《特別編》 事例で学ぶ現場改善 :『 事例で学ぶ運送各社の値上げ交渉』

昨年10月から年末にかけてヤマト運輸の値上げに続いて運送各社が一斉に動いた。しかし、強硬姿勢が目立つのは宅配大手に限られる。特積み大手の西濃運輸、福山通運は、主要荷主に対しては柔軟な対応を取っている。中堅以下はさらに慎重で、値上げ幅も抑制している。

報道と実態にギャップ

昨年来の値上げ交渉で、ヤマト運輸は法人顧客の4割と取引を打ち切ったという。他の大手運送会社も10%以上の値上げに踏み切ったというニュースが新聞紙上で伝えられている。しかし、筆者の耳に入ってくる話は、報道とはかなりのギャップがある。

値上げはヤマトが突出している印象で、次に佐川急便が強硬姿勢を取っている。日本通運はもともとタリフが高い。価格に敏感な荷主はそもそも日通を使わない。外資系や売上高物流コスト比率の低い荷主が、相見積もりも取らないまま、日通に配送を丸投げしているケースがよく見受けられる。

特積み大手の西濃運輸、福山通運のアプローチは、ヤマト・佐川や日通とはかなり違っている。ボリュームの小さな荷主には確かに報道されている通りの値上げを適用している。しかし、物量のある荷主や長年の安定荷主に同じ金額をぶつけるようなことはしていない。

中堅以下の特積みや一般運送ともなると、大手の交渉が一段落したタイミングを見計らって5%程度の値上げを恐る恐るお願いしているというのが現状だ。以下、筆者がクライアントや関係者からヒアリングした運送各社の値上げ交渉の状況を報告する。

ヤマト運輸──「ネコポス」の値下げで調整

従来、ヤマトは運賃交渉で各営業所にかなりの裁量権を与えていたが、今回は本社主導が強烈で取り付く島がない。ただし、全国一律料金で翌日ポストに投函する〝投げ込み宅配〟の「ネコポス」に関しては、これまで1個260~270円だったのを220~240円に下げてもらったという報告がいくつか届いている。

「宅急便」を値上げする代わりに、ネコポスの料金を引き下げることで多少なりとも相殺して、荷主との関係を修復する材料に使っているようだ。ネコポスは再配達が不要でサイズも小さいため物量が増えてもキャパシティーに大きな影響を与えない。他のサービスからネコポスに誘導する狙いもあるのだろう。

佐川急便──荷物を選び採算重視を継続

中部地区の組立家具メーカーA社は、BtoCの全国配達に佐川急便、BtoBに中堅特積みD社を使っている。佐川急便からは30%の値上げを要請されている。佐川が260サイズを超える大型貨物の宅配から手を引こうとしているのは、2013年のいわゆる〝佐川ショック〟以来のこと。もはや驚くには当たらない。これまで値上げしきれていなかった部分を詰めているということだろう。

一方、中堅特積みD社は、昨年10月にようやく10%の値上げを要請してきた。それも怖々と出してきたという印象だ。D社は以前から輸送品質の問題を指摘されており、あまり強く出て他社に乗り替えられることを恐れているようだ。しかし、A社は値上げを受け入れた。他に選択肢がなかったからだ。他の特積みは営業所がA社から離れているため集荷に来てくれない。荷主が運送会社を選ぶだけでなく、今や運送会社も場所で荷主を選ぶようになってきた。

西濃運輸──タリフを上げて割引率拡大

西濃の値上げのやり方は少し変わっている。特積みの実勢運賃は現在「昭和60年タリフ(1985年に当時の運輸省=現国土交通省=が公示した標準料金表)」が下限であり「平成2年タリフ」が相場だが、西濃の場合、「平成6年タリフ」以上を適用しようとする傾向がある。

ただし、筆者がクライアント数社にヒアリングしたところ、運賃テーブル自体は上げても、実際に荷主から収受する運賃はタリフから大きく割り引き、実質的には5%以下の値上げに抑えているという。タリフは上がったが、支払運賃は従来とほぼ変わらないという荷主さえいた。営業所はタリフを上げることで本社の値上げ指令に応じる姿勢を見せる一方、大事な荷主に対しては割引率を拡大することで客離れを防ぐという苦肉の策に出ているようだ。

福山通運──現場に裁量権を残す

福通も本社主導の価格統制は行っているが、営業所レベルで多少の調整には応じている。年商約300億円の資材卸のF社は全国に3拠点を配置し、足回りは全国的に福通をずっと使ってきた。ただし、近年は地元の新興3PLを元請けに挟んでいる。昨年、福通から値上げ要請を受けたが、値上げ率は限定的であり、今のところ3PLが吸収している。

ただし、3PLも祝祭日を挟んだ出荷はケース1箱当たり300円の値上げがどうしても避けられないと音を上げている。特積みの最小運賃(10キログラム以下・50キロメートル以内)の1箱当たり単価を約400円とするとかなり値上げ幅だが、土日を除く祝祭日だけなので影響は知れている。

3PL──本社主導でコスト増を転嫁

3PLは相手を見て交渉に臨んでいる。業務用卸F社はボリュームディスカウントを狙って関東2カ所、関西1カ所の計3カ所の拠点運営と配送を、中堅3PLのG社1社に数年前に集約した。その結果、トータルコストは削減された。通過金額ベースの料率制料金にすることでコストの変動費化も実現した。

ところが今回はそれが裏目に出た。昨年末、人件費や傭車費の値上がりを理由にG社から15%の値上げを要請された。拠点別に契約を結んでいるG社グループの各地の地域子会社がそれぞれ申し入れてきたものだが、値上げ幅は全国一律で、実質的な交渉相手はG社の本社だった。

F社は強硬に抵抗したが、急に委託先を変えるわけにもいかない。「ノー」とはいえない状況に置かれていることに今さらながら気付かされた。G社は元請けとして十分な役割を果たしているとはいえなかった。拠点運営は下請けに丸投げ、配送もほとんど傭車だった。そんなG社に丸投げした荷主が悪いといえばその通りで、1社独占にしたのはやはり失敗だった。

G社にとってもF社の仕事は恐らく利幅の薄い商売だろう。そのため、値上げを認めてもらえなければ契約の打ち切りもあり得るという脅し文句を、F社は簡単にはねのけるわけにはいかなかった。交渉の末、F社は10%近い値上げを受け入れた。今年1月から新料金を適用している。G社としては当初の15%から引き下げることでF社の顔は立てたが、狙い通りの結果だろう。

 

4月以降もヤマトの動きに注目

以上のように昨年10月から年末にかけて、ヤマトや佐川の動きに便乗する形で物流各社が一斉に値上げに動いた。結果として今年1月から新料金が適用されている。そのために今年4月からの新年度に向けた値上げの動きは今のところあまり見られない。4月以降の運賃動向も鍵を握るのはやはりヤマトだ。ヤマトが再び値上げに動けば他社も続くだろう。

当面、運賃が下落に転じることは考えにくい。むしろ実勢運賃は長年にわたり極端な安価に抑えられてきただけであり、今の水準が適正価格と覚悟するべきだろう。少子高齢化、人手不足という問題に有効な解決策はなく、ドライバーが増えることは期待できない。従って荷主は現状の運賃を前提にして、必要な場合にはビジネスモデルの修正を検討する必要が出てくる。

ただし、筆者から見れば荷主の多くは、運賃や人件費などの単価の上昇によるコストアップと、仕組みの非効率性によるコスト増を整理できずに混同している。単価を下げることはできないが、仕組みに目を向ければコスト削減の余地はいくらでも残されている。

例えば拠点の立地だ。坪単価の安い土地を選んだ結果として、運送会社の営業所から距離があるために運賃が高くつく、集荷の締め時間が前倒しになる、後背地に人手が足りず庫内作業員が集まらないといった事態を招いているケースがある。多少坪単価は高くてもアクセスに優れた立地に移ることでトータルコストはむしろ下がる可能性がある。サービスレベルも上がる。締め時間が伸びるだけでなく自社便で特積みの基幹店に荷物を持ち込めば午前0時まで翌日出荷で対応してもらえる。「営業所止め」も選択肢になってくる。あらゆる手を尽くして飽くことなく改革、改善に取り組むほかない。

 

第177回 事例で学ぶ現場改善:『化学品卸J社の改善活動「再」入門』

物流センターを自社運営している。管理者として正社員2人、直接雇用のパート・アルバイト約70人を投入している。生産性に問題があるのか、残業が常態化している。人手不足で補充もままならない。過去に何度か外部の専門家の指導を受け改善活動にも着手したが定着には至らなかった。


「ワーク」と「タスク」は違う

J社は年商約120億円の化学品卸である。約1万1千SKUを取り扱い、関東と関西、九州の計3カ所に物流拠点を配置している。3拠点とも庫内は自社運営で、輸配送だけ外部委託している。

今回のプロジェクトリーダーであり、われわれの窓口を務めたJ社のM氏いわく「過去に何度か改善を試みたことがあり、コンサルや3PL事業者を活用したこともある」。しかし、自社改善はことごとく頓挫した。コンサルや3PLの指導を受けても、現場スタッフは日常業務に追われて活動が定着しなかったという。

それを受けて筆者は「われわれも含めて外部の専門家はあくまでサポーターであり、改善は当事者が行わないと定着しない。まず倉庫管理者の意識と業務内容を明確にする必要がある」と伝えた。これにM氏も大きくうなずいたが、昨今の人手不足は改善活動に着手できない状況に拍車を掛けているという。

さて、どうするか。聞けばJ社は現在、センターを土曜日にも稼働させているが、平日より出荷量が少ないため、昼過ぎには業務を終えることができるという。そこで土曜日の午後を活動に充てることを提案した。再びM氏はうなずいた。

このようなやり取りを経て、プロジェクトがスタートした。まずは関西拠点が舞台である。いつものように現場の視察と関係者のヒアリングから着手するテーマを次のように絞り込んだ。いずれも「5S(整理・整頓・清掃・清潔・躾)」レベルの基本的な内容である。

①倉庫管理者の役割の明確化

②出荷頻度ABC分析に基づく作業生産性・作業品質の向上

③6つの「ない」の実践

④誰もが分かり、誰もができる現場づくり

⑤多能工スタッフの育成

⑥レイバーコントロール強化

⑦保管効率の向上

⑧庫内の照度アップ

⑨物流人事考課の刷新

①「倉庫管理者の仕事の明確化」は、「ワーク(作業)」と「タスク(業務)」の違いを、管理者にはっきりと認識させることが第一歩である。ワークは管理者ではなく、パート・アルバイトで対応できる。それを管理するのがタスクである。管理者はワークではなくタスクの対価として給与を得ている。そのことを忘れて、多くの管理者がワークに追われることで仕事をした気になっている。

