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第415回「パレットの扱いでレベルが分かる」

空きパレットの取り扱いには、その現場の安全管理のレベルが如実に現れる。ラックや荷物
にパレットを立て掛けたままの状態で放置する、いわゆる“立てパレ”や、空きパレットを
山高く積み上げている現場は事故が多いだけでなく、品質も良くない。危険な職場には人も
集まらない。

“立てパレ”を放置するな
筆者が物流現場を視察する際、必ずチェックするポイントの一つが“立てパレ”だ。
立った状態のまま放置されているパレットをそう呼んでいる。中には立てたパレットをフロアの間仕切り代わりにしている極端なケースもあるが、通常は庫内の壁や柱、車両バースやフォークリフト置き場の横などに1枚だけ立て掛けている“1枚モノ”が多い。作業終了後に片付けを忘れたか、あるいは面倒なのでそのまま放置したものだ。
物流現場ではありふれた光景だが、根は深い。
たとえ1枚でも立てパレがある現場は、庫内作業の安全管理に問題がある。基本ができていない。
パレットは案外重い。標準的なT11型(1100ミリメートル×1100ミリメートル)で20〜30キログラムある。それが倒れて人の身体に当たればどうなるかは誰だって分かる。
しかし、物流現場で立てパレを見ることは決して珍しくない。特に運送会社系の現場に多い。
トラックのドライバーは日頃から、輸送中の荷崩れを防ぐため、荷台の隙間に緩衝材代わりにパレットを挟んだり、荷台のスペースの間仕切りにパレットを使うことがある。ばら降ろしが済んで空いたパレットを、荷台の壁に一時的に立て掛けておくこともある。つまり、パレットを縦に使う習慣がある。
それ自体は必ずしも悪いとはいえない。ドライバーにとっては必要なスキルでもあるわけだが、パレットがいったん構内に入って以降は、それでは危ない。立てパレが倒れてパート従業員のふくらはぎに当たりけがをしたといった話を、筆者はこれまでに何度も耳にしている。
空きパレットの高積みはさらに危険だ。パレットの積み付けの高さに法的な規制はない。天井高のある倉庫だと、見上げるほど山高く積み重ねていることも珍しくない。素人が見ても「こんなものか」と見過ごしてしまいがちだが、中規模以上の地震が起きれば倒壊する可能性が高い。上の方に積んだパレットがスライドして落下してくる。下敷きになれば生命に関わる。
それなのに、どれだけパレットを高く積めるか、夜勤中の暇な時間にゲーム感覚で挑戦するふざけた作業員が出てくる。まともな安全教育を受けていないためだ。そもそも安全管理とは何をすることなのか、経営者や現場の監督者が分かっていない。
安全管理に奇策はない。当たり前のことを徹底する。それだけだ。高積みを防止するのであれば、パレットを積む高さに制限を設けて順守させる。目安は人間の胸の高さだ。具体的には11段を限度とすることを筆者は推奨している。自動車工場などでは上限を10段に設定しているところもあるが、経験上、11段までは大丈夫と判断している。言って聞かせるだけでなく、現場にパネルなどを掲示して、視覚に訴えると効果的だ。
パレットの保管スペースが足りない場合には、主に3つの方法がある。まずは空きパレットを庫内の外に出し、作業員が通らない場所に移動するよう指示する。屋外なので雨やほこりでパレットが汚れてしまうことになるが、安全確保が先決だ。
2つ目の方法は「ネステナー(多段積みができる入れ子状のラック)」を使った2段積み、もしくは3段積みだ。直積みと比べるとラックの分だけ保管効率は落ちるが、これも安全には代えられない。ネステナーが足りない場合や、ネステナーの最上段にさらに1段積みたい場合は、その部分をストレッチフィルムでラッピングして固定することをルール化する。
