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第206回 事例で学ぶ現場改善:『電設資材卸L社の商物分離プロジェクト』

小規模な事業所にそれぞれ在庫を置き、社員がトラックを運転して顧客に納品している。事業所に在庫を引き取りにくる顧客もいる。その商物分離が今回のテーマだ。経営幹部たちは変化を好まない。そこで四代目社長は若手を中心にプロジェクトチームを組織して改革に乗り出した。

 

80カ所に在庫を分散して自社配送

L社は年商約500億円の電設資材卸である。取り扱いアイテムは在庫品だけでも8千を超える。東海地区を中心に小規模な事業所(営業所)を約80カ所展開して、売れ筋の約1800アイテムについては事業所にそれぞれ在庫を持ち、社員が車両を運転して顧客に納品している。

L社の生き残りのカギは、即納体制と欠品のゼロ化であった。それには他の多くの中間流通事業者と同様に商物分離が有効であった。しかし、L社はこれまでずっと商物一体を続けてきた。変化を好まない社風に加え、次のようなハードルがあったためである。

・   定時定点納品だけでなく現場納品がある。

・   電気工事の職人が現場に向かう途中に事業所に在庫を引き取りにくることがある。

・   昔ながらの〝御用聞き〟営業が今も主流である。

L社の若き四代目のT社長は、孤軍奮闘を覚悟の上で商物分離に乗り出すことにした。しかし、プロジェクトチームを組織するどころか、社内に協力者を得ることさえ難しいと判断して、われわれ日本ロジファクトリー(NLF)にサポートを依頼したのであった。

L社は愛知県小牧市に商品センターを1カ所置いている。取り扱いアイテムの仕入れ相場が下がった時に大量購入して在庫を積み上げておくことを主な目的とした保管施設である。一方、小規模分散型で展開している事業所は、所長1名、営業2~3名、内勤1名、配送1~2名、新人(配送)1名といった陣容である。

ちなみにL社では営業として入社した新入社員にはまず配送業務を経験させることを習わしとしていた。しかし、筆者が「それでは定着率が悪いのでは?」とT社長に聞くと「そうなんです」とのこと。

新入社員に自社商品を覚えさせたいのであれば、配送業務ではなく、物流センター業務あるいは商品部を経験させるべきだろう。新入社員にハンドルを握らせるというのは半世紀前のキャリアパスであり、もはや陳腐化していると考えた方がいい。

さて、L社の各事業所には在庫補充のための商品センターからの「センター便」が1日2回ある。事業者から前日に出荷指示があった在庫を翌日の午前中に届ける。当日午前中までの指示分は当日の2便で事業所に届ける体制である。

事業所は土地・建物を自社所有している施設もあるが、数としては賃借が多い。卸の商物分離では事業所が自社物件だと、物流センターに在庫と配送機能を集約するのは良くても、事業所の空いたスペースを有効活用できず、取り組み自体が暗礁に乗り上げてしまうことがしばしばある。L社の場合、その心配はなさそうであった。

T社長との打合せは数日にわたって行われた。対象拠点の決め方、、どれだけの時間をかけて在庫の集約を進めていくべきか、ソフトランディングのためのスケジューリングとその手順など、詳細なレベルまで確認して綿密に計画を組み立てる必要があった。

商品センターや事業所の現場視察や担当者へのヒアリングも済ませた上で、われわれはL社の現状を受けて、次のような実施事項をT社長に提案した。

①既存商品センターを生かした2拠点体制への移行

②効率的配送ルートの構築

③横持ち輸送のゼロ化

④調達物流の内製化

⑤商物分離に伴う営業活動の生産性向上

⑥事業所におけるイレギュラー業務の解消

⑦物流専門部署の発足

「①既存商品センターを生かした2拠点体制への移行」とは、2カ所のマザーセンターと15カ所のデポに在庫を集約して商圏をカバーするという内容である。この構想にはT社長も大きく頷いた。

 

二つの基幹拠点とデポ15カ所に再編

商物分離を行うに当たり、既存の小牧商品センターから出荷すると、東東海エリアの顧客に対して当日配送のリードタイム順守が難しくなることが分かった。そこで小牧とは別に豊橋エリアにも延床2千坪の商品センターを設置することにした。