管理者とパート・アルバイトでは、仕事の時間軸も異なる。パート・アルバイトはその日の終了時間が来れば、当然ながらそこで仕事は終わりである。一方、管理者の仕事は、次の繁忙期に備えた採用や人員調整など、月単位、シーズン単位で「時計」が進む。管理者は忙しいときほどパート・アルバイトにどのように動いてもらうかを考えて、現場に指示を与え、指導する必要がある。ところが実際には、忙しいときほど現場に入ってしまう管理者が多い。そのことを、まずは座学でしっかりと話し合い、確認したのであった(表1)。

②「出荷頻度ABC分析に基づく作業生産性・作業品質の向上」は、今や現場改善の定番である。J社の現場は商品在庫があちこちに散在し、通路にも商品が置かれて、必要な動線も確保できない状態だった。商品の出荷傾向を十分に考慮せずにロケーションしていることが明らかであった。

アイテム別の日々の出荷実績データを用意して分析する作業にはやや時間を要したが、これによって保管ロケーションは大きく様変わりし、1500ミリメートルの通路(ラックとラックの間)を確保することに成功した。作業員が新たなロケーションに慣れてくるのに伴い人時生産性は向上していった。現状で改善前と比べて約10%向上している。それだけ作業の終了時間が早くなった。

③「6つの『ない』の実践」とは、庫内作業員に「持たせない/書かせない/歩かせない/待たせない/考えさせない/探させない」ことを意味している。そのために、ロケーション番号を作り直して文字を大きく見やすくした。加えて作成と拡大、「ゾーン」や「レーン」などの掲示物の作成、ピッキング時の台車の使用などを推し進めた。いずれも基本的なことだが、J社の現場では整備されていなかった。

④「誰もが分かり、誰もができる現場づくり」は、いささか抽象的な表現であるため、対象者が「初心者」「外国人労働者」「高齢者」の3つであることを明確にしてから、具体的な事項を落とし込んでいった。

倉庫は庫内スタッフだけで運営しているわけではない。例えば「高齢者」には、倉庫に納品や集荷に来る外部のドライバーも含まれている。ドライバーは年々高齢化が進んで今や70歳以上も珍しくない。そこで高齢者でも見やすいように庫内表示の文字や数字を大きくするなど、彼らにとって「分かりやすい」「作業しやすい」現場にすることが重要である。

⑤「多能工スタッフの育成」は少数精鋭化が狙いである。関西拠点は約70人のパート・アルバイトを雇用しているが、それぞれ受け持ちが固定化されていた。フロアが多層階に分かれており、全体を見ることができる環境が整っていなかったのも一因だが、何より、管理者にスタッフを戦力化しようという強い意志がなかった。

パート・アルバイトに新しい仕事を教えることにした。自分の持ち場の前工程と後工程、計3つの仕事を覚えてもらう。それによって初年度は10人のスタッフを多能工化する計画だ。庫内作業員の多能工化は人手不足対策として昨今は避けて通れない施策である。J社の管理者たちもそのことをよく理解して熱心に指導をしており、既にスタッフ3人の多能工化に成功している。

 

7人の「パートリーダー」を設置

⑥「レイバーコントロール強化」も「パートリーダー」の設置が肝であった(表2)。J社はクラウド型のWMSを導入しており、そのオプション機能を使ってレイバーコントロールにも着手していた。しかし、「人員管理表」と「1人当たり作業生産性」を算出しているだけで改善の余地が大きかった。

1人当たり生産性を物量別、時間帯別、作業内容別に分析した。その結果、課題がどこにあるのかは明らかになった。しかし、関西拠点はパート・アルバイト70人に対して管理者が2人しかいない。指導側の人員が不足していた。そこで新たに「パートによる、パートのための、パートの仕事」をスローガンに掲げ、7人のパートリーダーを設置した。パート10人につき1人のリーダーを置く形だ。

一般的には7:1(7人につき1人)の比率でリーダーを置くのが目安とされているが、筆者の経験では、現場の事情に合わせて5~10人に1人の幅で調整することができる。J社の場合、その上限に当たるが、リーダーの資質に目をつぶって無理に頭数をそろえるよりもベターと判断した。

⑦「保管効率の向上」のため、パレット貨物を多段積みする「ネステナー」を8基投入した。従来は最大で2段積みだったので格段にスペースに余裕ができた上、何より安全性が高まった。軽量ラック12台も投入して、散在していた商品を格納した。

⑧「庫内の照度アップ」は必須だった。関西拠点のみならず、関東、九州とも庫内が薄暗かった。水銀灯のみで補助照明を付けていないフロア、蛍光灯はあるものの保管している商品の上に電気回線が通っていて、手許が影になってしまっているエリアなどが散見された。原因が明確な場合は保管の位置を変えるなど、あまり費用を掛けることなく対応して、最低250ルクスを目安に照度を向上した。

これら①~⑧の施策を受けて、⑨「物流管理者の人事考課」を、「管理」と「改善」に照準を絞り刷新した。J社では今回の関西倉庫をモデルに、これから関東と九州に活動を横展開していく計画だ。J社に限らず荷主企業による自社運営の現場は、ルールや基準がないために何が問題なのかさえ分かっていないことが多い。その恐れがある場合には、まずは基本に立ち返ることである。

 

第176回 事例で学ぶ現場改善:『仲卸F社の支払物流費削減』

冷凍品・チルド品を扱う仲卸が支払物流費の上昇に悩んでいた。聞けば配送はもちろん市場内の荷役作業まで外部委託しているという。卸としてそれで競争力を維持していけるのか、コスト以前の問題があるように感じた。まずは実態を確認するため深夜から早朝にかけての荷役作業に張り付いた。

荷役作業の外部委託を見直し

F社は年商約100億円の食品卸である。中央卸売市場の仲卸業者で、冷凍品が取り扱いの70%を占めている。残り30%はチルド品である。F社の売り上げ全体の約半分は地元の大手・中堅チェーンストア4社が占めている。残りの半分は2次卸や飲食店だ。

筆者との打ち合わせにはいつもF社の会長、社長、専務、実務担当者の4人が同席した。筆者が商流について質問すると難なく答えてくれるのだが、物流に関する質問となると必ず一呼吸入る。聞いていて心配になるほどの情報収集レベルであった。

それでも月別の支払物流費などの基本的な資料は用意されていた。それを見ると売上高に対する支払物流費は3%を若干下回っている。低温食品を扱う卸としては高い水準ではない。しかし、同席した専務いわく、その数字にF社が各納品先に支払っているセンターフィーが全て入っているのか確認できていないとのことだった。

F社は仲卸には通常あまり見られない現場の運営方法をいくつか採用していた。その一つが市場内の荷役作業を外部に委託していることであった。仲卸にとって荷役作業は食材の産地や鮮度の確認、同業他社の仕入れ情報などをつかむ重要なコア業務であるはずだ。それを外注化したのはコスト削減が目的だったようだが、効果が挙がっているのかは疑問であった。

さらに懸念されるのが営業力の低下である。生鮮品は品質や価格が一定ではないため、日ごろから商品に接していないと、ここ一番の提案の際に強く出るのが難しくなる。筆者がそうした懸念を伝えたところ「その点は否めない」と会長、社長の両人からコメントがあった。

仲卸は地方自治体による許可制で、欠員が出た場合などの特別な事情がない限り、新規参入は難しい。規制に守られた商売といえる。しかし、利権は時に工夫や改善に向けた思考を停止させてしまう。経営に対する危機感までも消失させる場合がある。F社は果たして大丈夫だろうか。いささか不安を覚えた。

そうした背景を念頭に置いて、F社の課題を整理して、次の6項目の改善に着手することになった。与えられたプロジェクト期間は7・5カ月であった。

①荷役作業の自社化

②作業場の集約

③「引き取り」の推進

④運賃体系の見直し

⑤配送ルートの見直し

⑥共同配送の推進

①「荷役作業の自社化」に当たり、まずは筆者とプロジェクトメンバーたちが、夜の9時から翌朝9時まで現場に張り付いて、現状のオペレーションを詳細に調べた。一般的に外部委託のメリットは▽自社運営よりも生産性が高い▽作業品質に優れている▽人手を安定して確保できる──の3点であろう。しかし、F社の場合はいずれのメリットも得られていないことが明白であった。

現場作業はダブルハンドリングや動線の長さが目立った。リフト操作に手際の良さはあったものの、作業が職人化されていて、仕事の段取りは当事者の頭の中にしかない状態であった。また、調査当日には欠員も発生していたが、補充なしで業務が進められていた。

卸売市場の現場作業には時間的な制約がある。どの作業を何時までにやらなければならないのか、職人的な作業員による暗黙知によって運営されていて、少し段取りを誤っただけで大混乱に陥る。F社だけでなく卸売市場に共通する課題である。しかし、物流現場に職人やプロはいらないと筆者は考えている。卸売市場の荷役作業といえども例外ではない。「誰もが分かり、誰もができる」現場をつくり上げて、脱・職人化を図るべきだ。

今回のプロジェクトを機にF社は荷役作業の自社化を段階的に進めていくことになった。自社スタッフによる運営を基本として、波動部分は派遣スタッフという構成を目指している。現在、全体の3分の1の人員をF社の社員と直接雇用のパート・アルバイトで占めるところまで来た。現場のビジュアル化も着々と進み、視認性は向上してきている。

作業の段取りを整理し、各作業員のスケジュールと作業の進捗を現場に設置したホワイトボードに張り出してレイバーコントロールを実施している。それを見て、作業が遅れている場所には別の場所から応援を送り、人員配置の最適化を図っている。

割り当てられた業務が終了した作業員はその時点でその日の仕事を切り上げることができる“終わりじまい”も比較的スムーズに受け入れられている。早上がりした分は時給賃金が減ってしまうのだが、卸売市場の夜間スタッフには昼間別の仕事に就いているダブルワークが多く、お金も欲しいが睡眠時間はもっと大切という人がかなりいる。

荷役作業の自社化と並行して②「作業場の集約」にも取り組んでいる。これまでF社は販売先が増えるたびに市場内に新たなスペースを借り増してきた。その結果、現在は仕分け場がそれぞれ100坪弱の4カ所に分散している。そのことが人員の融通や指示の統一を難しくしている。そこで新たに場外にスペースを借りてワンフロアに集約する。具体的な物件も見つかり、条件交渉に入ったところである。

③「『引き取り』の推進」とは、納品先にF社の出荷場まで商品を引き取りに来てもらう取り組みであり、主要顧客のチェーンストア4社が対象である。4社の物量と物流インフラ、カバーエリアを、F社が納品している現状と比較すれば、その方が安く済むのは明らかだった。

そこでF社の営業と納品先の物流担当で話し合いを持ち、各社が引き取りを実施した場合のコストを算出して、その場合のセンターフィーを設定した。その結果、F社の既存の納品ルートのおよそ4分の1は、センターフィーの上昇分を差し引いても「引き取り」に切り替えた方がコストは下がることが分かった。

