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第200回 事例で学ぶ現場改善:『物流会社S社のコンサル事業を後方支援』

物流会社による食品メーカー向けの物流コンサルティング案件が暗礁に乗り上げていた。正式に契約を結んだものの、取り組みを進めていくノウハウがないという。筆者はそのバックアップを依頼された。コンサルティング事業のコンサルティングである。最近そうした役回りが増えている。

 

ノウハウ不足でコンサル案件が停滞

S社は九州に本社を置く年商約10億円の物流会社である。いわゆるノンアセット型3PLとして2千坪弱の倉庫を賃貸して運営している。輸配送は全て特積み(路線会社)に委託している。

創業経営者であるN社長は約20年前に脱サラで同社を立ち上げた。前職のメーカー時代に身につけた現場改善のノウハウと、持ち前の理系思考を生かして、年1~2件ではあるが、オペレーションを伴わない有料の物流コンサルティングにも対応していた。

その一方でS社は、われわれ日本ロジファクトリー(NLF)から経営指導も受けていた。数年前、ある企業の紹介で支援を依頼されて、N社長と幹部クラスを対象に、物流コストや作業原価を算出する教育研修およびコンサルティングを行った。

その後もN社長からは、他のエリアの空き倉庫や物流会社の紹介を依頼されたり、しばしば連絡を受けていた。S社の事業規模は限られているため、案件がエリア外の場合は協力してくれる同業者と連携して、受け入れ体制を構築していく必要があった。

ある日、N社長から、いつもとは異なるテーマの相談連絡が入った。「食品メーカーのM社から物流コンサルティングの依頼を受けている。しかし、庫内運営のことなら分かるが、輸配送となると(S社自身)全て委託しているのでさっぱり分からない。支援してほしい」という。

われわれNLFがM社に対するコンサルティングの“黒子役”となって、S社にコンサルティングの考え方や方法、進め方をアドバイスすることになった。いわばコンサルティング事業のコンサルティングであった。

久しぶりに訪問したS社には、大手上場企業を早期退職して地元に帰ってきたというT氏が新メンバーとして加わっていた。このT氏が後々、N社長の右腕として食品メーカーM社のコンサルティングで活躍するキーマンになるのであった。

あらためてN社長に話を聞くと、M社からコンサルティングの依頼を受けたのは、もう1年近く前のことだという。しかし、輸配送の改善を提案する段階に入ってプロジェクトが停滞してしまい、M社から「早く進めてほしい」と催促を受けていた。

その時点でS社はまだ、M社が輸送業務を委託している協力会社との契約書や料金表、運賃タリフなどの基本情報さえ手に入れていなかった。そもそもどのようなデータ、資料を用意すべきなのか、はっきりとM社に指示できていなかった。その理由は明確でS社に“仮説”がなかったためである。

一般的には多くの資料やデータがあれば、それだけ精緻な“答え”が出ると思われがちであるが、実際には全く逆である。不要なデータをいくら集めても余計な手間がかかるばかりで、かえってノイズになってしまうことがほとんどだ。最初に仮説を立てることで必要な情報が定義されて、その情報を基に仮説を検証することができるのである。

もっとも、取り組みが進まない原因は、S社だけでなくM社側にもあった。配送ルートの作成に必要な納品先マスターや商品マスターがまともに整備されておらず、協力会社から提供されている車両サイズ、積載可能数量もつかんでいなかった。つまり必要な資料をそもそも持っていなかった。M社のトップが外部の力を借りようと考えるのも当然であった。

M社は全国に工場を展開している。そのうちまずは規模の大きい関東の3工場を対象に輸配送の合理化を図ることになった。N社長には土地勘がなかったが、幸い前述の新メンバーT氏は前職で関東勤務が長かった。われわれNLFとT氏を中心に次のような実施項目を設定して、それぞれ検討に入った。

①物流幹事会社の設定

②配送エリアマップの作成と担当エリアの設定

③ロジスティクスセンターの設置

④配車の見直しを前提とした運行日報の収集

⑤受注センターの発足

⑥M社得意先に対する電子受注比率の向上とインセンティブの設定

M社は関東3工場で、それぞれ10社近い物流会社と契約していた。計約30社にM社の社員がそれぞれ出荷等の指示を出していた。当然ながら手間とコストがかかっていた。そこで「①物流幹事会社」を設定して、協力会社の取りまとめを依頼することにした。管理業務の集約を目指した。

M社の各工場長と協議して、業務品質、支払金額および稼働車両台数の実績、リーダーシップなどを基準に、幹事候補として3社をリストアップした。N社長とT氏がM社の了承を得て早速3社を訪問して主旨を伝えた。その結果、1社は幹事会社には不適格だった。しかし、残る2社は主旨に賛同するだけではなく、積極的に対応したいとの意向を表明してくれた。

 

可視化が提案の説得力を上げる

「②配送エリアマップの作成と担当エリアの設定」は、幹事会社の拠点展開と運営方法を尊重することにした。コンサルタントが出荷実績データからゼロベースで、あるべき配送エリアマップを作成すると、クライアント受けはするのだが、それを運営に落とし込むところで現実とのギャップが出てしまう。

