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第207回 事例で学ぶ現場改善:『食品メーカーA社の買収後物流統合』

温度管理を必要とする菓子類を扱い、同業メーカーの買収に乗り出している。現在は2社目のM&A案件を進めており、その先にも次の買収を計画している。コンサルタントに対する要望は、M&A後に実施する物流統合の効果を事前に分析することであった。しかし、概要を聞いた時点で既にいくつかの懸念があった。

 

統合効果を事前に評価

 食品メーカーA社は東海地区に本社と生産基地および物流拠点を置いている。年商は約45億円。主力の洋菓子に加え、デザート類、スイーツ全般へと取り扱い品目を年々拡大して業績を伸ばしている。

 ある金融機関の紹介で、われわれ日本ロジファクトリー(NLF)はA社のお手伝いをすることになった。A社が買収したB社、現状では買収の途上にあるC社の3社の物流を統合した場合、どれだけの効率化が図れるのかを診断してほしいとのことだった。いわゆる「デューデリジェンス」である。

 M&A後の統合(PMI:Post Merger Integration)における3大テーマとされるのが、(1)基幹システム、(2)人事考課制度、そして(3)物流である。その成否はM&Aの成否を決めるほどの重要性を持っている。依頼の意図は理解できた。

 さて、買収済のB社は同じ東海地区に本社と生産拠点を置いている。年商は約10億円。取扱品は洋菓子と和菓子であった。そして買収途中のC社は関東に拠点を置き、年商は約3億円。取り扱い品は洋菓子中心であった。

 3社はいずれも自社店舗を展開する一方で業務用販売も行い、卸を介さずに直接納品している。EC比率が年々上昇していることも共通していた。また生産拠点から自社店舗および近隣の納品先には基本的に自社車両・自社社員で配送している。

 プロジェクトを正式に開始する前の段階でも、いくつかの懸念事項が見え隠れしていた。大きくは三つ。3社の物量を合わせてもボリュームが不足しているのではないか。二つ目として、3社の温度管理帯は統一できるのか。そして三つ目として、買収前のC社から必要な情報を収集できるのかという点であった。

 その懸念をA社および金融機関の担当者に率直に伝えた上で、以下の切り口から効率化の可能性を探ることになった。

①3社のうち物量の多い企業をベースカーゴとした共同配送による配送コスト削減の可能性

②エリア共同配送によるコストダウンの可能性

③着地点分析に基づく物流センターの最適立地の抽出

④ボリュームディスカウントによるB2C(EC)向け宅配運賃削減の可能性

⑤資材の共同購入の可能性

⑥3社以外の荷主企業の共同化参画による効率化の可能性

 「①3社のうち物量の多い企業をベースカーゴとした共同配送による配送コスト削減の可能性」については当初の懸念通り、3社を合わせれば多少のコストダウンは図れるであろうが、3社の売上高を合計して少なくとも現状の約2倍、100億円程度の規模がないと、プロジェクトを発足させるだけの意味があるほどの効果は得られないことが判明した。

 そこでA社、B社の納品先が多い東海エリアに強い冷蔵・冷凍物流会社をリストアップした。物流会社の荷物をベースカーゴに利用しようという考えである。候補企業が三つ見つかった。そのうち1社はわれわれ(NLF)が過去にコンサルティングを実施した経験の会社であった。同社は大手食品メーカーY社の業務を担っており、Y社のCVS向けのデザートをベースカーゴとした共同幹線輸送を既に行っていた。これら候補企業3社にA社側の物流データを提示して配送ルート別の共同配送の実現性を検証した。

 「②エリア共同配送によるコストダウンの可能性」としては、関東圏中心のC社を除いて、東海地区のA社、B社の2社を対象に自社配送ルートの共同化を検討した。ロードサイド単独店と商業施設内テナント店舗向けのルートには効率化の余地があった。

 また、当初の懸念の一つだった「温度管理帯は統一できるのか」という点も当面は「冷蔵」を中心に共同化して、常温品は冷え過ぎないようオリコンの中に入れることで味覚の変化を防ぐという想定だった。

 ただし、やはり物量が足りない。A社、B社以外に外部の荷主を加えたいところだが、他社のカーゴを扱うことは営業行為に当たるため、実施するには“緑ナンバー(実運送事業者の許可)”を取得しなければならない。一方で丸ごと物流会社に委託すれば、自社配送よりもむしろコストアップになる恐れがあった。

 

ボリュームが足りない

 「③着地点分析に基づく物流センターの最適立地の抽出」は拠点集約によるコスト削減の余地を探ることが目的だが、分析の結果として完成した納品分布図は“物流泣かせ”であった。ECによる個人ユーザーを除いた納品先が全国に少量分布している。

 自社配送できない納品先については当然ながら3社とも外部委託している。百貨店納品については、東・名・阪は百貨店食品納品代行会社、地方は冷蔵対応の路線会社(特積会社)を使っていた。

 また成長著しいA社の自社店舗の出店計画とその精度も物流拠点の最適立地を左右する大きな要因となる。聞けばA社はC社の後にも買収を検討しているという。首都圏需要がそのターゲットであった。

 それらを踏まえて検討した結果、拠点を2カ所に分散するのが得策という結論に至った。一つはA社のお膝元の東海地区、もうひとつは北関東地区である。東海地区はA社の既存拠点にB社が相乗りする。その結果、キャパオーバーとなってしまうため、既存施設に隣接して500坪1層の冷蔵倉庫を増設する。

 一方の北関東は首都圏向けの拡大が狙いである。A社、B社、C社が共同で新工場を建設してそれに物流拠点を併設させるというプランである。この2拠点体制を2025年までの“最適解”と位置付けた。

 「④ボリュームディスカウントによるB2C(EC)向け宅配運賃削減の可能性」も、はたまたボリュームがネックであった。そもそも宅配大手3社は現在、コロナ禍の巣ごもり需要への対応が精一杯という状況である。現在の物量ではまともに相手にしてもらえないだろう。ここでも冷蔵・冷凍物流会社のベースカーゴが必要であった。現在、冷蔵宅配会社との取引が多い地元の有力物流会社と話し合いを行っている。

 「⑤資材の共同購入の可能性」に関しては物流資材にとどまらず、共同購買の対象を生産原料や、販売、販促、営業の副資材まで広げることで大きな効果を期待できることが判明した。C社の買収を待たずに先行実施して既に年間換算で数千万円規模のコストダウン効果を得られている。

 「⑥3社以外の荷主企業の共同化参画による効率化の可能性」として、物流会社のベースカーゴに頼らない荷主企業同士による効率化も一方でまだ模索している。実際、大手食品メーカーとデザートメーカーの共同配送、ねりものメーカーと和日配メーカー、洋日配メーカー同士の共同配送など、食品分野に限っても先行事例は多々存在する。

 そのためにA社、B社と取り扱い品目が類似する荷主企業を物色している。金融機関にも協力を求め、われわれNLFが設定したターゲットに基づいて対象企業、いわば“D社”を探してもらっている。荷主同社の物流統合がきっかけでM&Aに発展することはしばしばある。次のM&Aを狙うA社にとっては願ったり叶ったりである。

 今回のプロジェクトは、ボリュームという点からして統合効果を期待するのが時期尚早であることは否めないだろう。それでも事業を強くするために先にロジスティクスを固めるというA社の発想は間違っていない。日本にも欧米型の思考をする経営者が増えてきているということであろう。

 

 
物流コンサルティング・コンサルタント