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第210回 事例で学ぶ現場改善:『物流子会社N社の多層階センターの改善』

 物流子会社N社は商業施設を物流拠点に転用した多層階センターを運用している。このところネット通販の出荷が増えたこともあり庫内作業の効率が落ちている。過去にもコンサルを入れて改善を試みたことはあるが、成果は上がらなかった。どうやら物流センター長に問題があるようだった。

 

商業施設を物流センターに転用

 N社は日用雑貨品メーカーの100%物流子会社である。年商は約30億円。関東の物流センター1カ所で全国をカバーしている。このところ、B2Cの出荷が増えて庫内作業が煩雑になっている。しかし、物流センターは建物に構造上の制約があり、思うように改善できないでいた。

 これを打破したいと、われわれ日本ロジファクトリー(NLF)にN社の親会社から相談が舞い込んだ。詳細について親会社の物流担当執行役員のT氏にヒアリングしていくうち、(筆者にとっては毎度のことではあるが)上記の問題以外にも重要なテーマがあれもこれもと次々に出てきた。

 同センターは近い将来に増築を予定していた。そのゾーニング、ロケーション、レイアウト設計、さらにはマテハン設計・導入計画に対するコンサルティングが必要だという。運営の外注化も検討したいという。ヒアリングは数時間にも及んだ。課題は山盛りであったが、まずは当初の相談内容に戻り、目の前の現場改善に短期的テーマとして着手することになった。

 N社のセンターの構造上の制約とは、約20年前まで大型商業施設として使用されていた建物を、物流センターに転用した施設であることに起因していた。1フロア1200坪×5フロアの延べ床約6千坪。広さは十分だが、高さが3000㎜も確保できない。それを見て筆者は「テニスコートで野球をやっているようなものですよ」とはっきりとT氏に伝えた。

 もうひとつ、大きな問題があった。聞けば同センターは過去にも何度かコンサルを入れたことがあるのだが、成果は出なかったという。これまで自社改善が進まなかったことも含め、その原因はセンター長のA氏の資質と能力にあるようであった。

 われわれのような外部からの意見に対して、A氏は否定から入る傾向が見られた。自分の過去を否定されるように感じるのであろう。そして現場の責任者でありながら、その働きぶりは管理よりピッキング作業に精を出していた。プレイングマネジャーならまだしも、単なるプレーヤーになっていた。

 著者は常々「センター長の資質と能力で運営の90%が決まる」と明言している。決めたことを現場に実行させる執行管理能力の向上こそが、当センター最大の課題であった。

 われわれはキックオフの前に、A氏との話し合いに時間をかけた。一時的に現場のメンバーを巻き込んで改善を進めるだけであれば、われわれがセンター長の黒子役となって一役買うこともできる。しかし、肝心のセンター長が取り組みに後ろ向きではそれもままならないと考えたからだ。

 A氏とコミュニケーションを重ねて、われわれのコンサルティングを受け入れてくれたと判断できた時点で初めて活動を開始した。

 具体的には以下の13項目に取り組んだ。

①B2C保管エリアの分離

②誰もが分かる現場づくり

③軽量ラックの増設

④ケース1段分の上積み

⑤通路幅の圧縮

⑥在庫削減

⑦出荷頻度ABC分析

⑧レイバーコントロールの実践

⑨作業工程の省略

⑩パレット化

⑪現場作業における八つの『ない』の実践

⑫事務作業における六つの『ない』の実践

⑬空調設備の強化

 「①B2C保管エリアの分離」は、ネット通販が急拡大している現状においてはなかば定番化しつつある改善策である。N社のセンターではB2BとB2Cの出荷処理を同じフロア、同じフローで処理していることが作業を煩雑にしている原因の一つであった。

 そこでフロアを区分して、B2C専用の作業ラインを新設した。B2Cは日によって出荷量の波動が大きいことがネックであるが、そこは庫内スタッフの多能工化、すなわちマルチプレイヤーを育成することでカバーするという算段だ。

 「②誰もが分かる現場づくり」も本連載で何度も紹介している改善の基本である。「誰も」とは具体的には初心者、外国人労働者、高齢者を指す。初めて現場に入った新人が2日目で1人前のスタッフの約50%の仕事ができるレベルを目指した。

 

保管の工夫でスペースを生み出す

 N社の現場はベテランのパートが多いこともあって、ロケーション番号の視認性などが中途半端であった。表示類や掲示物を見やすく、誰が見てもすぐに意味が分かるようにゼロベースで見直して、新人向けの現場に作り変えた。

 「③軽量ラックの増設」は保管効率の向上に即効性があった。同センターは天井高が低いとはいえ、1800㎜の軽量ラックを設置することはできた。一部で使用してもいたが、平積みエリアが多かった。そこで新規に80基を投入した。これによって保管効率は約17%アップした。

