第204回 事例で学ぶ現場改善:『物流会社M社の地盤強化プロジェクト』

地域密着型経営をモットーとする地方運送会社から事業拡大支援の依頼が入った。具体的なテーマは二つ。一つは主要荷主の食品卸が自社運営しているドライセンターの業務を受託したいというもの。そしてもうひとつはエリア共同配送事業に乗り出したいということであった。早速、現地に乗り込んだ。

 

食品卸向けサービスの業務拡大

M社は中日本の、とある半島に本社を置く年商約50億円の企業グループである。中核の物流会社のほか、バス会社、タクシー会社、整備工場、タイヤ販売会社などでグループを形成している。いわば“クルマのよろず屋”であり、地方市場における地域密着戦略をセオリー通りに展開している。

グループのバス会社、タクシー会社は地元ではトップシェアを握っており、さらなる地盤強化策として本丸の物流会社にあらためてメスを入れることになった。われわれ日本ロジファクトリー(NLF)は既存クライアントからの紹介を受けて、その支援に入った。

M社のT社長は2代目で、夫人がグループ全体の財務・経理を統括し、実弟がバス会社社長を務めるファミリー企業であった。事前の打ち合わせでNLFの方針や考え方とT社長の経営に対する思いが合致していることは確認できていた。初回の顔合わせは短時間であったが内容の濃い話し合いができた。

T社長からの要望は大きく二つあった。一つは最大荷主の中堅食品卸N社向け業務の拡大である。N社からはこれまでチルド部門のセンター運営と、チルドとドライ両部門の配送を請け負ってきた。それに加えて現状ではN社が自社運営しているドライ部門のセンター業務を受託したいという話であった。もうひとつの要望は“半島”という地理的な特性を生かした共同配送事業を構築したいというものであった。

まずはN社ドライセンターの運営受託から説明する。われわれは実施項目を次の六つに落とし込んだ。

①幹部教育

②現状分析

③コスト削減策

④波動対応

⑤強みのアピール

⑥N社所有WMSの有効活用

最初に「①幹部教育」が必要であった。経営幹部の育成はT社長の念願でもあった。

このところM社は新規荷主を獲得せずとも経営的に安定していたこともあり、営業活動が停滞していた。荷主とは契約書こそ結んでいるものの、通常のやり取りは口頭やA4サイズのレジュメ1~2枚で済ませており、提案営業の基本的なツールや使い方の理解も十分ではなかった。そこで教育の時間を設けて、今回の営業ターゲットの食品卸N社を題材に提案営業の基本をレクチャーした。

「②現状分析」とは、具体的にはN社への提案の基礎データとなるドライセンターの現状のトータル物流コストをN社から提出してもらい、それを分析することである。その際にはN社の把握しているトータル物流コストと実際のコストとのギャップに留意する必要がある。荷主企業の自社運営拠点のコスト管理は人件費として現場スタッフ分だけを計上して、現場管理者と物流事務スタッフのコストを含めていないケースがしばしば見受けられるからである。

今回N社から受託できるかどうかのポイントは明らかにコストダウンであった。現状のN社の自社運営コストを下回ることが絶対条件となる。またこのケースでは、既にM社がN社から受託しているチルドセンターとの比較という視点も入る。一般にチルドに比べてドライは人件費単価が低い。チルドセンターと同じつもりで提案しても相手にしてもらえないだろう。

従ってM社としては効果的な「③コスト削減策」を立案して実行する必要があった。カギはレイバーコントロールであった。N社のドライセンターとチルドセンターは道路を挟んで向かい側に位置している。そのためM社がドライセンターの運営を受託すれば、両センターのスタッフをトータルにコントロールすることで総人数を抑制できる可能性があった。試算の結果、17%強の人件費削減を見込むことができた。

「④波動対応」も、N社に限らず荷主が物流パートナーを選定する際に非常に重視する点である。これもまたレイバーコントロールの問題であり、チルドセンターとドライセンターでスタッフを融通し合う体制をとることで対応できる。仮にN社のチルドとドライの両方の物量が同時に跳ね上がった場合にも、M社は車で約15分の場所に別拠点を運営している。応援体制は盤石といえた。

「⑤強みのアピール」では、右に挙げたレイバーコントロールの他にも、M社にとってN社は既存荷主であるため取扱商品やルール、作業概要を理解していること、N社の配送業務も担っているためバースへの車両の着車時間を早められること、さらには後述するエリア共同配送の構築により、運賃コストの抑制を期待できることなどを整理して提案書にまとめた(図)。

最後の「⑥N社所有WMSの有効活用」は、WMSのデータを分析して改善提案を定期的に行うことを狙ったものだった。しかし、これには誤算があった。N社のWMSは機能に欠陥があるとの理由から、ほとんど活用されていない状況にあることが分かった。

しかし、システムに本当に欠陥があるのか、それとも現場運営に問題があるのは不明確だ。M社のスタッフに詳細をヒアリングさせたものの、N社の担当者も含めてシステムに詳しくないもの同士の話し合いであり要領を得ない。今後われわれNLFも加わって問題を整理する予定である。

N社が雇用している既存の現場スタッフの処遇をどうするかなど、ドライセンターの運営を受託するためにクリアしなければならない課題はまだ残っている。しかし、手応えはある。かなり期待できるとみている。

 

エリア共同配送事業の構築

T社長の二つ目の要望、エリア共同配送の構築に対しては、われわれは次の実施項目を提示した。

①ベースカーゴの確定

②ベースカーゴ便の空き状況のデータ化

③荷主のリストアップ

④荷主・パートナーの紹介

⑤納品頻度・納品時間・納品方法の調整

⑥共同配送運賃表の作成

「①ベースカーゴの確定」とは、現状で70~80%の積載率を維持できているルート便を、M社の車両から見つけ出すことであった。9台のルート便が候補に挙がった。そのうち7台がM社の主要荷主であるN社のルート便であった。

 “積載量20%程度の荷主を4~5社集める”というアプローチで共同運送を構築しようとする物流会社をよく見聞きするが、まず長くは続かない。20%という積載量は、その荷主の物量が不安定であることを意味している。時間の経過と共に物量が減って結局、路線便(特積会社)を使用することになる。あるいは物量が増えて車両を貸し切ることになるのが落ちである。中長期にわたり機能している共同配送は、積載率にして70~80%の物量がある“ベースカーゴ”に少量荷主の荷物を積み合わせている。

続く「②ベースカーゴ便の空き状況のデータ化」では、次の項目をエクセルデータに落とし込んで空き状況を明確にした。

・空き積載量(才/重量)

・ベースカーゴの方面・エリア

・温度帯

・1日平均走行距離

・1日平均拘束時間(労働時間)

・納品時間指定の有無

・納品時間指定の時間帯

・備考

「③荷主のリストアップ」では、まずは異なる二つのタイプの既存荷主をターゲットに据えた。一つは路線便(特積み)を利用している荷主である。路線便から共同配送への切り換えを提案する。M社から見れば内製化を図るわけである。もうひとつはチャーター車両を提供している既存荷主である。複数の荷主を組み合わせて車両の集約を図る。

 

ニーズに合わせてスキーム変更

対象荷主のリストアップと提案活動を続けていく中、それまで気付いていなかった荷主のニーズが見えてきた。当初、M社は半島を中心とした狭い範囲の共配を想定していた。しかし、荷主が求めていたのはもっと広い範囲にわたる、いわば“エリア共配”であった。

M社の傭車率は10%前後であり、自社便の比率は非常に高いが対象地域は限定されている。そこでM社が地盤とする地域以外は、それぞれ地の利のある同業他社とタイアップして、傭車対応で共同配送のネットワークを広げることになった。

「④荷主・パートナーの紹介」では、NLFのネットワークから新規荷主の候補としてその地域に拠点がある食品メーカー1社と食品卸1社を紹介した。また、M社のエリア共配ネットワークの拡大に伴い、パートナーとなる物流会社を段階的に3社紹介した。

「⑤納品頻度・納品時間・納品方法の調整」は共同配送には付きものである。卸に納品する場合には共同物流の実施に伴い、納品頻度を従来の「毎日」から「週3~4日」に切り替えて、コストセーブする方法を採用することがよくある。可能であれば実施すべきである。

また納品時間は調整無しでは重複することが多い。納品方法にも、有人立ち合い納品、無人鍵預かり納品、置き配納品などのバリエーションがある。いずれも荷主に調整を依頼して協力を得なければならない。その調整力が共同配送の効率を大きく左右することになる。

「⑥共同配送運賃表の作成」は、正確な原価計算に基づいたタリフを作成して、その構造まで荷主に理解してもらうことが重要である。そうでないと、共同配送が軌道に乗っている時には問題にならなくても、物量が減少して積載率が下がってきた時に問題が起きる。

共同配送の命綱はもちろんベースカーゴである。しかし、ベースカーゴが崩れても、原価計算に裏打ちされた明確な運賃表を最初から運用していれば、どうにか持ちこたえることができることもある。

以上、M社のエリア共同配送は既に軌道に乗りつつある。パートナーと手を組み傭車比率を上げたことで対応エリアが拡大して売り上げが増えてきた。T社長は「着実な地盤強化が事業拡大につながっていっている」と鼻息が荒い。

今回のプロジェクトから筆者が受けた感想は、地域密着型の事業者の考える地域密着型サービスが必ずしもマーケットニーズに合致しているとは限らないということである。むしろ大きな差があると考えた方がよい。ギャップの解消がビジネスチャンスを生むのである。

 

《特別編》事例で学ぶ現場改善:『カー用品卸S社の拠点再編プロジェクト』

本社併設の自社運営センターが狭隘化して周辺に4カ所の営業倉庫を借りていた。それでもスペースが足りない。一方で庫内人件費や運送費は上昇を続けている。経営トップが自らリーダーとなってプロジェクトチームを組織した。物流コンペを開催して拠点網を再編することになった。

自社運営のセンターが狭隘化

S社は年商約90億円のカー用品卸である。関東の本社の他に、北海道、仙台、名古屋、大阪、広島、福岡の6カ所に販社を置いて全国をカバーしている。物流拠点は本社併設の物流センターとその周辺の4カ所に外部倉庫を借りている。また福岡の販社も倉庫を併設している。

S社は卸ではあるが自社企画のPB製品を持ち、過去にはカー用品メーカーを買収している。同じ中間流通と言っても、二次卸のような小売りに近い「川下型卸」と、S社のような「川上型卸」では、必要とする物流機能がかなり異なる。川下型卸は小売りに対するベンダー機能の強化や納品(条件)などが主要なテーマであり、管理者の意識もそこに注がれる。一方、S社の場合はメーカーに近い物流の考え方をしており、海外生産品を含めた調達を強く意識している。

卸に求められる機能は大きく五つある。⑴ロット調整、⑵ファイナンス機能(まとめ買い代行)、⑶品揃え、⑷リテールサポート、⑸物流である。卸が生き残るためには⑸物流の他にもうひとつ、強みとする機能を持たなければならない。そうでなければ存続は厳しいと筆者は考えている

話をS社に戻そう。S社の物流課題は、自社運営している物流センターのスペース不足、非効率な拠点配置、BtoB配送とBtoC配送の混在、人件費・運賃の高騰であった。またグループ企業との物流の統合も検討していた。

