日も見返りも少ないということでは、手を挙げる者などいなくて当然だ。班長や配車係などのセンター長候補者に、昇進したいというモチベーションを持たせる必要がある。

必ずしも給料や待遇だけの問題ではない。金銭的インセンティブには限界がある。それよりも優れた仕事を表彰するなど、職業人としての誇りや満足感に訴えかける。現場のQC活動も同様だ。小遣い程度の賞金を出すより、額縁に入れた賞状やトロフィーの方がよほど効果的だ。賞状やトロフィーを自宅に持ち帰れば、家族に仕事を理解してもらう良いきっかけにもなる。

「②教育」では、人事ローテーションが鍵になる。駄目なセンター長は自分のセンターのことしか知らない。井の中の蛙なのだ。板前の修業と同じように、センター長もさまざまな現場を経験することで初めて引き出しが増えていく。実際、人事異動でいろいろな現場を経験させている会社のセンター長は総じてレベルが高い。それに対して、センター長の改善能力や意識レベルが低い会社は、センターの横展開を経験させていない。社外はもちろん、同じ会社内であっても他のセンターのことを知らないのである。

三つ目が「③キャリアプラン」だ。多くの会社でセンター長は〝上がり〟のポストになってしまっている。センター長として定年を迎えるケースが大半だ。定年間際ともなれば、現場との摩擦を生じる恐れのある改善活動など進めようとするはずがない。それどころかセンター長自身が改革のブレーキにもなってしまうことさえ珍しくない。

センター長を上がりのポストとするのではなく、センター長から本部スタッフに昇格する道を示しておかなければならない。本人がそれを望むかどうかは別だ。現場好きのセンター長はむしろ望まないだろう。その場合には、現場作業の専門会社を子会社として設置するという手もある。子会社経営幹部という道を開くのだ。センター長の有効なキャリアプラン作りを、重要な経営戦略と位置付けて取り組む必要がある。

 

残業なし・年間休日120日を目指せ

優秀なセンター長は「作業」と「業務」の違いを理解している。現場スタッフと管理者では持っている「時計」が違う。作業はその日の荷物を処理すれば終わる。一方、業務は、与えられたミッションをクリアするために、1カ月後、3カ月後、6カ月後に何をしなければならないのか、時間軸を持って仕事に当たる。

センター長が自分の力を発揮できる環境を整備する必要がある。そのためにセンター長をプレイングマネジャーから卒業させなければならない。いわばセンター長の働き方改革だ。今回はそのヒントを以下に紹介しよう。

センター長の多くはほぼ毎日の残業に加え、年間休日数は100日程度、繁忙期には休日出勤も強いられるという過酷な労働環境に置かれている。これをまずは改善しなければならない。残業なし、年間休日120日を実現することが目標である。

そのためにはセンター長の権限と業務の一部を部下に移管する必要がある。しかし、そうしたセンターでは部下もまたプレイイングマネジャーである。単に移管するだけでは今度は部下が過剰労働になってしまう。

そもそも一般的な職務基準書に書かれてある管理職としての業務を全て完璧にこなすことは、実際には不可能である。働き方改革の実践は職務基準書の見直しが第一歩である。業務項目を減らすのではなく、業務の一部を下位職に移管して役割分担を明確にする。当然ながら、それはセンター長を支える管理職予備軍のスキルアップ、レベルアップが前提である。従って教育・訓練の実施計画を折り込んだキャリアパスプランが重要になってくる。

 

センター長の業務を標準化する

大手量販店のイトーヨーカ堂は、店長の業務を徹底して標準化している。いつどこに配属されても即日業務が行えるようになっている。そのために机の中の備品や書類ファイリングのレイアウトまで統一している。一足跳びにそのレベルに到達するのは難しくても、3人のセンター長の業務を標準化して、ルールの統一を図れば、休日は取りやすくなる。

繁忙期に本社から応援を送る際にも標準化がモノを言う。現場を離れてしばらく経っているとか、そもそも現場のことがよく分からないメンバーが送られてきて結局、戦力にならなかったという、よくある失敗を回避できる。