納品先としても、調達物流の内製化によってコストダウンできるのであれば悪い話ではない。総じて前向きに応じてくれた。ただし、チェーンストア4社のうち1社は協力運送会社のドライバー不足で店舗納品もままならない状態で、引き取りには対応できないとのことだった。

配車業務を自社化して効率化

④「運賃体系の見直し」は必須のテーマだった。協力運送会社によって契約している運賃体系がばらばらだった。調べてみるとフィー(料率)運賃、1日1台当たりの貸し切り運賃、月額固定運賃の3パターンが設定されていた。これを料率運賃に統一すれば、支払運賃を変動費化できる。

しかし、料率運賃に対応できるのは、しっかりと原価計算のできるレベルの高い運送会社に限られる。丼勘定の運送会社は月額固定運賃を好む。車両不足が深刻化している現状でハードルを高く上げ過ぎるのも危険だろうと考え、間を取って1日1台当たりのコース別運賃に統一することにした。その結果、それまで月額固定で契約していた1社が脱落したが、ご時勢ではやむを得ないところだろう。

1日単位とはいえF社が車両を貸し切る以上、効率化を進めるには自分たちの裁量で車両の回転率を上げていかなくてはならない。新たにF社の社員を配車担当として投入して、独自の配車組みを行うことにした。⑤「配送ルートの見直し」である。

それまでF社では顧客別に協力会社に配送を委託していた。そのためF社からそれぞれ委託を受けた別の協力会社が同じエリアに重複して車両を走らせているということが頻繁に起きていた。顧客別からエリア別の配車に組み替えれば、そうした無駄を排除できる。

まずは売り上げ上位4社のチェーンストアのセンターを対象に、各センターの時間指定や車両の拘束時間を考慮した上でエリア別配送ルートを設定した。そのルートに他の納品先を当て込んでいった。その結果、4トン車1台、2トン車1台の計2台の車両が空いた。それをそのまま減車するのではなく、それぞれ車両を出している協力会社に他社の荷物を獲得できないか打診した。狙いは⑥「共同配送の推進」である。

実は空いた車両の他にF社は冷凍車両3台を自社所有している。しかし、営業がイレギュラー時に使用するくらいで遊休化していた。これについても協力会社が荷物を見つけ次第、買い取ってもらうことになっている。そうやって協力会社が成長していくことが荷主のF社にもプラスになる。安定供給と効率化につながるのである。

 

第175回 事例で学ぶ現場改善:『医療機器メーカーR社の物流コスト削減』

物流センターの立地に問題があることは分かっていた。しかし、自社所有であることから手を付けられていなかった。物流部門に大掛かりな改革を主導する力もなかった。従来の延長線上ではなく、抜本的にアプローチを転換する必要があるとトップは判断した。外部のコンサルタントにそのサポートを依頼した。

25%削減をトップが指令

R社は東京に本社を置く年商90億円の医療機器メーカーだ。各地のディーラー(卸)経由で、全国の病院や介護施設などの医療機関に製品を供給している。取り扱いアイテム数は医療機器メーカーとしては一般的な約800。自社工場は持たず、全てOEM生産だ。物流センターを関東に2カ所、関西に1カ所置いて、いずれも大手3PL企業に運営を委託していた。

R社を訪問した筆者たちを出迎えてくれたのは、われわれ日本ロジファクトリー(NLF)に最初に問い合わせを入れた担当者本人とその上司であった。いずれも物流部門の所属ながら、担当者は係長、上司は課長職であった。

2人の肩書きと、一般的に医療機器メーカーにおいて物流部門の発言力は強くないことから、R社の物流が全社レベルの最適化ではなく、物流部視点に限定した「部分最適」に偏っている可能性があり、他部署との調整が必要なテーマには未着手かうまく進捗していない可能性があると推測した。

応接室に通され、課長から相談事項の説明があった。物流センターの見直しや物流費の削減を考えているという。いまひとつ狙いが明確でないため突っ込んで尋ねてみると、トップから25%のコストダウンを命じられたと説明した。物流費が高騰している昨今では無謀ともいえる高い目標だが、まずはR社がこれまでどのような改善を行ってきたのか確認しておく必要があった。

資料の用意はなかったため、2人は記憶をたどって過去の改善テーマをランダムに挙げていった。その内容は想定通り物流部門の管轄範囲内で可能な部分最適ではあったが、大幅なコストダウンを期待できるテーマは既に着手済みであった。一通り説明を聞き終え、25%のコストダウンは厳しいだろうと感じた。2人にもそのことをはっきりと伝えた。ただし10%程度であれは不可能ではないと付け加えた。

それから数日後に課長から連絡が来た。やはりトップから「25%が無理でも物流コストが10%下げられるのであればプロジェクトを進めろ」と通達されたという。後になってR社の社長は筆者に、コスト削減目標の大幅な引き下げをすぐに承認した理由を次のように打ち明けた。

「25%の削減が難しいのは分かっていた。しかし最初から10%程度を目標にしてしまうと、社員たちは現状の延長線上でしか物事を考えようとしない。どうすれば物流コストが下がるのか、発想を抜本的に転換して、危機感を持って考えさせるには高い目標が必要だった」。

こうしてR社の物流コスト削減プロジェクトがキックオフした。約2カ月間にわたる実態調査と分析を経て、われわれは次のような改善テーマをR社に提示した。

①物流センター展開の見直し

②アイテム数の削減

③EDI/EOS受注比率の向上

④調達物流の内製化

われわれの提案に対してM社長を含めR社側から大きな異論は出なかった。それぞれのテーマを順に着手することになった。

①「物流センター展開の見直し」のため、われわれはまず納品先の場所と物量の実績データを基に「着地点分析」を実施して最適な物流センターの立地を抽出した。その結果、関東の2拠点のうち1カ所が最適エリアから大きく外れており、そのために納品輸送コストが高くついていることが分かった(図)。以前からR社内でも問題には気付いていたが、当該センターは自社物件であったため、手を付けていなかった。

そこに今回メスを入れることになった。同センターを閉鎖して、関東のもう1つのセンターに集約する方針を立てた。しかし、その結果として、サービスレベルを下げなければならない納品先が出てくる。具体的には閉鎖した物流センター近隣の北関東エリアでそれまで基本サービスであった「午前中」必着が不可能になる。

案の定、営業からは強い反発があった。しかし、筆者に言わせれば、午前の納品が午後になるくらいで商売が危うくなるようでは、そもそもその卸は先が期待できない。これからも生き残っていくことのできる卸とは、在庫を持てる卸である。在庫機能のない卸は存在価値を失っていく。

といっても、得意先をむげに切り捨てることもできないため、対象となる納品先の卸に営業・物流の双方から詳細な事情説明を行った。結果的には、R社の製品は代替できるメーカーが限られているということもあり、午後納品になることで離れる卸はほとんどなかった。

 

アイテム数を3割カット

集約先となるセンターのキャパオーバーも心配されるところであった。同センターの運営を委託している3PL会社に依頼して、センターの敷地内にテント倉庫を増設することにしたが、それでもまだ足りない。そこで在庫の圧縮に加えて、この機会に②「アイテム数の削減」に踏み切ることにした。

アイテム別の出荷頻度を分析したところ、1年に1度も出荷実績のない製品、つまりデッドストックが全アイテムの約15%を占めていた。1年に1度だけというアイテムも約20%あった。R社には明確な終売ルールがなく、改廃作業が手薄だったのである。

当然ながら、それらの滞留在庫にも保管料、棚卸しコスト、管理コストが掛かっている。すぐに廃番にすべきである。この方針についても営業から反発はあったが、出荷頻度が極端に少ない製品は「取り寄せ」で対応するとともに、事前に顧客にも納品リードタイムがイレギュラー扱いになることを明示することにして、総アイテム数を約3割削減した。

③「EDI/EOS受注比率の向上」は社内人件費の削減と、出荷指示データの早期送信が狙いである。以前から大口顧客とはオンライン取引であり、EDI(電子データ交換)ないしEOS(電子オーダーシステム)の受注比率が売り上げベースでは8割以上に達していた。しかし、件数ベースでは約4割であり、ファクスや電話による注文が約6割に上っていた。

しかも、R社側でファクス用オーダーシートは用意しているものの十分に浸透しておらず、顧客はそれぞれ思い思いのフォームで注文を送ってくる。注文内容を確認して入力するために、8人の派遣スタッフを投入していた。手間が掛かるだけでなく、ミスにもつながっていた。

3年後にはウェブ受注に切り替える計画とのことだったが、全ての顧客が対応してくれるはずもない。その後も恐らく3割近くの顧客がファクスと電話による発注を続けることが予想された。そこでファクス/電話注文の顧客に対して、R社の営業がeメールも含めたオンライン発注への移行を依頼することにした。

移行へのインセンティブとして3~5%の値引きを設定した。さらには早期の移行を促すため、R社の営業担当者に対してもインセンティブが必要と判断、R社の取締役会にキャンペーンの実施申請を提出した。

④「調達物流の内製化」では、ミルクラン方式を導入して仕入れコストの削減を図った。通常なら調達部門との調整が必要になる施策だが、R社の物流部は調達業務を兼務していたため実施しやすく、物流部門の業務の深掘りにもつながった。

調達先エリア、調達先の引き取り体制の有無、納品車両の空車時間活用などを検討して、現状とミルクランを導入した場合のコスト比較を行った。物流機能が十分でなく、自社車両でセンターに納品していた仕入れ先やトラックを確保できないOEM先などを中心に全調達先の16%が候補に挙がり、最終的には3つのミルクランルートを設定することができた。

 

荷主が拠点を所有するリスク

この他、配送ルートの年4回の定期的見直しと、3PLパートナーとの「サービス・レベル・アグリーメント(SAL)」の締結を行った。さらに次のステップでは次のような施策を計画している。

・配送頻度の見直し

在庫を持てる卸に対してインセンティブを付与して毎日配送から隔日配送に移行する。力のある卸には、R社の物流センターまで製品を引き取りに来ることができないか打診する。これには有力卸とのパイプを太くして、絞り込みを図る狙いもある。

・物流パートナーの選定

現在の委託先は業界大手であり、R社の規模では十分なコントロールが利かない。規模に見合った委託先を選び直す。

・自社WMSの導入

関東2拠点、関西1拠点のうち、今回閉鎖した物流センターだけに自社開発のWMSを導入していた。これを現行の2センターに導入して、3PLへのシステム依存を脱する。

さて、今回のプロジェクトで筆者が痛感させられたことが2点あった。1点目は荷主が自分で物流センターを所有するリスクだ。閉鎖したR社の自社センターは賃貸物件として、借り主を探すことになった。現在の環境なら悪くない条件で貸せるかもしれない。しかし、それはたまたま運が良かっただけにすぎない。安い土地が見つかった、あるいは売り上げの拡大が見込めるといった不確かな観測から、安易に物流センターを所有すると、環境が変化したときには身動きが取れなくなってしまう。市場が常に変化する以上、臨機応変にスクラップ・アンド・ビルドができる物流センターが望ましい。

