第202回 事例で学ぶ現場改善:『電子部品メーカーH社の物流最適化』

荷主企業が自社運営する物流センターの改善プロジェクトを支援した。現場を視察したところ管理レベルは水準には達している。従来から自力で改善活動に取り組んできたというのは本当だろう。それでも課題は少なくなかった。プロジェクトを進めていくうちに隠れていた問題点も見えてきた。

 

経営トップが物流を最重要課題に

H社は年商約60億円の電子部品メーカーだ。関東に本社工場を構え、そこから約3キロメートルの場所に物流センターを置いている。物流センターは自社運営で建物は借貸している。他に滞留品用の保管倉庫を物流センター周辺にいくつか借りている。

取扱アイテム数は約3500。製品本体以外にも付属品や細かな部材があるため、メーカーとしては品目数が多い。その約半分を自社工場で生産して、残り半分は外部に生産を委託している。

H社は品質管理部門の責任者をリーダーとする物流最適化プロジェクトを組織した。2代目社長の経営トップは、同プロジェクトを経営の最重要課題として位置付けた。われわれ日本ロジファクトリー(NLF)がそのサポート役を務めることになった。

初回の打ち合わせで経営トップからは、商品の保管の仕方、庫内オペレーション、社員の物流教育についてのリクエストがあった。またプロジェクト期間は1年間と設定された。一方、品質管理責任者のプロジェクトリーダーは、作業生産性の向上、在庫差異の解消、誤出荷のゼロ化を目的として掲げた。

それから数日後、筆者をはじめNLFのメンバーは現場視察や担当者へのヒアリングなどの実態調査を開始した。断続的ではあるが従来からH社は自社で改善活動に取り組んできたとのことで、基本~中級レベルの課題はおおよそクリアできているようであった。

それでも部外者の、われわれNLFの目でH社の物流の現状を見直したところ、70項目に上る改善テーマが抽出された。その一部を抜粋すると以下の通りである。

●作業生産性に関する項目

①六つの「ない」(持たせない/書かせない/歩かせない/待たせない/考えさせない/探させない)の実践による作業生産性の向上

②出荷頻度ABC分析によるロケーション、レイアウトの作成

③レイバーコントロールの実践

④バッチ処理の見直しによる作業生産性の向上

⑤ロケーション番号、掲示物の拡大による視認性と作業生産性向上

 

●在庫差異の解消に関する項目

⑥棚卸方法の見直し

⑦盗難防止

⑧実棚卸手順の見直し

⑨入荷数量検品の実施

 

●誤出荷のゼロ化に関する項目

⑩専任出荷検品者の設置

⑪〝たすき掛け〟検品の実施

⑫〝読み上げ〟検品の実施

 

●その他の項目

⑬ネステナーを中間プラグで強化して段積み

⑭元箱管理による先入れ先出し徹底

⑮カッターの使用禁止による安心・安全な作業環境づくり

⑯適正在庫、発注点の見直し

⑰在庫集約による横持ち輸送の解消と在庫一元管理

⑱デッドストック(死蔵在庫)、スリーピングストック(滞留在庫)の定義付け

⑲在庫コントローラーの設置

⑳〝タテパレ(パレットを立て置きすること)〟の禁止

H社のトップは、右に挙げた項目全てを従来の改善活動で積み残してきた課題であると認定して、今回のプロジェクトで着手することを決めた。以下に本稿ではポイントを絞り込んでその一端を紹介する。

「②出荷頻度ABC分析によるロケーション、レイアウトの作成」は、作業生産性と作業品質の向上、そして“逃がし在庫”の削減が狙いである。“逃し在庫”とは、保管ラックの決められた棚番地に収まりきれなかったため、本来とは違う棚に置いている在庫のことである。

逃がし在庫が発生した原因は二つあった。一つは在庫過剰であり、もうひとつはロケーションを設計する際に、保管する在庫の体積(立法センチメートル)を算出していなかったことであった。これを解消するために、各SKUの体積を考慮したロケーションの再設計と、本稿で後から説明する「適正在庫、発注点の見直し」を実施することになった。

 

現場の労務管理が甘過ぎる

「③レイバーコントロールの実践」はH社にとって必須の改善項目であった。自社運営の物流センターにありがちなことだが、レイバーコントロールに甘さがあった。というよりも、レイバーコントロールを実施していなかった。パートも含めて現場スタッフ全員が同じ時間に出勤し、退社していた。曜日によって投入人数を変えることもなかった。

つまりシフト制を採用しておらず、物量の変動に合わせて投入する人時を調整する機能を持ち得ていなかった。現場の管理責任者は、直接雇用のパート人件費や勤務時間の安定が、労務管理の目的だと錯覚していた。

もっともH社には伝統的に雇用の安定を重視する文化があり、パートといえども例外ではなかった。それはH社の長所でもあるため、まずは初級レベルのレイバーコントロールから着手して、企業カルチャーを傷つけないように慎重に改善を進めている。

「⑤ロケーション番号、掲示物の拡大による視認性と作業生産性向上」については、H社の場合、従来から意識されていたようで現状に大きな問題なかった。それでも今回のプロジェクトを良い機会として、将来の高齢化に向けて掲示物の文字やロケーション番号の表記を拡大して見やすくしておくのが得策と判断した。

「⑥棚卸方法の見直し」は、在庫精度を向上すると共に棚卸業務にかかっている人件費の抑制が目的である。H社ではこれまで、現場を動かしたままの状態で毎日循環棚卸を実施していた。それを改めて、入出荷をはじめとする全ての作業を終了させてから、在庫をカウントすることにした。

1カ月で全アイテムをカバーするために、循環棚卸の対象を1日平均160アイテムに設定、棚卸作業に必要な人時を算出して残業が発生しないように、つまり終業時間までにその日の棚卸しが終わるように、スケジューリングした。

「⑦盗難防止」は残念なことではあるが、在庫差異の解消には必要な施策である。実際、あまり表に出ないだけで、庫内作業員による在庫の盗難は多くのセンターで発生している。そのため気になる現場では筆者は必ず「メルカリやアマゾンのサイトで自社の商品が売られていませんか」と尋ねるようにしている。

この問題は現場の管理者よりもむしろ経営トップの方がよく認識している。経営トップが「実はウチも‥‥」と、物流現場から流失したと考えられる横流し品がネットで販売されていたことを打ち明けて、周囲のスタッフが「そうなんですか!」と驚く光景を何度か目の当たりにしている。

その出所は深く詮索せずに“何らかの理由”で不要になった在庫を引き取り、同業他社やバッタ屋などに転売するブローカーは、“せどり”と呼ばれて昔から存在していたが、ECの普及でBtoBマーケットプレースなどが乱立するようになって、その裾野が広がっている。注意した方がよい。

「⑨入荷数量検品の実施」は当たり前のように聞こえるかもしれないが、H社の場合、海外調達品は現地から出荷する時点でチェックがあり、コンテナのまま入荷するため、数量差異があったとしてもまれであることから、入荷時に品質検品はやるが、数量検品は行っていなかった。

しかし、試しに国内で生産や組み立てを委託している外注先の一部商品を対象に、入荷数量検品を行ってみたところ、その初日から2件の数量違いが発覚した。これもまた在庫差異が発生する一因であった。そこで対象商品を絞り込んで数量検品を実施することにした。

「⑩専任出荷検品者の設置」も検品精度の向上には効果的である。ピッキング作業員による自己検品と、梱包作業員による検品のダブルチェックを実施しても、“ながら検品”となってしまい、責任の所在も不明確になってうまく機能しないことがある。

ただし、専任担当者を設置するとレイバーコントロールに制約ができて人件費が上昇する恐れがある。H社は現状、品質優先であることから実施したが、今後環境が変わることもある。そのためピッカーとは別の作業員が検品する「⑪“たすき掛け”検品の実施」や「⑫“読み上げ”検品の実施」を並行して進めている。

「⑬ネステナーを中間プラグで強化して段積み」は、従来からフロアの一部で実施していたが、それを全フロアで展開する。“空気保管”が解消されて保管効率が大幅に向上する。現在、その効果をシミュレーションしている。

 

「在庫コントローラー」の導入

「⑯適正在庫、発注点の見直し」は、筆者が現場を見てあまりにも在庫が多いため、その原因を追及していった結果、H社の担当者に当初ヒアリングした内容と実態が違っていることが判明したことから加わった施策である。

当初、発注点管理や購買ロットの調整、交渉は当プロジェクトの前に実施済みだと聞いていた。しかし、現場で在庫量を確認したところ平均3カ月分あるという。さらに、その内訳を尋ねると、トップが自ら売れると判断してコンテナ買いしたが、売れ残ってしまった滞留在庫などがかなり含まれているらしい。

これを整理するために、調達先メーカーへの返品、需要予測ロジックの見直し、発注点の算出方法の見直し、また後ほど説明する専任の「在庫管理コントローラー」の設置などの方法を現在それぞれ検討中である。

「⑰在庫集約による横持ち輸送の解消と在庫一元管理」は、打ち合わせの初期段階で「従来は6カ所に分散していた滞留在庫の保管場所を3カ所にまとめることができたばかり」という情報が入っていた。つまり集約してから間がなかったため、短期テーマには組み入れなかった。しかし、本来であれば重要項目である。前述の一連の在庫削減施策にめどがつき次第着手する予定である。

「⑱デッドストック(死蔵在庫)、スリーピングストック(滞留在庫)の定義付け」は、在庫リスクの見える化と、H社の社員たちに在庫削減意識を醸成することを狙ったものである。

筆者としては、これを今回のプロジェクトで最も重要な施策と考えている。社員たちの物流に対する認識にH社のウイークポイントがあるとみているからだ。そこで単に在庫を定義するだけでなく、それに続いて定義を社内で共有し、さらには生販物連絡(調整)会議を推進することで改善を進めていく計画だ。

「⑲在庫コントローラーの設置」とは先にも触れたが、要は在庫管理専任チームを作ろうという話である。これについては社長自身がプロジェクトのキックオフ前から大きな関心を持ち、その必要性を強く認識していたため、比較的スムーズに進めることができた。部署名はまだ決まっていないが、人選も終わり、発足準備に入っている。

今回のH社のケースのように、最近われわれNLFでは荷主企業の自社運営センターの改善を取り扱うことが増えている。自社運営は“井の中の蛙”になる傾向がある。またプロジェクトの運営には経験値が必要である。要所要所で外部の知見や情報に触れておくことは無駄ではないだろう。

 

第201回 事例で学ぶ現場改善:『住設メーカーR社のEC拡大プロジェクト』

巣ごもり需要でネット通販の取り扱いが急増、出荷の遅延が発生している。庫内労働力、作業スペースはひっ迫し、宅配会社から言い渡されている数量制限も超えてしまった。BtoBからBtoCへビジネスが大きくシフトしている現状に物流体制がついてきていない。緊急プロジェクトが始まった。

 

出荷急増で宅配便の数量制限を超過

R社は年商約80億円の住設メーカーだ。東海地区に本社と生産機能の一部、保管型物流センター(DC)を置いている。われわれ日本ロジファクトリー(NLF)はかねてから断続的にR社にコンサルティングに入っており、今回は6度目のプロジェクトとなる。