現場作業自体の標準化ももちろん重要だ。新人、高齢者、外国人労働者など想定して、“誰もがわかる現場づくり”を徹底する。全体の作業フロー図、作業マニュアル、どこに何があるのか一目で分かるロケーション番号の表示、センター内掲示物のビジュアル化などを準備しておけば、応援に来たスタッフにすぐに活躍してもらえる。

そこまでやった上で、それでもやむを得ない残業や長時間労働が発生した場合には、超過労働時間を近日中に解消させる。残業時間を週単位、月単位でまとめて管理している現場を多く見かけるが、超過時間の発生から消化までの期間が長くなるほど、消化するのが難しくなってしまう。

センター長にフレックスタイム制を導入するのも一つのアイデアだ。ドライバーの時差出勤、センター作業の夜勤交替が定着しているのとは裏腹に、物流業の事務職、管理職は一斉始業が多い。果たして必要なことだろうか。朝礼は全員がそろった時点で行えば十分だ。レイバーコントロール上はむしろ昼礼の方が効果的である。

センター長の業務負荷は身近なツールを利用することでも軽減できる。センター内の部下や現場スタッフとのコミュニケーションは直接、顔を合わせることが大事だが、本社や営業、顧客とのやり取りは電話よりも、できる限りメールを使うべきだ。電話連絡は余計な雑談に案外時間を割いているものだ。顧客からの緊急出荷要請なども、営業を経由させて本当に対応すべきかフィルターを掛ける。

一方、センター長は業務終了後も携帯電話が手放せない。入荷・出荷車両のトラブルや事故、荷主の製・商品のリコールによる緊急出荷停止などが発生するためである。しかし、パソコンは社外持ち出し禁止にする。機密保持、顧客データ流出防止の意味合いもあるが、持ち帰り残業を抑制するために物流業界以外でも広く実践されている方法である。

センターにTV会議システムを導入すれば本社や顧客に訪問する回数を削減できる。昨今のTV会議システムの性能は著しく向上している。しかし、それを使いこなせていない会社が多い。事前に簡単なテストを行うだけ、システム操作を担当するスタッフが司会者と2~3分打ち合わせして会議の大まかな流れを頭に入れておくだけでも、TV会議の運用は格段にスムーズになる。

 

物流サービス条件を見直す

イレギュラー業務のゼロ化や土日出荷の中止、納品回数の削減など、物流サービスの見直しにも乗り出すべきだろう。ドライバーや庫内作業員だけでなく、センター長や現場のマネジャーの労働環境を大きく改善できる。今こそそのチャンスである。

イレギュラー業務には時間外出荷、送り先の変更、出荷内容の変更などがあるが、いずれも残業時間を増大させる要因であり、またコストアップ要因にもなっている。しかもイレギュラー業務の大半は現場では判断がつかないため、センター長に判断を仰ぐことになる。その影響はセンター全体に波及する。

土日休日の出荷も小売業、外食産業向けではしばしば発生している。本来であれば小売業、外食産業は販売に徹すべき日である。荷受けしている暇などないはずだ。それが発生してしまうのは多くは需要予測の精度が原因である。多少のショック療法にはなるが、休日の出荷停止をルール化してしまえば、否応なく改善が進み、休日納品は不要になる。少量の納品先であれば月・水・金などの隔日納品にまで踏み込める。

他にもセンター長の働き方を変えるためにできることはいくらでもある。それは今日の避けて通れない課題である。なぜなら今のままでは部下たちはセンター長になりたいと思わないからだ。荷主企業であれば物流管理レベルが底なしに低下していく。“センター長産業”たる物流業にとっては命取りにもなり得る問題である。

 