2点目は、物流部門の情報発信力である。対外交渉力はもちろんのこと、物流部門に社内調整力がないと、全体最適どころか有効な改善さえ難しい。他部署の言いなりになってしまえば、付加価値を創出することなどできないということである。

 

《特別編》 事例で学ぶ現場改善:『ヤマト運輸の転向で特積みが復活する』

宅配危機を招いた原因はヤマト運輸自身にあった。知名度がありイメージも良いため募集すれば人は集まる。しかし、長続きしないので人手が足りなくなる。品質も落ちていく。「定着」の仕組みを欠いたままアマゾンの仕事に飛びついたことで、現場から火の手が上がった。今回の同社の方針転換は結果として高くつくことになるだろう。


問題は人手不足より定着力不足

ヤマト運輸の今回の値上げ交渉は、交渉というよりも通告であった。既存荷主に一方的に見積書を送り付けて、「この運賃でないと運ばない」と強硬な姿勢を取るのは、西濃運輸が特積みの値上げでよくやるやり方だが、今回はヤマトがそのお株を奪った格好だ。しかも、西濃の値上げは一度にせいぜい数%。それに対して今回はヤマトに従来の倍近い運賃を突き付けられた荷主もいる。

ヤマトに先立ち2013年には佐川急便が値上げに動いたが、そこまでの値上げ幅ではなかった。もともと佐川はBtoBがメーンということもあって社会的影響は限定的だった。しかし、ヤマトのシェアは圧倒的であり、ヤマトで納品することを指定してくる顧客もいる。どれだけ高い運賃を要求されても切るに切れず、身動きが取れない荷主が続出している。

ヤマトは今回の方針転換によってどれほどの社会的影響が出るのか、自分たちが一番良く分かっていたはずだ。「社会インフラ」を自称する会社がサービス提供を拒否したり、ユーザーの息の根を止めてしまうような大幅値上げをすることが果たして許されるのか。苦しくとも踏ん張るべきところだったのではないかと著者は感じている。

世間的には宅配クライシスはネット通販の荷物が増え過ぎたことが原因とされている。確かに現場は「配達無料」のキャンペーンや過剰なスピード競争に振り回され、また再配達の依頼に追われて、大変なことになっている。ドライバーに対する同情と物流がまひしてしまうことへの危機感があるため、ヤマトを批判する声は大きくはない。

過去にもヤマトは最大荷主だった三越の百貨店配送から撤退したり、「宅急便」の許認可をめぐり当時の運輸省にけんかを売ったりと、分かりやすい“悪者”を敵に仕立てることで世論を味方に付けることに成功してきた。今回はアマゾンがその標的となった。ヤマトのDNAに染み付いたやり方なのだろう。現場の混乱を沈静化するためにサービスを落とし、総量を抑制するのは社内的には美学でさえあるのかもしれない。

しかし、ヤマトは犠牲者とはいえない。再配達を無料にしたのはヤマトのマーケティング戦略であり、アマゾンの仕事を安値で受けたのは経営判断だ。誰かに強制されたわけではない。

現場が回らなくなったのも、必ずしも人手不足だけが原因とは思えない。ヤマトほどの企業ブランド力があれば今のような環境でも募集すれば人は集まる。「採用」は難しくないはずだ。しかし、ヤマトは採用した人を「定着」させる仕組みが、他の宅配会社や運送会社と比べても弱い。筆者は以前からそう感じていた。

人手が足りなくなった現場では負のサイクルが始まる。作業員は自分で判断できないことが起きると、持ち場を離れてリーダーのところまで指示を仰ぎに行く。物流センターであればその間、ラインがストップしてしまう。それを避けるためトヨタ自動車では「アンドン」と呼ばれる呼び出しボタンをラインに設置して、異常が発生したときには現場リーダーが作業員のいる場所にすぐに駆け付ける仕組みを導入している。

アンドンのない物流センターでも、通常はリーダーやサブリーダーに現場を巡回させて、困ったことが起きた作業員にはその場所まで彼らを呼ぶように指導している。ところが人手が足りないとリーダーたちまで現場作業に追われてしまう。作業員がリーダーを探さなくてはならなくなる。新人を教育する余裕もなくなる。その結果、さらにラインが止まるという悪循環に陥る。

宅急便の現場でも同様の事態が起きているようだ。筆者は先日、上着だけヤマトの制服を着て、下は私服、制帽もかぶっていない、かなり高齢の宅急便ドライバーに街で出くわした。初めて見る光景だった。現場の荒廃はかなり深刻で、立て直しには時間がかかるとみている。

西濃と福通に荷物が流れる

ヤマトのネットワークからはじき出された荷物の一部は現在、西濃運輸と福山通運に流れている。ただし、商業貨物中心の両社にBtoCの宅配便だけやってほしいと依頼しても良い顔はされないため、特積みやBtoBの荷物と抱き合わせて渡して、何とか運んでもらっているという状況だ。

国土交通省「平成28年宅配便(トラック)取扱個数」を見ると、西濃「カンガルー便」の昨年実績は約1億3千万個でシェアは3・3%、福通「フクツー宅配便」は約1億2千万個の3・1%となっている。これまで大手3社の寡占化が進むのに伴いシェアを落としてきた。しかし、トレンドは反転した。両社のシェアは今後上昇していくだろう。

両社の他にも宅配便をサービスメニューに残している中堅特積みはある。これを機に宅配事業の立て直しを図ってもおかしくないところだ。しかし、恐らくは商業貨物だけで手いっぱいで、BtoCまでカバーする活力は既に失われている。宅配便の代わりに、方面別にその地域に強い中堅特積みを使う荷主は増えるが、影響は限定的だ。

一方で法人向け宅配便運賃の大幅な値上がりは、新興企業に参入余地を与えている。軽トラック企業が宅配大手よりも安い値段でネット通販貨物を請け負い、需要を掘り起こそうとしている。ただし、これらの新興企業は配送エリアが地域限定のため、大手通販は幹線輸送で各地の新興企業のセンターに荷物を送る、いわゆる“ショットガン方式”でネットワークを構築している。

人手不足は新興企業も同じだが、それでも安い運賃で現場を回せるのは、宅配大手が全国規模で大量の人数を採用するのと、その地域で数人から数十人のドライバーを集めるのとではロジックが全く違うからだ。実際、われわれ日本ロジファクトリー(NLF)のコンサルティング案件でも、中小運送会社の欠員補充レベルであれば、求人広告を打つ媒体の見直しや口コミの工夫などで今でも頭数をそろえることはできる。

例えばある運送会社は、既存社員やパート・アルバイトが、ドライバー求職者を会社に紹介して採用が決まった場合には紹介者と採用したドライバーにそれぞれ5万円の報奨金を出す社員紹介制度を導入して効果を挙げた。1万円程度では効果は薄いが、5万円まで引き上げるとかなりの反応がある。

ただし、報奨金の全額を一度に支払うと制度を悪用される恐れがあるため、入社時点で2万5千円ずつ、残りの半分は半年後そのドライバーが勤続していた場合に支払うことにしている。ドライバー1人当たり合計10万円の採用コストが必要になるが、募集広告の費用に比べればコストパフォーマンスはずっと良い。社員の紹介は定着率が高く、人材の質という点でも安心感がある。

地域限定型のネットワークであれば卸の下請け配送をメーンにしている赤帽に、週1日もしくは2日に限定して仕事を依頼し、複数の赤帽でローテーションを組むという運用もできる。つまり地域限定なら大手宅配に頼らずともラストワンマイルは構築できる。ただし、それを新興企業に任せるのではなく、荷主が自分でやるという選択肢もある。実際、アマゾンは現在、新興企業への委託と自社配送を並行して運用している。その効果次第で一気に自社配送にシフトする可能性がある。

 

第174回 事例で学ぶ現場改善:『外食チェーンH社の供給網再構築』

外食チェーンが成長の壁に直面していた。ドミナント展開の遅れから店舗納品のコストがかさんでいた。業務を委託している卸や協力物流会社の能力にも不安があった。「現状のまま出店を続けても運賃倒れになる。先がない」。社長の鶴の一言で戦略の見直しが決まった。


パートナーとは呼べない

H社は年商約120億円の外食チェーンだ。計130店舗を展開している。ざっくり言うと1店舗当たり1億円を売り上げている計算である。出店エリアは東京、名古屋、大阪、福岡の4都市だ。ただし、店舗開発の途上ということもあって、ドミナントが形成されているのは東京のみである。その東京もまだ自社センターを構えるだけの規模ではなく、卸(ベンダー)による店舗納品を行っている。

現在の店舗数は当初の出店計画を大きく下回っている。エリア内の店舗数が少ないと納品の効率が悪いため配送費が高くつく。そのために利益が出ないので思ったように店舗数を増やせない。さらに効率化が遅れる──そんなチェーン展開の“生みの苦しみ”を味わっているところである。この悪循環から何とか抜け出したいと、われわれ日本ロジファクトリー(NLF)に声が掛かった。

H社のベンダーを務めている卸のY社とは、銀行からの紹介で30店舗の時代から取引しているという。筆者はたまたまY社の名前を以前から耳にしていた。H社よりももっと規模の小さな外食チェーンや個人経営の飲食店を対象にした業務用卸という認識であった。H社の配送費が高くついているのは、出店エリアの分散や出店スピードの遅れだけでなく、ベンダーとのミスマッチという問題もありそうだと推察された。

ヒアリングを行い実態を調査したところ、ベンダーY社の売上高に占めるH社の比率は20%弱に上っていた。卸としてはかなり依存度が高かった。さらにそのY社が配送業務を委託している運送会社は、売り上げの75%がY社向けだった。しかもその運送会社は最近、運賃を12%値上げしていた。それでもドライバーの確保が滞っているようで、Y社の納品インフラが弱体化する一因となっていた。

H社は卸のY社とその下請けである運送会社の二階層にわたって協力会社から依存される状態にあった。とてもパートナーとは呼べない関係であり、欠陥構造は明らかだった。特定の荷主に依存する運送会社は、物量の波動を他の顧客の仕事で吸収することができない。工夫の余地がない。これは卸も同じである。

そもそも卸に求められる機能とは「品ぞろえ」「ロット調整」「ファイナンス」「リテールサポート」「物流」の大きく5つである。しかし、ベンダーY社は少なくとも「品ぞろえ」と「物流」の点では機能していないと評価するしかなかった。

この実態調査を受けてH社のプロジェクトが正式にキックオフした。H社の規模の外食チェーンだと、本部にいる人数は限られている。そのため社長をはじめとする幹部全員がプロジェクトメンバーとなった。最初のプロジェクトミーティングの後、われわれは今回の改善事項を次のように整理した。

 

①各エリアの最適ベンダーの選定

②各エリアの最適物流会社の選定

③出店計画の再検討

④納品カルテのリニューアル

⑤店着時間の見直し

 