昨今のコロナ禍による“巣ごもり”需要で、R社が7年前に立ち上げたECサイトの出荷が跳ね上がり、昨年対比140%に達していた。BtoBの落ち込みを補って余りある売り上げになっている。しかし、事業環境の急激な変化に物流体制が対応できていない。その結果、次のような課題が生じていた。

R社はBtoCの配送を大手宅配会社S社1社に依存している。S社からはドライバー不足を理由に1日当たりの出荷個数を100個以下に抑えるように要請されている。しかし、現在の出荷量は1日平均約180個に達している。今のところ集荷には応じてくれているが、いつ断られるか分からない。大幅な運賃の値上げを言い渡される恐れもある。

当面の対応策として、S社の集荷の負担を減らすために、R社のDCで方面別の仕分けや出荷ラベルの貼り付けなどをR社の自社スタッフで処理している。しかし、作業人員と作業スペースの確保が厳しくなっている。

R社の消費者向け販売の一部には、物流センターでの組み立て加工を必要とするものがある。その取り扱いが増加したことで作業負荷が増し、受注から出荷までのリードタイムに遅れが生じている。またそのことがスペースをさらに圧迫する一因にもなっている。

実はR社は物流センターの運営を3PLのF社に委託している。NLFがサポートに入って3年ほど前にコンペを開催、F社をパートナーに選定した。しかし、それ以降も配送会社との取引はR社との直接契約を続けてきた。

F社をパートナーに指命する前まで倉庫業務を委託していた地場物流会社が、路線会社(特積み)や宅配会社を適切にコントロールできなていなかった。そのためR社が直接管理する体制をとった。業務をF社に移管する際にも、運送会社との契約は現状維持とした。時節柄、F社への移管を機に運送会社から運賃の値上げを要請される恐れがあったからだ。

こうした状況を受けてわれわれNLFは今回、次のような改善策を仮説として提示した。

①リードタイムの緩和を前提に、路線会社で宅配対応を行っているF社およびN社と取引を開始して、S社に集中している物量を分散する。

②ショットガン方式の導入。R社のDCから関東と関西のS社の基幹店(ターミナル)に直送することで物量を分散する

③現状、R社が処理している物流加工を3PLのF社に委託する。

④「組立出荷」から「組立納品」に変更する。

⑤住設メーカーA社が組織化している協力会社ネットワークの活用

⑥家具製造小売業B社が組織化している協力会社ネットワークの活用

われわれの提案を受けたR社のG社長は即座にプロジェクトの実施を決断、トップダウンで仮説の検証を進めていくことになった。

①リードタイムの緩和を前提に、路線会社で宅配対応を行っているF社およびN社と取引を開始して、S社に集中している物量を分散する──という仮説は現在、取り組みの最中である。

S社は「160サイズ(タテ、ヨコ、高さの3辺の合計が160㎝)」を超える荷物を宅配チャネルでは取り扱わない方針を会社として打ち出している。R社の製品には160サイズを超える“大物”もかなりある。個数制限超過の問題も含めて、それでもこれまでは例外的に対応してくれてきた。

その理由は、R社を担当するS社の営業所が、他の荷主の物量が減った分をR社でカバーしているのであろうと推測された。サイズの問題も、R社の場合、160サイズ以下の荷物も半分近くあるため、いわば“清濁併せ呑む”ことで数字を確保しているのだろう。またR社が、S社の競合の宅配会社のY社と、まだ接触していなかったことも牽制として効いている可能性があった。

そこでR社の出荷実績を「サイズ」「リードタイム」「エリア」の三つの条件で整理して、S社を軸としながらも、路線会社のF社とN社、そして宅配会社のY社を、各社の競合状況も念頭に置きながら、3次元マトリクスにはめ込んでいき、各社との取引関係をそれぞれ構築していくことになった。

 

ショットガン方式で出荷を分散

②ショットガン方式の導入。R社のDCから関東と関西のS社の基幹店(ターミナル)に直送することで物量を分散する──という仮説を、それと並行して検証した。ショットガン方式とは、貸し切りトラックで宅配便の着地側のターミナルに直進する運び方のことである。しかし、R社の物量は増加傾向にあるとはいえ、ショットガンを機能させるには、まだ十分ではなかった。

またR社がDCを置く東海エリアは、関東エリアと隣接しているため、貸切輸送で荷物を基幹店に持ち込んでも宅配便の単価はそれほど下がらない。むしろ基幹店の受付〆切時間は1700であり、それを過ぎると納品リードタイムが1日延びてしまうなど、デメリットがプロジェクトミーティングの席で指摘された。

ところが、暗礁に乗り上げていたこの協議に途中から参加したG社長が、「それでも出荷を分散するメリットはあるのではないか」と声を上げた。そう言われて、われわれNLFも含めプロジェクトメンバーは、コストとリードタイムに振り回され過ぎていることに気付いた。

ECは増え続ける。R社の今後の経営展開を考えれば出荷分散は必要である。そこでショットガンの導入は中長期的な実施項目と位置付け、即効性のある改善策として、3PLパートナーのF社が運用している関東、関西方面の他社車両に積み合わせるかたちで少量でも分散させようということになった。

③現状、R社が処理している物流加工を3PLのF社に委託する──というのは当然の施策であろう。手間が掛かり、荷主の本業ではない業務は総じて3PL会社が対応することが望ましい。

そもそも3年前にF社と契約を結んだ際には、物流加工業務もR社のスタッフを転籍してF社に移管するという話であった。しかし、転籍者の意思確認や雇用調整に手間取り先送り状態になっていた。G社長いわく「立ち消えになっていた」。

R社がF社に運営を委託しているDCは土地を賃借している。その賃貸契約期間がちょうど迫ってきていた。いずれにしてもF社とは中長期の計画について話し合う必要があった。そこに今回の物流加工業務の委託問題も加わって、F社との交渉が一気に加速している。

 

競合との物流共同化を俎上に

④「組立出荷」から「組立納品」に変更する──というのは、現在は物流センターで組み立ててから出荷している製品を、納品時にドライバーが現場で組み立てるかたちに変更しようというアイデアである。製造や組み立てに資格者が必要な精密機器や自転車などは当然ながら組立出荷せざるを得ない。しかし、R社の商品の組み立てに資格は必要ない。ドライバーで十分対応可能であった。

R社の組立出荷はサービスとして明確に打ち出したものではなく、エンドユーザーから要望を受けてイレギュラーな業務として対応していた。それがBtoCの拡大で注文全体の約5%を占めるようになっていた。

商品の組み立ては当然ながら作業コストが発生する。荷物のかさが大きくなるため輸送費もかさむ。その分は購入客に課金する必要があるのだが、その料金設定やサービスの打ち出し方がかなり曖昧になっていた。そこでまずは原価計算をやり直して、明確な料金をサイト上に表示した。

そして組立納品を実現する方法として、⑤住設メーカーA社の協力会社ネットワークの活用と、⑥家具製造小売業B社の協力会社ネットワークの活用を検討した。いずれも納品時の組み立て作業に対応できる配送網である。

調査の結果、⑤住設メーカーA社の協力会社ネットワークは作業スキルが高く、R社の商品を取り扱うのは容易であった。しかし、協力配送会社からすればその分、1件当たりの作業単価が安くなり、1車当たりの売り上げが減ってしまうため、嫌われる可能性があった。

一方、⑥家具製造小売業B社は、R社とは競合する関係にある。しかし、それだけに配送ルートを組みやすかった。しかもB社の担当者は、「共同配送によるコストダウンを視野に入れて協力会社のネットワークをオープン化している以上、競合関係にあるR社の荷物は大歓迎」という。

プロジェクトはまだ途上にあるが、コロナ禍はR社に新たな物流の在り方を問うているようだ。ECの急増から始まった取り組みが、R社の中長期的な経営テーマにまで波及しようとしている。これを筆者はコロナがR社に良いきっかけを与えてくれたと前向きに捉えている。

 

《特別編》事例で学ぶ現場改善:『3PLのアフターコロナを考える』

コロナは荷主に物流体制の見直しを迫る。3PLとのパートナーシップも再検討される。3PLの本質は課題の克服であり、「一括受託」と「提案力」がそのキーワードだ。その意味をあらためて問い直し、次のステージを見定める必要がある。先進的な3PLは既に、従来の3PLの定義から踏み出した独自の進化を遂げている。

 

ますます二極化が進む

3PLという言葉が日本国内で本格的に流通するようになって既に20年以上が経過した。その後、3PL市場は一貫して成長を続け、今もなお健在ではあるが、各社の実態を見ると多種多様な3PLの形があることが分かる。われわれ日本ロジファクトリー(NLF)が2000年初頭の時点で提案した3PLのあるべき姿は次ページ図の通りである。

3PLとは「個別の荷主に合わせた最適な物流体制をプロデュースして、それを運営できる機関であること」、そして「荷主の物流部門として顧客に対してサービスを提供し、利益を生み出す組織である」と、われわれは定義した。今になって振り返っても、それほど的外れなものではないだろう。

しかし、現在の市場を見渡すと、庫内業務は請負業者に丸投げ、配送は運送会社に丸投げして単に中抜きしているだけの“自称3PL”が横行している。当初は最適な物流体制を構築したはずでも、現場レベルで荷主のさまざまな要望に対応してカスタマイズを重ねた結果、むしろ従来より効率が悪化しているにもかかわらず、放置されたままの現場もかなり見掛ける。荷主は非効率に気付かず、3PLは現状の運用に安住している。

現在のウィズコロナ、これから来るアフターコロナの時代を迎えて、荷主企業の多くは既存の物流体制をあらためて検証することになる。その評価と期待に応えるために、3PLもまた自分たちが果たしている役割とその付加価値を再検証する必要がある。以下、本稿では、3PLの原点に立ち返り、そのあるべき姿と現状とのギャップ、今後の方向性を検討することにしたい。

3PLの本質は課題の克服であり、キーポイントは「一括受注」と「提案力」であろう。その一方で狭義の3PLから一歩踏み出して、新たな業態を確立している企業も現れてきている。そこで「課題を克服する3PL」をステージ1、「新たな需要を取り込み進化する3PL」をステージ2と位置付けて、それぞれ著者の見解をお伝えする。

 

ステージ1 課題を克服する3PL

一括受注は、実際にはかなりの幅がある。提案が採用されて業務を受託したものの、実態としては庫内作業のみ、あるいは輸配送のみの対応で、荷主のマネジャーの指示通りに動いている“一括物流”もかなりある。3PLとは名ばかりで従来型の物流企業との違いはほとんどない。

そのような現場では作業の習熟度だけが荷主の評価軸である。満足な評価を得られない場合、今のような環境であれば荷主企業の余剰スタッフによる倉庫運営の内製化、つまり自社化が検討されることになるであろう。

それとは対照的に、当初受託した業務から段階的に対象範囲を広げていくことに成功している一括受注もある。当初から構内作業や輸配送はもちろん、国内外からの調達、返品対応などサプライチェーン全般を視野に入れて対応している。荷主がグローバル企業の場合は海外の物流拠点運営までカバーする。

こうした3PLの二極化はこれからますます進んでいくものと考えられる。その境界を分けているのが提案力だ。

3PLが荷主と長期にわたって安定した関係を維持するには、受注時に発揮した提案力を継続的に生かしていく仕組みが必要である。通常、現場は荷主の要望への対応に追われ、部分最適の改善がせいぜいである。月1回の連絡会議、改善会議を実施しても、その内容は報告レベルにとどまっていることが多い。