《特別編》事例で学ぶ現場改善:『コンペは効力を失い3PLは終わった』

元請けが必要な車両台数を確保できず、ギブアップするケースが増えている。ボリュームディスカウントを狙った一括委託が逆作用を起こし、全拠点一斉値上げを突き付けられる荷主も出てきた。しかし、現在の環境で物流コンペを開催すれば、むしろ返り討ちにあってしまう。アウトソーシング戦略の再考が必要だ。            (聞き手・大矢昌浩)

 

コンペは“寝た子を起こす”

──物流業が売り手市場から買い手市場に転じたことで、コンペの在り方があらためて問い直されています。

 「今さらですが『コンペ』というのは、英語の『コンペティション』ですから直訳すれば、競争とかスポーツの競技会という意味ですよね。物流コンペは、運送会社を競技者として戦わせるわけです。それがこれまで成立してきたのは、物流サービスの供給が、量的にも質的にも十分にあったからです。今はそんな環境にはありません。実際、私の周辺の荷主は物流コンペを敬遠するようになっています」

──監査が厳しい外資系の荷主などは定期的にコンペを開催することをルール化していると聞きます。

 「今でもフォワーダーのコンペであれば有効です。もともとフォワーディングは人手不足にほとんど影響を受けない取り扱いビジネスですから。国別に委託していたのをグローバルに1社にまとめれば、ボリュームディスカウントが効いて30~40%下がることもある。3PLでも実コストを、マージンも含めて全てガラス張りにする『オープンブック方式』で契約するならコンペをやるのもありかもしれません。しかし、それ以外はどうでしょう。外資系だって環境が変われば、やり方を改めるのではないでしょうか」

──コンペには現在支払っている料金が妥当であることを確認したり、既存のパートナーを牽制したりする効果もあります。

 「今コンペを開催すれば、逆に“寝た子を起こす”ことになります。『ありがとうございます。ようやく値上げを認めてくれるんですか。わざわざそんな場を作っていただけるなんて』と協力会社を喜ばせた挙げ句、向こうは『その値段で合わなければウチは撤退しますので』というくらいのつもりで、平気で脅しを掛けてきます」

──既存のパートナーだけでは車両を確保できない、極端な値上げを言い渡されたとなれば新たな委託先を探すしかありません。

 「確かにこのご時世なので、協力会社がギブアップしたので慌ててコンペをやるというパターンはあります。しかし、その場合でも相見積もりレベルのことはやったとしても、一本釣りで委託先を見つけていくのが賢明でしょう。周囲の物流会社はその荷主がどこにギブアップされたのか知っています。いくらでやっていたのかも恐らくバレている。それを頭に入れて強気の見積もりを出してきます」

──相見積もりとコンペの違いは?

 「応札する会社数の違いです。少なくとも4~5社から選ぶということでないとコンペとは言えません。先日、全国規模の荷主がコンペをやるため候補企業に参加を打診したところ、その荷主の仕事はドライバーの作業負荷が大きいこともあって、2社しか応じてくれなかった。これではコンペにならないと、われわれ日本ロジファクトリー(NLF)に応札企業を紹介して欲しいとオファーが来ました。少し前までは年商300億~500億円クラスの荷主がコンペを開催すれば、それなりに手が上がりました。しかし今は1千億円クラス以上でないと、コンペをやりきれないという印象です」

 「面白い傾向も出ています。物流コンペをやっても1社に決めるのではなく、エリアを分ける、あるいは業務を分割して委託するケースが最近増えています。コンペで白黒はっきりさせるのではなく、それぞれのいいところを取る。繁忙期にクルマが足りないという状況がずっと続いていることで学習したのでしょう。1社依存では危ない。リスクヘッジです」

──物流会社を探すことが、そこまで難しいものですか。

 「例えば、NLFは昨年あるメーカーと、成功報酬型で運送会社を紹介する契約を結びました。そのメーカーの元請けが繁忙期の傭車に対応できなかったことで、われわれに泣きついてきた。NLFが紹介した運送会社はその荷主と直接契約を結ぶことになるので、元請けは自分たちの地位が脅かされる。だから彼らも一生懸命探したのだけれど結局見つからなかった」

──運賃が安いからでは?

