第216回 事例で学ぶ現場改善:『日用品卸T社のコスト削減プロジェクト』

 創業時代から地元の倉庫会社を物流パートナーに共に成長を遂げてきた。しかし近年、売り上げの伸び以上に支払い物流費が増えてしまっている。荷主自ら物流の効率化とコスト削減に乗り出すことにした。物流コンサルタントの支援を受けてプロジェクトに着手、長年のブラックボックスを開いた。

路線便依存を改め配送網刷新

 T社は年商約50億円の日用雑貨品卸である。名古屋に本社を置き、名古屋市郊外に物流センターを1カ所設置している。物流センターの運営は創業時代から共に事業を発展させてきた物流会社K社に委託している。K社には配送の元請けも任せている。T社にとってK社は、まさしく物流パートナーと呼べる存在である。

 一般に、特定の荷主と共に成長してきた物流会社は、その荷主に対する依存度がどうしても高くなる。筆者の経験から言えば、売上全体の40~70%を占めていることが多い。しかし、K社はT社向け以外の仕事にもしっかりと力を入れており、T社への売り上げ依存度は20%程度であった。

 われわれ日本ロジファクトリー(NLF)は今回、T社から物流改善プロジェクトの支援を依頼された。その目的は、取引量が拡大しても利益率を維持することであった。実際、T社の売り上げは伸びていた。しかし、売り上げが増加するペース以上に支払い物流費が増えている。現状の体制のままでは利益は創れないと判断して、荷主自ら物流の効率化およびコストダウンを目指したのであった。

 われわれNLFは関係者へのヒアリングと現場視察を経て、第1フェーズの実施項目を次の10個に絞り込み、T社の取締役会の承認を取り付けて活動を開始した。

①関東センターの立ち上げ

②路線便から貸切への切り換え

③オリコンの導入

④夜間納品の実施

⑤T社主導の共同配送

⑥路線便運賃のボリュームディスカウント

⑦センター運営における八つの「ない」

⑧レイバーコントロールの実施

⑨物流管理機能の強化

⑩物流KPIの活用

 「①関東センターの立ち上げ」は中長期なテーマである。T社は全国に顧客がいる。それを名古屋の物流センター1カ所でカバーする現在の体制がいずれ限界を迎えるのは明らかだ。現段階でも既に納品先が関東圏に偏っていることによる非効率は見られる。

 そのためT社の売り上げが80億円規模に達することが見えた段階で、関東1都6県エリアに2拠点目を構える必要があると説明した。現在の成長ペースが続けば、そう先の話ではない。その際には主要納品先の小売各社の今後の出店戦略を念頭に置いて、それと連動することが大事であることも伝えた。

 名古屋から関東に拠点を移せば保管費は上昇することが予想される。ただし、納品先までの距離は短くなるため配送費は抑制できる。着地点分析によって新拠点の最適立地を抽出して、さらに共同配送などを検討することでトータルコストを抑える必要がある。

 現状では構想中だが、拠点の立地は保管料を抑えるために北関東になる見込みである。また配送は、T社の同業他社の店舗納品を行っている物流会社L社を介して共同配送が実現できそうだ。既に2回目の提案が終わり、見積もりも出ている。保管料の上昇分を十分に相殺できるとみている。

 一方、「②路線便から貸切への切り換え」は、即効性のある施策である。従来は物流パートナーのK社を介して全ての配送を路線会社(特積み)に委託していた。これを改め、納品先が集中しているエリアを対象に、K社の自社便と傭車によるルート配送に切り換えた。T社の取り扱い商品は売価が高くないため、ルート当たりの納品件数を多くすること、車両回転率を上げることを強く意識して配送ルートを作成した。

 加えてチャーター配送分には「③オリコン」を導入する予定である。従来は路線便の利用を前提としていたため、段ボール箱で出荷する他に選択肢がなく、「通い箱」の概念自体がなかった。念のため段ボール箱の購入費と梱包・開梱作業のコスト、オリコンの導入費および運用コストの比較を行っている。

 また、段ボール箱からオリコンへの変更には納品先の了解がいるため、得意先各社と協議中である。得意先としては、段ボール箱とオリコンの双方の納品に対応することを避けるために、T社以外のベンダーと足並みをそろえてもらいたい考えのようである。

 

チャーター便で夜間納品を実施

 さらにチャーター配送分は「④夜間納品の実施」に踏み切った。小売業で最も店舗配送効率が良いとされる某ドラッグストアのノー検品配送のスキームをT社に移植した。

 これに伴い協力会社K社のドライバーは勤務シフトの変更が迫られた。K社はもともと倉庫会社であり足回り(輸配送)はあまり得意としていない。しかし、夜間納品への切り換えによって車両の回転率は、当初の1・3回転が現在は2・8回転と着実に上昇している。

 「⑤T社主導の共同配送」では、チャーター配送に切り換えたメリットを最大限に生かすことができた。主要得意先(納品先)のA社の荷物をベースカーゴと位置付け、そこに別の得意先B社とC社の荷物も混載することで配送費の低減を実現した。

 これによって小売側で“T社の運賃は低い”という評判が立ち、物流の効率化を課題としている他の小売りが、T社を有力ベンダーとして注目するようになった。物流コストの削減から商流の囲い込みへと展開する、卸の物流プロジェクトにおける理想的パターンとなった。

 「⑥路線便運賃のボリュームディスカウント」では、協力会社K社が手配している路線会社の振り分けを見直した。K社は全国対応が可能な大手路線会社と、北海道や九州などの特定エリアに強い路線会社を併用していた。両者の対応エリアは重複しており得策とは言えなかった。

 具体的には全国規模の路線F社に全体の約6割、同G社に2割を出荷して、残りの2割を特定エリアに強い4社にそれぞれ任せていた。このうち特定エリアの4社分をトップシェアのF社と二番手のG社に振り分ければ、大幅なコストダウンを期待できる。その詳細を詰めるために現在、主力の2社と交渉中である。いずれも反応は良好である。

 

管理能力強化のため物流部を新設

 「⑦センター運営における八つの『ない』」とは、本連載ではこれまで幾度となくお伝えしているが、庫内作業員やドライバーに「持たせない、書かせない、歩かせない、待たせない、考えさせない、探させない、しゃがませない、かがませない」ことである。現場の作業生産性を上げるには必須といえる基本である。

 K社のセンターでは、特に作業動線が長い、すなわち「歩かせない」、作業の遅れと量の多さから出発ドライバーを待たせる、すなわち「待たせない」が多く発生していた。そこでまずは取り扱い品目別の出荷頻度を測定するABC分析を実施して、庫内レイアウトと保管ロケーションを見直した。

 その上で「⑧レイバーコントロール」を実施した。「入荷」「格納」「ピッキング」「検品」「梱包」「便別仕分け」のそれぞれの作業量に対して、適切な人員配置ができていなかった。常に忙しくしているピッキング担当者がいる一方、手待ち状態の検品者もいたりと、作業によって業務量の偏りが大きかった。

 そこで庫内作業員の多能工化を推進した。それぞれの作業員が複数の業務を担当できるように教育した。そして作業別の1人1時間当たり生産性(人時生産性/MH)を算出して、人員の配置を見直した。

 先の「八つの『ない』」との相乗効果もあり、生産性が向上している。その結果、これまで予備人員として投入していた派遣スタッフの人数を減らすことができている。

 「⑨物流管理機能の強化」のため、今回のプロジェクトを機にT社に物流部を発足させた。これまでT社には物流管理の専門組織がなく、商品部と事業部長が必要に応じて管理業務をカバーする状態であった。商品部と事業部が共同で物流改善に取り組むのも本プロジェクトが初めてだった。

 しかし、物流業務に限らずアウトソーシングは、「運営は外部・管理は自社」が鉄則である。この構図が崩れると単なる“丸投げ”となってしまい、コスト・サービスレベルとも、制御不能の状態に陥る。改善活動も物流会社の都合が優先されてなかなか前進しない、ということになる。そこで常設の物流部を立ち上げ、配属は2人にすぎないが、その教育・訓練を行うことになった。

 「⑩物流KPIの活用」も管理力強化の一環である。⑴品質、⑵生産性、⑶精度、⑷コスト、⑸時間(2024年問題など)などのKPI(Key Performance Indicator:重要業績評価指標)を、委託先との「共通言語」と位置付けて改善活動を推し進める。継続性のあるコストセービングには、そうした仕組みづくりが不可欠である。

 こうして、われわれNLFのコンサルティングはひとまず完了し、T社は続いてプロジェクトのステージⅡに向かうとの連絡を受けている。しかし、筆者には一抹の不安がある。T社にとってK社は他に替えの効かないパートナーだが、果たしてK社にとってはどうなのか、という問題である。

 冒頭に説明した通り、T社に対する売り上げ依存率は今では20%まで下がっている。K社のコストダウンはT社にとって売り上げの減少を意味する。どこまで協力を得られるのか、確証はない。コスト削減の成果を荷主物流会社で分け合うゲインシェアリングを導入したとしても、パートナーシップを維持していくことはそう簡単ではないだろう。

 

《特別編》事例で学ぶ現場改善:『物流現場の働き方改革─その光と影』

 世間に名だたる大手荷主や着荷主が、ドライバーに苛烈な労働を強いてきたことを、現場出身の筆者はこれまで肌身で感じてきた。長年のツケを返す時が来た。荷主はこれから納品に来たドライバーを速やかに帰さないといけない。物流企業は残業をなくし、かつドライバーの手取りを維持しなくてはならない。

 

荷主企業編─ドライバーをすぐ帰せ

 2024年問題の元になった働き方改革関連法の内容については、厚生労働省や国土交通省から詳細なガイドラインが出されており、ここであらためて説明するまでもないだろう。それが荷主に与える影響を一言にまとめれば「ドライバーに仕事を速やかに終えてもらわないといけない」ということである。その具体的な対策を以下に挙げる。

◦手積み・手降ろしをやめる

 食品メーカーN社は、商品のほとんどが容積勝ちで単価も安価なことから、トラックの積載効率を追求して、長年にわたりドライバーに手積みを強いてきた。10t増トン車1台当たりの荷物の数は2千個~3千個にも上る。小型商品では5千個近くになる。