そこで2代目の現社長をリーダーに、役員クラスが参加するトップダウン型のプロジェクトチームを組織した。われわれ日本ロジファクトリー(NLF)がプロジェクトを支援することになった。

改革のバックボーンが明確であっため、必要な対策は明らかであった。物流拠点の再配置、センター運営の最適化、3PL導入の三つである。S社はすぐにこれに合意して、われわれNLFが以下の具体的なアクションプランに落とし込んだ。

①着地点分析

②物流拠点の集約

③在庫の定義付け

④物流パートナーの選定

⑤提案依頼書(RFP)作成

⑥「物流事業者評価表」の活用

①着地点分析とは、納品先の分布と物量の実績データから物流拠点の最適立地を抽出する作業である。われわれNLFのコンサルティング案件では毎回のようにこれを行っている。

一般に卸売業はメーカーと比べて地域密着の度合いが強い。中小規模になるほどその傾向は顕著に表れる。S社も同様であった。全国展開は行っているものの本社を置く関東の売上比率が50%以上に達していた。

分析の結果、現在の関東拠点を北に約30キロメートル、福岡拠点を東に約120キロメートル移した場所がS社にとっての最適立地であった。あとは3PL事業者が要件を満たす拠点を用意できるかどうかであった。

②物流拠点の集約は、4カ所に分散している外部倉庫を新センターにまとめることで横持ち輸送を解消して作業生産性を向上することが狙いである。

ただし、横持ち輸送については四つの外部倉庫がいずれも物流センターから車で15分圏内に点在していたため、運賃の削減効果は限られていた。自社ドライバー1名の人件費と自社車両1tバン車の車両費が不要になる程度であった。

しかし、拠点の集約による生産性の向上には大きな手応えがあった。現状の外部倉庫はいずれも天井が低く多層階であった。新センターで重量ラックや、ネステナーを使ったパレット3段積みの保管をすれば、それだけでも総延床面積を約3割削減できる。さらに在庫削減によって、保管効率が向上しようという算段である。

③在庫の定義付けとは、デッドストック(死蔵在庫)、スリーピングストック(滞留在庫)を明確に定義することである。在庫の見える化(可視化)と在庫の適正化に対する社内の意識を醸成することがその目的である。

そもそもS社は在庫管理が得意ではなかった。適正在庫、発注点管理が機能しておらず、出荷頻度のABC分析など在庫のランク付けなども行っていなかった。さらにコロナ禍に入って調達先のメーカーの生産が停滞して欠品が常態化していた。

メーカーの中にはS社の注文品よりも利幅が大きい輸出品を優先するところもあった。S社もM&Aしたメーカー品と自社ブランド品で応戦したものの、有力ブランド(メーカー)品の売り上げをカバーするには至っていなかった。

④物流パートナーの選定について、S社の経営陣は同業他社から同分野で実績のある物流会社A社とB社の情報を入手しており、既に両社のセンター視察や打ち合わせも行っていた。しかし「他にどのような会社があるか分からない」などの声が上がり、正式にコンペを開催することになった。

A社とB社の他に、われわれNLFがネットワークしている物流企業の中から、⑴業種・取扱品目、⑵売上規模、⑶システムレベルなどの観点でS社に合うパートナー候補を選んで選択肢を広げた。

著者は物流企業の紹介には暗黙の“責任”が生じると認識している。われわれが紹介した物流企業がクライアントの期待に応えることができなかった場合には、われわれ自身が失格の烙印を押されてしまう。そのため物流企業のブランドや過去の実績に振り回されることなく、現時点の現場力や提案力、トラブル対応力などを評価して、恥ずかしくないパートナー候補を紹介するように努めている。しかし、物流企業や3PLの多くは、そのことをなかなか理解してくれない。時に不満を言われることもある。残念なことである。

 

RFPが物流コンペの成否を握る

続いて詳細な⑤提案依頼書(RFP)を作成した。S社の物流の特徴、求めるサービスレベル、要望などをビジュアルも使って分かりやすく表現して齟齬が生じることのないよう工夫した。

RFPの精度はコンペの成功を大きく左右する。実際、RFPの情報が不十分だったり説明が不足していたりすると、「荷主の専門用語がわからない」「3PLに目的、主旨を理解してもらえない」などのアンマッチが必ず発生する。

パートナー候補各社に伝わった情報レベルが異なれば、アウトプットに差が生じるのは当然である。われわれNLFでは従来から“荷主企業と物流企業の温度差をなくす”ことを大きなテーマの一つに掲げているが、残念ながら今もなお、それは課題であり続けている。

S社の物流センターの現場スタッフは大半が直接雇用のパートである。コンペに参加した3PLには、既存パートの受け入れも条件の一つとして打診することにした。3PLにとっても新規採用から教育までのプロセスが省けるため、時給を含む待遇面の条件が合えば受け入れてもらえる可能性が高いと判断した。

システム面では、S社がWMSを自社開発して物流の強みにすべきかという議論もあった。しかし、売り上げ規模が現在の倍になるまでは、3PLのWMSを借りた方が無難であった。またS社は現在、受注システムの刷新を進めていることから、社内の業務負担・資金負担の両面で今は避けた方がいいとアドバイスした。

⑥「物流事業者評価表」の活用は、感覚的な選定とコスト至上主義を払拭して評価の公平性を確保し、最適なパートナーを選定する狙いである。

S社に限らず卸のセンター運営のポイントは万単位にも上るアイテムをうまく管理できるかである。具体的には、在庫差異の解消、ランク別のロケーションおよびレイアウトを作成することによる動線の短縮、商品マスターのリアルタイムの更新、それによるWMS活用、在庫量の適正化、誤出荷の削減などが問われる。

物流事業者評価表に基づく評価の結果、パートナーはP社に決定した。S社が先にコンタクトをとっていたA社とB社は落選となった。現在は新センターへの引っ越しを終え、立ち上げの最中である。稼働開始から40日以内に運営を安定させることが一つの目安である。3PLの真価が問われるところである。

 

第203回 事例で学ぶ現場改善:『物流マン研修あるある事例集』

筆者はこれまで十数年にわたり、物流センター長や物流コンサルタントを目指す実務家たちを相手に研修を行い、数多くの物流プロフェッショナルを世に送り出してきた。その経験を振り返りながら、物流マン研修の効果的な進め方、よくある失敗、〝べからず集〟をアドバイスする。

 

費用対効果の高い研修の共通点

今回はわれわれ日本ロジファクトリー(NLF)が対応してきたさまざまな物流研修の事例を紹介する。NLFは“物流のプロを育成する”ことを目的に2006年4月に「物流実務カレッジ」をスタートした。

同カレッジのカリキュラムは大きく「物流センター長育成プログラム」と「物流コンサルタント育成プログラム」の二つに分かれており、そこから派生した「提案営業研修」や「3PLプロフェッショナルマネージャー研修」などをクライアントのニーズに合わせて開催してきた。

その卒業生はこの原稿を書いている時点で656人に上っている。そのうち約85%は「企業内研修」、残りの15%は「一般募集開催研修」の受講者である。これらの経験から、費用対効果の高い研修には以下のような共通点があることが分かっている。

・参加型であること

テキスト中心の一方通行の研修は効果が薄い。講義内容はポイントを整理する程度にとどめて、それぞれのポイントを受講者参加型の「集団実務指導」によって落とし込むことに時間を割く。参加者に自分の頭で考えさせるのである。

そのためにはケーススタディが有効だ。講師がファシリテーターとなってお題を出し、受講者たちは少人数のグループを作って話し合う。その内容をまとめてグループの1人がプレゼンターとなって発表する。それに対して講師はコメント、フィードバック、まとめを行う。

・受講者を寝させない

プレゼンターはあらかじめ決めない。直前に講師から指名する。常に緊張感を持たせて“眠らせない”ことが大事である。そのために全ての参加者に、聞く、当てる。

・100社100様のカスタマイズ

同じテーマの研修でも、その会社によって期待していること、必要とする内容は違う。それを汲み取って研修内容をカスタマイズする。

また、多くの卒業生を世に送り出して分かったことの一つは研修の受講者には適正年齢があるということである。それまで自分がやってきたことを否定されるのを許容できるのは42歳が上限だと筆者は認識している。物流マンとして一番が脂が乗っている時期でもある。

45歳を超えると吸収力は大幅にダウンする。加齢によって理解力は低下し、研修慣れも出て来る。自己否定は難しくなる。50歳を超えれば吸収力は80%はダウンすると考えた方がよい。

さて、以前に筆者が関わった物流会社C社では、昇格の職能規定に研修を組み込んでいた。しかし、筆者が研修の様子を後ろから眺めていたところ、ある受講生がメモを取る振りをしながら研修報告書の作成に没頭しているのが分かった。彼にとっては研修を受けたという事実と、会社への報告が全てだった。研修の内容を吸収することより、欠席しないことが目的になっていた。

物流会社T社の研修では、それとは対照的な受講者と出会った。参加者の中に典型的な体育系かつ前職が土木現場で土を掘っていたという若手がいた。毎回、一番前の席に座り、熱心に講義に耳を傾けている。

ところが、ある回の研修で、彼が珍しくスマートフォンをずっと触っていた。休憩時間に本人に確認したところ、「研修内容でドキッとした点があったので、メールで現場にやり方が間違っていたと指示しました」とのこと。筆者は、返す言葉がなかった。何という吸収力、行動力。聞けば彼は経験が浅いにもかかわらず既に二つのセンターを統括する逸材であった。

D社のセンター長候補研修では、当初は口数が少なく無気力にさえ見えた参加者が、研修を重ねるたびに新しい側面を見せるようになり、大きく成長していく姿を目にすることができた。

研修に先だち筆者とNLFのメンバーは研修参加者が担当する現場を視察した。出迎えてくれたのはK氏。「彼も研修に参加します」と同行した人事部のスタッフから紹介された。線が細く、声も小さい。自信のない新人のように見えた。しかし、後になって本人に尋ねたところ「初対面で緊張していました」とのこと。それだけ研修を真面目に捉えていたのであった。

研修の初回から、われわれの質問に対する彼の回答は的を得ていた。回を追うごとに、よりハイレベルアップな質問を投げかけていったが、いずれも完璧な答え返ってくる。地頭の良さに加え、前職の有力物流企業での経験が大きな財産になっているようだった。

ある回の休憩時間に筆者は彼に近づいて、彼の自信のなさそうな態度が周囲に与える影響を伝えて、背筋を伸ばし、大きな声で話すようにアドバイスした。彼は素直に筆者の助言を受け入れた。研修も後半戦に入ると彼の表情は明るくなり、目つきも鋭くなっていった。

最終的に彼は20人近くが参加した企業内研修でMVPを獲得した。さらには現場に戻った後、2階級特進でセンター長に任命されたと聞いた。今はどうしているだろう。また会って話をしてみたいと筆者は感じている。

 

受講者の中にキーマンを探す

われわれ主催者は毎回の研修をいかに充実したものにするか、付加価値ある研修にするかを心がけている。そのために必ず実践している、ちょっとした仕掛けがある。名付けて「(研修の)キーマンを探せ!」である。