 「値段が合わないという問題だけではないんです。例えば関東~関西の幹線輸送でも、ドライバーは実際には運送会社の営業所から出発して出荷場所を経由して着地に向かいます。しかも着地側の2カ所で降ろしてから現地の営業所まで戻るということにでもなると、1日の拘束時間の上限の13時間労働をオーバーしてしまいます。ドライバーの拘束時間には集荷場所と運送会社の営業所との距離も絡んでくるため、営業所から遠い荷主に対しては『うちはできません』となってしまう」

──その荷主の新たな委託先は見つかったのですか?

 「今のところ2社との契約が成立しました。そのうち1社は東京~大阪の10トン車の片道運賃に7万5千円の見積もりを出してきた。大手荷主だったので恐らく口座を作りたかったのでしょう。現在の相場は10万円を少し切る程度なのでさすがに安過ぎる。そこで、その荷主の物流部長は『その値段では長く続けてもらえないと思うので、値段は他の会社さんと同レベルで結構です』と見積もりに上乗せした運賃を支払うことにしました。それだけ欠車に対する危機感が高まっている」

 

3PLの空洞化

──運送だけでなく3PLのコンペも同じですか。

 「輸送のコンペはまだ環境が変わり、供給が十分な状態に戻ることがあるなら、また復活するかもしれません。しかし、3PLはこれでいったん終わるのではないか、3PLという業態自体が現在の環境に合わなくなった、とさえ思っています。というのも3PLは一括提案が特徴なわけですが、それが今は一括値上げを招いている」

 「ある荷主は数年前にボリュームディスカウントを狙って国内4センターの配送を中堅3PLに集約しました。それが裏目に出て昨年その荷主は全国4センターで一律のパーセンテージの一斉値上げを要請されました。突っぱねれば物流が止まってしまう恐れがあるので、言われた通り払うほかなかった。しかし、それをきっかけにその荷主はその3PLとの契約を打ち切ることを決意して、今は拠点ごとに配送パートナー選びを進めています」

──3PLのコストメリットがなくなったということですか。

 「そもそも3PLは配送や庫内業務の再委託率が高い。大手や有名どころほど、その傾向があります。しかも、実態としては丸投げで、彼ら自身が再委託先から値上げ要請を強く受けているためコストが下がらない。それでいて管理費は高い。大手3PLともなるとトータルコストの25%を占めていることもある。利益率の設定も高い」

──通常だと管理費はどれくらい?

 「パパママの零細運送会社だと3%くらい。広域地場で12~15%。中堅で12%~18%。大手は20%前後から25%くらいまでといったところです。管理費の大半は管理者の人件費です。しかし、実際には管理費にカウントされているマネジャーが1人で複数の拠点をカバーしていて、現場にはほとんど顔を見せなかったりする。それでふたを開けてみたら丸投げでは、さすがに荷主も浮かばれません」

 「その一方で大手は挨拶や契約の席には担当役員の他、本社営業、顧客窓口、現場責任者、システム担当などスタッフをぞろぞろ連れてくる。無駄に人件費をかけていると同時に、組織が分かれているので意思決定に時間がかかる。荷主の要請に柔軟に対応できない。大手3PLの中には融通が利かないことが有名になって荷主離れを起こしているところもあります」

 「そもそも、なぜ3PLが荷主に求められたのか。一括請負いとボリュームディスカウントの他に、以前はシステム力の優位性があったと思います。しかし、今はパッケージを利用したり、荷主が自分でWMSや在庫管理システムを構築できるようになってきた。3PLに頼らなくても回せるようになりました。つまり現在の3PLは、再委託先からは突き上げられ、クルマをかき集める力やまとめあげる力は希薄になり、システム開発力の優位性もなくなった。空っぽなんです。4PL化など新しい業態革新が必要です」

──あるいは先祖返りするのでは?