さらに事業所在庫の全てを二つのセンターに集約するのではなく、一部の事業所にデポ機能を持たせることで、顧客の“引き取り”に対応することにした。全事業所の約2割に当たる15の事業所に、メーカーからの直送品を含む、約250アイテムを在庫している。

配送機能をこれらの拠点に集約することにより、「②効率的配送ルートの構築」が実現した。従来は80の事業所で合計195台の車両を使用していた。それを2t平ボディ、箱車、4t平ボディ、合わせて90台に半減することができた。“事業所最適”の配送ルートを改め商圏全体で最適化した結果である。1日当たり走行距離と総労働時間を考慮したルート組みは、各事業所で発生していたドライバーの手待ち時間を解消することにもつながった。

「③横持ち輸送のゼロ化」も実現した。前述の通り従来は80カ所の事業所でそれぞれ約1800アイテムを在庫していたが、特需の発生や発注点設定と実需とのズレから、近隣の事業所間で在庫の貸し借りが横行していた。これがセンターへの在庫集約により解消された。

また、現状は100%自社配送だが、現場納品ではない遠方の納品先や、配送リードタイムが長いエリアなどは、段階的に外部委託に切り換えていくことも想定している。ただし、現在のトレンドとしては、物流会社が募集するよりも荷主の自社配送スタッフの方がドライバーを採用しやすいことから、外部委託から自社配送へ転嫁する企業もあるため、慎重に検討している。

「④調達物流の内製化」は、短・中・長期計画のうち「長期」に位置付けて、センターからの供給が安定してから取り組むことにした。仕入先まで引き取りにいくことで調達コストを抑制するだけでなく、集中購買も徹底する考えだ。調達もまた商物の両面から強化する。

 

イレギュラー対応拠点を絞り込む

「⑤商物分離に伴う営業活動の生産性向上」は、通常であれば社内の抵抗が大きく、経営層の強力なリーダーシップを必要とするテーマである。しかし、L社では大きな弊害はなかった。当社の打ち合わせでは「昔ながらの“御用聞き”営業が今も主流」と聞いていたが実際には、各事業所では既に営業と配送の担当を事実上分離していたからである。

そのため営業マンは大きな職務内容の変更を強いられることなく、従来のスタイルを継続することができた。このことは今回のプロジェクトの成功要因の一つであったと言えるだろう。

その一方で「⑥事業所におけるイレギュラー業務の解消」は、同プロジェクトを推進する上で最も大きな課題であった。本来はイレギュラー業務であるのに、それが当たり前になってしまった業務はどの現場にも少なからず存在する。そこにメスを入れると営業マンは顧客に対するサービスが低下したと受けとめ、「商物分離は失敗だ」と批判することになる。

そのため、イレギュラー業務の洗い出しには慎重を期した。最大の問題は、受注締め時間を過ぎてからの納品時間の変更、商品アイテムや数量の変更などへの対応だった。これらを切り捨ててしまうことは営業上できないとの判断を受け、イレギュラー業務を集中して処理する拠点を絞り込んで「イレギュラーセンター」と位置付け、小牧商品センター内にその本部を設置した。

T社長は物流専門組織として当初、配送部門の新設を考えていた。しかし、今回のプロジェクトの対象範囲は配送だけではなく、物流センター業務、在庫管理、長期的には調達物流の内製化にまで及ぶことになるため、配送部門よりも管理レベルを引き上げた「⑦物流専門部署の発足」をわれわれNLFから提案した。T社長の了承を得て現在、人選を行っている。

今回のプロジェクトには大きな障壁が二つあった。一つはデポ在庫の適正在庫量と発注点の設定である。できる限り欠品をゼロに近づけるという要請をクリアするために幾度となく見直しを迫られた。

もう一つは、プロジェクトメンバーの確保である。当初から予想されていたことだが、幹部クラスは大半が変化を好まない現状維持派であった。そこで別の目的で発足していた新商品・新事業検討プロジェクトの若手メンバーに、そのまま商物分離プロジェクトメンバーを兼務させるという力技を使ったのであった。

徐々にではあるが、商物分離の必要性は社内で共有されるようになってきている。幹部クラスとも商物分離について話し合いができる環境が整いつつあることは大きな前進である。

 

 
物流コンサルティング・コンサルタント