 そのためN社の輸送は物流業界ではハードワークとして知られている。積み込みを終えたドライバーが工場近くのパーキングエリアで熱中症の状態で発見されたといった話も何度か耳にしている。地元の物流会社はそうした事情を知っているのでN社の仕事はまず受けない。

 これを改善するには、バラ積みをパレット積みに替えて、手積み・手降ろしを解消すればいい。ただし、パレットの分だけトラックの積載効率は悪化する。N社に限らず容積勝ちの荷物を扱う荷主にとって深刻な問題だ。そこで筆者としては、プラスチックパレットの高さを現在の約10cmから5cmにして、かつ必要な強度を備えた薄型パレットの開発が急務であると訴えたい。

◦車両待機時間を短縮する

 これも社名の公表は控えておくが、チェーンストアS社、大手卸P社、製造業U社の3社は物流業界では従来から“荷が下りない”会社として知られてきた。“ロング3”と陰口を叩かれるほどドライバーから敬遠されており、普通に3~4時間は待たされる。物流会社の経営者は仕方なく、手当てを厚くすることで嫌がるドライバーを対応させている。

 当然ながらロング3に納品する発荷主には割増運賃が要求されている。今後は「待機時間=割増料金」の傾向がさらに強まる。さすがにここに来て、流通業のセンターで車両待機時間の短縮を目的とした「(トラック)バース予約システム」の導入が広がっているが、発荷主からも納品先にかけあって早急に手を打つ必要がある。

◦ドライバーピッキングの廃止

 卸や小売りの物流センターでは、納品に来たドライバーに店別仕分けまでやらせることが当たり前になっている。その背景として、特に夜間から早朝にかけてのセンターの人員不足がある。ドライバーとしても「何時間も待たされるくらいなら自分で捌いて早く帰りたい」と自分から手を出すので、本来はイレギュラーであったものがレギュラー化してしまった。しかし、今後は契約通り“軒下渡し”でドライバーをすぐに帰さないといけない。センター側に新たな荷役作業が発生する。料率契約の場合には料率の見直しが必要になってくる。

◦受注締切時間の前倒し

 これまで荷主は顧客サービスのために受注時間(特に当日出荷分)を遅くまで引っ張る傾向があった。現状の受注締め切り時間は12:00~14:00に集中しているが、これから路線会社(特積み)の集荷時間の前倒しがさらに進むため、受注締切時間自体の前倒しが余儀なくされる。そうしないと当日出荷が難しくなっている。

◦受注から出荷までのリードタイム短縮

 受注締切時間の前倒しと並行して、受注から出荷までのリードタイム短縮に取り組む必要がある。そのためにまず電子受注比率を引き上げる。EOS、EDIだけでなく今やWEB受注システムが必須である。

 バッチ処理の運用も見直す。出荷便に間に合うように作業を終わらせるには、どのタイミングでバッチ処理(区切り)を設ければ現場が効率的に動けるのか、どう出荷量のかたまりを作るのか、その判断がカギになる。現状では受注処理の工程で機械的にバッチを切っているケースが多いが、筆者としては現場の人員体制や生産性を掌握しているセンター側でバッチを判断して、必要に応じて出荷データを取りに行く方法がこれから主流になっていくと見ている。そのためにシステムの改修も必要になってくるだろう。

◦自社輸送

 右のような改善策を実施しても、まだ出荷が間に合わないという場合は、“最後の手段”をとるしかないだろう。路線会社の営業所や基幹センターに自分で荷物を持ち込む。これまでも繁忙時や作業遅れの際に緊急輸送を手配して持ち込みを行う現場は珍しくなかった。それをレギュラー化する。

 例えば16:00までの出荷分を従来通り路線会社に引き渡し、それ以降の出荷分は自社車両で持ち込む体制を組む。その場合には荷主自身で車両を保有して社員が配送することも一つの選択肢となるだろう。

 

物流企業編─働き方改革は経営者改革

 一方、物流企業に必要になってくるのは、「残業なしで荷主の製・商品の納期を維持する。ただし、社員の手取りは減らないようにする」ことである。特別な投資を必要としない、中小の物流会社にも可能な具体的な対策は以下の通りである。

◦24時間稼働

 これから物流業は設備投資を必要とする装置産業としての性格が色濃くなっていく。装置産業の胆は稼働率である。物流企業も他の装置産業と同様に24時間稼働を目指すことになる。朝・昼・夜の3交代制を組んで車両や倉庫の回転率を上げる。そのために戦略的に仕事を獲得する。

 例えば、ドラッグストアの店舗納品は夜間に行われるため、これを昼間の仕事と組み合わせて車両回転率を上げる。筆者の知る年商7億円のS運輸は、タイムマーケティングに基づく荷主の獲得により、①卸売市場→②新聞・雑誌輸送→③乳製品→④和日配→⑤給食→⑥一般荷主という、車両の6回転を実現している。

◦ドライバーの副業解禁

 残業代が事実上の固定収入となっている運送会社では、残業規制によってドライバーの手取りが減ってしまう。それを補うために、ドライバーの副業を解禁すべきである。抜本的な改革を実施できる会社なのであれば、裁量労働制への移行を検討すべきだ。現場労働者ではなく、“タスク(任務遂行)型”としてドライバー職を設計する。一方で年間休日120日を段階的に達成する。そうすれば優秀な人材を獲得できるようになる。

◦中継輸送

 幹線輸送は人員を交代できる中継地を増やすことで体制を整える。通常はコストアップになるが、同業他社との共同中継センターの設置、既存のトラックターミナルの活用などでコストを抑制することはできる。

◦車両の大型化

 さらに幹線輸送においては1車両当たりの輸送量を増やす。増トン車からセミトレーラー、フルトレーラーにシフトすれば、ドライバーの収入を維持できる。ただし、大型牽引免許の取得コストが発生して、重大事故の危険性も上がる。安全管理指導および研修の徹底がセットになる。

◦原価管理

 24年問題に限ったことではないが、これを機に物流会社としての当然の企業努力として車両別のコストを可視化し、改善を進めて、損益分岐点を下げることが重要である。

◦荷主への協力要請

 右の改善策の実施を前提に、既存荷主にも改善への協力を要請する。協力が得られない場合、あるいはやれることは全てやった上でも足が出る分については値上げを要請する。

◦システム化

 配送ルートを見直す。ゼロベースで抜本的に見直すことがポイントである。そのツールとして配車管理システムを導入する。それをWMSと連携させることで、輸配送の総合的なマネジメントを実現すれば、さらに大きな効果がある。

 以上の通りである。ドライバーの残業規制は物流業界において過積載に次ぐ規模の厳しい規制になるだろう。他の業種と違って物流業に対しては特別に5年間の適用猶予期間を与えた以上、担当省庁も満を持して取り締まるはずだ。物流の働き方改革はドライバーを働かせる運送業経営者の改革でもあるのだ。

 

第215回 事例で学ぶ現場改善:『年末繁忙期の緊急支援プロジェクト』

 年末繁忙期を迎えて物量が増加、自社運営センターの出荷作業が追いつかず、売り上げに影響するようになってしまった。管理体制に問題があることは承知している。しかし、とりあえずは目の前の注文を片付ける必要がある。現場の主要メンバーと徹夜がかりで応急措置を講じることになった。

 

「当日出荷」の継続が困難に

 R社は東京に本社を置く年商約25億円の雑貨品販売会社である。神奈川に物流センター1カ所を設置して自社運営している。取扱品目は約1万2千。そのうち約80%は東南アジア各国から輸入している。販売ルートは大きく三つ。直営店での店頭販売、ネット通販、そして他の小売業への卸売販売である。

 R社のS社長は同社を創業して今年で25年目を迎える辣腕の女社長である。「今回の繁忙期で物流が販売についていけていないことを思い知った」という。これまでR社は「当日出荷」を売り出してきた。しかし、今年の年末繁忙期は物量の増加に物流センターの出荷が追いつかず、当日出荷ができなかった日が12月の前半だけで4日もあったという。

 このままではクリスマスセールや年末セールに向けて販促に力を入れきたこれまでの努力が水の泡である。われわれ日本ロジファクトリー(NLF)に緊急支援の依頼が入った。R社の売り上げ拡大と波動対応の強化に向けたプロジェクトがスタートした。

 R社の物流センターは荒れていた。建物は延床面積1100坪の平屋建ての賃借だった。われわれが現地を見学すると、隣接している駐車場にまで商品が山積みされていた。センター内に入ると、ラックに格納し切れなかった商品が通路を塞いでいる。これでは通常の出荷業務は不可能であろう。物量が増えてセンターが手狭になったことから、商品をできるだけ多く保管しようとセンター内に詰め込んだ結果として、作業生産性、作業品質が著しく低下していた。

 われわれはすぐに着手すべき事項を次の8点に絞り込んだ。本格的な改善活動に入る前の応急措置であり、あくまでプロジェクトのステップ1という位置づけである。

①通路幅の確保

②外部倉庫の賃借

③午前中入荷の促進

④コンテナ入荷作業の見直し

⑤照度の確保

⑥棚番地の設定

⑦作業グループ別責任者の設定

⑧ネステナーの増設

 まずは「①通路幅」を確保した。同センターでは、相互通行の台車ピッキングを行っていたが、通路幅が1250ミリメートルしかなかった。そのため逆方向の台車とはち合わせになった場合には、いったん通路から待避して相手が通り抜けるのを待つか、あるいは少し台車を斜めにしてお互いの台車を擦りながら通るという状態であった。

 そこで、庫内に設置された軽量ラックの約20%に当たる28本のラックを撤去して、1500ミリメートルの通路幅を確保した。その代わりに高さ1800ミリメートルの軽量ラックの天井板の上のスペースを「リザーブラック」と位置付けて補充品を置くことにした。これまで利用されていなかったスペースだった。