やる気とモチベーションに溢れた参加者を見つけるのがベストだ。それが難しい場合でも、講師の問いかけに対する反応がいい、質問の時間には積極的に手を上げる、その際に自分の業務で困っていることを打ち明けてくれる──そんな参加者を探す。

研修の初回でキーマンを見つけ出すことが重要だ。その参加者がどのフレーズに反応したか、メモのタイミング、姿勢、目の動きなどを見ていれば分かるものである。そのキーマンを中心に研修を展開することで周囲に良い影響が波及する。キーマンに刺激を受けて参加者全員の意識が高まる。

受講者は会社が一方的に選定するだけでなく、自分から参加を希望した人を加えたほうが効果を出しやすい。自主参加した受講者には通常、次のような特徴がある。いずれも研修を活性化する効果がある。

・  研修開始時間よりかなり早く会場入りする

・   メモの量が多い

・   研修を通じて声が大きくハキハキしている

・   グループリーダーに立候補する

・   ケーススタディ後のプレゼン担当者を決める際にも一番に手を挙げる

・   休憩時間は講師を質問攻めにする

・   研修で学んだことを実践した結果を後から報告してくれる

各社の研修を通じてあらためて感じるのは「組織の強さは人事で決まる」ということだ。どのようなプロセスで研修の参加者を選ぶか、研修者は納得して参加しているか、研修者の研修受講時の業務のフォローはできているか、研修後は報告書を提出して「はい! 終わり」になっていないか、いずれも人事部門次第である。

①採用、②教育、③配置転換の三つを機能的にコントロールして、伸びしろのある人材にはそれに見合った教育を施す。企業の成長には欠かせない機能である。

 

第202回 事例で学ぶ現場改善:『電子部品メーカーH社の物流最適化』

荷主企業が自社運営する物流センターの改善プロジェクトを支援した。現場を視察したところ管理レベルは水準には達している。従来から自力で改善活動に取り組んできたというのは本当だろう。それでも課題は少なくなかった。プロジェクトを進めていくうちに隠れていた問題点も見えてきた。

 

経営トップが物流を最重要課題に

H社は年商約60億円の電子部品メーカーだ。関東に本社工場を構え、そこから約3キロメートルの場所に物流センターを置いている。物流センターは自社運営で建物は借貸している。他に滞留品用の保管倉庫を物流センター周辺にいくつか借りている。

取扱アイテム数は約3500。製品本体以外にも付属品や細かな部材があるため、メーカーとしては品目数が多い。その約半分を自社工場で生産して、残り半分は外部に生産を委託している。

H社は品質管理部門の責任者をリーダーとする物流最適化プロジェクトを組織した。2代目社長の経営トップは、同プロジェクトを経営の最重要課題として位置付けた。われわれ日本ロジファクトリー(NLF)がそのサポート役を務めることになった。

初回の打ち合わせで経営トップからは、商品の保管の仕方、庫内オペレーション、社員の物流教育についてのリクエストがあった。またプロジェクト期間は1年間と設定された。一方、品質管理責任者のプロジェクトリーダーは、作業生産性の向上、在庫差異の解消、誤出荷のゼロ化を目的として掲げた。

それから数日後、筆者をはじめNLFのメンバーは現場視察や担当者へのヒアリングなどの実態調査を開始した。断続的ではあるが従来からH社は自社で改善活動に取り組んできたとのことで、基本~中級レベルの課題はおおよそクリアできているようであった。

それでも部外者の、われわれNLFの目でH社の物流の現状を見直したところ、70項目に上る改善テーマが抽出された。その一部を抜粋すると以下の通りである。

●作業生産性に関する項目

①六つの「ない」(持たせない/書かせない/歩かせない/待たせない/考えさせない/探させない)の実践による作業生産性の向上

②出荷頻度ABC分析によるロケーション、レイアウトの作成

③レイバーコントロールの実践

④バッチ処理の見直しによる作業生産性の向上

⑤ロケーション番号、掲示物の拡大による視認性と作業生産性向上

 

●在庫差異の解消に関する項目

⑥棚卸方法の見直し

⑦盗難防止

⑧実棚卸手順の見直し

⑨入荷数量検品の実施

 

●誤出荷のゼロ化に関する項目

⑩専任出荷検品者の設置

⑪〝たすき掛け〟検品の実施

⑫〝読み上げ〟検品の実施

 

●その他の項目

⑬ネステナーを中間プラグで強化して段積み

⑭元箱管理による先入れ先出し徹底

⑮カッターの使用禁止による安心・安全な作業環境づくり

⑯適正在庫、発注点の見直し

⑰在庫集約による横持ち輸送の解消と在庫一元管理

⑱デッドストック(死蔵在庫)、スリーピングストック(滞留在庫)の定義付け

⑲在庫コントローラーの設置

⑳〝タテパレ(パレットを立て置きすること)〟の禁止

H社のトップは、右に挙げた項目全てを従来の改善活動で積み残してきた課題であると認定して、今回のプロジェクトで着手することを決めた。以下に本稿ではポイントを絞り込んでその一端を紹介する。

「②出荷頻度ABC分析によるロケーション、レイアウトの作成」は、作業生産性と作業品質の向上、そして“逃がし在庫”の削減が狙いである。“逃し在庫”とは、保管ラックの決められた棚番地に収まりきれなかったため、本来とは違う棚に置いている在庫のことである。

逃がし在庫が発生した原因は二つあった。一つは在庫過剰であり、もうひとつはロケーションを設計する際に、保管する在庫の体積(立法センチメートル)を算出していなかったことであった。これを解消するために、各SKUの体積を考慮したロケーションの再設計と、本稿で後から説明する「適正在庫、発注点の見直し」を実施することになった。

 

現場の労務管理が甘過ぎる

「③レイバーコントロールの実践」はH社にとって必須の改善項目であった。自社運営の物流センターにありがちなことだが、レイバーコントロールに甘さがあった。というよりも、レイバーコントロールを実施していなかった。パートも含めて現場スタッフ全員が同じ時間に出勤し、退社していた。曜日によって投入人数を変えることもなかった。

つまりシフト制を採用しておらず、物量の変動に合わせて投入する人時を調整する機能を持ち得ていなかった。現場の管理責任者は、直接雇用のパート人件費や勤務時間の安定が、労務管理の目的だと錯覚していた。

もっともH社には伝統的に雇用の安定を重視する文化があり、パートといえども例外ではなかった。それはH社の長所でもあるため、まずは初級レベルのレイバーコントロールから着手して、企業カルチャーを傷つけないように慎重に改善を進めている。

「⑤ロケーション番号、掲示物の拡大による視認性と作業生産性向上」については、H社の場合、従来から意識されていたようで現状に大きな問題なかった。それでも今回のプロジェクトを良い機会として、将来の高齢化に向けて掲示物の文字やロケーション番号の表記を拡大して見やすくしておくのが得策と判断した。

「⑥棚卸方法の見直し」は、在庫精度を向上すると共に棚卸業務にかかっている人件費の抑制が目的である。H社ではこれまで、現場を動かしたままの状態で毎日循環棚卸を実施していた。それを改めて、入出荷をはじめとする全ての作業を終了させてから、在庫をカウントすることにした。

1カ月で全アイテムをカバーするために、循環棚卸の対象を1日平均160アイテムに設定、棚卸作業に必要な人時を算出して残業が発生しないように、つまり終業時間までにその日の棚卸しが終わるように、スケジューリングした。

「⑦盗難防止」は残念なことではあるが、在庫差異の解消には必要な施策である。実際、あまり表に出ないだけで、庫内作業員による在庫の盗難は多くのセンターで発生している。そのため気になる現場では筆者は必ず「メルカリやアマゾンのサイトで自社の商品が売られていませんか」と尋ねるようにしている。

この問題は現場の管理者よりもむしろ経営トップの方がよく認識している。経営トップが「実はウチも‥‥」と、物流現場から流失したと考えられる横流し品がネットで販売されていたことを打ち明けて、周囲のスタッフが「そうなんですか!」と驚く光景を何度か目の当たりにしている。

その出所は深く詮索せずに“何らかの理由”で不要になった在庫を引き取り、同業他社やバッタ屋などに転売するブローカーは、“せどり”と呼ばれて昔から存在していたが、ECの普及でBtoBマーケットプレースなどが乱立するようになって、その裾野が広がっている。注意した方がよい。

「⑨入荷数量検品の実施」は当たり前のように聞こえるかもしれないが、H社の場合、海外調達品は現地から出荷する時点でチェックがあり、コンテナのまま入荷するため、数量差異があったとしてもまれであることから、入荷時に品質検品はやるが、数量検品は行っていなかった。

しかし、試しに国内で生産や組み立てを委託している外注先の一部商品を対象に、入荷数量検品を行ってみたところ、その初日から2件の数量違いが発覚した。これもまた在庫差異が発生する一因であった。そこで対象商品を絞り込んで数量検品を実施することにした。

「⑩専任出荷検品者の設置」も検品精度の向上には効果的である。ピッキング作業員による自己検品と、梱包作業員による検品のダブルチェックを実施しても、“ながら検品”となってしまい、責任の所在も不明確になってうまく機能しないことがある。

ただし、専任担当者を設置するとレイバーコントロールに制約ができて人件費が上昇する恐れがある。H社は現状、品質優先であることから実施したが、今後環境が変わることもある。そのためピッカーとは別の作業員が検品する「⑪“たすき掛け”検品の実施」や「⑫“読み上げ”検品の実施」を並行して進めている。

「⑬ネステナーを中間プラグで強化して段積み」は、従来からフロアの一部で実施していたが、それを全フロアで展開する。“空気保管”が解消されて保管効率が大幅に向上する。現在、その効果をシミュレーションしている。

 

「在庫コントローラー」の導入

「⑯適正在庫、発注点の見直し」は、筆者が現場を見てあまりにも在庫が多いため、その原因を追及していった結果、H社の担当者に当初ヒアリングした内容と実態が違っていることが判明したことから加わった施策である。

当初、発注点管理や購買ロットの調整、交渉は当プロジェクトの前に実施済みだと聞いていた。しかし、現場で在庫量を確認したところ平均3カ月分あるという。さらに、その内訳を尋ねると、トップが自ら売れると判断してコンテナ買いしたが、売れ残ってしまった滞留在庫などがかなり含まれているらしい。

これを整理するために、調達先メーカーへの返品、需要予測ロジックの見直し、発注点の算出方法の見直し、また後ほど説明する専任の「在庫管理コントローラー」の設置などの方法を現在それぞれ検討中である。

「⑰在庫集約による横持ち輸送の解消と在庫一元管理」は、打ち合わせの初期段階で「従来は6カ所に分散していた滞留在庫の保管場所を3カ所にまとめることができたばかり」という情報が入っていた。つまり集約してから間がなかったため、短期テーマには組み入れなかった。しかし、本来であれば重要項目である。前述の一連の在庫削減施策にめどがつき次第着手する予定である。

「⑱デッドストック(死蔵在庫)、スリーピングストック(滞留在庫)の定義付け」は、在庫リスクの見える化と、H社の社員たちに在庫削減意識を醸成することを狙ったものである。

