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第217回 事例で学ぶ現場改善:『美容品メーカーL社の拠点移転プロジェクト』

 本社近隣の賃貸ビルを物流センターとして使用して自社で運営してきた。物量の増加で新センターへの移管が決まり、これを機にオペレーションを見直すことになった。移管スケジュールを策定する一方、シンプルでありながら確実に効果の上がる〝定番〟とされる改善策を実施することにした。

 

引っ越しを機にオペレーション見直し

 L社は中・四国エリアに本社を置く年商約30億円の美容品メーカーだ。取扱品目数は日用品メーカーとしては標準レベルの約850。若い世代向けのコスプレ関連製品をメーンとしている。ニッチなカテゴリーではあるが、世界的なアニメ人気を反映して右肩上がりで売り上げが伸びている。

 工場は持たずに生産は全て中国や東南アジアに委託している。現地から海上コンテナ単位で日本に輸入している。それを従来は本社から車で約10分の場所にある自社運営の物流センターで受けていた。

 ただし、「センター」とは称しても実際には1棟建ての事務所を賃借して倉庫として利用しているかたちであった。そのため天井は低く、柱が多い。階段スペースがムダになっており、垂直搬送に通常のエレベーターを使用するなど、使い勝手は良くなかった。

 物量の増加によって同センターはキャパオーバーとなり、新拠点に移転することが決まった。L社の物流責任者H氏の説明によると、今回の引っ越しを機に物流改善に着手するよう同社のS社長から指示されたとのことであった。それがわれわれ日本ロジファクトリー(NLF)の今回の役どころである。

 移管後の新センターの立ち上げには混乱がつきものである。それを考慮して、われわれは改善項目を次の通り絞り込んだ。

①スムーズな引っ越し

②出荷頻度ABC分析

③八つの『ない』の実践

④ビデオマニュアルの作成

⑤誰もが分かる現場づくり

⑥レイバーコントロールの実施

⑦WMSの導入

⑧棚番地の拡大

⑨外注化

⑩スキャンポイントの見直し

 「①スムーズな引っ越し」はスタートから難航した。移転先の候補物件は比較的容易に見つかった。ところが、賃料や契約期間などの交渉に入ると折り合いがつかず、貸し主と決裂してしまう。その度に振り出しに戻り、4件目でようやく契約にこぎ着けた。そこから、引っ越しの見積りを集めたり、移転時の搬出・搬入計画を詰めていくなど、短期・中期の具体的な移管スケジュールを策定していった。

 「②出荷頻度ABC分析」は、最適な庫内ロケーション・レイアウトを作成して作業生産性、作業品質を向上するための定番とも言える改善項目である。従来からL社では簡易的なABC分析を行っていた。しかし、「出荷個数」をベースにした分析であったため、実態と合わないところがあった。作業量を直接反映する「注文行数」で集計をやり直した。

 その結果、全注文行数に占めるSAランク品の割合は約15%、Aランクが約13%、Bランクが約25%、Cランクが約22%、スリーピングストック・デッドストックにあたるDランク以下が約25%という状況であった。この数値に基づいてランク別のロケーションを設定した。

 「③八つの『ない』の実践」は、やはり定番ではあるが、他社でも非常に効果を上げている作業コンセプトである。「ない」とは、具体的には「持たせない、書かせない、歩かせない、待たせない、考えさせない、探させない、しゃがませない、かがませない」ということだが、L社の場合は細かな製品の取り扱いが多いことから、ロケーションの明確化、棚番地の視認性向上による「考えさせない」と「探させない」に重点を置くことになった。

 

お手製のビデオマニュアルが効果

 「④ビデオマニュアルの作成」も多くの現場で効果を実証された改善策である。ISOをはじめとする認定申請書や、BCPマニュアルは活字で作成することが必須である。しかし、そもそも物流に活字のマニュアルは適さない。作業は“動く”ことが当たり前であるため、動画が適しているのである。

 ビデオマニュアルの作成手順および留意点は次の通りである。

1. マニュアル化の対象とする「作業」を決める。

2.ビデオに登場させる作業者には、ベテランでもなく、新人でもない、一通り作業を覚えた
  レベルのスタッフを選ぶ。

3. 撮影者には作業を覚えたばかりのスタッフを選ぶ。どんな部分で苦労したか、分かりに
  くかったか、まだ感覚が残っているからである。ベテランに撮影させると勝手に『これは
  分かるだろう』と端折ってしまう。