3PLは抜本的な改革を提案してコストを削減すると、それによって現状の売り上げと運営体制を壊すことになりかねないため腰が引けている。荷主から見て“釣った魚には餌をやらない”3PLとなっている。3PLが自主的にコスト削減を提案しないままでいれば、いずれまたコンペが行われる。コロナ不況はその契機となる。

コスト改善提案のジレンマを克服する方法の一つはやはり、コスト削減に成功した場合に、その成果を荷主と3PLで分け合うゲインシェアリングであろう。従来と比べて合意する荷主は増えている。一方、ゲインシェアリングへの合意を得られない荷主に対しては、次のような対策が考えられる。

  • 内製化している受注処理や調達物流業務などのアウトソーシングを提案する。新しい業務を受託することで総利益を確保する。
  • 人繰りのプロを育成して、レイバーコントロールを高度化、倉庫運営コストを削減する。
  • 車繰りのプロを育成して、共同配送の推進、効率的な輸配送ルートの策定によって支払い運賃を抑制する。
  • イレギュラー業務に課金する。

ステージ2 進化する3PL

従来の3PLの定義には収まらない、新たな業態に向かって独自の進化を始めている企業が見られるようになってきた。例えば医薬品物流では三菱倉庫のWMSが業界標準としてプラットフォーム化している。医薬品各社はWMSの乗り合いに準じないとセンター運営に支障を来すと判断して三菱倉庫に業務を委託している。業務は他社に委託しているがWMSは三菱倉庫のものを使っているという荷主もいる。その場合には三菱倉庫はもはや3PLではなくWMSプロバイダーである。

物流業務の委託を伴わない、純粋な物流コンサルティングの事業化を実現している3PLや、いわゆる4PLも増えてきた。われわれNLFがその支援を依頼されることも多い。筆者としては競合相手を手助けすることになるが、多少なりとも業界に貢献できるのであればと割り切っている。

物流不動産開発と3PLを組み合わせたソリューションも広がっている。荷主の要望に見合った物流用地を調達して、センターの建設から運営まで対応する。大手よりもむしろ地方のオーナー系3PLが積極的に仕掛けている印象だ。

コロナがもたらす新常態もまた、物流市場にさらに新たな変化と需要を生み出すに違いない。とりわけ物流の安心・安全・安定は直面する喫緊の課題である。具体的には以下のような対応が3PLに求められるだろう。

  • センター機能の充実(コロナ対策を始め、セキュリティー、防災、備蓄など)
  • IoT、ロボティクスを活用した安定性の高い作業と運営体制
  • 波動に強い現場体制
  • 荷主企業のBCPに呼応したオペレーション

中期的には防災ハザードマップの共有とそれに基づいた拠点配置の見直し、バッファセンターの検討、輸配送ルートの検証、そしてサプライチェーン再構築に向けた3PLの役割分担の明確化などを進めていくことになる。既にコスト削減だけがソリューションではなくっているのである。

 

第200回 事例で学ぶ現場改善:『物流会社S社のコンサル事業を後方支援』

物流会社による食品メーカー向けの物流コンサルティング案件が暗礁に乗り上げていた。正式に契約を結んだものの、取り組みを進めていくノウハウがないという。筆者はそのバックアップを依頼された。コンサルティング事業のコンサルティングである。最近そうした役回りが増えている。

 

ノウハウ不足でコンサル案件が停滞

S社は九州に本社を置く年商約10億円の物流会社である。いわゆるノンアセット型3PLとして2千坪弱の倉庫を賃貸して運営している。輸配送は全て特積み(路線会社)に委託している。

創業経営者であるN社長は約20年前に脱サラで同社を立ち上げた。前職のメーカー時代に身につけた現場改善のノウハウと、持ち前の理系思考を生かして、年1~2件ではあるが、オペレーションを伴わない有料の物流コンサルティングにも対応していた。

その一方でS社は、われわれ日本ロジファクトリー(NLF)から経営指導も受けていた。数年前、ある企業の紹介で支援を依頼されて、N社長と幹部クラスを対象に、物流コストや作業原価を算出する教育研修およびコンサルティングを行った。

その後もN社長からは、他のエリアの空き倉庫や物流会社の紹介を依頼されたり、しばしば連絡を受けていた。S社の事業規模は限られているため、案件がエリア外の場合は協力してくれる同業者と連携して、受け入れ体制を構築していく必要があった。

ある日、N社長から、いつもとは異なるテーマの相談連絡が入った。「食品メーカーのM社から物流コンサルティングの依頼を受けている。しかし、庫内運営のことなら分かるが、輸配送となると(S社自身)全て委託しているのでさっぱり分からない。支援してほしい」という。

われわれNLFがM社に対するコンサルティングの“黒子役”となって、S社にコンサルティングの考え方や方法、進め方をアドバイスすることになった。いわばコンサルティング事業のコンサルティングであった。

久しぶりに訪問したS社には、大手上場企業を早期退職して地元に帰ってきたというT氏が新メンバーとして加わっていた。このT氏が後々、N社長の右腕として食品メーカーM社のコンサルティングで活躍するキーマンになるのであった。

あらためてN社長に話を聞くと、M社からコンサルティングの依頼を受けたのは、もう1年近く前のことだという。しかし、輸配送の改善を提案する段階に入ってプロジェクトが停滞してしまい、M社から「早く進めてほしい」と催促を受けていた。

その時点でS社はまだ、M社が輸送業務を委託している協力会社との契約書や料金表、運賃タリフなどの基本情報さえ手に入れていなかった。そもそもどのようなデータ、資料を用意すべきなのか、はっきりとM社に指示できていなかった。その理由は明確でS社に“仮説”がなかったためである。

一般的には多くの資料やデータがあれば、それだけ精緻な“答え”が出ると思われがちであるが、実際には全く逆である。不要なデータをいくら集めても余計な手間がかかるばかりで、かえってノイズになってしまうことがほとんどだ。最初に仮説を立てることで必要な情報が定義されて、その情報を基に仮説を検証することができるのである。

もっとも、取り組みが進まない原因は、S社だけでなくM社側にもあった。配送ルートの作成に必要な納品先マスターや商品マスターがまともに整備されておらず、協力会社から提供されている車両サイズ、積載可能数量もつかんでいなかった。つまり必要な資料をそもそも持っていなかった。M社のトップが外部の力を借りようと考えるのも当然であった。

M社は全国に工場を展開している。そのうちまずは規模の大きい関東の3工場を対象に輸配送の合理化を図ることになった。N社長には土地勘がなかったが、幸い前述の新メンバーT氏は前職で関東勤務が長かった。われわれNLFとT氏を中心に次のような実施項目を設定して、それぞれ検討に入った。

①物流幹事会社の設定

②配送エリアマップの作成と担当エリアの設定

③ロジスティクスセンターの設置

④配車の見直しを前提とした運行日報の収集

⑤受注センターの発足

⑥M社得意先に対する電子受注比率の向上とインセンティブの設定

M社は関東3工場で、それぞれ10社近い物流会社と契約していた。計約30社にM社の社員がそれぞれ出荷等の指示を出していた。当然ながら手間とコストがかかっていた。そこで「①物流幹事会社」を設定して、協力会社の取りまとめを依頼することにした。管理業務の集約を目指した。

M社の各工場長と協議して、業務品質、支払金額および稼働車両台数の実績、リーダーシップなどを基準に、幹事候補として3社をリストアップした。N社長とT氏がM社の了承を得て早速3社を訪問して主旨を伝えた。その結果、1社は幹事会社には不適格だった。しかし、残る2社は主旨に賛同するだけではなく、積極的に対応したいとの意向を表明してくれた。

 

可視化が提案の説得力を上げる

「②配送エリアマップの作成と担当エリアの設定」は、幹事会社の拠点展開と運営方法を尊重することにした。コンサルタントが出荷実績データからゼロベースで、あるべき配送エリアマップを作成すると、クライアント受けはするのだが、それを運営に落とし込むところで現実とのギャップが出てしまう。

幹事会社は取り扱いが増えた分をカバーするため、「新たな同業者にも委託したい」「車両を出す事業所を新たに開設する」などの対策を打つことになる。それをM社が受け入れられるように、S社がコンサルタントとして間に立って調整するのはなかなかにハードルが高い。そこで最初から幹事会社の運営実態をベースにエリアマップを作成することで調整の工程をカットしたのである。

「③ロジスティクスセンターの設置」は、3工場から同じ納品先に届ける商品の荷合わせと共同配送が目的である。これまで荷合わせは工場間の横持ち輸送で対応してきた。運賃コストがかさむだけでなく、各工場で仕分けスペースを確保して入出荷に対応する必要があり、ムダが発生しているのは明らかだった。

また、M社は営業マンが車両を運転して業務用の得意先を回る商物一致の配送ルートと、工場に原料を供給する商物分離の配送ルートを運用していた。そこで前者を各工場併設型の「リテールサポートセンター」として運用するとともに、後者を新設の「ロジスティクスセンター」に集約するというプランを提案した。ロジスティクスセンターに、3工場の商物分離ルートを集約、そこで荷合わせして、共同配送するのである。

しかし、M社の幹部に提案を行ったものの、腑に落ちていない様子であった。そこで3工場の着地点分析を行い、納品先の場所と取扱量を地図上に可視化した結果を提示した。これによってM社の理解度は一気に上昇した。可視化の手法自体も気に入ったようで、M社が新設を予定している工場でも同様の資料を活用するとのコメントが返ってきた。

なお着地点分析の結果、ロジスティクスセンターの最適立地は関東のメイン工場の近隣と分かった。そこで同センターをメイン工場併設型とすることで、メイン工場からセンターまでの横持ち輸送を不要にして、なおかつリテールサポートセンターの役割も持たせようということになった。進捗の遅れていたプロジェクトが可視化によって大きく前進したのだった。

「④配車の見直しを前提とした運行日報の収集」は、3工場全ての配車を集約する「配車センターの設置」を視野に入れて提案した。しかし、M社の反応はいまひとつで、ここでも可視化が必要であった。現在そのために必要なデータを分析しているところだ。

その過程においても改善効果は表れている。協力会社の運行日報を収集したことで、積み合わせ輸送(共同配送)が可能な荷物の有無、ドライバーの労働時間と休憩時間の実態、各車両の走行キロ数、積載率、1日の回転率などの指標の見方をS社に伝えることができた。

運行日報の未チェックは他の多くの企業でも見られることである。事実上、配送の丸投げである。それを改めることで多くの気付きが得られる。それほど管理の手間が増えるわけでもないので、運行日報の確認はルーティン化すべきである。

 

コンサルティングで終わらせない

「⑤受注センターの発足」は、M社から“中期テーマ”と位置付けられた。M社のトップから当面は受注業務の標準化と効率化、入力ミスの削減、手書き作業の削減から着手すべしと、指示が出た。

S社にとってはチャンスとなり得る。M社との取り組みをコンサルティングだけに終わらせるのはもったいない。S社は発注業務と前述の配車業務についてM社に外注化の提案を行い、その担い手として名乗りを上げるべきだと筆者は強く勧めている。