筆者としては、これを今回のプロジェクトで最も重要な施策と考えている。社員たちの物流に対する認識にH社のウイークポイントがあるとみているからだ。そこで単に在庫を定義するだけでなく、それに続いて定義を社内で共有し、さらには生販物連絡(調整)会議を推進することで改善を進めていく計画だ。

「⑲在庫コントローラーの設置」とは先にも触れたが、要は在庫管理専任チームを作ろうという話である。これについては社長自身がプロジェクトのキックオフ前から大きな関心を持ち、その必要性を強く認識していたため、比較的スムーズに進めることができた。部署名はまだ決まっていないが、人選も終わり、発足準備に入っている。

今回のH社のケースのように、最近われわれNLFでは荷主企業の自社運営センターの改善を取り扱うことが増えている。自社運営は“井の中の蛙”になる傾向がある。またプロジェクトの運営には経験値が必要である。要所要所で外部の知見や情報に触れておくことは無駄ではないだろう。

 

第198回 事例で学ぶ現場改善:『日用雑貨卸K社の物流改善フェーズ2』

物流改善プロジェクトを1年前に終えた日雑卸からあらためて連絡が入った。新型コロナの影響で物量が急増、オペレーションが混乱しているという。あらためて現場視察に入った。長年続けてきた物流センターの自社運営を見直す必要があるようだ。しかし、すぐにアウトソーシングを導入することはできなかった。

1年余りの間に在庫量が急増
K社は年商約450億円の日用雑貨卸である。東海地区に本社を置き、関東、東海、関西、九州(福岡)にそれぞれ在庫型物流センター(DC)を設置して、全ての拠点を自社運営している。取扱品目は約7800。容積が大きく嵩張る商品から爪楊枝などの小物のバラ出荷まで、作業効率の悪い商品もかなり扱っている。裏返せばそれがK社の差別化戦略でもあった。

われわれ日本ロジファクトリー(NLF)は、2年ほど前にもK社の物流改善を支援している。1年弱にわたる活動を実施して、生産性、品質の改善目標を達成して、プロジェクトはいったん終了した。
それから1年余りが経過して、同社の物流部長S氏から再び連絡が入った。「昨今のコロナ禍の影響もあって経営環境が大きく変わり、現場の運営力が低下している」という。あらためてK社の物流施設の中で最も規模が大きい東海センターの改善に着手することになった。

今回を「フェーズ2」とすると、前回の「フェーズ1」では「現場スタッフは日常業務に追われて改善まで手が回らない」「通路に商品を置いているなど、5Sができていない」といった基本的な課題に取り組んだ。それに対してフェーズ2は「巣ごもり消費の拡大による売上増に物流の処理能力が追いつかない」ことが最大の課題であった。

われわれは1年ぶりに東海センターを訪問して再度、現場を調査した。確かに物量が増えている。あちらこちらで商品が棚から通路に溢れ出している。フェーズ1でクリアしたはずの課題であった。S物流部長および東海センターの管理を担当するA物流課長を相手に、ヒアリングと打ち合わせを行い、次の五つの項目に取り組むことになった。

①センター移管の検討
②アウトソーシングの検討
③朝礼、昼礼の実施
④「センター長」の設置
⑤個人面談の実施

「①センター移管の検討」はキャパシティの拡大が目的である。現状の施設はキャパオーバーが明らかだった。天井が低いため高さを使うこともできない。「ネステナー」を使ったパレットの段積みは2段が限界であった。さらに建物の老朽化が進んでいること、空調設備等を設置しようとすると多大な費用がかかることなど、総合的に判断すれば移管が得策であった。
ただし、東海センターはS社の基幹センターであり、本社から離れた場所に移設するわけにはいかない。物件を探してみたところ、幸い既存センターから直線距離で1キロメートルほどの場所に条件をクリアできる空き施設が見つかった。現状と比べて坪当たり賃料は300円上がるが、今回のプロジェクトの改善効果でコストは吸収できると判断した。現在、同物件の所有会社と順調に交渉が進んでおり、今年9月には移管を実施する計画で動いている。

自社運営の方針見直しを提案
「②アウトソーシングの検討」は筆者からのアドバイスであった。これまで全ての物流センターを自社運営してきたS社の方針とは反することであったが、S社の経営全般における物流の比重は同業他社と比較して重過ぎると、筆者は感じていた。

卸が物流を重視するのは当然とはいえ、S社は現場作業員の採用や労務管理にかなりの労力を割いていた。本来であれば戦略の立案や方向性の判断、付加価値の創出に割くべき正社員スタッフの時間と人手が間接業務や雑務、イレギュラー対応などに取られてしまっている。このような状況であれば卸としての本業に特化するため、拠点運営を一括してアウトソーシングするのも一つの選択肢である。

ちょうどS社では東海センターのプロジェクトとは別に、中・四国エリアに新たにDCを設置する計画が進んでいた。そこでS物流部長は新DCの運営をアウトソーシングする前提で物流会社数社と交渉を行った。しかし、結果は「保留」であった。理由はコストが合わなかったためである。現状のオペレーションをそのまま外部に委託すれば、むしろ高くついてしまうことが分かった。

この経験から、われわれも含めたプロジェクトチームのメンバーたちは逆説的に、アウトソーシングが可能なレベルまで、S社の現場をブラッシュアップしていく必要があることを痛感したのであった。

それでも、S社の物流自社運営が限界に近づいているのは、東海センターが業務量の増大に対応できなっていることからも明らかであった。そこで自社運営のレベルアップによって「誰もがわかる現場づくり」を推進しながら、それと並行してアウトソーシングのパートナー候補との協議を継続することとなった。

「③朝礼、昼礼の実施」は現場作業員の意識の向上を狙いとしている。これも逆説的ながら、アウトソーシングの実現に向けた自社運営強化策の一つである。

S社の改善のフェーズ1では、「2S(整理・整頓)」「商品保管の方法」「ロケーションの作り方」「保管棚・ラックの効果的な活用法」「作業生産性向上のためのレイバーコントロール」「六つのない(持たせない/書かせない/歩かせない/待たせない/考えさせない/探させない)の実践」──などを実施した。現場スタッフは物流改善の基本を身につけるレベルまではこぎ着けた。

フェーズ2では、そこで学んだスキルを生かすために、意識を変えることに重点を置いた。実際には、基本的な、コミュニケーションの方法や、前向きな姿勢・考え方(ポジティブシンキング)から教え込む必要があった。現場スタッフの高齢化が進み、しかも物量が増大したことで現場が疲弊していたのである。

形骸化していた朝礼のやり方もリセットした。(1)現場責任者からの伝達事項、(2)昨日の物量(ピース、行数)と本日の予定物量(ピース、行数)の報告、(3)出欠確認と体調管理をその目的として明確にした。さらにそこにラジオ体操を加えて、身体から意識(脳)へ刺激を送るようにした。一方、昼礼はレイバーコントロールの核として位置付けた。各現場リーダーを1カ所に集め、物量と終了予定時間、人員の過不足を調整するのである。

センター長の個人面談は効果的
④「センター長」の設置は、当然ながら現場責任者を明確にする目的である。それまでK社には「センター長」という職制が存在しなかった。本社目線の役職である“課長”が各地のDCの現場責任者だった。現場作業員の目には「本社から管理職が来ている」としてしか映っていなかった。自分たちの“親分”として扱っていなかったのである。

そのために「報告・連絡・相談」が全く機能していなかった。事前相談や事後報告もないまま、各人が各自の判断で物事を処理、対応していた。これを放置していればいずれ大きな問題を引き起こす恐れがあった。早急に「センター長」を設定する必要があった。

各拠点のセンター長と現場スタッフによる「⑤個人面談の実施」も、現場意識の向上とコミュニケーションづくりが表向きの狙いであるが、筆者の主たる目的は現場の不平不満の発散とその情報収集にあった。所要時間は1人当たり40分~60分。センター長はその内の7割の時間を割いて意見を聞く側に回る。残り3割でセンター長の考え、やりたい事、協力事項などのビジョンを伝えるようアドバイスした。

現場は一人一人違う感情を持つ人間の集まりであるから、物流に限らずどんな現場でも個人面談は行うべきである。しかし、センター長の多くは現場のリーダークラスにその役割を丸投げしてしまう。丸投げされている現場リーダークラスが会社とスタッフの板挟みになって悩んでいるケースは少なくない。

この個人面談を行うと、どのセンター長もヘトヘトに疲弊する。しかし、それだけの効果はある。貴重なフィードバックを得られる。また、副産物としてセンター長が個人と1対1で話を聞くという活動が「何かあれば相談できる人がいる」「孤独に物事を考えなくてもよい」というK社の現場に対するスタンスを明示することにもなった。

昨今は物流をアウトソーシングしていた企業が、あらためて内製化に取り組む事例が増えてきた感がある。長年のアウトソーシングによって社内から失われてしまった物流管理能力を取り戻そうという動きであろう。しかし、今回のずっと自社運営を続けてきた企業の場合、一度はアウトソーシングを検討すべきだと筆者は考えいてる。

《特別編》新型コロナ 物流への影響:『現場からのサバイバルメッセージ』

新型コロナウィルスの感染拡大によって物流市場の環境は180度近くねじ曲げられた。年明けから4月初頭に、筆者の周囲に起きた現象を報告し、これから物流の世界に起きるであろう六つの変化とその対策について、緊急メッセージを発信する。

 

筆者の周囲に起きた六つの事象

⑴ 都心の首都高がガラ空き

大阪在住の筆者はこのところ、東京に出張して物流センターを回る時にはレンタカーで移動するようにしている。新型コロナウィルスの感染拡大が本格化した4月に入ってすぐにも、その機会があった。東京駅の近くでレンタカーを借りて首都高に乗った。平日の混む時間帯にかかわらず目を疑うほど道はガラガラだった。しばらく進んで、外環道に差し掛かると若干混雑し始めた。それでも、道路交通状況を知らせるパネルは、東京から放射状に伸びる関越道、東北道、常磐道がいずれも全く渋滞がないことを示していた。

帰り道も同じで、外環道を過ぎて23区に入ると車の数が目に見えて減った。都心の高層ビル街が怖いほどはっきり見えた。首都圏の物流拠点がどれだけ外環道周辺に密集しているのか改めて痛感した。外環道エリアに有事があれば、首都圏の物流網は壊滅的なダメージを受けるだろう。

 

⑵ 物流センターでマスクをもらう

この日は大規模な物流センターを数カ所訪問した。全てのセンターの受付で手の消毒、検温、マスク着用を要請された。そのために通常よりも10分~15分ほど入館に時間がかった。あるセンターの受付で、クルマの中にマスクを置き忘れてしまったことに気付いた。そのことを受付の担当者に伝えたところ、無償でマスクを提供してくれた。

このマスク不足の折、ありがたい話だが、マスクを持参していない来訪者は筆者以外にもいるだろう。受付に予備のマスクを準備しておかないと、センターの運営に支障をきたしてしまうことに後になって気付いた。物流センターのセキュリティリスクの一つに、感染病を加えることが必要になったのである。

 