 「そうかもしれません」

──アウトソーシングが進んだ結果として荷主の物流管理能力は衰えてしまいました。内製化に転換するにも物流管理者がいません。

 「そこは頭の痛いところです。それでも卸の中には、いざとなったら自分たちでトラックを購入して走らせるくらいのつもりで物流の再構築に取り組むところも出て来ています。物流を重要な機能と位置付けるのであれば、あらためて物流管理機能を取り戻すほかありません」

 

第187回 事例で学ぶ現場改善:『中古車販売D社の在庫適正化プロジェクト』

店舗数の増加に伴い横持ち輸送コストが上昇している。在庫の長期滞留による評価損も目立ってきた。経験の勘に頼った〝どんぶり勘定〟から抜け出し、合理的な在庫管理の仕組みを構築する必要があった。在庫管理部の新設を皮切りに2年以上にわたる息の長いプロジェクトが始まった。

 

中古ビジネスは仕入れが9割

D社は年商約400億の中古車販売会社だ。東日本を中心に38店舗を展開している。仕入先は一般ユーザーからの下取り、現車オークション、ネットオークションなど。販売先は一般向けの店舗販売と中小中古車販売会社が中心で、業務用車両も取り扱っている。

D社側のプロジェクトリーダーで、われわれ日本ロジファクトリー(NLF)との窓口を務めたのは、2代目社長に就任予定のT取締役であった。その説明によると、D社は車両専門のトレーラー会社に商品(中古車)の輸送を委託しているが、店舗数の増加と共に横持ち輸送コストが増えているという。

在庫管理にも課題を抱えている。店舗は平均1千坪の広さを持つが、常に在庫が満杯の状態であり、長期の売れ残りも発生して最近は在庫の評価損が目立つようになってきた。D社には車両の移送を担当するベテラン社員は在籍しているが、物流のスペシャリストは不在であった。売り上げの拡大と共に“物流”の視点で改革を行わなければならないとの問題意識からわれわれに声が掛かった。

自動車に限らず、中古ビジネスの最重要ポイントは仕入れだ。その品はいくらなら売れるのか。それをいくらで仕入れるのか。中古車の場合であれば、それを国内で売るのか、海外に輸出するのか。どの店舗のどの営業マンがその商品をさばけそうなのか。現車を見て即座に意思決定しなければならない。その判断で利益のほとんど、9割以上が決まってしまう。

T取締役以下、D社の5人のプロジェクトメンバーとわれわれNLFのスタッフは、そのような共通認識の下、D社が解決すべき物流課題を次の10項目に整理した。そこからプロジェクトチームとわれわれの約2年5カ月にわたる取り組みが始まった。

①商品マスターの整備

②QRコードによる個体管理

③在庫管理部の発足

④不動商品対応ルールの設定

⑤物流KPIの設定

⑥棚卸し頻度の見直し

⑦物流センターの設置

⑧出荷頻度ABC分析によるロケーション、レイアウトの作成

⑨配車センターの発足

⑩共同輸送の推進

「①商品マスターの整備」は最初に着手すべき課題だった。従来から当然ながら管理台帳は存在していたが、物流管理に必要な仕入日、入荷日、出荷日、販売日の「日付管理」に不備があった。いくらで仕入れた商品をいくらで売ったのかも明確になっていない。そのために純利益どころか粗利さえもはっきりとしない“どんぶり勘定”に陥っていた。

マスターの管理を各店舗に任せているために、マスターの登録やデータの更新、廃番管理などのメンテナンスがおろそかになっていた。そこで後述する在庫管理部を新設して、商品マスターを集中管理することにした。リアルタイムでマスターをメンテナンスして、クラウドシステムを介して全社でデータを共有する体制を整えた。

さらに、整備したマスター情報をベースに「②QRコードによる個体管理」を実施した。目視と台帳が頼りでは収益管理は困難だ。優秀な店長であれば経験と勘から店舗全体の利益は残せるかもしれない。しかし、車両1台単位の損益までは把握できない。在庫管理自体に課題を抱えていたこともあり、QRコードの導入に踏み切った。

