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第211回 事例で学ぶ現場改善:『雑貨メーカーS社の物流機能分散対策』

 本社に隣接して物流センターを構えている。数年前にコンペを開催して現場の運営を3PLに委託した。ただし、受注処理や流通加工、組み立て加工、返品処理などは自社スタッフによる運営を維持している。今年に入って再び筆者にコンサルティングの依頼が届いた。どうやら3PLをうまく活用できていないようであった。

 

拠点のリース契約を更新できない

 S社は年商約60億円の雑貨メーカーだ。首都圏近郊に本社があり、本社に隣接して保管型物流センター(DC)を置いている。国内自社工場もそこから自動車で約10分という距離に位置している。限られたエリア内に全ての機能が集中しているというのは、その規模からすれば珍しいケースであろう。

 筆者はS社と既に十年来の付き合いである。毎回テーマを変えてこれまで計6回のコンサルティング対応を行っている。そのためS社については、経営層や主立ったメンバーたちの人物も含め事情をよく分かっている。

 7回目となる今回のコンサルティングは機能の分散がテーマであった。長年にわたり本社とDCの土地・建物をリース契約してきた大家からいささか唐突に退去要請を受け、現在の契約期間が終了したら拠点を出ていかざるを得なくなったという。その結果、次のような移行が必要になった。

・現在のリース契約は2022年7月に終了する。それに先立ち来年のゴールデンウィーク期間中に本社機能を都内某区のオフィスビルに移転する。

・現在のDCは大幅にスペースを圧縮した上で、S社の3PLパートナーのM社があらためて大家とリース契約を結び、そこでS社の荷物の保管と荷役作業に当たる。

・S社で受注処理をメーンとしている部隊も大多数は新オフィスに移る。ただし、S社に渡す伝票類の出力と流通加工を担当している数名のスタッフは、DC近隣にコンテナハウスを設置して、そこで作業する。

・S社は組み立てを必要とする商品も扱っている。顧客が組み立て済み納品を希望した場合、現在はDCでS社のスタッフが組み立てた後、M社に引き渡して出荷している。今年10月をめどに、その組み立て作業を本社工場に移す。組立品は本社工場からの出荷に変わる。

・現在はDCで処理している返品受付業務も本社工場へ移転する予定。

 それを前提にしてS社は、われわれ日本ロジファクトリー(NLF)に、移管スケジュールの作成とオペレーションの見直しを支援してほしいという依頼であった。移行まで時間がないため、発生するタスクを早期に洗い出してスケジュールに反映させたい、新たな作業フローも固めたい、という。

 このうち今回はオペレーションの見直しについてお伝えする。われわれNLFのメンバーがプロジェクトに参加する前に、S社のプロジェクトチームから筆者の元に次のような二つの「タスク表」が届いた。見れば作業項目ごとに「現在のオペレーション」と「問題点」、「対応方法」が整理されている。

 かなり紙幅を割くことになるが、その一部を紹介する。(表1、表2)そこにある「対応方法」は筆者が手を入れたものではなく、メンバーたち自身による改善策である。彼らが現場の問題に正面から取り組んでいる様子がうかがえる。

物流プロセスが3カ所に分散

 二つのタスク表からは、S社のメンバーたちがわれわれNLFに頼りきりになるのではなく、自分たちでできるだけの洗い出しをしておこうという積極的な姿勢が見て取れた。しかし、それと同時にS社が一昨年のコンペで3PLパートナーとして選んだM社を有効に活用できない現状も浮かび上がった。

 プロジェクトメンバーたちは、EC向け出荷の増加に対応して、現在、DCで使用しているフローラックを撤去して生産性向上を意識したラック什器を採用することや、工場とDCとの横持ちを内製化した場合のシミュレーションもしてみたいという。提案力に定評のある3PLを選びながら、その能力には期待していない、物流の自前主義から抜け出せないでいるようだった。

 そしてメンバーたちの最大の懸念が物流機能の分散であった。現在は、受注、伝票出し、伝票セット、荷札貼り、組立作業の全ての機能をDC1カ所でオペレーションしている。しかし、新体制に移行すると、受注は本社、伝票と流通加工はDC、組立作業は工場と場所が分かれてしまう。とりわけ受注処理がDCから離れてしまうことをプロジェクトメンバーたちは深刻に受け止めており、かなり神経質になっている様子が伝わってきた。

 そこでわれわれは、受注機能と物流センターは離れているのが普通であり、今までのS社の機能集中的な環境がむしろ特殊であること、そして紙の作業指示書を出荷指示データの送信に置き換えることで問題なく運営できることを説明した。実際、多くの会社がそうしている。S社ができない理由はない。それを聞いてメンバーたちは少し気が楽になったようであった。

 

 
物流コンサルティング・コンサルタント