⑶ 物流は止まっていない

トイレットペーパーをはじめとする日用品の品切れは、買いだめ、過剰購入、あるいは原材料の欠品や調達難などによる生産停止が原因であって、物流は止まっていない。

 

⑷ 現場はテレワークできない

荷主企業はもちろん、物流企業も大手の本社部門は在宅勤務を実施している。しかし、当然ながら現場はテレワークできない。時差出勤にしても、入出荷時間に合わせるために、従来から勤務シフトを実施してきた。従って現場では、消毒手洗い、うがいの徹底、検温、換気などの基本的な感染防止策以外に有効な対策が見当たらない。

 

⑸ 車両が余っている

食品スーパー、ドラッグストア、コンビニ、日用雑貨など、家庭内で消費・使用する財を扱う物流センターは、政府や自治体の外出自粛要請をきっかけにフル稼働となっている。しかし、それとは対照的に精密機械、自動車関連、重厚長大産業では、工場の生産中止や輸入部品の停滞で出荷できない物流センターや倉庫が目立っている。トータルでは「55%の消費が消滅した」とNHKの番組で野村総合研究所のアナリストが述べていた。荷動きが停滞しているのは現場を見ても明らかだ。

 

⑹ 人手も余っている

人手不足が一転して人余りになった物流会社、物流センターを多く見かけるようになった。

 

これから起きる六つの変化とその対策

⑴ 物流からロジスティクスへ

今、求められているのは、モノを運ぶことではなく、有事の対応だ。有事を想定した在庫の備蓄、防災、安全機能の標準装備が急がれる。本来は軍事用語で「兵站」を意味する「ロジスティクス」がまさに問われている。「物流からロジスティクスへ」という管理コンセプトの進化は従来から提唱されてきた。それを今度こそ実践しなければならない。

 

⑵ 付加価値追求から「安心・安全」へ

これまで週6日、毎日納品していた取引先に対して、納品の頻度を週3回に半減する卸が昨年あたりから本格的に増えている。実施前には欠品の増加を懸念する声が必ず上がるが、実際にはほとんど問題はおきていない。新型コロナパニックに直面している今もそれは変わらない。これまで付加価値と考えていたことが、いかにムダであったのかが明らかになった。

 

⑶ 備蓄倉庫の再評価

事業継続計画(BCP)に基づく備蓄倉庫、いわゆる「バッファーセンター」を再評価する必要がある。基本的にBCPは想定されるリスクを前提に設計されている。しかし、想定外の事態がここまで頻発するようになった今、リスクの概念を見直して、想定外の事態に対してバッファーをどこまで準備するか判断する必要がある。

 

⑷ 安全在庫の定義見直し

安全在庫を一律の「安全係数」で計算するのは危険が大きい。欠品時の影響は製品によって違う。安全の定義を細分化して、それぞれの欠品の影響度に応じた安全係数の設定が必要である(図)。

⑸ サプライチェーンの分散化

コスト重視のサプライチェーンは限界に来ている。ボリュームディスカウントに主眼を置いた集中購買型の調達から、安全・安心を重視する分散型の購買調達への見直しが不可欠である。

加工品を扱うA社は、従来は素材を中国から調達していたが、7年前にベトナムに移管して、昨今では中国からの調達はゼロになっていた。これが今回のコロナ問題では、現時点に限って言えば奏功している。しかし、目の前にはベトナム依存という新たなリスクが立ちはだかっている。中国とベトナムに分散すべきだったと筆者は考えている。

食品メーカーB社は北海道に工場を置いて本州に商品を供給している。首都圏への輸送にはリスクを分散するため、二つのルートを構築していた。太平洋側ルートと日本海側ルートである。東日本大震災の際、太平洋側ルートは壊滅状態に陥ったが、日本海ルートが機能した。それによってB社は事実上、北海道から調達できる唯一の食品メーカーとなり、顧客からの信用を獲得するだけでなく、シェアを伸ばすことに成功した。

これらのことは物流企業の経営にも当てはまる。内需品と外需品、春夏品と秋冬品、消費財と耐久消費財、原材・資材と製品・商品、軽薄短小品と重厚長大品など、「特性」と「時期」が異なる荷主、荷物を、バランス良く組み合わせることで、車両や設備の稼働率を上げるだけでなく、リスクを分散できる。マーケティングに基づく営業の実践がそれを可能にする。

 

⑹ 事業継続計画からサバイバル計画へ

BCPでは生ぬるい。大規模な経済危機に直面している今、事業の継続ではなく、企業として生き残るためにどうするか、組織の生き残りをかけた、いわばビジネス・サバイバル・プラン(BSP)が必要であり、それは時間との勝負であると著者は認識している。

 

第188回 事例で学ぶ現場改善:『物流会社D社の拠点集約プロジェクト』

同じ荷主向けながら近隣の3カ所に分散していた倉庫を1カ所に集約することになった。横持ち輸送を解消できる。庫内作業員のやり繰りもしやすくなる。ただし、拠点の規模が大きくなれば適切な管理手法も違ってくる。オペレーションのみならず管理体制も再設計する必要がある。

 

向かいの土地が売りに出た

D社は関東に本社および運営基盤を置く年商30億円の物流会社である。創業者の現会長が輸配送をメーンに創業し、荷主からの要請を受けて営業倉庫事業に業務を拡大した。本社を中心とする半径50キロメートル圏内に6カ所、中京地区にも3カ所の営業所を展開している。

今回コンサルティングの対象となったのは中京地区で自動車部品を扱っている営業所であった。組み立てメーカーのサプライチェーンに組み込まれており、ミルクラン調達や生産ラインへのジャスト・イン・タイム納品を行っている。

その拠点として組み立て工場の近接地に、延べ床面積500坪のA棟と、延べ床600坪のB棟を構えていた。また、そこから車で約15分の場所にC棟として約300坪を賃借していた。しかし、C棟がA棟、B棟から離れているために非効率であった。

そんな折、A棟・B棟と道路を挟んだ向かい側の空き地が売りに出た。延べ床1500坪を確保できる。そこにA棟・B棟・C棟を集約しようという話になり、われわれ日本ロジファクトリー(NLF)にその支援が依頼されたのであった。

NLFとD社は従来から付き合いがある。新規受注に向けた提案書の作成サポート、トータル物流コストの算出など、これまでテーマごとに何度かコンサルティングを行っている。中京地区でも協同組合方式で物流効率化法に基づく高度化事業の認定を受けて拠点を立ち上げるというプロジェクトをサポートしたことがある。

その際に筆者は感じたことがあった。中京地区はD社の本社から距離がある。それもあって本社と現場とのコミュニケーションが皆無に近かった。現場は自分たちで改善しようという意欲を欠き、“他人任せ”の姿勢が目立った。そのことを念頭に置いて今回の拠点集約プロジェクトの実施事項として、D社側の窓口を務めているT専務には次の7項目を提示した。

①出荷頻度ABC分析によるロケーション・レイアウトの作成と作業動線の短縮

②六つの「ない」(持たせない/書かせない/歩かせない/待たせない/考えさせない/探させない)の徹底

③二つの「ない」(しゃがませない/かがませない)の追加

④庫内の通路幅の見直し

⑤レイバーコントロールの実践

⑥横持ち輸送の削減

⑦物流KPIの導入

拠点の集約先となる土地・建物は、D社で取得するのではなく土地の所有者に倉庫を建設してもらい、それを借りることにした。既存荷主の組み立てメーカー向け業務以外に展開ことが立地的に難しかったからだ。そのことを地主に伝えて、倉庫のスペックに対するD社からの要望を提出した。

ただし、貸し主としてはD社が将来その拠点から退去した後も、次のテナントを見つけやすい、使いやすい建物にしておく必要がある。そこで貸し主に新設する倉庫の躯体図面を2種類作成してもらい、D社の要望に合う方を選ぶことになった。

約1カ月後に図面が上がってきたが、二つの案はどちらも一長一短であった。A案は、高さは確保しているのだが奥行きがない。40フォートコンテナを直付けするにはギリギリの停車スペースであった。一方のB案は雨天の際にも作業が出来るように庇を長く取っているのだが、これが建ぺい率に含まれてしまうため、倉庫スペースの規模が小さくなってしまう。

いずれにせよ理想を100%叶える倉庫などはない。われわれとT専務は出入口を広く取っているA案が望ましいと判断し、それを貸し主に伝えて了承してもらった。こうして施設の仕様が大筋で決まった。それを元に倉庫全体の機能設計を表わした「ゾーニング図」を作成して、まずは「①出荷頻度ABC分析によるロケーション・レイアウトの作成と作業動線の短縮」に着手した。

既存のA棟・B棟・C棟の保管スペースには隙間が目立った。いわゆる空気を保管している状態のところが、あちこちに見られた。それがロケーション設計のミスによるものなのか、生産の遅れから欠品が発生しているのか、あるいはその両方なのか、一目見ただけでは理由は判然とはしなかった。

そこで改めて必要な保管スペースを確認することにした。商品マスターで各アイテムの外箱の体積を調べて、それに在庫日数を掛け合わせて計算する。ところがD社は商品マスターを持っていなかった。荷主に依頼して提供してもらう必要があった。そのことと合わせて、各アイテムの適正在庫量についても改めて荷主と協議の場を持つこととなった。

 

「アシストスーツ」を5台導入

「②の六つの『ない』(持たせない/書かせない/歩かせない/待たせない/考えさせない/探させない)の徹底」は、改善の定番である。とりわけD社の現場は高齢化が進んでいるため、作業生産性の向上を目的にするだけでなく、可視化を向上することで“考えさせない”“探させない”ようにして作業品質を向上することに留意する必要があった。「倍化運動」と称してロケーション番号や掲示物の文字の大きさを200%に拡大して高齢者にも分かりやすい表示にした。

さらに、“しゃがませない”“かがませない”という「③二つの『ない』」を追加して腰や身体への負担を軽減した。そのツールとして、荷物の持ち上げ・持ち下げ作業を支援する「アシストスーツ」を導入した。われわれNLFの支援先でアシストスーツを導入するのはD社で4社目となる。評判は上々で、これからさらに普及が進むだろう。

アシストスーツはS社製とU社製を検討した。両者の基本的な構造は大きく変わらないが、装着時の調整方法やデータ連携による付加価値創出などの設定がいくらか違う。性能や品質面ではS社製が優れていたが、システム費用がかかり、規模の小さなD社にとっては高価であった。そこで使い勝手の良さとコスト面からU社製を採用して5台を導入した。

またバケットの仕分け作業用に、膝上の高さの作業台を置くことにした。従来は床に直置きしたパレットからバケットを取り出して仕分けをしていた。腰の負担を軽減するため作業台で高さを確保して、しゃがまずに済むようにした。

「④庫内の通路幅の見直し」では、既存倉庫の通路幅が必要以上に広く取られていたので新倉庫では適切な幅に設定し直した。現場の担当者によると、過去にカウンター式フォークを使用していたことがあり、それに合わせて幅をとっていたが、リーチ式に統一してからは縮小したという。しかし、実際に測ってみるとメーン通路は3150ミリメートルもあった。