 「②外部倉庫の賃借」は純粋な支出増となるために、できれば避けたい施策である。しかし、現段階ではやむを得ない選択だった。物流センター内はまともに息もできないほど商品と作業スタッフでごった返していた。ただでさえ狭隘化しているのに、レギュラーの作業員25人に加えて繁忙期の応援スタッフとして5人が追加され、文字通り身動きもままならない状態であった。

 出荷頻度ABC分析などを実施できるようになるのは、まだまだ先の段階であった。ひとまず“空間”を作らなければ改善に着手することさえできない。そこでNセンター長を連れ添って、センターの四隅に置かれている在庫をチェックした。センターの四隅は一般に不動在庫が保管されていることが多いスペースだからである。

 案の定、四隅のうち二つはパレット積みされた不動在庫が陣取っていた。これを一時的に外部倉庫に逃がした。センターから車で10分ほどの工場跡地に老朽化した三角屋根の建物を見つけて、その一部を100坪だけ借り受けて不動在庫を移動した。半ば強引に“空間”を作ったのであった。

「誰でもできる化」で残業を削減

 「③午前中入荷の促進」は、そもそもセンターの時間管理ができていないことが本来の原因なのだが、同センターでは、近隣エリアからの入荷でも午後入荷を容認していた。これが出荷作業と重なり、現場が混乱する一因となっていた。

 全体の物量の約20%に当たる国内調達分については、購買部経由で調達先に午前中納品を依頼するメールを送った。しかし、すぐに反応できたのはおよそ半分であった。それでは混雑解消とはならないため、次に“本丸”とも言える「④コンテナ入荷作業の見直し」を行った。海上コンテナの入荷は週に4本ある。いずれも午前中に到着するが、荷下ろしに2時間半以上かかっていた。

 これについてはS社長に訴え、約30万円のドックレベラー(コンテナの荷台と搬入口の高低差・隙間を解消する装置)を購入してもらった。その結果、作業時間は1時間30分を切るようになったが、それでも作業負担は小さくはない。そこでコンテナの荷下ろし作業には社員ではなく、派遣社員を投入することにした。現在、派遣会社と調整中である。

 「⑤照度の確保」のため電気工事を行った。一般に庫内作業には250LUX~300LUXの照度が必要である。しかし、同センターは天井に水銀燈が備え付けられている古いタイプの建物で庫内が常に暗かった。そこで軽量ラックを支柱として使って高さ2500ミリメートルの位置に拡散性のある蛍光灯(パナソニック製「Wエコ」)を設置した。身影ができないように蛍光灯が通路幅の中央部の真上に来るよう配慮した。

 これによって全エリア平均280LUXの明るい現場が出来上がった。作業スピード=生産性の向上や、見間違い・見落とし・ピッキングミスなどの抑制による作業品質の改善につながる環境が一つ整ったことになる。

 「⑥棚番地の設定」は、これまで本連載で再三お伝えしている事項であるが、初心者・外国人労働者・高齢者が、2日目で一人前のスタッフの約50%の仕事ができる「誰もが分かる現場づくり」が急務であった。

 同センターは完全に「人に仕事がついている」状態であった。繁忙期対策として本社から応援が送り込まれているのだが、どこに何があるのか分からない。他のスタッフに保管ロケーションをいちいち教えてもらわないといけないため、かえって現有スタッフの手が止まってしまうという悪循環を招いていた。

 そこで現場の主要メンバー3人と徹夜で棚のゾーニングと棚番号を作成した。これは応援スタッフだけでなく、現有スタッフからも「分かりやすくなった」と好評であった。また一気に作業スピードが上がり、総勢30名(社員12名:パート18名)の残業時間を1人当たり65分短縮することができた。

 

5人の班長が業務を分担

 「⑦作業グループ別責任者の設定」では、センター長が個々の現場に直接指示を出す運営体制を改め、庫内業務を⑴入荷、⑵格納、⑶ピッキング、⑷検品、⑸梱包・出荷の五つの工程に分けて、それぞれ班長を置く分担制を採用した。

 さらにセンター長には自身で作業したりフォークリフトを運転したりすることを禁じて、作業時間内を通してセンター全体を監督するように指導した。センター長は5人の班長に指示を出す。朝礼・昼礼は班長が班単位で行い、そこで重要事項を全員に伝達する。手が空いた工程はそれぞれ後工程に応援に入る、という運用である。

 最後の「⑧ネステナーの増設」は、軽量ラックを撤去して保管効率が低下した分をフォローする形でネステナーをレンタルした。輸入品のオーバーストックや滞留商品などを中心に外部倉庫に逃がしたこともあり、これで当面のスペースの問題をクリアできた。

 現時点で年末繁忙期のピークは過ぎつつあり、現場の混乱はようやく落ち着いてきた。短期決戦の改善には労を費やすことになったが、これまでのわれわれのコンサルティング経験を生かすことができたと感じている。

 年明けの1月はスタッフたちに十分に休みを取ってもらい、2月から「ステップ2」に入る計画だ。応急措置から抜本的改善へ移行する。少なくとも次の事項に着手することになるだろう。

①出荷頻度ABC分析に基づくロケーション、レイアウトの作成

②発注点、適正在庫の算出・設定による在庫の圧縮

③外部倉庫分の内製化(戻し入れ)

④20フィートと混載コンテナの活用

⑤レイバーコントロールの実践

 S社長も長期戦を覚悟している。出荷できなければ商売が成り立たない、とあらためて物流の重要性を認識したようである。アマゾンが台頭する今、経営者が物流を軽視したらマーケットからの撤退をも余儀なくされるであろうことを痛感した様子である。

 

第214回 事例で学ぶ現場改善:『物流会社K社の年商100億化計画』

 物流会社の2代目社長が現在30億円の売り上げを5年後に100億円まで伸ばすという経営目標を掲げている。現状の事業だけでは達成は難しい。そこで物流不動産事業と主要荷主の商品を販売する物販事業に新たに進出、将来の3代目を継ぐことになる社長の長男をそこに投入した。筆者も深く関わることになった

 

「物・工・人」の一体サービス

 K社は年商30億円の物流会社である。本社を東京23区内に置き、埼玉を中心とした関東一円に5カ所の営業所と3カ所の物流センターを配置している。筆者とK社との付き合いはもう10年以上になる。中間管理職向けの研修を実施したり、荷主を紹介したり、K社の2代目のM社長の求めに応じて、これまで断続的にコンサルティング対応を行ってきた。

 K社はハウスビルダーと呼ばれる中堅の建設メーカーを主な荷主として、「『物・工・人』一体サービス」と呼ぶユニークな付加価値サービスを展開している。このうち「物」は文字通りの物流サービス、「工」は住宅建築の上棟対応サービス、そして「人」は人材紹介サービスである。

 その内容を少し説明すると、物流サービスは平ボディー車、ユニック車を中心とした車両約70台を運用して、建築資材の納品配送・調達物流・工場間輸送などを行っている。さらに3カ所の物流センターで資材・部材の保管と邸別仕分け、そして建築材料を納品前に切断するプレカットや金具付けなどの流通加工などを行っている。

 「工」は資材納品配送のドライバーが、納品後に“大工”となって、納品した部材を使って現場で「建て方」(上棟作業)を行うサービスである。K社の荷主にはローコストが売り物の中堅ハウスビルダーが多く、このサービスは強い支持を得ている。

 そして「人」はミャンマーを舞台にしている。10年ほど前に民主化が始まったばかりのミャンマーに目をつけ、現地の要人たちとの人脈づくりに成功、日本企業としては早い時期に進出した。現地に教育・訓練施設を設立して自前で運営。研修が修了した人材を日本に送り込んでいる。

 この「人」事業については三つの展開がある。一つはK社の「工」サービスをサポートする現場スタッフとしての活用、二つ目がK社の事務社員としての活用、そして三つ目が日本企業への紹介である。これまで約50社に約300人を送り込んでいる。

 われわれがK社にM社長を訪ねると、出迎えてくれるのは必ずミャンマー人のスタッフである。いずれも流暢な日本語で対応してくれる。M社長の秘書もまたミャンマー人である。さらにM社長から紹介されたある部署では、責任者一人だけが日本人で他のスタッフは全てミャンマー人で運営していた。

 アジアの最貧国とされるミャンマーの労働者にとって、日本で働くことは相当に魅力的であり、最長5年に定められている就労滞在は大きなチャンスのようである。しかし、周知の通り、ミャンマーは現在、コロナ禍と国軍によるクーデターで大きく混乱している。日本に労働者を送り込めるような状態ではないため、新たにバングラデシュで人材育成機能の整備を急いでいる。

 M社長は、K社を100億円企業にするという経営目標に掲げている。右の三つの事業はいずれも軌道に乗ってはいるが、それだけでは100億円は達成できないと見ており、さらに二つの事業に着手していた。物流不動産事業と荷主商品の販売事業である。

 一般に荷主の業種を特定せず、幅広い業務を請け負う物流会社は、売り上げの数字は作りやすいものの同業他社との競争が激しく、薄利か場合によっては赤字になる傾向がある。一方、専門特化型の物流会社は差別化が図りやすく、高い利益率を維持できる。しかし、マーケットを絞るため、売り上げを増やすには商圏を広げなくてはならず、成長に時間を要する場合が多い。

 住宅に特化しているK社は後者にあたるであろう。それでもM社長は売上高を経営の目標に掲げている。そのため従来型の物流サービス以外に手を広げていくという展開は筆者にも理解できた。

 このうち物流不動産事業については、⑴既存荷主に対する物流センター・倉庫の提供、⑵物流不動産を得意とするX社との業務提携、⑶他社の手が付いてない新鮮な土地を開拓してK社は“仲介”役に徹する、という方針に基づき事業の拡大を目論んでいる。

 また荷主商品の販売は、具体的には建材商品を対象としており、M社長の実弟が統括している。そこに将来はK社の3代目になるであろうM社長の長男も投入している。

 この起用法にはM社長の親心も垣間見えた。一つは異業種2社の勤務経験がある長男を「物」に配属させても続かないのではないかという懸念である。また、将来の会社の承継において、実弟と長男が衝突することを避ける狙いもあるものと思える。

 

