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第205回 事例で学ぶ現場改善:『化学品メーカーM社の物流管理見直し』

営業の管轄下にある販売管理部門で物流業務を担当している。スタッフは日々のオペレーションに追われて戦略的な管理ができないでいる。物流の専門知識を持った人材も社内にはいない。物流コンサルタントの指導を受けて物流管理の立て直しを図ることにした。多岐にわたる課題が抽出された。

 

若手の物流責任者を前面に

M社は年商約800億円の中堅化学品メーカーだ。本社と工場を関西に置いて、食品添加物や肥料、飼料など約1800アイテムを取り扱っている。在庫拠点は本社工場の近隣に5カ所ある。ただし、社員が駐在しているのは、うち3カ所だけ。物流管理の専門部署はなく、販売管理部門で受注処理から配車、積み込み、納品までのフローと、在庫管理、運賃管理、容器の回収までをカバーしている。

今回の物流コンサルティングの窓口を務めてくれたのは総務部のT部長であった。しかし、T部長は、われわれ日本ロジファクトリー(NLF)との受け答えを、実質的に物流責任者を務めている販売管理部門のS課長が前面に出るように常に促していた。S課長に当事者意識を持たせたいという狙いのようだが、若手を育成しようというM社の経営方針も垣間見えるように感じた。

そのS課長の説明を整理すると、物流の現状に対するM社の問題意識は大きく次の二つであった。一つは、物流担当スタッフがトラブル処理などの業務に日々追われていて、物流戦略の立案などの重要性の高い仕事に着手できないでいること。そしてもうひとつが物流ノウハウを持つ人材の不足、というより不在である。

それでも今のところ幸いにして、物流品質面では深刻な影響が出ていないということであった。しかも、M社は社員平均年齢が30歳台と若い。人材育成という点では良い条件であった。これを受けてわれわれは、通常通り現場の視察と関係者へのヒアリングなどの診断を行い、次の10項目を検証することとなった。

①現場作業の六つの「ない」

②事務作業の六つの「ない」

③庫内スタッフの役割分担明確化と多能工化の推進

④イレギュラー業務の削減

⑤外部倉庫の集約

⑥物流管理業務の明確化

⑦KPI管理の導入

⑧人時生産性(MH)の算出

⑨納品カルテのメンテナンス

⑩協力物流会社の管理方法の見直し

第1ステップでこれらを実施することにより、まずは現場業務を改善して作業生産性を向上する。そして次のステップでは、本丸の物流管理を推進していくという二段構えでプロジェクトを進めていくことになった。

①現場作業の六つの「ない」とは、「持たせない/書かせない/歩かせない/待たせない/考えさせない/探させない」現場作業を実践することによって作業生産性を向上する取り組みである。現状の庫内作業には、移動距離が長い、積み換えが多く製品へのタッチ回数が多い、限られたスタッフのみが全ての保管場所を把握しているといった課題があった。

その改善は、ロケーション番号の対象を庫内の全エリアに拡大して、誰でもはっきりと視認できるように表示方法を改めることが第一歩であった。従来は庫内の一部にしかロケーション番号が振られておらず、表示も見にくかった。

同様に次の②事務作業の六つの「ない」とは、「立たせない/入力させない/書かせない/探させない/(作業を)私物化させない/チェックさせない」物流事務の実践による作業生産性の向上である。

M社の物流事務は煩雑であり、システム化が遅れていた。電子受注比率(WEB、EOS、EDIなど)は件数ベースで約40%にとどまっていた。まずは残りの60%のファクス受注を電子化することが急務であった。中小零細の顧客が多くを占めるその企業リストをプロジェクトチームで検討して電子受注比率を85%まで引き上げるという目標を掲げた。

顧客をWEB発注に誘導するために、インセンティブ(値引き)を設定した。それを顧客に提案・交渉する啓蒙活動が必要だ。果たして営業部隊はどれだけ本気でアクションを起こしてくれるだろうか。これから取りかかるところであり、予断は許さない。

③庫内スタッフの役割分担明確化と多能工化の推進は、当面の最大のネックともいえた。M社の庫内オペレーションは、完全に業務が人に付いており、各人の業務がブラックボックス化していた。その中心にいるのが、物流責任者であり、今回のプロジェクトのキーマンであるS課長であった。他のメンバーでも対応できる業務まで自分で抱え込み、周囲が手伝うこともできない状態であった。

 