QRコードシステムの開発から稼働まではおおよそ12カ月を要した。しかし、今振り返ってみても、これは重要かつ効果の大きい施策であった。物流センターの出荷時と店舗の入荷時に各車両のQRコードをスキャンするようにしたことで、社内における在庫の流れが明確になった。その結果、例えば店舗の営業マンが「これは売れる」と判断して在庫を抱え込んだ準人気車が、実際には売りさばけずに、A店舗→物流センター→B店舗と渡り歩くさまが明らかになった。

 

在庫管理部を新設し脱どんぶり勘定

「③在庫管理部」は統括責任者の部長を含めた6人体制で発足した。部長は5人の部員たちを車両タイプ別に振り分け、普通車、小型車、軽自動車、ミニバン・ワンボックス、業務用車両(営業用ワゴンなど)をそれぞれ専門で担当させた。

その役割は先ほどの商品マスターを集中管理すること、そして商品部を仕入れ業務に特化させることであった。商品部のスタッフにはバイヤーに徹してもらい、良い車の取り逃がしをなくそうという狙いである。そのために商品を仕入れて以降の全ての業務、具体的には在庫管理、稼働在庫と不動在庫の可視化、店舗とのやりとり、アナウンスなどが在庫管理部に求められた。

在庫の陳腐化を防ぐため、新たに「④不動商品対応ルール」を設定した。それまでは店舗が在庫を抱え込んで長期間にわたり売れ残っていても、他の在庫で売り上げをカバーできていれば良しとされていた。それを改めるために、在庫の日付管理を導入した。7日間にわたり動いていない在庫を「不動在庫リスト」にリストアップして、全社に一斉に送信する。

その在庫が欲しい店舗もしくは営業マンは、24時間以内に在庫管理部にフィードバックする。複数の手が上がった場合には、在庫管理部が店舗もしくはその営業マンの実績から判断して売れる可能性の高いところに割り当てる。誰も手を挙げなかった在庫はオークションに流すか、輸出するかを判断する。

これによってD社全体の在庫回転率は1カ月当たり0・9回から2・1回に大きく改善した。長期滞留で評価額が下がり、販売しても経費を吸収できない赤字在庫も大幅に減少した。さらに現在、在庫管理部はエリア別の需要予測に着手している。各店舗に特有の売れ方を周辺の駐車場等のリサーチによって分析している。これにより在庫回転率を2・5回/月まで向上することが目標だ。

「⑤物流KPIの設定」は、まずは“どんぶり勘定”の是正から着手する必要があった。具体的には、「販売車両1台当たりの粗利率」と「販売車両1台当たりトータル物流コスト」を算定して1台単位の原価を把握できるようにした。これに約4カ月を要した。

次のステップ2では6カ月をかけて、「在庫差異率」と「作業生産性」を算出した。在庫差異率は、店舗在庫と物流センター在庫についてそれぞれ金額だけでなく差異が発生した品目数も数値化した。また、作業生産性は物流センターにおける「平均車両降ろし時間」と「平均車両積み込み時間」、店舗における「平均車両降ろし時間」を測定した。

最後のステップ3では「作業品質」の指標に「商品破損率」を設定して、4カ月かけてその数値を算定した。各指標を段階を踏んで開発したことで、関係者の理解も進み、問題なくKPIが機能し始めた。営業会議や物流連絡会議において効果的な施策が打ち出されるようになった。

「⑥棚卸し頻度の見直し」では、それまで決算月の年1度だけだったのを、月1回の循環棚卸しに変更して、全品目を3カ月ごとに実地棚卸しするようにした。これにより、ノルマ達成のために店長が月末に自分で車両を買い込んで翌月に売却したり、キャンセル車を営業マンが私物化したりなどの不正行為に歯止めが掛かった。

これら原価計算や棚卸しの精緻化は、営業にとってはノルマ達成の抜け道がなくなることを意味するため、実施に対しては反発もあった。しかし、そうしたカラクリがあることは、T取締役をはじめ経営層は以前から感づいて、問題視もしていたため、半ば強引に推し進めることとなった。