成長を目指す企業の人材育成

 二つの新規事業はいずれも立ち上げ期を経て、安定軌道化する手前の時期にある。M社長としては必要な人材の確保を含め、これまでよりもワンランク上の経営哲学を打ち立て、組織をまとめ引っ張っていく必要があった。

 そこでM社長は「物流建材商社」というコンセプトを打ち出し、5年後に年商100億、営業利益率10%を目指すと社内で発表した。100億円達成時の売り上げの内訳は50%が物流不動産事業を含めた「販売」、30%が「物」、10%がそれぞれ「工」と「人」である。売り上げは「販売」で作り、利益は「人」で生み出そうという算段である。

 このような背景から、K社の「100億化プロジェクト」がキックオフされた。われわれ日本ロジファクトリー(NLF)にその支援が依頼された。具体的には大きく以下4点がわれわれに託された。

①優秀な人材の確保

②人材教育研修

③物流センター・倉庫立地情報の提供

④その他、100億達成に向けた総合的なアド バイス

 このうち「①優秀な人材の確保」については、⑴センター管理ができる経験者と、⑵事業部門を任せられる管理職を求めていた。物流業大手のT社の出身者には優秀な人材が多いことから、特にそのルートからの確保に注力してほしいとの具体的な要望があった。

 「②人材教育研修」では、若手を集中して育成してほしいということであった。その対象となる社員が3代目候補の長男の他に、M社長の頭の中に既に5人いた。さらに、われわれが人選した結果、計12人が対象に選ばれた。

 教育カリキュラムは、NLFがスクール事業として展開している「物流実務カレッジ」で最も卒業生が多い「物流センター長強化育成プログラム」をベースに、K社向けに内容をカスタマイズしている。

 「③物流センター・倉庫立地情報の提供」では、荷主と土地の両面から情報を収集することになり、物流不動産のプロであるX社がK社のサポートおよび後ろ盾として加わることになった。

 そして最後の「④その他、100億達成に向けた総合的なアドバイス」は、筆者が定期的にM社長と面会して都度対応している。明確な目標を掲げて前向きに将来を語る、まだやんちゃさも残しているM社長との面会は、筆者にとっても純粋に楽しい時間である。

 

第207回 事例で学ぶ現場改善:『食品メーカーA社の買収後物流統合』

温度管理を必要とする菓子類を扱い、同業メーカーの買収に乗り出している。現在は2社目のM&A案件を進めており、その先にも次の買収を計画している。コンサルタントに対する要望は、M&A後に実施する物流統合の効果を事前に分析することであった。しかし、概要を聞いた時点で既にいくつかの懸念があった。

 

統合効果を事前に評価

 食品メーカーA社は東海地区に本社と生産基地および物流拠点を置いている。年商は約45億円。主力の洋菓子に加え、デザート類、スイーツ全般へと取り扱い品目を年々拡大して業績を伸ばしている。

 ある金融機関の紹介で、われわれ日本ロジファクトリー(NLF)はA社のお手伝いをすることになった。A社が買収したB社、現状では買収の途上にあるC社の3社の物流を統合した場合、どれだけの効率化が図れるのかを診断してほしいとのことだった。いわゆる「デューデリジェンス」である。

 M&A後の統合(PMI:Post Merger Integration)における3大テーマとされるのが、(1)基幹システム、(2)人事考課制度、そして(3)物流である。その成否はM&Aの成否を決めるほどの重要性を持っている。依頼の意図は理解できた。

 さて、買収済のB社は同じ東海地区に本社と生産拠点を置いている。年商は約10億円。取扱品は洋菓子と和菓子であった。そして買収途中のC社は関東に拠点を置き、年商は約3億円。取り扱い品は洋菓子中心であった。

 3社はいずれも自社店舗を展開する一方で業務用販売も行い、卸を介さずに直接納品している。EC比率が年々上昇していることも共通していた。また生産拠点から自社店舗および近隣の納品先には基本的に自社車両・自社社員で配送している。

 プロジェクトを正式に開始する前の段階でも、いくつかの懸念事項が見え隠れしていた。大きくは三つ。3社の物量を合わせてもボリュームが不足しているのではないか。二つ目として、3社の温度管理帯は統一できるのか。そして三つ目として、買収前のC社から必要な情報を収集できるのかという点であった。

 その懸念をA社および金融機関の担当者に率直に伝えた上で、以下の切り口から効率化の可能性を探ることになった。

①3社のうち物量の多い企業をベースカーゴとした共同配送による配送コスト削減の可能性

②エリア共同配送によるコストダウンの可能性

③着地点分析に基づく物流センターの最適立地の抽出

④ボリュームディスカウントによるB2C(EC)向け宅配運賃削減の可能性

⑤資材の共同購入の可能性

⑥3社以外の荷主企業の共同化参画による効率化の可能性

 「①3社のうち物量の多い企業をベースカーゴとした共同配送による配送コスト削減の可能性」については当初の懸念通り、3社を合わせれば多少のコストダウンは図れるであろうが、3社の売上高を合計して少なくとも現状の約2倍、100億円程度の規模がないと、プロジェクトを発足させるだけの意味があるほどの効果は得られないことが判明した。

 そこでA社、B社の納品先が多い東海エリアに強い冷蔵・冷凍物流会社をリストアップした。物流会社の荷物をベースカーゴに利用しようという考えである。候補企業が三つ見つかった。そのうち1社はわれわれ(NLF)が過去にコンサルティングを実施した経験の会社であった。同社は大手食品メーカーY社の業務を担っており、Y社のCVS向けのデザートをベースカーゴとした共同幹線輸送を既に行っていた。これら候補企業3社にA社側の物流データを提示して配送ルート別の共同配送の実現性を検証した。

 「②エリア共同配送によるコストダウンの可能性」としては、関東圏中心のC社を除いて、東海地区のA社、B社の2社を対象に自社配送ルートの共同化を検討した。ロードサイド単独店と商業施設内テナント店舗向けのルートには効率化の余地があった。

 また、当初の懸念の一つだった「温度管理帯は統一できるのか」という点も当面は「冷蔵」を中心に共同化して、常温品は冷え過ぎないようオリコンの中に入れることで味覚の変化を防ぐという想定だった。

 ただし、やはり物量が足りない。A社、B社以外に外部の荷主を加えたいところだが、他社のカーゴを扱うことは営業行為に当たるため、実施するには“緑ナンバー(実運送事業者の許可)”を取得しなければならない。一方で丸ごと物流会社に委託すれば、自社配送よりもむしろコストアップになる恐れがあった。

 

ボリュームが足りない

 「③着地点分析に基づく物流センターの最適立地の抽出」は拠点集約によるコスト削減の余地を探ることが目的だが、分析の結果として完成した納品分布図は“物流泣かせ”であった。ECによる個人ユーザーを除いた納品先が全国に少量分布している。

 自社配送できない納品先については当然ながら3社とも外部委託している。百貨店納品については、東・名・阪は百貨店食品納品代行会社、地方は冷蔵対応の路線会社(特積会社)を使っていた。

 また成長著しいA社の自社店舗の出店計画とその精度も物流拠点の最適立地を左右する大きな要因となる。聞けばA社はC社の後にも買収を検討しているという。首都圏需要がそのターゲットであった。

 それらを踏まえて検討した結果、拠点を2カ所に分散するのが得策という結論に至った。一つはA社のお膝元の東海地区、もうひとつは北関東地区である。東海地区はA社の既存拠点にB社が相乗りする。その結果、キャパオーバーとなってしまうため、既存施設に隣接して500坪1層の冷蔵倉庫を増設する。

 一方の北関東は首都圏向けの拡大が狙いである。A社、B社、C社が共同で新工場を建設してそれに物流拠点を併設させるというプランである。この2拠点体制を2025年までの“最適解”と位置付けた。

 「④ボリュームディスカウントによるB2C(EC)向け宅配運賃削減の可能性」も、はたまたボリュームがネックであった。そもそも宅配大手3社は現在、コロナ禍の巣ごもり需要への対応が精一杯という状況である。現在の物量ではまともに相手にしてもらえないだろう。ここでも冷蔵・冷凍物流会社のベースカーゴが必要であった。現在、冷蔵宅配会社との取引が多い地元の有力物流会社と話し合いを行っている。

 「⑤資材の共同購入の可能性」に関しては物流資材にとどまらず、共同購買の対象を生産原料や、販売、販促、営業の副資材まで広げることで大きな効果を期待できることが判明した。C社の買収を待たずに先行実施して既に年間換算で数千万円規模のコストダウン効果を得られている。

 「⑥3社以外の荷主企業の共同化参画による効率化の可能性」として、物流会社のベースカーゴに頼らない荷主企業同士による効率化も一方でまだ模索している。実際、大手食品メーカーとデザートメーカーの共同配送、ねりものメーカーと和日配メーカー、洋日配メーカー同士の共同配送など、食品分野に限っても先行事例は多々存在する。

 そのためにA社、B社と取り扱い品目が類似する荷主企業を物色している。金融機関にも協力を求め、われわれNLFが設定したターゲットに基づいて対象企業、いわば“D社”を探してもらっている。荷主同社の物流統合がきっかけでM&Aに発展することはしばしばある。次のM&Aを狙うA社にとっては願ったり叶ったりである。

 今回のプロジェクトは、ボリュームという点からして統合効果を期待するのが時期尚早であることは否めないだろう。それでも事業を強くするために先にロジスティクスを固めるというA社の発想は間違っていない。日本にも欧米型の思考をする経営者が増えてきているということであろう。

 

第206回 事例で学ぶ現場改善:『電設資材卸L社の商物分離プロジェクト』

小規模な事業所にそれぞれ在庫を置き、社員がトラックを運転して顧客に納品している。事業所に在庫を引き取りにくる顧客もいる。その商物分離が今回のテーマだ。経営幹部たちは変化を好まない。そこで四代目社長は若手を中心にプロジェクトチームを組織して改革に乗り出した。

 