①「各エリアの最適ベンダーの選定」とは、文字通りエリアごとに最適なベンダーを選ぶということだ。T社は現在、3業態5ブランドを展開している。生鮮品、加工食品、酒類に加えて、アイスクリーム、乳製品、パンを扱う店舗もあるため、幅広い品ぞろえが必要だ。本来ならば全国対応が可能で酒類も扱う大手食品卸もしくはチルドに強い大手卸1社とがっちり手を組むのが得策である。

しかし、H社のボリュームはそれにはまだ十分ではなかった。加えてH社は過去に大手卸とのトラブルを経験していた。そのことが尾を引いているようで、H社の社長は今も「大手卸との取引はごめんだ」と言う。そこで次善策として、ベンダーの商流機能と配送・納品に必要な物流機能を切り分け、エリアごとに卸と物流会社をそれぞれ選択して店舗納品網を再構築することにした。

もともとベンダーY社は全国対応の卸ではないため、以前からH社のベンダーはエリアごとにばらばらだった。それを全てリセットし、また卸が物流会社に業務を再委託することも禁止して、H社と卸、H社と物流会社がそれぞれ直接契約を結ぶ前提でパートナーを選んだ。あまり委託先を分散し過ぎてもコストが下がらないため、結局、商流については東京がA社、名古屋と大阪はまとめてB社、その他エリアがC社と3社を選んだ。

これに基づいて②「各エリアの最適物流会社の選定」に着手した。他の外食チェーンとの共同化の可能性を考慮に入れて、各エリアの候補企業をそれぞれリストアップした。といっても、外食チェーン同士が正式に手を結ぶ大掛かりな共同化を狙ったわけではなく、別々の外食チェーンが末端の配送業務を同じ運送会社に委託することで結果として共同化できればいいという発想だった。

そもそもチルドも含めた3温度帯対応となると、各エリアにそれぞれ有力な地場物流会社があり、そのエリアの食品卸とは付かず離れずの関係を築いている。コンペを開けば卸はそうした物流会社を連れてくるし、逆に物流業務を受託した物流会社が卸を紹介することもある。われわれは荷主であるH社と卸、そして物流会社が「ウイン―ウイン―ウイン」になれるベストな組み合わせを目指した。


物流優先で出店戦略を再構築

③「出店計画の再検討」は、出店ペースを向上することが狙いである。出店のスピードが停滞していたのは、物流コストの問題よりもむしろ、現在の3業態5ブランドにそれぞれ対応した店長候補とパートスタッフを確保するのに手を焼いていたことが大きかった。

そこでアプローチを改め、人材育成よりもドミナント展開を優先することにした。マーケットリサーチ上、条件をクリアしている出店エリアにはどんどん出店する。メニューや調理方法、提供方法を工夫して、店長が近隣店舗と掛け持ちすることを可能にして、現場スタッフも店舗間で融通できるようにする。そのために業態やブランドが増えることも選択肢の一つとしたのであった。

これには店舗開発側から反対意見が多く上がった。出店のハードルを下げることで外食チェーンとしての魅力が薄れてしまうことが懸念された。しかし、社長から「これも一つのプロセスだ。現状のままの出店戦略を続けていても運賃倒れになって、先がない」と鶴の一声が上がった。

さらにわれわれNLFも、ある中堅居酒屋チェーンが関東圏に集中して出店するようになった経緯や、コンビニチェーンの出店戦略を例に挙げ、東京エリアのドミナント展開に最優先で取り組むことが現在のH社には不可欠だとアドバイスした。配送効率が最も良い東京エリアを制することができないのなら、他のエリアに進出しても成功は期待できないとプロジェクトメンバーたちに訴えた。

④「納品カルテのリニューアル」は、本連載で既に何度も紹介しているテーマだが、今回のポイントは2つあった。1つは「誰もが分かり、できる」納品作業を目指し、作業手順の内容をより分かりやすくしたことだ。高齢ドライバーに配慮して文字(フォント)のサイズを1・5倍に拡大して視認性も向上させた。

もう1つは、夜間の無人納品と、昼間の有人納品の納品手順を併記したことだ。H社は全店が直営であり、店着時間に自由度があった。そこで店やルートに応じたフレキシブルな納品対応を想定したカルテを作成して、配送ルートのメンテナンスの頻度を上げて効率化を図ることにした。

これをオペレーションの裏付けとして現在、⑤「店着時間の見直し」を進めている。従来の「店着時間」を「店着時間帯」に変更して納品時間に幅を持たせ、早朝・深夜は無人納品を実施している。これに併せて配送ルートを調整したことで、納品車両の回転率が従来の1日平均2回転から現在は3回転以上に上昇している。

欧米のチェーンストアは店舗展開より先に物流センターを造るという。軍事ロジスティクスの知見が企業経営にも深く根付いている。一方、日本は国土の大きさや卸売業が発達していることも影響しているのだろうが、チェーン展開において物流は後付けである場合が多い。しかし、セブン─イレブン・ジャパンやトヨタ自動車、花王など、日本でも強い企業はどこも物流を経営戦略の最上位に位置付けていることを忘れてはならない。

 

第173回 事例で学ぶ現場改善:『大手メーカーA社の飽くなき改善活動』

物流先進企業として知られる大手メーカーからサポートの依頼を受けた。同社は優秀かつ十分な数の社内物流コンサルタントを投入して長年にわたり改善を重ねてきた。それでもまだ、自分たちの気付いていない問題はあるはずだ、新たな知見も生まれているだろうと、前進への意欲は尽きることがなかった。

年間250件の改善を積み上げる

精密機械メーカーA社は年商数兆円、関係会社を含めると世界に約10万人もの従業員を抱える大企業だ。海外売上高比率は50%を優に超え、現在生産拠点を国内に5カ所、海外に7カ所展開している。

日本国内の物流拠点は、北は北海道から南は福岡まで計6カ所に配置している。売上高に占める支払物流費の比率は4・5%。業界の中ではやや高い水準だ。同社の製品は納品時に搬入・設置作業が必要で、ツーマンでの対応が求められることが一因となっている。

A社は長年にわたって物流改善を継続し、着実にコストダウンを積み上げてきた。A社のSCM本部には、社内物流コンサルタントが現在7人常籍している。今回のプロジェクトの窓口を務めたM氏はその1人で、今のポジションに就いてからの4年間で、大小合わせて1千件以上の改善を実施したという。

それでもなお、彼らは改善努力を怠ることなく、新しい切り口を探していた。日本ロジファクトリー(NLF)にコンタクトを取ったのも、外部のコンサルタントに中立的、客観的立場からあらためて物流を診断してもらい、今後の改善活動の道筋を見つけたいとの趣旨であった。

さすがに今回はわれわれの出番はないかもしれない。話を聞いてみた上で場合によっては降板することも念頭に置いていたが、実際にメンバーに会ってみると、NLFに対する期待度は相当に高いようで、誰もが目を輝かせている。これは断れそうにないと覚悟した。

しかし、われわれに与えられたのは、わずかな時間と限られた情報のみであった。SCM本部のコンサルティング部隊の予算から捻出できるフィーは限られており、多くの人時をかけるわけにはいかなかった。いつものように現場視察とヒアリングを基に診断を行う余裕はなく、数回のプロジェクトミーティングだけで解を導き出す必要があった。

初回の打ち合わせから3日後にA社から実績データと関連資料が送られてきた。それを見て筆者は目を疑った。インターネットを検索すればすぐに見つかるレベルの表面的な情報ばかりであった。すぐさまプロジェクトリーダーのM氏に確認の連絡を入れたが、社内ルール上、それ以上の情報は出せないという。

それを聞いて、むしろ腹が据わった。われわれNLFに求められていることがあらためて確認できた。コンサルティングの進め方をいつもとは180度切り替えて、現場の実態からスタートするのではなく、A社の物流のあるべき姿を想定して、それを前提に有効と考えられる改善施策を提示することにした。

大手企業には他社を知らないプロパー社員が多いため、過去の取り組みの延長線上にある改善テーマしか出てこないという傾向がある。従って他社事例が有益となる。そこで、これまでNLFが携わってきたプロジェクトの中から、A社と売り上げ規模や取扱品、ユーザー特性、生産拠点や物流拠点の配置などが類似している事案をピックアップして、そこから類推した次のテーマをメンバーに提示した。

 

①製品・部品の直送化、清流化

②脱・物流子会社(委託比率の低減)

③調達物流の内製化

④波動の平準化

⑤ハンドリングの削減

⑥イレギュラーの削減

⑦センター立地の最適化

⑧販売物流における外部倉庫の内製化

⑨競合メーカーB社との共同物流

⑩港~物流センター間の陸上輸送コストの削減

 

メンバーたちは筆者の説明を一言も聞き漏らすまいという姿勢で耳を傾け、われわれが配布した資料に食い入るように目を通していた。これは後になって分かったことだが、SCM本部の社内コンサルは大半が生産畑の出身であり、システム、調達、販売の経験者はほぼ不在であった。そのため生産関連の物流テーマは一通り着手してきたが、販売物流については深く踏み込めておらず、潜在的な課題が残っている可能性があるとのことであった。

①「製品・部品の直送化、清流化」は、A社にとって着手済みのテーマであったが、徹底レベルは十分とはいえないという。調べてみると、欠品を防止するために、わざわざ遠方の物流センターから部品在庫を横持ち輸送しているケースが散見された。部品在庫の管理ロジックに詰めの甘さがあるようだった。

また部品だけでなく製品についても、他センターからの〝借り在庫〟の横持ちが発生していた。発生件数は部品、製品ともそれぞれ四半期に10件未満とのことであったが、正確な数字ではなかった。借り在庫の移送時にスキャン検品を実施していない場合があった。これにより作業マニュアルの一部を見直す必要のあることが判明した。

波動を増幅する営業活動にメス

②「脱・物流子会社」とは、具体的には物流子会社に対する委託比率を低減することであり、A社クラスの規模のメーカーでは、実施すれば大きなコスト削減効果を生むこともある施策だ。ご多分に漏れずA社でも、物流子会社が高収益を挙げるたびに、親会社の支払物流費が上昇する傾向が見られた。そのため委託比率を下げようという考えは以前から持っていたものの、協力物流会社の選択は各現場に任されており、委託比率は高止まりしていた。

一方で物流子会社側でも、外販比率を上げることで親会社への依存を脱し、またコスト効率を高めることで親会社に貢献することを狙ったプロジェクトに取り組んでいるようであったが、その件はSCM本部でコントロールできるとのことで、われわれNLFとしては成り行きを見守るしかなかった。

③「調達物流の内製化」という提案は、プロジェクトメンバーたちから大きな反応を得た。大手メーカーの多くが既に1次サプライヤーを対象とするミルクラン輸送には着手している。しかし、ほとんどのメーカーがその先の2次サプライヤーまではカバーできていない。筆者は一般論としてそう指摘した。