S社が配車権を獲得し、元請けとして、配送管理、運行管理、定期的な配送ルートの見直し、共同配送の推進などを変動費型料金体系の下で進めるのである。受注業務はセンター化への準備段階として「受注業務集約所」を設ける。受注を一元管理することでシステム化の必要性を証明する。大幅に人件費が削減されることを具現化して、センター化への布石を投じる。

荷主に提案するだけでなく、提案通りに業務を運営してコストダウンを実現する。それがノンアセット型3PLであるS社にふさわしいコンサルティング事業だろうと筆者は考えている。

「⑥電子受注比率の向上とインセンティブの設定」も「⑤受注センターの発足」と連動したテーマである。EOS、EDI、メール受注(ステップ2ではWEB受注を提案する)比率を上げて、電話とFAXの比率を下げることで受注作業の生産性を上げる。そのためには得意先に対する啓蒙活動と一種の“餌”が必要である。それが「インセンティブの設定」であり、これまでに筆者が携わった大半の案件で実施している。

例えば、建設資材リースA社は電子受注に移行した得意先に対して3%の値引きを実施している。食品メーカーB社は同じく、電子受注分に注文1件当たり50円をキックバックしている。宅配大手C社は事前に送り先をEDIで報告することで運賃を5%安くしている。100%電子受注に切り替えることは難しいが、電子受注比率が10ポイント上がるだけでも大きなコストダウンが実現する。

さてS社は現在も、コンサルタントとしてM社に対して提案と検証、そして可視化を行っている。当初はS社の提案を煙たがっていたM社の幹部やプロジェクトメンバーたちも徐々に耳を傾けるようになってきた。後はM社の対応力と実行力の問題であろう。

今回のS社の事例のように最近、筆者の元には、コンサルティング事業をバックアップしてほしいという依頼が物流企業から舞い込むようになっている。果たして喜んでよいのか、いささか戸惑ってはいるが、有料のコンサルティングを事業の一つに掲げる物流企業が増えているのは確かなようである。

 

第198回 事例で学ぶ現場改善:『日用雑貨卸K社の物流改善フェーズ2』

物流改善プロジェクトを1年前に終えた日雑卸からあらためて連絡が入った。新型コロナの影響で物量が急増、オペレーションが混乱しているという。あらためて現場視察に入った。長年続けてきた物流センターの自社運営を見直す必要があるようだ。しかし、すぐにアウトソーシングを導入することはできなかった。

1年余りの間に在庫量が急増
K社は年商約450億円の日用雑貨卸である。東海地区に本社を置き、関東、東海、関西、九州(福岡)にそれぞれ在庫型物流センター(DC)を設置して、全ての拠点を自社運営している。取扱品目は約7800。容積が大きく嵩張る商品から爪楊枝などの小物のバラ出荷まで、作業効率の悪い商品もかなり扱っている。裏返せばそれがK社の差別化戦略でもあった。

われわれ日本ロジファクトリー(NLF)は、2年ほど前にもK社の物流改善を支援している。1年弱にわたる活動を実施して、生産性、品質の改善目標を達成して、プロジェクトはいったん終了した。
それから1年余りが経過して、同社の物流部長S氏から再び連絡が入った。「昨今のコロナ禍の影響もあって経営環境が大きく変わり、現場の運営力が低下している」という。あらためてK社の物流施設の中で最も規模が大きい東海センターの改善に着手することになった。

今回を「フェーズ2」とすると、前回の「フェーズ1」では「現場スタッフは日常業務に追われて改善まで手が回らない」「通路に商品を置いているなど、5Sができていない」といった基本的な課題に取り組んだ。それに対してフェーズ2は「巣ごもり消費の拡大による売上増に物流の処理能力が追いつかない」ことが最大の課題であった。

われわれは1年ぶりに東海センターを訪問して再度、現場を調査した。確かに物量が増えている。あちらこちらで商品が棚から通路に溢れ出している。フェーズ1でクリアしたはずの課題であった。S物流部長および東海センターの管理を担当するA物流課長を相手に、ヒアリングと打ち合わせを行い、次の五つの項目に取り組むことになった。

①センター移管の検討
②アウトソーシングの検討
③朝礼、昼礼の実施
④「センター長」の設置
⑤個人面談の実施

「①センター移管の検討」はキャパシティの拡大が目的である。現状の施設はキャパオーバーが明らかだった。天井が低いため高さを使うこともできない。「ネステナー」を使ったパレットの段積みは2段が限界であった。さらに建物の老朽化が進んでいること、空調設備等を設置しようとすると多大な費用がかかることなど、総合的に判断すれば移管が得策であった。
ただし、東海センターはS社の基幹センターであり、本社から離れた場所に移設するわけにはいかない。物件を探してみたところ、幸い既存センターから直線距離で1キロメートルほどの場所に条件をクリアできる空き施設が見つかった。現状と比べて坪当たり賃料は300円上がるが、今回のプロジェクトの改善効果でコストは吸収できると判断した。現在、同物件の所有会社と順調に交渉が進んでおり、今年9月には移管を実施する計画で動いている。

自社運営の方針見直しを提案
「②アウトソーシングの検討」は筆者からのアドバイスであった。これまで全ての物流センターを自社運営してきたS社の方針とは反することであったが、S社の経営全般における物流の比重は同業他社と比較して重過ぎると、筆者は感じていた。

卸が物流を重視するのは当然とはいえ、S社は現場作業員の採用や労務管理にかなりの労力を割いていた。本来であれば戦略の立案や方向性の判断、付加価値の創出に割くべき正社員スタッフの時間と人手が間接業務や雑務、イレギュラー対応などに取られてしまっている。このような状況であれば卸としての本業に特化するため、拠点運営を一括してアウトソーシングするのも一つの選択肢である。

ちょうどS社では東海センターのプロジェクトとは別に、中・四国エリアに新たにDCを設置する計画が進んでいた。そこでS物流部長は新DCの運営をアウトソーシングする前提で物流会社数社と交渉を行った。しかし、結果は「保留」であった。理由はコストが合わなかったためである。現状のオペレーションをそのまま外部に委託すれば、むしろ高くついてしまうことが分かった。

この経験から、われわれも含めたプロジェクトチームのメンバーたちは逆説的に、アウトソーシングが可能なレベルまで、S社の現場をブラッシュアップしていく必要があることを痛感したのであった。

それでも、S社の物流自社運営が限界に近づいているのは、東海センターが業務量の増大に対応できなっていることからも明らかであった。そこで自社運営のレベルアップによって「誰もがわかる現場づくり」を推進しながら、それと並行してアウトソーシングのパートナー候補との協議を継続することとなった。

「③朝礼、昼礼の実施」は現場作業員の意識の向上を狙いとしている。これも逆説的ながら、アウトソーシングの実現に向けた自社運営強化策の一つである。

S社の改善のフェーズ1では、「2S(整理・整頓)」「商品保管の方法」「ロケーションの作り方」「保管棚・ラックの効果的な活用法」「作業生産性向上のためのレイバーコントロール」「六つのない(持たせない/書かせない/歩かせない/待たせない/考えさせない/探させない)の実践」──などを実施した。現場スタッフは物流改善の基本を身につけるレベルまではこぎ着けた。

フェーズ2では、そこで学んだスキルを生かすために、意識を変えることに重点を置いた。実際には、基本的な、コミュニケーションの方法や、前向きな姿勢・考え方(ポジティブシンキング)から教え込む必要があった。現場スタッフの高齢化が進み、しかも物量が増大したことで現場が疲弊していたのである。

形骸化していた朝礼のやり方もリセットした。(1)現場責任者からの伝達事項、(2)昨日の物量(ピース、行数)と本日の予定物量(ピース、行数)の報告、(3)出欠確認と体調管理をその目的として明確にした。さらにそこにラジオ体操を加えて、身体から意識(脳)へ刺激を送るようにした。一方、昼礼はレイバーコントロールの核として位置付けた。各現場リーダーを1カ所に集め、物量と終了予定時間、人員の過不足を調整するのである。

センター長の個人面談は効果的
④「センター長」の設置は、当然ながら現場責任者を明確にする目的である。それまでK社には「センター長」という職制が存在しなかった。本社目線の役職である“課長”が各地のDCの現場責任者だった。現場作業員の目には「本社から管理職が来ている」としてしか映っていなかった。自分たちの“親分”として扱っていなかったのである。

そのために「報告・連絡・相談」が全く機能していなかった。事前相談や事後報告もないまま、各人が各自の判断で物事を処理、対応していた。これを放置していればいずれ大きな問題を引き起こす恐れがあった。早急に「センター長」を設定する必要があった。

各拠点のセンター長と現場スタッフによる「⑤個人面談の実施」も、現場意識の向上とコミュニケーションづくりが表向きの狙いであるが、筆者の主たる目的は現場の不平不満の発散とその情報収集にあった。所要時間は1人当たり40分~60分。センター長はその内の7割の時間を割いて意見を聞く側に回る。残り3割でセンター長の考え、やりたい事、協力事項などのビジョンを伝えるようアドバイスした。

現場は一人一人違う感情を持つ人間の集まりであるから、物流に限らずどんな現場でも個人面談は行うべきである。しかし、センター長の多くは現場のリーダークラスにその役割を丸投げしてしまう。丸投げされている現場リーダークラスが会社とスタッフの板挟みになって悩んでいるケースは少なくない。

この個人面談を行うと、どのセンター長もヘトヘトに疲弊する。しかし、それだけの効果はある。貴重なフィードバックを得られる。また、副産物としてセンター長が個人と1対1で話を聞くという活動が「何かあれば相談できる人がいる」「孤独に物事を考えなくてもよい」というK社の現場に対するスタンスを明示することにもなった。

昨今は物流をアウトソーシングしていた企業が、あらためて内製化に取り組む事例が増えてきた感がある。長年のアウトソーシングによって社内から失われてしまった物流管理能力を取り戻そうという動きであろう。しかし、今回のずっと自社運営を続けてきた企業の場合、一度はアウトソーシングを検討すべきだと筆者は考えいてる。

《特別編》新型コロナ 物流への影響:『現場からのサバイバルメッセージ』

新型コロナウィルスの感染拡大によって物流市場の環境は180度近くねじ曲げられた。年明けから4月初頭に、筆者の周囲に起きた現象を報告し、これから物流の世界に起きるであろう六つの変化とその対策について、緊急メッセージを発信する。

 

筆者の周囲に起きた六つの事象

⑴ 都心の首都高がガラ空き

大阪在住の筆者はこのところ、東京に出張して物流センターを回る時にはレンタカーで移動するようにしている。新型コロナウィルスの感染拡大が本格化した4月に入ってすぐにも、その機会があった。東京駅の近くでレンタカーを借りて首都高に乗った。平日の混む時間帯にかかわらず目を疑うほど道はガラガラだった。しばらく進んで、外環道に差し掛かると若干混雑し始めた。それでも、道路交通状況を知らせるパネルは、東京から放射状に伸びる関越道、東北道、常磐道がいずれも全く渋滞がないことを示していた。

帰り道も同じで、外環道を過ぎて23区に入ると車の数が目に見えて減った。都心の高層ビル街が怖いほどはっきり見えた。首都圏の物流拠点がどれだけ外環道周辺に密集しているのか改めて痛感した。外環道エリアに有事があれば、首都圏の物流網は壊滅的なダメージを受けるだろう。

 