そして3つ目の、抜本的なパレット事故対策が「返却」だ。現場に空きパレットが大量に余っているのは、納品時に受け取ったパレットを返却しないでため込んでいるからだ。使用後には納入会社に返却する約束になっている。パレットに印字されている社名を見れば、どこのパレットなのかはすぐに分かる。それでも返却しない。
理由の一つは返却に強制力がないからだ。パレットは1枚数千円から1万円以上する資産であり、紛失や流出は軽視できない。しかし、返却しなかったからといってペナルティーを課せられることは現実にはほとんどない。パレットの所有者にとって納品先は顧客であるため、 返却が遅れても強くは出られない。どこに何枚納品して何枚返ってきたのか明確に把握していないことも多い。
現場にはパレットをため込んでおきたい理由もある。大量の出荷が予定されている場合、パレットが足りなくなっては困るからだ。そのため年末や年度末の繁忙期に向けて計画的にパレットをため込んでいる悪質な現場がかなりある。これをやめさせて必要以上にパレット枚数を増やさないようにする。
空きパレットの取り扱いと並んで、庫内作業の安全管理のレベルが現れるもう一つのポイントが、フォークリフト作業員のヘルメット着用だ。あからさまなノーヘルは少なくても、特に夏場などは暑さを軽減するためヘルメットのひもを首にかけて頭にはかぶらず作業している姿を少なからず見かける。高所フォーク作業中の安全ベルトの装着も同様だ。管理の手を抜くと着脱を面倒がってルールを無視する人がすぐに出てくる。
フォークリフトが庫内で走行するスピードも、分かりやすいチェックポイントの一つだ。
通常、物流センター内ではフォークリフトの走行速度の上限を時速5キロメートルに設定している。フォークリフトや魚市場などで使用されているターレは公道での走行が許されていて、法定速度は時速15キロメートルだ。構内や市場内は10キロメートルに制限していることが多い。物流センター内のフォークはそれよりもずっと遅い。そのルールがきちんと守られているか。
フォーク作業をしばらく見ていれば、オペレーターのスキルレベルも分かってくる。運転の上手な人はスタート、ストップ、カーブがはっきりしている。下手な人の運転はめりはりがない。動作に切れ間がないので事故を起こしやすい。何かをしながら運転したり、作業を急いでいるためブレーキが甘くなる。あるいは次の工程のことで頭がいっぱいになって注意が散漫になっている。
これも教育の問題だ。フォークリフトは荷物の積み降ろし操作の前に、まずは外輪差やハンドルの切り方などの運転を教えるのが鉄則だ。運転レベルが高ければ必要以上の通路スペースも不要なのでスペース効率も上がる。ところが実際には作業スピードを重視して走りながらリフト操作するよう教えている現場がかなりある。
パレット積みの荷物を2つまとめて床を滑らせ、轟音とともに倉庫の奥に押し込んでいるオペレーターを見たことさえある。荷主の担当者と一緒に現場見学に来た筆者の目の前で悪びれもせずやっているのだから、その現場では当たり前のことなのだろう。
生産現場と比較すると、残念ながら物流現場の安全管理は大きく立ち遅れている。現場スタッフの安全意識も低い。構内や建設現場ならどこでも見かける「安全第一」の標識を、物流センターで見ることはあまりない。生産現場では当たり前の、フォークマンの指差し確認も、 物流現場ではまれだ。同じメーカーの拠点であっても、工場と物流センターでは管理レベルが違う。例えば工場で使用されるフォークリフトは座って運転するカウンター式だが、近年物流現場では狭い場所や細かな作業に適した、立ち乗りのリーチ式が増えている。カウンター式とは勝手が違うため、リーチ式を導入した途端に工場のノウハウが使えなくなり、安全管理が抜け落ちてしまう。

「現場ラウンド」を最優先に
筆者が物流現場の視察結果をクライアントに報告するレポートの多くは、安全管理に対する評価から始まる。クライアントが期待しているのは何よりコスト削減だが、安全はコスト以前の問題だ。