 「④ケース1段分の上積み」も実施した。庫内で上積みできるのは、消防法に基づいて「避難誘導灯」が隠れない高さまでとされている。しかし、同センターでは避難誘導灯からケース1段分よりも低い位置に高さ制限を設定していた。そのルールを修正した。

 「⑤通路幅」は一方通行のピッキング通路でありながら950㎜あった。一般的な通路幅より広くとっている理由を尋ねたところ、ピッカーの渋滞を防止する目的だという。しかし、同センターの出荷実績を分析した結果、渋滞はごく稀にしか起きてないことが分かった。そこでピッキング台車の大きさ、格納生産性を考慮して通路を750㎜とした。これによってピッキングレーンを一つ増設することができた。

 「⑥在庫削減」は庫内スペースを確保するための常套手段だが、N社の場合は多階層に分散している庫内業務を集約することにもつながる重要課題であった。N社は全アイテムの約90%を東南アジア諸国から輸入している。現地への発注は20フィート、もしくは40フィートのコンテナ単位で混載便などは利用していなかった。

 加えて、発注点ではなく発注時期で購買を行っていた。在庫回転率や適正在庫を管理している担当者はどこにもいなかった。この問題については親会社を含めて在庫管理を抜本的に指導している途中である。

 「⑦出荷頻度ABC分析」もその一環だ。ABC分析に基づく庫内ロケーション・レイアウトの作成と作業生産性、作業品質の向上はセンター改善の定番であるが、同センターでは未着手であった。そこで親会社の人員も応援に加わり関係者総動員でロケーション変更を実施した。

 これに伴い特Aランクの保管エリアを移動した。特Aランクは入出荷口から近いエリアのフリーロケーションが基本である。同センターでも1階にエリアを確保していたが、動線の長いフロア奥であったため、事務所横に移動して動線を短縮した。一連の変更によって、人時生産性が実施前に比べ約27%も向上した。元箱管理の徹底による先入れ先出しを始め作業品質の向上にもつながった。

 ただし、N社の取り扱う日用雑貨品は四季に合わせて売れ筋商品が大きく入れ替わるため、今後はABC分析を定期的に行って、年3~4回はロケーションをメンテナンスすることが不可欠である。

 

3グループに分けて多能工化

 「⑧レイバーコントロールの実践」は、フロアが五つに分かれているため運用にはかなり苦労することになった。その一方で多能工化については、従来から作業内容と役割分担がフロアごとに分かれて明確になっていたため、比較的容易に実施できた。

 庫内スタッフを「1階と2階」「3階と4階」「5階」の三つに分けた。このうち「1階と2階」、「3階と4階」で相互に応援ができるように多能工化した。そして「5階」は作業量の多い1階のみへの応援要員として訓練した。元々、フロア毎の作業の繁閑に大きな差があったことから成果がでた。パート1人当たり平均月1・5時間、総労働時間を約45時間省人化できた(稼働パート30名)。

 さらに「⑨作業工程の省略」を実施した。従来はハンディターミナルを使ってピッキングしてオリオンに投入した商品を、出荷ラインで再びハンディターミナルで検品して出荷用段ボールに詰め替えるという二重作業が発生していた。これを改めピッキング時点から出荷用段ボールに投入してそのまま出荷することにした。これによって工程が省かれただけでなくオリコンの保管スペースが不要になった。

 「⑩パレット化」は当然ながら、手積み・手降ろしの解消が目的である。東南アジアからコンテナで輸入している商品は、調達先に依頼してシートパレットを利用するようにした。

 出荷貨物もパレット化した。パレットの分だけ車両の積載率は下がるが、入出荷作業の生産性向上を優先すべきことは明らかだった。実際、パレット化によって入出荷作業の時間は55%削減された。

 この他、「⑪現場作業における八つの『ない』の実践(持たせない、書かせない、歩かせない、待たせない、考えさせない、探させない、しゃがませない、かがませない)」、「⑫事務作業における六つの『ない』の実践(立たせない、入力させない、書かせない、探させない、(作業を)私物化させない、チェックさせない)」も実施したが、前回の内容と重複するため詳細は割愛する。

 最後の「⑬空調設備の強化」は作業環境の改善が目的である。従来から庫内の一部でスポットクーラーや扇風機を使用していたが、センターが広いため冷気が分散して効いていなかった。主婦層をメーンのユーザーとするメーカーの自社物流であり「パート、アルバイトを大切にする」というN社の基本方針とはギャップがある。費用はかかるが業務用空調設備は今や物流現場の常識である。現在、設備会社と機種選定とコスト交渉を行っている。

 

 
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