⑵ 物流センターでマスクをもらう

この日は大規模な物流センターを数カ所訪問した。全てのセンターの受付で手の消毒、検温、マスク着用を要請された。そのために通常よりも10分~15分ほど入館に時間がかった。あるセンターの受付で、クルマの中にマスクを置き忘れてしまったことに気付いた。そのことを受付の担当者に伝えたところ、無償でマスクを提供してくれた。

このマスク不足の折、ありがたい話だが、マスクを持参していない来訪者は筆者以外にもいるだろう。受付に予備のマスクを準備しておかないと、センターの運営に支障をきたしてしまうことに後になって気付いた。物流センターのセキュリティリスクの一つに、感染病を加えることが必要になったのである。

 

⑶ 物流は止まっていない

トイレットペーパーをはじめとする日用品の品切れは、買いだめ、過剰購入、あるいは原材料の欠品や調達難などによる生産停止が原因であって、物流は止まっていない。

 

⑷ 現場はテレワークできない

荷主企業はもちろん、物流企業も大手の本社部門は在宅勤務を実施している。しかし、当然ながら現場はテレワークできない。時差出勤にしても、入出荷時間に合わせるために、従来から勤務シフトを実施してきた。従って現場では、消毒手洗い、うがいの徹底、検温、換気などの基本的な感染防止策以外に有効な対策が見当たらない。

 

⑸ 車両が余っている

食品スーパー、ドラッグストア、コンビニ、日用雑貨など、家庭内で消費・使用する財を扱う物流センターは、政府や自治体の外出自粛要請をきっかけにフル稼働となっている。しかし、それとは対照的に精密機械、自動車関連、重厚長大産業では、工場の生産中止や輸入部品の停滞で出荷できない物流センターや倉庫が目立っている。トータルでは「55%の消費が消滅した」とNHKの番組で野村総合研究所のアナリストが述べていた。荷動きが停滞しているのは現場を見ても明らかだ。

 

⑹ 人手も余っている

人手不足が一転して人余りになった物流会社、物流センターを多く見かけるようになった。

 

これから起きる六つの変化とその対策

⑴ 物流からロジスティクスへ

今、求められているのは、モノを運ぶことではなく、有事の対応だ。有事を想定した在庫の備蓄、防災、安全機能の標準装備が急がれる。本来は軍事用語で「兵站」を意味する「ロジスティクス」がまさに問われている。「物流からロジスティクスへ」という管理コンセプトの進化は従来から提唱されてきた。それを今度こそ実践しなければならない。

 

⑵ 付加価値追求から「安心・安全」へ

これまで週6日、毎日納品していた取引先に対して、納品の頻度を週3回に半減する卸が昨年あたりから本格的に増えている。実施前には欠品の増加を懸念する声が必ず上がるが、実際にはほとんど問題はおきていない。新型コロナパニックに直面している今もそれは変わらない。これまで付加価値と考えていたことが、いかにムダであったのかが明らかになった。

 

⑶ 備蓄倉庫の再評価

事業継続計画(BCP)に基づく備蓄倉庫、いわゆる「バッファーセンター」を再評価する必要がある。基本的にBCPは想定されるリスクを前提に設計されている。しかし、想定外の事態がここまで頻発するようになった今、リスクの概念を見直して、想定外の事態に対してバッファーをどこまで準備するか判断する必要がある。

 

⑷ 安全在庫の定義見直し

安全在庫を一律の「安全係数」で計算するのは危険が大きい。欠品時の影響は製品によって違う。安全の定義を細分化して、それぞれの欠品の影響度に応じた安全係数の設定が必要である(図)。

⑸ サプライチェーンの分散化

コスト重視のサプライチェーンは限界に来ている。ボリュームディスカウントに主眼を置いた集中購買型の調達から、安全・安心を重視する分散型の購買調達への見直しが不可欠である。

加工品を扱うA社は、従来は素材を中国から調達していたが、7年前にベトナムに移管して、昨今では中国からの調達はゼロになっていた。これが今回のコロナ問題では、現時点に限って言えば奏功している。しかし、目の前にはベトナム依存という新たなリスクが立ちはだかっている。中国とベトナムに分散すべきだったと筆者は考えている。

食品メーカーB社は北海道に工場を置いて本州に商品を供給している。首都圏への輸送にはリスクを分散するため、二つのルートを構築していた。太平洋側ルートと日本海側ルートである。東日本大震災の際、太平洋側ルートは壊滅状態に陥ったが、日本海ルートが機能した。それによってB社は事実上、北海道から調達できる唯一の食品メーカーとなり、顧客からの信用を獲得するだけでなく、シェアを伸ばすことに成功した。

これらのことは物流企業の経営にも当てはまる。内需品と外需品、春夏品と秋冬品、消費財と耐久消費財、原材・資材と製品・商品、軽薄短小品と重厚長大品など、「特性」と「時期」が異なる荷主、荷物を、バランス良く組み合わせることで、車両や設備の稼働率を上げるだけでなく、リスクを分散できる。マーケティングに基づく営業の実践がそれを可能にする。

 

⑹ 事業継続計画からサバイバル計画へ

BCPでは生ぬるい。大規模な経済危機に直面している今、事業の継続ではなく、企業として生き残るためにどうするか、組織の生き残りをかけた、いわばビジネス・サバイバル・プラン(BSP)が必要であり、それは時間との勝負であると著者は認識している。

 

第188回 事例で学ぶ現場改善:『物流会社D社の拠点集約プロジェクト』

同じ荷主向けながら近隣の3カ所に分散していた倉庫を1カ所に集約することになった。横持ち輸送を解消できる。庫内作業員のやり繰りもしやすくなる。ただし、拠点の規模が大きくなれば適切な管理手法も違ってくる。オペレーションのみならず管理体制も再設計する必要がある。

 

向かいの土地が売りに出た

D社は関東に本社および運営基盤を置く年商30億円の物流会社である。創業者の現会長が輸配送をメーンに創業し、荷主からの要請を受けて営業倉庫事業に業務を拡大した。本社を中心とする半径50キロメートル圏内に6カ所、中京地区にも3カ所の営業所を展開している。

今回コンサルティングの対象となったのは中京地区で自動車部品を扱っている営業所であった。組み立てメーカーのサプライチェーンに組み込まれており、ミルクラン調達や生産ラインへのジャスト・イン・タイム納品を行っている。

その拠点として組み立て工場の近接地に、延べ床面積500坪のA棟と、延べ床600坪のB棟を構えていた。また、そこから車で約15分の場所にC棟として約300坪を賃借していた。しかし、C棟がA棟、B棟から離れているために非効率であった。

そんな折、A棟・B棟と道路を挟んだ向かい側の空き地が売りに出た。延べ床1500坪を確保できる。そこにA棟・B棟・C棟を集約しようという話になり、われわれ日本ロジファクトリー(NLF)にその支援が依頼されたのであった。

NLFとD社は従来から付き合いがある。新規受注に向けた提案書の作成サポート、トータル物流コストの算出など、これまでテーマごとに何度かコンサルティングを行っている。中京地区でも協同組合方式で物流効率化法に基づく高度化事業の認定を受けて拠点を立ち上げるというプロジェクトをサポートしたことがある。

その際に筆者は感じたことがあった。中京地区はD社の本社から距離がある。それもあって本社と現場とのコミュニケーションが皆無に近かった。現場は自分たちで改善しようという意欲を欠き、“他人任せ”の姿勢が目立った。そのことを念頭に置いて今回の拠点集約プロジェクトの実施事項として、D社側の窓口を務めているT専務には次の7項目を提示した。

①出荷頻度ABC分析によるロケーション・レイアウトの作成と作業動線の短縮

②六つの「ない」(持たせない/書かせない/歩かせない/待たせない/考えさせない/探させない)の徹底

③二つの「ない」(しゃがませない/かがませない)の追加

④庫内の通路幅の見直し

⑤レイバーコントロールの実践

⑥横持ち輸送の削減

⑦物流KPIの導入

拠点の集約先となる土地・建物は、D社で取得するのではなく土地の所有者に倉庫を建設してもらい、それを借りることにした。既存荷主の組み立てメーカー向け業務以外に展開ことが立地的に難しかったからだ。そのことを地主に伝えて、倉庫のスペックに対するD社からの要望を提出した。

ただし、貸し主としてはD社が将来その拠点から退去した後も、次のテナントを見つけやすい、使いやすい建物にしておく必要がある。そこで貸し主に新設する倉庫の躯体図面を2種類作成してもらい、D社の要望に合う方を選ぶことになった。

約1カ月後に図面が上がってきたが、二つの案はどちらも一長一短であった。A案は、高さは確保しているのだが奥行きがない。40フォートコンテナを直付けするにはギリギリの停車スペースであった。一方のB案は雨天の際にも作業が出来るように庇を長く取っているのだが、これが建ぺい率に含まれてしまうため、倉庫スペースの規模が小さくなってしまう。

いずれにせよ理想を100%叶える倉庫などはない。われわれとT専務は出入口を広く取っているA案が望ましいと判断し、それを貸し主に伝えて了承してもらった。こうして施設の仕様が大筋で決まった。それを元に倉庫全体の機能設計を表わした「ゾーニング図」を作成して、まずは「①出荷頻度ABC分析によるロケーション・レイアウトの作成と作業動線の短縮」に着手した。

既存のA棟・B棟・C棟の保管スペースには隙間が目立った。いわゆる空気を保管している状態のところが、あちこちに見られた。それがロケーション設計のミスによるものなのか、生産の遅れから欠品が発生しているのか、あるいはその両方なのか、一目見ただけでは理由は判然とはしなかった。

そこで改めて必要な保管スペースを確認することにした。商品マスターで各アイテムの外箱の体積を調べて、それに在庫日数を掛け合わせて計算する。ところがD社は商品マスターを持っていなかった。荷主に依頼して提供してもらう必要があった。そのことと合わせて、各アイテムの適正在庫量についても改めて荷主と協議の場を持つこととなった。

 

「アシストスーツ」を5台導入

「②の六つの『ない』(持たせない/書かせない/歩かせない/待たせない/考えさせない/探させない)の徹底」は、改善の定番である。とりわけD社の現場は高齢化が進んでいるため、作業生産性の向上を目的にするだけでなく、可視化を向上することで“考えさせない”“探させない”ようにして作業品質を向上することに留意する必要があった。「倍化運動」と称してロケーション番号や掲示物の文字の大きさを200%に拡大して高齢者にも分かりやすい表示にした。

さらに、“しゃがませない”“かがませない”という「③二つの『ない』」を追加して腰や身体への負担を軽減した。そのツールとして、荷物の持ち上げ・持ち下げ作業を支援する「アシストスーツ」を導入した。われわれNLFの支援先でアシストスーツを導入するのはD社で4社目となる。評判は上々で、これからさらに普及が進むだろう。

アシストスーツはS社製とU社製を検討した。両者の基本的な構造は大きく変わらないが、装着時の調整方法やデータ連携による付加価値創出などの設定がいくらか違う。性能や品質面ではS社製が優れていたが、システム費用がかかり、規模の小さなD社にとっては高価であった。そこで使い勝手の良さとコスト面からU社製を採用して5台を導入した。

またバケットの仕分け作業用に、膝上の高さの作業台を置くことにした。従来は床に直置きしたパレットからバケットを取り出して仕分けをしていた。腰の負担を軽減するため作業台で高さを確保して、しゃがまずに済むようにした。