幹事会社は取り扱いが増えた分をカバーするため、「新たな同業者にも委託したい」「車両を出す事業所を新たに開設する」などの対策を打つことになる。それをM社が受け入れられるように、S社がコンサルタントとして間に立って調整するのはなかなかにハードルが高い。そこで最初から幹事会社の運営実態をベースにエリアマップを作成することで調整の工程をカットしたのである。

「③ロジスティクスセンターの設置」は、3工場から同じ納品先に届ける商品の荷合わせと共同配送が目的である。これまで荷合わせは工場間の横持ち輸送で対応してきた。運賃コストがかさむだけでなく、各工場で仕分けスペースを確保して入出荷に対応する必要があり、ムダが発生しているのは明らかだった。

また、M社は営業マンが車両を運転して業務用の得意先を回る商物一致の配送ルートと、工場に原料を供給する商物分離の配送ルートを運用していた。そこで前者を各工場併設型の「リテールサポートセンター」として運用するとともに、後者を新設の「ロジスティクスセンター」に集約するというプランを提案した。ロジスティクスセンターに、3工場の商物分離ルートを集約、そこで荷合わせして、共同配送するのである。

しかし、M社の幹部に提案を行ったものの、腑に落ちていない様子であった。そこで3工場の着地点分析を行い、納品先の場所と取扱量を地図上に可視化した結果を提示した。これによってM社の理解度は一気に上昇した。可視化の手法自体も気に入ったようで、M社が新設を予定している工場でも同様の資料を活用するとのコメントが返ってきた。

なお着地点分析の結果、ロジスティクスセンターの最適立地は関東のメイン工場の近隣と分かった。そこで同センターをメイン工場併設型とすることで、メイン工場からセンターまでの横持ち輸送を不要にして、なおかつリテールサポートセンターの役割も持たせようということになった。進捗の遅れていたプロジェクトが可視化によって大きく前進したのだった。

「④配車の見直しを前提とした運行日報の収集」は、3工場全ての配車を集約する「配車センターの設置」を視野に入れて提案した。しかし、M社の反応はいまひとつで、ここでも可視化が必要であった。現在そのために必要なデータを分析しているところだ。

その過程においても改善効果は表れている。協力会社の運行日報を収集したことで、積み合わせ輸送(共同配送)が可能な荷物の有無、ドライバーの労働時間と休憩時間の実態、各車両の走行キロ数、積載率、1日の回転率などの指標の見方をS社に伝えることができた。

運行日報の未チェックは他の多くの企業でも見られることである。事実上、配送の丸投げである。それを改めることで多くの気付きが得られる。それほど管理の手間が増えるわけでもないので、運行日報の確認はルーティン化すべきである。

 

コンサルティングで終わらせない

「⑤受注センターの発足」は、M社から“中期テーマ”と位置付けられた。M社のトップから当面は受注業務の標準化と効率化、入力ミスの削減、手書き作業の削減から着手すべしと、指示が出た。

S社にとってはチャンスとなり得る。M社との取り組みをコンサルティングだけに終わらせるのはもったいない。S社は発注業務と前述の配車業務についてM社に外注化の提案を行い、その担い手として名乗りを上げるべきだと筆者は強く勧めている。

S社が配車権を獲得し、元請けとして、配送管理、運行管理、定期的な配送ルートの見直し、共同配送の推進などを変動費型料金体系の下で進めるのである。受注業務はセンター化への準備段階として「受注業務集約所」を設ける。受注を一元管理することでシステム化の必要性を証明する。大幅に人件費が削減されることを具現化して、センター化への布石を投じる。

荷主に提案するだけでなく、提案通りに業務を運営してコストダウンを実現する。それがノンアセット型3PLであるS社にふさわしいコンサルティング事業だろうと筆者は考えている。

「⑥電子受注比率の向上とインセンティブの設定」も「⑤受注センターの発足」と連動したテーマである。EOS、EDI、メール受注(ステップ2ではWEB受注を提案する)比率を上げて、電話とFAXの比率を下げることで受注作業の生産性を上げる。そのためには得意先に対する啓蒙活動と一種の“餌”が必要である。それが「インセンティブの設定」であり、これまでに筆者が携わった大半の案件で実施している。

例えば、建設資材リースA社は電子受注に移行した得意先に対して3%の値引きを実施している。食品メーカーB社は同じく、電子受注分に注文1件当たり50円をキックバックしている。宅配大手C社は事前に送り先をEDIで報告することで運賃を5%安くしている。100%電子受注に切り替えることは難しいが、電子受注比率が10ポイント上がるだけでも大きなコストダウンが実現する。

さてS社は現在も、コンサルタントとしてM社に対して提案と検証、そして可視化を行っている。当初はS社の提案を煙たがっていたM社の幹部やプロジェクトメンバーたちも徐々に耳を傾けるようになってきた。後はM社の対応力と実行力の問題であろう。

今回のS社の事例のように最近、筆者の元には、コンサルティング事業をバックアップしてほしいという依頼が物流企業から舞い込むようになっている。果たして喜んでよいのか、いささか戸惑ってはいるが、有料のコンサルティングを事業の一つに掲げる物流企業が増えているのは確かなようである。

 

 
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