「⑦物流センターの設置」は大掛かりな施策であった。従来、D社では一般ユーザーから中古車を下取りした後の初期洗車、社内清掃、加工修理、部品交換などの流通加工を各店舗で実施していた。それが店舗スタッフの大きな負担になっていた。

そこで各地に整備工場を併設した物流センターを立ち上げることにした。洗車・清掃だけでなく、修理、板金、塗装、車検などにも対応できる、いわゆるPDC(プロセス・ディストリビューション・センター)である。既に千葉、仙台、小田原で設置が完了しており、今後、新潟、群馬への設置を予定している。

物流センターといっても実際には約2千坪強の敷地に金網フェンスが張られた野積み・平置きの駐車場だが、そこにオークションで仕入れた車と店舗に持ち込まれた下取り車で当該店舗が不要とした車を集約することで、店舗の作業負担が軽減されてスペースに余裕も生まれる。

これらの物流センターでは「⑧出荷頻度ABC分析に基づくロケーション、レイアウトの作成」を行っている。車種別の出荷頻度のABC分析に基づいて、Aランクの人気車は出しやすいゾーンに、積み降ろし頻度の少ないB、Cランク車は奥側のスペースに保管することで、トレーラーへの積み降ろし時間短縮を図っている。

ゾーン表示には道路標識スタイルを採用し、表示柱を打ち込んだ。先入れ先出し、後入れ先出しのどちらにも対応できるように、外枠フェンス側に1台分の通路幅を確保したアイランド型のレイアウトにした。

なおABC分析の結果、車種別の出荷頻度はエリアによってかなりの違いがあることが分かった。Aランクはどの地域もほとんど変わりないのだが、Bランクには若い主婦層が多いエリアは軽自動車、自営業者が多いエリアは業務用車両やミニバン・ワンボックスが入った。

 

メーカーの物流子会社と共同化

「⑨配車センターの発足」では、大手自動車メーカーの物流子会社E社との共同プロジェクトを組織した。E社が首都圏で車両輸送トレーラーの配車センターを立ち上げるという話を耳にしたからだ。そこにD社の配車センター機能を統合しようというアイデアだった。ただし、同じ車両輸送でも、新車と中古車では流通ルートが異なる。うまく相いれるかが懸念された。

ここでも商品マスターの整備に始まった在庫管理機能の強化と、物流センターへの在庫集約が有効に働いた。どの在庫をどのセンターからどの店舗に、何台移送するのか、精度の高い求車情報をE社の配車システムに提供することができた。これがマッチングに有効だった。

そのことが物流子会社E社の新車をベースカーゴとする「⑩共同輸送の推進」にもつながった。D社の首都圏エリアの店舗および千葉と小田原、新設予定の群馬の物流センターを対象に、新車輸送の帰り便とメーカー工場の閑散時に物流子会社E社の車両を利用することになった。

これにより、各店舗の入荷時間にはバラツキが出るが、「事前出荷情報(ASN)」に基づいて店舗側で勤務シフトの早番・遅番を調整することで対応することにした。結果としてD社は全輸送量の22%に共配および帰り便を活用できるようになり、横持ち輸送のゼロ化も寄与して運賃コストは大幅に圧縮された。

共配実施前の納品時間を厳守しなければならないことが制約になって、共同化が不成立に終わるケースが一般に多く見受けられる。しかし、D社のような社内の拠点間輸送であれば柔軟な対応がとりやすい。さらに今後は荷受け側スタッフの立ち会いが必要な“有人納品”から、夜間納品や軒下納品などの“無人納品”が増えてくるはずだ。その結果、共配の成立する確率は高まっていくと著者はみている。

D社の改革はその後も続いている。現在は事務センターの設置準備を進めている。店舗の営業マンを事務作業から解放して、販売活動に集中できるようにすることが狙いである。