80カ所に在庫を分散して自社配送

L社は年商約500億円の電設資材卸である。取り扱いアイテムは在庫品だけでも8千を超える。東海地区を中心に小規模な事業所(営業所)を約80カ所展開して、売れ筋の約1800アイテムについては事業所にそれぞれ在庫を持ち、社員が車両を運転して顧客に納品している。

L社の生き残りのカギは、即納体制と欠品のゼロ化であった。それには他の多くの中間流通事業者と同様に商物分離が有効であった。しかし、L社はこれまでずっと商物一体を続けてきた。変化を好まない社風に加え、次のようなハードルがあったためである。

・   定時定点納品だけでなく現場納品がある。

・   電気工事の職人が現場に向かう途中に事業所に在庫を引き取りにくることがある。

・   昔ながらの〝御用聞き〟営業が今も主流である。

L社の若き四代目のT社長は、孤軍奮闘を覚悟の上で商物分離に乗り出すことにした。しかし、プロジェクトチームを組織するどころか、社内に協力者を得ることさえ難しいと判断して、われわれ日本ロジファクトリー(NLF)にサポートを依頼したのであった。

L社は愛知県小牧市に商品センターを1カ所置いている。取り扱いアイテムの仕入れ相場が下がった時に大量購入して在庫を積み上げておくことを主な目的とした保管施設である。一方、小規模分散型で展開している事業所は、所長1名、営業2~3名、内勤1名、配送1~2名、新人(配送)1名といった陣容である。

ちなみにL社では営業として入社した新入社員にはまず配送業務を経験させることを習わしとしていた。しかし、筆者が「それでは定着率が悪いのでは?」とT社長に聞くと「そうなんです」とのこと。

新入社員に自社商品を覚えさせたいのであれば、配送業務ではなく、物流センター業務あるいは商品部を経験させるべきだろう。新入社員にハンドルを握らせるというのは半世紀前のキャリアパスであり、もはや陳腐化していると考えた方がいい。

さて、L社の各事業所には在庫補充のための商品センターからの「センター便」が1日2回ある。事業者から前日に出荷指示があった在庫を翌日の午前中に届ける。当日午前中までの指示分は当日の2便で事業所に届ける体制である。

事業所は土地・建物を自社所有している施設もあるが、数としては賃借が多い。卸の商物分離では事業所が自社物件だと、物流センターに在庫と配送機能を集約するのは良くても、事業所の空いたスペースを有効活用できず、取り組み自体が暗礁に乗り上げてしまうことがしばしばある。L社の場合、その心配はなさそうであった。

T社長との打合せは数日にわたって行われた。対象拠点の決め方、、どれだけの時間をかけて在庫の集約を進めていくべきか、ソフトランディングのためのスケジューリングとその手順など、詳細なレベルまで確認して綿密に計画を組み立てる必要があった。

商品センターや事業所の現場視察や担当者へのヒアリングも済ませた上で、われわれはL社の現状を受けて、次のような実施事項をT社長に提案した。

①既存商品センターを生かした2拠点体制への移行

②効率的配送ルートの構築

③横持ち輸送のゼロ化

④調達物流の内製化

⑤商物分離に伴う営業活動の生産性向上

⑥事業所におけるイレギュラー業務の解消

⑦物流専門部署の発足

「①既存商品センターを生かした2拠点体制への移行」とは、2カ所のマザーセンターと15カ所のデポに在庫を集約して商圏をカバーするという内容である。この構想にはT社長も大きく頷いた。

 

二つの基幹拠点とデポ15カ所に再編

商物分離を行うに当たり、既存の小牧商品センターから出荷すると、東東海エリアの顧客に対して当日配送のリードタイム順守が難しくなることが分かった。そこで小牧とは別に豊橋エリアにも延床2千坪の商品センターを設置することにした。

さらに事業所在庫の全てを二つのセンターに集約するのではなく、一部の事業所にデポ機能を持たせることで、顧客の“引き取り”に対応することにした。全事業所の約2割に当たる15の事業所に、メーカーからの直送品を含む、約250アイテムを在庫している。

配送機能をこれらの拠点に集約することにより、「②効率的配送ルートの構築」が実現した。従来は80の事業所で合計195台の車両を使用していた。それを2t平ボディ、箱車、4t平ボディ、合わせて90台に半減することができた。“事業所最適”の配送ルートを改め商圏全体で最適化した結果である。1日当たり走行距離と総労働時間を考慮したルート組みは、各事業所で発生していたドライバーの手待ち時間を解消することにもつながった。

「③横持ち輸送のゼロ化」も実現した。前述の通り従来は80カ所の事業所でそれぞれ約1800アイテムを在庫していたが、特需の発生や発注点設定と実需とのズレから、近隣の事業所間で在庫の貸し借りが横行していた。これがセンターへの在庫集約により解消された。

また、現状は100%自社配送だが、現場納品ではない遠方の納品先や、配送リードタイムが長いエリアなどは、段階的に外部委託に切り換えていくことも想定している。ただし、現在のトレンドとしては、物流会社が募集するよりも荷主の自社配送スタッフの方がドライバーを採用しやすいことから、外部委託から自社配送へ転嫁する企業もあるため、慎重に検討している。

「④調達物流の内製化」は、短・中・長期計画のうち「長期」に位置付けて、センターからの供給が安定してから取り組むことにした。仕入先まで引き取りにいくことで調達コストを抑制するだけでなく、集中購買も徹底する考えだ。調達もまた商物の両面から強化する。

 

イレギュラー対応拠点を絞り込む

「⑤商物分離に伴う営業活動の生産性向上」は、通常であれば社内の抵抗が大きく、経営層の強力なリーダーシップを必要とするテーマである。しかし、L社では大きな弊害はなかった。当社の打ち合わせでは「昔ながらの“御用聞き”営業が今も主流」と聞いていたが実際には、各事業所では既に営業と配送の担当を事実上分離していたからである。

そのため営業マンは大きな職務内容の変更を強いられることなく、従来のスタイルを継続することができた。このことは今回のプロジェクトの成功要因の一つであったと言えるだろう。

その一方で「⑥事業所におけるイレギュラー業務の解消」は、同プロジェクトを推進する上で最も大きな課題であった。本来はイレギュラー業務であるのに、それが当たり前になってしまった業務はどの現場にも少なからず存在する。そこにメスを入れると営業マンは顧客に対するサービスが低下したと受けとめ、「商物分離は失敗だ」と批判することになる。

そのため、イレギュラー業務の洗い出しには慎重を期した。最大の問題は、受注締め時間を過ぎてからの納品時間の変更、商品アイテムや数量の変更などへの対応だった。これらを切り捨ててしまうことは営業上できないとの判断を受け、イレギュラー業務を集中して処理する拠点を絞り込んで「イレギュラーセンター」と位置付け、小牧商品センター内にその本部を設置した。

T社長は物流専門組織として当初、配送部門の新設を考えていた。しかし、今回のプロジェクトの対象範囲は配送だけではなく、物流センター業務、在庫管理、長期的には調達物流の内製化にまで及ぶことになるため、配送部門よりも管理レベルを引き上げた「⑦物流専門部署の発足」をわれわれNLFから提案した。T社長の了承を得て現在、人選を行っている。

今回のプロジェクトには大きな障壁が二つあった。一つはデポ在庫の適正在庫量と発注点の設定である。できる限り欠品をゼロに近づけるという要請をクリアするために幾度となく見直しを迫られた。

もう一つは、プロジェクトメンバーの確保である。当初から予想されていたことだが、幹部クラスは大半が変化を好まない現状維持派であった。そこで別の目的で発足していた新商品・新事業検討プロジェクトの若手メンバーに、そのまま商物分離プロジェクトメンバーを兼務させるという力技を使ったのであった。

徐々にではあるが、商物分離の必要性は社内で共有されるようになってきている。幹部クラスとも商物分離について話し合いができる環境が整いつつあることは大きな前進である。

 

第205回 事例で学ぶ現場改善:『化学品メーカーM社の物流管理見直し』

営業の管轄下にある販売管理部門で物流業務を担当している。スタッフは日々のオペレーションに追われて戦略的な管理ができないでいる。物流の専門知識を持った人材も社内にはいない。物流コンサルタントの指導を受けて物流管理の立て直しを図ることにした。多岐にわたる課題が抽出された。

 

若手の物流責任者を前面に

M社は年商約800億円の中堅化学品メーカーだ。本社と工場を関西に置いて、食品添加物や肥料、飼料など約1800アイテムを取り扱っている。在庫拠点は本社工場の近隣に5カ所ある。ただし、社員が駐在しているのは、うち3カ所だけ。物流管理の専門部署はなく、販売管理部門で受注処理から配車、積み込み、納品までのフローと、在庫管理、運賃管理、容器の回収までをカバーしている。

今回の物流コンサルティングの窓口を務めてくれたのは総務部のT部長であった。しかし、T部長は、われわれ日本ロジファクトリー(NLF)との受け答えを、実質的に物流責任者を務めている販売管理部門のS課長が前面に出るように常に促していた。S課長に当事者意識を持たせたいという狙いのようだが、若手を育成しようというM社の経営方針も垣間見えるように感じた。

そのS課長の説明を整理すると、物流の現状に対するM社の問題意識は大きく次の二つであった。一つは、物流担当スタッフがトラブル処理などの業務に日々追われていて、物流戦略の立案などの重要性の高い仕事に着手できないでいること。そしてもうひとつが物流ノウハウを持つ人材の不足、というより不在である。

それでも今のところ幸いにして、物流品質面では深刻な影響が出ていないということであった。しかも、M社は社員平均年齢が30歳台と若い。人材育成という点では良い条件であった。これを受けてわれわれは、通常通り現場の視察と関係者へのヒアリングなどの診断を行い、次の10項目を検証することとなった。

①現場作業の六つの「ない」

②事務作業の六つの「ない」

③庫内スタッフの役割分担明確化と多能工化の推進

④イレギュラー業務の削減

⑤外部倉庫の集約

⑥物流管理業務の明確化

⑦KPI管理の導入

⑧人時生産性(MH)の算出

⑨納品カルテのメンテナンス

⑩協力物流会社の管理方法の見直し

第1ステップでこれらを実施することにより、まずは現場業務を改善して作業生産性を向上する。そして次のステップでは、本丸の物流管理を推進していくという二段構えでプロジェクトを進めていくことになった。