レポートで立てパレやフォーク作業のルール違反を指摘された現場は「いつもは守っているのに、たまたまです」と反論する。しかし、それはルールを徹底できていないということだ。
安全管理とは「当たり前を徹底する」ことである。そのことを、まずはトップダウンで正してもらう。
ただし、恐怖政治には限界がある。監督者の目が届く範囲でしかルールが守られないからだ。安全の監視と判断を監督者に頼っている間は道半ばだ。監督者一人の目ではなく、現場にいるスタッフ一人一人が安全を意識して、複数の目で危険を察知することで、初めて安全は担保される。
筆者のこれまでの経験から言うと、現場の意識が変わり、安全衛生が定着するのは次の3つの条件がそろったときだ。まずはセンター長自身が高い意識を持つこと。2つ目は、センター長が毎日の「現場ラウンド」を欠かさないこと、そして3つ目が、これは本来は避けたいことではあるが、実際に事故を経験することだ。
先日、ある大手企業の物流センターを訪問したところ、午前11時ちょうどに構内放送が流れ、 庫内作業員全員による安全スローガンの唱和が始まった。それに続いて黙祷があった。
恐らく事故で亡くなった作業員がいたのであろう。このセンターは過剰に思えるほど安全第一が徹底されていた。
しかし、犠牲者が出るのを待つわけにはいかない。ポイントは現場ラウンドだ。センター長が1日1回、大規模センターであれば2回、現場を隅々まで観察して回る。どんなに他の仕事が忙しくても現場ラウンドの時間は最優先で確保させる。社内的にも「外出」あるいは「会議中」としておいて、他の仕事は入れないようにする。
そこまでやらないと安全は現場に落ちてこない。センター長が現場を回ることで作業の無駄やボトルネック、不適切な人員配置など、効率化に向けた課題も見えてくる。現場の責任者は事務所の中にいるだけでは役割を果たせないことを知るべきだ。
現場ラウンドをはじめ日々の安全管理は、義務ではない。そのためコストばかりを重視して安全に目をつぶっている現場がかなりある。しかし、筆者の知る限り、そうした現場は実際には労災や荷痛みが発生するため、投入した総労働時間(人時)とアウトプットをトータルに評価した場合の生産性は決して高くない。
作業員の定着率も悪い。承知の通り、「きつい、汚い、危険」のいわゆる“3K職場”に人は集まらなくなっている。欠員の補充ができないと、残ったスタッフの負担がいっそう重くなる。さらに事故が増え、人が辞めていく。悪循環に陥り、安定稼働が脅かされる。
既に運送会社はばら荷物の手積み・手降ろしや長時間待機を強いられる仕事には手を出さなくなっている。省力化・省人化設備の導入や作業環境の改善も進んできた。「危険」の解消は3Kの最後のピースだ。法的義務がなく、自分たちの判断に委ねられていたテーマだけに現場による差が大きい。危険を放置したままの現場と、そうでない現場との格差がこれからどんどん開いていく。

ロールボックスパレットの事故が増加
昨年1年間に発生した陸上貨物運送事業における労働者死傷災害(休業4日以上)は、厚生労働省に報告されたものだけでも1万3885人に上っている。うち125人が死亡している。陸運業の死傷災害の発生率は全産業平均の3倍以上だ。労働災害の死傷者数と発生率は長期的には低下する傾向にある。しかし、物流業の減少ペースは全産業平均よりも鈍く、労働災害全体に占める物流業の比率は上昇している。物流は危険な仕事だと非難されても否定はできない。
陸運業の労働災害をタイプ別に分類すると、全体の約4分の3を荷役関連が占めている。交通事故は1割にも満たない。とりわけ近年は庫内作業や店舗納品に使用する「ロールボックスパレット(かご台車)」に起因する災害が増えている。かご台車は自重が50キログラム程度ある。荷物を満載すると総重量は500キログラムを超える。人が下敷きになれば大けがを免れない。そのため昨年9月、厚生労働省と労働安全衛生総合研究所は「ロールボックスパレット使用時の労働災害防止マニュアル」を作成し、その活用を呼び掛けている。