「④庫内の通路幅の見直し」では、既存倉庫の通路幅が必要以上に広く取られていたので新倉庫では適切な幅に設定し直した。現場の担当者によると、過去にカウンター式フォークを使用していたことがあり、それに合わせて幅をとっていたが、リーチ式に統一してからは縮小したという。しかし、実際に測ってみるとメーン通路は3150ミリメートルもあった。

そこで作業の安全性への配慮も踏まえリーチイン(ツメを車体側に引き寄せた状態)の走行を徹底することをルール化し、またD社のリフトマンのスキルが高いことも考慮して新倉庫の通路幅を2850ミリメートルに設定した。その結果、200パレット分の保管スペースを生み出すことができた。

「⑤レイバーコントロールの実践」では、既存施設のホワイトボードを見ると、過去にそれらしきことを試みた痕跡を確認できたが、実態として機能していなかった。拠点が3カ所に分かれている状態では、作業スペース、取扱量、スタッフ数の制約から効果を出すのは難しかったであろう。しかし、拠点を集約すればやりやすくなる。

レイバーコントロールに限らず、一般に拠点の規模が大きくなれば、それに伴い適切な運営管理の方法も変化する。労働管理、安全管理、設備保守、生産性や品質の維持・向上策、マテハンの使い方、荷主との取り決め事項など、オペレーションとマネジメントを再設計しなければいけない。しかしながら、そのことを理解している物流管理者は少ない。教えられてもいないのが実情である。

 

KPI管理は小さく始める

「⑥横持ち輸送の削減」は拠点を集約すれば必然的に実現する。今回のケースでは、A棟・B棟・C棟に分散している部品を荷合わせするための横持ち輸送に従来投入していた、10トン増トン車1台と4トン車2台の計3台分のコストが不要になった。

「⑦物流KPIの導入」は可視化、生産性の向上、品質の向上など広範囲にわたる効果を期待できる施策である。ただし、あれもこれもと、はじめから多くのKPIを採用してしまうと往々にして長続きしない。小さくはじめて大きく育てるのが定着のポイントである。

D社ではレイバーコントロールで算出した人時生産性(MH)をベースに、作業生産性、作業品質、イレギュラーの3点を最重点課題と定めて、それぞれKPIを設定した。作業生産性は「ピッキング」と「梱包(仕分け含む)」、作業品質は「誤出荷」と「在庫差異」、イレギュラーは「時間外出荷」の計五つにKPIを絞り込んだ。

こうしてD社の拠点集約プロジェクトは終了した。現時点で新拠点の稼働から5カ月が経過したが今までのところ運営は順調だ。コストはもちろん現場の労働環境もかなり改善された。

さて、今回の案件で筆者が痛感したのはデータ精度の重要性である。荷主から入手した商品マスターもしかり。マスターに登録された体積に梱包の変更などが反映されていないものがあったため、机上で計算した保管スペースが実態と合わずにロケーション・レイアウトを作り直さざるを得なくなった。

現場のシステム化や自動化が進むほど、データの精度が与える影響は大きくなる。そこでD社では拠点集約を機に棚卸しの方法を改めた。従来は月1回の一斉棚卸しだった。それを毎日の循環棚卸に変更した。1カ月当たりの稼働日数22日で全品目をカバーする。在庫精度の向上が狙いである。

 

《特別編》事例で学ぶ現場改善:『〈センター長〉 監督兼選手から抜け出す方法』

物流センター長の多くが本来の業務から離れて庫内作業に駆り出されている。連日の残業に加えて繁忙期には休日出勤を余儀なくされている。このような状態では誰もセンター長になりたいとは思わない。荷主は現場の管理能力を失ってしまう。物流企業は事業の存続さえ危うくなる。

 

そもそもセンター長とは何者か

物流業は所長・センター長の能力で90%が決まってしまう。つまり、物流業とは〝所長産業〟あるいは〝センター長産業〟なのだ。筆者はかねてからそう指摘してきた。本連載でも「できるセンター長の作り方」(2007年4月号)と題して、センター長の育成について解説したことがある。しかし、既に一昔前の記事になるので、ここでおさらいしておこう。

通常、センター長は、①労務管理、②運行管理、そして③クレーム対応の三つを主な業務とする。このうち最大の役割を一つ選ぶとすれば、やはり労務管理、人のやり繰りに尽きる。そして、人のやり繰りにはコミュニケーション能力という管理者としての資質が求められる。

できるセンター長は一日中、机に座っていないものだ。常に現場を回って一声掛け、スタッフとのコミュニケーションをとっている。管理者として同じことを“10回言い続けられるか”が問われる。昼食もパートに交じって同じテーブルを囲む。繁忙期で現場に無理をさせた時には自腹で缶ジュースを差し入れる。そうした小さな気配りで、現場の空気が違ってくる。駄目なセンター長には、それができない。

センター長のタイプは大きく二つに分かれる。中小企業の場合、センター長は、ほとんどが現場の叩き上げだ。作業スタッフやドライバーを経験したベテランが、班長からセンター長へと昇格する。一方、荷主企業や中堅以上の物流企業では、センター長が事務系管理職の仕事として位置付けられている。いずれも一長一短がある。

前者の現業系のセンター長では、オーバースペックが往々にして問題になる。彼らの場合は人手不足以前に繁忙時になると現場に入ってしまう傾向があり、管理が疎かになる。“プレイングマネジャー”は半ばセンター長の代名詞である。もともと中小の現場スタッフには、デスク業務や管理を苦手とする人が少なくない。それが嫌で物流現場の職に就いたのに、いつのまにかセンター長に祭り上げられ、計数管理などの苦手な仕事を強いられる。結果として会社の期待に応えられない。

一方、事務職系のセンター長は、いずれ本社に戻るという考えが常に頭から離れない。当然、本社には良い報告をしたい。しかし現場を敵に回せば、オペレーションが立ち行かなくなる。そもそも高学歴の事務系は現場スタッフとのコミュニケーションを苦手とする場合が多い。結果として現場と本社の板挟みに遭ってしまう。

同じ会社内のセンター長でも、各人の能力には当然バラツキがある。しかし、それ以上に大きいのが会社間の差、会社ごとのセンター長の能力レベルの差だ。これは、その会社におけるセンター長の「①採用」「②教育」「③キャリアプラン」の違いによるものだ。

まず「①採用」について。現状では外部からの登用は容易ではない。対策としては遠回りに見えても社員研修が有効だ。研修の狙いは教育だけではない。社内の人材を発掘することも研修によって得られる大きな効用の一つだ。資質のある人材であれば、30歳以下の若手でもセンター長に登用すべきだ。ただし、若手の抜擢は経営層の援護が必須である。任せきりでは、せっかくの人材を年長の社員やベテランのパートに潰されてしまう恐れがある。

これと並行して、センター長を現場のスターにする必要がある。センター長になったら予算管理やクレーム処理など苦労ばかりが増え、休日も見返りも少ないということでは、手を挙げる者などいなくて当然だ。班長や配車係などのセンター長候補者に、昇進したいというモチベーションを持たせる必要がある。

必ずしも給料や待遇だけの問題ではない。金銭的インセンティブには限界がある。それよりも優れた仕事を表彰するなど、職業人としての誇りや満足感に訴えかける。現場のQC活動も同様だ。小遣い程度の賞金を出すより、額縁に入れた賞状やトロフィーの方がよほど効果的だ。賞状やトロフィーを自宅に持ち帰れば、家族に仕事を理解してもらう良いきっかけにもなる。

「②教育」では、人事ローテーションが鍵になる。駄目なセンター長は自分のセンターのことしか知らない。井の中の蛙なのだ。板前の修業と同じように、センター長もさまざまな現場を経験することで初めて引き出しが増えていく。実際、人事異動でいろいろな現場を経験させている会社のセンター長は総じてレベルが高い。それに対して、センター長の改善能力や意識レベルが低い会社は、センターの横展開を経験させていない。社外はもちろん、同じ会社内であっても他のセンターのことを知らないのである。

三つ目が「③キャリアプラン」だ。多くの会社でセンター長は〝上がり〟のポストになってしまっている。センター長として定年を迎えるケースが大半だ。定年間際ともなれば、現場との摩擦を生じる恐れのある改善活動など進めようとするはずがない。それどころかセンター長自身が改革のブレーキにもなってしまうことさえ珍しくない。

センター長を上がりのポストとするのではなく、センター長から本部スタッフに昇格する道を示しておかなければならない。本人がそれを望むかどうかは別だ。現場好きのセンター長はむしろ望まないだろう。その場合には、現場作業の専門会社を子会社として設置するという手もある。子会社経営幹部という道を開くのだ。センター長の有効なキャリアプラン作りを、重要な経営戦略と位置付けて取り組む必要がある。

 

残業なし・年間休日120日を目指せ

優秀なセンター長は「作業」と「業務」の違いを理解している。現場スタッフと管理者では持っている「時計」が違う。作業はその日の荷物を処理すれば終わる。一方、業務は、与えられたミッションをクリアするために、1カ月後、3カ月後、6カ月後に何をしなければならないのか、時間軸を持って仕事に当たる。

センター長が自分の力を発揮できる環境を整備する必要がある。そのためにセンター長をプレイングマネジャーから卒業させなければならない。いわばセンター長の働き方改革だ。今回はそのヒントを以下に紹介しよう。

センター長の多くはほぼ毎日の残業に加え、年間休日数は100日程度、繁忙期には休日出勤も強いられるという過酷な労働環境に置かれている。これをまずは改善しなければならない。残業なし、年間休日120日を実現することが目標である。

そのためにはセンター長の権限と業務の一部を部下に移管する必要がある。しかし、そうしたセンターでは部下もまたプレイイングマネジャーである。単に移管するだけでは今度は部下が過剰労働になってしまう。

そもそも一般的な職務基準書に書かれてある管理職としての業務を全て完璧にこなすことは、実際には不可能である。働き方改革の実践は職務基準書の見直しが第一歩である。業務項目を減らすのではなく、業務の一部を下位職に移管して役割分担を明確にする。当然ながら、それはセンター長を支える管理職予備軍のスキルアップ、レベルアップが前提である。従って教育・訓練の実施計画を折り込んだキャリアパスプランが重要になってくる。

 

センター長の業務を標準化する

大手量販店のイトーヨーカ堂は、店長の業務を徹底して標準化している。いつどこに配属されても即日業務が行えるようになっている。そのために机の中の備品や書類ファイリングのレイアウトまで統一している。一足跳びにそのレベルに到達するのは難しくても、3人のセンター長の業務を標準化して、ルールの統一を図れば、休日は取りやすくなる。

繁忙期に本社から応援を送る際にも標準化がモノを言う。現場を離れてしばらく経っているとか、そもそも現場のことがよく分からないメンバーが送られてきて結局、戦力にならなかったという、よくある失敗を回避できる。

現場作業自体の標準化ももちろん重要だ。新人、高齢者、外国人労働者など想定して、“誰もがわかる現場づくり”を徹底する。全体の作業フロー図、作業マニュアル、どこに何があるのか一目で分かるロケーション番号の表示、センター内掲示物のビジュアル化などを準備しておけば、応援に来たスタッフにすぐに活躍してもらえる。

そこまでやった上で、それでもやむを得ない残業や長時間労働が発生した場合には、超過労働時間を近日中に解消させる。残業時間を週単位、月単位でまとめて管理している現場を多く見かけるが、超過時間の発生から消化までの期間が長くなるほど、消化するのが難しくなってしまう。