そこで作業の安全性への配慮も踏まえリーチイン(ツメを車体側に引き寄せた状態)の走行を徹底することをルール化し、またD社のリフトマンのスキルが高いことも考慮して新倉庫の通路幅を2850ミリメートルに設定した。その結果、200パレット分の保管スペースを生み出すことができた。

「⑤レイバーコントロールの実践」では、既存施設のホワイトボードを見ると、過去にそれらしきことを試みた痕跡を確認できたが、実態として機能していなかった。拠点が3カ所に分かれている状態では、作業スペース、取扱量、スタッフ数の制約から効果を出すのは難しかったであろう。しかし、拠点を集約すればやりやすくなる。

レイバーコントロールに限らず、一般に拠点の規模が大きくなれば、それに伴い適切な運営管理の方法も変化する。労働管理、安全管理、設備保守、生産性や品質の維持・向上策、マテハンの使い方、荷主との取り決め事項など、オペレーションとマネジメントを再設計しなければいけない。しかしながら、そのことを理解している物流管理者は少ない。教えられてもいないのが実情である。

 

KPI管理は小さく始める

「⑥横持ち輸送の削減」は拠点を集約すれば必然的に実現する。今回のケースでは、A棟・B棟・C棟に分散している部品を荷合わせするための横持ち輸送に従来投入していた、10トン増トン車1台と4トン車2台の計3台分のコストが不要になった。

「⑦物流KPIの導入」は可視化、生産性の向上、品質の向上など広範囲にわたる効果を期待できる施策である。ただし、あれもこれもと、はじめから多くのKPIを採用してしまうと往々にして長続きしない。小さくはじめて大きく育てるのが定着のポイントである。

D社ではレイバーコントロールで算出した人時生産性(MH)をベースに、作業生産性、作業品質、イレギュラーの3点を最重点課題と定めて、それぞれKPIを設定した。作業生産性は「ピッキング」と「梱包(仕分け含む)」、作業品質は「誤出荷」と「在庫差異」、イレギュラーは「時間外出荷」の計五つにKPIを絞り込んだ。

こうしてD社の拠点集約プロジェクトは終了した。現時点で新拠点の稼働から5カ月が経過したが今までのところ運営は順調だ。コストはもちろん現場の労働環境もかなり改善された。

さて、今回の案件で筆者が痛感したのはデータ精度の重要性である。荷主から入手した商品マスターもしかり。マスターに登録された体積に梱包の変更などが反映されていないものがあったため、机上で計算した保管スペースが実態と合わずにロケーション・レイアウトを作り直さざるを得なくなった。

現場のシステム化や自動化が進むほど、データの精度が与える影響は大きくなる。そこでD社では拠点集約を機に棚卸しの方法を改めた。従来は月1回の一斉棚卸しだった。それを毎日の循環棚卸に変更した。1カ月当たりの稼働日数22日で全品目をカバーする。在庫精度の向上が狙いである。

 

《特別編》事例で学ぶ現場改善:『〈センター長〉 監督兼選手から抜け出す方法』

物流センター長の多くが本来の業務から離れて庫内作業に駆り出されている。連日の残業に加えて繁忙期には休日出勤を余儀なくされている。このような状態では誰もセンター長になりたいとは思わない。荷主は現場の管理能力を失ってしまう。物流企業は事業の存続さえ危うくなる。

 

そもそもセンター長とは何者か

物流業は所長・センター長の能力で90%が決まってしまう。つまり、物流業とは〝所長産業〟あるいは〝センター長産業〟なのだ。筆者はかねてからそう指摘してきた。本連載でも「できるセンター長の作り方」(2007年4月号)と題して、センター長の育成について解説したことがある。しかし、既に一昔前の記事になるので、ここでおさらいしておこう。

通常、センター長は、①労務管理、②運行管理、そして③クレーム対応の三つを主な業務とする。このうち最大の役割を一つ選ぶとすれば、やはり労務管理、人のやり繰りに尽きる。そして、人のやり繰りにはコミュニケーション能力という管理者としての資質が求められる。

できるセンター長は一日中、机に座っていないものだ。常に現場を回って一声掛け、スタッフとのコミュニケーションをとっている。管理者として同じことを“10回言い続けられるか”が問われる。昼食もパートに交じって同じテーブルを囲む。繁忙期で現場に無理をさせた時には自腹で缶ジュースを差し入れる。そうした小さな気配りで、現場の空気が違ってくる。駄目なセンター長には、それができない。

センター長のタイプは大きく二つに分かれる。中小企業の場合、センター長は、ほとんどが現場の叩き上げだ。作業スタッフやドライバーを経験したベテランが、班長からセンター長へと昇格する。一方、荷主企業や中堅以上の物流企業では、センター長が事務系管理職の仕事として位置付けられている。いずれも一長一短がある。

前者の現業系のセンター長では、オーバースペックが往々にして問題になる。彼らの場合は人手不足以前に繁忙時になると現場に入ってしまう傾向があり、管理が疎かになる。“プレイングマネジャー”は半ばセンター長の代名詞である。もともと中小の現場スタッフには、デスク業務や管理を苦手とする人が少なくない。それが嫌で物流現場の職に就いたのに、いつのまにかセンター長に祭り上げられ、計数管理などの苦手な仕事を強いられる。結果として会社の期待に応えられない。

一方、事務職系のセンター長は、いずれ本社に戻るという考えが常に頭から離れない。当然、本社には良い報告をしたい。しかし現場を敵に回せば、オペレーションが立ち行かなくなる。そもそも高学歴の事務系は現場スタッフとのコミュニケーションを苦手とする場合が多い。結果として現場と本社の板挟みに遭ってしまう。

同じ会社内のセンター長でも、各人の能力には当然バラツキがある。しかし、それ以上に大きいのが会社間の差、会社ごとのセンター長の能力レベルの差だ。これは、その会社におけるセンター長の「①採用」「②教育」「③キャリアプラン」の違いによるものだ。

まず「①採用」について。現状では外部からの登用は容易ではない。対策としては遠回りに見えても社員研修が有効だ。研修の狙いは教育だけではない。社内の人材を発掘することも研修によって得られる大きな効用の一つだ。資質のある人材であれば、30歳以下の若手でもセンター長に登用すべきだ。ただし、若手の抜擢は経営層の援護が必須である。任せきりでは、せっかくの人材を年長の社員やベテランのパートに潰されてしまう恐れがある。

これと並行して、センター長を現場のスターにする必要がある。センター長になったら予算管理やクレーム処理など苦労ばかりが増え、休日も見返りも少ないということでは、手を挙げる者などいなくて当然だ。班長や配車係などのセンター長候補者に、昇進したいというモチベーションを持たせる必要がある。

必ずしも給料や待遇だけの問題ではない。金銭的インセンティブには限界がある。それよりも優れた仕事を表彰するなど、職業人としての誇りや満足感に訴えかける。現場のQC活動も同様だ。小遣い程度の賞金を出すより、額縁に入れた賞状やトロフィーの方がよほど効果的だ。賞状やトロフィーを自宅に持ち帰れば、家族に仕事を理解してもらう良いきっかけにもなる。

「②教育」では、人事ローテーションが鍵になる。駄目なセンター長は自分のセンターのことしか知らない。井の中の蛙なのだ。板前の修業と同じように、センター長もさまざまな現場を経験することで初めて引き出しが増えていく。実際、人事異動でいろいろな現場を経験させている会社のセンター長は総じてレベルが高い。それに対して、センター長の改善能力や意識レベルが低い会社は、センターの横展開を経験させていない。社外はもちろん、同じ会社内であっても他のセンターのことを知らないのである。

三つ目が「③キャリアプラン」だ。多くの会社でセンター長は〝上がり〟のポストになってしまっている。センター長として定年を迎えるケースが大半だ。定年間際ともなれば、現場との摩擦を生じる恐れのある改善活動など進めようとするはずがない。それどころかセンター長自身が改革のブレーキにもなってしまうことさえ珍しくない。

センター長を上がりのポストとするのではなく、センター長から本部スタッフに昇格する道を示しておかなければならない。本人がそれを望むかどうかは別だ。現場好きのセンター長はむしろ望まないだろう。その場合には、現場作業の専門会社を子会社として設置するという手もある。子会社経営幹部という道を開くのだ。センター長の有効なキャリアプラン作りを、重要な経営戦略と位置付けて取り組む必要がある。

 

残業なし・年間休日120日を目指せ

優秀なセンター長は「作業」と「業務」の違いを理解している。現場スタッフと管理者では持っている「時計」が違う。作業はその日の荷物を処理すれば終わる。一方、業務は、与えられたミッションをクリアするために、1カ月後、3カ月後、6カ月後に何をしなければならないのか、時間軸を持って仕事に当たる。

センター長が自分の力を発揮できる環境を整備する必要がある。そのためにセンター長をプレイングマネジャーから卒業させなければならない。いわばセンター長の働き方改革だ。今回はそのヒントを以下に紹介しよう。

センター長の多くはほぼ毎日の残業に加え、年間休日数は100日程度、繁忙期には休日出勤も強いられるという過酷な労働環境に置かれている。これをまずは改善しなければならない。残業なし、年間休日120日を実現することが目標である。

そのためにはセンター長の権限と業務の一部を部下に移管する必要がある。しかし、そうしたセンターでは部下もまたプレイイングマネジャーである。単に移管するだけでは今度は部下が過剰労働になってしまう。

そもそも一般的な職務基準書に書かれてある管理職としての業務を全て完璧にこなすことは、実際には不可能である。働き方改革の実践は職務基準書の見直しが第一歩である。業務項目を減らすのではなく、業務の一部を下位職に移管して役割分担を明確にする。当然ながら、それはセンター長を支える管理職予備軍のスキルアップ、レベルアップが前提である。従って教育・訓練の実施計画を折り込んだキャリアパスプランが重要になってくる。

 

センター長の業務を標準化する

大手量販店のイトーヨーカ堂は、店長の業務を徹底して標準化している。いつどこに配属されても即日業務が行えるようになっている。そのために机の中の備品や書類ファイリングのレイアウトまで統一している。一足跳びにそのレベルに到達するのは難しくても、3人のセンター長の業務を標準化して、ルールの統一を図れば、休日は取りやすくなる。

繁忙期に本社から応援を送る際にも標準化がモノを言う。現場を離れてしばらく経っているとか、そもそも現場のことがよく分からないメンバーが送られてきて結局、戦力にならなかったという、よくある失敗を回避できる。

現場作業自体の標準化ももちろん重要だ。新人、高齢者、外国人労働者など想定して、“誰もがわかる現場づくり”を徹底する。全体の作業フロー図、作業マニュアル、どこに何があるのか一目で分かるロケーション番号の表示、センター内掲示物のビジュアル化などを準備しておけば、応援に来たスタッフにすぐに活躍してもらえる。

そこまでやった上で、それでもやむを得ない残業や長時間労働が発生した場合には、超過労働時間を近日中に解消させる。残業時間を週単位、月単位でまとめて管理している現場を多く見かけるが、超過時間の発生から消化までの期間が長くなるほど、消化するのが難しくなってしまう。

センター長にフレックスタイム制を導入するのも一つのアイデアだ。ドライバーの時差出勤、センター作業の夜勤交替が定着しているのとは裏腹に、物流業の事務職、管理職は一斉始業が多い。果たして必要なことだろうか。朝礼は全員がそろった時点で行えば十分だ。レイバーコントロール上はむしろ昼礼の方が効果的である。