4. 音声による説明をつける。

5. 1マニュアル当たりの収録時間は最長でも15分以内に収める。それを超えると見ても
  らえない。

6.撮影機材はスマートフォンもしくはハンディカメラで問題ない。

7.ビデオマニュアルをPCに保存して現場で必要な時にいつでも使える、いつでも教育で
  きるようにしておく。

 ビデオマニュアルが欲しいとの声は多くの現場で耳にする。それを作成する際には、何より使いやすいものにすること、また内容の陳腐化を防止するために定期的なマニュアルの見直しをルール化することが大事である。

 「⑤誰もが分かる現場づくり」は具体的には、⑴初心者、⑵外国人労働者、⑶高齢者が、初めて現場に入って2日目には一人前のスタッフの約50%の仕事ができるレベルを目安とする。

 現場の運用のいわゆる「5W2H」、When(いつ)、Where(どこで)、Who(誰が)、What(何を)、Why(なぜ)、How(どうやって)、How much(どれだけ)が明確でない現場はまったくと言っていいほど機能しないと心得る。

 

アウトソーシングにはまだ早い

 「⑥レイバーコントロールの実施」とは、言うまでもなく各作業の作業量に合わせて人員を配置することである。L社のセンターの総勢約35人のパート・アルバイトの仕事ぶりを見ていると、多層階のフロアを忙しく昇り降りしているスタッフがいる一方、前工程の遅れで“手待ち”状態のスタッフも散見された。スタッフを教育して多能工化した上で、各工程の作業の進捗に合わせて配置をコントロールする仕組みが必要であった。

 「⑦WMSの導入」は2~3年後を想定している。現在、製品マスターの整備に着手したところである。現状の入出庫作業は、販売管理システムに紐づいたバーコードを、ハンド・ヘルド・ターミナル(HHT)でスキャンしている。しかし、製品数の増加、在庫量の増加、庫内作業員の増加、物流管理の実施などを考慮すると、イニシャルコストはかかってもWMSを導入した方が得策である。

 「⑧棚番地の拡大」は、視認性の改善による作業生産性、作業品質の向上が狙いである。既述の通り、L社のセンターにおける最大の課題は「探させない」「考えさせない」ことであった。従来は軽量ラック用の製品ケースに直接、ロケーション番号を記入していた。これを改め軽量ラックの棚板にプレートを設置して、そこにロケーション番号を印字するようにした。

 さらに全フロアの見取り図を、庫内の各フロアの中央部、左端部、右端部の両サイドの計6カ所に張り出した。自分が今フロアのどこにいるのか、分かるようにするためである。至ってシンプルなツールだが、これによって迷子になることがなくなり、作業生産性が約10%向上した。この見取り図は方向感覚に自信のない女性作業員に特に好評であった。

 「⑨外注化」は物流コストの削減と本業への特化が狙いだが、L社のS社長には年商が今の2倍の60億円を超えてから選択肢として視野に入れるようにすればいい、と伝えている。現状のボリュームでは外注化のメリットは得られないだろうと判断している。

 ただし、現状でも繁忙時には他部署からの応援が常態化している。今回の引っ越しはパート・アルバイトの増員と派遣会社からの調達で何とか乗り越えることができたが、今のままでは中長期的な安定運営に懸念がある。今後の状況次第では外注化のタイミングを早める必要が出てくるかもしれない。

 「⑩スキャンポイントの見直し」は出荷精度の向上が目的である。現在は出荷検品の時だけHHTでスキャンしている。しかし、在庫差異が決して小さくないことから、在庫管理精度の向上、また盗難防止も念頭に「入荷」「格納」「ピッキング」のポイントでスキャンするように段階的に進めていく。

 こうしてL社の拠点の移転は大きな問題なく完了した。ただし紆余曲折の上に決まった移転先は、またしても物流倉庫ではなく、とあるショッピングセンター跡地の一角であった。賃料をできる限り抑制したかったこと、またL社の取り扱い製品の特性上、高さは1800ミリメートルの軽量ラックが収まれば十分であったことなどが理由であった。しかし、当面はそれでよくても将来的には、作業生産性や保管効率などを加味したトータルコストの観点からセンターの在り方を再考しなければならない時期がくると認識している。

 

 
物流コンサルティング・コンサルタント