センター長にフレックスタイム制を導入するのも一つのアイデアだ。ドライバーの時差出勤、センター作業の夜勤交替が定着しているのとは裏腹に、物流業の事務職、管理職は一斉始業が多い。果たして必要なことだろうか。朝礼は全員がそろった時点で行えば十分だ。レイバーコントロール上はむしろ昼礼の方が効果的である。

センター長の業務負荷は身近なツールを利用することでも軽減できる。センター内の部下や現場スタッフとのコミュニケーションは直接、顔を合わせることが大事だが、本社や営業、顧客とのやり取りは電話よりも、できる限りメールを使うべきだ。電話連絡は余計な雑談に案外時間を割いているものだ。顧客からの緊急出荷要請なども、営業を経由させて本当に対応すべきかフィルターを掛ける。

一方、センター長は業務終了後も携帯電話が手放せない。入荷・出荷車両のトラブルや事故、荷主の製・商品のリコールによる緊急出荷停止などが発生するためである。しかし、パソコンは社外持ち出し禁止にする。機密保持、顧客データ流出防止の意味合いもあるが、持ち帰り残業を抑制するために物流業界以外でも広く実践されている方法である。

センターにTV会議システムを導入すれば本社や顧客に訪問する回数を削減できる。昨今のTV会議システムの性能は著しく向上している。しかし、それを使いこなせていない会社が多い。事前に簡単なテストを行うだけ、システム操作を担当するスタッフが司会者と2~3分打ち合わせして会議の大まかな流れを頭に入れておくだけでも、TV会議の運用は格段にスムーズになる。

 

物流サービス条件を見直す

イレギュラー業務のゼロ化や土日出荷の中止、納品回数の削減など、物流サービスの見直しにも乗り出すべきだろう。ドライバーや庫内作業員だけでなく、センター長や現場のマネジャーの労働環境を大きく改善できる。今こそそのチャンスである。

イレギュラー業務には時間外出荷、送り先の変更、出荷内容の変更などがあるが、いずれも残業時間を増大させる要因であり、またコストアップ要因にもなっている。しかもイレギュラー業務の大半は現場では判断がつかないため、センター長に判断を仰ぐことになる。その影響はセンター全体に波及する。

土日休日の出荷も小売業、外食産業向けではしばしば発生している。本来であれば小売業、外食産業は販売に徹すべき日である。荷受けしている暇などないはずだ。それが発生してしまうのは多くは需要予測の精度が原因である。多少のショック療法にはなるが、休日の出荷停止をルール化してしまえば、否応なく改善が進み、休日納品は不要になる。少量の納品先であれば月・水・金などの隔日納品にまで踏み込める。

他にもセンター長の働き方を変えるためにできることはいくらでもある。それは今日の避けて通れない課題である。なぜなら今のままでは部下たちはセンター長になりたいと思わないからだ。荷主企業であれば物流管理レベルが底なしに低下していく。“センター長産業”たる物流業にとっては命取りにもなり得る問題である。

 

《特別編》事例で学ぶ現場改善:『コンペは効力を失い3PLは終わった』

元請けが必要な車両台数を確保できず、ギブアップするケースが増えている。ボリュームディスカウントを狙った一括委託が逆作用を起こし、全拠点一斉値上げを突き付けられる荷主も出てきた。しかし、現在の環境で物流コンペを開催すれば、むしろ返り討ちにあってしまう。アウトソーシング戦略の再考が必要だ。            (聞き手・大矢昌浩)

 

コンペは“寝た子を起こす”

──物流業が売り手市場から買い手市場に転じたことで、コンペの在り方があらためて問い直されています。

 「今さらですが『コンペ』というのは、英語の『コンペティション』ですから直訳すれば、競争とかスポーツの競技会という意味ですよね。物流コンペは、運送会社を競技者として戦わせるわけです。それがこれまで成立してきたのは、物流サービスの供給が、量的にも質的にも十分にあったからです。今はそんな環境にはありません。実際、私の周辺の荷主は物流コンペを敬遠するようになっています」

──監査が厳しい外資系の荷主などは定期的にコンペを開催することをルール化していると聞きます。

 「今でもフォワーダーのコンペであれば有効です。もともとフォワーディングは人手不足にほとんど影響を受けない取り扱いビジネスですから。国別に委託していたのをグローバルに1社にまとめれば、ボリュームディスカウントが効いて30~40%下がることもある。3PLでも実コストを、マージンも含めて全てガラス張りにする『オープンブック方式』で契約するならコンペをやるのもありかもしれません。しかし、それ以外はどうでしょう。外資系だって環境が変われば、やり方を改めるのではないでしょうか」

──コンペには現在支払っている料金が妥当であることを確認したり、既存のパートナーを牽制したりする効果もあります。

 「今コンペを開催すれば、逆に“寝た子を起こす”ことになります。『ありがとうございます。ようやく値上げを認めてくれるんですか。わざわざそんな場を作っていただけるなんて』と協力会社を喜ばせた挙げ句、向こうは『その値段で合わなければウチは撤退しますので』というくらいのつもりで、平気で脅しを掛けてきます」

──既存のパートナーだけでは車両を確保できない、極端な値上げを言い渡されたとなれば新たな委託先を探すしかありません。

 「確かにこのご時世なので、協力会社がギブアップしたので慌ててコンペをやるというパターンはあります。しかし、その場合でも相見積もりレベルのことはやったとしても、一本釣りで委託先を見つけていくのが賢明でしょう。周囲の物流会社はその荷主がどこにギブアップされたのか知っています。いくらでやっていたのかも恐らくバレている。それを頭に入れて強気の見積もりを出してきます」

──相見積もりとコンペの違いは?

 「応札する会社数の違いです。少なくとも4~5社から選ぶということでないとコンペとは言えません。先日、全国規模の荷主がコンペをやるため候補企業に参加を打診したところ、その荷主の仕事はドライバーの作業負荷が大きいこともあって、2社しか応じてくれなかった。これではコンペにならないと、われわれ日本ロジファクトリー(NLF)に応札企業を紹介して欲しいとオファーが来ました。少し前までは年商300億~500億円クラスの荷主がコンペを開催すれば、それなりに手が上がりました。しかし今は1千億円クラス以上でないと、コンペをやりきれないという印象です」

 「面白い傾向も出ています。物流コンペをやっても1社に決めるのではなく、エリアを分ける、あるいは業務を分割して委託するケースが最近増えています。コンペで白黒はっきりさせるのではなく、それぞれのいいところを取る。繁忙期にクルマが足りないという状況がずっと続いていることで学習したのでしょう。1社依存では危ない。リスクヘッジです」

──物流会社を探すことが、そこまで難しいものですか。

 「例えば、NLFは昨年あるメーカーと、成功報酬型で運送会社を紹介する契約を結びました。そのメーカーの元請けが繁忙期の傭車に対応できなかったことで、われわれに泣きついてきた。NLFが紹介した運送会社はその荷主と直接契約を結ぶことになるので、元請けは自分たちの地位が脅かされる。だから彼らも一生懸命探したのだけれど結局見つからなかった」

──運賃が安いからでは?

 「値段が合わないという問題だけではないんです。例えば関東~関西の幹線輸送でも、ドライバーは実際には運送会社の営業所から出発して出荷場所を経由して着地に向かいます。しかも着地側の2カ所で降ろしてから現地の営業所まで戻るということにでもなると、1日の拘束時間の上限の13時間労働をオーバーしてしまいます。ドライバーの拘束時間には集荷場所と運送会社の営業所との距離も絡んでくるため、営業所から遠い荷主に対しては『うちはできません』となってしまう」

──その荷主の新たな委託先は見つかったのですか?

 「今のところ2社との契約が成立しました。そのうち1社は東京~大阪の10トン車の片道運賃に7万5千円の見積もりを出してきた。大手荷主だったので恐らく口座を作りたかったのでしょう。現在の相場は10万円を少し切る程度なのでさすがに安過ぎる。そこで、その荷主の物流部長は『その値段では長く続けてもらえないと思うので、値段は他の会社さんと同レベルで結構です』と見積もりに上乗せした運賃を支払うことにしました。それだけ欠車に対する危機感が高まっている」

 

3PLの空洞化

──運送だけでなく3PLのコンペも同じですか。

 「輸送のコンペはまだ環境が変わり、供給が十分な状態に戻ることがあるなら、また復活するかもしれません。しかし、3PLはこれでいったん終わるのではないか、3PLという業態自体が現在の環境に合わなくなった、とさえ思っています。というのも3PLは一括提案が特徴なわけですが、それが今は一括値上げを招いている」

 「ある荷主は数年前にボリュームディスカウントを狙って国内4センターの配送を中堅3PLに集約しました。それが裏目に出て昨年その荷主は全国4センターで一律のパーセンテージの一斉値上げを要請されました。突っぱねれば物流が止まってしまう恐れがあるので、言われた通り払うほかなかった。しかし、それをきっかけにその荷主はその3PLとの契約を打ち切ることを決意して、今は拠点ごとに配送パートナー選びを進めています」

──3PLのコストメリットがなくなったということですか。

 「そもそも3PLは配送や庫内業務の再委託率が高い。大手や有名どころほど、その傾向があります。しかも、実態としては丸投げで、彼ら自身が再委託先から値上げ要請を強く受けているためコストが下がらない。それでいて管理費は高い。大手3PLともなるとトータルコストの25%を占めていることもある。利益率の設定も高い」

──通常だと管理費はどれくらい?

 「パパママの零細運送会社だと3%くらい。広域地場で12~15%。中堅で12%~18%。大手は20%前後から25%くらいまでといったところです。管理費の大半は管理者の人件費です。しかし、実際には管理費にカウントされているマネジャーが1人で複数の拠点をカバーしていて、現場にはほとんど顔を見せなかったりする。それでふたを開けてみたら丸投げでは、さすがに荷主も浮かばれません」

 「その一方で大手は挨拶や契約の席には担当役員の他、本社営業、顧客窓口、現場責任者、システム担当などスタッフをぞろぞろ連れてくる。無駄に人件費をかけていると同時に、組織が分かれているので意思決定に時間がかかる。荷主の要請に柔軟に対応できない。大手3PLの中には融通が利かないことが有名になって荷主離れを起こしているところもあります」

 「そもそも、なぜ3PLが荷主に求められたのか。一括請負いとボリュームディスカウントの他に、以前はシステム力の優位性があったと思います。しかし、今はパッケージを利用したり、荷主が自分でWMSや在庫管理システムを構築できるようになってきた。3PLに頼らなくても回せるようになりました。つまり現在の3PLは、再委託先からは突き上げられ、クルマをかき集める力やまとめあげる力は希薄になり、システム開発力の優位性もなくなった。空っぽなんです。4PL化など新しい業態革新が必要です」

──あるいは先祖返りするのでは?