センター長の業務負荷は身近なツールを利用することでも軽減できる。センター内の部下や現場スタッフとのコミュニケーションは直接、顔を合わせることが大事だが、本社や営業、顧客とのやり取りは電話よりも、できる限りメールを使うべきだ。電話連絡は余計な雑談に案外時間を割いているものだ。顧客からの緊急出荷要請なども、営業を経由させて本当に対応すべきかフィルターを掛ける。

一方、センター長は業務終了後も携帯電話が手放せない。入荷・出荷車両のトラブルや事故、荷主の製・商品のリコールによる緊急出荷停止などが発生するためである。しかし、パソコンは社外持ち出し禁止にする。機密保持、顧客データ流出防止の意味合いもあるが、持ち帰り残業を抑制するために物流業界以外でも広く実践されている方法である。

センターにTV会議システムを導入すれば本社や顧客に訪問する回数を削減できる。昨今のTV会議システムの性能は著しく向上している。しかし、それを使いこなせていない会社が多い。事前に簡単なテストを行うだけ、システム操作を担当するスタッフが司会者と2~3分打ち合わせして会議の大まかな流れを頭に入れておくだけでも、TV会議の運用は格段にスムーズになる。

 

物流サービス条件を見直す

イレギュラー業務のゼロ化や土日出荷の中止、納品回数の削減など、物流サービスの見直しにも乗り出すべきだろう。ドライバーや庫内作業員だけでなく、センター長や現場のマネジャーの労働環境を大きく改善できる。今こそそのチャンスである。

イレギュラー業務には時間外出荷、送り先の変更、出荷内容の変更などがあるが、いずれも残業時間を増大させる要因であり、またコストアップ要因にもなっている。しかもイレギュラー業務の大半は現場では判断がつかないため、センター長に判断を仰ぐことになる。その影響はセンター全体に波及する。

土日休日の出荷も小売業、外食産業向けではしばしば発生している。本来であれば小売業、外食産業は販売に徹すべき日である。荷受けしている暇などないはずだ。それが発生してしまうのは多くは需要予測の精度が原因である。多少のショック療法にはなるが、休日の出荷停止をルール化してしまえば、否応なく改善が進み、休日納品は不要になる。少量の納品先であれば月・水・金などの隔日納品にまで踏み込める。

他にもセンター長の働き方を変えるためにできることはいくらでもある。それは今日の避けて通れない課題である。なぜなら今のままでは部下たちはセンター長になりたいと思わないからだ。荷主企業であれば物流管理レベルが底なしに低下していく。“センター長産業”たる物流業にとっては命取りにもなり得る問題である。

 

《特別編》事例で学ぶ現場改善:『コンペは効力を失い3PLは終わった』

元請けが必要な車両台数を確保できず、ギブアップするケースが増えている。ボリュームディスカウントを狙った一括委託が逆作用を起こし、全拠点一斉値上げを突き付けられる荷主も出てきた。しかし、現在の環境で物流コンペを開催すれば、むしろ返り討ちにあってしまう。アウトソーシング戦略の再考が必要だ。            (聞き手・大矢昌浩)

 

コンペは“寝た子を起こす”

──物流業が売り手市場から買い手市場に転じたことで、コンペの在り方があらためて問い直されています。

 「今さらですが『コンペ』というのは、英語の『コンペティション』ですから直訳すれば、競争とかスポーツの競技会という意味ですよね。物流コンペは、運送会社を競技者として戦わせるわけです。それがこれまで成立してきたのは、物流サービスの供給が、量的にも質的にも十分にあったからです。今はそんな環境にはありません。実際、私の周辺の荷主は物流コンペを敬遠するようになっています」

──監査が厳しい外資系の荷主などは定期的にコンペを開催することをルール化していると聞きます。

 「今でもフォワーダーのコンペであれば有効です。もともとフォワーディングは人手不足にほとんど影響を受けない取り扱いビジネスですから。国別に委託していたのをグローバルに1社にまとめれば、ボリュームディスカウントが効いて30~40%下がることもある。3PLでも実コストを、マージンも含めて全てガラス張りにする『オープンブック方式』で契約するならコンペをやるのもありかもしれません。しかし、それ以外はどうでしょう。外資系だって環境が変われば、やり方を改めるのではないでしょうか」

──コンペには現在支払っている料金が妥当であることを確認したり、既存のパートナーを牽制したりする効果もあります。

 「今コンペを開催すれば、逆に“寝た子を起こす”ことになります。『ありがとうございます。ようやく値上げを認めてくれるんですか。わざわざそんな場を作っていただけるなんて』と協力会社を喜ばせた挙げ句、向こうは『その値段で合わなければウチは撤退しますので』というくらいのつもりで、平気で脅しを掛けてきます」

──既存のパートナーだけでは車両を確保できない、極端な値上げを言い渡されたとなれば新たな委託先を探すしかありません。

 「確かにこのご時世なので、協力会社がギブアップしたので慌ててコンペをやるというパターンはあります。しかし、その場合でも相見積もりレベルのことはやったとしても、一本釣りで委託先を見つけていくのが賢明でしょう。周囲の物流会社はその荷主がどこにギブアップされたのか知っています。いくらでやっていたのかも恐らくバレている。それを頭に入れて強気の見積もりを出してきます」

──相見積もりとコンペの違いは?

 「応札する会社数の違いです。少なくとも4~5社から選ぶということでないとコンペとは言えません。先日、全国規模の荷主がコンペをやるため候補企業に参加を打診したところ、その荷主の仕事はドライバーの作業負荷が大きいこともあって、2社しか応じてくれなかった。これではコンペにならないと、われわれ日本ロジファクトリー(NLF)に応札企業を紹介して欲しいとオファーが来ました。少し前までは年商300億~500億円クラスの荷主がコンペを開催すれば、それなりに手が上がりました。しかし今は1千億円クラス以上でないと、コンペをやりきれないという印象です」

 「面白い傾向も出ています。物流コンペをやっても1社に決めるのではなく、エリアを分ける、あるいは業務を分割して委託するケースが最近増えています。コンペで白黒はっきりさせるのではなく、それぞれのいいところを取る。繁忙期にクルマが足りないという状況がずっと続いていることで学習したのでしょう。1社依存では危ない。リスクヘッジです」

──物流会社を探すことが、そこまで難しいものですか。

 「例えば、NLFは昨年あるメーカーと、成功報酬型で運送会社を紹介する契約を結びました。そのメーカーの元請けが繁忙期の傭車に対応できなかったことで、われわれに泣きついてきた。NLFが紹介した運送会社はその荷主と直接契約を結ぶことになるので、元請けは自分たちの地位が脅かされる。だから彼らも一生懸命探したのだけれど結局見つからなかった」

──運賃が安いからでは?

 「値段が合わないという問題だけではないんです。例えば関東~関西の幹線輸送でも、ドライバーは実際には運送会社の営業所から出発して出荷場所を経由して着地に向かいます。しかも着地側の2カ所で降ろしてから現地の営業所まで戻るということにでもなると、1日の拘束時間の上限の13時間労働をオーバーしてしまいます。ドライバーの拘束時間には集荷場所と運送会社の営業所との距離も絡んでくるため、営業所から遠い荷主に対しては『うちはできません』となってしまう」

──その荷主の新たな委託先は見つかったのですか?

 「今のところ2社との契約が成立しました。そのうち1社は東京~大阪の10トン車の片道運賃に7万5千円の見積もりを出してきた。大手荷主だったので恐らく口座を作りたかったのでしょう。現在の相場は10万円を少し切る程度なのでさすがに安過ぎる。そこで、その荷主の物流部長は『その値段では長く続けてもらえないと思うので、値段は他の会社さんと同レベルで結構です』と見積もりに上乗せした運賃を支払うことにしました。それだけ欠車に対する危機感が高まっている」

 

3PLの空洞化

──運送だけでなく3PLのコンペも同じですか。

 「輸送のコンペはまだ環境が変わり、供給が十分な状態に戻ることがあるなら、また復活するかもしれません。しかし、3PLはこれでいったん終わるのではないか、3PLという業態自体が現在の環境に合わなくなった、とさえ思っています。というのも3PLは一括提案が特徴なわけですが、それが今は一括値上げを招いている」

 「ある荷主は数年前にボリュームディスカウントを狙って国内4センターの配送を中堅3PLに集約しました。それが裏目に出て昨年その荷主は全国4センターで一律のパーセンテージの一斉値上げを要請されました。突っぱねれば物流が止まってしまう恐れがあるので、言われた通り払うほかなかった。しかし、それをきっかけにその荷主はその3PLとの契約を打ち切ることを決意して、今は拠点ごとに配送パートナー選びを進めています」

──3PLのコストメリットがなくなったということですか。

 「そもそも3PLは配送や庫内業務の再委託率が高い。大手や有名どころほど、その傾向があります。しかも、実態としては丸投げで、彼ら自身が再委託先から値上げ要請を強く受けているためコストが下がらない。それでいて管理費は高い。大手3PLともなるとトータルコストの25%を占めていることもある。利益率の設定も高い」

──通常だと管理費はどれくらい?

 「パパママの零細運送会社だと3%くらい。広域地場で12~15%。中堅で12%~18%。大手は20%前後から25%くらいまでといったところです。管理費の大半は管理者の人件費です。しかし、実際には管理費にカウントされているマネジャーが1人で複数の拠点をカバーしていて、現場にはほとんど顔を見せなかったりする。それでふたを開けてみたら丸投げでは、さすがに荷主も浮かばれません」

 「その一方で大手は挨拶や契約の席には担当役員の他、本社営業、顧客窓口、現場責任者、システム担当などスタッフをぞろぞろ連れてくる。無駄に人件費をかけていると同時に、組織が分かれているので意思決定に時間がかかる。荷主の要請に柔軟に対応できない。大手3PLの中には融通が利かないことが有名になって荷主離れを起こしているところもあります」

 「そもそも、なぜ3PLが荷主に求められたのか。一括請負いとボリュームディスカウントの他に、以前はシステム力の優位性があったと思います。しかし、今はパッケージを利用したり、荷主が自分でWMSや在庫管理システムを構築できるようになってきた。3PLに頼らなくても回せるようになりました。つまり現在の3PLは、再委託先からは突き上げられ、クルマをかき集める力やまとめあげる力は希薄になり、システム開発力の優位性もなくなった。空っぽなんです。4PL化など新しい業態革新が必要です」

──あるいは先祖返りするのでは?