A社も例外ではなく、それまで2次サプライヤーを改善の対象とは考えていなかった。しかし、十分な物流機能を持たず、必要な人材にも事欠き、本当に物流に困っているのは、むしろ2次以降の中小企業である。といっても、サプライチェーン上の全てのサプライヤーを対象にするのは膨大な時間と手間を要するため、優先順位を付け、まずはA社に対する供給比率の高い2次サプライヤーから着手するようアドバイスした。

④「波動の平準化」でも収穫があった。かねて月度や季節などの外部要因による需要変動には、生産調整や発注点の変更などによって対応し在庫水準の適正化を図っていたが、営業部門の販売活動に起因する、内部要因による波動には手を打てていなかった。

営業担当者は顧客の注文を素直に売り上げとして計上するとは限らない。早期に予算を達成してしまうと、上司からノルマを上乗せされる恐れがある。ライバル社員や競合する部署をいたずらに刺激して、相手が〝隠し球〟を出してくれば、こちらも対抗せざるを得ず、消耗戦に陥ってしまう。

それを避けるため、当初は目立たないように少しずつ売り上げを積み上げ、締め日近くに一気に計上するパターンがよく見られる。社内競争の激しい大手は特に締め日に売り上げの計上が集中する傾向にある。結果として、物流現場は極端な波動対応を迫られることになる。大きなコストアップ要因である。

そこで特定日に出荷を集中させないように、販売部門で使用している「営業担当者別・売上計上表」をSCM本部でカスタマイズして、週別・曜日別の出荷構成比を「波動指数」として図示化した資料を販売部門の全スタッフに配信することにした。課長職以上の管理者には、出荷量の平準化によってコストを下げるよう指示も付け加えた。次のステップでは、販売部門の各セクションのリーダーと話し合い、平準化にインセンティブを設ける計画だ。

何が「イレギュラー業務」か

⑤「ハンドリングの削減」は、A社のコンサルティング部隊のメンバーたちが得意とする領域であった。工場はじめ物流センターの無駄取りとしてタッチ数の削減には以前から力を入れていた。コンサルティング部隊が手掛ける年間250件以上もの改善の多くがその関連テーマであった。

社内コンサルタントの一般的な傾向として、部分最適には目が届きやすいが、全体最適となると、当事者たちにとっては現状が見慣れた
〝風景〟となってしまい、問題意識を欠く傾向が見られる。A社も同様で、ミクロなテーマは得意でも、⑥「イレギュラーの削減」についてはプロジェクトメンバーの大半が頭の中になかった。

イレギュラー業務が発生するとコストアップになることは周知されていた。しかし、どのような業務がイレギュラーに当たるのか、さっぱりイメージできていなかったようであった。まさにイレギュラー業務がレギュラー化して、当たり前の〝風景〟となっていたのである。

各工場、物流センターにおける実態調査が必要であった。ただし、各現場のスタッフに自分たちでイレギュラー業務を特定させるのは難しい。まずはSCM本部がモデル拠点で実態を調査してイレギュラー業務の洗い出しを行い、「イレギュラー業務一覧表」を作成するよう指示を出した。

主な調査項目は時間外受注や出荷先の変更、緊急出荷や他拠点の横持ち輸送などである。調査の結果、イレギュラー業務を解消するために、作業の基本となっているマニュアルを改訂しなければならない箇所が複数見つかった。

⑦「センター立地の最適化」は、A社において過去に幾度も検証し、修正を重ねた結果として現在に至っているとのことであった。その検証方法も、着地点分析による最適立地の抽出という教科書通りのやり方であったため、NLFとしても「問題なし」と判断した。

⑧「販売物流における外部倉庫の内製化」についても、「外部倉庫は一切借りていない」というのがSCM本部の当初の認識だった。しかし、その裏付けとなる販売部門別の販売管理費の検証は行っていないとのことだった。そこで、販売管理者からのヒアリングを行うと実態が見えてくる、とアドバイスしたところ、早速着手することになった。

その結果、プロジェクト最終日に「全国8カ所で外部倉庫を賃貸している事実が判明した」との報告があった。国内に8つある販売部門がそれぞれ1カ所ずつ外部倉庫を使用している計算だ。どのような目的で外部倉庫が使用されているのか、外部倉庫をゼロ化するにはどうすればいいのか、SCM本部で検討するようアドバイスした。

当然ながら各販売部門は自分たちが外部倉庫を借りていることは分かっている。しかし、その費用はオフィスの賃貸料と一緒に勘定項目の「家賃」に含まれているため、SCM本部をはじめ他部門からは見えない。

オフィスが自社物件なのに家賃が発生していたり、家賃が相場より高額であったりする場合には、外部倉庫を借りている可能性を疑う必要がある。いわゆる〝隠れ倉庫〟である。そこには、需要予測が大きく外れてしまった、あるいは工場への発注ミスを原因とする在庫の山が眠っているはずだ。

⑨「競合メーカーB社との共同物流」の提案には、SCM本部のメンバーは否定的だった。物流費を十分吸収できる高付加価値製品を扱っているため、業界全体としても共同化の動きは鈍いという。また、A社とB社はトップシェアを争うライバル同士であり、同じ車両で納品するとなれば販売部門からの反発が避けられないとのことであった。

しかし、コスト的に差し迫った必要がなかったとしても、トラックドライバー不足によって安定供給が脅かされている現状と、同業界におけるA社のポジショニングを考慮すれば、共同物流を検討しないという選択肢はあり得ないと、われわれNLFは主張した。

A社は物流子会社を持っている。一方のB社は物流子会社を持たず、専業のM物流に業務を全面的に委託している。A社とB社の物流を統合すれば、圧倒的な業界シェアを誇るベースカーゴとなる。それをA社の物流子会社が管理する。同社はノンアセット型であるため、配送実務をM物流に委託すればいい。

実はわれわれNLFにはM物流をサポートした経験があり、その実情は分かっている。B社の季節波動の大きさに苦慮しており、同社に対する依存度を下げるため、新規荷主の開拓に力を入れているところだ。それだけにB社には安定供給への危機感がある。A社から共同化を打診すればむげに断ることはないだろう。

ただし、A社の物流子会社はA社の社名を冠している。そのままではB社も乗れない。A社の子会社の社名を変更してB社からの出資を仰ぐ、あるいはB社と合弁で新会社を設立するといった配慮が必要になる。そこは業界最大手であるA社の考え方次第であろう。

⑩「港~物流センター間の陸上輸送コストの削減」は、NLFが入る直前にSCM本部がプロジェクトを終えたばかりのテーマであった。東京、大阪、福岡で拠点の立地を最適化した。今後、拠点の拡張が必要になるか、あるいは優良な倉庫物件が出て来た際にあらためて検討したいとのことであった。

こうしてA社のプロジェクトは予想していた以上の収穫を得ることができた。どんなに優れた企業でも、優秀なスタッフが十分な管理体制を敷いていたとしても、組織の内部に居ては気付かないこと、外部からでなくては見えない風景が必ずあるということを、筆者はあらためて確認したのであった。

 

第172回 事例で学ぶ現場改善:『運送会社R社の値上げ交渉支援』

長年取引のある主要荷主がコストアップの転嫁を認めてくれない。時間外出荷の増加で現場の残業代も増えているのに、その分さえ請求できない。先代から事業を引き継いだ運送会社の若き2代目社長は覚悟を決めた。同社の値上げ交渉をサポートすることが今回のコンサルティングの大きな目的だった。

38歳の2代目社長と向き合う

R社は年商約25億円の運送会社だ。本社は大阪だが、千葉にも営業所を置いている。大量輸送が得意で、4トン、10トン、10トン増トン、セミトレーラー、フルトレーラー合計約200台と海上コンテナシャシーを所有している。事業ごとに別会社をつくって運営しており①メーン荷主事業②コンテナ輸送事業③貨物取扱事業④新規開拓・育成事業──を分社化している。
ある人物の紹介でR社のK社長と会うことになった。弱冠38歳の2代目社長であった。依頼内容は大きく二つ。「メーン荷主事業における先方との話し合い・交渉のやり方を助言してもらいたい」「新規開拓・育成事業の傭車先を紹介してもらいたい」というものだ。われわれ日本ロジファクトリー(NLF)にとっては一般的な依頼内容だが、コンサルティングに入る前に、R社およびK社長がわれわれのアドバイスをどれだけ消化できるのか把握しておく必要があった。
初対面時に社長室へ通されて2時間余り話し合った。その結果、次のことが分かった。

 

  • K社長の父親がまだ会長として残っているものの、経営のほぼ全権が既にK社長に委ねられている
  • 優秀かつ行動力のあるM専務が番頭役として会社の発展に大きく寄与している
  • 4つの事業会社のうち「メーン荷主事業」と「新規開拓・育成事業」は転換期を迎えており、課題・問題点も多い
  • K社長なりに将来ビジョンを描いている(資料でも確認済み)

 

K社長は父親と同じ高級外車を所有し、通常は来客用の駐車スペースに使うであろう正面玄関前に自分の車を止めていた。社長室にはK社長の学生時代のものと思われるサッカーのトロフィーやゴルフバッグなどが置かれている。多少の公私混同もなんのその。古株や周囲から少々のことを言われても気にしない。こびることもしない。そんな様子がうかがえた。それでいてドライバー表彰制度を採用しているようで、本社の入り口には表彰者を飾った大きな銀のプレートが展示されていた。
K社長は異業種で約3年間修行していたこともあり、考え方や課題認識も一般的な2代目とはかなり違っていた。運送会社の2代目社長と話す機会は多いが、そのほとんどが40代から50代だ。30代はさすがに少ない。筆者が年を取ったせいもあるだろうが、『新世代』との印象を強く受けた。
しかし、嫌な感じはしなかった。真面目に経営に取り組んでいる様子は伝わってくるし、何事もスマートであり、切り替えが早い。いずれにせよ、R社の将来を生き生きと語るK社長の表情を見ていて、この会社はまだまだ伸びるという手応えを感じることができた。
初回の訪問から間もなく、1回目のプロジェクトミーティングを開催した。K社長とM専務のほか、R社の主だった幹部たちが参加した。この席でわれわれNLFから、新規開拓・育成事業の傭車先候補をリストアップした資料を提示した。いずれもK社長、M専務が知らない物流会社ばかりのようであった。
そのうち特に関心が強かった3社には、その場で筆者が連絡を入れて、そのままM専務につないだ。続いてM専務は「ちょうど来週上京する用事があるのでその際に3社を訪問してきます」と言う。行動が早く、手際が良い。
一方、K社長はメーン荷主事業に注力していた。荷主は先代から取引のある大手メーカーの物流子会社A社だが、コストアップの転嫁を認めてくれず、収益が悪化していた。現場スタッフの残業時間も増え続けていた。時間外受注の増加が理由であった。
そのためR社から荷主に対して値上げと配車係兼運行管理者として1人増員することを申し出たが、「今はコストを掛けられない」とはねつけられた。その後も何度か話を持ち掛けているが話し合いに乗ってくれないという。
そこで筆者からは次の5つをK社長にアドバイスした。