①現場作業の六つの「ない」とは、「持たせない/書かせない/歩かせない/待たせない/考えさせない/探させない」現場作業を実践することによって作業生産性を向上する取り組みである。現状の庫内作業には、移動距離が長い、積み換えが多く製品へのタッチ回数が多い、限られたスタッフのみが全ての保管場所を把握しているといった課題があった。

その改善は、ロケーション番号の対象を庫内の全エリアに拡大して、誰でもはっきりと視認できるように表示方法を改めることが第一歩であった。従来は庫内の一部にしかロケーション番号が振られておらず、表示も見にくかった。

同様に次の②事務作業の六つの「ない」とは、「立たせない/入力させない/書かせない/探させない/(作業を)私物化させない/チェックさせない」物流事務の実践による作業生産性の向上である。

M社の物流事務は煩雑であり、システム化が遅れていた。電子受注比率(WEB、EOS、EDIなど)は件数ベースで約40%にとどまっていた。まずは残りの60%のファクス受注を電子化することが急務であった。中小零細の顧客が多くを占めるその企業リストをプロジェクトチームで検討して電子受注比率を85%まで引き上げるという目標を掲げた。

顧客をWEB発注に誘導するために、インセンティブ(値引き)を設定した。それを顧客に提案・交渉する啓蒙活動が必要だ。果たして営業部隊はどれだけ本気でアクションを起こしてくれるだろうか。これから取りかかるところであり、予断は許さない。

③庫内スタッフの役割分担明確化と多能工化の推進は、当面の最大のネックともいえた。M社の庫内オペレーションは、完全に業務が人に付いており、各人の業務がブラックボックス化していた。その中心にいるのが、物流責任者であり、今回のプロジェクトのキーマンであるS課長であった。他のメンバーでも対応できる業務まで自分で抱え込み、周囲が手伝うこともできない状態であった。

 

営業系物流管理組織の弊害

一般論ではあるが、物流専門部署を組織していない企業における物流組織は、メーカーであれば生産管理部門、卸であれば購買部門に担当させるのが得策である。両業態とも営業部門に物流をぶら下げると、顧客や営業からのわがままなオーダーを受け入れてしまう傾向がある。その結果、物流コストが高止まりする。M社では営業が管轄する販売管理部門で物流業務を担当していたためそれが顕著であった。まずは④イレギュラー業務の削減が必要であった。

⑤外部倉庫の集約は、在庫削減の代表的手法であり、倉庫費用の圧縮と同時に横持ち輸送を解消するものである。前述の通りM社は外部倉庫を5カ所も借りていた。場当たり的に継ぎ足しを繰り返した結果である。いずれも本社・工場の近隣だとはいっても分散によるムダが多いことは明らかだった。プロジェクトメンバーも皆、同じ認識であった。

そこで次のステップで取り組みを進めた。⑴営業の需要予測の見直しによる生産点の抜本的見直し、⑵滞留在庫、死蔵在庫の定義付け、⑶滞留在庫、死蔵在庫の保管コスト(品目別1日当たり保管コスト×在庫日数)の算出および連絡会議での開示、⑷分散在庫の集約──である。

⑥物流管理業務の明確化は、物流管理能力の向上が目的である。メーカーが物流管理として本来行うべき業務内容(表)を明確にすることで、S課長をはじめとする物流担当者が、それまでの「できる範囲の管理」から脱して、物流管理の「あるべき姿」にコミットするように取り組みを進めている。

⑦KPI管理の導入は、物流を可視化して現状に対する認識を共有する手段である。従来は部署間のコミュニケーションが「数値」でなく「ことば」であったために明確な伝達が果たされず、聞き手側は勝手な想像の基に判断を下していた。そのことが業務の煩雑さに拍車を掛けていた。まずは煩雑さを解消して問題点を絞り込んだ上で、適切な作業生産性指標をKPIとして設定する計画だ。

⑧人時生産性(MH)の算出もその一つである。現状では売上高にして約800億円、1800アイテムの物流を正社員15人で管理している。現場業務の一部は外部委託しているとはいえ、S課長をはじめとする社員が土日祝日に出勤して現場作業に当たることもしばしばあった。パソコンやプリンターなどの基本的な設備にも不足が見られた。

そこで先の「③庫内スタッフの役割分担明確化と多能工化の推進」と併せて運営体制に本格的なメスを入れることになった。それぞれの役割分担の再定義と、システム化の推進を前提に、作業の改善に続いて適正人員の算出に進む予定である。

 

協力物流会社との関係を見直す

各納品先の納品条件や注意点を整理した「⑨納品カルテ」のメンテナンスも必要であった。M社は協力物流会社は30社以上に上る。そのほとんどが15年以上の長い付き合いであった。M社自身でも「納品条件表」は作成しているが、実態や詳細は協力物流会社側に握られている状態であった。

拠点の集約には、協力物流会社各社の担当エリアや配送ルートの見直しが伴う。従来の納品条件表の情報だけではとても改善という変化は起こせない。拠点集約後の輸送品質を安定させるには、納品条件表のフォームを見直し、定期的に内容がメンテナンスされる仕組みを構築しなければならない。

⑩協力物流会社の管理方法の見直しも重要であった。M社では従来から輸送トラブルの記録を管理して、協力物流会社を点数制で評価する「物流事業者評価表」を運営していた。しかし、事故が発生した時の連絡手順は曖昧であり、筆者から見れば物流会社管理はほとんど手付かずのレベルであった。

実際、輸送トラブルが発生して物流会社より先に顧客から直接M社にクレームが入る場合がかなりあり、商品事故や輸送事故の数も増える傾向にあった。事故発生時の処理フローを作成して、定期的に安全輸送会議を開催することにした。中期的には輸送協力会の発足を念頭に置いている。

協力物流会社の顔触れを調べると、M社向けの売上比率が高い中小零細が多く、共同配送も実現できていない。既存の協力会社の強化だけでなく、NLFのネットワークからも新たなパートナー候補をリストアップして全体の底上げを図ることになった。

こうして12カ月にわたるプロジェクト設定期間の中盤を迎えようとしている。繰り返しになるがM社の物流はその売り上げ規模を考えるとあまりに属人化していた。当初の実施計画には挙がっていなかった物流専門部署の発足を前倒しで実施する必要があるかもしれない。

 

《特別編》事例で学ぶ現場改善:『ヒト・モノ・カネ・情報・ノウハウの共同化』

物流の共同化には情報漏洩のリスクがある。ライバル企業との競争意識から営業部門が反発することもある。それでもトータルで見ればデメリットより、コストダウンや機能補完などのメリットの方がはるかに大きい。そう筆者は認識している。今回は「ヒト」「モノ」「カネ」「情報」「ノウハウ」の視点から、それぞれ共同化の考え方とポイントをお伝えする。

 

◦ヒト──多能工化が前提

「ヒトの共同化」と言われても何のことか、ピンと来ない読者は多いかもしれない。しかし、労働力は今も最大の物流リソースだ。人件費はトータル物流コストの半分以上を占める最大の費用項目だ。しかも、ヒトの共同化は他のリソースと比べて比較的着手しやすい。社内、親会社と物流子会社などのグループ内、あるいは荷主と物流パートナー間などの“身内”で調整できるからだ。ただし、多能工化、マルチプレイヤーの育成がその前提となることに留意が必要だ。

 

◦モノ──サービスを組み立てる

「モノの共同化」には大きく「倉庫」と「輸配送」の二つがある。専用倉庫から汎用倉庫への移行は最もシンプルな共同化である。倉庫を提供する側はマルチテナント型にすることで売り上げをリスクヘッジできる。一方、借りる側は費用を流動化できる。ただし、汎用倉庫は階層やエレベーター・自動搬送機の使用制限などによって使い勝手や作業生産性などが大きく違ってくる。賃料とのバランスを念頭に置いて物件をよく精査することが不可欠だ。

一方、「輸配送」はさらに「輸送(一次輸送)」と「配送(二次輸送)」に分けられる。輸送の共同化としては、路線便=特積みによる混載サービスが従来から普及している。共同物流の一形態といえる。一方、配送の共同化は宅配便の他に、文字通りの共同配送サービスが広く行われている。

共同配送サービスは大きく、①複数荷主の商品を同一の納品先に届ける「ベンダー型共配」と、②複数荷主の商品を同一のエリア(配送ルート)の複数の納品先に届ける「エリア型共配」の二つに分けられる。

また昨今はトヨタ自動車や三菱食品、コープこうべなどの大手企業を中心に、自社配送ルートの戻りを利用して仕入先を集荷に回り、商品を調達する動きが活発になっている。調達物流をミルクラン輸送によって内製化するわけである。これも仕入先がそれぞれ仕立てていた納品を共同化する共同物流の一つといえるだろう(図1)。

物流会社の視点で共同配送を成立させるポイントを挙げると以下の通りである。

・  荷主4~5社を集めて車両1台を仕立てるのではなく、1社で積載率70~80%の物量がある荷主をベースにして、その使用車両に少量荷主を積み合わせる。

・  荷主の営業担当と共に納品先を回って納品時間の調整を行う。

・  同じく荷主の営業と共に納品先を回り、立ち合い、置き配、鍵預かり納品などの納品方法の調整を行う。

・  少なくとも半年に1回以上のスパンで定期的に配送ルートを抜本的に見直す。物量や出荷傾向の変化に対応するためである。

・  納品先別に納品方法や注意事項を明記した「納品カルテ」を作成してその情報を常に更新する。スポットで傭車したドライバーでも納品できるようにするためである。

 

◦カネ──誰が何を所有するか

「カネ」の共同化として、「①倉庫」「②購買」「③成功報酬」にそれぞれ触れておく。

「①倉庫」に関わるプレーヤーを「荷主」「大手物流会社」「中小物流会社」「地主」の四つに分類、倉庫に関わるリソースを「マテハン」「建物」「土地」の三つに区分したときに、どのプレーヤーがどのリソースを資産として所有するのか、その一般的な役割分担は図2の通りである。