 「そうかもしれません」

──アウトソーシングが進んだ結果として荷主の物流管理能力は衰えてしまいました。内製化に転換するにも物流管理者がいません。

 「そこは頭の痛いところです。それでも卸の中には、いざとなったら自分たちでトラックを購入して走らせるくらいのつもりで物流の再構築に取り組むところも出て来ています。物流を重要な機能と位置付けるのであれば、あらためて物流管理機能を取り戻すほかありません」

 

第187回 事例で学ぶ現場改善:『中古車販売D社の在庫適正化プロジェクト』

店舗数の増加に伴い横持ち輸送コストが上昇している。在庫の長期滞留による評価損も目立ってきた。経験の勘に頼った〝どんぶり勘定〟から抜け出し、合理的な在庫管理の仕組みを構築する必要があった。在庫管理部の新設を皮切りに2年以上にわたる息の長いプロジェクトが始まった。

 

中古ビジネスは仕入れが9割

D社は年商約400億の中古車販売会社だ。東日本を中心に38店舗を展開している。仕入先は一般ユーザーからの下取り、現車オークション、ネットオークションなど。販売先は一般向けの店舗販売と中小中古車販売会社が中心で、業務用車両も取り扱っている。

D社側のプロジェクトリーダーで、われわれ日本ロジファクトリー(NLF)との窓口を務めたのは、2代目社長に就任予定のT取締役であった。その説明によると、D社は車両専門のトレーラー会社に商品(中古車)の輸送を委託しているが、店舗数の増加と共に横持ち輸送コストが増えているという。

在庫管理にも課題を抱えている。店舗は平均1千坪の広さを持つが、常に在庫が満杯の状態であり、長期の売れ残りも発生して最近は在庫の評価損が目立つようになってきた。D社には車両の移送を担当するベテラン社員は在籍しているが、物流のスペシャリストは不在であった。売り上げの拡大と共に“物流”の視点で改革を行わなければならないとの問題意識からわれわれに声が掛かった。

自動車に限らず、中古ビジネスの最重要ポイントは仕入れだ。その品はいくらなら売れるのか。それをいくらで仕入れるのか。中古車の場合であれば、それを国内で売るのか、海外に輸出するのか。どの店舗のどの営業マンがその商品をさばけそうなのか。現車を見て即座に意思決定しなければならない。その判断で利益のほとんど、9割以上が決まってしまう。

T取締役以下、D社の5人のプロジェクトメンバーとわれわれNLFのスタッフは、そのような共通認識の下、D社が解決すべき物流課題を次の10項目に整理した。そこからプロジェクトチームとわれわれの約2年5カ月にわたる取り組みが始まった。

①商品マスターの整備

②QRコードによる個体管理

③在庫管理部の発足

④不動商品対応ルールの設定

⑤物流KPIの設定

⑥棚卸し頻度の見直し

⑦物流センターの設置

⑧出荷頻度ABC分析によるロケーション、レイアウトの作成

⑨配車センターの発足

⑩共同輸送の推進

「①商品マスターの整備」は最初に着手すべき課題だった。従来から当然ながら管理台帳は存在していたが、物流管理に必要な仕入日、入荷日、出荷日、販売日の「日付管理」に不備があった。いくらで仕入れた商品をいくらで売ったのかも明確になっていない。そのために純利益どころか粗利さえもはっきりとしない“どんぶり勘定”に陥っていた。

マスターの管理を各店舗に任せているために、マスターの登録やデータの更新、廃番管理などのメンテナンスがおろそかになっていた。そこで後述する在庫管理部を新設して、商品マスターを集中管理することにした。リアルタイムでマスターをメンテナンスして、クラウドシステムを介して全社でデータを共有する体制を整えた。

さらに、整備したマスター情報をベースに「②QRコードによる個体管理」を実施した。目視と台帳が頼りでは収益管理は困難だ。優秀な店長であれば経験と勘から店舗全体の利益は残せるかもしれない。しかし、車両1台単位の損益までは把握できない。在庫管理自体に課題を抱えていたこともあり、QRコードの導入に踏み切った。

QRコードシステムの開発から稼働まではおおよそ12カ月を要した。しかし、今振り返ってみても、これは重要かつ効果の大きい施策であった。物流センターの出荷時と店舗の入荷時に各車両のQRコードをスキャンするようにしたことで、社内における在庫の流れが明確になった。その結果、例えば店舗の営業マンが「これは売れる」と判断して在庫を抱え込んだ準人気車が、実際には売りさばけずに、A店舗→物流センター→B店舗と渡り歩くさまが明らかになった。

 

在庫管理部を新設し脱どんぶり勘定

「③在庫管理部」は統括責任者の部長を含めた6人体制で発足した。部長は5人の部員たちを車両タイプ別に振り分け、普通車、小型車、軽自動車、ミニバン・ワンボックス、業務用車両(営業用ワゴンなど)をそれぞれ専門で担当させた。

その役割は先ほどの商品マスターを集中管理すること、そして商品部を仕入れ業務に特化させることであった。商品部のスタッフにはバイヤーに徹してもらい、良い車の取り逃がしをなくそうという狙いである。そのために商品を仕入れて以降の全ての業務、具体的には在庫管理、稼働在庫と不動在庫の可視化、店舗とのやりとり、アナウンスなどが在庫管理部に求められた。

在庫の陳腐化を防ぐため、新たに「④不動商品対応ルール」を設定した。それまでは店舗が在庫を抱え込んで長期間にわたり売れ残っていても、他の在庫で売り上げをカバーできていれば良しとされていた。それを改めるために、在庫の日付管理を導入した。7日間にわたり動いていない在庫を「不動在庫リスト」にリストアップして、全社に一斉に送信する。

その在庫が欲しい店舗もしくは営業マンは、24時間以内に在庫管理部にフィードバックする。複数の手が上がった場合には、在庫管理部が店舗もしくはその営業マンの実績から判断して売れる可能性の高いところに割り当てる。誰も手を挙げなかった在庫はオークションに流すか、輸出するかを判断する。

これによってD社全体の在庫回転率は1カ月当たり0・9回から2・1回に大きく改善した。長期滞留で評価額が下がり、販売しても経費を吸収できない赤字在庫も大幅に減少した。さらに現在、在庫管理部はエリア別の需要予測に着手している。各店舗に特有の売れ方を周辺の駐車場等のリサーチによって分析している。これにより在庫回転率を2・5回/月まで向上することが目標だ。

「⑤物流KPIの設定」は、まずは“どんぶり勘定”の是正から着手する必要があった。具体的には、「販売車両1台当たりの粗利率」と「販売車両1台当たりトータル物流コスト」を算定して1台単位の原価を把握できるようにした。これに約4カ月を要した。

次のステップ2では6カ月をかけて、「在庫差異率」と「作業生産性」を算出した。在庫差異率は、店舗在庫と物流センター在庫についてそれぞれ金額だけでなく差異が発生した品目数も数値化した。また、作業生産性は物流センターにおける「平均車両降ろし時間」と「平均車両積み込み時間」、店舗における「平均車両降ろし時間」を測定した。

最後のステップ3では「作業品質」の指標に「商品破損率」を設定して、4カ月かけてその数値を算定した。各指標を段階を踏んで開発したことで、関係者の理解も進み、問題なくKPIが機能し始めた。営業会議や物流連絡会議において効果的な施策が打ち出されるようになった。

「⑥棚卸し頻度の見直し」では、それまで決算月の年1度だけだったのを、月1回の循環棚卸しに変更して、全品目を3カ月ごとに実地棚卸しするようにした。これにより、ノルマ達成のために店長が月末に自分で車両を買い込んで翌月に売却したり、キャンセル車を営業マンが私物化したりなどの不正行為に歯止めが掛かった。

これら原価計算や棚卸しの精緻化は、営業にとってはノルマ達成の抜け道がなくなることを意味するため、実施に対しては反発もあった。しかし、そうしたカラクリがあることは、T取締役をはじめ経営層は以前から感づいて、問題視もしていたため、半ば強引に推し進めることとなった。

「⑦物流センターの設置」は大掛かりな施策であった。従来、D社では一般ユーザーから中古車を下取りした後の初期洗車、社内清掃、加工修理、部品交換などの流通加工を各店舗で実施していた。それが店舗スタッフの大きな負担になっていた。

そこで各地に整備工場を併設した物流センターを立ち上げることにした。洗車・清掃だけでなく、修理、板金、塗装、車検などにも対応できる、いわゆるPDC(プロセス・ディストリビューション・センター)である。既に千葉、仙台、小田原で設置が完了しており、今後、新潟、群馬への設置を予定している。

物流センターといっても実際には約2千坪強の敷地に金網フェンスが張られた野積み・平置きの駐車場だが、そこにオークションで仕入れた車と店舗に持ち込まれた下取り車で当該店舗が不要とした車を集約することで、店舗の作業負担が軽減されてスペースに余裕も生まれる。

これらの物流センターでは「⑧出荷頻度ABC分析に基づくロケーション、レイアウトの作成」を行っている。車種別の出荷頻度のABC分析に基づいて、Aランクの人気車は出しやすいゾーンに、積み降ろし頻度の少ないB、Cランク車は奥側のスペースに保管することで、トレーラーへの積み降ろし時間短縮を図っている。

ゾーン表示には道路標識スタイルを採用し、表示柱を打ち込んだ。先入れ先出し、後入れ先出しのどちらにも対応できるように、外枠フェンス側に1台分の通路幅を確保したアイランド型のレイアウトにした。

なおABC分析の結果、車種別の出荷頻度はエリアによってかなりの違いがあることが分かった。Aランクはどの地域もほとんど変わりないのだが、Bランクには若い主婦層が多いエリアは軽自動車、自営業者が多いエリアは業務用車両やミニバン・ワンボックスが入った。

 

メーカーの物流子会社と共同化

「⑨配車センターの発足」では、大手自動車メーカーの物流子会社E社との共同プロジェクトを組織した。E社が首都圏で車両輸送トレーラーの配車センターを立ち上げるという話を耳にしたからだ。そこにD社の配車センター機能を統合しようというアイデアだった。ただし、同じ車両輸送でも、新車と中古車では流通ルートが異なる。うまく相いれるかが懸念された。

ここでも商品マスターの整備に始まった在庫管理機能の強化と、物流センターへの在庫集約が有効に働いた。どの在庫をどのセンターからどの店舗に、何台移送するのか、精度の高い求車情報をE社の配車システムに提供することができた。これがマッチングに有効だった。

そのことが物流子会社E社の新車をベースカーゴとする「⑩共同輸送の推進」にもつながった。D社の首都圏エリアの店舗および千葉と小田原、新設予定の群馬の物流センターを対象に、新車輸送の帰り便とメーカー工場の閑散時に物流子会社E社の車両を利用することになった。

これにより、各店舗の入荷時間にはバラツキが出るが、「事前出荷情報(ASN)」に基づいて店舗側で勤務シフトの早番・遅番を調整することで対応することにした。結果としてD社は全輸送量の22%に共配および帰り便を活用できるようになり、横持ち輸送のゼロ化も寄与して運賃コストは大幅に圧縮された。

共配実施前の納品時間を厳守しなければならないことが制約になって、共同化が不成立に終わるケースが一般に多く見受けられる。しかし、D社のような社内の拠点間輸送であれば柔軟な対応がとりやすい。さらに今後は荷受け側スタッフの立ち会いが必要な“有人納品”から、夜間納品や軒下納品などの“無人納品”が増えてくるはずだ。その結果、共配の成立する確率は高まっていくと著者はみている。

D社の改革はその後も続いている。現在は事務センターの設置準備を進めている。店舗の営業マンを事務作業から解放して、販売活動に集中できるようにすることが狙いである。