 

①書面で提案、要望を出す

②現在の残業時間を集計して表にする

③労働基準法に抵触するレベルを説明する

④残業増加分をコスト増として金額(人件費)ベースで表す

⑤書面の宛先は物流子会社の責任者だけでなく、荷主である親会社の担当役員との連名にして提出する

 

親会社の担当役員の名前を出されることで、物流子会社の責任者は社内的立場が悪くなるかもしれない。相当な強硬手段といえる。しかし、K社長、M専務ともに反対はしなかった。それだけ背に腹は代えられない状況に追い込まれていたのである。交渉が不調に終われば、A社の仕事から撤退することも考える必要があった。

落としどころを設定する

それから数日後、2回目のミーティングを開いた。まずはM専務から新規開拓・育成事業の状況報告があった。1回目のミーティングでNLFから紹介した傭車先候補の3社には、大手精密機械メーカーから受託した保管・配送業務を委託する見込みで、来月からトライアルを開始するという。
それと同時にM専務は、その3社についてそれぞれ対応できない業務、依頼しない方がいい業務をしっかりと押さえていた。NLFから傭車先を紹介しても、電話一本で相手に要望を伝えるだけで済ませてしまおうとする会社が多い中、R社は専務が直接各社を訪問して現場を確かめている。そうした違いが長期的に大きな差となって表れてくるのである。
続いてメーン荷主事業のてこ入れに当たっているK社長から報告があった。NLFからアドバイスした5項目に従って資料を準備し、物流子会社A社の責任者と話し合いの場を設けた。先方は苦虫をかみつぶしたような表情でしばらく要望書を見た後、「R社の要望は分かったので月末くらいまで時間が欲しい」との返事であった。
これを受けてプロジェクトメンバーでA社との交渉の〝落としどころ〟を検討した。条件面では配車係兼運行管理者の増員を見送る代わりに、これまでR社側で負担していた現場の残業代を負担してもらう、そして時間外出荷の件数自体が減るようA社から親会社に要請してもらうのが得策と判断した。
先方が受け入れやすいように、過去の未払い残業代については請求しないことにした。また昨今の状況であればA社の親会社も、物流現場の人手不足で締め時間後の出荷には対応できないという説明には一定の理解を示すはずだ。
この線で交渉の資料を急ぎ作成した。料金面では、値上げ提示額の約半分で妥結する、いわゆる〝中落とし〟が多いことから、そこから逆算してパーセンテージを決め、新たな費用項目として「管理費」を設定した。その後、R社から口頭レベルで提案内容をA社側に事前打診し、大筋の合意を得ることができた。大きな前進であった。

初の全国案件を受託

3回目のミーティングは、K社長が急遽、M専務と千葉で合流して重要な打ち合わせに出なければならなくなったとのことで、いったん延期になった。R社にとっては良い話だったようで、スケジュールを変更して開催された3回目のミーティングで二つのビッグニュースが報告された。
一つは新規開拓・育成事業における大型案件の受託である。大手精密機器メーカーのL社から、日ごろのR社の真面目な仕事ぶりと、汚破損がないなどの輸送品質が評価されて、千葉エリアの配送だけでなく、全国の配送を委託されることになったという。
もう一つはメーン荷主事業である。K社長が値上げ交渉をしていた物流子会社の責任者から、〝中落とし〟で応じるとの連絡が入った。こちらの思惑通りの展開である。社長と専務が両輪となって真摯に経営に取り組み、果敢に行動することで、良い結果が付いてきた。
とはいえ喜んでばかりもいられない。全国規模の傭車ネットワークを早急に構築する必要がある。これをサポートするため、われわれNLFも傭車先候補のリストアップの範囲を拡大した。NLFの既存ネットワーク先のほか、各エリアの運送会社のホームページをチェックして、精密機械の取り扱い実績のある運送会社をスクリーニングした。
条件を満たしている会社があれば、NLFのスタッフが実際に連絡を入れて詳細を尋ねる。ホームページに実績として掲載されている場合でも、既に契約が終了してエアサス車などの必要な資産を売却していたり、あるいはスキルのあるドライバーが退社していたりするケースが実際にはかなりある。その有無を確認する。
また連絡を入れた物流会社が自分では対応できなくても、対応可能な地元の会社を紹介してくれることがある。そうした情報が思いのほか有効であることを、われわれは過去の経験から学んでいる。

こうしてR社は主要荷主との値上げ交渉を成功させた。新規開拓・育成事業も、L社から受託した全国配送が軌道に乗れば成長に弾みがつく。足元の好景気の後押しも受け、R社は2代目社長が牽引する〝第二の成長期〟に入った可能性がある。

 

第171回 事例で学ぶ現場改善:『輸入卸Y社のキャパオーバー収拾』

物量とアイテム数が急激に増えている。新規顧客や新業態との取引も次々に始まっている。
キャパオーバーで物流センターは大混乱に陥っていった。棚から商品があふれ出し、通路も判然としない状況だ。生産性の向上や最適化に取り掛かる前に、まずは事態を収拾する必要があった。

広大な平屋倉庫に7万アイテム
Y社は年商約300億円の卸売業者だ。主力は家具とインテリア雑貨類で、取り扱いアイテム数は約7万に上る。東北に本社を置き、隣接して大型の物流センターを構えている。海外メーカーからの仕入れが約6割、国内メーカー・卸からの仕入れが4割で、やや貿易商社的な色合いの強い卸といえる。本社の他に東京、大阪、名古屋にそれぞれ営業拠点を展開している。販売先は通販をはじめアパレル小売り、ドラッグストア、量販店、コンビニエンスストア、さらには卸売業にも販売しており、フルチャネルであった。
Y社の物流担当役員から連絡が入り、2つの要望が伝えられた。1つは「物量の増加でセンターがキャパオーバーになっている。早急に正常化を果たしたい」というもの。もう1 つは「これから新しい業態への供給が始まり、取り扱い規模がさらに大きくなる。これを機にあらためて物流をどうすればいいか考えたい」とのことであった。
連絡を受けてから数日後に早速、現地に向かった。物流センターは延べ床面積約1万2千坪という規模ながら平屋であった。庫内作業は全て自社で行っており、配送は全て路線会社に委託していた。WMS(倉庫管理システム)はパッケージ品をカスタマイズしたものが導入されており、入出荷や在庫管理などの基本的な機能はクリアしていた。
しかし、インターネット通販の拡大に伴い雑貨類の取り扱いが年々増えており、荷姿の小型化、出荷の小口化が進み、保管方法を考えあぐねているようだった。棚やパレットラックから多くの商品がはみ出し、通路も判然としないほど現場はごった返していた。広大な平屋の庫内はどこに何が置かれているのか、素人目にはさっぱり分からない。
センターの現場責任者によると、物量の増加が続き、目の前の作業に追われるばかりで、とても改善まで手が回らないとのことであった。われわれはセンターを全てつくり直すつもりで現場を診断することになった。その結果、100を超える改善項目が挙がったが、最重要テーマは次の8点だった。

①フロアデザインの抜本的見直し
②商品特性に合致する保管方法の選択
③フリーロケーション比率の拡大
④ピッキング方法の変更
⑤商品マスターの管理精度向上
⑥大ロット品の直送化
⑦海外調達品のセンター納品仕分けの現地化
⑧レイバーコントロールの強化

①「フロアデザインの抜本的見直し」とは、この場合、ワンフロアの平屋であるため、セ ンターのゾーニング、ロケーション、レイアウトをあらためて設計することであった。現状では、新しく追加されたアイテムは「とりあえず保管できるところに保管する」という管理になっていた。どこに何が置かれているのか分からないのも当然であった。
そこでまずは商品マスターを整理してカテゴリー分けを見直し、その結果を基にゾーニングを決めた。アルファベットのABC順にエリアを区分して、主力の「家具」から「インテリア雑貨」「アパレル品」「日用雑貨品」「食品」「その他」と振り分けていった。
本来であればカテゴリーではなく各アイテムの出荷特性を基にロケーションを設定した方が作業効率は上がるのだが、とりあえずは上位概念で整理しなければ収拾が付きそうになかった。
そして庫内の遠くからでもよく見えるように縦1・5メートル×横1・8メートルの大型のつり看板にゾーン記号を表示した。同様に中量ラック・軽量ラックも、ラックの側面に大きく記号を表示して視認性の向上に配慮した。
②「商品特性に合致する保管方法の選択」は、スペースの有効利用と小ロット対応を両立させることがポイントになる。これも保管方法を検討する前にアイテム別の適正在庫量を算出するのが理想であったが、その時間的余裕がなかったため、ひとまずアイテム別の実在庫量に見合った保管容積(立方メートル)をチェックして、必要なスペースを計算した。
そして、各アイテムの荷姿と出荷単位から、パレットに保管するものと、ケース保管するものを整理した。「家具」の他に「インテリア雑貨」「アパレル品」はケース出荷を基本としているため、パレット荷物を多段積みするための「ネステナー」などのラックを使って原則としてパレットで保管する。
ピース単位や中箱単位の出荷がある「日用雑貨品」「食品」には中量棚・軽量棚を使う。
その際に小ロットで保管するアイテムはブックエンドで棚を間仕切りすることで棚幅を圧縮して、スペースの空きが出ないようにした。また補充用の在庫は可能な限り、パレットで保管することにした。

“リレー式ピッキング”を導入
③「フリーロケーション」とは、アイテムごとに保管する棚を固定するのではなく、入荷した商品在庫を空いている棚やスペースに自由に格納して、システムでロケーションを管理する方法だ。固定ロケーションと比べてスペースを有効活用できる。
同センターでは、高回転のアイテムにフリーロケーションを適用していた。至って正攻法といえる。ただし、スペースが足りていなかった。そこでフリーロケーションエリアを拡大し、かつ他のエリアとの区切りを明確化した。これによってフリーロケーションで対応できるアイテムの割合率がアップしただけでなく、ピッキング作業の動線短縮にもつながった。
④「ピッキング方法の変更」も作業動線の短縮が狙いである。従来は1オーダーごとに作業員1人で全ての商品をピッキングする、いわば〝1オーダー完結型〟のオーダーピッキングを採用していた。しかし、アイテム数の増加に伴い、保管エリアが拡大かつ分散して動線が長く延びていた。
そこでエリアごとにピッキングの担当者を分けて、1つのオーダーを複数の作業員がリレー式に分担してピッキングする方法に変更した。ピッキングリストは1オーダーに付き1枚もしくは1セットだけ出力する。自分の持ち分のピッキングを終えた作業員はリストに完了のサインをして、次のエリアの作業員にリストと台車・ピッキングカートを渡す。
リレー用の〝中継エリア〟を新たに設ける必要があったため、スペースの捻出には苦慮した。しかし、担当エリアを分けることでピッキングのために広い庫内を歩き回らずに済むようになり、作業員の肉体的な負担は大きく軽減され、かつ生産性が向上した。
⑤「商品マスターの管理精度向上」は、本来は商品の改廃を担当する商品部の管轄だ。
しかし、アイテムが増えていることもあって、新製品の投入や終売を商品マスターに反映する作業が遅れがちになっており、それが出荷精度にも影響を与え始めていた。商品マスターに登録されていない新製品が入荷されて、検品作業がストップしてしまうこともあった。
そこで、商品部に掛け合って、物流センターに未登録品が入荷された場合には、その場で商品マスターを登録できるようにした。商品マスターの改廃を入力するパートスタッフも増員し、全社的にリアルタイムの商品管理を目指すことになった。