 「そうかもしれません」

──アウトソーシングが進んだ結果として荷主の物流管理能力は衰えてしまいました。内製化に転換するにも物流管理者がいません。

 「そこは頭の痛いところです。それでも卸の中には、いざとなったら自分たちでトラックを購入して走らせるくらいのつもりで物流の再構築に取り組むところも出て来ています。物流を重要な機能と位置付けるのであれば、あらためて物流管理機能を取り戻すほかありません」

 

第187回 事例で学ぶ現場改善:『中古車販売D社の在庫適正化プロジェクト』

店舗数の増加に伴い横持ち輸送コストが上昇している。在庫の長期滞留による評価損も目立ってきた。経験の勘に頼った〝どんぶり勘定〟から抜け出し、合理的な在庫管理の仕組みを構築する必要があった。在庫管理部の新設を皮切りに2年以上にわたる息の長いプロジェクトが始まった。

 

中古ビジネスは仕入れが9割

D社は年商約400億の中古車販売会社だ。東日本を中心に38店舗を展開している。仕入先は一般ユーザーからの下取り、現車オークション、ネットオークションなど。販売先は一般向けの店舗販売と中小中古車販売会社が中心で、業務用車両も取り扱っている。

D社側のプロジェクトリーダーで、われわれ日本ロジファクトリー(NLF)との窓口を務めたのは、2代目社長に就任予定のT取締役であった。その説明によると、D社は車両専門のトレーラー会社に商品(中古車)の輸送を委託しているが、店舗数の増加と共に横持ち輸送コストが増えているという。

在庫管理にも課題を抱えている。店舗は平均1千坪の広さを持つが、常に在庫が満杯の状態であり、長期の売れ残りも発生して最近は在庫の評価損が目立つようになってきた。D社には車両の移送を担当するベテラン社員は在籍しているが、物流のスペシャリストは不在であった。売り上げの拡大と共に“物流”の視点で改革を行わなければならないとの問題意識からわれわれに声が掛かった。

自動車に限らず、中古ビジネスの最重要ポイントは仕入れだ。その品はいくらなら売れるのか。それをいくらで仕入れるのか。中古車の場合であれば、それを国内で売るのか、海外に輸出するのか。どの店舗のどの営業マンがその商品をさばけそうなのか。現車を見て即座に意思決定しなければならない。その判断で利益のほとんど、9割以上が決まってしまう。

T取締役以下、D社の5人のプロジェクトメンバーとわれわれNLFのスタッフは、そのような共通認識の下、D社が解決すべき物流課題を次の10項目に整理した。そこからプロジェクトチームとわれわれの約2年5カ月にわたる取り組みが始まった。

①商品マスターの整備

②QRコードによる個体管理

③在庫管理部の発足

④不動商品対応ルールの設定

⑤物流KPIの設定

⑥棚卸し頻度の見直し

⑦物流センターの設置

⑧出荷頻度ABC分析によるロケーション、レイアウトの作成

⑨配車センターの発足

⑩共同輸送の推進

「①商品マスターの整備」は最初に着手すべき課題だった。従来から当然ながら管理台帳は存在していたが、物流管理に必要な仕入日、入荷日、出荷日、販売日の「日付管理」に不備があった。いくらで仕入れた商品をいくらで売ったのかも明確になっていない。そのために純利益どころか粗利さえもはっきりとしない“どんぶり勘定”に陥っていた。

マスターの管理を各店舗に任せているために、マスターの登録やデータの更新、廃番管理などのメンテナンスがおろそかになっていた。そこで後述する在庫管理部を新設して、商品マスターを集中管理することにした。リアルタイムでマスターをメンテナンスして、クラウドシステムを介して全社でデータを共有する体制を整えた。

さらに、整備したマスター情報をベースに「②QRコードによる個体管理」を実施した。目視と台帳が頼りでは収益管理は困難だ。優秀な店長であれば経験と勘から店舗全体の利益は残せるかもしれない。しかし、車両1台単位の損益までは把握できない。在庫管理自体に課題を抱えていたこともあり、QRコードの導入に踏み切った。

QRコードシステムの開発から稼働まではおおよそ12カ月を要した。しかし、今振り返ってみても、これは重要かつ効果の大きい施策であった。物流センターの出荷時と店舗の入荷時に各車両のQRコードをスキャンするようにしたことで、社内における在庫の流れが明確になった。その結果、例えば店舗の営業マンが「これは売れる」と判断して在庫を抱え込んだ準人気車が、実際には売りさばけずに、A店舗→物流センター→B店舗と渡り歩くさまが明らかになった。

 

在庫管理部を新設し脱どんぶり勘定

「③在庫管理部」は統括責任者の部長を含めた6人体制で発足した。部長は5人の部員たちを車両タイプ別に振り分け、普通車、小型車、軽自動車、ミニバン・ワンボックス、業務用車両(営業用ワゴンなど)をそれぞれ専門で担当させた。

その役割は先ほどの商品マスターを集中管理すること、そして商品部を仕入れ業務に特化させることであった。商品部のスタッフにはバイヤーに徹してもらい、良い車の取り逃がしをなくそうという狙いである。そのために商品を仕入れて以降の全ての業務、具体的には在庫管理、稼働在庫と不動在庫の可視化、店舗とのやりとり、アナウンスなどが在庫管理部に求められた。

在庫の陳腐化を防ぐため、新たに「④不動商品対応ルール」を設定した。それまでは店舗が在庫を抱え込んで長期間にわたり売れ残っていても、他の在庫で売り上げをカバーできていれば良しとされていた。それを改めるために、在庫の日付管理を導入した。7日間にわたり動いていない在庫を「不動在庫リスト」にリストアップして、全社に一斉に送信する。

その在庫が欲しい店舗もしくは営業マンは、24時間以内に在庫管理部にフィードバックする。複数の手が上がった場合には、在庫管理部が店舗もしくはその営業マンの実績から判断して売れる可能性の高いところに割り当てる。誰も手を挙げなかった在庫はオークションに流すか、輸出するかを判断する。

これによってD社全体の在庫回転率は1カ月当たり0・9回から2・1回に大きく改善した。長期滞留で評価額が下がり、販売しても経費を吸収できない赤字在庫も大幅に減少した。さらに現在、在庫管理部はエリア別の需要予測に着手している。各店舗に特有の売れ方を周辺の駐車場等のリサーチによって分析している。これにより在庫回転率を2・5回/月まで向上することが目標だ。

「⑤物流KPIの設定」は、まずは“どんぶり勘定”の是正から着手する必要があった。具体的には、「販売車両1台当たりの粗利率」と「販売車両1台当たりトータル物流コスト」を算定して1台単位の原価を把握できるようにした。これに約4カ月を要した。

次のステップ2では6カ月をかけて、「在庫差異率」と「作業生産性」を算出した。在庫差異率は、店舗在庫と物流センター在庫についてそれぞれ金額だけでなく差異が発生した品目数も数値化した。また、作業生産性は物流センターにおける「平均車両降ろし時間」と「平均車両積み込み時間」、店舗における「平均車両降ろし時間」を測定した。

最後のステップ3では「作業品質」の指標に「商品破損率」を設定して、4カ月かけてその数値を算定した。各指標を段階を踏んで開発したことで、関係者の理解も進み、問題なくKPIが機能し始めた。営業会議や物流連絡会議において効果的な施策が打ち出されるようになった。

「⑥棚卸し頻度の見直し」では、それまで決算月の年1度だけだったのを、月1回の循環棚卸しに変更して、全品目を3カ月ごとに実地棚卸しするようにした。これにより、ノルマ達成のために店長が月末に自分で車両を買い込んで翌月に売却したり、キャンセル車を営業マンが私物化したりなどの不正行為に歯止めが掛かった。

これら原価計算や棚卸しの精緻化は、営業にとってはノルマ達成の抜け道がなくなることを意味するため、実施に対しては反発もあった。しかし、そうしたカラクリがあることは、T取締役をはじめ経営層は以前から感づいて、問題視もしていたため、半ば強引に推し進めることとなった。

「⑦物流センターの設置」は大掛かりな施策であった。従来、D社では一般ユーザーから中古車を下取りした後の初期洗車、社内清掃、加工修理、部品交換などの流通加工を各店舗で実施していた。それが店舗スタッフの大きな負担になっていた。

そこで各地に整備工場を併設した物流センターを立ち上げることにした。洗車・清掃だけでなく、修理、板金、塗装、車検などにも対応できる、いわゆるPDC(プロセス・ディストリビューション・センター)である。既に千葉、仙台、小田原で設置が完了しており、今後、新潟、群馬への設置を予定している。

物流センターといっても実際には約2千坪強の敷地に金網フェンスが張られた野積み・平置きの駐車場だが、そこにオークションで仕入れた車と店舗に持ち込まれた下取り車で当該店舗が不要とした車を集約することで、店舗の作業負担が軽減されてスペースに余裕も生まれる。

これらの物流センターでは「⑧出荷頻度ABC分析に基づくロケーション、レイアウトの作成」を行っている。車種別の出荷頻度のABC分析に基づいて、Aランクの人気車は出しやすいゾーンに、積み降ろし頻度の少ないB、Cランク車は奥側のスペースに保管することで、トレーラーへの積み降ろし時間短縮を図っている。

ゾーン表示には道路標識スタイルを採用し、表示柱を打ち込んだ。先入れ先出し、後入れ先出しのどちらにも対応できるように、外枠フェンス側に1台分の通路幅を確保したアイランド型のレイアウトにした。

なおABC分析の結果、車種別の出荷頻度はエリアによってかなりの違いがあることが分かった。Aランクはどの地域もほとんど変わりないのだが、Bランクには若い主婦層が多いエリアは軽自動車、自営業者が多いエリアは業務用車両やミニバン・ワンボックスが入った。

 

メーカーの物流子会社と共同化

「⑨配車センターの発足」では、大手自動車メーカーの物流子会社E社との共同プロジェクトを組織した。E社が首都圏で車両輸送トレーラーの配車センターを立ち上げるという話を耳にしたからだ。そこにD社の配車センター機能を統合しようというアイデアだった。ただし、同じ車両輸送でも、新車と中古車では流通ルートが異なる。うまく相いれるかが懸念された。

ここでも商品マスターの整備に始まった在庫管理機能の強化と、物流センターへの在庫集約が有効に働いた。どの在庫をどのセンターからどの店舗に、何台移送するのか、精度の高い求車情報をE社の配車システムに提供することができた。これがマッチングに有効だった。

そのことが物流子会社E社の新車をベースカーゴとする「⑩共同輸送の推進」にもつながった。D社の首都圏エリアの店舗および千葉と小田原、新設予定の群馬の物流センターを対象に、新車輸送の帰り便とメーカー工場の閑散時に物流子会社E社の車両を利用することになった。

これにより、各店舗の入荷時間にはバラツキが出るが、「事前出荷情報(ASN)」に基づいて店舗側で勤務シフトの早番・遅番を調整することで対応することにした。結果としてD社は全輸送量の22%に共配および帰り便を活用できるようになり、横持ち輸送のゼロ化も寄与して運賃コストは大幅に圧縮された。

共配実施前の納品時間を厳守しなければならないことが制約になって、共同化が不成立に終わるケースが一般に多く見受けられる。しかし、D社のような社内の拠点間輸送であれば柔軟な対応がとりやすい。さらに今後は荷受け側スタッフの立ち会いが必要な“有人納品”から、夜間納品や軒下納品などの“無人納品”が増えてくるはずだ。その結果、共配の成立する確率は高まっていくと著者はみている。

D社の改革はその後も続いている。現在は事務センターの設置準備を進めている。店舗の営業マンを事務作業から解放して、販売活動に集中できるようにすることが狙いである。