「地主」は土地もしくは土地と建物を提供する。「中小物流会社」は土地は賃借して、多大なコストがかからない規模であれば建物は自分で建てる。マテハンは自社で手配するのが大半である。資本力がないため地主との強固な関係づくりが不可欠である。

「大手物流会社」は土地、建物、マテハン全てを自分で手配する。ただし、条件を満たす用地が購入できない場合や契約期間の短い案件の拠点については土地を賃借する場合もある。また最近は物流不動産企業による開発競争が激しく物流用地が高騰しているため、大手であっても建物まで賃貸するケースが増えている。

「荷主企業」は物流業務をアウトソーシングする場合には、物流企業と地主が役割を分担して、土地、建物、マテハンのハード全般を手配する。一方、物流センターを自社運営している荷主企業はアセット型が多い。

物流に関わる「②購買」の共同化、共同購買は、コンビニ本部や物流会社の協同組合などで従来から幅広く実施されている。車両を通常価格の約半額で調達しているケースも見られる。協同組合による燃料の共同購買も常套手段である。

「③成功報酬」、ゲインシェアリングもコスト改善の成果として生まれたカネを荷主企業と物流会社で分け合う共同化の一つに数えられるだろう。それぞれの取り分としては50:50という比率をよく耳にする。また、期間は2年としているところが多い。1年目はコスト改善に力を入れ、2年目からはリバウンド(値上げ)を回避して改善効果を定着させることに目的を置いている。

 

◦情報──システム整備が不可欠

SCMは情報システムの連携によってデータを共有してサプライチェーン全体の最適化を実現することを理想としている。しかし、現実に原料の調達から生産、販売、回収までの全てをシステム連携できている企業は一握りである。そもそもデータ化されていないプロセス、システム化されていない部署(部門)があったり、システム化されていてもデータ連携、データ交換ができないシステムになっているためである。

サプライチェーンの情報共有を実現するには次のシステムは最低限整備しておく必要がある。①基幹システム、②生産管理システム、③販売管理システム、④受注システム、⑤輸出入(貿易)管理システム、⑥在庫管理システム、⑦倉庫管理システム(WMS)、⑧配送管理システム(TMS)、⑨財務管理システムなどである。

 

◦ノウハウ──レベル別に方法がある

「ノウハウ」も共同化できる。その最もドラスチックな方法として、業務提携、資本提携、M&Aが挙げられる。そこまでは至らないレベルでも、技術提案、出向の受け入れ、人事異動などによってノウハウを移植したり共有したりできる。実務においても定期的な連絡会議や朝礼・昼礼などは情報共有の手段である。

第204回 事例で学ぶ現場改善:『物流会社M社の地盤強化プロジェクト』

地域密着型経営をモットーとする地方運送会社から事業拡大支援の依頼が入った。具体的なテーマは二つ。一つは主要荷主の食品卸が自社運営しているドライセンターの業務を受託したいというもの。そしてもうひとつはエリア共同配送事業に乗り出したいということであった。早速、現地に乗り込んだ。

 

食品卸向けサービスの業務拡大

M社は中日本の、とある半島に本社を置く年商約50億円の企業グループである。中核の物流会社のほか、バス会社、タクシー会社、整備工場、タイヤ販売会社などでグループを形成している。いわば“クルマのよろず屋”であり、地方市場における地域密着戦略をセオリー通りに展開している。

グループのバス会社、タクシー会社は地元ではトップシェアを握っており、さらなる地盤強化策として本丸の物流会社にあらためてメスを入れることになった。われわれ日本ロジファクトリー(NLF)は既存クライアントからの紹介を受けて、その支援に入った。

M社のT社長は2代目で、夫人がグループ全体の財務・経理を統括し、実弟がバス会社社長を務めるファミリー企業であった。事前の打ち合わせでNLFの方針や考え方とT社長の経営に対する思いが合致していることは確認できていた。初回の顔合わせは短時間であったが内容の濃い話し合いができた。

T社長からの要望は大きく二つあった。一つは最大荷主の中堅食品卸N社向け業務の拡大である。N社からはこれまでチルド部門のセンター運営と、チルドとドライ両部門の配送を請け負ってきた。それに加えて現状ではN社が自社運営しているドライ部門のセンター業務を受託したいという話であった。もうひとつの要望は“半島”という地理的な特性を生かした共同配送事業を構築したいというものであった。

まずはN社ドライセンターの運営受託から説明する。われわれは実施項目を次の六つに落とし込んだ。

①幹部教育

②現状分析

③コスト削減策

④波動対応

⑤強みのアピール

⑥N社所有WMSの有効活用

最初に「①幹部教育」が必要であった。経営幹部の育成はT社長の念願でもあった。

このところM社は新規荷主を獲得せずとも経営的に安定していたこともあり、営業活動が停滞していた。荷主とは契約書こそ結んでいるものの、通常のやり取りは口頭やA4サイズのレジュメ1~2枚で済ませており、提案営業の基本的なツールや使い方の理解も十分ではなかった。そこで教育の時間を設けて、今回の営業ターゲットの食品卸N社を題材に提案営業の基本をレクチャーした。

「②現状分析」とは、具体的にはN社への提案の基礎データとなるドライセンターの現状のトータル物流コストをN社から提出してもらい、それを分析することである。その際にはN社の把握しているトータル物流コストと実際のコストとのギャップに留意する必要がある。荷主企業の自社運営拠点のコスト管理は人件費として現場スタッフ分だけを計上して、現場管理者と物流事務スタッフのコストを含めていないケースがしばしば見受けられるからである。

今回N社から受託できるかどうかのポイントは明らかにコストダウンであった。現状のN社の自社運営コストを下回ることが絶対条件となる。またこのケースでは、既にM社がN社から受託しているチルドセンターとの比較という視点も入る。一般にチルドに比べてドライは人件費単価が低い。チルドセンターと同じつもりで提案しても相手にしてもらえないだろう。

従ってM社としては効果的な「③コスト削減策」を立案して実行する必要があった。カギはレイバーコントロールであった。N社のドライセンターとチルドセンターは道路を挟んで向かい側に位置している。そのためM社がドライセンターの運営を受託すれば、両センターのスタッフをトータルにコントロールすることで総人数を抑制できる可能性があった。試算の結果、17%強の人件費削減を見込むことができた。

「④波動対応」も、N社に限らず荷主が物流パートナーを選定する際に非常に重視する点である。これもまたレイバーコントロールの問題であり、チルドセンターとドライセンターでスタッフを融通し合う体制をとることで対応できる。仮にN社のチルドとドライの両方の物量が同時に跳ね上がった場合にも、M社は車で約15分の場所に別拠点を運営している。応援体制は盤石といえた。

「⑤強みのアピール」では、右に挙げたレイバーコントロールの他にも、M社にとってN社は既存荷主であるため取扱商品やルール、作業概要を理解していること、N社の配送業務も担っているためバースへの車両の着車時間を早められること、さらには後述するエリア共同配送の構築により、運賃コストの抑制を期待できることなどを整理して提案書にまとめた(図)。

最後の「⑥N社所有WMSの有効活用」は、WMSのデータを分析して改善提案を定期的に行うことを狙ったものだった。しかし、これには誤算があった。N社のWMSは機能に欠陥があるとの理由から、ほとんど活用されていない状況にあることが分かった。

しかし、システムに本当に欠陥があるのか、それとも現場運営に問題があるのは不明確だ。M社のスタッフに詳細をヒアリングさせたものの、N社の担当者も含めてシステムに詳しくないもの同士の話し合いであり要領を得ない。今後われわれNLFも加わって問題を整理する予定である。

N社が雇用している既存の現場スタッフの処遇をどうするかなど、ドライセンターの運営を受託するためにクリアしなければならない課題はまだ残っている。しかし、手応えはある。かなり期待できるとみている。

 

エリア共同配送事業の構築

T社長の二つ目の要望、エリア共同配送の構築に対しては、われわれは次の実施項目を提示した。

①ベースカーゴの確定

②ベースカーゴ便の空き状況のデータ化

③荷主のリストアップ

④荷主・パートナーの紹介

⑤納品頻度・納品時間・納品方法の調整

⑥共同配送運賃表の作成

「①ベースカーゴの確定」とは、現状で70~80%の積載率を維持できているルート便を、M社の車両から見つけ出すことであった。9台のルート便が候補に挙がった。そのうち7台がM社の主要荷主であるN社のルート便であった。

 “積載量20%程度の荷主を4~5社集める”というアプローチで共同運送を構築しようとする物流会社をよく見聞きするが、まず長くは続かない。20%という積載量は、その荷主の物量が不安定であることを意味している。時間の経過と共に物量が減って結局、路線便(特積会社)を使用することになる。あるいは物量が増えて車両を貸し切ることになるのが落ちである。中長期にわたり機能している共同配送は、積載率にして70~80%の物量がある“ベースカーゴ”に少量荷主の荷物を積み合わせている。

続く「②ベースカーゴ便の空き状況のデータ化」では、次の項目をエクセルデータに落とし込んで空き状況を明確にした。

・空き積載量(才/重量)

・ベースカーゴの方面・エリア

・温度帯

・1日平均走行距離

・1日平均拘束時間(労働時間)

・納品時間指定の有無

・納品時間指定の時間帯

・備考

「③荷主のリストアップ」では、まずは異なる二つのタイプの既存荷主をターゲットに据えた。一つは路線便(特積み)を利用している荷主である。路線便から共同配送への切り換えを提案する。M社から見れば内製化を図るわけである。もうひとつはチャーター車両を提供している既存荷主である。複数の荷主を組み合わせて車両の集約を図る。

 

ニーズに合わせてスキーム変更

対象荷主のリストアップと提案活動を続けていく中、それまで気付いていなかった荷主のニーズが見えてきた。当初、M社は半島を中心とした狭い範囲の共配を想定していた。しかし、荷主が求めていたのはもっと広い範囲にわたる、いわば“エリア共配”であった。