営業系物流管理組織の弊害

一般論ではあるが、物流専門部署を組織していない企業における物流組織は、メーカーであれば生産管理部門、卸であれば購買部門に担当させるのが得策である。両業態とも営業部門に物流をぶら下げると、顧客や営業からのわがままなオーダーを受け入れてしまう傾向がある。その結果、物流コストが高止まりする。M社では営業が管轄する販売管理部門で物流業務を担当していたためそれが顕著であった。まずは④イレギュラー業務の削減が必要であった。

⑤外部倉庫の集約は、在庫削減の代表的手法であり、倉庫費用の圧縮と同時に横持ち輸送を解消するものである。前述の通りM社は外部倉庫を5カ所も借りていた。場当たり的に継ぎ足しを繰り返した結果である。いずれも本社・工場の近隣だとはいっても分散によるムダが多いことは明らかだった。プロジェクトメンバーも皆、同じ認識であった。

そこで次のステップで取り組みを進めた。⑴営業の需要予測の見直しによる生産点の抜本的見直し、⑵滞留在庫、死蔵在庫の定義付け、⑶滞留在庫、死蔵在庫の保管コスト(品目別1日当たり保管コスト×在庫日数)の算出および連絡会議での開示、⑷分散在庫の集約──である。

⑥物流管理業務の明確化は、物流管理能力の向上が目的である。メーカーが物流管理として本来行うべき業務内容(表)を明確にすることで、S課長をはじめとする物流担当者が、それまでの「できる範囲の管理」から脱して、物流管理の「あるべき姿」にコミットするように取り組みを進めている。

⑦KPI管理の導入は、物流を可視化して現状に対する認識を共有する手段である。従来は部署間のコミュニケーションが「数値」でなく「ことば」であったために明確な伝達が果たされず、聞き手側は勝手な想像の基に判断を下していた。そのことが業務の煩雑さに拍車を掛けていた。まずは煩雑さを解消して問題点を絞り込んだ上で、適切な作業生産性指標をKPIとして設定する計画だ。

⑧人時生産性(MH)の算出もその一つである。現状では売上高にして約800億円、1800アイテムの物流を正社員15人で管理している。現場業務の一部は外部委託しているとはいえ、S課長をはじめとする社員が土日祝日に出勤して現場作業に当たることもしばしばあった。パソコンやプリンターなどの基本的な設備にも不足が見られた。

そこで先の「③庫内スタッフの役割分担明確化と多能工化の推進」と併せて運営体制に本格的なメスを入れることになった。それぞれの役割分担の再定義と、システム化の推進を前提に、作業の改善に続いて適正人員の算出に進む予定である。

 

協力物流会社との関係を見直す

各納品先の納品条件や注意点を整理した「⑨納品カルテ」のメンテナンスも必要であった。M社は協力物流会社は30社以上に上る。そのほとんどが15年以上の長い付き合いであった。M社自身でも「納品条件表」は作成しているが、実態や詳細は協力物流会社側に握られている状態であった。

拠点の集約には、協力物流会社各社の担当エリアや配送ルートの見直しが伴う。従来の納品条件表の情報だけではとても改善という変化は起こせない。拠点集約後の輸送品質を安定させるには、納品条件表のフォームを見直し、定期的に内容がメンテナンスされる仕組みを構築しなければならない。

⑩協力物流会社の管理方法の見直しも重要であった。M社では従来から輸送トラブルの記録を管理して、協力物流会社を点数制で評価する「物流事業者評価表」を運営していた。しかし、事故が発生した時の連絡手順は曖昧であり、筆者から見れば物流会社管理はほとんど手付かずのレベルであった。

実際、輸送トラブルが発生して物流会社より先に顧客から直接M社にクレームが入る場合がかなりあり、商品事故や輸送事故の数も増える傾向にあった。事故発生時の処理フローを作成して、定期的に安全輸送会議を開催することにした。中期的には輸送協力会の発足を念頭に置いている。

協力物流会社の顔触れを調べると、M社向けの売上比率が高い中小零細が多く、共同配送も実現できていない。既存の協力会社の強化だけでなく、NLFのネットワークからも新たなパートナー候補をリストアップして全体の底上げを図ることになった。

こうして12カ月にわたるプロジェクト設定期間の中盤を迎えようとしている。繰り返しになるがM社の物流はその売り上げ規模を考えるとあまりに属人化していた。当初の実施計画には挙がっていなかった物流専門部署の発足を前倒しで実施する必要があるかもしれない。

 

 
物流コンサルティング・コンサルタント