直送の推進でセンター負荷軽減
⑥「大ロット品の直送化」にも取り組んだ。従来は海外調達品を含め全ての商品をいったん東北にある物流センターに入荷していた。しかし、同社の販売先には大手が多く、センター納品の割合は50%を超えている。
そこで10トン単位のオーダーはY社のセンターまで引っ張らずに、納品先の最寄港で荷揚げし、港でデバンニングを行って10トン車でセンター納品を行うフローに変更した。直送の対象は検品が不要な商品に限定されるが、ドレージ料金、トラック運賃の削減に加えて、リードタイムの短縮にもつながっている。
何より直送化を進めることで、キャパオーバーとなっているY社の物流センターの業務負荷を軽減できたことが大きい。さらに現在は大手の販売先に対して、インセンティブ制度を設けて陸揚げしたコンテナをデバンニングせずに直接センターに納品する交渉を行っている。
⑦「海外調達品のセンター納品仕分けの現地化」も直送比率を上げるための取り組みだ。具体的にはベトナムとタイで調達している製品を、現地で納品先別に仕分けて得意先のラベルまで添付した状態でコンテナに詰めて日本に送る。そのためにY社の物流部門のスタッフを現地に出張させて作業の指導を行った。これにより日本国内のセンター内作業を約24%削減することできた。
最後の⑧「レイバーコントロールの強化」は、われわれ日本ロジファクトリー(NLF)がコンサルティングに入る前から同センターで取り組んでいた項目だが、うまく機能していなかった。理由としては①現場の旗振り役不在②外国人労働者とのコミュニケーション不足③物量予測の難しさ──が挙げられる。
このうち、①と②は、詰まるところ人材不足、人手不足であり、③の物量予測も、Y社の場合は急成長に加え、新規顧客、新業態との取引が次々と始まることから、過去の実績データがほとんど役に立たないという事情があった。特効薬を見つけるのは困難であった。
これもとりあえずの対応策として、足元の物量と作業生産性をベースに必要な人時(人数×時間)を算出したところ、現状の投入人数では絶対的にマンパワーが足りないことが判明した。そのために作業品質が悪化し、それがまた生産性を悪化させるという悪循環になっていた。まずは大幅な増員が必要だった。
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一連の改革によって、何とかキャパオーバーによる混乱を終息させるめどは立った。次のステップでようやく最適化に取り掛かる。大がかりなシステムの改修と端末の刷新は避けられないところだろう。

第170回 事例で学ぶ現場改善:『建材メーカーM社のセンター費削減』

親会社の担当役員が支払物流費の削減に目を付けた。しかし、前回の大規模な改善プロジェクトから5年しかたっていない。しかも、物流業務の委託先は親会社の物流子会社、つまりグループ会社だ。コンペを開いて別の委託先に切り替えるわけにはいかない。打ち手はあるだろうか。

親会社の物流子会社が委託先
M社は老舗の企業グループに属する建設資材メーカーだ。年商は約300億円。生産工 場を海外に1カ所、国内に1カ所それぞれ所有している。物流拠点は国内工場に隣接してマザーセンターを1カ所、他にストックポイントを全国6カ所に配置している。
同社は5年前にも大掛かりなコスト削減プロジェクトを実施している。再びプロジェクトを発足させることになったのは、M社の費用項目の中でも大きな割合を占める支払物流費が、新任の親会社の担当役員の目に留まったからであった。
M社としては、無駄なコストは掛けていないはずだと担当役員に掛け合ったが納得してもらえず、外部の専門家としてわれわれ日本ロジファクトリー(NLF)を招いて、客観的に判断させることになった。
ただし、M社には物流の委託先を見直すという選択肢がなかった。親会社の物流子会社、M社から見ればグループ会社にマザーセンターの運営を委託していたからだ。これは物流コスト削減を目的としたプロジェクトにとっては厄介な制約であった。
面通しと概要のヒアリングを行った後、本社工場と隣接するマザーセンターを見学した。
工場内の床面にはさまざまなアンダーラインが引かれており、これまでかなり改善活動を重ねてきていることがうかがえた。
われわれを案内してくれたM社の窓口のN氏は、5年前のプロジェクトでも事務局を務めたそうで、さすがに種々の状況や背景を熟知していた。職歴としても物流が最も長いという。今回のプロジェクトに関してもN氏なりの仮説をいくつか持っているようで、場内を案内し、説明する言葉の端々にそのことが感じられた。
この日の現場見学とヒアリング、後日M社から提出された実績データを基に、われわれNLFで改善テーマを抽出してM社に提示した。次に挙げるのはその一部である。

①出荷頻度ABC分析
②ラックの増設
③倉庫拠点の集約
④フォークリフト台数の適正化
⑤庫内の照度アップ
⑥入出庫料の変動費化
⑦待機車両の削減

①「出荷頻度ABC分析」はロケーション、レイアウトの見直しと動線の短縮が狙いである。同センターはそれまでの改善活動によって、エリアレベルの整理はできていた。
しかし、その結果として部分最適に陥っていた。倉庫スペースを全体として見るといびつな形になっていた。フォークリフトの通路にラックが凸凹にはみ出し、安全に走行できる状態ではなかった。
まずは同センターではこれまで未着手であった出荷頻度のABC分析を実施した。その分析結果を基に、ゼロベースでゾーン組み、ロケーション、レイアウトを再設計した。
その結果、フォークリフト作業の死角が一掃されて人時生産性は約25%向上した。
無題
②「ラックの増設」は当然ながら保管効率の向上が目的だ。保管量、保管アイテムに対して重量ラック、中量ラックが不足していた。そのためパレットに平積みで保管するエリアが必要以上に広くなっていた。保管量とラックの高さも合っていなかった。多くのラックが大量の〝空気〟を保管しているような状態だった。
そこで必要在庫日数から適正在庫量を算出し、その容積から適正なラックのサイズをあらためて設定した。そしてラックの高さに保管量を合わせるのではなく、適正な在庫量に合わせてラックを配置するようにした。
長尺物を立てた状態で保管するか、それとも横にするのか、保管方法を定めていないこともスペースの無駄を生んでいる一因であった。この点に対しては、重量物は横置き、人の力でピッキングできる20キログラム以下の長尺物は縦置きというルールを設定し、それに見合ったラックを新たに12基投入した。その結果生み出されたスペースには、それまで外部の賃貸倉庫に保管していた製品を移管することにした。
一連の改善でセンターの光景は驚くほど変わった。真っすぐに並んだラックに製品がびっしりと収められている。壮大な岸壁を見ているかのようであった。

フォークリフトが多過ぎる
これを受けてさらに③「倉庫拠点の集約」を行った。M社では数年前に生産の一部を海外移管した影響で国内工場の稼働率が低下していた。その結果、新たに生産ラインだけでなく、工場の資材置き場などにも空きが目立つようになっていた。
従来はマザーセンターで保管していた製品在庫の約4分の1を工場内の空きスペースに移管した。グループ物流会社が運営するマザーセンターで保管すれば、当然ながら入出庫料や保管料が発生する。自社倉庫内であれば支払物流費が発生しない。少なくとも保管料は事実上無料になる。
製造機能と物流機能をできる限り併設させて、直送比率を上げることは、メーカー物流の基本戦略の一つでもある。M社もその戦略を踏襲して工場内への物流内製化を推し進めたわけである。それと同時にグループ物流会社に対しては、空いたスペースをM社以外への外販によって埋めてもらうよう提案した。いくら身内であっても、それくらいは伝えておくべきだという判断だ。
④「フォークリフト台数の適正化」は、現場を一目見れば必要であることが明らかだった。とにかく多い。数えると52台あり、あちらこちらに遊休車両が目立った。しかもM社所有のリフトと物流子会社所有のリフトが混在している。台数調整が行われていなかった。
そこでまず「リフト車両管理表」から修理費が多く掛かっている車両、再リースで老朽化している車両を抽出した。それと並行して各作業員の業務内容を確認し、リフトを使用する時間帯を整理した結果、52台中15台を削減できることが分かった。作業スペースが小さくて済むリーチリフトを残し、カウンターリフトを中心にカットした。中期的には、庫外はカウンター、庫内ではリーチを使用するように運用ルールを変更する計画だ。
それによって庫内の通路幅を1000ミリメートル圧縮することができる。保管スペースをより広く取れる。
⑤「庫内の照度アップ」も中期テーマの一つである。他のセンターでもよく見られることだが、同センターは照明に水銀灯を使用しているため、庫内全体が薄暗い。照度を上げるには電気工事が必要なので、すぐに着手することはできなかったが、250ルクス以上を確保する必要がある。
視認性の向上は、これからの物流センター運営には絶対欠かせない条件の一つだ。照度の問題のみならず、ロケーション番号や注意事項などの表示物、掲示物の文字拡大、ビジュアル化の強化などを進める必要がある。誰もが分かる・できる現場づくりによって、初心者や高齢者、外国人労働者を戦力化し、人手不足に対応するのである。
⑥「入出庫料の変動費化」が改善テーマに挙がることはそう多くない。入出庫料は出来高制が普通だからである。ところがM社は月額固定制にして、グループ物流会社の収入を保証していた。身内を甘やかす格好であった。固定制では作業生産性の向上に対する
動機付けが働かない。そこでわれわれNLFで重量当たり・長さ当たりの入出庫料を設定し、グループ物流会社と数回に及ぶ話し合いの末、承諾を取り付けた。
⑦「待機車両の削減」は、すぐにはコスト削減にはつながらなくても、ドライバー不足の深刻化で今後ますます重要性が増していくテーマである。M社の現場には〝車両は待たせて当たり前〟という風潮が見られた。実際、荷受け待ち・出荷待ちで長時間待機している車両がかなり目立った。
そこで、平常時は着車から60分以内、繁忙月(3月、9月)は1時間30分以内に車両を出発させるという目標値を設定した。今のところ、かなり改善が見られる。しかし、時間がたてば元に戻ってしまう可能性もある。その場合には、M社とグループ物流会社の契約書あるいは「SLA(サービス・レベル・アグリーメント)」にこの問題を反映させる考えだ。
こうしてM社の改善は進んでいる。5年前に実施したプロジェクトの効果が完全に風化していたわけではない。それでも結論から言えばコスト削減の余地はまだ残されていた。
これから運賃はさらに上がっていく可能性が高い。今後も引き続き工夫を重ねていく必要がある。