M社の傭車率は10%前後であり、自社便の比率は非常に高いが対象地域は限定されている。そこでM社が地盤とする地域以外は、それぞれ地の利のある同業他社とタイアップして、傭車対応で共同配送のネットワークを広げることになった。

「④荷主・パートナーの紹介」では、NLFのネットワークから新規荷主の候補としてその地域に拠点がある食品メーカー1社と食品卸1社を紹介した。また、M社のエリア共配ネットワークの拡大に伴い、パートナーとなる物流会社を段階的に3社紹介した。

「⑤納品頻度・納品時間・納品方法の調整」は共同配送には付きものである。卸に納品する場合には共同物流の実施に伴い、納品頻度を従来の「毎日」から「週3~4日」に切り替えて、コストセーブする方法を採用することがよくある。可能であれば実施すべきである。

また納品時間は調整無しでは重複することが多い。納品方法にも、有人立ち合い納品、無人鍵預かり納品、置き配納品などのバリエーションがある。いずれも荷主に調整を依頼して協力を得なければならない。その調整力が共同配送の効率を大きく左右することになる。

「⑥共同配送運賃表の作成」は、正確な原価計算に基づいたタリフを作成して、その構造まで荷主に理解してもらうことが重要である。そうでないと、共同配送が軌道に乗っている時には問題にならなくても、物量が減少して積載率が下がってきた時に問題が起きる。

共同配送の命綱はもちろんベースカーゴである。しかし、ベースカーゴが崩れても、原価計算に裏打ちされた明確な運賃表を最初から運用していれば、どうにか持ちこたえることができることもある。

以上、M社のエリア共同配送は既に軌道に乗りつつある。パートナーと手を組み傭車比率を上げたことで対応エリアが拡大して売り上げが増えてきた。T社長は「着実な地盤強化が事業拡大につながっていっている」と鼻息が荒い。

今回のプロジェクトから筆者が受けた感想は、地域密着型の事業者の考える地域密着型サービスが必ずしもマーケットニーズに合致しているとは限らないということである。むしろ大きな差があると考えた方がよい。ギャップの解消がビジネスチャンスを生むのである。

 

第198回 事例で学ぶ現場改善:『日用雑貨卸K社の物流改善フェーズ2』

物流改善プロジェクトを1年前に終えた日雑卸からあらためて連絡が入った。新型コロナの影響で物量が急増、オペレーションが混乱しているという。あらためて現場視察に入った。長年続けてきた物流センターの自社運営を見直す必要があるようだ。しかし、すぐにアウトソーシングを導入することはできなかった。

1年余りの間に在庫量が急増
K社は年商約450億円の日用雑貨卸である。東海地区に本社を置き、関東、東海、関西、九州(福岡)にそれぞれ在庫型物流センター(DC)を設置して、全ての拠点を自社運営している。取扱品目は約7800。容積が大きく嵩張る商品から爪楊枝などの小物のバラ出荷まで、作業効率の悪い商品もかなり扱っている。裏返せばそれがK社の差別化戦略でもあった。

われわれ日本ロジファクトリー(NLF)は、2年ほど前にもK社の物流改善を支援している。1年弱にわたる活動を実施して、生産性、品質の改善目標を達成して、プロジェクトはいったん終了した。
それから1年余りが経過して、同社の物流部長S氏から再び連絡が入った。「昨今のコロナ禍の影響もあって経営環境が大きく変わり、現場の運営力が低下している」という。あらためてK社の物流施設の中で最も規模が大きい東海センターの改善に着手することになった。

今回を「フェーズ2」とすると、前回の「フェーズ1」では「現場スタッフは日常業務に追われて改善まで手が回らない」「通路に商品を置いているなど、5Sができていない」といった基本的な課題に取り組んだ。それに対してフェーズ2は「巣ごもり消費の拡大による売上増に物流の処理能力が追いつかない」ことが最大の課題であった。

われわれは1年ぶりに東海センターを訪問して再度、現場を調査した。確かに物量が増えている。あちらこちらで商品が棚から通路に溢れ出している。フェーズ1でクリアしたはずの課題であった。S物流部長および東海センターの管理を担当するA物流課長を相手に、ヒアリングと打ち合わせを行い、次の五つの項目に取り組むことになった。

①センター移管の検討
②アウトソーシングの検討
③朝礼、昼礼の実施
④「センター長」の設置
⑤個人面談の実施

「①センター移管の検討」はキャパシティの拡大が目的である。現状の施設はキャパオーバーが明らかだった。天井が低いため高さを使うこともできない。「ネステナー」を使ったパレットの段積みは2段が限界であった。さらに建物の老朽化が進んでいること、空調設備等を設置しようとすると多大な費用がかかることなど、総合的に判断すれば移管が得策であった。
ただし、東海センターはS社の基幹センターであり、本社から離れた場所に移設するわけにはいかない。物件を探してみたところ、幸い既存センターから直線距離で1キロメートルほどの場所に条件をクリアできる空き施設が見つかった。現状と比べて坪当たり賃料は300円上がるが、今回のプロジェクトの改善効果でコストは吸収できると判断した。現在、同物件の所有会社と順調に交渉が進んでおり、今年9月には移管を実施する計画で動いている。

自社運営の方針見直しを提案
「②アウトソーシングの検討」は筆者からのアドバイスであった。これまで全ての物流センターを自社運営してきたS社の方針とは反することであったが、S社の経営全般における物流の比重は同業他社と比較して重過ぎると、筆者は感じていた。

卸が物流を重視するのは当然とはいえ、S社は現場作業員の採用や労務管理にかなりの労力を割いていた。本来であれば戦略の立案や方向性の判断、付加価値の創出に割くべき正社員スタッフの時間と人手が間接業務や雑務、イレギュラー対応などに取られてしまっている。このような状況であれば卸としての本業に特化するため、拠点運営を一括してアウトソーシングするのも一つの選択肢である。

ちょうどS社では東海センターのプロジェクトとは別に、中・四国エリアに新たにDCを設置する計画が進んでいた。そこでS物流部長は新DCの運営をアウトソーシングする前提で物流会社数社と交渉を行った。しかし、結果は「保留」であった。理由はコストが合わなかったためである。現状のオペレーションをそのまま外部に委託すれば、むしろ高くついてしまうことが分かった。

この経験から、われわれも含めたプロジェクトチームのメンバーたちは逆説的に、アウトソーシングが可能なレベルまで、S社の現場をブラッシュアップしていく必要があることを痛感したのであった。

それでも、S社の物流自社運営が限界に近づいているのは、東海センターが業務量の増大に対応できなっていることからも明らかであった。そこで自社運営のレベルアップによって「誰もがわかる現場づくり」を推進しながら、それと並行してアウトソーシングのパートナー候補との協議を継続することとなった。

「③朝礼、昼礼の実施」は現場作業員の意識の向上を狙いとしている。これも逆説的ながら、アウトソーシングの実現に向けた自社運営強化策の一つである。

S社の改善のフェーズ1では、「2S(整理・整頓)」「商品保管の方法」「ロケーションの作り方」「保管棚・ラックの効果的な活用法」「作業生産性向上のためのレイバーコントロール」「六つのない(持たせない/書かせない/歩かせない/待たせない/考えさせない/探させない)の実践」──などを実施した。現場スタッフは物流改善の基本を身につけるレベルまではこぎ着けた。

フェーズ2では、そこで学んだスキルを生かすために、意識を変えることに重点を置いた。実際には、基本的な、コミュニケーションの方法や、前向きな姿勢・考え方(ポジティブシンキング)から教え込む必要があった。現場スタッフの高齢化が進み、しかも物量が増大したことで現場が疲弊していたのである。

形骸化していた朝礼のやり方もリセットした。(1)現場責任者からの伝達事項、(2)昨日の物量(ピース、行数)と本日の予定物量(ピース、行数)の報告、(3)出欠確認と体調管理をその目的として明確にした。さらにそこにラジオ体操を加えて、身体から意識(脳)へ刺激を送るようにした。一方、昼礼はレイバーコントロールの核として位置付けた。各現場リーダーを1カ所に集め、物量と終了予定時間、人員の過不足を調整するのである。

センター長の個人面談は効果的
④「センター長」の設置は、当然ながら現場責任者を明確にする目的である。それまでK社には「センター長」という職制が存在しなかった。本社目線の役職である“課長”が各地のDCの現場責任者だった。現場作業員の目には「本社から管理職が来ている」としてしか映っていなかった。自分たちの“親分”として扱っていなかったのである。

そのために「報告・連絡・相談」が全く機能していなかった。事前相談や事後報告もないまま、各人が各自の判断で物事を処理、対応していた。これを放置していればいずれ大きな問題を引き起こす恐れがあった。早急に「センター長」を設定する必要があった。

各拠点のセンター長と現場スタッフによる「⑤個人面談の実施」も、現場意識の向上とコミュニケーションづくりが表向きの狙いであるが、筆者の主たる目的は現場の不平不満の発散とその情報収集にあった。所要時間は1人当たり40分~60分。センター長はその内の7割の時間を割いて意見を聞く側に回る。残り3割でセンター長の考え、やりたい事、協力事項などのビジョンを伝えるようアドバイスした。

現場は一人一人違う感情を持つ人間の集まりであるから、物流に限らずどんな現場でも個人面談は行うべきである。しかし、センター長の多くは現場のリーダークラスにその役割を丸投げしてしまう。丸投げされている現場リーダークラスが会社とスタッフの板挟みになって悩んでいるケースは少なくない。

この個人面談を行うと、どのセンター長もヘトヘトに疲弊する。しかし、それだけの効果はある。貴重なフィードバックを得られる。また、副産物としてセンター長が個人と1対1で話を聞くという活動が「何かあれば相談できる人がいる」「孤独に物事を考えなくてもよい」というK社の現場に対するスタンスを明示することにもなった。

昨今は物流をアウトソーシングしていた企業が、あらためて内製化に取り組む事例が増えてきた感がある。長年のアウトソーシングによって社内から失われてしまった物流管理能力を取り戻そうという動きであろう。しかし、今回のずっと自社運営を続けてきた企業の場合、一度はアウトソーシングを検討すべきだと筆者は考えいてる。